説明

エチレンガス吸着部材、それを用いた食品保存部材および食品保存方法

【課題】取り扱いが容易なエチレンガス吸着部材を提供する。
【解決手段】エチレンガス吸着部材100は、第1の発泡層110と、第2の発泡層130と、第1の発泡層120と第2の発泡層130との間に配置されたエチレンガス吸着材層120と、を備え、エチレンガス吸着材層120は、第1の発泡層110および第2の発泡層130と接着するバインダと、エチレンガスを吸着する炭素材とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンガス吸着部材、それを用いた食品保存部材および食品保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実の鮮度保持のためにエチレンガスを吸着除去する技術としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、繊維状活性炭および熱融着性繊維に加えて、合成パルプを複合化することにより、多孔性の繊維状活性炭含有複合シート(以下、複合シートという)が得ることが記載されている(請求項1、段落0011等)。この複合シートにおいては、繊維状活性炭を合成パルプおよび融着性繊維により接着させることにより、複合シートの内部から繊維状活性炭が脱落することを防止している(段落0020、0056)。このような手法に基づき、複合シートの改良検討では、1枚の複合シートを完成品として使用する観点から、主に、繊維状活性炭を複合シートの内部に留めるような接着力を強化することにより、繊維状活性炭の脱落防止を図ることが検討されていた。
また、同文献には、かかる接着力をさらに強化するために、強化用繊維を添加することが好適であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−100792号公報
【特許文献2】特開2001−122608号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「最新 吸着技術」、角田光雄 監修、総合技術センター発行、(1993)P.128−129、132−133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の複合シートでは、脱落を防止するために、合成パルプや強化用繊維などを加えると、複合シートの強度が高まる反面、その柔軟性が失われる結果、複合シートの使用態様が限定的となっていた。たとえば、果実等の食品の品質低下を抑制するために用いられるエチレンガス吸着部材には、食品とともに梱包したまま保存、搬送等を行えるような様々な使用態様が可能な取り扱い性が求められている。
このような様々な使用態様において、従来の複合シートでは、果実等の食品やその他の部材と接触すると、複合シートの表面から脱離した繊維状活性炭が食品に付着することがあり、充分な取り扱い性を維持することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
第1の発泡層と、
第2の発泡層と、
前記第1の発泡層と前記第2の発泡層との間に配置されたエチレンガス吸着材層と、を備え、
前記エチレンガス吸着材層は、前記第1の発泡層および前記第2の発泡層と接着するバインダと、エチレンガスを吸着する炭素材とを含む、エチレンガス吸着部材が提供される。
【0007】
本発明によれば、炭素材を含有するエチレンガス吸着材層の両面が発泡層に挟まれるように構成されている。このため、発泡層を介して外気と炭素材が接触できるので、エチレンガス吸着材層がエチレンガスを吸着する機能を発揮することができる。また、エチレンガス吸着材層の表面はそれぞれ発泡層により保護されているので、様々な使用態様においても、エチレンガス吸着材層の表面に、食品やその他の部材が接触することを抑制することができる。これにより、使用態様によらずに、部材との接触によりエチレンガス吸着材層の表面から炭素材が脱離することを抑制できるので、本発明のエチレンガス吸着部材の取り扱いが容易になる。
【0008】
また、本発明によれば、上記エチレンガス吸着部材を含む、食品保存部材が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記エチレンガス吸着部材とともに食品を包装する工程を含む、食品保存方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取り扱いが容易なエチレンガス吸着部材、それを用いた食品保存部材および食品保存方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態のエチレンガス吸着部材の断面図である。
【図2】本実施の形態の変形例のエチレンガス吸着部材の断面図である。
【図3】本実施の形態の変形例のエチレンガス吸着部材の断面図である。
【図4】本実施の形態の変形例のエチレンガス吸着部材の上面図及び断面図である。
【図5】本実施の形態の変形例のエチレンガス吸着部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の一例を示す断面図である。
本実施の形態のエチレンガス吸着部材100は、第1の発泡層(発泡層110)と、第2の発泡層(発泡層130)と、発泡層110と発泡層130との間に配置されたエチレンガス吸着材層120と、を備える。このエチレンガス吸着材層120は、発泡層110および発泡層130と接着するバインダと、エチレンガスを吸着する炭素材とを含有する。また、エチレンガス吸着材層120は、バインダを含有するので、発泡層110と発泡層130とを接着する接着層として作用する。
【0013】
図1に示すように、このエチレンガス吸着部材100においては、発泡層110、エチレンガス吸着材層120、及び発泡層130からなる積層体である。これらの発泡層110、130の内面の全面にエチレンガス吸着材層120が設けられている。
【0014】
また、エチレンガス吸着材層120は、例えば、バインダおよびエチレンガスを吸着する炭素材を含有する塗料を塗布後、熱処理することにより得られる。
【0015】
