説明

エナミノカルボニル化合物およびその使用

本発明は、式(I)のエナミノカルボニル化合物(式中、XはOまたはCH2を表し、YがNを表し、RおよびRがそれぞれ水素であるか、あるいはYがCHを表し、RまたはRのいずれかがC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRが水素を表すかのいずれかであり、YがCHを表し且つRまたはRがC1〜4アルキルである場合には、R鏡像体またはS鏡像体のいずれかに富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択される)に関する。本発明は、式(I)の化合物(式中、XがOまたはCH2を表し、YがCHを表し、RまたはRのいずれかが水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRが水素を表す)の、製品および/または経口投与用製剤の味を修正するための使用にも関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、カルボニル基と、このカルボニル基の炭素原子に隣接した炭素原子に結合した側鎖におけるエナミン基とを有する5員環を有するエナミノカルボニル化合物、およびこれらの化合物の味の修正剤としての使用である。
【背景技術】
【0002】
最近、多くの人が肥満、高血圧、心臓病、および腎臓病、ならびに虫歯に罹患している。これらの疾患は、サッカロースまたは他のカロリー甘味料の過度の摂取によって引き起こされ得る。上述した疾患、糖尿病に罹患した人、ならびに体重を維持または低減させることを希望する人は、人工甘味料を使用することができる。これらの甘味料は、消費する食材に甘味を与え、同時に、従来の砂糖(サッカロース)および他のカロリー甘味物質で甘味づけされた製品と比較して、カロリー含量を低減することを助ける。甘味料は、食材に用いられるだけでなく、多くの他の製品、例えば、練り歯磨き、チューインガム、および口内洗浄液にも、これらの味を改良するために用いられる(「Alternative Sweeteners」、第3版(改訂および追補)、Lyn O'Brien Nabors Ed., Marcell Dekker, Inc, 2001)。
【0003】
多くの低カロリー合成甘味料、例えば、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、シクラミン酸ナトリウム、サッカリン、または最近ではスクラロースなどが知られている。多くの甘味料が現在ポーランドおよび他の国で一般販売が認可されているという事実にかかわらず、甘味料として使用することができる新たな種類の合成化合物を探し出す現実的な必要性が依然として存在する。
【0004】
国際出願PCT/US2008/055913は、甘味を有するタンパク質化合物を開示している。これらの化合物は、53個のアミノ酸残基のタンパク質であるブラゼインの類似体である。
【0005】
国際出願PCT/US2008/063850は、式:R3OS(O)2-NR1R2(式中、R3は、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、R1および/またはR2は、アルキル、シクロアルキル、またはヘテロ環置換基を表す)を有するスルファミン誘導体を開示している。この発明の化合物は、甘味を増強する特性を示す。
【0006】
甘味料とは別に、甘味は、甘味阻害剤の使用によっても修正される。多くの食材(例えば、ジャム、フルーツゼリーなど)は、大量のサッカロースを甘味料として含有する。さらに、サッカロースおよび他のカロリー甘味料は、増量剤およびゲル化温度低下剤として用いられる。阻害剤は、過度に甘い味を軽減し、認識される甘味を所望のレベルに低下させるために用いられる。さらに、阻害剤を用いて、持続的な甘味または不愉快な後味を特徴とする人工甘味料の味を改良することができる。一般的に用いられる甘味阻害剤は、例えば、2-(4-メトキシフェノキシ)プロパン酸のナトリウム塩である(「Alternative Sweeteners」、第3版(改訂および追補)、Lyn O'Brien Nabors Ed., Marcell Dekker, Inc, 2001)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際出願PCT/US2008/055913
【特許文献2】国際出願PCT/US2008/063850
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Alternative Sweeteners」、第3版(改訂および追補)、Lyn O'Brien Nabors Ed., Marcell Dekker, Inc, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、甘味を付与および増強する特性を示す化合物、甘味を阻害する特性を示す化合物を提供し、さらには味を修正するための化合物の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の化合物は、E異性体および/もしくはZ異性体、ならびに/または互変異性体の形態の、式(I)のエナミノカルボニル化合物である:
【化1】

(式中、Xは、OまたはCH2を表し、
YがNを表し、RおよびRが水素を表すか、あるいは
YがCHを表し、RまたはRのいずれかがC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRが水素を表すかのいずれかであり、
YがCHを表し、同時にRまたはRがC1〜4アルキルである場合には、前記化合物が、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択される)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましくは、式(I)において、Xは、OまたはCH2を表し、YはCHを表し、RまたはRの1つはC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRは水素を表す。この場合において、前記化合物は、R鏡像体を少なくとも90%、好ましくはR鏡像体を少なくとも95%含有するRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体を少なくとも90%、好ましくはS鏡像体を少なくとも95%含有するRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択され、E異性体および/もしくはZ異性体、ならびに/または互変異性体の形態である。
【0012】
好ましくは、式(I)において、Xは、OまたはCH2を表し、YはCHを表し、RまたはRの1つは、メチル、エチル、水素からなる群から選択され、残りの、RまたはRは水素を表す。
【0013】
特に、化合物は、(R)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0014】
特に、化合物は、(S)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0015】
特に、化合物は、(R)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0016】
特に、化合物は、(S)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0017】
特に、化合物は、(R)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンである。
【0018】
特に、化合物は、(S)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンである。
【0019】
特に、化合物は、3-(3-ピリジルメチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0020】
本発明によれば、E異性体および/もしくはZ異性体、ならびに/または互変異性体の形態の、式(I)の化合物:
【化2】

