説明

エステル交換油の精製方法

【課題】一連の工程で効率よく、エステル交換油の精製処理を行うことができ、しかも、精製処理されたエステル交換油の酸化安定性の低下などの問題や色調の問題も有効に解決されたエステル交換油の精製方法を提供する。
【解決手段】動植物性油脂のエステル交換油に水を、エステル交換油100重量部当り、0.30乃至5.0重量部の量で添加混合し、次いで脱水した後、吸着剤を添加しての脱色処理を行なった後、ろ過を行い、該エステル交換油中に含まれる石ケン類、アルカリ触媒及び脱色処理後の吸着剤を除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換油の精製方法に関するものであり、より詳細には、油脂を分子内或いは分子間でエステル交換して油脂の改質を行なう際に、生成したエステル交換油を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂の化学的改質加工技術として、油脂の分子内或いは分子間でエステル交換せしめ、脂肪酸の組み換えによって油脂を改質する技術は、水素添加による改質技術と並んで広く利用されており、例えば食用油の製造などに適用されている。
【0003】
上記のような改質によって生成するエステル交換油は、一般に着色しているばかりか、触媒残渣や副生する石ケン類を除去する必要があり、このために、各種の吸着剤を用いての脱色処理等が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、動植物性油脂をエステル交換した後、直ちに水を添加し、触媒の不活性化と副生した石ケン類を水和物として遊離をはかり、遠心分離ないしはろ過により石ケン類を除去し、次いで水洗によってエステル交換油中の残存石ケン類を除去することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、エステル交換油に対して、水を3%添加して石ケン類を水和物として遊離せしめた後、遠心分離によって石ケン類を除去し、次いで水洗を行った後に、吸着剤を用いての脱色処理を行うことが開示されている。
【特許文献1】特公昭57−61797号公報(第1頁第1欄下から2行乃至第2欄6行)
【特許文献2】特公昭53−38084号公報(第3頁第6欄2行乃至9行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載されているように、水を添加して石ケン類を遊離させた後に、遠心分離により石ケン類を除去し、次いで水洗を行った後、吸着剤を用いての脱色を行なう方法は、石ケン類による吸着剤の吸着性低下を有効に防止できるという利点は認められる。しかしながら、前記の方法では、石ケン類を除去するために遠心分離器に処理液を導入しなければならず、処理を一連の工程で行うことができず、処理効率が著しく低いという欠点がある。更に、エステル交換油中の石ケン類は、遠心分離だけでは完全に除去できず、遠心分離後の処理液は水洗を行うことが必要であるという欠点もある。
また、遠心分離を行わずに、水洗だけで遊離した石ケン類を除去するときには、大量の水が必要となり、やはり生産効率が低い。
【0007】
また、現在では、エステル交換油にクエン酸等の無機酸乃至有機酸の水溶液を添加することにより、エステル交換油中に副生物として含まれる石ケン類とアルカリ触媒を脂肪酸と無機酸乃至有機酸の塩とに転換せしめ、脱水することにより、無機酸乃至有機酸塩の結晶を析出させ、この状態で、吸着剤を用いての脱色処理を行うことも行なわれているが、この方法では石ケン類とともに析出した着色成分が再び油溶化することで、油の色調が悪くなり、かつ後工程の吸着剤での除去が困難となり、脱色処理後の色調が悪くなるという問題がある。また、この結果、酸化安定性などの特性も低下するものと考えられている。
【0008】
従って、本発明は、一連の工程で効率よく、エステル交換油の精製処理を行うことができ、しかも、精製処理されたエステル交換油の酸化安定性の低下などの問題や色調の問題も有効に解決されたエステル交換油の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、動植物性油脂のエステル交換油に水を、エステル交換油100重量部当り、0.30乃至5.0重量部の量で添加混合し、次いで脱水した後、吸着剤を添加しての脱色処理を行なった後、ろ過を行い、該エステル交換油中に含まれる石ケン類、アルカリ触媒及び脱色処理後の吸着剤を除去することを特徴とするエステル交換油の精製方法が提供される。
【0010】
本発明においては、
(1)前記水を、エステル交換油100重量部当り、0.50乃至2.5重量部の量で添加すること、
