説明

エチニルベンゼン誘導体の製造方法

工業的スケ−ルでの生産に適する、安全で、廃水負荷の少ない環境に優しい条件で、簡便なプロセスでの3−クロロ−3−置換プロペナール誘導体からのエチニルベンゼン誘導体の製造方法を提供する。
本発明は、相間移動触媒存在下、一般式(1)
【化1】


(式中、X、Yは各々独立にハロゲン原子を示し、R、R、Rは各々独立に水素原子;ハロゲン原子等を示し、lは1〜6の整数を示し、m、n、o、p、qは各々独立に0〜5の整数を示し、o+pは5以下であり、l+m+n+qは6以下である。)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体と塩基とを反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】


(式中、R、R、R、Z、l、m、n、o、p、qは前記と同じ意味を示す。)
で表されるエチニルベンゼン誘導体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬・農薬・材料分野において有用なエチニルベンゼン誘導体の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エチニルベンゼン誘導体の製造方法の一つとして、対応する3−クロロ−3−置換プロペナール誘導体からの、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いた脱離反応が知られている。しかしながら、それらの方法はいずれもジオキサン溶媒(特許文献1参照)やテトラヒドフラン(THF)溶媒(非特許文献1参照)といった、水と自由に混合する溶媒(水に任意の割合で溶解する溶媒)を使用するために、後処理において、目的物の取り出しに抽出溶媒を別途使用しなければならなかった。しかも、水に溶解したジオキサンやTHFの回収を充分に行うことは難しく、廃水中にジオキサンやTHFが多量に残存してしまうため、環境保護、あるいは安全性の面からも工業的な規模での実施は困難であった。
【特許文献1】米国特許第4125563号公報
【非特許文献1】「シンセシス(Synthesis)」、(ドイツ国)、ゲオルク チーメ フェルラク シュツッツガルト・ニューヨーク(Georg Thieme Verlag Stuttgart・New York)、1992年、第735−737頁
【0003】
これらの溶媒はエ−テル系溶媒であり、回収/再利用においては過酸化物の生成による爆発の危険性が存在するという問題点も有していた。
【0004】
従って3−クロロ−3−置換プロペナール誘導体からのエチニルベンゼン誘導体の製造において、安全で、廃水負荷の少ない、環境に優しい条件で、簡便なプロセスでの製造方法はなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、工業的スケ−ルでの生産に適する、安全で、廃水負荷の少ない環境に優しい条件で、簡便なプロセスでの3−クロロ−3−置換プロペナール誘導体からのエチニルベンゼン誘導体の製造方法を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような状況に鑑み、本発明者が、安全で環境に優しい条件での3−クロロ−3−置換プロペナール誘導体からのエチニルベンゼン誘導体の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、意外にも、相間移動触媒の存在下に3−クロロ−3−置換プロペナール誘導体と塩基とを反応させることにより、エチニルベンゼン誘導体を収率良く製造できることを知得し、この知見を基に本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法により、エチニルベンゼン誘導体の新規な工業的製造法が提供される。本発明方法によれば、廃水負荷の少ない、環境に優しい条件で、安全なプロセスでエチニルベンゼン誘導体を製造できるので、本発明方法は工業的な利用価値が非常に高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明は、下記〔1〕乃至〔12〕項に記載の発明を提供する事により、上記課題を解決したものである。
【0010】
〔1〕相間移動触媒存在下、一般式(1)
【0011】

【0012】
(式中、X、Yは各々独立にハロゲン原子を示し、R、R、Rは各々独立に水素原子;ハロゲン原子;ニトロ基;ヒドロキシル基;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;ジアルキルアミノ基;アラルキル基;アルコキシ基;又はアルコキシアルキル基を示し、RとRは一緒になって環を形成しても良く、Zは酸素原子;硫黄原子;スルホニル基;アルキル或いはアリル基が置換しても良いメチレン基;カルボニル基;又は単結合を示し、lは1〜6の整数を示し、m、n、o、p、qは各々独立に0〜5の整数を示し、o+pは5以下であり、l+m+n+qは6以下である。)
で表される−3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体と塩基とを反応させることを特徴とする、一般式(2)
【0013】

【0014】
(式中、R、R、R、Z、l、m、n、o、p、qは前記と同じ意味を示す。)
で表される、エチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0015】
〔2〕反応を、水溶媒系で行うものである、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0016】
〔3〕反応を、水に任意の割合では溶解しない溶媒系で行うものである、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0017】
〔4〕反応を、水に任意の割合では溶解しない溶媒及び水からなる不均一溶媒系で行うものである、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0018】
〔5〕反応を、無溶媒系で行うものである、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0019】
〔6〕水に任意の割合では溶解しない溶媒が芳香族系炭化水素である、〔3〕又は〔4〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0020】
