説明

エネルギーをインビボで増加させるための組成物

【課題】細胞内ATP濃度を増加させるために、又は激しい身体活動、病気又は外傷によるエネルギー利用度の低下を処置するために、アデノシン三リン酸の前駆体を食事補助剤として経口投与する。
【解決手段】ペントース糖を、個別に、あるいは固形食物又は溶液に混合して投与する。好ましいペントースはリボースであり、これを単独で、又はクレアチン、ピルビン酸、L-カルニチン及び/又は血管拡張剤と共に用いる。更にマグネシウム、電解質、脂肪酸及びヘキソース糖を用いることができる。本発明の組成物及び方法は、エネルギー利用度が低下した又はエネルギー要求性が高い哺乳動物に特に有益である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、エネルギー利用度が低下した又は高レベルのエネルギーを消費する哺乳動物に利用され得るエネルギーを増加させるための組成物又は方法に関する。前記哺乳動物には、細胞内アデノシン三リン酸(ATP)の減少を誘導する疾患を有する人間、運動又は労働などの激しい身体活動を行う人間、及びエネルギーレベルの増加を望む人間が含まれる。本発明では、その他の哺乳動物、例えばイヌ及びネコも含まれる。本発明の組成物の投与により、血液内及び細胞内ATPレベルが増加し、哺乳動物の活動の時間及び強度が拡大し、そして運動中の個体による酸素利用率が増加する。また運動してない哺乳動物、並びに身体障害、例えば外傷、火傷及び敗血症から回復する間に通常よりも多くのエネルギーを消費する哺乳動物にも、本発明の組成物の投与は有益である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細胞のエネルギーの基本単位がアデノシン三リン酸であることが周知である。同化代謝において、栄養素の代謝から得られたエネルギーがATPの高エネルギーリン酸結合に転換される。前記結合エネルギーは、エネルギー消費相において消費される。ATPが急速に生成回転される重要且つ「多量」な消費が、筋収縮のために必要である。
【0003】
2つの基本的な行程によって、筋細胞内でエネルギー生成過程が進行する。酸化的リン酸化によって、血中脂肪酸、グルコース並びに筋内グリコーゲン及びトリグリセリドの分解を介してATPが補充される。嫌気的リン酸化によって、クレアチンリン酸、血中グルコース及び筋内グリコーゲンからミオキナーゼなどのキナーゼ反応を介してATPが供給される。
【0004】
米国特許No.5,714,515には、グルコースの中間分解産物であるピルビン酸を含有する組成物を、手術又は事故による外傷、ショック、長期の身体負荷による疲労、及びその他の症状からの回復を促すために投与されることが記載されている。米国特許No.5,709,971には、その他のグルコース代謝産物、すなわちグリセルアルデヒド-3-リン酸、ホスホエノールピルビン酸及びグリセリン酸-3-リン酸を、ニコチンアデニンジヌクレオチド、補酵素A及びアセチル補酵素Aと共に投与することが記載されている。
【0005】
使用されたATPの生産のために利用され得る基質を増加させる別の方法は、アミノ酸L-カルニチンの投与であり、このアミノ酸は、酸化的リン酸化部位であるミトコンドリア内への脂肪酸の輸送及び吸収を促進すると考えられている。米国特許No.4,968,719には、末梢血管障害の治療にL-カルニチンを用いることが記載されている。
【0006】
ATPの高エネルギーリン酸結合が酸化的に又は嫌気的に生産されるかどうかに拘わらず、そしてその生産のために用いられる基質に関係なく、ATP分子自身の前駆体が利用できなければ、ATPは合成されない。ATP分子の再合成は、新生経路又は再利用経路によって進行する。
【0007】
ヌクレオチド再利用経路を介したATP合成では、組織中に存在するヌクレオチド前駆体がAMPに変換され、そして更にリン酸化されてATPが生成する。アデノシンは、AMPに直接リン酸化され、一方キサンチン及びイノシンは、最初に5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸(PRPP)によってリボシル化され、次にAMPに変換される。リボースは、標準的な食事中には非常に低量で存在し、そして体内でペントースリン酸経路によって合成される。新生経路では、リボースがPRPPにリン酸化され、そしてアデニンに縮合されて、中間体アデノシン一リン酸(AMP)が生成する。AMPが高エネルギー結合を介してリン酸化されて、アデノシン二リン酸(ADP)及びATPが生成する。
【0008】
