説明

エクスビボで制御性T細胞の作成を加速するための方法および組成物

本発明は、非制御性T細胞を含む細胞培養物を制御組成物で処理して、制御性T細胞を作成することに関する。本発明は、FOXP3転写因子のメチル化を防止する物質、T細胞のサプレッサー細胞への分化を加速する物質およびヒストンデアセチラーゼ阻害剤である物質を含む制御組成物を利用する方法を包含する。本発明はまた、非制御性T細胞を制御組成物と培養して作成した制御性T細胞の組成物、ならびに自己免疫疾患および異常な免疫応答の処置における前記制御性T細胞の使用を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2008年4月11日に出願した米国特許出願第61/044,306号の優先権の利益を主張し、その全体において、ここで参照により本明細書に組み込む。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
適用なし。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
制御性T細胞(「サプレッサーT細胞」または「Treg」とも知られる)は、免疫系の活性化を抑制し、それによって免疫系ホメオスタシスおよび自己抗原に対する寛容性を維持するために作用するT細胞の特殊な集団である。制御性T細胞は天然に生じ得る(ここで「nTreg」とも称する)か、あるいはそれらは、末梢リンパ組織において誘導され得る(ここで「iTreg」とも称する)。誘導されたTregは、一般に、制御組成物の存在下でCD25前駆体の刺激を介して、インビボまたはエクスビボで作成できる。かかる制御組成物中にサイトカインTGF−βを含めることは、iTregの作成に有効であると示されている。
【0004】
TregはいくつかのT細胞集団を含み得るが、フォークヘッド(Forkhead)転写因子(「FOXP3」)を発現するものが免疫ホメオスタシスの維持のための病的自己反応性の防止に重要である。nTregおよびiTregの表現型特性は極めて類似(多くの場合、同一である)するが、これらの2つの集団におけるFOXP3遺伝子のメチル化状態が異なり得ることが示されている。マウスおよびヒト由来の細胞において実施された研究において、FOXP3遺伝子座の特定の領域が、nRegとiReg間で異なる遺伝子メチル化パターンを有することが示されている。一般に、nTregは脱メチル化されたFOXP3遺伝子座の領域を有するが、iTregにおいて、これらの領域はしばしばメチル化されている。絶対ではないが一般に、遺伝子メチル化の程度と転写活性の間に相関がある。いくつかの研究において、iTregとnTreg間に存在するサプレッサー活性における差は、少なくとも一部において、2つのタイプのTregにおけるFOXP3遺伝子座のメチル化パターンの差のためであり得る。FOXP3のアセチル化状態は、その転写活性の重要な決定因子でもある。
【0005】
エクスビボで作成されたTregは、抗原特異的細胞とポリクローナル細胞(ポリクローナルTregは広い特異性を有する)に分けることができる。抗原特異的およびポリクローナルiTregはいずれも、IL−2およびTGF−βをマウス細胞に適用してエクスビボで誘導できる。IL−2およびTGF−βを用いて作成したポリクローナルiTregは、全身性エリテマトーデス、自己免疫性糖尿病、重症筋無力症およびアレルギー性脳脊髄炎のマウスモデルにおいて長期間にわたる有利な効果を有することが示されている(Horwitz et al., (2008), Trends Immunol., 29(9):429-35参照)。ヒト細胞において、同種抗原iTregはIL−2でうまく作成されているが、ポリクローナルiTregはエクスビボで作成することがより難しい。ある研究によると、ヒトCD4+細胞は、未処理のCD4細胞にIL−2およびTGF−βを適用してFOXP3を安定に発現するように誘導できるが、これらの細胞は抑制活性を発生しないことをが示されている(Tran et al., (2007), Blood, 110(8):2983-90)。しかし、他の研究によれば、反復刺激の後、かかる細胞は天然FOXP3サプレッサー細胞と類似の特性を有するサプレッサー細胞となり得ることが示されている(Horwitz et al., (2008), Eur J Immunol, 38(4):912-5)。これらの細胞はまた、反復刺激後に膜結合TGF−β(nTregサプレッサー細胞の別の表現型特性)を示す。したがって、nTregと類似の表現型特性を有するiTregを作成することはできるが、iTregを作成する従来の方法は、nTreg表現型特性および機能を作成し、維持するために細胞の反復刺激を通常必要とする。特にヒト細胞における、反復刺激なしで安定なサプレッサー細胞集団を作成するためにTGF−βおよびIL−2を用いる従来の方法のこの欠点は、少なくとも一部において、FOXP3をコードする遺伝子のメチル化およびアセチル化状態のためであり得る。
【0006】
治療適用のためには、T細胞を繰り返し刺激して機能的サプレッサー細胞への終末分化を誘導せずに、短時間で治療的数のTregを作成するための方法および組成物を持つことが有利であろう。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
したがって、本発明はnTregと表現型および/または機能的に類似または区別できないiTregを作成するための方法および組成物を提供する。
【0008】
一つの局面において、本発明は、制御性T細胞(Treg)を作成する方法であって、非制御性T細胞を含む細胞培養物を制御組成物で処理する工程を含む方法を提供する。この局面において、制御組成物は転写因子をコードする遺伝子のメチル化を防止する物質を含む。
【0009】
一つの局面において、本発明は、患者における異常な免疫応答または自己免疫疾患を処置する方法であって、該患者に制御性T細胞を投与する段階を含む方法を提供する。この局面において、制御性T細胞は非制御性T細胞を含む細胞培養物を制御組成物で処理することによって作成する。この制御組成物は、次のものを含んでいてよい:アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンAまたはアザシチジン、レチノイン酸およびトリコスタチンAの2種以上の組合せ。
【0010】
一つの局面において、本発明は、制御性T細胞(Treg)を作成する方法であって、T細胞のTregへの分化を加速する物質を含む制御組成物で非制御性T細胞を含む細胞培養物を処理する工程を含む方法を提供する。
【0011】
一つの局面において、本発明は、次のものを含むT細胞集団を含む組成物を提供する:細胞培養培地、アザシチジン、レチノイン酸および少なくとも1個の未処理CD4+細胞。
【0012】
一つの局面において、本発明は、次のものを含むキットを提供する:制御組成物、細胞処理容器および該キットの使用のための指示書。さらなる局面において、上記キットに含まれる制御組成物は、アザシチジン、レチノイン酸またはアザシチジンとレチノイン酸の組合せを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】TGF−βの存在下または非存在下で、抗CD3/抗CD28ビーズで刺激したCD4+細胞におけるFOXP3(横軸)およびCD25(縦軸)発現を示す。
【図2】FOXP3発現に対するアザシチジン、TGF−βおよびALK5iの効果を示す。図2Aは培地中(左パネル)、TGF−βの存在下(中央パネル)およびアザシチジンの存在下(右パネル)で刺激した細胞におけるFOXP3発現を示す。図2Bは培地、ALK5iを含む培地および溶媒DMSO中で刺激した培養物についてのFOXP3を発現する細胞の割合を示す。
【図3】FOXP3発現に対するアザシチジンとTGF−βの相加効果を示す。図3Aは、培地のみ、TGF−βを含む培地、アザシチジンを含む培地およびアザシチジンとTGF−βの両方を含む培地中で、抗CD3/抗CD28ビーズによって刺激した細胞における、FOXP3の発現を分析したフローサイトメトリー実験のデータを示す。図3Bはアザシチジン、TGF−βおよびアザシチジンとTGF−βの存在下または非存在下で刺激した後のFOXP3を発現する細胞の割合を示す少なくとも3回の別個の類似の実験の棒グラフである。
【図4】培地のみの中で抗CD3/抗CD28被覆ビーズで刺激した細胞およびアザシチジンを含む培地中で刺激した細胞の抑制活性を示す棒グラフである。
【図5】FOXP3発現に対するレチノイン酸の効果を示す。図5AはIL−2またはIL−2とTGF−β中で、異なる濃度の全トランスレチノイン酸中で、抗CD3/抗CD28被覆ビーズで刺激した細胞の棒グラフである。図5Bは培地のみ、TGF−βの存在下およびTGF−βとレチノイン酸の存在下で抗CD3/抗CD28を用いて未処理CD4+CD25−細胞を刺激した実験の細胞カウントを示す。
【図6】培地のみ、TGF−βを含む培地、アザシチジンを含む培地、レチノイン酸の活性代謝産物を含む培地、全トランスレチノイン酸(0.05μm/ml)(ATRA)およびTGF−βとレチノイン酸、アザシチジンおよびATRAの組合せを含む培地中で抗CD3/抗CD28被覆ビーズで刺激した細胞のフローサイトメトリーデータを示す。
【図7】培地のみ、TGF−βを含む培地、レチノイン酸(RA)を含む培地、アザシチジンを含む培地、レチノイン酸とアザシチジンを含む培地ならびにレチノイン酸、アザシチジンおよびTGF−βを含む培地中で刺激した6日後の、CD4+細胞の棒グラフを示す。CD127、FOXP3、CD45ROおよびCD103の発現に対するこれらの物質の効果を示す。
【図8】培地のみ(図8A)、TGF−βを含む培地(図8B)ならびにレチノイン酸、アザシチジンおよびTGF−βを含む培地(図8C)中で刺激した細胞における膜結合TGF−βの発現を示す。図8Dはレチノイン酸、アザシチジンおよびTGF−βを含む培地中で刺激した細胞におけるコントロールIgG発現を示す。
【図9】IL−2とTGF−βを含む制御組成物で処理した細胞において見られる抑制活性の増加と、IL−2およびTGF−βと全トランスレチノイン酸(ATRA)を含む制御組成物で処理した細胞において見られる抑制活性のさらなる増加を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明の実施は、異なることが示されていない限り、有機化学、ポリマー技術、分子生物学(組換え技術を含む)、細胞生物学、生化学および免疫学の常套の技術および説明を用いることができ、これらは当該分野の技術の範囲内である。かかる常套の技術は、ポリマーアレイ合成、ハイブリダイゼーション、ライゲーションおよびラベルを用いたハイブリダイゼーションの検出を含む。好適な技術の具体的な説明は、本明細書の下記実施例を参照して入手可能である。しかし当然、他の均等な常套の手法も使用してよい。かかる常套の技術および説明は、標準的な実験マニュアル、例えばGenome Analysis: A Laboratory Manual Series (Vols. I-IV), Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cells: A Laboratory Manual, PCR Primer: A Laboratory Manual, and Molecular Cloning: A Laboratory Manual (all from Cold Spring Harbor Laboratory Press), Stryer, L. (1995) Biochemistry (4th Ed.) Freeman, New York, Gait, “Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach” 1984, IRL Press, London, Nelson and Cox (2000), Lehninger, Principles of Biochemistry 3rd Ed., W. H. Freeman Pub., New York, N.Y.および Berg et al. (2002) Biochemistry, 5th Ed., W. H. Freeman Pub., New York, N.Y.において見ることができ、これらは全て、あらゆる目的のために、それらの全体においてここに参照により本明細書に組み込む。