(式中、Xは、OまたはCH2を表し、YはCHを表し、RまたはRの1つは水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRは水素を表し、
またはRがC1〜4アルキルを表す場合には、前記化合物が、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択される)
を、製品および/または経口投与用製剤の味の修正において使用する。
【0021】
好ましくは、式(I)の化合物(式中、RおよびRは水素を表す)を使用して、製品および/または経口投与用製剤の甘味の知覚を付与または増強する。
【0022】
特に、使用する化合物は、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0023】
特に、使用する化合物は、2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノンである。
【0024】
好ましくは、式(I)の化合物(式中、RまたはRの1つはC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRは水素を表し、前記化合物が、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、ならびにR鏡像体から選択される)を、製品および/または経口投与用製剤の味の修正において使用する。
【0025】
特に、使用する化合物は、(R)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0026】
特に、使用する化合物は、(R)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0027】
特に、使用する化合物は、(R)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンである。
【0028】
好ましくは、式(I)の化合物(式中、RまたはRの1つはC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRは水素を表し、前記化合物が、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、ならびにS鏡像体から選択される)を、製品および/または経口投与用製剤の甘味の知覚を阻害するために使用する。
【0029】
特に、使用する化合物は、(S)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0030】
特に、使用する化合物は、(S)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンである。
【0031】
特に、使用する化合物は、(S)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンである。
【0032】
本発明の化合物は、高価ではない入手可能な物質から、効率的な2段階の合成方法を用いて製造される。定義した本発明の化合物の群(アキラルな化合物およびR配置のキラルな化合物を包含する群)は、甘味を付与または増強する特性を有し、有用な味プロファイルによって特徴付けられる。この群からの逆のキラリティを有する化合物(S配置を有するキラルな化合物)は、甘味を阻害する特性を示す。甘味の知覚を付与する化合物と甘味の知覚を阻害する化合物とが構造的に類似しているため、これらの化合物を、化学構造と甘味の付与/阻害特性との間の関係の研究に使用することができる。
【0033】
本発明の化合物は、式(I)の化合物である:
【化3】

(式中、Xは、OまたはCH2を表し、
YがNを表し、RおよびRが水素を表すか、あるいは
YがCHを表し、RまたはRのいずれかが水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRおよびRが水素を表すかのいずれかであり、
以下の化合物:
3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノン
は除かれ、
YがCHを表し、RまたはRがC1〜4アルキルを表す場合には、前記化合物が、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択される)。
【0034】
3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンは、公知の化合物である(参照:L. Kozerskiら、Magn. Reson. Chem., 1998, 36(12), 921-928;P. Krajewskiら、Synth. Commun. 34(20), 2004, 3737-3742)。文献には、この化合物の味の修正に関する実用的な特性に関するデータは、全くない。
【0035】
2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノンは、公知の化合物である(参照:N. B. Marczenkoら、Khim. Geterotsikl. Soedin., 1982, 1, 68-71)。文献には、この化合物の味の修正に関する実用的な特性に関するデータは、全くない。
【0036】
またはRの1つがC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRが水素を表す場合、式(I)の化合物は、不斉炭素原子(式(IA)においてアスタリスクで示す原子):
【化4】

を有し、式(I)で表される化合物は、ラセミ混合物、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、またはS鏡像体の形態を取りうる。上述したように、本発明の化合物は、不斉炭素を有する場合には、RS鏡像体鏡像体、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、ならびにS鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物からなる群から選択される、式(I)の化合物でもある。
【0037】
意外にも、本発明の化合物が、味を修正する特性を示すことが観察された。式(I)の化合物であって、XがOまたはCH2を表し、YがNまたはCH2を表し、RおよびRが水素を表す化合物は、甘味の知覚を付与または増強する特性を示す。本発明の式(I)の化合物であって、RまたはRが水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRが水素を表す化合物も、置換基RおよびRに結合する炭素の配置がRである場合には、甘味の知覚を付与または増強する特性を示す。しかし、本発明の式(I)の化合物であって、RまたはRが水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRが水素を表す化合物は、置換基RおよびRに結合する炭素の配置がSである場合には、甘味を阻害する特性を示す。
【0038】
RおよびS鏡像体によって引き起こされる、この特有の、対照的な味の修正活性の結果として、式(I)の化合物のラセミ混合物(置換基RおよびRに結合する不斉炭素が存在し、50%のR鏡像体および50%のS鏡像体を含有する混合物)は、甘味を示さない。しかし、一方の鏡像体(RまたはS)に富む混合物は、より多い量で存在する鏡像体に特徴的な有用な特性を示し、この特性の強度の程度は、混合物中のこの鏡像体の富化の程度に依存する。
【0039】
カルボニル基、およびこのカルボニル基を有する炭素原子に隣接した炭素に結合したエナミン基に起因して、式(I)を有する化合物は、強く分極した炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する「プッシュプルエチレン類」として知られる化合物群に属する。(参照:J. Sandstrom Top、Stereochem. 14, 1983, 83)。この炭素−炭素二重結合のまわりの回転のエネルギー障壁は、非分極炭素−炭素二重結合を有する化合物と比較して、大幅に低下する。非分極炭素−炭素二重結合を有する化合物では、Z異性体→E異性体および/またはE異性体→Z異性体の異性化は、通常の条件および通常に近い条件下では観測されない。典型的なZ/E(すなわちシス/トランス)異性体とは対照的に、式(I)の化合物は、溶液中、周囲温度で異性化し得る。非極性溶媒、中程度に極性の溶媒、およびこれらの混合溶媒中では、式(I)の化合物は、ZおよびEの混合物の形態で存在し得る。極性溶媒(例えば、DMSO、アルコール類、水、およびピリジンなど)中では、ZとEとの平衡は、完全にE異性体にシフトし得る。結晶状態では、式(I)の化合物は、通常、E異性体の形態で存在する。
【0040】
Z異性体/Eが存在し、異性化(Z異性体→E異性体および/またはE異性体→Z異性体)が起こり得る可能性とは無関係に、式(I)の化合物は、一連の互変異性体の形態で存在し得る。その構造をスキームIに示す。
【0041】
【化5】

