説明

エタンの酸化的脱水素のための改良された方法

【課題】エチレンと一酸化炭素との混合物を製造する代替的触媒方法を提供する。
【解決手段】エタンおよび酸素源を、合成クリプトメレンまたは八面体分子ふるいを含む触媒と接触させて、エチレンと一酸化炭素との混合物を製造する方法。本方法はプロピオン酸アルキルをホルムアルデヒドと縮合させてメタクリル酸アルキルを製造することをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエタンおよび二酸化炭素からエチレンと一酸化炭素との混合物を製造する改良された蝕媒方法に関し、さらにエタンおよび二酸化炭素からプロピオン酸アルキルまたはメタクリル酸エステルを製造する様々な統合された(integrated)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンと一酸化炭素との混合物は、プロピオン酸誘導体へのエチレンのホモログ化(homologation)のための原料として使用される。例えば、エチレンをカルボニル化してプロピオン酸メチルを製造し、続いてホルムアルデヒドと縮合させることは、メタクリル酸メチルへの重要な商業的ルートである。例えば、米国特許第6,284,919号はエチレンをプロピオン酸メチルにカルボニル化する方法を開示する。この方法の第1工程においては、エチレン、COおよびメタノール供給物がプロピオン酸メチルに転化される。使用されるエチレンおよびCO供給物は、概して、水蒸気クラッキングおよびメタン水蒸気改質のような従来のソースからのものであろう。しかし、エチレンが相対的に高価な出発物質であることに起因する、これらのエチレン製造方法に関連する高コストのために、より経済的な代替法が必要とされている。出発物質として、天然ガスの1成分であるエタンを使用する方法は、エタンとエチレンとの間の大きな価格差のために、経済的に望ましいであろう。安価でふんだんに手に入る供給物を使用する、プロピオン酸メチルおよびメタクリル酸メチルのようなエステルの製造をもたらす統合された方法は高い価値があるであろう。さらに、エチレンおよび一酸化炭素供給物は、多くの場合、産業的に重要なヒドロホルミル化反応において、水素と化合される。オキソ反応としても知られているこの反応は、主として、オレフィンをアルデヒドおよびアルコールに転化するために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,284,919号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明により取り組まれる課題は、他の方法のための原料として好適な、エチレンと一酸化炭素との混合物を製造する代替的触媒方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エタンおよび二酸化炭素を、合成クリプトメレン(cryptomelane)または八面体分子ふるいを含む触媒と、少なくとも550℃の温度で接触させてエチレンおよび一酸化炭素を生じさせることにより、エチレンと一酸化炭素との混合物を製造する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
他に示されない限りは、パーセンテージは重量パーセンテージであり、温度は℃単位である。アルキル基は、1〜20の炭素原子を有する飽和ヒドロカルビル基であり、線状または分岐であってよい。好ましくは、アルキル基は、1〜8つの炭素原子、あるいは1〜4つの炭素原子、あるいは1もしくは2つの炭素原子、あるいは1つの炭素原子を有する。エチレンカルボニル化反応に使用されるアルコールは、ヒドロキシル基で置換された、先に定義されるようなアルキル基に対応する。
【0007】