【0015】
単数表現"a"、"an"および"the"は、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用するとき、文脈が明らかに異なることを示していない限り、複数の意味を含むことに注意されたい。したがって例えば、「ポリメラーゼ」との記載は、1つの物質またはかかる物質の混合物を意味し、「方法」との記載は、均等な段階および当業者に既知の複数の方法等への言及を含む。
【0016】
異なることが定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は本発明が属する分野における通常の技術知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載の全ての文献は、文献に記載されており、ここに記載の発明と関連して使用することができる装置、組成物、製剤および方法論を説明し、開示する目的でここに引用により組み込まれる。
【0017】
数値の範囲が示されている場合、特に指定されなければ下限の単位の小数第1位までの、その範囲の上限と下限の間の、かつその指定範囲における任意の他の指定されたまたは介在する数値である各介在値(intervening value)が、本発明の範囲に含まれるものと理解される。これらのより狭い範囲の上限および下限は、指定範囲における任意の特定除外限度を条件として、独立して、より狭い範囲に含まれてよく、これらも本発明の範囲に含まれる。指定範囲が一方または両方の限度を含む場合、それら包含される限度の一方または両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0018】
以下の記載において、本発明の完全な理解を促すために多くの具体的な詳細が述べられている。本発明がこれら具体的な詳細の一部以上がなくとも実施され得ると当業者には理解される。加えて、本発明の趣旨をぼかさないために、当業者によく知られた特徴および手法は詳細には記載されていない。
【0019】
本発明は具体的な態様についての記載によって一次的に説明されるが、本開示を読んだ当業者には他の態様が明らかとなると予測され、そしてかかる態様が本発明の方法に含まれると意図される。
【0020】
I.概略
本発明は、制御組成物を用いて誘導性Treg(iTreg)を作成するための方法および組成物に関する。本発明の制御組成物は、本明細書において更に詳細に記載するとおり、多数の異なる成分を含んでいてよい。一般に、制御組成物は、転写因子のメチル化またはアセチル化に作用する物質、T細胞のサプレッサー細胞への分化に作用する物質、またはかかる物質と他の成分、例えばサイトカインTGF−βおよびIL−2のようなサイトカイン類の組合せを含む。
【0021】
サイトカインTGF−βおよびIL−2はマウス細胞においてiTregを作成するために十分であると知られているが、ヒト細胞において、これらのサイトカイン類のみを用いると、安定なポリクローナルiTreg集団の作成には不十分であり得る(IL−2およびTGF−βをヒト細胞において用いると抗原特異的iTregが作成され得る)。理論に縛られないが、一つの可能性は、これらのサイトカイン類がヒトCD4+細胞のFOXP3発現およびアセチル化を誘導するが、機能的サプレッサー細胞への完全な変異にはメチル化およびアセチル化状態のさらなる修飾が必要とされ得る。したがって、本発明は、FOXP3、特にFOXP3遺伝子プロモーターのアセチル化およびメチル化状態に作用し得る制御組成物を含む。一つの態様において、本発明は、FOXP3遺伝子プロモーターのアセチル化を促進する物質(例えばレチノイン酸)および/またはFOXP3脱アセチル化に作用する物質(例えばトリコスタチンA)を含む。本明細書に記載のとおり、レチノイン酸もサプレッサー細胞へのT細胞変異を加速する。
【0022】
ある状況において、iTregの作成に使用される制御組成物は、転写因子FOXP3のメチル化に作用する物質を含む。かかる物質は、アザシチジンのようなメチルトランスフェラーゼ阻害剤であってよい。ある状況において、本発明の制御組成物は、T細胞分化を加速する物質を含んでいてもよい。かかる物質は、レチノイン酸であり得る。レチノイン酸はFOXP3遺伝子プロモーターのアセチル化を誘導し得る(Kang et al., (2007) J. Immunol. 179:3724-33)。本発明の制御組成物はまた、転写因子のメチル化に作用する物質およびT細胞分化を加速する物質を含んでいてもよく、すなわち本発明の制御組成物はアザシチジンとレチノイン酸を含んでいてよい。ヒストンアセチル化を促進する他の物質(例えばトリコスタチンA、Tao et al., (2007) Nat Med 13:1299-1307参照)も本発明の制御組成物に含まれていてもよい。本発明の制御組成物は、TGF−βおよびIL−2のようなサイトカイン類を含んでいてもよい。理論に縛られないが、かかる制御組成物に含まれるいずれかのアセチル化剤および脱メチル化剤がT細胞の分化および変異を加速し、誘導してTregとなり得る。
【0023】
一般に、iTregは本発明に従って、制御組成物で非制御性T細胞を処理して作成される。非制御性T細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)を含んでいてもよい。「処理」は、通常は、制御組成物を非制御性T細胞を含む培養物に適用して、非制御性T細胞と制御組成物を接触させることを意味する。理解されるとおり、細胞培養物は非制御性T細胞の培養物に関して本明細書において説明されるが、かかる細胞培養物は他のタイプの細胞を含んでいてもよい。ある状況において、制御組成物は細胞培養の開始時に細胞と接触させ、ある状況において、制御組成物は細胞培養の開始後少なくとも1回、細胞と接触させる。ある状況において、制御組成物は細胞培養の開始時に細胞と接触させ、次いで細胞培養の開始後少なくとも1回、再び接触させる。
【0024】
本発明に従って作成した制御性T細胞は、異常または望ましくない免疫応答および自己免疫疾患を処置するために使用できる。一般に、かかる制御性T細胞は当該技術分野で既知の方法を用いて患者に導入する。
【0025】
本発明はまた、本明細書に記載の方法に従って作成したiTregの集団を含む。本発明はまた、アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンA、TGF−β、IL−2およびそれらのいずれかの組合せを含んでいてよい。これらの制御組成物は、ある状況において、細胞培養培地と組み合わせることができる。ある状況において、本発明はまた、T細胞と組み合わせた制御組成物を含む。
【0026】
本発明はキットも含む。かかるキットは、iTregを作成するための本明細書に記載の制御組成物を含む、少なくとも1個の物質を含み得る。本発明のキットはまた、本発明のiTregを作成するための容器を含んでいてもよい。かかる容器は、該容器内で細胞に物質を送達できる複数のポートを含んでいてもよい。本発明はまた、iTregをパッケージし、患者に送達するためのキットを含む。本発明のキットはさらに、患者から細胞を単離するための容器を含んでいてもよい。ある状況において、本発明のキットは、本発明の複数の局面に使用できる容器を含んでいてもよい。例えばかかる容器は、患者からの細胞の単離、制御組成物による単離した細胞の処理によるiTregの作成、そして/または新たに作成されたiTregの患者への投与に適合し得る。
【0027】
II.天然Treg(nTreg)および誘導Treg(iTreg)の表現型特性
一つの局面において、本発明は、nTregの表現型特性を有するiTregを作成するための方法および組成物を提供する。「表現型」または「表現型特性」は、本明細書において使用するとき、観察可能な特徴を意味する。制御性T細胞についてのかかる表現型特性は、特定のタンパク質(例えばサイトカイン類および転写因子)、増殖およびサプレッサー活性を含み得るが、これらに限定されない。例えば、nTregは転写因子FOXP3を発現することが知られており、またトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)のようなサイトカイン類を発現し得る。nTregは低レベルのインターロイキン4(IL−4)およびインターロイキン(IL−10)のような他のサイトカイン類のみを発現する傾向がある。サプレッサー活性を示す細胞は、それらの膜上でサイトカインTGF−βを発現することも示されている。「サプレッサー活性」を有するTregは、他のT細胞の増殖および免疫応答を抑制する能力を有する細胞である。
【0028】
nTregの一次的表現型特性はサプレッサー活性であり、同様のサプレッサー活性を有するiTregの作成は本発明の一つの局面である。サプレッサー活性は、T細胞増殖の阻害のようなT細胞細胞傷害活性についての標準的なアッセイならびに例えば米国特許6,759,035(その全体において、ここにあらゆる目的のために、特にサプレッサー細胞活性のアッセイに関する全ての教示について、参照により本明細書に組み込む。)に記載のアッセイを含む、多くの方法において測定できる。他の表現型特性を検出および測定して、iTregがサプレッサー細胞であり、そしてnTregの表現型特性を有するかを決定することもできる。
【0029】
nTregの一つの表現型特性は、転写因子FOXP3の発現である。FOXP3はnTregの最上調節因子であり、それらの発生および機能に必要であることが示されている。FOXP3遺伝子の遺伝的欠損を有するマウスおよびヒトは自己免疫疾患性症状を発症する。研究により、サイトカイン類IL−2およびTGF−βの存在下で、マウス非制御性T細胞の刺激し、FOXP3の発現およびサプレッサー活性の発生をもたらすことが知られている。FOXP3発現はサプレッサー活性の絶対的な指標ではないが、iTregをnTregのものと類似のサプレッサー細胞と同定するために使用できる一つの表現型特性である。
【0030】
nTregの別の表現型特性は、膜結合性TGF−βの発現である。したがって、iTregにおける膜結合性TGF−βの検出は、かかるiTregがサプレッサー細胞であることの指標である。膜結合性TGF−βの検出方法は、例えば2008年8月19日に出願された米国特許出願12/194,101(その全体において、ここにあらゆる目的のために、特に膜結合性TGF−βのアッセイに関する全ての教示について、参照により本明細書に組み込む。)に記載されている。
【0031】
nTregのさらなる表現型特性は低い増殖応答性であり、これはしばしば、IL−2のようなある種のプロ増殖サイトカイン類の低い産生を伴う。IL−4、IFNγおよびTFN−αのような他のサイトカイン類も増殖と関連しているが、それらは一般に、増殖細胞においてさえ低いレベルで産生される。増殖応答は、当該技術分野において既知の方法、例えばチミジン取り込みアッセイおよびカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)希釈のアッセイを用いて測定できる。
【0032】
III.誘導性Treg(iTreg)の作成
