説明

エキノコックス多包虫症の診断法

【課題】従来法に比べて特異性が高く、簡便かつ迅速なエキノコックス多包虫症の診断にきわめて有用な検査法を提供する。
【解決手段】エキノコックス多包虫Em18抗原のC末端部位を欠損させた組換えEm18R2抗原を、被検者の血清と反応させるエキノコックス多包虫症の診断法である。この組換えEm18R2抗原を支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出する。本発明の検査法は、従来法に比べて、特異性が高く、簡易検査法と組み合わせることにより、簡便かつ迅速なエキノコックス多包虫症の診断にきわめて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキノコックス多包虫症の診断法に関する。さらに詳しくは、エキノコックス多包虫症診断用抗原として分子サイズ18kDa のタンパク質 Em18R2を使用することによりなる多包虫の診断法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エキノコックス 症(Echinococcosis)はイヌ科の動物、特にキツネやイヌの小腸に寄生し、これらの終宿主と中間宿主である野ネズミの間で生活環を維持している。終宿主から排泄された虫卵が飲み水、生野菜、埃などを介してヒトの口に入り感染した際に引き起こされる肝臓の慢性疾患である(非特許文献1〜3)。
すなわち、エキノコックス多包虫症とはヒト、野ネズミの体内では成虫に発育することなく、肝臓その他の内臓でエキノコックス幼虫が無性増殖し、この寄生虫の幼虫によって肝実質がほとんど侵され、置き換わる形になり、悪性腫瘍同様の慢性経過をたどる難治性肝疾患で、現在最も致死的な寄生虫病のひとつとみなされている。エキノコックス幼虫を宿している野ネズミを食したイヌ、キツネの小腸で成虫に発育し、イヌ、キツネがヒトへの感染源となる。
【0003】
エキノコックス症は感染症予防法において第4類感染症に分類され、届け出が義務づけられている公衆衛生上重要な人獣共通寄生虫症である。
また、エキノコックス症には北半球の高緯度地域で環境汚染、流行拡大が深刻化し、国内では北海道の風土病として知られている「多包虫症」と、全世界の畜産国を中心に蔓延し、国内では輸入症例が問題になる「単包虫症」とがある。
「多包虫症」は悪性腫瘍と同様に病巣が増大し続け、何らかの症状が出てから15年以内に死の転帰をたどる現代の「死に至る病」であるため、多包虫症には早期診断、早期治療が絶対不可欠であり、現時点では外科的病巣切除が唯一の治療法である。
【0004】
エキノコックス多包虫症の確定診断には、超音波やCT、MRIなどの腹部画像診断が重要で、石灰化、小嚢胞、壊死、液化などの多彩な病巣の有無を画像で確認し、多包虫症の疑いが非常に高い場合に外科的肝摘除、病理検査によって確定される難治性疾患である。
ただし、エキノコックス症を性格に鑑別できる画像診断の専門家は世界的にも非常に少ないのが現実である。WHOは先進国、発展途上国を問わずエキノコックス症の流行地域では第一に画像診断で腹部異常陰影のある住民を検出し、次いで信頼性の高い血清検査法による特異抗体確認し、手術適応症例であれば手術に踏み切ること、手術不適応の症例では化学療法を試みることを推奨してきている。それゆえ、早期診断、早期治療が重要な疾患と規定される。血清検査法により術前診断が可能であれば、その効用は計り知れない。ドイツ、スイス、フランス、日本(旭川医科大学)で国際的な評価が高い血清検査法が確立されているが、まだこれまでのところ、その信頼性は80%前後である。
【0005】
多包虫症に関する治療法は現在、外科的肝切除が唯一の方法であり、術前の多包虫症患者とそれ以外の患者の鑑別は患者の経済的負担、無用の外科手術の回避、疑診された住民がこうむる社会的、経済的、精神的苦痛の軽減の意味からも非常に重要である。現在国内で施行されている住民検査における血清検査法では99%が偽陽性であり、多包虫症でないにもかかわらず多包虫症の疑いで数年余にわたり検査と受ける住民の苦痛は計り知れない。術前に信頼性の高い血清検査法を確立できれば、住民検診のみならず医療現場における貢献は計り知れない。
【0006】
現在、使用されているELISA法では、多包虫非感染者血清が陽性となる、いわゆる、偽陽性を多く生じさせることが確認されている(非特許文献4)。
その、偽陽性反応を改善する方法として、ヒトエズリン/ラディキシン/モエシン(ERM)相同分子であるエキノコックス多包虫のEM10(65kDa)の一部分である、分子サイズ18kDaのタンパク質Em18の組換えタンパク質をエキノコックス多包虫症診断用抗原として使用する方法が開発された(特許文献1)。