エチレンガスを吸着する炭素材としては、特に限定されないが、一般に汎用されている活性炭の他に、炭素原子を含む各種のエチレンガス吸着剤等を用いることができる。本実施の形態において、炭素材とは、炭素原子を含有する多孔質体が好ましい。炭素材の形状としては、特に限定されず、粉末状、粒状、繊維状のいずれでもよいが、粉末状が好ましい。なお、本実施の形態のエチレンガス吸着剤の詳細は後述する。
【0016】
バインダとしては、特に限定されないが、発泡層110、130と熱融着するものが好ましい。バインダとしては、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、酢酸ビニル樹脂、シリコン樹脂、変性シリコン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ系樹脂、並びにこれらの共重合体などが挙げられる。この中でも、ポリウレタン、酢酸ビニル樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体が好ましい。このように、ゴム弾性が高く、かつ柔軟なバインダを適切に選択することにより、各種の接着特性に優れたエチレンガス吸着材層120が得られる。このため、フレキシブル性および耐久性に優れたエチレンガス吸着部材100が得られる。
【0017】
また、バインダとしては、水またはアルコール等を含有する水溶剤に可溶な水性バインダが好ましい。これにより、溶剤に有機溶剤を用いることが不要となるので、スポンジ等で構成された発泡層110、130が膨張することを抑制できる。このため、エチレンガス吸着部材100の形状を、設計通りとすることが可能となる。したがって、エチレンガス吸着部材100の製造マージンが向上する。
【0018】
また、バインダとしては、一液型のバインダが好ましく、一液型の水性バインダがより好ましい。バインダを一液型とすることにより、使用する前に硬化剤や可塑剤などを混合する手間が省けるので、製造工程を簡略化でき、製造コストを低減できる。また、一液型を用いることで、エチレンガス吸着材層120の接着性を向上させることができる。
【0019】
また、25℃で測定したバインダの粘度は、特に限定されないが、5mPa・s以上5000mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上1000mPa・s以下がより好ましい。バインダの粘度を上記範囲内とすることにより、塗料のハンドリング性が向上し、製造安定性に優れたエチレンガス吸着部材100が得られる。また、特に炭素材が粉末の場合において、製造工程中に、その炭素材が脱離して飛散することも抑制できる。また、炭素材の配合量を多くする観点から、バインダの粘度は低い方が好ましい。
【0020】
また、炭素材とバインダとの質量比は、特に限定されないが、好ましくは9/1〜4/6、より好ましくは8/2〜5/5であることが好ましい。このように、炭素材とバインダとの質量比を適切に選択することにより、炭素材の充填量(言い換えると、エチレンガスの吸着量)とフレキシブル性とのバランスに優れたエチレンガス吸着部材100を得ることができる。
【0021】
また、エチレンガス吸着材層120の平均厚みは、特に限定されないが、例えば、好ましくは0.5mm以上4mm以下であり、より好ましくは1mm以上3mm以下である。エチレンガス吸着材層120の平均厚みを上記範囲内とすることにより、接着強度とフレキシブル性に優れたエチレンガス吸着材層120が得られる。
【0022】
また、発泡層110、130としては、エチレンガスを透過する限り特に限定されないが、連続発泡体が好ましい。また、発泡層110、130としては、軟質フォームのスポンジが好ましく、さらには軟質低弾性フォームのスポンジであってもよい。発泡層110、130を構成する材料としては、とくに限定されないが、例えば、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン等が用いられる。材料や製法を適切に選択することにより、発泡層110、130のエチレンガス透過性、クッション性及びまたはフレキシブル性を向上させることが可能となる。この中でも、発泡層110、130としては、ポリウレタンを連続発泡したもので構成されていることが好ましい。これにより、エチレンガス透過性、クッション性及びフレキシブル性のバランスに優れた発泡層110、130が得られる。
【0023】
また、発泡層110、130とバインダとが同種の材料で構成されていることが好ましい。例えば、発泡層110、130がポリウレタンの連続発泡体であり、一方で、バインダがポリウレタンなどの組み合わせが挙げられる。これにより、発泡層110、130とエチレンガス吸着材層120との密着性等の接着特性が向上する。したがって、エチレンガス吸着部材100の耐久性が向上するので、様々な使用態様に利用することが可能となる。
【0024】
また、発泡層110、130を構成する材料に、必要に応じて、各種の添加物を加えてもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、可塑剤、安定剤、難燃材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、抗菌・防かび剤、強化剤、充填剤などが挙げられる。この着色剤としては、無機顔料および有機顔料等の顔料が用いられる。顔料を添加することにより、意匠性を一層向上させて、顧客等の購買意欲を促進させることができる。
【0025】
また、発泡層110、130の厚みとしては、特に限定されないが、1mm以上10mm以下が好ましく、2mm以上7mm以下がより好ましく、3mm以上5mm以下がさらに好ましい。上記厚みを上限値以下とすることにより、エチレンガスの吸着効率を増加させることができる。一方、上記厚みを下限値以上とすることにより、クッション性を確保することができる。また、発泡層110および発泡層130の厚みは、同一でも異なっていてもよい。
【0026】
次に、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の作用効果について説明する。
【0027】