制御性T細胞の形成を誘導するための多数の方法が存在しており、例えば米国特許6,228,359; 6,358,506; 6,797,267; 6,803,036; 7,381,563および6,447,765、ならびに米国特許出願10/772,768; 11/929,254; 11/400,950;および11/394,761に記載されている(それらの全てを、それらの全体について、ここにあらゆる目的のために、特に制御性T細胞(Treg)の作成に関する全ての教示について、参照により本明細書に組み込む。)。かかる常套の方法はマウスにおいてiTregをかなり速やかに作成できるが、ヒト細胞におけるこれらの多くの方法の欠点は、持続するサプレッサー活性を有するヒトiTregを作成するためにTreg前駆体の培養物を繰り返し刺激しなければならない時間がそれらにおいて延長されることである。本発明は、iTregを作成する過程における再刺激が最小乃至必要でない、速やかに前駆細胞を作成できる方法および組成物を提供する。一般に本明細書において使用するとき、異なることが示されていない限り、非制御性T細胞を「刺激する」とは、抗CD3および抗CD28を含むがこれらに限定されない1種以上のT細胞アクチベーターと細胞を接触させることを意味する。かかる刺激は制御組成物の存在下であってよく、あるいはかかる刺激は制御組成物による非制御性T細胞の接触の前またはその後に生じてもよい。
【0033】
制御組成物
本発明は、nTregと類似の表現型特徴を示すiTregの作成において使用するための制御組成物を提供する。本明細書において「制御組成物」は、非制御性T細胞から制御性T細胞への変換を生じ得る組成物を意味する。以下に更に詳細に記載するとおり、制御組成物は、nTregの表現型特性と類似または同一のものを有するTregを誘導するために使用できる。一般に、本発明の制御組成物は非制御性T細胞の培養物に加える。かかる制御組成物は、非制御性T細胞を刺激してサプレッサー細胞へと分化させる物質ならびにnTreg表現型特性の分化および形成を促進する物質を含んでいてよい。本明細書に記載の制御組成物のいずれかの成分は、「添加物」とも称する。
【0034】
一般に、本発明の制御組成物は、FOXP3についての遺伝子および/またはTGF−βについての遺伝子のメチル化に作用する物質を含む。遺伝子メチル化に対する効果は、該遺伝子に対する該物質の直接的作用によるか、あるいは1つ以上の仲介物質に対する該物質の間接的な作用により得る。さらなる態様において、該物質は、FOXP3遺伝子および/またはTGF−βについての遺伝子のメチル化を防止する。一つの局面において、FOXP3遺伝子のメチル化を防止するために使用される物質は、メチルトランスフェラーゼ阻害剤である。かかるメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、例えばアザシチジン(「azaC」、2’−デオキシ−5−アザシチジン;5−アザ−2’−デオキシシチジンとも知られる)および1−b−D−リボフラノシル−2(1H)−ピリミジノンを含み得るが、これらに限定されない。
【0035】
ある局面において、本発明の制御組成物は、T細胞のサプレッサー細胞への分化を加速する物質を含む。かかる物質は、レチノイン酸(特にレチノイン酸の活性代謝産物)およびトリコスタチンAのようなヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含み得るが、これらに限定されない。かかる物質は、本発明の制御組成物中で、サイトカイン類および/または所望によりT細胞アクチベーターのような他の添加物と共に使用してもよい。レチノイン酸およびトリコスタチンAのような物質は、アザシチジンのような転写因子のメチル化に作用する物質と組み合わせて使用してもよい。
【0036】
アザシチジンのような物質に加えて、本発明の制御組成物はさらに、TGF−β、IL−2、IL−7、IL−15およびTNFαのようなサイトカイン類をそれぞれまたはいずれかの組合せで、含んでいてもよい。
【0037】
「トランスフォーミング増殖因子−β」または「TGF−β」は、本明細書において、3つのアイソフォームTGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3を含むTGF−β類のファミリーのいずれか1つを意味する(Massague, J. (1980), J. Ann. Rev. Cell Biol 6:597参照)。リンパ球および単球は、このサイトカインのβ1アイソフォームを産生する(Kehrl, J.H. et al. (1991), Int J Cell Cloning 9: 438-450)。TFG−βは処置する哺乳類細胞に対して活性であるTGF−βのいずれかの形態であってよい。ヒトにおいて、組換えTFG−βが現在では好まれる。一般に、本発明の制御組成物中で使用されるTGF−βの濃度は、細胞懸濁液の約2 pg/ml〜約50 ng/mlの範囲であり得る。さらなる態様において、本発明の制御組成物において使用されるTGF−βの濃度は、約5 pg/ml〜約40 ng/ml、約10 pg/ml〜約30 ng/ml、約20 pg/ml〜約20 ng/ml、約30 pg/ml〜約10 ng/ml、約50 pg/ml〜約1 ng/ml、約60 pg/ml〜約500 pg/ml、約70 pg/ml〜約300 pg/ml、約80 pg/ml〜約200 pg/mlおよび約90 pg/ml〜約100 pg/mlの範囲である。さらなる態様において、使用されるTGF−βの濃度は、細胞集団中で作成されるFOXP3+細胞の割合およびFOXP3発現の安定性のような評価項目に基づいて決定される。
【0038】
IL−2は、処置する哺乳類細胞に対して活性であるIL−2のいずれかの形態であってよい。ヒト細胞について、組換えIL−2が一般に使用される。組換えヒトIL−2はR & D Systems(Minneapolis、MN)から購入可能である。一般に、使用されるIL−2の濃度は、細胞懸濁液の約1 Unit/ml〜約200 U/mlの範囲である。さらなる態様において、IL−2の濃度は約1 U/ml〜約175 U/ml、約2 U/ml〜約150 U/ml、約3 U/ml〜約125 U/ml、約4 U/ml〜約100 U/ml、約5 U/ml〜約80 U/ml、約10 U/ml〜約70 U/ml、約15 U/ml〜約60 U/ml、約20 U/ml〜約40 U/mlおよび約25 U/ml〜約30 U/mlの範囲である。
【0039】
本発明の制御組成物はまた、抗CD2抗体およびCD2リガンドを含む抗CD2、抗CD3、抗CD28、LFA−3、コンカナバリンA(Con A)およびブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)のようなT細胞アクチベーターを含んでいてもよい。ある態様において、T細胞アクチベーターは約0.1〜約5.0 μg/mlの濃度で使用される。さらなる態様において、T細胞アクチベーターの濃度は、約0.2〜約4.0、約0.3〜約3.0、約0.4〜約2.0および約0.5〜約1.0 μg/mlの範囲である。多くの態様において、抗CD3および抗CD28は単独で、あるいはTGF−βと組み合わせて使用される。さらなる態様において、アザシチジンおよびレチノイン酸ならびに抗CD3および抗CD28のようなT細胞アクチベーターのような物質との組合せにおいて、1種以上の他のサイトカイン類が使用される。
【0040】
ある態様において、本発明の制御組成物は、上記物質のうち1個の要素のみを含む。例えば、制御組成物はTGF−βのみ、レチノイン酸のみ、アザシチジンのみ、トリコスタチンAのみ、あるいはT細胞アクチベーターのみを含んでいてよい。
【0041】
さらなる態様において、本発明の制御組成物は、上記物質の1種以上を含む。理解されるように、上記物質のいずれかの組合せが本発明の制御組成物に含まれていてよい。
【0042】
例示的な態様において、本発明の制御組成物はアザシチジン、レチノイン酸またはアザシチジンとレチノイン酸の組合せを含む。さらなる態様において、かかる制御組成物は、1種以上のサイトカイン類を含んでいてもよい。例えば、かかる制御組成物はさらに、TGF−β、IL−2またはTGF−βとIL−2の両方を含んでいてよい。さらなる態様において、かかる制御組成物はまた、抗CD3および抗CD28のような1種以上のT細胞アクチベーターを含んでいてもよい。
【0043】
例示的な態様において、本発明の制御組成物はアザシチジン、トリコスタチンAまたはアザシチジンとトリコスタチンAの組合せを含む。さらなる態様において、かかる制御組成物は、1種以上のサイトカイン類を含んでいてもよい。例えば、かかる制御組成物はさらに、TGF−β、IL−2またはTGF−βとIL−2の両方を含んでいてよい。さらなる態様において、かかる制御組成物はまた、抗CD3および抗CD28のような1種以上のT細胞アクチベーターを含んでいてもよい。
【0044】
例示的な態様において、制御組成物はアザシチジンとTGF−βを含む。さらなる態様において、制御組成物はまた、アザシチジン、レチノイン酸およびTGF−βを含む。さらなる態様において、かかる制御組成物はIL−2も含む。さらなる態様において、かかる制御組成物は、抗CD3および/または抗CD28のような少なくとも1種のT細胞アクチベーターも含む。一つの態様において、本発明の制御組成物は、アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンAおよびIL−2を含む。
【0045】
例示的な態様において、本発明の制御組成物はアザシチジンとレチノイン酸を含む。さらなる態様において、制御組成物は抗CD3および抗CD28のようなT細胞アクチベーターも含む。ある態様において、T細胞アクチベーターはビーズ上の制御組成物中で提供されるが、アザシチジンおよびレチノイン酸は溶液中に存在する。さらなる態様において、制御組成物はTGF−βも含む。
【0046】
例示的な態様において、本発明の制御組成物はアザシチジン、レチノイン酸、IL−2およびTGF−βを含む。さらなる態様において、制御組成物のこれらの要素は細胞培養培地中に含まれる。
【0047】
例示的な態様において、本発明の制御組成物はアザシチジン、トリコスタチンA、IL−2およびTGF−βを含む。さらなる態様において、制御組成物のこれらの要素は細胞培養培地中に含まれる。
【0048】
例示的な態様において、制御組成物はIL−2とTGF−βを含む。さらなる態様において、かかる制御組成物はまた、T細胞のサプレッサーT細胞への分化を加速する物質を含み、かかる物質は例えばレチノイン酸を含み得る。さらなる態様において、かかる制御組成物はまた、脱メチル化を促進する物質、例えばアザシチジンを含む。さらなる態様において、かかる制御組成物はまた、ヒストンアセチル化を促進する物質、例えばトリコスタチンAおよび/またはレチノイン酸を含む。
【0049】
例示的な態様において、本発明の制御組成物に含まれる物質は、相加乃至相乗効果を有する。例えば、制御組成物におけるトリコスタチンAとレチノイン酸の使用は、いずれかの物質を単独で使用することによって見られるものよりも多数の作成されたiTregがもたらされるという、相加乃至相乗効果を有し得る。かかる相乗/相加効果は、一部において、一体となってiTregの数を増加させるヒストンアセチル化に対する作用のメカニズムがこれらの物質で異なるためであり得る。さらなる例示的な態様において、TGF−β、IL−2、アザシチジン、レチノイン酸およびトリコスタチンAを含む本明細書に記載の物質のいずれかの組合せは、iTregの作成において相乗乃至相加効果を有し得る。
【0050】
非制御性T細胞培養物の処理