本発明のある実施形態においては、エタンと二酸化炭素との反応に使用される触媒は合成クリプトメレン八面体分子ふるい(OMS)物質である。触媒構造体は、エッジおよび頂点で共有される2つの八面体MnO単位からなる2×2トンネル構造物質を含む。これらの物質は、トンネル部位内にカチオンを有することにより形成される電荷不均衡をもたらす混合原子価(mixed valent)である。本発明のOMS−2触媒の場合には、有用なカチオンには、限定されないが、Na、Li、Rb、CsおよびKが挙げられる。マンガンの混合原子価は半導電物質をもたらす。本発明の触媒反応においては、活性および選択性を向上させるために、触媒は遷移元素でさらに修飾されている。本明細書において使用される場合、「遷移元素で修飾されている」とは、当業者に周知の技術、限定されないが、例えば、初期含浸(incipient wetness)、共沈、蒸着およびイオン交換などを使用して、少なくとも1種の遷移元素または少なくとも1種の遷移元素の酸化物を担体に添加していることを意味する。本発明に有用な遷移元素には、限定されないが、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、V、Ti、CuおよびZnが挙げられる。本発明の遷移元素は、触媒の全重量を基準にして、0.1〜50重量%、あるいは0.1〜30重量%、あるいは0.1〜15重量%の範囲の量で触媒中に存在する。遷移元素は、本発明の触媒において、それだけで存在することができ、または混合物中に存在することができるが、それだけかまたは組み合わせであるかにかかわらず、触媒中に存在する遷移金属の全量は、触媒の全重量を基準にして0.1〜50重量%の範囲である。
【0008】
触媒は担体物質、例えば、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、マグネシア、ジルコニア、チタニア、およびこれらの組み合わせ;並びにキャリア、例えば、コージーライト、金属またはセラミックを含むモノリシックキャリアなどを含むことができる。担体は修飾、安定化または前処理されることができ、操作条件下での構造的安定性を達成することができる。
【0009】
好ましくは、エタン、二酸化炭素およびOMS触媒が550℃〜800℃、あるいは600℃〜700℃の温度で接触させられる。好ましくは、流速は100〜5000hr−1全気体空間速度(total gas hourly space velocity;GHSV)、あるいは500〜2500hr−1GHSV、あるいは1000〜2000hr−1GHSVである。
【0010】
エタンおよび二酸化炭素に加えて、不活性キャリアガス、例えば窒素が存在してもよい。不活性キャリアは、目的の反応には関与せず、かつ目的の反応によって影響を受けない。
【0011】
エチレンカルボニル化触媒および条件は周知であり、米国特許第6,284,919号に記載されている。典型的な触媒には、例えば、第VIII族金属、例えば、パラジウム、およびホスフィン配位子、例えば、アルキルホスフィン、シクロアルキルホスフィン、アリールホスフィン、ピリジルホスフィンまたは2座ホスフィンなどを有するものが挙げられる。
【0012】
本発明のある実施形態においては、エタンと二酸化炭素との反応の生成物はエチレンと一酸化炭素とを含み、これはアルコールと共にエチレンカルボニル化触媒と接触させられる。エチレンおよび一酸化炭素の流れはカルボニル化のための別の反応器に、あるいは同じ反応器の別の部分に通されうる。プロピオン酸アルキル生成物は、酸化的脱水素化プロセスにおいてアクリル酸アルキルに転化されうる。
【0013】
未反応のエタンおよび二酸化炭素は、エタンと二酸化炭素との反応からの生成物流れ中に、並びにカルボニル化からの生成物流れ中に存在しうる。カルボニル化生成物流れの分離後、エタンおよび炭素酸化物はエタンと二酸化炭素との反応の投入物に再利用されうる。痕跡量のエチレンおよびアルコールが存在してもよい。カルボニル化反応からの未反応のエチレンおよびアルコールはカルボニル化反応の投入物に再利用されうる。
【0014】
本発明のある実施形態においては、アルコールはメタノールであり、プロピオン酸アルキルはプロピオン酸メチルであり、かつメタクリル酸アルキルはメタクリル酸メチルである。これらの実施形態においては、本方法はエタンおよび二酸化炭素から始まるメタクリル酸メチルを製造する統合された方法を表す。
【0015】
本発明のある実施形態においては、エタンと二酸化炭素との反応からのエチレンおよび一酸化炭素生成物は、例えば、米国特許第4,408,079号に記載されるように、ヒドロホルミル化反応にかけられてプロピオンアルデヒドを生じさせる。プロピオンアルデヒド生成物はプロピオン酸に酸化されることができ、またはホルムアルデヒドと縮合されてメタクロレインを製造することができ、次いで、これが使用されてメタクリル酸を製造することができる。
【0016】