〔7〕相間移動触媒が、四級アンモニウム塩である、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0021】
〔8〕相間移動触媒が、臭化テトラブチルアンモニウムである、〔7〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0022】
〔9〕塩基が、アルカリ金属水酸化物である、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0023】
〔10〕塩基が、水酸化ナトリウムである、〔9〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0024】
〔11〕一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体のX、Yが共に塩素原子である、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0025】
〔12〕一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体のR、R、Rが全てアルキル基である、〔1〕記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明方法の原料として用いる一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体について説明する。
【0028】
一般式(1)中のX、Yは各々独立にハロゲン原子を示し、このハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を例示することができる。
【0029】
一般式(1)中のR、R、Rは各々独立に、水素原子;ハロゲン原子;ニトロ基;ヒドロキシル基;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;ジアルキルアミノ基;アラルキル基;アルコキシ基;又はアルコキシアルキル基を示し、R、Rが一緒になって環を形成しても良い。
【0030】
、R、Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を例示することができる。
【0031】
、R、Rのアルキル基としては、炭素数1乃至6(以下、置換基の炭素数については、この場合では「C1〜C6」の様に略記する。)の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であればよく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、及びn−ヘキシル基等を例示することができる。
【0032】
、R、Rのアルケニル基としては、直鎖又は分岐鎖のC2〜C6アルケニル基であればよく、具体的にはエテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1,3,5−ヘキサトリエニル基等を例示することができる。
【0033】
、R、Rのアルキニル基としては、直鎖又は分岐鎖のC2〜C6アルキニル基であればよい。
【0034】
、R、Rのジアルキルアミノ基としては、ジ[(C1〜C6)アルキル]アミノ基、具体的にはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等を例示することができる。
【0035】
、R、Rのアラルキル基としては、例えばベンジル基、2−クロロフェニルメチル基、4−クロロフェニルメチル基、4−メチルフェニルメチル基、4−メトキシフェニルメチル基、ジフェニルメチル基等に代表される、ハロゲン原子、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基等を置換基として有しても良いアリールアルキル基を例示することができる。
【0036】
、R、Rのアルコキシ基としては、[(C1〜C6)アルキル]オキシ基、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示することができる。
【0037】
、R、Rのアルコキシアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖状の、[(C1〜C6)アルキル]オキシ(C1〜C6)アルキル基、具体的にはメトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基、ヘキシルオキシメチル基等を例示することができる。
【0038】
一般式(1)中のZは、酸素原子;硫黄原子;スルホニル基;C1〜C6アルキル基或いはアリル基が置換しても良いメチレン基;カルボニル基;又は単結合を示し、ここで、メチレン基に置換しても良いアリル基としては、1以上の、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基、又はハロゲン原子で置換していても良いフェニル基を例示できる。
【0039】
一般式(1)中のlは1〜6の整数を示し、m、n、o、p、qは、各々独立に0〜5の整数を示し、o+pは5以下であり、l+m+n+qは6以下である。
【0040】
上記のような一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体としては、具体的には例えば、3−クロロ−3−フェニルプロペナール、3−クロロ−3−(2−クロロフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−クロロフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−クロロフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(2−ニトロフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−ニトロフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−ニトロフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(2−ヒドロキシフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−ヒドロキシフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(2−メチルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−メチルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−メチルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−ジメチルアミノフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−ジメチルアミノフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(2−ベンジルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−ベンジルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−ベンジルフェニル)プロペナール、3−クロロ−〔3−(3−ジフェニルメチル)フェニル〕−2−プロペナール、3−クロロ−〔3−(4−ジフェニルメチル)フェニル〕−2−プロペナール、3−クロロ−3−(2−メトキシフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−メトキシフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−メトキシフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(2−メトキシメチルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(3−メトキシメチルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−(4−メトキシメチルフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−[3−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェニル]プロペナール、3−クロロ−3−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェニル〕プロペナール、3−クロロ〔3,5−ビス−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェニル〕−3−クロロプロペナール、3−クロロ−3−〔4’−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ビフェニル−3−イル〕−3−クロロプロペナール、3−クロロ−3−〔4’−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ビフェニル−4−イル〕プロペナール、3−クロロ−3−{3−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ベンジル〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{4−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ベンジル〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{3−[4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ベンゾイル]フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{4−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ベンゾイル〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{3−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェノキシ〕フェニル}プロペナール−3−クロロ−3−{4−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェノキシ〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{3−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェニルスルファニル〕}フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{4−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェニルスルファニル〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{3−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ベンゼンスルホニル〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−{4−〔4−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ベンゼンスルホニル〕フェニル}プロペナール、3−クロロ−3−(2’−ベンジルオキシ−4’−メトキシフェニル)プロペナール、3−クロロ−3−ナフタレン−2−イル−プロパナール、3−クロロ−3−フェナントレン−9−イル−プロペナール、3−クロロ−3−ピレン−4−イル−プロペナール、3−ブロモ−3−(2−メチルフェニル)プロペナール、3−ブロモ−3−(3−メチルフェニル)プロペナール、3−ブロモ−3−(4−メチルフェニル)プロペナール等を例示することができる。
【0041】
これらの一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体を得る方法は特に制限されないが、例えば、ジャ−ナル オブ ケミカルソサエティー、パ−キン トランザクション(J.Chem.Soc.Perkin Trans.)第I巻、355−358頁(1994)に記載の、対応するアセトフェノン誘導体からのヴィルスマイヤー−ハック(Vilsmeier−Haack)反応により、容易に製造することができる。また、プロペナールの二重結合部分はE体でもZ体でも、又、E体とZ体の混合物であっても構わない。
【0042】