一つの局面において、本発明は、約7〜約10日以内に治療数のiTregを作成する方法を提供する。このiTregを作成するための比較的短い時間は、天然に生じるTreg(nTreg)を拡大するために使用される当該技術分野における方法よりも利点を提供する。nTregの拡大は、一般に、単離したnTreg集団を治療数に拡大するために少なくとも3週間を必要とする。この時間は一部では、一般に小集団のnTregのみが単離可能であるために必要であり、そして該集団のそれぞれの細胞は治療数の細胞を作成するために多数の細胞分裂を行わなければならない。そのような多数の細胞分裂は、得られた細胞集団全体のサプレッサー活性および他の表現型特性に影響し得る。またそのような多数の分裂は、患者に移植(例えば望ましくないもしくは異常な免疫応答または自己免疫疾患の処置のために)後のこれらの細胞の増殖能を変化させ、そしてそれらのインビボでの生存を減少させ得る。本発明に従うiTregの作成に使用する細胞集団はnTregの単離から得ることができるものよりも一般に大きいため、より小さな細胞集団を拡大するときに必要とされるものと同じ程度の回数の各細胞の分裂を必要とせずに、治療数の細胞を作成できる。
【0051】
一つの局面において、本発明は、制御組成物で非制御性T細胞を処理して、制御性T細胞(iTreg)を誘導する方法を提供する。本明細書において使用するとき、非制御性T細胞は、制御活性を有するように誘導可能なT細胞を含む。かかる細胞は、一次的に未処理なCD−4+、CD−8+細胞を含み得る末梢血単核細胞(PBMC)を含み、ナチュラルキラー(NK)細胞およびナチュラルキラーT(NKT)細胞を含んでいてもよい。
【0052】
本発明の方法および組成物を用いて作成したiTregは、一般に、天然に生じるTreg(nTreg)と類似または同一のサプレッサー活性および表現型特性を有する。本明細書において「処理」とは、細胞を制御組成物と接触させることを意味する。例示的な態様において、細胞の処理は、nTregの表現型特性および機能を発生するのに十分な期間、制御組成物と共に(例えば、制御組成物を細胞培養培地に添加することによる)細胞をインキュベートすることを含む。インキュベーションは一般に、生理的温度下で行う。
【0053】
一般に、本発明の方法および組成物を用いて作成されるiTregは、1種以上のT細胞アクチベーターによるT細胞受容体刺激を含む。かかるT細胞アクチベーターは、抗CD3、抗CD28、抗CD2およびそれらの組み合わせを含んでいてよい。かかるT細胞アクチベーターは制御組成物中に含まれていてもよく、あるいはそれらは、本発明の制御組成物と別個に、その前に、またはそれと同時に、非制御性T細胞に適用してもよい。ある態様において、非制御性T細胞は「初回刺激を受け」ていてよく、すなわちT細胞アクチベーターによる刺激の前に制御組成物の1種以上の成分と接触されてよい。
【0054】
一つの局面において、本明細書に記載のいずれかの制御組成物による非制御性T細胞の培養物の処理は、当該技術分野において既知の他の方法を用いて可能であるよりもかなり短い時間でiTregを作成する。一つの局面において、本発明の方法および組成物は、1週間以内に非制御性T細胞からiTregを作成する。さらなる局面において、本発明の方法および組成物は、約5日〜約15日、約6日〜約12日、および約7日〜約10日の期間にわたって、非制御性T細胞からiTregを作成する。さらなる局面において、iTregの作成は抗CD3および抗CD28のようなT細胞アクチベーターによる反復刺激を必要としない。理解されるとおり、反復刺激を用いてもよく、本発明に含まれるが、本明細書に記載の制御組成物について常に必要なわけではない。
【0055】
本発明のある局面は当該技術分野において既知である常套の方法を用いて可能であるよりも短い時間でiTregを作成することであるが、本発明は、より長い時間にわたってiTregを作成する方法も含む。例示的な局面において、本発明の方法および組成物は、約3日〜約4週間にわたって非制御性T細胞からiTregを作成する。さらなる局面において、本発明の方法および組成物は、約5日〜約3週間、約7日〜約15日、および約10日〜約12日の期間にわたって、非制御性T細胞からiTregを作成する。理解されるとおり、広範な培養時間および条件が本発明に含まれる。細胞培養物は、本明細書に記載の制御組成物の添加の前または後に、約2日〜約3ヶ月、約3日〜約2ヶ月、約4日〜約1ヶ月、約5日〜約20日、約6日〜約15日、約7日〜約10日、および約8日〜約9日間、本発明の目的のために維持できる。
【0056】
本発明の一つの態様において、本発明の制御組成物は、細胞培養の開始時に非制御性T細胞と接触させる。他の態様において、制御組成物は、培養の開始後のより遅い時点で細胞と接触させる。さらなる態様において、制御組成物は培養の開始時およびより遅い時点で細胞と接触させる。制御組成物の最初のまたは続く接触に関するより遅い時点は、培養開始後0.5時間〜5日の範囲であり得る。他の態様において、制御組成物の最初のまたは続く接触に関するより遅い時点は、培養開始後約1時間〜約3日、約2時間〜約2日、約3時間〜約36時間、約4時間〜約24時間、約5時間〜約20時間、約6時間〜約15時間、および約7時間〜約10時間の範囲であり得る。本明細書に記載のとおり、かかる制御組成物は、アザシチジンを単独で、または1種以上のサイトカイン類(TGF−βおよびIL−2を含むがこれらに限定されない)ならびにレチノイン酸および/またはトリコスタチンAのような物質と共に含んでいてよい。
【0057】
一つの局面において、アザシチジンの適用によってアップレギュレートされる内因性TGF−βが、Tregを作成するために使用される。別の局面において、アザシチジンと共に外因性TGF−βを培養物に加えてFOXP3発現を誘導する。一つの態様において、TGF−βとアザシチジンを培養物に同時に加える。他の態様において、TGF−βとアザシチジンは培養物に逐次的に加える。ここでTGF−βとアザシチジンのいずれが最初に加えられてもよい。さらに別の態様において、TGF−βとアザシチジンは異なる時点で培地に加えられる。さらに別の態様において、TGF−βとアザシチジンは、それらが同時、逐次的または別の時点で加えられるにせよ、細胞培養物の寿命の間の2回以上の時点で該培養物に適用される。さらなる態様において、レチノイン酸のようなT細胞の分化に作用する物質は、アザシチジンおよびTGF−βを含むがこれらに限定されない本明細書に記載の他の物質と同時にまたは逐次的に加えてもよい。
【0058】
さらなる態様において、異なる制御組成物および/または制御組成物の成分を、培養の異なる時点で細胞と接触させる。一つの例示的態様において、制御組成物は培養の開始時および該培養物の寿命の間の少なくとも1回以上で、細胞と接触させる。さらなる態様において、制御組成物は培養の開始時に細胞と接触させ、そして該制御組成物の1種以上の成分が該培養物の寿命の間の少なくとも1回以上で、細胞と接触させる。例えば、アザシチジン、TGF−βおよびレチノイン酸を含む制御組成物を培養の開始時に非制御性T細胞と接触させ、次いでアザシチジン、TGF−βまたはレチノイン酸を培養物の寿命の間の少なくとも1回以上で再び加える。さらなる例示的態様において、アザシチジン、TGF−βおよび/またはレチノイン酸のいくつかの組合せを培養物の寿命の間の少なくとも1回以上で加える。同様に、例えばTGF−β、IL−2および1種以上の脱メチル化剤とヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含む制御組成物について、完全な制御組成物をある時点で加え、1種以上の前記成分をさらに、単独でまたは前記制御組成物の他の成分もしくはサイトカイン、T細胞アクチベーターを含む他の添加物、ならびに新鮮な細胞培養培地および/または細胞培養物の健康および安定性に作用することが知られている他の物質と共に、続く時点で培養物と接触させてもよい。理解されるとおり、制御組成物の成分の任意の組合せを、細胞培養物の寿命の間の1回以上の時点で加えてよい。
【0059】
ある態様において、制御組成物の1種以上の成分を培養開始後少なくとも1回、細胞培養物に加える。さらなる態様において、制御組成物の1種以上の成分を培養物の寿命の間の約2〜約15回、細胞培養物に加える。さらなる態様において、制御組成物の1種以上の成分を培養物の寿命の間の約3〜約14回、約4〜約14回、約5〜約12回、約6〜約11回、約7〜約10回および約8〜約9回、細胞培養物に加える。これらの態様において、細胞培養物は非制御性T細胞、制御性T細胞ならびに非制御性および制御性T細胞の両方を含んでいてよい。制御性T細胞は、nTregおよび/またはiTregであってよい。これらの培養物はまた、T細胞以外の細胞を含んでいてもよい。
【0060】
さらなる例示的態様において、1種以上の物質を非制御性T細胞の培養物と逐次的または同時に接触させる。例えば、アザシチジンとレチノイン酸を用いてiTregを作成する態様において、アザシチジンとレチノイン酸はレチノイン酸と同時にまたはいずれかの順序で逐次的に、細胞と接触させることができる。同様に、アザシチジン、レチノイン酸およびTGF−βを用いてiTregを作成する態様において、該3種の物質を同時にまたはいずれかの順序で逐次的に、非制御細胞と接触させることができる。理解されるとおり、制御組成物に含まれ得る本明細書に記載の物質のいずれかの組合せは、同時またはいずれかの順序で逐次的に、細胞と接触させることができる。
【0061】
一つの局面において、本発明は、制御性T細胞(Treg)を作成する方法であって、制御組成物で非制御性T細胞の培養物を処理する工程を含む方法を提供する。この局面において、制御組成物は転写因子をコードする遺伝子のメチル化を防止する物質を含む。例示的態様において、転写因子をコードする遺伝子のメチル化を防止する物質は、FOXP3に関する遺伝子のメチル化を防止するメチルトランスフェラーゼ阻害剤である。さらなる例示的態様において、該メチルトランスフェラーゼ阻害剤は、アザシチジンである。さらなる態様において、制御組成物はまた、TGF−βのようなサイトカインも含む。さらなる態様において、制御組成物はまた、レチノイン酸のようなT細胞分化を加速する物質も含む。さらなる態様において、制御組成物はトリコスタチンAのようなヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含む。理解されるとおり、この例示的制御組成物のこれらの成分のサブセットのいずれかの組合せを用いて、iTregを作成できる。
【0062】
一つの態様において、非制御性T細胞の培養物を処理することは、培養開始時に制御組成物を加えることを含む。一つの態様において、非制御性T細胞の培養物を処理することは、培養開始後に制御組成物を加えることを含む。ある態様において、非制御性T細胞の培養物は、培養開始時または培養開始に次いで処理を行うかのいずれであれ、制御組成物で処理した後約1週間維持される。
【0063】
さらなる態様において、培養開始時に制御組成物を加えた後の第二の時点で、非制御性T細胞の培養物に物質を加える。さらなる態様において、該物質は、培養物の寿命の間の複数の時点で加えられる。かかる態様において、培養の開始後1回以上加えられる物質は、アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンA、TGF−β、IL−2、抗CD3、抗CD28またはこれらのいくつかの組合せもしくは本明細書に記載の制御組成物の任意の他の成分であってよい。
【0064】
