説明

エタノールの製造方法及びその製造施設

【課題】 わが国で商業的なエタノール生産を行うにあたって継続的に原料調達が可能であり、かつ、エタノール生産における副産物である二酸化炭素を有効活用するとともに、副産物である残渣物から付加価値の高い食品素材を製造することが可能なエタノールの生産方法及びその製造施設を提供する。
【解決手段】 原料の外皮を取り除く穀物調製加工工程と、前記外皮を取り除いた原料に麹菌を接種して糖化させるとともに、酵母を添加してアルコール発酵させてエタノールを生産するエタノール製造工程と、前記穀物調製加工工程で生じた外皮を、前記エタノール製造工程で生産されたエタノール又は二酸化炭素を利用して機能性成分を抽出する機能性食品製造工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールの製造方法及びその製造施設に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的材料からエタノールを製造する方法は周知であり、例えば、出発原料として、トウモロコシ等デンプン質が容易に糖化され得る材料を用い、この出発原料に醸造イースト菌等を添加してデンプン質を糖化・発酵処理し、次いで、発酵液を蒸留処理して水を分離するとエタノールが得られる。この際、副産物として二酸化炭素及び残渣物が生じるが、該二酸化炭素を単に大気に逃がすのではなく、再利用して工業用メタノール、アセチレン及びベンゼンを合成して有効活用する一方、残渣物については、動物飼料の補足物又は肥料として再利用する技術がある(特許文献1参照)。
【0003】
上記出発原料に着目すると、わが国で作付けされている食用の穀物(米、小麦、大豆、サトウキビ等)を出発原料としてエタノールを製造することは、原料コストが非常に高いことと、残渣物から得られる動物飼料や植物肥料等が循環資源として再利用できるものの、ただ同然で取引されているために付加価値が低いという理由により、採算が合わず非現実的であった。したがって、出発原料としては、高価なデンプン質含有穀物を使用するのではなく、廃木材等のセルロース系廃棄物を用いると、経済的にも安く生産することができる。
【0004】
しかしながら、上記廃木材等のセルロース系廃棄物を用いることについても、現在、研究開発段階であり、また、わが国で商業的なエタノール生産を行うにあたって継続的に原料調達が可能であるか等の問題点がある。
【特許文献1】特表昭56−501311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点にかんがみ、わが国で商業的なエタノール生産を行うにあたって継続的に原料調達が可能であり、かつ、エタノール生産における副産物である二酸化炭素を有効活用するとともに、副産物である残渣物から付加価値の高い食品素材を製造することが可能なエタノールの生産方法及びその製造施設を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、穀物を原料として用いてエタノールを製造する方法において、前記原料の外皮を取り除く穀物調製加工工程と、前記外皮を取り除いた原料に麹菌を接種して糖化させるとともに、酵母を添加してアルコール発酵させてエタノールを生産するエタノール製造工程と、前記穀物調製加工工程で生じた外皮を、前記エタノール製造工程で生産されたエタノール又は二酸化炭素を利用して機能性成分を抽出する機能性食品製造工程と、を備えるという技術的手段を講じた。
【0007】
また、前記穀物調製加工工程と前記エタノール製造工程との間に、該エタノール製造工程で生産された二酸化炭素を利用して前記原料に付着した胚芽を取り分ける脱芽工程を備えるとよい。
【0008】
さらに、前記穀物調製加工工程で生じた外皮を利用してガス化発電を行うガス化発電工程を備えるとよい。
【0009】
そして、前記ガス化発電工程で発電した電気を前記穀物調製加工工程、エタノール製造工程、機能性食品製造工程及び脱芽工程にそれぞれ送電するとともに、前記ガス化発電工程で生じた排熱を、前記脱芽工程及び/又は前記エタノール製造工程で使用する熱源に利用するとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエタノールの製造方法によれば、穀物、特に、わが国で一番生産量の多い米を用いてエタノールを製造することができるので、商業的なエタノール生産を行うにあたって継続的に原料調達が可能となる。また、外皮を取り除いた原料を用いてエタノールを製造するので、不純物が少なく高濃度のエタノールを製造することが可能であり、しかも、原料から取り除いた外皮と、エタノール製造工程で生産されたエタノール又は二酸化炭素とにより、機能性成分を抽出して付加価値の高い食品素材を製造することが可能であり、エタノールを生産する際の採算性が飛躍的に向上する。