このような方法以外にも、環境汚染源、人への感染源となるキツネ、イヌなどの診断法としてエキノコックス属条虫の排泄分泌抗原を免疫抗原に利用したエキノコックス属条虫(成虫)感染の診断法が開発されている(非特許文献5、特許文献2)。本診断法はエキノコックス幼虫に感染しているヒトならびに動物(たとえば動物園で飼育されているサル、ゴリラなど)におけるエキノコックス抗原(Em18蛋白質)に対する特異抗体を検出する方法に関するものである。
【非特許文献1】INFECTION CONTROL 2001 vol.10, No.7, 670-672
【非特許文献2】Current Concepts in Infections Diseases vol.20, No.4, 18-19 (2001)
【非特許文献3】岐阜県医師会雑誌 第14巻第1号 35-46 (2001)
【非特許文献4】Ito A et al., Acta Tropica 85: 173-182 (2003)
【非特許文献5】Sako Y et al., Journal of Clinical Microbiology vol.40, No.8, 2760-2765 (2002)
【特許文献1】特開2005-29558公報
【特許文献2】特開2001-292766公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エキノコックス多包虫症を臨床現場で特異的に、簡便かつ迅速に検出できる診断法の開発を目的としてなされたものである。
エキノコックス多包虫症診断用抗原として、多包虫EM10(65kDa)の一部分である、分子サイズ18kDaのタンパク質Em18の組換えタンパク質を使用してきた。しかしながら、組換えEm18を使用する過程で、多包虫非感染者血清が弱陽性となる、いわゆる、偽陽性を一部生じさせることが確認された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、Em18のC末端部位で、ERM分子に相同性を示す領域を欠損させた組換えEm18R2を大腸菌により発現させ、エキノコックス多包虫症診断用抗原として用いることにより、偽陽性を減じさせることが可能となり、本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に記載の発明は、エキノコックス多包虫Em18抗原のC末端部位を欠損させた組換えEm18R2抗原を使用することによりなるエキノコックス多包虫症の診断法である。
また、請求項2に記載の発明は、被検者の血清を請求項1に記載の抗原と反応させることから成るエキノコックス多包虫症の抗体診断法である。
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の抗原を支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成るエキノコックス多包虫症の抗体診断法である。
次に、本発明について詳細に説明する。
【0009】
多包虫診断用抗原として分子サイズ18kDa のタンパク質Em18を同定してきた。またEm18は、多包虫EM10(65kDa)のシステインプロテアーゼ分解産物であることを明らかにし、Em18のN末端のアミノ酸配列を決定した。さらに、Em18のC末端アミノ酸の同定は行わず、Em18の分子サイズおよび等電点を基に、EM10の一次構造よりEm18のアミノ酸配列を予測し(図1、下線部分)、その組換えタンパク質を診断用抗原として使用してきた。しかしながら、組換えEm18を使用するにあたり、多包虫非感染者血清が陽性となるケースに遭遇した。これは、偽陽性を生じさせる危険性があるため、改善する必要があった。
【0010】
EM10は、ヒトのアクチンフィラメントとCD44を架橋する分子であるエズリン/ラディキシン/モエシン(ERM)タンパク質ファミリーと相同性が高い分子である。 EM10の一次構造より予測したEm18のC末端アミノ酸配列は、ERM分子と高い相同性を示すことから、多包虫非感染者の血清中にERM分子に対する抗体、いわゆる自己抗体、が存在するのではないかと仮説をたて、Em18のC末端部位(図1、#部分)を、ファージの頭部タンパク質であるT7gene10タンパク質との融合タンパク質として大腸菌により発現させ(組換えEm18C)イムノブロット解析を行った。
その結果、組換えEm18に反応する多包虫非感染者血清は、Em18のC末端アミノ酸配列を強く認識することが明らかとなった(図2)。