本発明のある実施形態においては、本方法は、メタクリル酸メチル生成物を重合することをさらに含んで、エタンおよび二酸化炭素から出発してメタクリル酸メチルポリマーまたはコポリマーを製造する統合された方法を提供する。
【0017】
本発明のある実施形態においては、メタノールが使用されて上述のようにメタクリル酸メチルを製造し、次いでそのメタクリル酸メチルが他のアルコールでエステル交換されて他のメタクリル酸アルキルを生じさせる。
【0018】
本発明のある実施形態においては、エチレンおよび一酸化炭素が共重合される。好ましくは、パラジウム化合物、例えば、シアン化パラジウム、パラジウムのアリールホスフィン錯体、もしくはハロゲン化パラジウム、またはテトラキストリアリールホスフィン白金錯体が触媒として使用される。重合方法は、例えば、米国特許第3,530,109号、および第3,694,412号に記載される。エチレン−一酸化炭素ポリマーは、加熱によって熱硬化性化合物に転化されうる。
【0019】
本発明のある実施形態においては、エタン、二酸化炭素および酸素がミリ秒接触時間で反応させられて、結果的に自己熱反応となる。ミリ秒接触時間は1秒未満、あるいは900ミリ秒未満、あるいは500ミリ秒未満、あるいは100ミリ秒未満、あるいは50ミリ秒未満、あるいは10ミリ秒未満の時間である。本発明のある実施形態においては、エタンと二酸化炭素とは単一反応器において、または段階化反応器(staged reactor)において反応して、改良された熱バランスをもたらす。
【実施例】
【0020】
カリウム−マンガン酸化物触媒の製造
次の手順によってOMS触媒が製造された:別の容器内で、16.8gのMnSO・HOおよび6mLの濃HNOが60mLの蒸留水に溶解され、11.8gのKMnOが200mlの蒸留水に溶解された。次いで、KMnO溶液がMnSO溶液に滴下添加されて、結果的に茶色がかったコロイド状懸濁物を得た。次いで、そのコロイド状懸濁物が100℃で12時間の間還流された。得られた生成物がろ過され、脱イオン水で洗浄されて、望まれない反応副生成物を除去した。最終的にその物質をオーブン中で120℃で6〜12時間乾燥させた。
合成されたK−OMS−2は、管状炉内で800℃で2時間の間、500cc/分の流速のN下で焼成された。得られた物質は担体物質として使用された。1.06gの1M Fe(NO・9HO水性溶液を1.5gの担体物質に含浸させ、続いて、振とう機上で30分間振とうすることにより、Fe−添加触媒が得られた。120℃で2時間乾燥して水を除去した後、得られた物質を、5℃/分の割合でさらに2時間の間650℃未満で焼成した。
【0021】
初期湿潤(incipient wetness;IW)法による比較の鉄酸化物触媒の製造
CaCOの市販のサンプル(20g、ACS試薬、99%純度、測定孔体積〜0.60cm−1)が、硝酸Fe(III)(〜13重量%のFeを含む九水和物形態)の均一溶液6mLで処理された。初期湿潤プロセスは、一定の混合(均一性を確保するために、手作業での撹拌と、それに続くボルテックスミキサーでの30分間の撹拌)を伴った室温での硝酸鉄溶液の滴下添加によって行われた。
密封容器内で30分間浸漬した後、得られた褐色ペースト様前駆体がセラミック皿に置かれ、大きな塊は2〜3mmサイズの粒子に粉砕された。混合物は次いでプログラム可能な恒温箱型炉内で次のように焼成された:80℃で4時間、次いで、120℃で4時間乾燥、続いて、連続した空気パージ(5標準リットル/分)を伴って300℃で2時間の間焼成工程が行われた。次いで、触媒は、触媒評価工程の前に、追加の熱処理のために反応器に入れられた。この焼成工程は、10%Oおよび90%Nからなる気体流れを100cm/分で触媒床上を通過させつつ、600℃で1時間の間行われた。焼成された触媒のx線蛍光(XRF)分析は、様々な金属の重量%について次の結果を示した:
【0022】
【表1】

【0023】
触媒の試験
上記触媒が次の方法で試験された:
COを用いたエタンの酸化的脱水素化が、垂直固定床石英反応器内で行われた。一定量の触媒(1.0cc)が1/2”石英管反応器の中央部分に入れられた。その触媒の上および下に不活性の石英チップが使用されて、支持および供給物予備加熱領域を提供した。反応器は、3−領域電気加熱管型炉内に導入された。独立した熱電対が、外部表面での反応器温度の制御と、中心サーモウェルを介した内部触媒床温度のモニタリングとの双方を可能にした。供給物ガス流れがBrooksマスフローコントローラーによって制御された。試験された全ての触媒は、600℃で1時間の間、N中の10%Oブレンドの100cc/分の流れを用いて、その場で予備加熱された。前処理に続いて、Nを流しつつ触媒は評価温度まで加熱され、その後で供給混合物に曝露された。所望の評価温度において、触媒は80:80:40 C/CO/N供給混合物に曝露され、生成物分析が始まった。触媒は一般的に、数時間の間、1200hr−1GHSVで評価された。生成物分析はガスクロマトグラフィーによってなされた。生成物アカウンタビリティーは概して98+%であった。エタンおよびCO転化率、並びにCおよびCO選択性は次のように計算された:
【0024】
【数1】

【0025】
使用済みの触媒上の炭素堆積は最低限であり、生成物アカウンタビリティーに影響を与えなかった。
【0026】
2種類の触媒についてのデータが下記表1に示される。
【0027】
【表2】

【0028】
上記データはKOMS−2触媒がFe−CaCOよりも、エタンおよびCOを転化することについての大きな活性を有することを示す。驚くべきことに、それはより大きな活性を有するけれども、KOMS−2触媒はより大きなエチレン選択性も示し、結果的に、より高いエチレン収率をもたらす。典型的には、酸化触媒が、増大した酸化活性を有する場合には、選択性は低くなる。最終的に、KOMS−2触媒は、より有利なエチレン:CO比率(エチレンカルボニル化反応のためには、1:1により近いのが好ましい)をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタンおよび二酸化炭素を、合成クリプトメレンまたは八面体分子ふるいを含む混合原子価触媒と少なくとも550℃の温度で接触させてエチレンおよび一酸化炭素を生じさせることにより、エチレンと一酸化炭素との混合物を製造する方法。
【請求項2】
触媒が1種類の遷移元素または遷移元素の混合物を含み、当該1種類の遷移元素または遷移元素の混合物が、触媒の全重量を基準にして0.1〜50重量%の範囲で触媒中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遷移元素が鉄である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(a)アルコール並びに前記エチレンおよび一酸化炭素をエチレンカルボニル化触媒と接触させてプロピオン酸アルキルを製造する工程;および
(b)プロピオン酸アルキルを副生成物および出発物質から分離する工程;
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
プロピオン酸アルキルをホルムアルデヒドと反応させて、メタクリル酸アルキルを製造することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アルコールがメタノールであり、プロピオン酸アルキルがプロピオン酸メチルであり、かつメタクリル酸アルキルがメタクリル酸メチルである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
メタクリル酸メチルを重合することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エチレンおよび一酸化炭素を共重合することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記エチレンおよび一酸化炭素を水素と化合させてプロピオンアルデヒドを製造することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
プロピオンアルデヒドをホルムアルデヒドと縮合してメタクロレインを製造することをさらに含む、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2010−70548(P2010−70548A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−189950(P2009−189950)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】