【0042】
式(I)においてXがCH2を表す場合には、式(I)の化合物は、スキームIIに示す互変異性形態でも存在し得る。
【0043】
【化6】

【0044】
本明細書および本発明の特許請求の範囲における用語「エナミノカルボニル化合物」は、E異性体の形態、Z異性体の形態、E異性体およびZ異性体の混合物の形態、ならびにスキームIおよび/またはIIに示した互変異性形態の式(I)の化合物を包含する。この場合において、置換基RおよびRに直接結合する炭素原子が不斉原子である場合、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物の形態、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物の形態、R鏡像体の形態、ならびにS鏡像体の形態の式(I)の化合物も包含する。
【0045】
本明細書および本発明の特許請求の範囲における用語「味修正化合物」は、経口投与した場合に甘味の知覚を修正する特性、特に、甘味を付与もしくは増強する特性、または、甘味を特徴とする物質および/または製品の甘味、または甘味を特徴とする物質および/または製品の混合物の甘味を阻害する特性によって特徴付けられる式(I)の化合物を指す。
【0046】
エナミノカルボニル化合物は、通常、1,3-ジカルボニル化合物と、適切なアミン類とから製造する(J. V. Greenhill、J. Chem. Soc. Rev., 6, 1977, 277-294)。
【0047】
エナミノカルボニル化合物、例えば、エナミノブチリルラクトン(XがOを表す式(I)の化合物)は、文献に記載されているいくつかの方法を用いて製造することができる。例えば、3-ジメチルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンを製造する方法であって、4-ブチリルラクトンと、ジメチルアセタール-ジメチルホルムアミド (DMA-DMF)とを縮合させ、次いで、生成したエナミノラクトンを、適切な遊離の一級アミンを用いてアミノ交換反応させることによる方法が知られている(N. B. Marczenkoら、Khim. Geterotsikl. Soedin., 1982, 1, 68-71)。さらに、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンを、ベンジルアミンと、2-オキソ-シクロペンタノカルバルデヒドとの縮合によって製造することができる(A. Missoumら、Synth. Commun., 27(3), 1997, 453-466)。別の公知の方法では、4-ブチリルラクトンを、1当量の水素化ナトリウムの存在下で、メチルもしくはエチルホルメートと縮合させる。最初の段階では、3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩が生成し、これが、第二の段階では、溶媒としてのメタノールの存在下で、付加塩の形態の一級アミンと縮合する(P. Krajewskiら、Synth. Commun., 34(20), 2004, 3737-3742)。
【0048】
エナミノカルボニル化合物、例えば、エナミノシクロペンタノン(XがCH2を表す式(I)の化合物)は、DMA-DMFを用い、シクロペンタノンとDMA-DMFとを縮合させ、その後、2-ジメチルアミノメチレンシクロペンタノンを、適切な遊離のアミンを用いてアミノ交換反応させる方法を用いて製造する。エナミノシクロペンタノンは、ルイス酸の存在下でのシクロヘキシ-2-エノンとアルキルアジドとの反応によっても製造される(D. Srinivassa Reddyら、Org. Lett., 5(21) 2003, 3899-3903)。
【0049】
1つの実施態様では、式(I)の化合物であって、XがOを表し、YがNを表し、RおよびRのそれぞれが水素を表すか、あるいはYがCHを表し、RまたはRのいずれかが、水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRが水素を表すかのいずれかである化合物を、スキームIIIに示す反応によって製造する。
【0050】
【化7】

【0051】
別の実施態様では、式(I)の化合物であって、XがOを表し、YがNを表し、RおよびRのそれぞれが水素を表すか、あるいはYがCHを表し、RまたはRのいずれかが、水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRが水素を表すかのいずれかである化合物を、スキームIVに示す反応によって製造する。
【0052】
【化8】

【0053】
別の実施態様では、式(I)の化合物であって、XがCH2を表し、YがCHを表し、RまたはRのいずれかが、水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRが水素を表す化合物を、スキームVに示す反応によって製造する。
【0054】
【化9】