(2)前記水の添加混合を、30乃至80℃の温度に加熱しながら行うこと、
(3)前記吸着剤が、活性白土またはシリカ・マグネシアから選ばれる少なくとも1種を用いること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、吸着剤の脱色処理やその後のろ過などは、公知の方法と同様にして行うことができるが、吸着剤を用いての脱色処理に先立って、処理すべきエステル交換油に水を添加し、次いで添加した水を脱水して除去することが重要な特徴である。即ち、一旦、水を添加した後、この水を脱水して除去することは、全く無駄な工程のように思えるが、このような水の添加及び脱水により、エステル交換油中に副生物として含まれる石ケン類が凝集して大きな粒子に成長し、この結果、石ケン類を除去せずにそのまま吸着剤による脱色処理を行った場合でも、石ケン類が吸着剤の細孔中に捕捉されず、従って、吸着剤の吸着性能の低下が有効に防止され、吸着剤による脱色を効果的に行うことが可能となる。また、石ケン類は、粗大粒子化するため、ろ過性を低下させることがなく、脱色後のろ過によって処理後の吸着剤と共に容易に分離することができる。
【0012】
しかも、本発明において、水は水洗による石ケン類等の水溶性成分の除去に使用するものではないため、添加する水の量は少量でよく、処理すべきエステル交換油100重量部当り0.30乃至5.0重量部、特に0.50乃至2.5重量部程度である。従って、大量の水を使用する水洗とは全く異なり、格別の水処理施設も不必要であるばかりでなく、その脱水も、同一バッチでの減圧下での加熱により容易に行うことができるため、水の添加、脱水、吸着剤による脱色、及びろ過からなる一連の工程を、同一バッチで行なうことができる。このことから理解されるように、本発明の精製処理は、極めて生産効率が高い。
【0013】
さらに、本発明においては、精製されたエステル交換油の酸化安定性等の低下や着色の問題も有効に防止できる。即ち、本発明では、石ケン類は、粒子が成長するのみで、着色成分を含んだ石ケン類を中和し、再び油溶化することなどの反応を伴わない。従って、この着色成分を含有した石ケン類の油溶化などに伴う酸化安定性の低下や色調の問題を生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<エステル交換油>
本発明の精製方法に供するエステル交換油は、脂肪酸とグリセリンを主成分とする動植物油をそれ自体公知のエステル交換反応に供することにより得られるものであり、このようなエステル交換反応によるアシル基の交換によって、各種物性が改質され、特に食用油の改質などに広く適用されている。
【0015】
エステル交換反応に供する動植物油は、特に制限されるものではないが、植物油の例として、サフラワー油、大豆油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、綿実油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、ヒマシ油、亜麻仁油、オリーブ油、桐油、椿油、落花生油、カポック油、カカオ油、木蝋、ヒマワリ油、コーン油などを例示することができ、動物油としては、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、羊脂、牛脚脂などを例示することができる。
【0016】
上記の動植物油のエステル交換反応は、アルカリ触媒、例えばナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルコキシド等が使用されるが、エステル交換反応に先立って、動植物油を脱酸、脱水し、例えば遊離脂肪酸を0.2重量%以下、水分濃度を100ppm以下に調整しておくことが必要である。即ち、遊離脂肪酸や水分が存在していると、アルカリ触媒が失活してしまうからである。かかる脱水は、減圧下での加熱により容易に行うことができる。
【0017】
上記のように脱酸、脱水処理された動植物油にアルカリ触媒を添加してエステル交換反応が行われるが、アルカリ触媒の添加量は、一般に油脂100重量部当り0.1乃至0.5重量部程度である。
【0018】
また、アルカリ触媒を添加してのエステル交換反応には、油脂の分子内或いは分子間での脂肪酸の交換によるもの(一般に食用油の製造に適用されている)、メタノール、エタノール等の低級アルコールを添加して置換反応(アルコーリシス)によるもの(一般にバイオ燃料の製造に適用されている)、ステアリン酸等の脂肪酸を添加しての置換反応(アシドリシス)によるものがあり、何れのエステル交換反応によってエステル交換油を製造してもよい。従って、分子内或いは分子間での脂肪酸の交換によるエステル交換反応では、アルカリ触媒を添加した後、そのままエステル交換反応が行われる。