本実施の形態のエチレンガス吸着部材100では、発泡層110、エチレンガス吸着材層120、及び発泡層130からなる積層構造が構成されているので、炭素材を含有するエチレンガス吸着材層120の両面の表面がそれぞれ発泡層110、130で覆われるようにして、保護されている。このため、エチレンガス吸着部材100の様々な使用態様においても、エチレンガス吸着材層120の表面に、食品やその他の部材が接触することを抑制することができる。これにより、使用態様によらずに、食品やその他の部材が接触したときに生じる摩擦力や衝撃力を低減することができるので、エチレンガス吸着材層120の表面から炭素材が脱離することを抑制できる。したがって、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の取り扱いが容易になる。
【0028】
さらに、下記の用途に使用したときの本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の作用効果について説明する。
本実施の形態の使用態様としては、果実などの食品とともに保存、搬送、陳列等に用いるような使用態様が挙げられる。例えば、保存および搬送においては、食品を載置したり、ダンボール等の梱包箱に敷き詰めたり、その隙間を埋めたりする目的で使用できるし、また、陳列においては、商品を載置したまま陳列棚に配置する目的などで使用できる。例えば、保存の使用態様では、エチレンガス吸着材層120の表層が保護されているので、食品その他の梱包部材がエチレンガス吸着材層120と接触することを抑制できる。また、搬送の使用態様では、食品その他の梱包部材からエチレンガス吸着材層120に受ける衝撃を減少させることができる。これにより、炭素材が食品その他の商品に関連する部材に付着することを抑制することができるので、陳列の使用態様では、食品とともにエチレンガス吸着部材100を、そのままの状態で、顧客等の前に陳列することも可能となる。このように使用態様の経時変化において、炭素材の脱離が抑制されるので、エチレンガス吸着部材100のエチレンガス吸着性能を維持することができる。加えて、エチレンガス吸着部材100の製品間でのエチレンガス吸着性能のバラツキも抑制できる。これにより、本実施の形態によれば、安定して果実などの食品の品質を維持することが可能となる。また、本実施の形態によれば、炭素材の脱離が抑制されるので、食品に付着した炭素材を除去する手間も省略できる。これにより、商品その他の商品に炭素材が付着することを注意しなく済むので、使用態様によらずに、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の取り扱いが格段と容易になる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、エチレンガスを吸着する炭素材の脱離が抑制されるので、使用態様によって、エチレンガス吸着性能およびその経時変化について、製品間で大きくばらつくことが抑制される。
【0030】
また、本実施の形態によれば、具体的な使用態様の一例として、エチレンガス吸着部材100の表面上食品を直接載置することができる。このため、食品を、エチレンガス吸着材層120と接触させつつ、これと最接近の位置に配置しやすい。このため、本実施の形態によれば、食品から発生するエチレンガスを効率的に吸着できる。
【0031】
また、本実施の形態によれば、折り曲げたり、ねじ曲げる等が行われるような使用態様において、エチレンガス吸着部材100を変形させたとしても、バインダにより、発泡層110、130および炭素材が融着しているので、エチレンガス吸着材層120から炭素材が脱離することを抑制できる。これにより、多様な使用態様においても、エチレンガス吸着部材100から炭素材が脱離することを抑制できる。
【0032】
さらに、エチレンガス吸着部材100の取り扱いを一層高める観点からは、発泡層110、130として軟質なスポンジを用いることが好適である。これにより、エチレンガス吸着部材100が変形自在となるので、商品を適切に保護することができるとともに、多種多様な場所に配置することが可能となる。例えば、食品を覆うように包装したり、梱包箱と食品との間の空隙に詰め込む等が行いやすくなる。このように、発泡層110、130としてスポンジを用いることにより、エチレンガス吸着部材100をクッション材として利用して、食品の品質の維持性能を一層高めることができる。このような多彩な使用態様のために、バインダとしてゴム弾性が高く、かつ柔軟なものを適切に選択することにより、エチレンガス吸着部材100の耐久性を向上させることが可能となる。
【0033】
また、発泡層110、130は多孔質体であるため、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100は軽量となる。このような軽量部材を用いることにより、流通において搬送重量の上昇を抑制できるので、流通コストの上昇を抑制できる。
【0034】
また、本実施の形態では、発泡層110、130の全面にエチレンガス吸着材層120を形成することが好適である。これにより、一部の領域に形成する場合と比較して、エチレンガス吸着材層120の表面積を増加させることができる。加えて、エチレンガスの吸着量を向上させることができる。
【0035】
また、本実施の形態で使用する炭素材は通常、黒色を示すものであることが多い。このような黒色の炭素材を含有するエチレンガス吸着材層120の両面を、白色またはその他の色に着色した発泡層110、130で覆うことができる。このため、意匠性に優れたエチレンガス吸着部材100が得られるので、商品となる食品の購買意欲を高めることができる。
【0036】
また、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100は、食品を保存する方法に用いる食品保存部材として用いることができる。
本実施の形態の食品保存方法は、前述のエチレンガス吸着部材100とともに食品を包装する工程を含む。食品としては、例えば、桃、りんご、梨などの果実を含む農産物が好ましい。これにより、エチレンガスが食品に接触すること抑制できるので、食品の品質の劣化を防止することができる。
【0037】
次に、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の製造方法について説明する。
【0038】
本実施の形態のエチレンガス吸着部材100の製造方法は次の工程を含む。まず、バインダ、エチレンガスを吸着する炭素材、および溶剤を含む塗料を得る。続いて、この塗料を発泡層110と発泡層130との間に配置する。この後、塗料から構成された層を介して発泡層110と発泡層130とを接着する。以下、各工程について詳述する。