ある態様において、制御組成物による処理の前およびT細胞アクチベーターによる刺激の前に、非制御性T細胞は1種以上の物質で「予備刺激」される。「予備刺激」は、制御組成物と接触させる前に1種以上の物質と非制御性T細胞を接触させることを意味する。例えば、細胞はアザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンA、TGF−β、IL−2またはそのいくつかの組合せと、細胞培養開示前および/または細胞を予備刺激するために使用される1種以上の物質を含んでいてもよい制御組成物と接触させる前に、接触させてよい。例示的態様において、非制御性T細胞の培養物は、TGF−βおよびIL−2で予備刺激され、FOXP3のメチル化に作用する物質、サプレッサー細胞への細胞の分化に作用する物質、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤である物質または該3種の物質のいくつかの組合せを含む制御組成物の存在下でT細胞アクチベーターで刺激される。さらなる例示的態様において、制御組成物はアザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンAまたはこれら3種のいくつかの組合せを含む。さらなる態様において、制御組成物はTGF−βおよび/またはIL−2も含む。
【0065】
ある態様において、制御組成物による処理の前に、非制御性T細胞を1つ以上の前処理プロトコルに供してもよい。例えば、回収した後、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離の使用を含むが、これに限定されない当該技術分野において標準的な技術を用いてさらに細胞を濃縮できる。
【0066】
さらなる態様において、1回以上の濃縮工程の後、当該技術分野において周知の技術を用いて細胞を洗浄して、血清タンパク質および可溶性血液成分、例えば自己抗体、阻害剤等を除去できる。一般に、かかる技術は生理的培地またはバッファーの添加、次いで遠心分離を含む。かかる工程は必要に応じて反復できる。
【0067】
1回以上の濃縮および/または精製の後、さらなる態様において、該細胞は生理的培地、例えばAIM V無血清培地(Life Technologies)中に再懸濁してもよく、あるいはバッファー、例えばHanks平衡塩溶液(HBBS)もしくは生理的緩衝化食塩水(PBS)を用いてもよい。生理的培地を用いるとき、血清はiTreg生成の阻害剤として作用するタンパク質を含む得るため、無血清培地が好ましい。
【0068】
一つの態様において、細胞は、制御組成物による処理の前に1種以上の細胞タイプについて富化してよい。例えば、細胞は当該技術分野において周知の技術を用いて、例えば市販の免疫吸着カラムおよび他の技術、例えばGray et al. (1998), J. Immunol. 160:2248に記載のもの(ここで、その全体について、あらゆる目的のために、特に1種以上の細胞タイプについて細胞集団を富化することに関する全ての技術について、参照により本明細書に組み込む)によって、CD8+T細胞またはCD4+T細胞について富化することができる。
【0069】
他の態様において、PBMCを自動化されたクローズドなシステム、例えばNexell Isolex 300i Magnetic Cell Selection System、Miltenyiの“AutoMACS system”またはフローサイトメーターで分離する。一般に、かかる分離は、滅菌状態を維持し、細胞分離、活性化およびサプレッサー細胞機能の発生に用いる方法論の標準化を保証する、当該技術分野において既知の方法およびデバイスを用いて実施する。多くの態様において、細胞がいずれかの必要な前処理を受けた後、細胞を制御組成物で処理する。
【0070】
一つの態様において、白血球フェレーシス回収方法を用いて非制御性T細胞を回収して、滅菌ロイコパック(leukopak)中濃縮細胞サンプルを得る。さらなる態様において、試薬の添加および/またはキットとしての制御組成物の用量のためにロイコパックを修飾して、細胞を回収したものと同じロイコパック中でiTregを作成するための細胞の処理を行うことができる。かかるキットは以下に詳細に説明される。
【0071】
ある局面において、本明細書に記載の制御組成物および方法は、天然に生じるTreg(nTreg)を拡張し、そして非制御性T細胞から制御性T細胞を誘導するために使用する。ある態様において、nTregの拡張は、IL−2を含む本明細書に記載の制御組成物を用いる。さらなる態様において、本明細書に記載の方法を用いたnTregの拡張は、単離されたnTreg集団を制御組成物で処理することを含む。この制御組成物は、さらなる態様において、IL−2を含む。さらなる態様において、nTregはIL−2、ならびにTGF−β、アザシチジン、レチノイン酸およびトリコスタチンAを含む1種以上のさらなる物質および/またはサイトカイン類で処理する。非制御性T細胞を処理してiTregを作成するための上記いずれかの方法は、nTreg集団の拡張にも適用できる。
【0072】
理解されるとおり、本発明は、一つの局面において、本明細書に記載の方法に従って作成されたiTregの組成物を含む。
【0073】
さらに、本発明はまた、細胞培養培地、転写因子のメチル化に作用する物質(例えばアザシチジン)、サプレッサー細胞へのT細胞の分化に作用する物質(例えばレチノイン酸)および少なくとも1個の未処理CD4+細胞を含むT細胞集団を含んでなる組成物を含む。かかる組成物はまた、少なくとも1個の誘導された制御性T細胞も含んでいてよい。さらなる態様において、少なくとも1個の誘導された制御性T細胞は、サプレッサーT細胞である。さらなる態様において、組成物はさらにトリコスタチンAのようなヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含む。ある態様において、さらにiTregを誘導するために、T細胞アクチベーターがこの本発明の組成物にさらに添加されていてよい。
【0074】
一つの局面において、本発明は、細胞培養培地、転写因子のメチル化に作用する物質(例えばアザシチジン)、サプレッサー細胞へのT細胞の分化に作用する物質(例えばレチノイン酸)および少なくとも1個の天然Tregを含むT細胞集団を含んでなる組成物を含む。かかる組成物は、nTregを拡張するために、1種以上のT細胞アクチベーターならびに他の添加物、例えばヒストンデアセチラーゼ阻害剤またはIL−2のようなサイトカインでさらに処理してもよい。理解されるとおり、この拡張されたnTreg集団も本発明に含まれる。
【0075】
nTreg表現型特性についてのiTregの評価
一つの局面において、本発明の方法および組成物は、アザシチジンを含む制御組成物で非制御性T細胞の培養物を処理してiTregを刺激し、培養物中のFOXP3陽性細胞の割合を増大させることを含む。図2は異種TGF−βの非存在下での、非制御性T細胞培養物のアザシチジンによる刺激が顕著にFOXP3陽性細胞の割合を増大することを示している(図2Aの矢印はTGF−β(中央のパネル)またはアザシチジン(右側のパネル)による増強を示す)。図2Aに示すとおり、このFOXP3+細胞の割合の増大は、アザシチジンのみによって増大が誘導されるときでもTGF−βによって誘導されるFOXP3発現と同程度にアザシチジンによって誘導されるFOXP3発現をALK5iが阻害したため、少なくとも部分的には、内因性TGF−βを含むメカニズムに依存している可能性がある(「ALK5i」と表示がある矢印で示されるトレースを参照)。図2Aのグラフにおける影付きの領域は、バックグラウンド染色を示す。
【0076】
本発明の「アザシチジン産生iTreg」は、アザシチジンのみを用いて産生されたものならびにアザシチジンと、サイトカイン類(例えばTGF−βおよびIL−2)およびサプレッサー細胞へのT細胞の分化を促進する物質(例えばレチノイン酸)を含むがこれらに限定されない他の物質を用いて産生されたものを含む。
【0077】
上記のとおり、nTregの一つの表現型特性は、貧増殖応答性である。IL−2およびTGF−βで刺激したヒト未処理CD4+細胞はFOXP3+になるが、一部のみがサプレッサー細胞に分化する。図5AはかかるiTregが再刺激されたときに増殖することを示している。逆に、アザシチジンと共に培養されたCD4+細胞は培養の6日後に不応性となり、再刺激によって増殖しない。前増殖性サイトカイン源がiTregそれ自体のみであるため、アザシチジン処理細胞による増殖の欠如は貧サイトカイン産生と一致し、これはnTregの区別される特徴である。TGF−βと組み合わせたアザシチジンの添加もこれらの細胞の増殖性活性を低減する。
【0078】
一つの局面において、本発明に従って作成されるiTregをサプレッサー活性について評価する。サプレッサー活性について評価するとき、アザシチジンの存在下で培養したヒト細胞は、アザシチジンの非存在下で培養した細胞よりもより顕著に抑制性である(図4)。したがって、本発明に従うアザシチジンの存在下での培養は、nTregと同一または類似の表現型および機能的特徴を有するiTreg細胞の作成を促進する能力と一致する。
【0079】
一つの局面において、TGF−βはFOXP3発現を誘導するために、非制御性T細胞の培養物にアザシチジンとともに添加する。図3Aは、アザシチジンとTGF−βの組合せが相加効果を有し、いずれかの物質を単独で加えるよりも高い割合のFOXP3+細胞を誘導することを示している。
【0080】
上記のとおり、一つの態様において、TGF−βとアザシチジンは、同時に培養物に加える。他の態様において、TGF−βとアザシチジンは逐次的に培養物に添加し、ここでTGF−βとアザシチジンのいずれが最初に加えられてもよい。さらに別の態様において、TGF−βとアザシチジンは異なる時点で培養物に加える。さらに別の態様において、TGF−βとアザシチジンは、それらが同時、逐次的または異なる時点のいずれで添加されるにせよ、細胞培養物の寿命の間の2回以上で培養物に適用される。
【0081】
ビタミンAの代謝産物であるレチノイン酸は、TGF−β依存的メカニズムによって、胃腸管においてCD4+細胞を誘導して抗原提示細胞をFOXP3+ iTregとさせることが可能であることが見出されている(例えば、Kang et al., (2007) J. Immunol., 179:3724-3733参照)。レチノイン酸の主要な効果の一つは細胞成熟を加速させることであるから、本発明者らは、レチノイン酸それ自体またはアザシチジンとの組合せがヒトiTregの分化も促進できると判断した。したがって、本発明は、レチノイン酸を単独でまたはIL−2およびTGF−βのようなサイトカイン類、T細胞アクチベーターおよび転写因子のメチル化に作用する物質、例えばアザシチジンを含む本明細書に記載のいずれかの物質および組成物との組合せで含む、制御組成物を利用した方法および組成物を包含する。
【0082】
図6はIL−2、TGF−β、ATRA(全トランス・レチノイン酸、これはレチノイン酸の活性な代謝産物である)およびアザシチジンの組合せが、いずれかの物質それ自体の適用によって見られるよりも高い割合で未処理CD4+細胞をFOXP3+細胞に誘導することを示している。矢印で示される図6のトレースは、抗CD3/抗CD28ビーズによる刺激後の細胞数である。
【0083】