【0019】
上記のようなエステル交換反応は、一般に、常圧下で50乃至90℃程度の温度に加熱攪拌することにより行われ、反応時間は、交換反応の形態などによっても異なるが、一般には、10乃至60分間程度である。
【0020】
<精製処理>
上記のようにして得られるエステル交換油は、触媒残渣や副生物である石ケン類(脂肪酸のアルカリ金属塩)を含有しており、また、出発原料の動植物油に含まれている色素などの着色成分を含有している。従って、本発明の精製処理によってこれらの不純物成分を除去するものである。
【0021】
ところで、この精製処理は、吸着剤を用いての脱色処理及びろ過を主体とするものであるが、本発明においては、これらの処理に先立って、先ず水を添加混合し、次いで脱水を行う。この水の添加混合及び脱水は、エステル交換油中に含まれる石ケン類を粗大粒子化するために行われるものである。即ち、後述する吸着剤による脱色処理を行う場合、石ケン類が存在していると、この石ケン類が吸着剤の吸着サイトである細孔内に吸着保持されてしまい、細孔を閉塞してしまう結果、吸着剤の吸着性を著しく低下させてしまう。しかるに、石ケン類を粗大粒子化させておくことにより、石ケン類が吸着剤の細孔内へ侵入することが効果的に防止され、石ケン類による吸着剤の吸着性能の低下を有効に回避することができる。しかも、この石ケン類は、粗大粒子化しているため、その後のろ過により、容易に分離することができる。
【0022】
水の添加混合及び脱水による石ケン類の粗大粒子化は、次のような原理によるものである。即ち、水の添加混合により、水親和性の石ケン類分子は、添加された水に捕捉され、多数の石ケン類分子が水に懸濁した状態となる。この状態で脱水を行うことにより、石ケン類分子は多数の分子が凝集した状態で析出し、石ケン類の粗大粒子が生成することとなるわけである。
【0023】
本発明において、水の添加量は、水洗による石ケン類の除去などとは異なり、極めて少量でよく、エステル交換油100重量部当り、0.30乃至5.0重量部、特に0.50乃至2.5重量部の範囲が好適である。この範囲よりも多量に添加すると、含有する石ケン類が乳化剤として働くことで、エステル交換油がエマルジョン化の傾向を示し、油脂の加水分解を促進させるおそれがある。また、脱水に時間がかかることから、生産効率やエネルギー消費の面で適当ではない。一方、水の添加量が少なすぎると、石ケン類の粗大粒子化が不十分となり、石ケン類による吸着剤の性能低下を十分に抑制することが困難となるばかりか、ろ過による分離も困難となるおそれがある。
【0024】
また、石ケン類の粗大粒子化を効果的に行うために、水は、緩やかな攪拌下で徐々に添加して混合し、エステル交換油中に含まれる石ケン類に水を十分に接触させ、石ケン類の全量を水に懸濁させるようにするのがよい。例えば、水を一気に添加し且つ激しく攪拌すると、エステル交換油を抱き込んでのエマルジョンが形成し易くなってしまうからである。具体的な添加速度や攪拌条件等は、添加する水の量や処理を行う反応器の容量などに応じて適宜設定することができる。また、このような水の添加混合は、処理すべきエステル交換油を適宜加温して行うこともでき、例えば、30乃至80℃程度の温度に加温しながら水を添加混合することにより、混合時間を短縮することができる。一般に、上記範囲に加温しながら水を添加したとき、水の全量が添加された後の混合時間は、10乃至60分程度である。水の添加混合温度が30℃よりも低い場合は、水とエステル交換油との混合が困難で石ケン類が粗大粒子化しにくく、80℃よりも高い場合は、水がエステル交換油と接触する前に揮散し易くなってしまう。
【0025】
また、水の脱水は、加熱により行えばよく、特に短時間で脱水するために、減圧下で加熱して水を揮散させるのがよい。一般には、1.3kPa
abs.以下の圧力で50乃至80℃程度に加熱することにより行われ、このときの脱水処理時間は、30分程度で十分である。脱水処理の温度が、50℃よりも低い場合は脱水処理に時間が掛かってしまい、80℃よりも高い場合は精製した油の品質が低下してしまう。
【0026】
上記のようにして水の添加混合及び脱水が行われた後は、常法に従って吸着剤が添加され、脱色処理が行われる。例えば、吸着剤としては、従来からこの種の脱色処理に使用されているもの、例えば、活性炭、活性白土、シリカ・マグネシア、シリカなどが使用される。これらの内でも、活性白土またはシリカ・マグネシアが好適である。
【0027】