【0039】
まず、塗料を得る工程においては、例えば、溶剤中でバインダおよび炭素材を添加した後、これらを適切な時間と温度下で混ぜる。ここで、溶剤としては、水またはアルコール、水およびアルコールの混合溶剤等の水溶剤、または有機溶剤を用いることができる。この中でも、水溶剤が好ましい。
【0040】
続いて、発泡層110上に塗料からなる層を形成する。例えば、発泡層110の主面の全面に塗料を塗布してもよいし、塗料を乾燥して得られたフィルム状の接着層を発泡層110の主面の上に貼り付けてもよい。この後、塗料からなる層を挟み込むように、発泡層110と発泡層130とを貼り合わせて積層体を得る。
【0041】
ここで、塗布手法としては、特に限定されないが、従来公知の手法が使用可能である。例えば、塗布装置として、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーター、スプレーコーター、インクジェットコーター、ダイコーター等を用いることができる。
【0042】
次いで、得られた積層体を加熱処理して、バインダを発泡層110および発泡層130と融着させる。
以上の工程により、本実施の形態のエチレンガス吸着部材100が得られる。
【0043】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
次に、本実施の形態の各種の変形例について説明する。
【0044】
図2は、第1の変形例のエチレンガス吸着部材200の断面図である。
図2に示すように、第1の変形例としては、エチレンガス吸着部材200が、発泡層210(第1の発泡層)、エチレンガス吸着材層220(第3の発泡層)、および発泡層230(第2の発泡層)の3層の発泡層の積層体から構成されていている。このエチレンガス吸着材層220は、少なくとも前述のバインダと炭素材とが含浸された第3の発泡層で構成されている。この第3の発泡層としては、前述の発泡層と同種のものが用いられる。
【0045】
第1の変形例においては、エチレンガス吸着材層220を、第3の発泡層にバインダおよび炭素材を含浸させている。このため、ローラー間で絞ることにより、エチレンガス吸着材層220の膜厚制御性をさらに向上させることができる。言い換えると、エチレンガス吸着材層220の膜厚を設計通りとすることができる。これにより、生産性に優れたエチレンガス吸着部材200が得られる。また、実施の形態の効果も得られる。
【0046】
次に、第1の変形例のエチレンガス吸着部材200の製造方法について説明する。
まず、バインダ、炭素材、および溶剤を混合して塗料を得る。この塗料に第3の発泡層を浸漬する。続いて、この第3の発泡層を介して発泡層210および発泡層230を配置して積層体を得る。積層体を、適切な温度で熱処理することにより、エチレンガス吸着部材200が得られる。
【0047】
また、第1の変形例のエチレンガス吸着材層220において、第3の発泡層に代えて、不織布を用いることも可能である。この不織布の使用態様としては、不織布中にバインダとともに炭素材が練り込まれているか、バインダを含浸した袋状の不織布の中に、炭素材を封入してもよい。これにより、第1の変形例と同様の効果が得られるとともに、一層柔軟性に優れたエチレンガス吸着部材が得られる。こうしたことに用いる不織布としては、特に限定されないが、例えば、柔軟な不織布が好ましい。
【0048】
また、図3は、第2の変形例のエチレンガス吸着部材102の断面図である。
図3に示すように、第2の変形例では、発泡層110、エチレンガス吸着材層120、および発泡層130からなる積層体に加えて、この発泡層110上に、エチレンガス吸着材層122を介して、発泡層112を積層してもよい。また、これらの積層を複数繰り返して行ってもよい。これにより、クッション性とともに、エチレンガスの吸着量を向上させることができる。また、本実施の形態の効果も得られる。
【0049】
また、図4(a)は、第3の変形例のエチレンガス吸着部材104の上面図である。図4(b)は、このエチレンガス吸着部材104のAA'矢視における断面図である。
図4(a)に示すように、第3の変形例のエチレンガス吸着部材104においては、発泡層134の凹部の内部に、エチレンガス吸着材層124を介して、発泡層114が埋め込まれている。このように、発泡層114と発泡層134との間に形成されるエチレンガス吸着材層124の形状および体積を自在に変更することができる。すなわち、上面視において、発泡層114の周囲を一部または全部を囲うようにエチレンガス吸着材層124を形成しても良いし、及びまたは、断面視において、発泡層114の周囲を一部または全部を囲うようにエチレンガス吸着材層124を形成しても良い。このため、各種の使用態様に適合したエチレンガス吸着部材104を提供することができる。また、複数のエチレンガス吸着部材104を、発泡層114が内側になるように重ねて使用してもよい。また、本実施の形態の効果も得られる。
【0050】
また、図5(a)は、第4の変形例のエチレンガス吸着部材106の断面図である。また、図5(b)は、第5変形例のエチレンガス吸着部材108の断面図である。これらの変形例においては、発泡層116または発泡層118上に、食品等の商品を載置するための凹部140または凹部142が設けられている。このため、商品の配置が容易となるとともに、その位置ズレを防止することができる。また、商品の配置部分において、商品とエチレンガス吸着材層120やエチレンガス吸着材層124との距離がより短くなるので、一層効率的にエチレンガスを吸着することができる。また、これらを重ねて使用して、凹部140、142で構成される空隙中に、果実などの食品を配置してもよい。また、一面において、凹部140、142は複数設けられていてもよい。また、本実施の形態の効果も得られる。
【0051】
また、炭素材の一例である本実施の形態のエチレンガス吸着剤について以下詳述する。
【0052】
本実施の形態のエチレンガス吸着剤は、エチレンガスを吸着するものである。エチレンは植物の呼吸を促進するホルモンとして作用し、農作物等の食品の腐敗や保存期間短縮の原因となる。本実施の形態のエチレンガス吸着剤は、例えば、食品から発生するまたはその周囲に存在するエチレンガスを効率的に吸着することができる。このため、実施の形態lのエチレンガス吸着剤を用いれば、食品の品質の劣化を抑制するとともに、食品を長期間保存することができる。