【0055】
本発明を、以下の実施例によって説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0056】
以下の一般的方法A1、A2、およびBを、XがOを表す式(I)の化合物を製造するために用いる一方、XがCH2を表す式(I)の化合物を製造するためには、方法Cの手順を用いた。
【0057】
本発明の化合物を製造するために、式:H2NC(R1R2)Ar(式中、Arは、フェニルまたは3-ピリジルを表し、RまたはRは、水素またはC1〜4アルキルを表す)を有するアミン、または場合によりこれらのアミンと酸との付加塩を用いた。RまたはRがC1〜4アルキルを表す場合には、このアミン:H2NC*(R1R2)Ar は、(アスタリスクで示した)不斉炭素原子を有し、ラセミ混合物の形態、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物の形態、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物の形態、R鏡像体の形態、またはS鏡像体の形態で存在し得る。以下の実施例では、鏡像体過剰率96%(約98%の光学純度を意味する)の市販のキラルなRまたはSアミンを利用する。比較実施例では、式:H2NC(R1R2)Arを有するラセミ混合物の形態のアミン、および式:H2N(アルキル)およびH2N(アリール)を有するアミンも利用する。
【0058】
方法A1およびA2で原材料として用いる3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩を、以下の手順にしたがって製造する。磁気撹拌機および冷却機を備えた丸底フラスコに、水素化ナトリウム(0.5 mol、鉱物油中の50%懸濁液)およびヘキサン(500 ml)を入れる。次いで、4-ブチリルラクトン(0.5 mol)およびアルキルホルメート(0.5 mol、アルキルはメチルまたはエチルである)の混合物を、このフラスコに滴下により添加する。混合物の体積の10%を滴下した後、3 mlのエタノールを添加して反応を開始させる。反応混合物を、沸騰温度に2時間保った後、冷却し、生成したナトリウム塩をろ過し、ヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥させる。
【0059】
[方法A1]
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)を、磁気撹拌機を備えた丸底フラスコに入れ、20 mlの蒸留水を添加する。内容物を、溶解するまで数分間混合する。次いで、遊離のアミンを添加し(55 mmol)、濃硫酸を、温度が30℃未満に維持されるように滴下により添加する(2 ml)。沈殿したエナミノカルボニル化合物をろ過し、蒸留水で洗浄し、空気乾燥させる。あるいは、遊離のアミンの代わりに、そのアミンと酸(好ましくは無機酸、例えば塩酸など)との付加塩を用いることができる。
【0060】
[方法A2]
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)を、磁気撹拌機を備えた丸底フラスコに入れ、5 mlの蒸留水を室温で添加する。内容物を、溶解するまで数分間混合する。次いで、遊離のアミンを添加し(11 mmol)、濃硫酸を、温度が30℃未満に維持されるように滴下により添加する(0.4 ml)。沈殿したエナミノカルボニル化合物をろ過し、蒸留水で洗浄し、空気乾燥させる。
【0061】
[方法B]
3-ジメチルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン (10 mmol)および遊離のアミン(10 mmol)を、磁気撹拌機および冷却機を備えた丸底フラスコに入れ、加熱して60分間沸騰させる。次いで、この混合物を、冷却し、油相が分離するまで置く。この油相は、貯蔵中に固化する。この粗生成物を砕き、ジエチルエーテルで洗浄し、水性エタノールで結晶化させる。
【0062】
[方法C]
2-ジメチルアミノメチレンシクロペンタノン (50 mmol)および遊離のアミン(50 mmol)を、磁気撹拌機および冷却機を備えた丸底フラスコに入れ、加熱して60分間沸騰させる。次いで、この混合物を、冷却し、油相が分離するまで置く。この油相は、貯蔵中に固化する。この粗生成物を砕き、ジエチルエーテルで洗浄し、水性エタノールで結晶化させる。
【0063】
[実施例1]:3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)およびベンジルアミン(55 mmol)を用い、上述した方法A1を用いて、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(7.50 g, 収率:70%)。
あるいは、上述した方法Bを用い、3-ジメチルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン(10 mmol)およびベンジルアミン(10 mmol)を用いて、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンを、淡黄色紛末の形態で生成させる(1,80 g, 収率:89%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 2,65 (t, J=7,6 Hz, 2H, 4- CH2), 4,16 (t, J=7,6 Hz, 2H, 5-CH2), 4,34 (d, J=5,l Hz, 2H, NCH2), 7,1-7,4 (m, 7H, =CH, NH, フェニル).
【0064】
[実施例2]:(R)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)および(R)-1-フェニルエチルアミン(55 mmol)を用い、上述した方法A1を用いて、(R)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(7,70 g, 収率:71%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 1,43 (d, J=6,9 Hz, 3H, CH3), 2,67 (t, J=7,5 Hz, 2H, 4-CH2), 4,15 (t, J=7,5 Hz, 2H, 5-CH2), 4,55 (m, 1H, NCH), 7,0-7,5 (m, 7H, =CH, NH, フェニル).
【0065】
[実施例3]:(S)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)および(S)-1-フェニルエチルアミン(55 mmol)を用い、上述した方法A1を用いて、(S)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(7,92 g, 収率:73%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 1,43 (d, i=6,9 Hz, 3H, CH3), 2,67 (t, J=7,5 Hz, 2H, 4-CH2), 4,15 (t, J=7,5 Hz, 2H, 5-CH2), 4,55 (m, 1H, NCH), 7,0-7,5 (m, 7H, =CH, NH, フェニル).
【0066】
[実施例4]:(R)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ジメチルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン(10 mmol)および(R)-1-フェニルプロピルアミン(10 mmol)を用い、上述した方法Bを用いて、(R)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(1.40 g, 収率:65%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 0,86 (t, 3H), 1,74-1,82 (m, 2H), 2,70 (bt, 2H), 4,15 (t, 2H), 4,55 (m, 1H, NCH), 4,24 (m, 1H), 7,11-7,34 (m, 7H).
【0067】
[実施例5]:(S)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ジメチルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン(10 mmol)および(S)-1-フェニルプロピルアミン(10 mmol)を用い、上述した方法Bを用いて、(S)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(1.46 g, 収率:68%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 0,86 (t, 3H), 1,74-1,82 (m, 2H), 2,70 (bt, 2H), 4,15 (t, 2H), 4,55 (m, 1H, NCH), 4,24 (m, 1H), 7,11-7,34 (m, 7H).
【0068】
[実施例6]:2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノン
2-ジメチルアミノメチレンシクロペンタノン(50 mmol)およびベンジルアミン(50 mmol) を用い、上述した方法Cを用いて、2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノンを、淡黄色粉末の形態で生成させる(7,4 g, 収率:70%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, EおよびZ異性体混合物), δ: 1,70-1,80 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 2,03 (t, 2H, CH2, E), 2,15 (t, 2H, CH2, Z), 2,36 (t, 2H, CH2, E), 2,42 (t, 2H, CH2, Z), 4,40 (d, 2H, CH2N, EおよびZ), 7,14-7,36 (m, 6H, =CH, フェニル, EおよびZ).
【0069】
[実施例7]:(R)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノン
2-ジメチルアミノメチレンシクロペンタノン(50 mmol)および(R)-1-フェニルエチルアミン(50 mmol)を用い、上述した方法Cを用いて、(R)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、淡黄色粉末の形態で生成させる(7.3 g, 収率:65%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, EおよびZ異性体混合物), δ: 1,45 (d, 3H, CH3, EおよびZ), 1,68-1,82 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 1,97-2,17 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 2,31-2-45 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 4,60 (m, 1H, CHN, EおよびZ), 7,05-7, 42 (m, 7H, =CH, NH, フェニル, EおよびZ).
【0070】
[実施例8]:(S)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノン
2-ジメチルアミノメチレンシクロペンタノン(50 mmol)および(S)-1-フェニルエチルアミン(50 mmol)を用い、上述した方法Cを用いて、(S)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、淡黄色粉末の形態で生成させる(7.7 g, 収率:69%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, EおよびZ異性体混合物), δ: 1.45 (d, 3H, CH3, EおよびZ), 1,68-1,82 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 1.97-2.17 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 2,31-2-45 (m, 2H, CH2, EおよびZ), 4.60 (m, 1H, CHN, EおよびZ), 7.05-7.42 (m, 7H, =CH, NH, フェニル, EおよびZ).
【0071】
[実施例9]:3-(3-ピリジルメチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および3-ピリジルメチルアミン(10 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、3-(3-ピリジルメチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(0.71 g, 収率:35%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 2,64 (t, J=7,7 Hz, 2H), 4,16 (t, J=7,7 Hz, 2H), 4,37 (d, J=4,7 Hz, 2H), 7,21 (m, 2H), 7,38 (dd, 1H), 7,67 (bd, J=7,9 Hz, 1H), 8,47 (m, 2H).
【0072】
[比較実施例1]:(RS)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)およびラセミ(R,S)-1-フェニルエチルアミン(55 mmol)を用い、上述した方法A1を用いて、(R,S)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(7.70 g, 収率:71%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 1,43 (d, J=6,9 Hz, 3H, CH3), 2,67 (t, J=7,5 Hz, 2H, 4-CH2), 4,15 (t, J=7,5 Hz, 2H, 5-CH2), 4,55 (m, 1H, NCH), 7,0-7,5 (m, 7H, =CH, NH, フェニル).
【0073】
[比較実施例2]:3-(2-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)および2-フェニルエチルアミン(55 mmol) を用い、上述した方法A1を用いて、3-(2-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(8.14 g, 収率:75%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (500 MHz, CD3SOCD3, 30℃, E異性体), δ: 2,61 (bs, 2H, CH2), 2,76 (t, J=7,5 Hz, 2H, 4-CH2), 3,37 (m, HDOシグナルによる重畳, 2H, NCH2), 4,14 (t, J=7,5 Hz, 2H, 5-CH2), 6,85 (m, 1H, NH), 7,08 (d, J=13,3 Hz, 1H, =CH), 7,17-7,30 (m, 5H, フェニル).
【0074】
[比較実施例3]:3-(2-クロロベンジル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および2-クロロベンジルアミン(11 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、3-(2-クロロベンジルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(1.54 g, 収率:75%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (500 MHz, CD3SOCD3, 30℃, E異性体), δ: 2,68 (t, J=7,7 Hz, 2H, 4- CH2), 4,17 (t, J=7,7 Hz, 2H, 5-CH2), 4,44 (m, 2H, NCH2), 7,18-7,47 (m, 6H, NH, =CH, 芳香族水素).
【0075】
[比較実施例4]:3-(4-クロロベンジル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および4-クロロベンジルアミン(11 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、3-(4-クロロベンジルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(1,5 g, 73%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (500 MHz, CD3SOCD3, 30℃, E異性体), δ: 2,65 (t, J=7,5 Hz, 2H, 4- CH2), 4,16 (t, J=7,5 Hz, 2H, 5-CH2), 4, 34 (d, J=5,5 Hz, 2H, NCH2), 7,17-7,26 (m, 2H, NH, =CH), 7,25および7,41 (AA'BB', 4H, 芳香族水素).
【0076】
[比較実施例5]:3-(4-メトキシベンジル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)および4-メトキシベンジルアミン(55 mmol)を用い、上述した方法A1を用いて、3-(4-メトキシベンジルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(2,9 g, 収率:28%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (500 MHz, CD3SOCD3, 30℃, E異性体), δ: 2,64 (bt, J=7,l Hz, 2H, 4- CH2), 3,73 (s, 3H, OCH3), 4,15 (t, J=7,6 Hz, 2H, 5-CH2), 4,26 (d, J=5,0 Hz, 2H, NCH2), 6,90 (d, J=8,6 Hz, 2H, 芳香族水素), 7,14-7,22 (m, 4H, =CH, NH, 芳香族水素).
【0077】
[比較実施例6]:3-(2-ピリジルメチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および2- ピリジルメチルアミン(11 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、3-(2-ピリジルメチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(0.8 g, 39%)。
スペクトルデータ:
1H-NMR (500 MHz, CD3SOCD3, 30℃), δ: 2,66 (t, J=7,5 Hz, 2H, 4-CH2), 4,17 (t, J=7,6 Hz, 2-H, 5- CH2), 4,42 (d, J=5,6 Hz, 2H, NCH2), 7,32-7,19 (m, 4H, =CH, NH, 芳香族水素2個), 7,78 (td, J=6,2 Hz, 1H, aromatic proton), 8,52 (d, J=4.7 Hz, 1H, 芳香族水素).
【0078】
[比較実施例7]:3-ベンジルアミノメチレンテトラヒドロピラン-2-オン
3-ヒドロキシメチレンジヒドロピラン-2-オン ナトリウム塩(50 mmol)およびベンジルアミン(55 mmol)を用い、上述した方法A1を用いて、3-ベンジルアミノメチレンテトラヒドロピラン-2-オンを、白色粉末の形態で生成させる(3.91 g, 収率:69%)。
スペクトルデータ:
1H NMR (400 MHz, CD3SOCD3, 25℃, E異性体), δ: 1,74 (m, 2H, 5-CH2), 2,20
(td, J=7,6 Hz, 2H, 4- CH2), 4,06 (t, J=5,2 Hz, 2H, 6-CH2), 4,35 (d, J=5,9 Hz, 2H, NCH2), 7,14-7,34 (m, 6H, NH, 芳香族水素), 7,46 (dt, J= 14,0 Hz, J= 1,5 Hz, 1H, =CH).
【0079】
[比較実施例8〜11]:
【化10】