【0011】
また、前記穀物調製加工工程と前記エタノール製造工程との間に、該エタノール製造工程で生産された二酸化炭素を利用して前記原料に付着した胚芽を取り分ける脱芽工程を備えているから、前記機能性食品製造工程において、該脱芽工程で取り分けた胚芽から機能性成分を抽出して付加価値の高い機能性成分を加工する一方、前記穀物調製工程で取り分けた糠から一般的な食品用粉末を加工することができる。
【0012】
さらに、前記穀物調製加工工程で生じた外皮を利用してガス化発電を行うガス化発電工程を備え、該ガス化発電工程で発電した電気を前記穀物調製加工工程、エタノール製造工程、機能性食品製造工程及び脱芽工程にそれぞれ送電するとともに、前記ガス化発電工程で生じた排熱を、前記脱芽工程及び/又は前記エタノール製造工程で使用する熱源に利用して、外皮を循環資源として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のエタノールの製造方法は、出発原料として米が用いられる。米は高価なデンプン質含有材料であるが、わが国で一番生産量の多い穀物であり、商業的なエタノール生産を行うにあたって継続的に原料調達が可能である。また、原料の仕入れ単価を考慮するならば、カドミウム等の重金属汚染米を使用することも考えられる。国産米(玄米)のカドミウム含有量は、食品衛生法によって基準値が1.0ppm未満と規定されており、この基準値を上回れば焼却処分されて市場に流通しない。しかし、安全性に問題はなくとも消費者への配慮から食糧庁が買い入れて、非常用備蓄米とする基準があり、この基準値は0.4ppm以上、1.0ppm未満である。この非常用備蓄米は平成11年から平成15年までの1年平均で約2,300トンの量があり、一部を工業用糊として加工処理されているが、多くが未利用のまま在庫保管されている状況にある。この在庫保管米を精製してカドミウムを除去し、エタノール製造の出発原料とすれば経済的な問題なく原料を調達することができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明のエタノールの製造方法の工程を示すブロック図であり、図1を参照しながら本発明のエタノールの製造方法を説明する。
【0016】
図1の工程1は、大規模穀物乾燥調製貯蔵施設で代表される穀物調製加工工程であり、荷受された高水分の籾を、粗選、乾燥、貯留を行った後、籾摺機1に供給される。籾摺機1により原料籾が籾摺・精製されると、玄米は次工程の精米機2に供給され、副産物となる籾殻は工程6に供給される。本実施形態で使用する精米機2は、玄米に付着している胚芽を傷つけないよう、かつ、後工程の脱芽工程にて胚芽を脱落しやすくするため、ブラシロールによる研磨式精米機を使用するのが好ましい。また、精米機1の前工程には、玄米に対して2%重量の水を添加後、常温で5分間テンパリングを行う加水工程を設けるとよい。
【0017】
ブラシロールの仕様として、ブラシ素材がSUS304,ひねり線、線径が0.6mm、ブラシ長が25mmのものを使用した。これにより、通常の突起部を有する摩擦式精穀ロールに比べて、胚乳回収率が向上し、砕米発生率が減少することが分かった(下表参照)。
【表1】

【0018】
そして、前記精米機2により精米された胚芽米は、工程2に供給され、副産物となる糠は工程5に供給される。
【0019】
図1の工程2は、胚芽米から胚芽を取り分ける脱芽工程である。該脱芽工程では、まず、二酸化炭素で充填された加圧タンク3に胚芽米が投入される。該加圧タンク3には、例えば、液化二酸化炭素が送給されており、30気圧(3Mpa)で10分間二酸化炭素を浸透させる。次に、加圧タンク3から胚芽米を取り出して、100〜200℃の過熱水蒸気を0.5〜2秒間接触させる。その後、ピンミル4により衝撃を与えると、胚乳糊粉層と胚芽との細胞結合力が弱くなっているために容易に胚芽を脱落させることができる。そして、胚芽が除去された精白米は工程3に供給され、脱落した胚芽は工程5に供給される。
【0020】