新生経路による合成は遅い。一般的にはAMP合成は、主に再利用経路によって進行すると考えられているが、無酸素症又は虚血の後では、新生経路の活性が増加する。
【0009】
エネルギー消費中に、ATPは1つの高エネルギー結合を失ってADPとなり、これがAMPに加水分解される。AMP及びその代謝産物アデニン、ヒポキサンチン及びイノシンは筋細胞から自由に拡散し、従って再利用経路を介したATP再合成のために利用され得ない。
【0010】
米国特許No.4,719,201には、虚血中に心筋内でATPがAMPに加水分解された場合、AMPは更にアデノシン、イノシン及びヒポキサンチンに代謝され、これらは再循環の際に細胞から失われることが開示されている。AMP非存在下では、ADP及びATPへの再リン酸化は起こり得ない。前記前駆体が細胞から洗い流されるので、ATPレベルを補充するためにヌクレオチド再利用経路は利用され得ない。虚血から回復した心臓に静脈内還流によってリボースを投与した場合、ATPレベルの回復が促進されることが開示されている。
Plimlは、ドイツ国特許No.4,228,215において、心機能不全及び血液量減少ショックを治療する際に、リボースの経口投与が有効であることを認めている。
【0011】
Zollner et al.(Klinische Wochenshritt 64: 1281-1290, 1986)は、常染色体劣性遺伝子疾患であるミオアデニレートデアミナーゼ(MAD)欠損症に罹った患者において骨格筋の痛み及び硬直を抑制するために、ペントース、例えばリボース又はキシリトールを投与する有益性を報告した。この疾患の特徴は、筋の永久的な緊張低下、筋の過度の虚弱、疲労、ヒリヒリする痛み、焼ける様な痛み、硬直及び痙攣である。これらの症状は、ATPサイクルの遮断の結果であると考えられている。ATPの脱リン酸化がAMPの集積によって阻害され、その結果、筋の収縮弛緩を行うために利用できるエネルギーが減少する。しかし、MAD欠損症患者の症状がリボースの投与によって緩和されたとしても、アデニンヌクレオチドの細胞内レベルは異常に高いままであるし、しかも正常な被験者は、リボース投与による有益な効果を享受しなかった(Gross, Reiter and Zollner, Klinische Wochenshritt 67: 1205-1213, 1989)。
【0012】
Tullson et al. (Am.J.Physiol. 261 (Cell Physiol. 30) C343-347, 1991)は、非常に強い運動が、単離された筋においてAMPの分解及びそれに続くその減少を促進することを示した参考文献を引用している。彼らは更に、ラットの後四分体への還流液にリボースを加えることにより、定座性筋肉におけるAMPの新生合成は増加するが、収縮筋肉に見られる新生合成の減少は無くならないことを示した。
【0013】
米国特許No.4,871,718 (Carniglia et al.)には、アミノ酸、代謝産物、電解質及びリボース又はリボース前駆体の複合混合液を、競走馬の食事補助剤として経口投与すると、細胞内ATPレベル及び運動性の増加が見られることが開示されている。この能力評価は逸話風であったが、個体の能力履歴に基づくものであった。
【0014】
従って、正常な哺乳動物、すなわち当方法を適用する際に又はその前に虚血を経験していない又は身体活動をしていない哺乳動物において骨格筋能力を強化するための簡単な方法が必要とされている。また、満足感を増すために哺乳動物のエネルギーレベルを増加させる方法も必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
発明の要約
本発明は、哺乳動物におけるエネルギーレベルを増加させる組成物及び方法を提供する。本発明の組成物及び方法は、細胞機能を支持するために、ATP利用度が最適未満である哺乳動物においてATP合成を刺激することによって作用する。特には、高レベルATPの要求前、要求中及び要求後に、哺乳動物のエネルギーを増強させるために有効な量で、ペントース、例えばD-リボースを経口投与する。リボースを供給された哺乳動物は、リボース非供給動物に比べてより長く運動すること、より強く運動すること、そして主観的により多くのエネルギーを有することができる。
【0016】
PRPPの細胞内濃度が、新生経路又はヌクレオチド再利用経路を介したATPレベルの回復又は増加における限定因子であること、そしてリボースの投与によりATP合成が刺激され、その結果エネルギー消費のためにより多量のATPプールが供給されることが提唱される。ATPの利用度が最適未満である哺乳動物には、正常且つ健常である、運動などの高エネルギー要求活動を行う個体及び重労働を行う労働者が含まれる。更に、正常な個体は、安静状態においてさえ、有効量のリボースの投与後に、より大きな満足感を享受できるだろうことが提唱される。