3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および式:H2N(アルキル)(式中、アルキルは、メチル、1-プロピル、エチル、またはtert-ブチルを表す)を有する一級アミン(11 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、以下の化合物を生成させた。
【表1】

【0080】
[比較実施例12〜16]:
【化11】

3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および式:H2NAr(式中、Arは、フェニル、2-メチルフェニル、3-ニトロフェニル、4-ヒドロキシフェニル、または4-メトキシフェニルを表す)を有する一級アミン(11 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、以下の化合物を生成させた。
【表2】

【0081】
[比較実施例17〜19]:
【化12】

3-ヒドロキシメチレンジヒドロフラン-2-オン ナトリウム塩(10 mmol)および式:H2NCH2(アリール)(式中、アリールは、4-ヒドロキシフェニル、2-ナフチル、または2-フリルを表す)を有する一級アミン(11 mmol)を用い、上述した方法A2を用いて、以下の化合物を生成させた。
【表3】

【0082】
[本発明の化合物の味修正特性の評価]
その味覚修正特性を試験すべき本発明の化合物を、エタノールまたはエタノール-水混合液から再結晶させた。
甘味の知覚の定性的評価;試験物質を20%のエタノールおよび水混合物(体積/体積)に溶解させた。
以下を含有する3種の初期溶液を調製した:
−実施例1の化合物(3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン、4000 ppm溶液(20%エタノール100 ml中400 mg))
−実施例2の化合物((R)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オン、4000 ppm溶液(20%エタノール100 ml中400 mg))
−実施例6の化合物((2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノン、4000 ppm溶液(20%エタノール100 ml中400 mg))。
より低い濃度の溶液は、これらの初期溶液を、20%のエタノールおよび水混合物(体積/体積)を用いて適切な割合に希釈することによって得た。
【0083】
本発明の化合物の甘味の程度の評価を、健常な男性からなる5名の無償の委員(以下、委員と呼ぶ)によって実施した。いずれの委員も、本発明の化合物の評価中、安全な手順を順守する必要性、特に、試験溶液を飲み込むことを避ける必要性を知らされた。各委員は、小さなバイアルに入った試験溶液10 mlを受け取り、このバイアルの内容物全部を用いて20秒間口をすすいだ後、試験溶液を吐き出した。次いで、大量(少なくとも150 ml)の蒸留水で少なくとも30秒間口をすすいだ。委員がもはやいかなる味も知覚しないと感じた場合に、委員は次の溶液の評価を行うことができた。
【0084】
第一の段階で、委員は、本発明の化合物を4000 ppm含有する3種の初期溶液の味を定性的に試験した。全ての委員が、これらの溶液が強い甘味を有することを確認した。
【0085】
さらなる定性的評価を、実施例4、7、および9からの本発明の化合物、ならびに比較実施例1〜19からの化合物について、4000 ppm溶液の形態で行った。実施例4および7からの化合物の溶液も強い甘味を有する一方、実施例9(3-(3-ピリジルメチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オン)の溶液は、委員によって、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オン(実施例1の化合物)の溶液より有意に甘味が弱く、さらには、苦味が加わっていると記述された。比較実施例からの化合物の溶液は、甘味に欠けていた。これらの評価結果を、下記表1に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
次の段階では、甘味の強度の比較分析を行った。この研究では、実施例1の化合物(3-ベンジル-アミノメチレンジヒドロフラン-2-オン)を用いた。研究対象は、初期の4000 ppm溶液、ならびに実施例1の化合物の2000 ppm溶液、1000 ppm溶液、800 ppm溶液、および500 ppm溶液からなった。
【0088】
参照溶液は、20%エタノール中、10%(体積/体積)のサッカロースを含み、サッカロース100000 ppm(体積/体積)を含有していた。
【0089】
研究管理者は、委員に、無作為に選択した3桁の番号を付した製剤1を用いて化合物の試料を与え、サッカロース参照溶液に対する甘味の知覚を比較するためのサッカロースの参照溶液試料も与えた。5名の各委員は、実施例1の化合物の無作為の溶液試料(化合物を4000 ppm、2000 ppm、1000 ppm、800 ppm、および500 ppm含有する試料)を2回受け取った。したがって、各濃度について10回の比較試験が行われた。