上記のとおり、一つの例示的態様において、iTregは、レチノイン酸、アザシチジン、IL−2およびTGF−βの組合せによる非制御性T細胞の刺激によって作成する。かかるiTregは、成熟FOXP3+ nTregの特徴である特異的表面マーカーのようなnTregの表現型特性について評価できる。未処理のT細胞はCD45RA+ マーカーを示し、CD45ROを欠く。活性化後、それらがメモリー表現型を示したとき、これらの細胞はCD45RA−CD45RO+となった(図7)。TGF−β刺激の6日後、50%のみがCD45ROマーカーを獲得した(図7)。しかし培地中にアザシチジンとレチノイン酸が含まれていたとき、ほぼ全ての細胞がCD45RO+になった。nTregのように、未処理のCD4+細胞は顕著に減少したIL−7受容体(CD127)発現を示し、CD127dimになった。最後に、nTregはTGF−βによって誘導されるαEβ7インテグリン(CD103)を特徴的に発現する。アザシチジンおよびレチノイン酸をTGF−βに加えると、CD103を発現するCD4+細胞の割合が顕著に増加した。TGF−β、アザシチジンおよびレチノイン酸の組合せはまた、未処理のヒトCD4+細胞を誘導して膜結合TGF−βを発現する。TGF−βで予備刺激したいくつかのT細胞は再刺激後それらの細胞表面上でこのサイトカインを発現したが、この数はアザシチジンとレチノイン酸で予備刺激したとき、2倍であった。
【0084】
IV.本発明のiTregの使用
本発明は、本明細書に記載の方法および組成物を用いて作成したiTreg集団を包含する。かかるiTreg集団は、治療的および研究的適用に使用できる。
【0085】
一つの局面において、例えば異常な免疫応答および/または自己免疫疾患を有する患者に、本明細書に記載の方法および組成物を用いて誘導したTregを投与する。さらなる局面において、本明細書に記載の方法および組成物を用いて誘導したTregは同種移植片拒絶反応を予防または処置できる。
【0086】
本発明の方法および組成物を用いて誘導したTregは、当該技術分野において一般に知られている方法を用いて患者に投与できる。かかる方法は、iTregを患者に注射または導入することを含むが、これらに限定されない。ある態様において、iTregは静脈内投与を介して患者に導入される。さらなる態様において、バッファー、塩または薬学的に許容される添加物のようなさらなる薬物をiTregと組み合わせて投与してもよい。
【0087】
細胞を患者に導入した後、当該技術分野において既知の方法を用いて処置の効果を評価してもよい。かかる評価の例は、総Igまたは特定の免疫グロブリンの力価を測定すること、腎機能試験、組織損傷評価等を含むが、これらに限定されない。
【0088】
本発明のTregを用いた処置は、必要または所望により反復してもよい。例えば数週間の期間について1週間に1回、またはある期間について1週間に複数回、例えば2週間にわたって3〜5回処置を行うことができる。時間経過と共に、患者は症状の再発を経験することがあり、その時点で処置を反復できる。
【0089】
一つの例示的局面において、本発明は、患者における異常な免疫応答または自己免疫疾患を処置する方法であって、患者に制御性T細胞を投与することを含む方法を提供する。この局面において、制御性T細胞は非制御性T細胞の培養物を制御組成物で処理して作成する。この制御組成物は、アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンAまたはアザシチジン、レチノイン酸およびトリコスタチンAの2種以上の組合せを含んでいてよい。
【0090】
一つの態様において、患者に投与される制御性T細胞は、アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンAの1種以上を含む制御組成物を用いて作成する。さらなる態様において、制御組成物はTGF−βおよび/またはIL−2を含んでいてよい。さらなる態様において、制御組成物は、抗CD3、抗CD28または抗CD3と抗CD28の組合せを含むがこれらに限定されないT細胞アクチベーターを含んでいてもよい。
【0091】
さらなる例示的態様において、異常な免疫応答の処置のために患者に投与される制御性T細胞は、非制御性T細胞の培養物から、該非制御性T細胞の培養物を制御組成物による処置の前、それと同時またはその後にT細胞アクチベーターで刺激して、作成する。
【0092】
V.キット
一つの局面において、本発明は、iTregを作成するためのキットを提供する。一般に、かかるキットは、特別の細胞処理設備の使用を必要とせずに本明細書に記載の制御組成物で非制御細胞の処理が可能な滅菌クローズドシステムを含む。
【0093】
例示的態様において、本発明のキットは細胞処理容器を含む。細胞処理容器は、多くの態様において、コンタミネーションの危険なく制御組成物で非制御性T細胞を処理可能なクローズド滅菌システムである。細胞処理容器の形状および組成は、当業者に理解されるとおり、変化してよい。一般に、容器は多数の異なる形態、例えばIVバッグに似たフレキシブルバッグまたは細胞培養容器に似た硬い容器であり得る。一般に、容器の組成はいずれかの好適な、生物学的に不活性な材料、例えばガラスまたはプラスチック、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどである。
【0094】
さらなる態様において、細胞処理容器は、培養中の細胞増殖を維持するために必要な反応条件を阻害することなく、Tregの作成用薬物を細胞処理容器内の細胞に導入可能なように、1個以上のポートを含む。例えば本発明の細胞処理容器は、新鮮な細胞培養培地を導入するための1個のポートを含んでいてよいが、別のポートはアザシチジン、レチノイン酸および1種以上のサイトカイン類(TGF−βおよびIL−2を含むがこれらに限定されない)のような本明細書に記載の制御組成物の成分を導入するために使用される。理解されるとおり、かかる細胞処理容器へのポートについての広範なデザインが当該技術分野において既知であり、本発明に含まれる。
【0095】
さらなる態様において、本発明の細胞処理容器は、T細胞のみが制御組成物による処理のために容器内に残るように細胞の分離に使用できる成分を含む。例えば、専用ポートまたは該システムに他の物質および分子を導入するためにも使用されるポートを介して容器に抗体を導入できる。かかる抗体は、非T細胞を同定し、次いで容器から除去し、キットに含まれる他の成分で処理するためのT細胞のみが残るように、非T細胞に特異的であってよい。一つの例示的態様において、免疫磁性ビーズを細胞処理容器に加えて、抗体で標識された非T細胞と結合させ、次いで当該技術分野において既知の方法を用いて免疫磁性ビーズを容器から除去できる。
【0096】
一つの局面において、本発明は、患者にiTregを投与するためのキットを提供する。さらなる局面において、患者にiTregを投与するためのキットは、iTregを作成するためのキットのいくつかまたは全ての成分と組み合わせられる。かかるキットは、ある例示的態様において、iTregを作成するために非制御性T細胞に制御組成物を加えるための複数のポートを含む、上記のもののような細胞処理容器を含んでいてよい。かかる細胞処理容器はさらに、当該技術分野において既知の方法を用いて、例えば静脈内(I.V.)注入によって患者にiTregを投与できるように、さらなる区画および/またはポートを含んでいてよい。例えば、上記細胞処理容器は、患者にiTregを投与するI.V.バッグと接続するために適合されているポートをさらに含んでいてもよい。
【0097】
さらなる局面において、本発明のキットは、患者から細胞を回収するときにも使用できる細胞処理容器を含んでいてもよい。一つの例示的態様において、本発明のキットは、入口ポートを用いる白血球フェレーシス装置に取り付けられるように適用されており、同一の容器を細胞収集およびiTregを作成するための細胞処理の両方に使用できる細胞処理容器を含む。さらなる例示的態様において、容器は、作成したiTregを患者に、例えば上記のとおりI.V.セットアップに対するアダプターを介して投与するために使用できるさらなる適応を含んでいてよい。
【0098】
さらなる態様において、本発明のキットは、患者から細胞を回収するために使用できる別々の細胞回収容器と、それらの細胞を細胞処理容器に導入するものを含んでいてよく、これもキットのパーツである。該細胞処理容器はさらに、iTregを作成するための容器中の細胞に制御組成物を導入でき、得られたiTregを細胞処理容器から患者に投与可能であるか、あるいは細胞処理容器から患者にiTregを投与できる適応を含んでいてもよく、これもキットに含まれ得る。iTregは次いで、細胞投与容器から患者に投与できる。
【0099】
さらなる態様において、本発明のキットは、制御組成物による処理と同じ容器内で非制御性T細胞の分離および/または精製を行えるように、細胞分離および精製用要素を含む細胞回収容器を含んでいてよい。さらなる態様において、細胞は分離および/または精製のために細胞回収容器から除去され、かかる分離および/または精製の後、該細胞を細胞処理容器に導入する。細胞回収容器外のかかる分離および/または精製用容器および試薬は、同じキット内に含まれていてもよい。
【0100】
本発明のキットは、少なくとも1用量の制御組成物をさらに含んでいてもよい。この文脈での「用量」は、ある効果を引き起こすのに十分な制御組成物の量を意味する。さらなる態様において、本発明のキット中に複数用量の制御組成物を含んでいてもよい。さらなる態様において、制御組成物の用量は、ポートを用いて細胞処理容器に加えることができ;あるいはある態様において、用量は細胞処理容器内に既に存在する。さらなる態様において、制御組成物の用量は凍結乾燥形態で存在し、これは当該技術分野において既知の細胞培地または他の物質を用いて再構成可能である。
【0101】
さらなる態様において、本発明のキットはiTregを作成するための本明細書に記載の制御組成物と組み合わせて使用できる当該技術分野において既知のバッファー、塩、培地、タンパク質、薬物および他の成分を含んでいてもよい。かかる成分はまた、患者にiTregを投与するために使用されるキットのパーツとして使用してもよい。
【0102】
さらなる態様において、本発明のキット中に集合される物質または成分が実施者に提供され、またそれらの操作性および有用性を保存するいずれかの簡便かつ好適な方法で保存されてもよい。例えば、成分は溶解、脱水または凍結乾燥形態で存在していてよく;それらは室温、冷蔵または冷凍温度で提供できる。該成分は典型的には、好適なパッケージング材中に含まれる。本明細書において使用されるとき、用語「パッケージング材」は、キットの内容物、例えば発明の組成物等を保存するために使用される1つ以上の物理的構造を意味する。パッケージング材は周知の方法で構築され、好ましくは滅菌、無汚染環境を提供する。キットに使用するパッケージング材は、ラボラトリーキットにおいて商業的に利用可能なものである。本明細書において使用するとき、用語「パッケージ」は、ガラス、プラスチック、紙、フォイル等のような、個々のキット成分を保持可能な好適な固体マトリックスまたは材料を意味する。したがって例えば、パッケージは好適な量の制御組成物を含むように用いるガラスバイアルであってよい。パッケージング材は一般に、キットの内容物および/または目的ならびに/あるいはその成分を示す外側ラベルを有する。
【0103】
さらなる態様において、本発明のキットは、キットの使用に関する指示書をさらに含んでいてもよい。
【0104】
キットが細胞分離用要素を含む本発明のある例示的態様において、該キットは、GMP品質のビオチニル化抗体を含む。かかる抗体は、単球を除去するための抗CD14、NK細胞を除去するための抗CD11bまたはCD56、そしてCD8細胞を除去するためのCD8を含んでいてよいが、これらに限定されない。かかるキットはさらに、染色された単球、B細胞およびNK細胞を除去するためのアビジン結合抗マウスIgGを有する磁性ビーズを含んでいてもよい。さらなる態様において、かかるキットは制御組成物、例えばアザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンA、TGF−β、IL−2を含む制御組成物ならびにこれらの成分の2種以上の組合せを含む制御組成物を含んでいてもよい。
【0105】