【0053】
本実施の形態のエチレンガス吸着剤は、S1およびS2という2種類の比表面積の比によって特定される。すなわち、窒素吸着法によって求めた比表面積をS1とし、二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積をS2としたとき、S2/S1が1以上である。
【0054】
窒素吸着法によって求めた比表面積S1(以下、窒素換算比表面積S1という)は、広い孔径分布を有する細孔の総数を反映するパラメータである。
【0055】
従来の活性炭では、比表面積の指標として、この窒素換算比表面積S1を制御している(非特許文献1および特許文献1)。同文献には、この窒素換算比表面積S1を増大させるには、賦活剤や賦活ガスを用いて賦活処理を行うことが記載されている。この賦活処理とともに炭素化処理を、炭素材に対して行うことにより、炭素化中に生じる空隙の孔径を一層広げることができる。したがって、従来の活性炭においては、このような賦活処理により、窒素換算比表面積S1を制御して、活性炭の大表面積化が行われている。
【0056】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の賦活処理により窒素換算比表面積S1を大きくしたとしても、活性炭において、エチレンガスの吸着量や吸着安定性等の吸着特性が一定程度までしか向上しないことが判明した。
【0057】
本発明者らがさらに検討した結果、二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積S2(以下、二酸化炭素換算比表面積S2という)の増減の傾向が、エチレンガスの吸着量の増減の傾向とよく一致することを見出した。二酸化炭素換算比表面積S2の測定に用いる二酸化炭素ガスの動力学的分子径は、窒素ガスよりも小さい。このため、窒素ガスでは検出できないサイズの細孔を、二酸化炭素ガスにより検出できると考えられる。
上記実験事実に基づき、本発明者らは、次の仮説を立てた。
(1)エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔というものが存在する。
(2)上記(1)のサイズの細孔を増大させることでエチレンガス吸着性能を効果的に改善できる。
こうした仮説に基づき、本発明者らは、エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔がどれくらい存在するかを示す指標を見出し、その指標を適切な値に制御することを検討した。
【0058】
そして、種々の実験結果から、窒素換算比表面積S1と、二酸化炭素換算比表面積S2との比、S2/S1が、上記(2)の指標として適切であるとの結論を得た。すなわち、S2/S1を大きくすれば、エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔が増大するという関係を見出した。
ここで、「エチレン分子を吸着させるのに適したサイズ」とは、より熱力学的に安定な状態を実現するサイズということを意味している。すなわち、エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔内では、エチレンガスの吸着がしやすい傾向がある。
【0059】
以上のように、本実施の形態のエチレンガス吸着剤においては、二酸化炭素換算比表面積S2/窒素換算比表面積S1(以下、S2/S1という)を採用し、原料および製法を適切に選択することにより、この比の値を1以上としている。これにより、エチレンガスの吸着特性に優れたエチレンガス吸着剤を得ることができる。
【0060】
これに対して、特許文献2や非特許文献1に記載の活性炭のS2/S1は、大きくとも0.5に止まり、本実施の形態のものより大幅に下回る。
前述のとおり、従来の活性炭においては、ガスの吸着量を増大させるためには、賦活処理を用いて、比表面積の増大を図ることを最も重要視している。この賦活処理は、炭素化中に生じる空隙の孔径を拡張するものである。これにより、エチレンガスを吸着しやすい細孔の孔径も拡張されることになる。その結果、窒素換算比表面積S1が増大する一方で、二酸化炭素換算比表面積S2は低減する。従って、従来の活性炭のS2/S1は、本実施の形態のものより大幅に下回ることになる。
【0061】
以下、本実施の形態のエチレンガス吸着剤について、詳細に説明する。
【0062】
本実施の形態のエチレンガス吸着剤において、S2/S1の下限値は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上である。S2/S1を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着特性に優れたエチレンガス吸着剤を得ることができる。なお、S2/S1の上限値は、特に限定されないが、たとえば好ましくは1000以下であり、より好ましくは100以下である。また、本実施の形態のエチレンガス吸着剤において、S2/S1の下限値を1.5以上とすることにより、高いガス吸着性能と、そのガス吸着性能を一定期間維持する性能を実現できる。さらには、エチレンガス吸着性能およびその経時変化について、製品間で大きくばらつくことを抑制することも可能となる。
【0063】
また、本実施の形態のエチレンガス吸着剤として、熱処理により、炭素原子を含む有機物を炭化することにより得られる多孔質体を用いることができる。この有機物としては、特に限定されないが、石油ピッチ、石炭ピッチ、ポリアクリルトリル系、レーヨン系、フェノール樹脂系等の繊維系原料;穀類、果実殻、木粉等の植物系原料、パン酵母、ビール酵母、酵母滓などの酵母類等が挙げられる。また、有機物としては、糖類を含む化合物が好ましい。糖類としては、単糖類、単糖が2〜20分子程度結合したオリゴ糖類、デンプンおよびセルロース等の多糖類等が挙げられる。この中でも、セルロースが好ましい。
【0064】