【0090】
各委員の仕事は、与えられた試料が参照溶液より甘味が弱いか強いかを決定することである。各委員は、用紙に以下の規則にしたがって記入した。試料の甘味がより強い場合には、プラス記号(+)を試料番号の隣に記入し、試料の甘味がより弱い場合には、マイナス記号(−)を試料番号の隣に記入し、確実ではない場合には、イコール記号(=)を試料番号の隣に記入した。定性的な分析と同様に、各委員は、小さなバイアルに入った試験溶液10 mlを受け取り、これで20秒間穏やかに口をすすいだ後、試験溶液を吐き出した。次いで、大量(少なくとも150 ml)の蒸留水で少なくとも30秒間口をすすいだ。委員がもはやいかなる味も知覚しないと感じた場合に、委員は次の溶液の評価を行うことができた。
【0091】
全ての委員が、実施例1の化合物の初期溶液が、参照溶液(サッカロース)より大幅に甘いことをことは疑う余地がないことを宣言した。このことは、本化合物がサッカロースより少なくとも50倍甘いことを意味する。
【0092】
3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンの定量化の結果をまとめて以下の表2に示す。
【0093】
【表5】

【0094】
表2にまとめた結果をおおまかに解釈すると、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンは、20%エタノール中の10%のサッカロース溶液との比較に基づいて、サッカロースより少なくとも200〜250倍甘いという結論に至る。
【0095】
上述した手順にしたがう実施により、本研究を、実施例2の化合物((R)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オン)について繰り返した。この化合物については、結果をおおまかに解釈すると、(R)-3-(1-フェニルエチルアミノ)メチレンジヒドロフラン-2-オンは、20%エタノール中の10%のサッカロース溶液と比較して、サッカロースより少なくとも250倍甘いという結論に至る。
【0096】
次の研究を、実施例6の化合物(2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノン)について実施した。この化合物については、
【0097】
[甘味の阻害]
甘味物質または甘味物質混合物の甘味の、本発明の化合物甘味阻害剤による阻害を、以下の手順にしたがって定性的に試験した。2個のサッカロース試料(各100 mg)を、5 mlの20%水性エタノールに溶解させ、次いで、一方の溶液に本発明の実施例の化合物(実施例3、5、および8からの化合物)100 mgを追加した。次いで、両溶液の味を、上述した手順を用いて、定性的な甘味の知覚について評価した。この研究は、本発明の実施例3の化合物、実施例5の化合物、または実施例8の化合物を含むサッカロース溶液は、本発明の化合物を含まないサッカロース溶液と比較して、実質的に全く甘くないことを示している。この研究の結果は、本発明の試験化合物(実施例3の化合物、実施例5の化合物、および実施例8の化合物)が、甘味に対する阻害特性を示すことを示している。この研究を、比較実施例1〜19からの化合物についても実施した。結果を表3にまとめる。
【0098】
【表6】

【0099】
甘味製品(サッカロース、グルコース、ハチミツ、グリシン)の溶液を、100 mgの製品を5 mlの20%水性エタノール中に溶解させることによって調製した。各製品について2つの溶液を調製する。これらの溶液の一方に、本発明の実施例3の化合物を追加する(100 mg)。次いで、定性的な甘味の知覚を評価するために、両溶液の味を、上述した手順にしたがって比較した。この研究の結果を表4にまとめる。
【0100】
商業的に入手可能な甘味料(アスパルテームおよびL-ロイシンを含有する「Sweet top(登録商標)」、ソルビトール、シクラミン酸ナトリウム、およびサッカリン酸ナトリウムを含有する「Sweet MagiC(登録商標)」)の溶液を、5 mgの甘味料を20 mlの20%水性エタノール中に溶解させることによって調製した。各甘味料溶液を2回調製した。これらの溶液の一方に、本発明の実施例3の化合物(5 mg)を追加する。次いで、定性的な甘味の知覚について、両溶液の味を、上述した手順にしたがって比較した。この研究の結果を表4にまとめる。
【0101】
本発明の甘味を有する化合物(実施例1、2、および6の化合物)の溶液を、5 mgの本発明の化合物を20 mlの20%水性エタノール中に溶解させることによって調製した。実施例1、2、および6の化合物でそれぞれ調製された2つの溶液を調製した。これらの溶液の一方に、本発明の実施例3の化合物(5 mg)を追加する。次いで、両溶液の味を、定性的な甘味の知覚についての上述した手順にしたがって比較した。この研究の結果を表4にまとめる。
【0102】
【表7】