本発明方法において使用する相間移動触媒は、カチオン性、中性、アニオン性いずれの相間移動触媒も使用することができる。例えば、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルプロピルアンモニウム、及び臭化セチルトリメチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩;臭化テトラメチルホスホニウム、臭化テトラブチルホスホニウム、臭化セチルトリブチルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム等の四級ホスホニウム塩;臭化ブチルピリジニウム、臭化ヘプチルピリジニウム、臭化ドデシルピリジニウム等のピリジニウム塩等を包含するカチオン性相間移動触媒;ジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、18−クラウン−6等のクラウンエ−テル類;ポリエチレングリコ−ル400、ポリエチレングリコ−ルジメチルエ−テル500等のポリエチレングリコ−ル類等を包含する中性相間移動触媒;トリトン−X100(ユニオンカ−バイド社の登録商標)、及びポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエ−ト等のポリエチレングリコ−ル類等を包含するアニオン性相間移動触媒が挙げられる。好ましくはカチオン性相間移動触媒であり、四級アンモニウム塩が好ましく、特に好ましいものとしては臭化テトラブチルアンモニウムを挙げることができる。
【0043】
相間移動触媒の使用量は、一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体1モルに対して0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.30モルの範囲を例示できる。
【0044】
本発明方法において使用する塩基としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属炭酸塩等であれば良く、アルカリ金属水酸化物としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を、アルカリ土類金属水酸化物としては水酸化カルシウム、水酸化バリウム等を、アルカリ金属水素化物としては水素化ナトリウム、水素化リチウム等を、アルカリ土類金属水素化物としては水素化カルシウム等を、アルカリ金属炭酸塩としては炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等を、それぞれ例示することができる。その中でも、水酸化ナトリウムに代表されるアルカリ金属水酸化物の使用が好ましい。
【0045】
塩基の使用量としては、一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体分子中の、1−クロロ−3−オキソプロペニル基1当量に対して、通常1.0〜7.0当量、好ましくは2.0〜6.0モルの範囲を例示できる。
【0046】
但し、原料である一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体が分子中にヒドロキシル基を有する場合には、反応の進行が不充分となる場合がある。その様な場合には、塩基を、原料分子中のヒドロキシル基の数に相当する量、過剰に使用して反応させることが好ましい。
【0047】
本発明方法においては、無溶媒で実施可能であるが、水に任意の割合では溶解しない溶媒を使用することもできるし、更に水を用いた不均一系でも実施できる。従って、本発明方法の溶媒系としては、A)水溶媒系(不均一反応系を形成する)、B)水に任意の割合では溶解しない溶媒系、C)水に任意の割合では溶解しない溶媒及び水からなる不均一溶媒系、又はD)無溶媒系(不均一反応系を形成する)の何れでも良い。
【0048】
使用する、「水に任意の割合では溶解しない溶媒」としては、当該反応に不活性な溶媒を使用することができ、水との分液の容易で廃水負荷の少なくなる、非プロトン性溶媒の使用が好ましい。このような「水に任意の割合では溶解しない溶媒」としては、例えば芳香族炭化水素系溶媒、具体的にはトルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等;脂肪族/又は脂環式炭化水素系溶媒、具体的にはn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−デカン、シクロヘキサン等;エ−テル系溶媒、具体的にはジプロピルエ−テル、ジイソプロピルエ−テル、ジブチルエ−テル等、を例示することができる。工業的場面での使用が容易で安全な、トルエンに代表される芳香族炭化水素系溶媒の使用が好ましい。「水に任意の割合では溶解しない溶媒」は、単独で、又は任意の混合割合の混合溶媒として用いることができる。
【0049】
溶媒、及び水を使用する場合の使用量としては、反応系の攪拌が充分にできる量であれば良いが、一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体1モルに対し、溶媒系の総量が5000ml以下、好ましくは3000ml以下の範囲を例示できる。
【0050】
上記反応の反応温度は−10〜反応系における還流温度までの任意の温度で行い、好ましくは30〜80℃の範囲であり又、反応時間は0.1〜12時間の範囲で、反応は常圧下に行うことができ、通常は加圧する必要はない。
【0051】
本発明方法により製造できる一般式(2)で表されるエチニルベンゼ誘導体としては例えばエチニルベンゼン、2−エチニルクロロベンゼン−3−エチニルクロロベンゼン、4−エチニルクロロベンゼン、2−エチニルニトロベンゼン−3−エチニルニトロベンゼン、4−エチニルニトロベンゼン、2−エチニルフェノ−ル−3−エチニルフェノ−ル、2−エチニルトルエン−3−エチニルトルエン、4−エチニルトルエン−3−エチニル−N,N−ジメチルアニリン、4−エチニル−N,N−ジメチルアニリン、2−ベンジルフェニルアセチレン−3−ベンジルフェニルアセチレン、4−ベンジルフェニルアセチレン、(3−エチニルフェニル)ジフェニルメタン、(4−エチニルフェニル)ジフェニルメタン、2−エチニルメトキシベンゼン−3−エチニルメトキシベンゼン、4−エチニルメトキシベンゼン、2−エチニルメトキシメチルベンゼン−3−エチニルメトキシメチルベンゼン、4−エチニルメトキシメチルベンゼン、1−3−ジエチニルベンゼン、1,4−ジエチニルベンゼン、1,3,5−トリエチニルベンゼン、4,4’−ジエチニルジフェニル、3,3’−ジエチニルジフェニル、(3−エチニルフェニル)(4−エチニルフェニル)メタン、ビス(4−エチニルフェニル)メタン、3,4’−ジエチニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチニルベンゾフェノン、3,4’−ジエチニルジフェニルエ−テル、4,4’−ジエチニルジフェニルエ−テル、3,4’−ジエチニルジフェニルスルフィド、4,4’−ジエチニルジフェニルスルフィド、3,4’−ジエチニルジフェニルスルホン、4,4’−ジエチニルジフェニルスルホン、2−ベンジルオキシ−4−メトキシフェニルアセチレン、2−エチニルナフタレン、9−エチニルフェナントレン、1−エチニルピレン等を例示することができる。