【0017】
PRPPの利用度が、再利用経路及び新生経路の活性、並びにアデニンからATPへの直接変換を調節していると思われている。グルコースからPRPPの生産は、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)によって制限されていると思われている。G6PDHなどの酵素によりグルコースがリボース-5-リン酸に変換され、更にPRPPにリン酸化され、このPRPPが、新生経路及び再利用経路、並びにアデニンの利用を増強する。リボースの添加により、この酵素律速段階が回避される。
【0018】
また本発明の方法が有益である個体の群中には、加齢、外傷、敗血症、又はうっ血性心不全及びその他の慢性疾患などの病症状を有する哺乳動物が含まれる。
【0019】
またこのペントース効果を促進する組成物が提供される。当組成物は、好ましくは、マグネシウム、クレアチン、ピルビン酸、L-カルニチン、ペントース、その他のエネルギー代謝産物の中から少なくとも1つ、及び場合により少なくとも1つの血管拡張物質を含有する。当然、クレアチン及びマグネシウムをリボースと組合せることが好ましい。また高エネルギー要求性があり且つ体液を損失している哺乳動物には、電解質及び追加のエネルギー原料、例えば炭水化物を更に含有する組成物が有益である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、正常成熟ラットのアデニン再利用経路の応答におけるリボースの投与量依存性を示す。
【図2】図2は、自転車運動により測定した通り、リボース又はプラセボを投与した後、正常成人によるスプリント毎の平均仕事率出力を示す。
【図3】図3は、自転車運動により測定した通り、リボース又はプラセボを投与した後、正常成人によるスプリント毎のピーク仕事率出力を示す。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、ペントースの経口投与によりATP合成を刺激する方法を提供し、そして高エネルギー要求性であり又は慢性的に低エネルギーレベルである哺乳動物に対して特に有益であるペントース含有組成物を提供する。
【0022】
本発明の説明のために、下記の用語の意味を示す。
1.「ペントース」は単糖であり、限定でなくリボース、D-リボース、リブロース、キシリトール、キシルロース、及びリボースの任意の5炭素前駆体を含む。
2.「血管拡張剤」は血管を拡張する任意の物質であり、経皮又は経口投与されるアデニン、ヒドララジン、アルギニン及びニトログリセリンを含む。
3.「細胞内ATPレベル」は組織生検又は核磁気共鳴により直接的に、あるいは血中ATP濃度により間接的に決定されたATP濃度を指す。
4.「その他のエネルギー代謝産物及び補助因子」はクレアチン、補酵素、トリカルボン酸回路、ペントースリン回路、又は解糖系の中間体、ピリミジン及びプリンヌクレオチド、並びにミネラルを指す。
【0023】
本組成物は、好ましくは、水性溶媒中、例えば水中に溶解又は分散されたエネルギー増強作用量のペントースを含有し、これは更に場合により、微量であるが有効な量の添加剤、例えばポリオール、保存剤、香料、着色料などを含有し得る。また経口投与に適するペントース含有組成物は、例えば錠剤、舐剤、カプセル剤などの固形投与剤形である。またペントースを、固形食物、例えばバー、湿性又は乾燥ドッグフード、粉末又は飲料混合物に組み入れてもよい。リボースの有効な総投与量を以下に開示する。この量から、他のペントースの量を推定することができる。
【0024】
ペントースは、快適な味を有し且つ実際上毒性が無い天然の糖であるので、対象個体は、錠剤、舐剤、散剤、縣濁液、溶液の形、又は固形食物中に混合された形でペントースを自分から積極的に摂取するだろう。対象個体がイヌ又はネコである場合、ペントースを容易に「老齢用食事」又は「心臓用食事」に混合することができ、従って個別の投与は必要ではない。対象個体が人間である場合、ペントースをドリンク、バー、シェイク又はスナックフードに含ませることができる。好ましいペントースはリボース又はキシリトールである。好ましい投与量は、0.1〜100gペントース/日、好ましくは1〜20gペントース/日である。平均的な成人では、本発明の効果を享受するために十分な量は4〜8gペントース/日であろう。投与の上限量は、対象個体の味の好みのみによって制限されるが、非常に多量の投与量では、個体は下痢を起こすかもしれない。この投与量を、1日に1回単位投与形で投与し得るが、好ましくは1日に2又は3回、最も都合良くは食事中又は食後に投与する。