活性白土は、酸性白土やベントナイト等のスメクタイト系粘土を酸処理して得られるものであり、これらの粘土を硫酸や塩酸等の鉱酸溶液で処理して、含有する塩基性成分の一部を溶出せしめ、洗浄することによって調製される。この酸処理によって、本来酸性白土等が持っていた層状結晶構造の一部は破壊されるが、ケイ酸(SiO)の含有率は増加し、このことに伴って、比表面積は増大し、吸着能等の物性は向上する。特に好適に使用される活性白土は、原料粘土の種類や酸処理条件等によっても相違するが、一般に下記に示す組成を有する。
活性白土(酸性白土の酸処理物)の化学組成;
SiO:65.0〜83.0重量%
Al:5.0〜12.0重量%
Fe:1.0〜3.5重量%
MgO:1.0〜7.0重量%
CaO:0.5〜4.0重量%
O:0.2〜2.0重量%
NaO:0.2〜2.0重量%
Ig.loss:5.0〜10.0重量%
このような活性白土の中でも、特にBET比表面積が200乃至500m/g、細孔容積が0.3乃至0.6ml/g程度の範囲にあるものが優れた吸着性能(脱色性能)を有しており、本発明では好適に使用される。このような活性白土は、本出願人によりガレオンアースの商品名で市販されている。
【0028】
また、シリカ・マグネシアとしては、シリカ成分とマグネシア成分とを酸化物換算で0.1乃至50の量比(SiO/MgO)で含み、BET比表面積が100m/g以上、特に300m/g以上のものが好適であり、このようなシリカ・マグネシアは、本出願人よりミズカライフの商品名で市販されている。
【0029】
また、シリカとしては、BET比表面積が300m/g以上のものが好適であり、このようなシリカは、本出願人によりミズカソーブ
S−0の商品名で市販されている。
【0030】
上記のような吸着剤は、粉末乃至粒状物の形で添加混合され、色素等の着色成分が、微量に含まれる他の低分子量の不純物成分と共に有効に吸着され、これにより脱色が効果的に行われる。吸着剤の使用量は、その種類や比表面積、粒径等の物性によっても異なり、一概に規定することはできないが、一般に、無水物換算で、エステル交換油100重量部当り1.0乃至5.0重量部程度の範囲でよい。
【0031】
また、脱色処理は、上記の吸着剤とエステル交換油とを混合攪拌することにより行われるが、通常、効率よく、短時間で脱色処理を行うために、90乃至120℃程度の温度に加熱し且つ減圧下(一般に1.3kPa
abs.以下)で混合攪拌を行うことが好適であり、処理量や吸着剤の種類、量などによって異なるが、一般に10乃至30分間程度、混合攪拌を行えばよい。
尚、処理するエステル交換油中には、エステル交換に際しての副生成物である石ケン類が含まれているが、既に述べたように、この石ケン類は、先の工程で粗大粒子化されているため、石ケン類による吸着剤の性能低下は有効に回避されている。
【0032】
このようにして脱色処理が行われた後は、ろ過を行い、使用済みの吸着剤を分離することにより、精製されたエステル交換油を得ることができる。石ケン類は粗大粒子化しているため、また、他の不純物成分も吸着剤に吸着保持されているため、このろ過によって吸着剤と共に、精製されたエステル交換油とは確実に分離されることとなる。
尚、ろ過は、ろ紙やろ布などを用いてそれ自体公知の手段で行うことができるし、またフィルタープレス、ベルトフィルター、オリバーフィルター、アメリカンフィルター、遠心ろ過機などの内で任意のろ過機を用いて行うことができる。
【0033】
このような本発明による精製方法によれば、例えば石ケン類の分解による脂肪酸などを生成させずに処理が行われるため、精製されたエステル交換油の着色は有効に回避されており、また、耐酸化安定性も高く、例えば、得られる精製エステル交換油は、大量の水を用いての水洗により石ケン類を除去した後に吸着剤による脱色処理を行った場合と同等の特性を有している。
【0034】
また、大量の水を用いての水洗を行っていないため、水処理による負荷が極めて少なく、更には、遠心分離などによる石ケン類の除去を中間で行っておらず、最後のろ過により使用済みの吸着剤と共に石ケン類を除去しており、しかも抽出分離なども行う必要がないため、エステル交換からろ過までを一連の工程で、例えばワンバッチで行うことができ、生産効率が極めて高く、従来、行われていた方法に比して著しく短時間で精製を行うことができ、工業的に極めて有利である。
本発明は、特に食用油の製造に有効に適用される。
【実施例】
【0035】
本発明を、以下の実施例(実験例)を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等制限されるものではない。なお、実施例で行った試験方法は以下の通りである。また、例中に示す部数は全てエステル交換油100重量部当りの重量部である。
【0036】
(1)濾過性評価
下記に示す条件で濾過性試験を行った。
脱色油量:200g
使用ロート:φ7.0cm(濾過面積38.5cm
吸引圧:21.3kPa abs.