【実施例】
【0052】
次に、実施例、比較例、参考例を挙げて本発明化合物の製造方法を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
参考例1:ジエチル3’−メチルベンゾイルマロネ−トの合成
無水塩化マグネシウム80g(0.84mol)とトルエン800mlを仕込み、氷浴中で冷却後、10℃以下でマロン酸ジエチル128.1g(0.80mol)とトリエチルアミン170.0g(1.68mol)を順次加え、室温にて2時間熟成した。続いて、反応液を氷浴中で冷却しながら、10℃以下で3−メチルベンゾイルクロライド123.7g(0.80mol)を滴下した。滴下終了後、室温にて12時間熟成した後、反応液を氷浴中で冷却しながら、25℃以下で18%塩酸水溶液480mlを滴下した。トルエン層を分液後、水層をトルエン400mlで再抽出した。得られたトルエン抽出液を18%塩酸水溶液、水、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、トルエン層を減圧濃縮し、目的とするジエチル 3’−メチルベンゾイルマロネ−トを221.30g(0.795mol)、収率99.4%で得た。
【0054】
参考例2:3’−メチルアセトフェノンの合成
3’−メチルベンゾイルマロネ−ト221.30g(0.795mol)、濃硫酸502.2g(5.12mol)と水800mlを仕込み、加熱還流下、12時間熟成した。熟成終了後、室温にてトルエン500mlを加え、分液した。得られたトルエン抽出液を、水、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、トルエン層を減圧濃縮し、目的とする3’−メチルアセトフェノンを99.6g(0.74mol)、収率93.4%で得た。
【0055】
参考例3:3−クロロ−3−(3−メチルフェニル)プロペナールの製造
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)800mlを仕込み、氷浴中で冷却しながら、10℃以下でオキシ塩化燐271.3g(1.77mol)を滴下した。滴下終了後、室温にて30分間熟成した。続いて、3’−メチルアセトフェノン107.3g(0.80mol)を加え、60℃まで昇温し、60℃にて6時間熟成した。熟成終了後、反応液を室温まで冷却し、氷−水2L中に注入した。炭酸水素ナトリウムで中和後、トルエン500mlを加え、分液した。得られたトルエン溶液を水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、目的とする3−クロロ−3−(3−メチルフェニル)プロペナールを114.3g(0.63mol)、収率79.1%で得た。
【0056】
実施例1:3−エチニルトルエンの製造
25%水酸化ナトリウム水溶液192.0g(1.20mol)、50%臭化テトラブチルアンモニウムブロマイド水溶液19.34g(0.03mol)、トルエン300ml、及び水300mlを仕込み、80℃まで昇温し、3−クロロ−3−(3−メチルフェニル)プロペナール108.4g(0.60mol)を加え、80℃にて3時間熟成した。熟成終了後、室温にて分液、水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたトルエン溶液をガスククロマトグラフォイ−(GC)分析したところ、目的とする3−エチニルトルエンが収率91.0%で生成していた。続いて、精留することにより、目的とする3−エチニルトルエン3−クロロ−3−(3−メチルフェニル)プロペナールを47.6g(0.41mol)、収率68.3%で得た。沸点86℃/9331Pa(70mmHg)。
【0057】
実施例2:3−エチニルトルエンの製造
25%水酸化ナトリウム水溶液6.40g(0.04mol)、50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液0.64g(1mmol)、及び水10mlを仕込み、75℃まで昇温し、3−クロロ−3−(3−メチルフェニル)プロペナール3.61g(0.02mol)を加え、75℃にて3時間熟成した。熟成終了後、トルエン層をGC分析したところ、目的とする3−エチニルトルエンが収率82.0で生成していた。
【0058】
参考例4:3−クロロ−3−(3−ヒドロキシフェニル)プロペナールの製造
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)100mlを仕込み、氷浴中で冷却しながら、10℃以下でオキシ塩化燐61.4g(0.40mol)を滴下した。滴下終了後、室温にて30分間熟成した。続いて、3’−ヒドロキシアセトフェノン27.2g(0.20mol)を加え、60℃まで昇温し、60℃にて5時間熟成した。熟成終了後、反応液を室温まで冷却し、氷−水500ml中に注入した。炭酸水素ナトリウムで中和後、トルエン100mlを加え、分液した。得られたトルエン溶液を水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、目的とする3−クロロ−3−(3−ヒドロキシフェニル)プロペナールを23.4g(0.13mol)、収率64.1%で得た。
【0059】
実施例3:3−エチニルフェノ−ルの製造
25%水酸化ナトリウム水溶液102.1g(0.64mol)、50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液4.1g(0.0064mol)、水300mlを仕込み、80℃まで昇温し、3−クロロ−3−(3−ヒドロキシフェニル)プロペナール23.4g(0.13mol)を加え、80℃にて2時間熟成した。熟成終了後、室温まで冷却し、5%塩酸水溶液にて酸性とした。トルエン300mlにて分液抽出後、水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたトルエン溶液を濃縮後、蒸留する事により、目的とする3−エチニルフェノ−ルを4.84g(0.041mol)、収率32.0%で得た。沸点99℃/1066.4Pa(8mmHg)。