【0025】
精力的に活動している間、個体は多量に汗を出し得るので、体液及び電解質を補充する必要がある。発汗しないイヌなどの対象個体は、肺を介して多量の水分を失うので、同様に体液の補充を要する。ペントース単独、ペントースとカルニチン及び/又は血管拡張剤との組合せによる効果に加えて、運動中及び運動後に飲用する補充溶液の中に他の成分を加えることが都合良い。運動競技者には、再水和溶液、例えばGatorade(登録商標)、Thirst Quencher及びMax(登録商標)が良く知られている。
【0026】
これらのエネルギー維持作用及び同化作用を有する調合液は、一般に、異なる炭水化物、例えばコーンシロップ、スクロース、フルクトース、及びマルトデキストリン;タンパク質、例えば乳及び大豆に由来するカゼイン及び他のタンパク質;並びに脂質、例えばコーン、大豆、紅花及びキャノーラの油及び中間鎖トリグリセリドから作られる。この様な「高性能飲料」を改善する努力が継続している。
【0027】
米国特許No.5,292,538には、フルクトース、グルコース、タンパク質加水分解産物、及びアミノ酸キレート化合物に配位するマグネシウムを含有するエネルギー維持用組成物が記載されている。特に有益であると明記された他の成分には、カリウム、リン、マンガン、亜鉛、ホウ素、銅、モリブデン、クロム、バナジウム、ビタミンB1,2,5,6及び12、C、E、並びにカルニチンがある。
米国特許No.5,114,723には、電解質、ミネラル、炭水化物及びその他の成分を含有する経口投与用の低張飲用組成物が記載されている。この組成物は、100〜270 mOs/lの浸透圧を有する様に調整されている。
【0028】
前記の各再水和溶液は、約1〜20%(w/v)、最も好ましくは10%(w/v)のペントースの追加によって改良されるだろう。追加するペントースの量は、好ましい限界内で浸透圧を維持するために、他の栄養素の組成に依存するであろう。これらの飲料物は更に、他のエネルギー代謝産物及び補助因子の追加によって改良されるだろう。
【実施例】
【0029】
実施例1:安静ラットの筋肉におけるヌクレオチド再利用に対するD-リボースの効果
客観的に示されていないが、リボースが、PRPP合成を介して、ヌクレオチド再利用経路によるATP合成速度を増加させることが理論づけられている。しかし安静な筋肉における総アデニンヌクレオチド(ATN)又はリボースレベルに関して何も知られておらず、従って当合成酵素経路が既に飽和していて、リボースの投与が、正常な非虚血性の骨格筋においてATPレベルを増加させないことが有り得る。当経路に対するリボースの効果を証明するために、健康な成熟雄Sprague-Dawleyラットの足底複合筋を外科的に露出させ、そしてアミノ酸、mMグルコース及び100μU/mlのウシインスリンを含有する再構成した血液還流溶液により還流した。当筋肉を〜40ml/分の速度で再構成血液溶液により還流し、その結果約0.65ml/分の組織還流を得た。種々の濃度のD-リボースを還流液に加えて、その最終濃度を0.156mM, 0.5mM, 1.58mM, 5.0mM及び15.0mMに調整した。当筋肉を30分間還流した。用いた各リボース投与量での分析のために、最低2匹のラットを用いた。
【0030】
還流した後、急いで脚から筋肉切片を切り取り、そして液体窒素中で冷却したアルミニウム製挟み具によって凍結固定した。筋肉切片を凍結乾燥し、蒸留水中に再溶解し、そして逆相高性能液体クロマトグラフィーによりアデニンヌクレオチドを分離した。この結果を、アデニン再利用(ATP生成)nM/筋肉湿重量1g/1時間として表す(nM/g/hr)。
【0031】
表I
骨格筋応答のリボース投与量依存性
──────────────────────────
mMリボース 観察値 ベースによる飽和キネティクス
──────────────────────────
0.000 48.6
0.158 113.0 85.82
0.500 110.0 118.68
1.000 154.12
1.580 188.5 183.51
2.000 199.74
2.500 215.29
3.000 227.85
5.000 250.0 260.68
15.000 315.5 310.37
──────────────────────────
【0032】
図1及び表Iに示した通り、リボース0 mMでのアデニン再利用は、50 nM/g/h未満であり、リボース0.158mM投与の場合には2倍になる。リボース5mMでは、ATP合成速度は250nM/g/hに成る。これらの結果から、正常で健康な筋肉は、ベースラインレベルの低いリボース及びヌクレオチド再利用能を有し、これらをリボースの投与により増加することができる。