濾過時間の測定:脱色油の注入開始から濾過ケーキ中の油が切れるまでの時間を測定
した。
濾過性の評価基準:
10分以下;良好
10〜30分;やや悪い
30分以上;悪い
【0037】
(2)色調評価
油の色調は基準油脂分析試験法(2.2.1.1−1996)記載のロビボンド法に準拠し、R値とY値を測定した。表には10R+Yの値で示した。尚、ガラスセルは51/4インチを使用した。
【0038】
(3)油中石ケン量
油中石ケン量は、基準油脂分析試験法(2.6.2−1996)に準拠し測定した。
【0039】
(4)酸化安定性試験
酸化安定性は基準油脂分析試験法(2.5.1.2−1996)のCDM試験に準拠して測定した。尚、油の加熱温度は120℃で行った。
【0040】
(実験例1)
RBD(Refined Bleached Deodorized)パーム油200gに触媒としてナトリウムメトキシド(試薬一級:和光純薬製)を0.15部添加し、公知の方法によりエステル交換した。温度80℃下エステル交換油にイオン交換水を1部添加し、10分間混合した。次に、真空度約0.67kPaの減圧下で80℃、30分間脱水し、懸濁物質(着色成分を含む石ケン類)を粗大粒子化させたのち、活性白土(水澤化学工業製:ガレオンアースV2)を3.0部添加し、真空度約0.67kPaの減圧下100℃、15分間、脱色処理をして、固形分を濾過により除去し脱色油を得た。
この脱色油180gを230℃、2時間、真空度0.67kPa以下の減圧下で水蒸気脱臭処理を行い、精製油を得た。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0041】
(実験例2)
脱色に用いる活性白土をシリカ・マグネシア(水澤化学工業製:ミズカライフF−1G;SiO/MgO質量比=2.03、BET比表面積720m/g)とした以外は、実験例1と同様に行った。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0042】
(実験例3)
水の添加温度を50℃、混合時間を30分にし、また、脱色に用いる活性白土をシリカ(水澤化学工業製:ミズカソーブS−0;BET比表面積550m/g)とした以外は、実験例1と同様に行った。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0043】
(実験例4)
エステル交換油に添加するイオン交換水を0.25部とした以外は、実験例1と同様に行った。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0044】
(実験例5)
エステル交換油に添加するイオン交換水を0.50部とした以外は、実験例1と同様に行った。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0045】
(実験例6)
エステル交換油に添加するイオン交換水を2.5部とした以外は、実験例1と同様に行った。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0046】
(実験例7)
エステル交換油に添加するイオン交換水を5.0部とした以外は、実験例1と同様に行った。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0047】
(実験例8)
エステル交換油に添加するイオン交換水を6.0部とした以外は、実験例1と同様に行ったところ、水を添加し混合することで油の色調が変化しエマルジョン化の傾向を示した。また、脱水時間が非常に長くなる結果となった。
【0048】
(実験例9)
RBDパーム油200gに触媒としてナトリウムメトキシドを0.15部添加して、公知の方法によりエステル交換した。エステル交換油を50℃とし、同量の50℃温水を注加し、温水洗浄を行った。上層の水洗油を回収後、再び同量の温水を注加し2回目の温水洗浄を行った。回収した水洗油は実験例1と同様に脱色、脱臭処理を行い、精製油を得た。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0049】
(実験例10)
RBDパーム油200gに触媒としてナトリウムメトキシドを0.15部添加して、公知の方法によりエステル交換した。エステル交換油を80℃とし、反応に供したナトリウムメトキシドの化学当量分の1.3倍量のクエン酸を10%クエン酸水溶液として添加し、30分間の中和処理を行った。次に真空度0.67kPaの減圧下で80℃、30分間脱水を行ったのち、実験例1と同様の脱色、脱臭処理をして精製油を得た。この精製油について、前述した各種試験を行い、結果を表1に示す。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物性油脂のエステル交換油に水を、エステル交換油100重量部当り、0.30乃至5.0重量部の量で添加混合し、次いで脱水した後、吸着剤を添加しての脱色処理を行なった後、ろ過を行い、該エステル交換油中に含まれる石ケン類、アルカリ触媒及び脱色処理後の吸着剤を除去することを特徴とするエステル交換油の精製方法。
【請求項2】
前記水を、エステル交換油100重量部当り、0.50乃至2.5重量部の量で添加する請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記混合を、30乃至80℃の温度に加熱しながら行うことを特徴とする請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、活性白土またはシリカ・マグネシアから選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の精製方法。

【公開番号】特開2010−31190(P2010−31190A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197352(P2008−197352)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【特許番号】特許第4249250号(P4249250)
【特許公報発行日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】