ある態様において、本発明のキットは細胞処理容器と制御組成物を含む。例示的態様において、制御組成物はアザシチジン、レチノイン酸およびTGF−βを含む。さらなる例示的態様において、制御組成物はIL−2も含む。さらなる例示的態様において、かかるキットは1種以上のT細胞アクチベーターとサイトカインを、別々の容器中にあるいは制御組成物の一部として含む。さらなる態様において、かかるキットはバッファー、薬物および細胞培養培地も含む。ある態様において、かかるキットはさらに、キットの使用に関する指示書を含んでいてもよい。
【0106】
一つの例示的局面において、本発明は、制御組成物、細胞処理容器およびキットの使用に関する指示書を含むキットを提供する。さらなる局面において、キットに含まれる制御組成物は、アザシチジン、レチノイン酸またはアザシチジンとレチノイン酸の組合せを含む。一つの態様において、制御組成物はさらに、TGF−β、IL−2またはTGF−βとIL−2の組合せを含んでいてもよい。さらなる態様において、制御組成物はさらにトリコスタチンAを含む。さらなる態様において、この例示的キットの細胞処理容器は、白血球フェレーシス装置への取り付けに適用されるポートを含む。
【0107】
上記本発明の使用方法をより十分に説明し、そして本発明の多様な局面を実施するための最良の態様を記載するため、下記実施例を提供する。これらの実施例は、いかなる方法においても本発明の真正な範囲を限定せず、説明的な目的で提供されていると理解される。本明細書に記載の全ての文献は、全体において参照により本明細書に組み込む。
【実施例】
【0108】
実施例
実施例1:刺激CD4+細胞におけるFOXP3発現
図1は非制御性T細胞の培養6日時点でのFOXP3発現の典型的な例である。この図に示す実験において、未処理のCD4+細胞をTGF−βと共に(右パネル)またはなしで(左パネル)3/28ビーズ(10個のT細胞あたり1ビーズ)で6日間刺激した。データは、FOXP3発現がTGF−βによって促進されたことを示している(FOXP33発現細胞の割合を各グラフに示す)。FOXP3は両方の培養物由来の細胞によって発現されるが、TGF−βを添加した培養物からはFOXP3を発現する細胞が2倍であった。
【0109】
実施例2:FOXP3発現に対するアザシチジンおよびTGF−β効果の比較
図2AはFOXP3発現に対するアクチビン受容体様キナーゼ5阻害剤(ALK5i)の効果を示す。この阻害剤はTGF−βタイプI受容体シグナル伝達を阻止する。図2Aは、刺激されたCD4+細胞のフローサイトメトリー分析からのデータを提供する。未処理のCD4+細胞は培地のみ(左パネル)、5 ng/mlのTGF−βの存在下(中央パネル)または1 μMのアザシチジンの存在下(右パネル)で5または6日間、抗CD3/CD28ビーズで刺激した。グラフはまた、ALK5i(10μM)で刺激したか刺激しなかった細胞からのデータを示す。影付きの領域は、コントロールIgGのみで染色された細胞を示す。図2Aは、アザシチジンがFOXP3発現を、TGF−βで見られる促進と同程度まで促進することを示す。図2Aのデータはまた、ALK5iがアザシチジンによって誘導されるFOXP3発現をTGF−βによって誘導されるFOXP3発現と同程度まで阻害するため、アザシチジンによるFOXP3発現の促進が少なくとも部分的にはTGF−β依存的であることを示唆している。
【0110】
図2Bは、培地中、ALK5iを含む培地および溶媒(DMSO)のみで刺激後のFOXP3発現の割合を測定する5回の実験の平均±SEMを示す。当該図は、培地中で刺激された細胞にALK5iを加えるとFOXP3発現を低減することができたため、刺激されたCD4+細胞によるバックグラウンドFOXP3発現でさえ部分的にTGF−β依存的であり得ることを示している。
【0111】
実施例3:FOXP3発現に対するTGF−βとアザシチジンの相加効果の評価
FOXP3発現に対するTGF−βとアザシチジンの相加効果を分析した。図3はFOXP3発現に対するTGF−βとアザシチジンの相加効果を示すデータを示している。図3Aは(左から右へパネルの順番で)培地のみ、TGF−βを含む培地中、そしてアザシチジンとTGF−βを含む培地中で5〜6日間、抗CD3/CD28ビーズで刺激した未処理CD4細胞からのフローサイトメトリーデータを提供する。矢印は抗CD3/抗CD28で刺激後の細胞数を示す。図3Bは、5回の実験の平均±SEMを示し、培地のみ、アザシチジン(1 μM)を含む培地中、TGF−β(5 ng/ml)を含む培地中、およびアザシチジンとTGF−βの両方を含む培地中で刺激後のFOXP3発現の割合を示す。これらのデータはアザシチジンとTGF−βがFOXP3発現を促進する相加効果を有することを示唆している。
【0112】
実施例4:アザシチジンの存在下で刺激した細胞の抑制活性の評価
図4はアザシチジンで刺激したCD4+細胞が抑制活性を発現することを示している。この図は、培地のみおよびアザシチジンを含む培地中で抗CD3/CD28ビーズで未処理のCD4+細胞を刺激した4回の実験の、平均±SEMを示す。比率1:10のカルボフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識したレスポンダーT細胞を培養して、刺激した細胞の集団それぞれを抑制活性についてアッセイした。細胞を可溶性抗CD3で3日間刺激し、レスポンダー細胞の増殖をCFSEの希釈物によって測定した。これらのデータは、アザシチジンの存在下で刺激した細胞集団において見られるFOXP3発現の促進が(図3参照)、これらの細胞の抑制活性の促進を伴うことを示している。
【0113】
実施例5:FOXP3+発現に対するレチノイン酸の効果の評価
TGF−βおよびアザシチジンにレチノイン酸を添加すると、刺激されたCD4+細胞におけるFOXP3発現を促進する。未処理のCD4+細胞を上記のとおり抗CD3/CD28ビーズで刺激した。図5はIL−2(20 u/ml)±TGF−β(2 ng/ml)±全トランスレチノイン酸(ATRA)(0.1 - 0.5 μM)またはDMSOの存在下で4日間刺激した細胞からのデータを示す。CD4+CD25+細胞でのFOXP3発現は、フローサイトメトリーで測定した。図5Aは5回の独立した実験の平均±SEMを示す棒グラフである。図5Bは0.1 μMのATRAにおける代表的実験である。
【0114】
図6は、培地のみ、TGF−βを含む培地中、アザシチジンを含む培地中、レチノイン酸の活性代謝産物である全トランスレチノイン酸(0.05 μm/ml)(ATRA)を含む培地中、およびTGF−β、アザシチジンおよびATRAの組合せを含む培地中で刺激S他細胞のさらなるフローサイトメトリーデータを示す。矢印で同定されているトレースは、刺激後にFOXP3を発現する細胞からのデータを示し、FOXP3発現細胞の割合を各図に示す。明らかに、TGF−β、アザシチジンおよびATRAの組合せはFOXP3発現の促進に最も顕著な効果を有していた。
【0115】
実施例6:Tregの表現型に対するレチノイン酸の効果の評価
TGF−β、アザシチジンおよびレチノイン酸の組合せは、成熟FOXP3+ Treg細胞の表現型を有するCD4+細胞を増加する。ベースラインとして、未処理のCD4+細胞はFOXP3、CD103またはCD45ROを発現しない。かかる細胞はまた、CD127で明るく染色される。準最適数の抗CD3/CD28ビーズで刺激した後、70〜85%の未処理CD4+細胞がFOXP3、CD45ROおよびCD103を発現し、CD127でかすかな染色を示す(図7)。これらは全て、成熟FOXP3 CD4+ Treg細胞のマーカーである。
【0116】
TGF−β、アザシチジンおよびレチノイン酸の組合せは、未処理のCD4+細胞を誘導して膜結合TGF−βを発現させることができる。記載の物質で未処理のCD4+細胞を6日間刺激し、抗CD3/CD28ビーズで再刺激し、そして膜結合TGF−βについて抗TGF−β結合蛍光色素で染色した。図8は、刺激前にTGF−βと接触させたいくつかのT細胞がそれらの細胞表面上でこのサイトカインを発現し(図8B)、細胞をアザシチジンおよびレチノイン酸と接触させたときこの数が2倍になった(図8C)ことを示している。図8DのデータはIgGの発現についてのコントロールのデータを示す。
【0117】
図9はIL−2(20 U/ml)、TGF−β(2 ng/ml)および全トランスレチノイン酸(0.1 μM)の組合せの存在下で4日間刺激した未処理のCD4+CD25−細胞が、TGF−βのみまたはIL−2のみ(CD4−con)の存在下で刺激した細胞に対して増加した抑制を示したことを示している。誘導されたTregをTレスポンダー細胞(比率1:4)に加え、抑制活性を計算した。
【0118】
実施例7:アザシチジンの存在下および非存在下でのメモリーCD4+細胞の刺激
未処理のCD4+細胞(CD45RA+細胞とも称する)に加え、メモリーCD4+細胞(CD45RO+)を刺激し、それらの表現型特性に対するアザシチジンおよびアザシチジン+レチノイン酸の効果について評価した。これらのメモリーCD4+細胞は、以前には活性化集団であったが、静止を示す。アザシチジン(1 μM)、アザシチジンと全トランスレチノイン酸の組合せの存在下または非存在下およびTGF−β(5 ng/ml)の存在下または非存在下で、該細胞を抗CD3/抗CD28ビーズ(10個中1個)で刺激する。6日後、該細胞は刺激ビーズが枯渇して、FOXP3発現、サプレッサー活性および増殖性活性についてアッセイする。刺激細胞の50%以上がFOXP3を発現する。培地のみで培養した細胞における促進されたFOXP3発現は、培養物中の非T細胞によって提供されたTGF−βのためであり得る。TGF−βで処理した細胞は過増殖性であり、顕著に拡張する。しかし1回、2回またはそれ以上刺激を反復した後、それらは反応不顕性となり、T細胞刺激に対して応答が乏しいが、これらの細胞によるFOXP3発現および抑制活性は、アザシチジンの非存在下で刺激した全T細胞よりも顕著であった。
【0119】
アザシチジン/アザシチジン+レチノイン酸に初めて曝露される各CD4+サブセットからのグループが存在するように、新鮮なアザシチジンおよび/またはアザシチジンとレチノイン酸の組合せの存在下または非存在下で、残りの細胞を抗CD3/抗CD28(10個中1個)で再刺激する。さらに6日後、FOXP3発現、サプレッサー活性および増殖性活性について細胞をアッセイする。
【0120】
CD4+細胞とCD8+細胞はいずれもFOXP3を発現し、抑制活性を示す。この実施例では、特定のT細胞集団の必要性なく、T細胞療法に好適なTregを作成する。
【0121】
実施例8:サイトカイン産生の評価
抗原提示細胞なしで、無血清培地中で、1次および2次培養物からの細胞を刺激する。該細胞を固定化抗CD3または抗CD3/抗CD28ビーズで刺激する。IL−2、IFN、TNF、IL−6、IL−10およびIL−4を測定するためのサイトカインビーズアレイキットを用いて、培養の1日目および3日目に回収した上清からサイトカインの量を測定する。さらに、ELISAキットを用いて活性かつ潜在性TGF−βを測定する。IL−2、IL−4、IL−6、IFN−γおよび腫瘍壊死因子(TNF)の測定のために培養1日目および3日目に回収した上清からサイトカイン量を測定し、サイトカインを測定するためのサイトカインビーズアレイキットおよびELISAキットを用いて活性かつ潜在性TGF−βを測定する。
【0122】
実施例9:メチル化状態の評価
COBRA(組合せ亜硫酸水素塩制限分析)と呼ばれる手法を用いて、最初にメチル化状態を測定する。この方法は、亜硫酸水素塩処理と目的の遺伝子の特定の部位のPCR増幅を組み合わせている。ヒトでの試験について、焦点はアンプリコン5にある。パラレル試験を行って、マウス未処理CD4+脾臓細胞を用いてnTregの特徴を有するiTregを作成するアザシチジンを含む制御組成物の能力を試験する。