上記窒素換算比表面積S1は、窒素吸着等温線に基づいて算出することが好ましい。例えば、エチレンガス吸着剤を−196℃に冷却した状態で窒素ガスを導入し容量法により窒素ガスの吸着量V〔cm/g〕を測定する。このときに導入する窒素ガスの圧力P〔mmHg〕を徐々に上げる。その圧力P〔mmHg〕を窒素ガスの飽和蒸気圧P〔mmHg〕で割った相対圧力P/Pとする。この相対圧力P/Pに対し、吸着量V〔cm/g〕をプロットすることにより、窒素吸着等温線を得る。この窒素吸着等温線に基づく細孔分布解析としては、例えばα解析が一般的に知られている。α解析は、無孔性固体の標準等温線と比較して細孔構造を解析する方法であり、K.Kaneko and C.Ishi、 Colloid Surface、 1992に記載された手順に従って行うことができる。本件では、自動ガス吸着装置(日本ベル(株)製、Belsorp 28SA)にて得た窒素吸着等温線に対してα解析を適用した。標準窒素吸着等温線には無孔性カーボンブラックのデータを用い、この標準等温線におけるP/P=0.4の吸着量を指標として、これを試料の吸着等温線の各相対圧での吸着量と比較することで、細孔径2nm以下のミクロ孔領域の細孔表面積を評価した。
【0065】
また、−196℃で測定した窒素吸着等温線で得られる窒素換算比表面積S1としては、S2/S1が所望の値を満たす限り特に限定されないが、下限値は、好ましくは1m/g以上であり、より好ましくは10m/g以上であり、一方、上限値は、好ましくは1000m/g以下であり、より好ましくは600m/g以下である(これらの窒素換算比表面積S1の値はα解析を用いて算出する。ただし、α解析にも従わない窒素吸着等温線である場合であって、N吸着量が極小の場合には、Nガスの入り込むスペースが無いような非多孔性の材料であると判断し、窒素換算比表面積S1は1m/gとする。)。窒素換算比表面積S1を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着効率を向上させることができる。例えば、原料や製法を適切に選択することにより、窒素換算比表面積S1を上記範囲内とすることができる。
【0066】
上記二酸化炭素換算比表面積S2は、二酸化炭素吸着等温線に基づいて算出することが好ましい。例えば、室温下における二酸化炭素の吸着測定(自動ガス吸着装置(日本ベル(株)製、Belsorp 28SA))を行い、二酸化炭素吸着等温線を得る。この二酸化炭素吸着等温線に基づく細孔分布解析としては、例えばDR解析が一般的に知られている。DR解析は、F. Martin、 et al.、 Separation and Purification Technology、 2010に記載された手順に従って行うことができる。DR解析は、主としてI型を示す等温線に対して適用される細孔構造解析法の1つである。ミクロ孔の吸着ポテンシャル分布がガウス分布に従うと仮定すると、吸着量Vと相対圧P/Pとの間には、以下の関係が成り立つ。
V=Vexp[−(A/βE
ただしA=RTln(P/P)
:吸着ポテンシャル、V:ミクロ孔容量、β:親和係数、E:特性吸着エネルギー
上式の両辺を対数でとったlnVと(P/P)とのプロットの切片からV、傾きからEが算出できる。本書では、二酸化炭素の室温データとしてβ=0.36、吸着量の換算には比重1.035を用いる。
【0067】
また、25℃で測定した二酸化炭素吸着等温線で得られる二酸化炭素換算比表面積S2としては、S2/S1が所望の値を満たす限り特に限定されないが、下限値は、好ましくは250m/g以上であり、より好ましくは500m/g以上であり、一方、上限値は、好ましくは2000m/g以下であり、より好ましくは1500m/g以下である(これらの二酸化炭素換算比表面積S2はDR解析に基づいて算出する)。二酸化炭素換算比表面積S2を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着量を向上させることができる。また、例えば、原料や製法を適切に選択することにより、二酸化炭素換算比表面積S2を上記範囲内とすることができる。
【0068】
また、本実施の形態のエチレンガス吸着剤においては、25℃で測定した二酸化炭素吸着等温線で得られる、平衡圧20kPaにおける二酸化炭素の吸着量は、特に限定されないが、0.5mmol/g以上が好ましく、1.0mmol/g以上がより好ましい。エチレンガスの吸着量の指標となる二酸化炭素換算比表面積S2は、圧力およびその二酸化炭素の吸着量から算出される。このため、この平衡圧20kPaにおける二酸化炭素の吸着量を高くすることは、平衡圧が低い状態でも、エチレンガスを所定量吸着できることを示す。
【0069】
また、本実施の形態のエチレンガス吸着剤においては、25℃、平衡圧20kPaで測定したエチレンガスの吸着量は、特に限定されないが、0.6mmol/g以上が好ましく、0.8mmol/g以上がより好ましく、1.5mmol/g以上がさらに好ましい。この平衡圧20kPaにおけるエチレンガスの吸着量を高くすることは、低分圧なエチレンガスを所定量吸着できることを示す。
【0070】
食品からエチレンガスが生成された初期段階では、エチレンガス量が数ppmと微量であるため、エチレンガスの分圧は低い状態となる。こうした食品からエチレンガスが生成された初期段階における低分圧のエチレンガスの吸着特性を示す指標としては、上記低平衡圧下でのエチレンガスの吸着特性となる。本実施の形態のエチレンガス吸着剤では、指標としての低平衡圧の範囲を、初期段階におけるエチレンガスの分圧が低いという観点から、10kPaから50kPaとする。また、この低平衡圧の範囲の中でも、エチレンガスの吸着量の上昇率が高くなる観点から、平衡圧が20kPaのものを最適な指標として採用する。
本実施の形態のエチレンガス吸着剤では、こうした初期段階におけるエチレンガスの低分圧時においても、(i)低平衡圧下のエチレンガスの吸着量を大きくすることにより及び/または(ii)低平衡圧下の二酸化炭素の吸着量を大きくすることにより、エチレンガスの吸着量を所定値確保することが可能となる。これにより、エチレンガスの生成開始段階から、エチレンガスをある程度吸着できるので、食品の劣化を一層抑制することができる。また、測定温度の25℃は、室温保存を想定している。たとえば、輸送等において冷蔵保存を行う場合には、冷蔵保存の温度を測定温度に合わせて、本実施の形態のエチレンガス吸着剤における低平衡圧下の二酸化炭素および又はエチレンガスの吸着量を決定できる。また、低平衡圧時におけるエチレンガスまたは二酸化炭素の吸着量は、例えば、原料や製法を適切に選択することにより、上記範囲内とすることができる。