【0033】
実施例2:正常対象個体における運動能の増加
24〜26歳の年齢範囲の4人の健康な適当な対象者を検査した。健康程度、性別及び平均年齢が均一であり、そして既知の代謝性、神経性、内分泌性及び心肺性の疾患が無い群を選択した。その全員が自転車運動をすることができ、又は自転車運動の経験があった。実験方法は下記の4相から成った:(1)運動を行わない開始ベースライン相;(2)1日3回のD-リボース又はプラセボ(グルコース)の投与を3日間行う添加相;(3)1日に2回(午前と午後)、スプリント間に50秒間の休憩を伴って、体重の7%の抵抗負荷に対する短時間(10秒)の高強度の自転車スプリントを連続的(N=6)に行う運動を3日間行う訓練相;及び、(4)最終訓練後48時間の回復相。図1は、自転車スプリント運動1回毎のグラフである。
【0034】
採取及び生検による脚毎の筋の痛みを均等に分散し且つ最小化する様に、両脚の外側広筋に対して筋生検(MB)を行った。ベースラインを決定するために実験開始時の安静時に、及び0日目の最初の訓練の直後に又は第一相の直後に最初のMBを採取した。添加相の間はMBを採取しなかった。最後の訓練の後、そして48時間の回復の後に筋生検を採取した。
【0035】
2人の対象者をランダムに選択して、プラセボ群又はリボース群に分けた。訓練前に3日間(添加相)、そして訓練中3日間(訓練相)、10.0gのリボース又はプラセボを含有する等張溶液250mlにより、リボース又はプラセボを1日に3回経口投与した。脱水を避けるために、運動の直後に、更にその30分後に1.5Lの等張電解質溶液を与えた。
生検試料において下記の分析物の濃度を決定した:ATP, ADP, AMP, IMP(イノシン一リン酸), TAN(総アデニンヌクレオチド), クレアチンリン酸及びクレアチン。
【0036】
表II:リボース運動実験
平均仕事率/Kg (ワット)
──────────────────────────
対象者 1 2 3 4 5 6 平均
──────────────────────────
1P 6.0 6.7 7.3 7.4 7.3 7.5 7.0
2R 6.9 7.5 7.8 7.6 7.9 7.4 7.5
3R 8.7 9.2 9.1 9.0 8.5 8.2 8.8
4P 7.5 8.0 7.7 8.7 8.0 7.6 7.9
プラセボ 6.8 7.4 7.5 8.0 7.6 7.5 7.5 100.0%
リボース 7.8 8.4 8.5 8.3 8.2 7.8 8.2 109.0%
──────────────────────────
【0037】
表III:リボース運動実験
ピーク仕事率/Kg (ワット)
──────────────────────────
対象者 1 2 3 4 5 6 平均
──────────────────────────
1P 6.8 7.9 8.6 8.6 8.3 9.0 8.2
2R 7.9 8.8 9.2 9.0 9.4 8.7 8.8
3R 9.8 10.6 10.7 10.7 10.1 9.9 10.3
4P 7.7 8.6 8.7 9.4 8.8 9.0 8.7
プラセボ 7.7 8.6 8.7 9.4 8.8 9.0 8.7 100.0%
リボース 8.9 9.7 10.0 9.9 9.8 9.3 9.6 109.9%
──────────────────────────
【0038】
表IV:リボース運動実験
総仕事量/Kg
──────────────────────────
対象者 1 2 3 4 5 6 平均
──────────────────────────
1P 59.1 67.0 72.7 73.3 72.5 74.2 69.8
2R 71.9 74.7 77.1 75.6 78.1 73.4 75.1
3R 86.8 91.9 91.3 90.0 85.4 82.5 88.0
4P 74.5 80.3 76.8 87.4 80.0 76.4 79.2
プラセボ 66.8 73.6 74.8 80.4 76.3 75.3 74.5 100.0%
リボース 79.3 83.3 84.2 82.8 81.8 77.9 81.6 109.5%
──────────────────────────
【0039】
表II〜IV並びに図2及び3から分かる通り、リボースの投与により運動性が9%増加した。