そこで、Em18のC末端部位で、ERM分子に相同性を示す領域を欠損させた組換えEm18R2を作製し、大腸菌により発現させ、エキノコックス多包虫症診断用抗原として用いることにより、偽陽性を減じさせることが可能となった(図3)。
【0011】
この結果より、組換えEm18R2の多包虫症血清診断用抗原としての有用性を評価するために、多包虫症患者血清を用いたELSA法を行った(多包虫症患者血清44例、多包虫症感染者血清45例)。その結果、88%の患者血清が陽性を示し、また、多包虫症感染者血清では陽性を示すものがなかったことより、その診断用抗原としての有用性が示された(図4)。
【0012】
この抗原抗体反応を検知する方法に特に制限はないが、イムノブロット法、ドットブロット法、ELISA法、イムノクロマト法等が挙げられる。特に、イムノクロマト法は簡便性や迅速性から一次スクリーニング法としては最適であり、検査器材や特別な技術を必要としないため、発展途上国のような地域でのスクリーニング検査には有効である。
【0013】
好ましい多包虫症の検査方法は、本発明の抗原を支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成る。この支持体は、タンパク質を容易に吸着するものであれば特に制限はなく、ポリスチレンやニトロセルロース膜等を用いることができる。
【0014】
この抗原を、被検者(感染した場合)の血清中に存在する抗体と反応させ、更にこの抗体を認識するプローブとを反応させる。このプローブとしては、抗ヒトIgG抗体、プロテインG、プロテインA、プロテインLなどが挙げられる。このプローブには通常標識を付す。この標識としては、金コロイド粒子や酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)が挙げられる。酵素抗体を用いた場合には、基質を反応させてその色の変化(着色等)を観察すればよい。
また、2次抗体として抗サルIgG抗体や抗イヌIgG抗体など、動物種特異の抗IgG抗体や、プロテインGを用いることにより、サルやイヌなどヒト以外の動物への応用も可能である。
【0015】
本発明の抗原は、遺伝子組換えによる大腸菌による発現だけでなく、組換えEm18R2に対応するペプチドの化学合成が可能であり、多包虫症検査抗原として簡便かつ安定に供給することができ、かつ品質管理が容易である。ELISA法で利用する場合、この抗原は0.01〜0.2mg/mlの濃度でポリスチレン製マイクロタイタープレートの各ウェルに0.1ml/ウェルで加え、4℃、一夜放置し、固相化した。固相化後、牛血清アルブミンあるいはカゼインなどのタンパク質を含有するリン酸緩衝液(pH7.2)で3回洗浄し、ブロッキングし、真空乾燥後使用した。
【0016】
二次抗体としては、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体やアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG抗体も好適に使用することができる。発色基質として、前者では3,3',5,5'−テトラメチルベンジジンと過酸化水素が、後者ではp-ニトロフェニルリン酸等が一般的に使用される。なお、ELISA法の詳細については、非特許文献6に記されている。
【非特許文献6】微生物学実習提要 東京大学医科学研究所学友会編 p269-271 (1996)
【0017】
イムノクロマト法で使用する場合、多包虫症血清診断用抗原である組換えEm18R2を固相化する反応膜としては、ニトロセルロース膜が好適に用いられるが蛋白質を吸着する能力を有する担体であれば、膜の種類や材質は問わない。組換えEm18R2抗原は0.1〜10mg/mlの濃度で反応膜上に線状に固相化し、使用する。
【0018】
標識物質として金コロイド粒子や有色のラテックス粒子が一般的に使用される。金コロイド粒子の場合、その粒子径は20〜100nmのサイズが好ましく、有色のラテックス粒子では0.05〜0.5μmの粒径が好適に用いられる。それらの粒子に抗ヒトIgGウサギ抗体を炭酸緩衝液(pH9.0)中、10〜200μg/ml濃度で吸着させ使用する。
【0019】
金コロイド粒子を用いた組換えEm18R2抗原の検出法では、サンプル滴下部(1)、標識抗体含有濾紙部(2)、判定部((3)、エキノコックス抗体検出部)および、吸水濾紙部(4)から構成され、その実施例を図5に示す。
【0020】