図1の工程3は、エタノール製造工程である。精白米は、ローラーミル5により圧偏されて押しつぶされ、適宜な大きさに成型される。そして、押しつぶされた米は、まず、麹菌が投入されている発酵タンク6Aに供給され、次に、酵母が投入されている発酵タンク6Bに供給される。発酵タンク6A,6Bでは、アミラーゼを分泌する麹菌が米のデンプン質を溶かして糖化を行うとともに、酵母が糖化されたデンプン質を発酵してアルコールを生ずる働きをする。この製法に限らず、特殊な酵母を用いて、麹菌によりデンプン質を糖化する工程を省略することも可能である。発酵タンク6Bから取り出されたエキスは、エタノール含有アルコールであり、次の蒸留装置7に供給される。蒸留装置7では、加熱蒸気を利用することによって、エタノール含有アルコールを熱して蒸留処理を行い、高濃度のエタノールが得られ、工業用エタノール、燃料用エタノールとして提供される。
【0021】
図1の工程4は、前記穀物調製加工工程及び脱芽工程で生じた副産物から付加価値の高い健康食品等を製造するための機能性食品製造工程を示す。
【0022】
該機能性食品製造工程では、玄米から取り分けた糠及び胚芽がそれぞれ油回収機8A,8Bに供給される。該油回収機8A,8Bは圧搾式の搾油機でよく、米糠油や胚芽油を得ることができる。次に、搾油された米糠油、胚芽油及びそれらの搾り粕(かす)はそれぞれの精油装置9A,9Bに供給される。精油装置9A,9Bには、二酸化炭素が送給されており、該二酸化炭素の性状としては、液体状態又は超臨界状態のものを使用することができる。この二酸化炭素は脱脂用抽出溶剤と使用するもので、n-ヘキサンを使用しないので、無害であり、また、食品中に灯油様の臭いが付着することもない。脱脂用抽出溶媒としては、これらに限定されることなく、例えば、前記エタノール製造工程で得られたエタノールを使用することもできる。
【0023】
前記精油装置9A,9Bでは、米糠油及び胚芽油が得られ、これらは血液中のコレステロールを減少させるというγ-オリザノールが含有した健康食品、医薬品、化粧品、食品用油として提供される。一方、二酸化炭素により脱脂された搾り粕(かす)のうち、脱脂糠は微粉砕機10に、脱脂胚芽は機能性成分抽出機11にそれぞれ供給される。前記微粉砕機10により粉砕された脱脂糠は、配合飼料を主に、漬物等の食品用粉末、肥料等として提供される。機能性成分抽出機11に供給された脱脂胚芽は、酵素処理、エタノール抽出等によりγ-アミノ酪酸、フィチン酸、イノシトール、ビタミンB1といった機能性成分を抽出し、濃縮・乾燥・粉末化処理を経て、健康食品として提供される。
【0024】
図1の工程5は、前記発酵タンク6A,6Bの副産物である二酸化炭素を回収し、前記工程2及び工程4に供給して再利用するための炭酸ガス回収・再利用装置である。エタノールを製造する際に発生する二酸化炭素を、単に大気に逃がさずに再利用する技術として、化学薬品に転換する方法及び石油化学製品の生産に転換する方法は公知であるが、脱芽工程及び機能性食品製造工程で使用することは知られていない。
【0025】
図1の工程6は、前記穀物調製加工工程の副産物である籾殻を回収し、ガス化発電機12の燃料として用いるガス化発電工程である。該ガス化発電機12は前記工程1乃至工程5の電気をまかなうことが可能であり、また、発電に伴い発生する排熱は、前記脱芽工程の加圧タンク3及び前記エタノール製造工程の蒸留装置7において使用する熱源に利用することができ、籾殻を循環資源として再利用することができる。
【0026】
図2は本発明のエタノールの製造施設に適用される穀物乾燥調製施設の概略図である。穀物乾燥調製施設は、収穫された高水分の生籾を受け入れる荷受ホッパ13と、藁屑等の夾雑物を除去する粗選機14と、粗選された生籾を計量する計量機16と、生籾を一時貯蔵する貯蔵タンク19と、籾を乾燥する乾燥機22とにより主要部が構成される。符号26は間隙サイロであって、乾燥開始直後の籾をテンパリングするもので、籾が設定水分に乾燥されるまでは前記乾燥機22と該間隙サイロ26との間を循環しながらの乾燥が行われる。符号25は間隙サイロ26に併設された貯留サイロであって、籾が設定水分にまで乾燥された後に該貯留サイロ25に貯留されることになる。
【0027】
設定水分まで乾燥された籾は、搬出用コンベア27、切換弁28により貯留サイロ25から取り出され、籾摺調製工程に搬送される。籾摺調製工程には、前述の籾摺機1と揺動式の穀粒選別機29とが設けられている。籾摺機1に籾が供給されると、籾殻と玄米とに分離され、副産物となる籾殻は前記ガス化発電工程に供給される。一方、籾摺機1により摺り落とされた玄米と籾との混合物は揺動式選別機29に供給され、該揺動式選別機29において玄米と、籾と、籾と玄米の混合物とに選別される。選別後の玄米は次工程の精米機2に供給されるが、籾は籾摺機1に返還されて再籾摺りが行われ、混合物は揺動式選別機29に返還されて再選別が行われることになる。