運動性の向上は、筋生検におけるATPレベルに反映される。表Vに示される通り、3日間リボースを予め添加した対象者は、訓練相の前により高レベルのATPを示したが、スプリント運動後、このATPは、プラセボ群に比べて有意に減少し、これは、ATPがより効率的に利用されたことを意味する。48時間後のリボース群の回復値は、最初のレベルの82%であり、これに対してプラセボ群では78%であった。
【0040】
表V
平均ATP値(mmol/kg dw)
────────────────────────────────────
群 事前 事後 回復 事前値の回復率 変化 変化
% 事前−事後 事後−回復
────────────────────────────────────
プラセボ 23.60 20.05 18.30 78% -3.55 -1.75
リボース 25.33 13.90 20.80 82% -11.43 6.90
────────────────────────────────────
【0041】
実施例3:正常な未訓練対象者におけるスタミナ及び満足感の増加
運動直前及び運動中に投与したD-リボースは、以前に訓練を受けていない対象者に対しても有効であり得る。4人の正常な男性被験者に対して、実施例2の通りに自転車運動におけるスプリントの仕事率出力を検査する。各被験者は、自分自身をコントロールとして検査する。スプリント運動の間に、被験者はゆっくりと自転車運動を持続する。検査の総時間は1時間であり、その間4回スプリント運動がある。
【0042】
最初のベースライン検査の後、及び各スプリント運動の後に、被験者に、D-リボース5gを含有する200ml水溶液又は同様の味がするプラセボ(グルコース)を与える。毎回検査溶液を摂取し、その15分後にスプリントの仕事率出力を検査する。各被験者は、1週間間隔をあけて2回検査を行う。ランダムな順番で1回はリボース投与により、そしてもう1回はプラセボ投与により検査を行う。プラセボは、リボース溶液と区別できないようするためにグルコースにより甘くされている。被験者は、持続的な穏和な運動後のリボース投与により、プラセボ投与に比べてより高い仕事率出力を示すことが予想される。更に被験者は、主観的により満足感を得ることが予想される。
【0043】
実施例4:運動により誘発される狭心症の緩和
冠状動脈疾患の履歴、ポストトリプル状態冠状動脈バイパスを有する68歳の男性老患者は、運動誘発性狭心症の経験があった。当人の現在の適用薬物は、エナプリル(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)、カルベジルオール(βブロッカー)、ニトログリセリンパッチ及び、必要な場合ニトログリセリン舌下錠である。最近の冠状動脈血管造影から、バイパスグラフトの1本の完全な閉塞を伴う冠状動脈疾患の進行が判明した。当患者は、2回の負荷検査をほとんど行えなかった。当人の運動態様は毎日の散歩であった。
【0044】
狭心症の進行のために、当患者は毎日多くて1.61kmしか歩行できず、その地点で当人はニトログリセリン舌下錠を摂取した。当患者に、約250mlの水に溶解したD-リボースを経口投与した。6ヶ月間にわたり、当患者は1日に5〜10gのD-リボースを間欠的に摂取した。リボース投与後に、当患者は、ニトログリセリン経口剤の補給無しに1日3.22kmまで運動許容度を増加させることができた。リボースを中止した場合、リボース投与前の狭心症を誘発する運動状態が再発し、しかもニトログリセリン経口剤の補給を必要とした。リボースの経口投与の再開により、狭心症及びニトログリセリン補給無しに1日に3.22km歩行することができた。このリボース治療に対する当人の主観的な評価は、「狭心症の痛みが大いに減少した。気分がより良く、よりエネルギー感があり、そしてより活動的になれ、しかも痛みが無く、丸薬(ニトログリセリン)も必要でない」ということである。
【0045】
実施例5:トレッドミル検査における運動性の向上
安定冠状動脈疾患を有する60歳の男性老患者は、1本超の心外膜冠状動脈の50%超の閉塞及び安定狭心症を有することが観察された。当患者のトレッドミル運動性を検査した。Bruce法に従って、2回のベースライントレッドミル検査の後、当人は3日間D-リボース(1日40gを3回に分けて投与)を摂取し、そして3回目のトレッドミル検査を実行した。各回、a)ECG追跡記録において当患者が1mm以上のSTセグメントの抑制を示した場合、b)当患者が狭心症を訴えた場合、又はc)呼吸困難又は疲労のために当患者が止めた場合、当検査を中止することにした。各検査において、この患者は、呼吸が短くなったために検査を終えたが、狭心症を起こさなかった。
【0046】