【0071】
また、本実施の形態のエチレンガス吸着剤においては、25℃、平衡圧100kPaで測定したエチレンガスの吸着量は、特に限定されないが、1.0mmol/g以上が好ましく、2.0mmol/g以上がより好ましい。この平衡圧100kPaにおけるエチレンガスの吸着量を高くすることは、エチレンガスを充分吸着できることを示す。
【0072】
また、本実施の形態のエチレンガス吸着剤の酸素原子(以下、Oと表記する)/炭素原子(以下、Cと表記する)の原子比は、特に限定されないが、好ましくは0.01以上0.3以下であり、より好ましくは0.1以上0.2以下である。また、このエチレンガス吸着剤の水素原子(以下、Hと表記する)/Cの原子比は、特に限定されないが、好ましくは0.01以上0.6以下であり、より好ましくは0.1以上0.2以下である。O/Cの原子比及び/又はH/Cの原子比を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着効率に優れたエチレンガス吸着剤が得られる。また、エチレンガス吸着剤中におけるO、HおよびCの質量の測定手法としては、一般的な燃焼法による元素分析装置(ヤナコ分析工業株式会社 CHN CORDER)を用いることができる。
【0073】
次に、本実施の形態のエチレンガス吸着剤の製造方法について説明する。
【0074】
本実施の形態のエチレンガス吸着剤の製造方法は、賦活処理を行わずに、熱処理することにより、炭素原子を含む有機物を炭素化する工程を含むものである。本書では、賦活処理とは、アルカリ金属やアルカリ水溶液などの賦活剤を用いる薬品賦活法、および水蒸気や炭酸ガスを用いるガス賦活法などの汎用の手法を意味する。また、本実施の形態の熱処理においては、一度ピークに達した時点を基準に炭素化収率(残炭率)が好ましくは50%以下、より好ましくは80%以下に減少しないような環境下で熱処理を行うことを意味する。こうした環境は、例えば、密閉装置や不活性ガスを用いた密閉した空間を用いたり、熱処理温度を適切に調整することにより達成できる。
以下、詳細に説明する。
【0075】
上記密閉装置を用いる場合、例えば、有機物を電気炉にて熱処理する。電気炉内は炭素化収率(残炭率)を軽減させない環境下が望ましい。不活性ガスを用いる場合、例えば、不活性ガス雰囲気下で有機物を熱処理する。不活性ガスとしては、特にガス種は限定されないが、Nガス、Arガス等の希ガスなどが挙げられる。本実施の形態においては、高炭素化収率を達成できるNガスが好ましく、99.9995%以上の純度のNガスがより好ましい。熱処理の温度条件としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは400℃以上1000℃以下であり、より好ましくは500℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは700℃以上900℃以下である。この中でも、700℃近傍の温度条件がとくに好ましい。熱処理の温度条件を適切に選択することにより、エチレンガスの吸着特性を向上させることができる。
【0076】
次に、密閉装置を用いた具体的な一例を示す。例えば、まず、有機物(例えば、セルロース)を密閉装置(例えば、ルツボ)に入れる。次いで、密閉した状態で、タール分が揮発しない条件で加熱処理を行う。このように、タール分をそのまま系外に排出せずに、これを炭素分として固定化することが好ましい。これにより、エチレンガス吸着剤のエチレンガスの吸着特性を一層向上させることができる。
【0077】
前述のとおり、一般的な活性炭の製法は、賦活処理により、付加的に炭素材料の大表面積化を行うものである。このため、発達した細孔構造を有する活性炭が得られるとともに、炭素材料から活性炭が得られるまでに大きな重量減少(炭素消耗)が付随して起こる。
【0078】
これに対して、本実施の形態においては、上記賦活処理を行わないものである。このため、一般的な活性炭が有する幅広い細孔分布の細孔の形成が抑制され、エチレンガスを吸着しやすい孔径の細孔を効率的に維持することができるものと推察される。また、熱重量減少がほとんど起きないような温度域で炭素化を実行することができる、また、賦活処理を必要としないため、低コストを低減することができる。
【0079】
以上のように、本実施の形態のエチレンガス吸着剤は、有機物、とくに好ましくはセルロースを熱分解するという簡便な手法により、得られるものである。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
700℃で熱処理したセルロース(関東化学株式会社製、2931−1M)をエチレン・酢酸ビ共重合体(昭和電工株式会社製、P−4N)に、固形分比率が樹脂:セルロース=2:8になる様に配合し、溶液の固形分を45w%となる塗料を製造した。
塗料を連続発泡体であるポリウレタンスポンジ100mm×100mm厚さ7mmの片面に塗布し、2枚のスポンジの塗布面を貼り合わせて、スポンジによるサンドウィッチを作製した。このサンドウィッチを120℃で1時間加熱処理を行い、エチレンガス吸着部材を得た。
その結果、2枚のポリウレタンスポンジは接着され、スポンジとスポンジの間は、熱処理したセルロースが3g含有の層になった。
このエチレンガス吸着部材は、外面がポリウレタンスポンジ単体面でセルロース熱処理体が脱落、飛散しないものとなった。このエチレンガス吸着部材を幅8mm、長さ30mmにカットしてサンプを作製した。このサンプルのエチレンガスの吸着量を測定した結果、1.20mmol/gの吸着を確認した。
エチレンガスの吸着量の測定条件:
装置: 高精度全自動ガス吸着装置 BELSORP 28SA (日本ベル株式会社製)
条件: 室温にて20時間、10−5Paまで真空脱気した後、25℃にて平衡圧100kPaまで等温線を測定
【0082】
[実施例2]
700℃で熱処理したセルロース(関東化学株式会社製、2931−1M)を水溶性ポリウレタン溶液(エラストロンE−37、第一工業製薬(株)製)に固形分比率が樹脂:セルロース=4:6になる様に配合し、溶液の固形分を30w%となる塗料を製造した。