また、二次抗体として、アルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG抗体を使用し、発色基質として5−ブロモ-4-クロロ−3-インドリルリン酸を用い、反応後の青色の発色を目視で確認して、抗エキノコックス抗体の有無を判定する方法も有効である。
【0021】
イムノクロマト法により、エキノコックス抗体の検出を行うには、血清又は血漿をサンプル口に滴下し反応させる。検体は反応膜上を展開し、まず標識抗体と反応する。更に、反応膜中央部にあるエキノコックス抗体検出部で反応し、吸収濾紙部に移動し、反応は終了する。
【0022】
検体中に抗エキノコックス抗体が存在すれば、まず、標識抗体と複合体が形成され、中央部のエキノコックス抗体検出部で捕捉される。捕捉された複合体は検出部分に蓄積し、標識物質の色を呈するようになり、目視でエキノコックス抗体の存在を確認できる。例えば、金コロイド標識の場合には赤紫色の線が出現し、アルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG抗体と5−ブロモ-4-クロロ−3-インドリルリン酸とを用いる系では、青色の線が出現する。
検体中にエキノコックス抗体が存在しなければ、標識抗体と複合体を形成することがなく、反応膜上の抗体とも反応しないので、反応後膜面に変化はない。
以下、実施例にて本発明を例証するが、各実施例は本発明を限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0023】
本発明におけるエキノコックス多包虫症の診断法は、従来法より特異性が高く、簡便で短時間に結果が得られるため、臨床現場で使用可能であり、エキノコックス多包虫症の診断にきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
本実施例では、組換えEm18R2を大腸菌により発現させたものを使用した。具体的には、Em18R2領域(図1、:部)遺伝子をPCR法(プライマー;5’-GGGAATTCAAGGAGTCTGACTTAGCGGAT-3’および5’-TTGGATCCTAGGCTTCACTTTCATCATCCTG-3’)により増幅し、制限酵素EcoRIおよびBamHIにて処理した後、同酵素で処理してある大腸菌発現用ベクターpTWIN1(NEW ENGLAND BioLabs社)に連結した。図6にはこの大腸菌発現用ベクターpTWIN1を示す。大腸菌により発現された組換えEm18R2は、キチン結合タンパク質および自己切断能をもつインテインとの融合タンパク質であるため、キチンを結合させたカラムに結合させたのち、インテインの自己切断活性により組換えEm18R2をカラムより溶出させた。精製された組換えEm18R2はリン酸緩衝生理食塩水(137mM NaCl, 8.1mM Na2HPO4,2.68mM KCl, 1.47mM KH2PO4, pH7.4)に対して透析を行い、以降の実験に供した。
【0026】
次に、抗原を96穴プラスチックプレート(Nalge Nunc社:MaxiSorpPlate)に100ng/ウェルで吸着させた。抗原液を捨てた後、リン酸緩衝生理食塩水にて洗浄した。各ウェルにブロッキング緩衝液(20mM Tris-HCl, 1% Casein, 150mM NaCl, pH7.4)を300μL加えた後、再びシールし、37℃で1時間静置した。ブロッキング緩衝液を捨て、各ウェルにブロッキング緩衝液にて100倍希釈した被検血清を100μL加えた。軽くプレートを揺すり、血清を混和した。その後、37℃で1時間反応させ、被検血清を捨てた。洗浄液(リン酸緩衝生理食塩水に界面活性剤Tween20を0.05%の濃度で加えた。)を各ウェルに加え洗浄した。以上の工程を3回繰り返した。
【0027】
洗浄液を捨てた後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGずつ各ウェルに加えた。軽くプレートを揺すり、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体溶液を混和した。その後、37℃で1時間反応させた。その後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体溶液を捨て、洗浄液を各ウェルに加え洗浄した。以上を4回繰り返した。