表VIから分かる通り、最終トレッドミル検査の前に3日間D-リボースを投与することにより、安静時(0時間)を含む検査の各段階において心拍数・圧の積値の減少により決定された通り、エネルギー及び心機能が増加した。一般的に、心拍数と全身圧の積値は、心筋機能及びエネルギーレベルを表し、その数字が小さいほど心筋機能がより良いことが認められている。リボースを投与した結果、トレッドミルにおける平均許容時間が増加した。効率の客観的な測定に加えて、リボース投与中、当患者は主観的により高いエネルギーを感じることを報告した。
【0047】
表VI
拍数/分と収縮期血圧mmHgの積としての心拍数・血圧の積
───────────────────────────────────
時間 ベースライン1 ベースライン2 平均 検査 変化%
───────────────────────────────────
0(安静) 11,088 9,272 10,180 9,177 -9.55%
3分 17,574 13,468 15,521 15,272 -1.60%
6分 26,500 22,344 24,422 20,592 -15.68%
9分 33,396 29,526 31,461 25,356 -9.87%
───────────────────────────────────
許容時間
秒 483.00 545.00 514.00 540.00 5.06%
───────────────────────────────────
Bruce法では、トレッドミル速度を、3分後に時速2.74から9.66kmに増加し、一方傾斜を10から20%に増加する。
【0048】
実施例6:リボースの自己投与
エネルギーレベルの低下を特徴とする慢性疾患、例えば限定でなく、冠状動脈疾患、AIDS、間欠性跛行、結核及び慢性疲労症候群に罹った患者にとって、更に明白な疾患を有さないが、加齢、外傷、火傷、及び病気又は手術からの回復のためにエネルギーが低下した対象者にとっても、継続的な治療介入を行うことなく当人のエネルギーレベルを増加できることは有益である。比較的に安定な疾患を有する多くの個人は、医薬補給に伴って、生活様式の変化に合わせて毎日生きている。しばしば、この様な者は、不愉快な作用、例えば狭心症、息切れ、筋肉痛、筋肉痙攣又は消耗感を起こす恐れから、中度の身体活動を行うことが抑制されている。この様な回避は、当人の生活の質を下げ、そして永続する背景的な不安を生む。更に当人は、消化促進、睡眠、より安心且つ積極的な心理状態などの適度な運動による利益を得られない。更に、疾患が無く且つ健康であると思われる者でも、主観的なエネルギーレベル感及び満足感を満たさないことがある。
【0049】
リボースの自己投与が有益であった明白な疾患が無い者の例は、55歳の老男性である。当人は、全身性細菌感染に罹るまで、人生の大部分において欠かさず毎週運動していたが、この感染により1ヶ月間の集中治療及び更に1ヶ月間のリハビリテーションのために入院を必要とした。当人の心臓血管系及び肺系は、病気中及び病気後に大きく影響を受け、1年後、その機能は以前のレベル、又は当人が満足するレベルまで回復しなかった。
【0050】
回復後、当人は、1週間に4日のトレッドミルによるランニング及び1週間に2日の重量上げから成る運動を再開しようと試みた。このランニングは短時間に制限された。日々の運動後、当人は、絶えず消耗するまでの疲労を有し、そして頻繁な昼寝を必要とした。当患者は、1日に2回、1回に4〜5gの割合でD-リボースを自分で経口投与した。7日以内に、当人は、気力及び運動許容性が増加したことを表明した。疾患後始めて、当人はトレッドミルで30分ほどの長い間ランニングすることができた。当人は依然としてある程度の疲労を有したが、運動後の昼寝を中止できた。当人は、規則的な運動と供にリボースの経口投与を毎日継続し、そしてリボース投与の4週間後にエネルギーレベルの継続的な向上を感じた。当人は、リボースによる悪影響を受けなかった。
【0051】
実施例7:慢性症状を有する者に対するリボースとアルギニン及び/又はカルニチンとの組合せの効果
実施例6に示した通り、低エネルギーレベルを有する者に、ペントースの自己投与が有益であることが予想される。またこの様な者に、経口投与できる血管拡張剤、例えばL-アルギニンが更に有益であることも予想される。更にまた、ミトコンドリア内へ脂肪酸を輸送させるためのL-カルニチンの摂取が更に有益であることも予想される。更にまた、その他のエネルギー代謝産物及び補助因子の追加が更に有益であることも予想される。
【0052】