【0028】
精米機2に供給された玄米は胚芽米と糠とに分離され、副産物の糠が前記機能性食品製造工程に供給され、胚芽米は次工程に至る。加圧タンク3及びピンミル4に供給された胚芽米は精白米と胚芽とに分離され、副産物の胚芽は前記機能性食品製造工程に供給され、精白米は前記エタノール製造工程に供給されることになる。
【実施例1】
【0029】
図1の穀物調製加工工程1及び脱芽工程2において、原料籾55トンを籾摺、精米、脱芽処理を行うと、精白米40トン、糠2.9トン、胚芽1.3トンが得られた。エタノール製造工程2において、精白米40トンを糖化・発酵・蒸留処理を行うと、エタノール17キロリットル、二酸化炭素13トンが得られた。機能性食品製造工程4において、糠2.9トン及び胚芽1.3トンを搾油・脱脂・精製処理を行うと、米糠油・胚芽油0.5トン、機能性成分0.3トン、食品用粉末3.7トンが得られた。
【0030】
機能性成分の粉末100グラムあたりの成分含有量は表2のようになった。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のエタノールの製造方法の工程を示すブロック図である。
【図2】本発明のエタノールの製造施設に適用される穀物乾燥調製施設の概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1 籾摺機
2 精米機
3 加圧タンク
4 ピンミル
5 ローラーミル
6 発酵タンク
7 蒸留装置
8 油回収機
9 精油装置
10 微粉砕機
11 機能性成分抽出機
12 ガス化発電機
13 荷受ホッパ
14 粗選機
15 揚穀機
16 計量機
17 揚穀機
18 搬入用コンベア
19 貯蔵タンク
20 排出用コンベア
21 揚穀機
22 乾燥機
23 揚穀機
24 搬入用コンベア
25 貯留サイロ
26 間隙サイロ
27 搬出用コンベア
28 切換弁
29 揺動選別機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物を原料として用いてエタノールを製造する方法において、
前記原料の外皮を取り除く穀物調製加工工程と、
前記外皮を取り除いた原料に麹菌を接種して糖化させるとともに、酵母を添加してアルコール発酵させてエタノールを生産するエタノール製造工程と、
前記穀物調製加工工程で生じた外皮を、前記エタノール製造工程で生産されたエタノール又は二酸化炭素を利用して機能性成分を抽出する機能性食品製造工程と、
を備えたことを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項2】
前記穀物調製加工工程と前記エタノール製造工程との間に、該エタノール製造工程で生産された二酸化炭素を利用して前記原料に付着した胚芽を取り分ける脱芽工程を備えてなる請求項1記載のエタノールの製造方法。
【請求項3】
前記穀物調製加工工程で生じた外皮を利用してガス化発電を行うガス化発電工程を備えてなる請求項1又は2記載のエタノールの製造方法。
【請求項4】
前記ガス化発電工程で発電した電気を前記穀物調製加工工程、エタノール製造工程、機能性食品製造工程及び脱芽工程にそれぞれ送電するとともに、前記ガス化発電工程で生じた排熱を、前記脱芽工程及び/又は前記エタノール製造工程で使用する熱源に利用してなる請求項3記載のエタノールの製造方法。
【請求項5】
荷受された高水分の籾を、粗選・乾燥・貯留を行った後、籾摺・精選して玄米に加工し、さらに精米を行って精白米に加工する穀物乾燥調製貯蔵施設内に、
前記精白米に麹菌を接種して糖化させるとともに、酵母を添加してアルコール発酵させた後、蒸留処理するエタノール製造装置と、
前記精白米から取り分けた外皮を圧搾し、圧搾後の搾り粕(かす)を脱脂処理して機能性成分を抽出する機能性食品製造装置と、
を備えたことを特徴とするエタノールの製造施設。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−325564(P2007−325564A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161198(P2006−161198)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】