【0123】
実施例10:アザシチジン産生iTregの安定性およびホメオスタシス特性の評価
この評価はGFP−FOXP3融合タンパク質を発現するように操作されたマウスを用いる。細胞ソートによって単離されたCD4+GFP−細胞を、アザシチジンを含む制御組成物の存在下または非存在下、およびアザシチジンとレチノイン酸を含む制御組成物の存在下で刺激する。刺激も、TGF−βを含むおよび含まない制御組成物で試験する。制御組成物またはTGF−βの存在下での刺激は、FOXP3発現を誘導する。精製したFOXP3+細胞集団は、細胞ソートによって単離する。ポジティブコントロールとして、nTregも新鮮な脾臓およびリンパ節からソートする。iTregおよびnTreg細胞はいずれも(5 × 106個)をコンジェニックCD45.1−マウスに注射する。アザシチジン産生iTregについて、1集団あたり3〜4匹のマウスが十分な細胞を有する。nTregについて、1集団あたり少なくとも2匹のマウスが存在する。いくつかの実験において、nTregは十分な数の細胞を得られるように培養物中で拡張される。注射の前に、CD103(皮膚および腸)、CD62L(リンパ節)およびCXCR4(骨髄)のようなケモカイン/ホーミングレセプターの発現について多様な集団をアッセイする。
【0124】
相対的に早い(7日目)および遅い(21日目)時点で評価を行う。マウスを殺し、FOXP3+およびFOXP3−細胞であるCD45.1+細胞の数を多様な臓器(血液、リンパ節、脾臓および骨髄)で測定する。アザシチジンおよび/またはレチノイン酸(TGF−βありまたはなしで)を含む制御組成物で作成した細胞が、典型的にはそれらのFOXP3発現を維持するnTregと同様にふるまうかを決定する。
【0125】
実施例11:自己免疫疾患に有利に影響する、アザシチジンを用いて作成したiTregの能力の評価
関節炎のK/BxNマウスモデルを使用する。最初のステップは組織適合性の非トランスジェニックC57Bl/6 x NOD(BxN)マウスからiTregを作成することである。未処理のCD4+細胞を濃度範囲1×106 〜 10×106個で、3〜5週齢K/BxNマウスに静脈内注射する。3週齢マウスでの実験は、疾患発生に対するiTregの効果を示すが、5週齢マウスでの実験は、確立された疾患に対するiTregの効果を示す。疾患の臨床的重症度は、次のとおりスコアを付ける:0、正常;1、わずかな紅斑と足中部(足根)または足首関節に限定された軽度の腫脹;2、紅斑および足首から足中部に拡大した軽度の腫脹;3、紅斑および足首から中足骨間接に拡大した中度の腫脹、ならびに4、強い紅斑および足首、足および指を含む重度の腫脹。全後肢に等級を付けると、マウスあたり8で最大臨床スコアが得られ、所定の日における平均関節炎指数として表す。1つ以上の肢がスコア>2を有するとき、マウスを関節炎と評価する。各後肢の足首の周辺をノギスで測定する。
【0126】
かかるマウスモデルにおいて、常套の方法に従って(すなわち、TGF−βと所望によりIL−2のような1種以上の他のサイトカイン類を含む制御組成物を用いて)作成したiTregの効果を、アザシチジンと所望によりレチノイン酸および/またはTGF−βおよびIL−2を含む1種以上のサイトカイン類を含む制御組成物を含む、本明細書に記載の制御組成物を用いて作成したiTregの効果と比較する。
【0127】
BxNマウスからのアザシチジン産生iTregが治療効率が示されると、次いでK/BxNマウスからの細胞が同様に機能し得るのかを決定する。関節炎発症前および後のマウスから単離した細胞を、疾患の改善についてのそれらの能力について試験する。確立された疾患を有するマウスから未処理のCD4+細胞を単離して、この手法が臨床的状況において使用されるときに存在するであろう状況を模倣できる。
【0128】
アザシチジン産生iTregで処置したマウスに加え、該試験はまた、新鮮な未処理のCD4+細胞を注射したマウスおよびアザシチジンとレチノイン酸の非存在下で作成されたiTregを注射したマウスを含む。この比較の理由は、ホメオスタシス増殖の阻害に寄与するものと、本当の制御効果を区別するためである。
【0129】
上記プロトコルは、コラーゲン誘導性関節炎の動物モデルにおいて、アザシチジン、TGF−β、IL−2、レチノイン酸、トリコスタチンAおよびこれらの物質の2種以上の組合せを含む制御組成物の効果を試験するために用いてもよい。
【0130】
本明細書は、ここに記載の技術の例示的局面における方法論、システムおよび/または構造およびそれらの使用の完全な説明を提供する。この技術の多様な局面が、ある程度の特殊性によって、または1つ以上の個々の局面についての記載をもって説明されているが、当業者はその技術の精神または範囲から離れることなく、開示された局面に多様な変更を加えることができる。多くの局面がここに記載の技術の精神および範囲から離れることなく行い得るが、適切な範囲を添付の特許請求の範囲に示す。したがって、他の局面が意図される。さらに、異なることが明示的に記載されていないか、あるいは請求項の記載から特定の順序が本質的に必要とされていない限り、いずれかの操作を任意の順序で行うことができると理解されるべきである。上記説明に含まれ、添付の図面に示される全ての事柄は、具体的な局面の説明のみと理解されるべきであり、示された態様に限定しないことを意図する。異なることが文脈から明らかであるか、あるいは明示的に述べられていない限り、本明細書に提供されるいずれかの濃度の値は、一般に、混合物の特定の成分の添加によってまたはその後に生じる何らかの換算を考慮せずに、混合物の値またはパーセンテージとして与えられる。既に明示的に本明細書中に組み込まれていない程度に、本明細書において言及した全ての公表文献および特許明細書は、それらの全体において、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込む。詳細または構造の変化は、添付の特許請求の範囲に定義の本技術の基本的な要素から離れることなく、行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御性T細胞(Treg)を作成する方法であって、転写因子をコードする遺伝子のメチル化を防止する物質を含む制御組成物で、非制御性T細胞を含む細胞培養物を処理することを含む方法。
【請求項2】
物質がメチルトランスフェラーゼ阻害剤である、請求項1の方法。
【請求項3】
メチルトランスフェラーゼ阻害剤がアザシチジンである、請求項2の方法。
【請求項4】
制御組成物がさらにサイトカインを含む、請求項2の方法。
【請求項5】
サイトカインがTGF−βである、請求項4の方法。
【請求項6】
制御組成物がさらにT細胞分化を加速する物質を含む、請求項2の方法。
【請求項7】
T細胞分化を加速する物質がレチノイン酸である、請求項6の方法。
【請求項8】
制御組成物がさらにヒストンデアセチラーゼ阻害剤である物質を含む、請求項2の方法。
【請求項9】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項8の方法。
【請求項10】
細胞培養物の処理が、培養の開始時に制御組成物を加えることを含む、請求項1の方法。
【請求項11】
培養の開始時での制御組成物の添加に次ぐ第二の時点で、細胞培養物に物質を加えることをさらに含む、請求項10の方法。
【請求項12】
物質が下記から選択されるメンバーである、請求項11の方法:アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンA、TGF−β、IL−2、抗CD3、抗CD28およびそれらの組合せ。
【請求項13】
細胞培養物の処理が、培養の開始後に制御組成物を加えることを含む、請求項1の方法。
【請求項14】
細胞培養物が、制御組成物による処理の後約1週間維持される、請求項1の方法。
【請求項15】
患者における異常な免疫応答または自己免疫疾患を処置する方法であって、制御性T細胞を該患者に投与することを含み、ここで該制御性T細胞は、アザシチジン、レチノイン酸、トリコスタチンAおよびそれらの組合せから選択されるメンバーを含む制御組成物で非制御性T細胞を含む細胞培養物を処理して作成される、方法。
【請求項16】
制御組成物がさらにTGF−βを含む、請求項15の方法。
【請求項17】
制御組成物がさらにIL−2を含む、請求項16の方法。
【請求項18】
制御組成物がさらにT細胞アクチベーターを含む、請求項17の方法。
【請求項19】
細胞培養物が制御組成物による処理の前に、それと同時にまたはその後に、T細胞アクチベーターで刺激される、請求項15の方法。
【請求項20】
T細胞アクチベーターが抗CD3、抗CD28または抗CD3と抗CD28の組合せである、請求項19の方法。
【請求項21】
制御性T細胞(Treg)を作成する方法であって、T細胞のTregへの分化を加速する物質を含む制御組成物で非制御性T細胞を含む細胞培養物を処理することを含む、方法。
【請求項22】
T細胞の分化を加速する物質がレチノイン酸である、請求項21の方法。
【請求項23】
制御組成物がさらに、IL−2、TGF−βおよびIL−2とTGF−βの組合せから選択されるメンバーを含む、請求項22の方法。
【請求項24】
制御組成物がさらにメチルトランスフェラーゼ阻害剤を含む、請求項23の方法。
【請求項25】
制御組成物がさらにヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含む、請求項24の方法。
【請求項26】
メチルトランスフェラーゼ阻害剤がアザシチジンであり、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAおよびレチノイン酸から選択されるメンバーである、請求項25の方法。
【請求項27】
制御組成物がさらに少なくとも1種のT細胞アクチベーターを含む、請求項18の方法。
【請求項28】
以下のものを含んでなる組成物:
a. 細胞培養培地;
b. アザシチジン;
c. レチノイン酸;
d. 少なくとも1個の未処理CD4+細胞を含むT細胞集団。
【請求項29】
T細胞集団がさらに、少なくとも1個の誘導性制御性T細胞を含む、請求項20の組成物。
【請求項30】
少なくとも1個の誘導性制御性T細胞がサプレッサーT細胞である、請求項21の組成物。
【請求項31】
さらにトリコスタチンAを含む、請求項28の組成物。
【請求項32】
以下のものを含んでなるキット:
a. アザシチジン、レチノイン酸およびアザシチジンとレチノイン酸の組合せから選択されるメンバーを含む、制御組成物;
b. 細胞処理容器;
c. キットの使用のための指示書。
【請求項33】
制御組成物がさらに、TGF−β、IL−2またはTGF−βとIL−2の組合せを含む、請求項32のキット。
【請求項34】
制御組成物がさらにトリコスタチンAを含む、請求項33のキット。
【請求項35】
細胞処理容器が白血球フェレーシス装置への取り付けに適合するポートを含む、請求項32のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−519271(P2011−519271A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504202(P2011−504202)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/040190
【国際公開番号】WO2009/126877
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(508230226)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (8)
【Fターム(参考)】