【0060】
実施例4:1,3−ジエチニルベンゼンの製造
25%水酸化ナトリウム水溶液76.8g(0.48mol)、50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液3.9g(0.0060mol)、トルエン100ml、及び水100mlを仕込み、80℃まで昇温し、3−クロロ−3−〔3−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)フェニル〕プロペナール31.1g(0.12mol)を加え、80℃にて2時間熟成した。熟成終了後、室温にて分液、水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたトルエン溶液を濃縮後、蒸留する事により、目的とする1,3−ジエチニルベンゼンを8.24g(0.065mol)、収率53.6%で得た。沸点80℃/1999.5Pa(15mmHg)。
【0061】
実施例5:4,4’−ジエチニルジフェニルの製造
25%水酸化ナトリウム水溶液29.1g(0.182mol)、50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液1.49g(2.3mmol)、トルエン50ml、及び水50mlを仕込み、80℃まで昇温し、3−クロロ−3−〔4’−(1−クロロ−3−オキソプロペニル)ビフェニル−4−イル〕プロペナール15.3g(0.0462mol)を加え、80℃にて2時間熟成した。熟成終了後、室温にて分液、水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたトルエン溶液を濃縮、残渣をエタノ−ルで再結晶する事により、目的とする4,4’−ジエチニルジフェニルを4.10g(0.020mol)、収率43.9%で得た。融点80℃/1999.5Pa(15mmHg)。
【0062】
実施例6:エチニルベンゼンの製造
攪拌機、還流冷却器、および温度計を備えた300mlの四つ口フラスコに、3−クロロ−3−フェニルプロペナール8.33g(0.05mol)、99%水酸化ナトリウム4.44g(0.11mol)、50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液0.97g(1.5mmol)、トルエン125mlを仕込み、60℃まで昇温し、60℃にて2時間攪拌した。反応終了後、水25mlを加え、室温にて分液し、有機層を得た。得られた有機層を水洗した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた有機層をガスクロマトグラフィー分析したところ、エチニルベンゼンが、収率69.4%で生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相間移動触媒存在下、一般式(1)

(式中、X、Yは各々独立にハロゲン原子を示し、R、R、Rは各々独立に水素原子;ハロゲン原子;ニトロ基;ヒドロキシル基;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;ジアルキルアミノ基;アラルキル基;アルコキシ基;又はアルコキシアルキル基を示し、RとRは一緒になって環を形成しても良く、Zは酸素原子;硫黄原子;スルホニル基;アルキル或いはアリル基が置換しても良いメチレン基;カルボニル基;又は単結合を示し、lは1〜6の整数を示し、m、n、o、p、qは各々独立に0〜5の整数を示し、o+pは5以下であり、l+m+n+qは6以下である。)
で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体と塩基とを反応させることを特徴とする、一般式(2)

(式中、R、R、R、Z、l、m、n、o、p、qは前記と同じ意味を示す。)
で表されるエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項2】
反応を、水溶媒系で行うものである、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項3】
反応を、水に任意の割合では溶解しない溶媒系で行うものである、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項4】
反応を、水に任意の割合では溶解しない溶媒及び水からなる不均一溶媒系で行うものである、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項5】
反応を、無溶媒系で行うものである、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項6】
水に任意の割合では溶解しない溶媒が芳香族系炭化水素である、請求項3又は4記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項7】
相間移動触媒が、四級アンモニウム塩である、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項8】
塩基が、アルカリ金属水酸化物である、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項9】
一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体のX、Yが共に塩素原子である、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。
【請求項10】
一般式(1)で表される3−ハロゲノ−3−置換プロペナール誘導体のR、R、Rが全てアルキル基である、請求項1記載のエチニルベンゼン誘導体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/113257
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507213(P2005−507213)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008343
【国際出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000102049)イハラケミカル工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】