各ウェルに発色基質(2,2'-azino-di-(ethyl-benzthiazoline sulfonate)を100mM クエン酸緩衝液(pH4.7)に0.4mMの濃度に溶かし、0.003% 過酸化水素を加えたもの。)を100μLずつ加えた。室温に静置した後(30分程度)、1%SDS溶液を各ウェルに加え(100μL/ウェル)反応を停止させた。ELISAリーダーで吸光度(OD値)を測定し、OD値を基に判定した。本試験では、10個の陰性ヒト血清のOD値の平均にそれらの標準偏差を3倍したものを加えた数値以上のOD値を示した血清について陽性(多包虫感染患者)と判断した。
【実施例2】
【0028】
実施例1で使用した精製後の融合蛋白1mg/mlを用いて、ニトロセルロース膜の中央部にラインを引き、乾燥後、1%スキムミルク溶液に浸漬してブロッキングした。乾燥後、抗体塗布面を上にして台紙に貼付し、反応膜とした。
【0029】
粒径約50nmの金コロイド液100mlを炭酸緩衝液で最終0.45mM(pH9.0)に調製し、抗ヒトIgGウサギポリクローナル抗体(0.1mg/ml)、6mlを穏やかに撹拌しながら滴下した。室温で30分間反応し、牛血清アルブミンを0.1%濃度になるように添加した。更に、室温で20分間撹拌し、6000 ×g、30分間遠心分離し、沈殿を回収した。この沈殿を2%牛血清アルブミン加5%蔗糖液に懸濁し、50mlとした。この液をガラス繊維濾紙に浸潤させ、乾燥させた。乾燥後、1cm幅にカットし、金コロイド標識抗体膜とした。
【0030】
次に、反応膜の下端にこの金コロイド標識抗体膜を重ねて貼付した。更に、反応膜の上端に重なるように吸水濾紙(一般的な厚手の濾紙であればよい)を貼付しテストシートとした。これらを適当な幅(一般的には、5〜7mm幅)で裁断し、検査用スティックとした。このスティックをサンプル滴下口と判定部分が、開口されているか、透明であるケースの入れイムノクロマト法用検査キットとした。
【0031】
本キットを用いてエキノコックス多包虫症の抗体の有無を調べるため、血清0.1mlをサンプル口に滴下し、20分間後に判定した。その結果、本試験で用いた10個の陰性ヒト血清については、反応膜上に何ら変化無く、陽性(多包虫感染患者)と判断される血清のみに赤紫色のラインが出現し、本検査用キットがエキノコックス多包虫症の診断に有効であることが確認された。
【実施例3】
【0032】
一方、実施例2で使用した反応膜とアルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgGポリクローナル抗体(0.1mg/ml)及び、発色基質として5−ブロモ-4-クロロ−3-インドリルリン酸とを組み合わせることにより、発色系を利用したイムノクロマト法も有効であった。表1及び表2に、ELISA法、イムノブロッティング法およびイムノクロマト法の比較を示した。いずれの方法ともに良好な一致が得られ、臨床結果とも一致した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明に係るEM10とヒトMoesinアミノ酸配列のアラインメントを示す図。
【図2】この発明に係るEm18C末端アミノ酸を用いたイムノブロット解析の結果を示す図。
【図3】この発明に係る組換えEm18と組換えEm18R2との比較の結果を示す図。
【図4】この発明に係る組換えEm18R2を用いたELISAの結果を示す図。
【図5】この発明に係るイムノクロマト法キット外観図。
【図6】この発明に係る大腸菌発現用ベクターpTWIN1を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキノコックス多包虫Em18抗原のC末端部位を欠損させた組換えEm18R2抗原を使用することによりなるエキノコックス多包虫症の診断法。
【請求項2】
エキノコックス多包虫Em18抗原のC末端部位を欠損させた組換えEm18R2抗原と、被検者の血清を反応させることから成るエキノコックス多包虫症の診断法。
【請求項3】
エキノコックス多包虫Em18抗原のC末端部位を欠損させた組換えEm18R2抗原を、支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成るエキノコックス多包虫症の診断法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−309851(P2007−309851A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140783(P2006−140783)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(595008711)アドテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】