厚み5mmのポリウレタンスポンジを塗料に浸漬した。その後、2本のローラー間のギャップ3mmで、含浸ポリウレタンスポンジを絞り、無処理の5mmのポリウレタンスポンジ2枚で挟み、80℃で30mins、100℃で1hr、120℃で30mins加熱処理をした。
3枚のポリウレタンスポンジは接着され、12gの熱処理セルロースが付着した100mm×100mmの一枚の積層スポンジとなった。この積層スポンジを幅8mm、長さ30mmにカットして、サンプルを得た。このサンプルについて、実施例1と同様の条件で、エチレンガスの吸着量を測定した結果、1.05mmol/gの吸着を確認した。
【0083】
[実施例3]
水溶性ポリウレタン溶液(エラストロンE−37、第一工業製薬(株)製)の7w%希釈液を5mmtのポリウレタンスポンジの片面に約1mm深度(厚み方向における表面からの距離)に含侵させた後、60℃で30分の乾燥を行った。このスポンジを幅8mm、長さ30mmにカットし2枚用意する。
他方、不織布(ベンリーゼ(登録商標) SN140、旭化成繊維(株)製)を熱可塑性ポリウレタン溶液(8012u、山南合成(株)製)を7w%に希釈した溶液に漬け込み含侵させ、その後60℃で30分の乾燥を行った。この不織布を幅6mm、長さ25mmの袋状にして、中に700℃で熱処理したセルロース(2931−1M、関東化学(株)製)0.3gを封入した。このセルロースが封入された不織布袋を前述のスポンジ:幅8mm、長さ30mmの水溶性ポリウレタン溶液を含侵した面が不織布袋に触れるようにサンドし、60g/cmの荷重をかけ(スポンジがつぶれる位)120℃で30分加熱した。出来上がった試料は、大変しなやかで、微粉末ももれて飛散することがない一枚のスポンジとなった。
この試料のエチレン吸着量を実施例1と同様の条件で測定した結果1.63mmol/gとなった。
【0084】
[実施例4]
箱の底に敷き詰めた実施例1で得られたサンプルの上に、市販品の桃を静置した。サンプルとともに桃を冷蔵庫の中で30日間保存した。保存後の桃の堅さ、色ともに良好であった。また、25℃で7日間保存した場合も桃は堅さ、色も良好であり、味、香りも大変良好であった。
また、実施例2または3で得られたサンプルを用いた場合にも、実施例1で得られたサンプルと同様に、桃は堅さ、色も良好であり、味、香りも良好であった。
[比較例1]
一方で、箱の底に敷き詰めたスポンジ上に市販品の桃を静置した以外は、実施例4と同様の条件で行った。比較例1の保存後の桃の形状は、自重で変形しており、その色も茶色となっていた。
【符号の説明】
【0085】
100 エチレンガス吸着部材
102 エチレンガス吸着部材
104 エチレンガス吸着部材
106 エチレンガス吸着部材
108 エチレンガス吸着部材
110 発泡層
112 発泡層
114 発泡層
116 発泡層
118 発泡層
120 エチレンガス吸着材層
122 エチレンガス吸着材層
124 エチレンガス吸着材層
130 発泡層
134 発泡層
140 凹部
142 凹部
200 エチレンガス吸着部材
210 発泡層
220 エチレンガス吸着材層
230 発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発泡層と、
第2の発泡層と、
前記第1の発泡層と前記第2の発泡層との間に配置されたエチレンガス吸着材層と、を備え、
前記エチレンガス吸着材層は、前記第1の発泡層および前記第2の発泡層と接着するバインダと、エチレンガスを吸着する炭素材と、を含む、エチレンガス吸着部材。
【請求項2】
前記バインダが、ポリウレタン、ポリエチレン、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項3】
前記バインダが水性バインダである、請求項2に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項4】
前記第1の発泡層および前記第2の発泡層が、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、およびポリスチレンからなる群から選択される少なくとも一種で構成される、請求項1から3のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項5】
前記第1の発泡層および前記第2の発泡層がスポンジである、請求項1から4のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項6】
前記エチレンガス吸着材層は、少なくとも前記バインダと前記炭素材とが含浸された第3の発泡層で構成される、請求項1から5のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項7】
前記炭素材は、
窒素吸着法によって求めた比表面積をS1とし、
二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積をS2としたとき、
S2/S1が1以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項8】
前記第1の発泡層および前記第2の発泡層が10mm以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項9】
食品を保護するクッション材として用いる、請求項1から7のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材を含む、食品保存部材。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着部材とともに食品を包装する工程を含む、食品保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−110869(P2012−110869A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264232(P2010−264232)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(394006037)株式会社松本技研 (4)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】