アルギニンは、内皮細胞由来弛緩因子である一酸化窒素の前駆体であることが知られている。インビトロの分析から、正常な環境下では内皮細胞において過剰のL-アルギニンが利用され得ることが判明した。しかしインビトロの研究から、L-アルギニンの貯蔵が枯渇した場合、又はL-アルギニンのアンタゴニストであるL-グルタミンが存在した場合、L-アルギニンの添加により、内皮細胞依存性の血管拡張が促進されることも示された。本発明の以前には、経口アルギニンが心臓還流を促進し、従って筋肉組織へのリボースの分配を促進し得ることは知られていなかった。検査群として、心臓疾患のためにエネルギーレベルが低下した人間の患者を選択する。当群は、利用可能であり、且つ十分に研究されている。この結果は、エネルギーレベルの低下した他の対象、例えば衰弱性疾患の患者、並びに老人及び老犬に対しても同様に適用されるだろう。
【0053】
既知の冠状動脈疾患を有するが、静止性虚血の無い30人の成人患者(45〜70歳)をランダムに3群に分ける。この方法を行うために、最初に各患者に連続のトレッドミル運動検査を行う。最後のトレッドミル検査を、L-アルギニン、D-リボース、L-カルニチン、又はL-アルギニン、D-リボース及びL-カルニチンの組合せのいずれかを3日間投与した後に行う。この研究の最終時点から、トレッドミル運動中の狭心症の発生及び/又は心電図変化までの時間を調べる。
これらの被験者は、実施例2で示した通り、心拍数・圧の積値の10%減少及び許容時間の5%増加を更に超える向上を示すことが予想される。
【0054】
本明細書中に引用した全ての文献を参照して本文に組み入れる。種々の特定且つ好ましい態様により本発明を記載した。しかし本発明の範囲内で多くの改変及び修飾が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物のエネルギーレベルを増加させるための方法であって、前記哺乳動物に有効量のペントースを経口投与することを含んで成る前記方法。
【請求項2】
前記ペントースがリボースである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物のATP利用度が低下している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物のエネルギー要求性が増加している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物が冠状動脈疾患を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物が、感染、外傷又は火傷から回復中である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記哺乳動物が激しく運動している、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記哺乳動物が虚血性障害を受けていない、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物のエネルギーレベルを増加させるために投与される組成物であって、有効量のペントースを含有する前記組成物。
【請求項10】
前記ペントースがリボースである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
更にマグネシウム及びクレアチンを含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
約0.1〜50gのペントースを、医薬上容認される担体と共に含有する、経口摂取に適する単位投与剤。
【請求項13】
前記ペントースがリボースである、請求項12に記載の単位投与剤。
【請求項14】
前記担体が液体である、請求項12に記載の単位投与剤。
【請求項15】
前記液体が水性液体である、請求項14に記載の単位投与剤。
【請求項16】
前記担体が、固体又は半固体の食べられる担体である、請求項12に記載の単位投与剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−168394(P2010−168394A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−89732(P2010−89732)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【分割の表示】特願2000−554356(P2000−554356)の分割
【原出願日】平成11年6月17日(1999.6.17)
【出願人】(500579545)バイオエナジー インコーポレイティド (8)
【Fターム(参考)】