【0103】
実施例3の化合物を追加した、サッカロース、グルコース、ハチミツ、またはグリシンの溶液は、甘味の知覚を引き起こさず、弱い甘味の知覚さえ引き起こさない。Sweet top(登録商標)またはSweet MagiC(登録商標)などの甘味料の溶液(これらの溶液は、与えられた濃度で非常に甘い)については、実施例3の化合物を追加した結果、甘味の知覚において非常に顕著な低下がもたらされた。実施例3の化合物を追加した実施例2の化合物は、甘味を示さなかった。実施例3の化合物を追加した実施例1の化合物は、ごくわずかな甘味しか示さなかった。同様に、実施例3の化合物を追加した実施例6の化合物は、ごくわずかな甘味しか示さなかった。
【0104】
本発明の式(I)の化合物を用いて、さまざまな形態および用途の製品、例えば、粉末、錠剤、シロップ、懸濁液の形態の製品、かむかまたはしゃぶるための製剤、食品、化粧品、および医薬品を改良するための製剤を製造することができる。これらは別個に使用されるべく設計されるが、他の天然のまたは合成の味覚改良剤との組み合わせで使用されるようにも設計される。本発明の甘味料を他の公知の甘味料と共に用いて、これらの味を改良し、かつ/あるいは相乗効果を発揮させることができる。本発明の甘味阻害剤(これらは個々の化合物の味を欠く)は、過度に甘く知覚されるような製品の味を修正することが企図される。これらの阻害剤は、単独で使用することが企図され、さらに、他の天然のまたは合成の味覚阻害剤との組み合わせで使用することも企図される。これらを他の公知の甘味料との混合物で用いて、これらの味を改良することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
E異性体および/もしくはZ異性体、ならびに/または互変異性体の形態の、式(I)のエナミノカルボニル化合物:
【化1】

(式中、Xは、OまたはCH2を表し、
YがNを表し、RおよびRが水素を表すか、あるいは
YがCHを表し、RまたはRのいずれかがC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRが水素を表すかのいずれかであり、
YがCHを表し、同時にRまたはRがC1〜4アルキルである場合には、前記化合物は、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択される)。
【請求項2】
Xは、OまたはCH2を表し、YはCHを表し、
またはRのいずれかはC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRは水素を表し、
前記化合物が、R鏡像体を少なくとも90%、好ましくはR鏡像体を少なくとも95%含有するRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体を少なくとも90%、好ましくはS鏡像体を少なくとも95%含有するRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択されることを特徴とする、
E異性体および/もしくはZ異性体、ならびに/または互変異性体の形態の請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Xは、OまたはCH2を表し、YはCHを表し、RまたはRのいずれかは、メチル、エチルからなる群から選択され、残りの、RまたはRは水素を表すことを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
(R)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
(S)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
(R)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項7】
(S)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項8】
(R)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンであることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項9】
(S)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンであることを特徴とする、請求項3に記載の化合物。
【請求項10】
3-(3-ピリジルメチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
E異性体および/もしくはZ異性体、ならびに/または互変異性体の形態の、式(I)の化合物:
【化2】

(式中、Xは、OまたはCH2を表し、YはCHを表し、RまたはRのいずれかは水素およびC1〜4アルキルからなる群から選択され、残りのRまたはRは水素を表し、
またはRがC1〜4アルキルである場合には、前記化合物は、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、R鏡像体、ならびにS鏡像体からなる群から選択される)
の、製品および/または経口投与用製剤の味を修正するための使用。
【請求項12】
式(I)の化合物(式中、RおよびRが水素である)を使用して、製品および/または経口投与用製剤の甘味の知覚を付与または増強することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
使用する前記化合物が、3-ベンジルアミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
使用する前記化合物が、2-ベンジルアミノメチレンシクロペンタノンであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
式(I)の化合物(式中、RまたはRのいずれかはC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRは水素を表し、前記化合物が、R鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、ならびにR鏡像体から選択される)を、製品および/または経口投与用製剤の味の修正において使用することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
使用する前記化合物が、(R)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
使用する前記化合物が、(R)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
使用する前記化合物が、(R)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンであることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項19】
式(I)の化合物(式中、RまたはRのいずれかはC1〜4アルキルを表し、残りのRまたはRは水素を表し、前記化合物が、S鏡像体に富むRおよびS鏡像体混合物、ならびにS鏡像体から選択される)を、製品および/または経口投与用製剤の甘味の知覚を阻害するために使用することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項20】
使用する前記化合物が、(S)-3-(1-フェニルエチル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
使用する前記化合物が、(S)-3-(1-フェニルプロピル)アミノメチレンジヒドロフラン-2-オンであることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項22】
使用する前記化合物が、(S)-2-(1-フェニルエチル)アミノメチレンシクロペンタノンであることを特徴とする、請求項19に記載の使用。

【公表番号】特表2012−516844(P2012−516844A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547848(P2011−547848)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【国際出願番号】PCT/PL2010/000010
【国際公開番号】WO2010/087727
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(511102365)インスティテュート・ヘミイ・オルガニッチネイ・ポルスカ・アカデミア・ナウク (1)
【Fターム(参考)】