エネルギ蓄積装置
【課題】潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供すること。
【解決手段】エネルギ蓄積装置1は、負荷と接続される入出力キャリア21を備えた遊星歯車機構2と、遊星歯車機構2を介して負荷と連結されたフライホイール3と、遊星歯車機構2を収容する遊星部筐体4とを有する。遊星歯車機構2は、フライホイール3と連結されたサンギア22と、サンギア22に噛合する複数のピニオンギア23と、ピニオンギア23と噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギア24とを有する。遊星部筐体4の内側空間である遊星部空間40の最下部には、潤滑油15を貯留する油貯留部41が形成されている。油貯留部41に貯留された潤滑油15の油面151が、リングギア24の最下部よりも上方に位置できるよう構成されている。
【解決手段】エネルギ蓄積装置1は、負荷と接続される入出力キャリア21を備えた遊星歯車機構2と、遊星歯車機構2を介して負荷と連結されたフライホイール3と、遊星歯車機構2を収容する遊星部筐体4とを有する。遊星歯車機構2は、フライホイール3と連結されたサンギア22と、サンギア22に噛合する複数のピニオンギア23と、ピニオンギア23と噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギア24とを有する。遊星部筐体4の内側空間である遊星部空間40の最下部には、潤滑油15を貯留する油貯留部41が形成されている。油貯留部41に貯留された潤滑油15の油面151が、リングギア24の最下部よりも上方に位置できるよう構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両における駆動系等の負荷のエネルギを、回転運動の運動エネルギとしてフライホイールに蓄積するエネルギ蓄積装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両における駆動系等の負荷のエネルギを、回転運動の運動エネルギとしてフライホイールに蓄積するエネルギ蓄積装置がある。すなわち、かかるエネルギ蓄積装置は、例えば車両の減速時等において、駆動系の運動エネルギをフライホイールに伝達することにより、この運動エネルギをフライホイールの回転運動の運動エネルギとして蓄積する。そして、フライホイールに蓄積されたエネルギを、加速時等に駆動系に返して再利用することができる。
【0003】
かかるエネルギ蓄積装置において、負荷とフライホイールとの間に、遊星歯車機構を設けたものがある(特許文献1)。すなわち、遊星歯車機構を介して、負荷のエネルギをフライホイールに伝達する。このように、遊星歯車機構をCVT(無段変速機)として使用し、円滑なエネルギ伝達を可能にしている。
【0004】
すなわち、遊星歯車機構は、フライホイールに直接的又は間接的に連結されるサンギアと、該サンギアに噛合すると共に上記サンギアを中心とする公転が上記入出力キャリアの自転となるように該入出力キャリアに連結された複数のピニオンギアと、上記サンギアとの間に上記ピニオンギアを配置して該ピニオンギアと噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギアとを有する。そして、特許文献1に記載のシステムにおいては、リングギアに対して電動機を接続し、電動機によって駆動系側の回転数とフライホイールの回転数とを調速することで、円滑なエネルギの回収を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/010819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両等においてブレーキをかけたときなど、大きなエネルギを急激にエネルギ蓄積装置に蓄積されようとする際には、反力として大きなトルクが電動機の回転軸に加わることとなる。それゆえ、電動機によっては充分な調速を行うことが困難となるおそれがある。その結果、大きなトルクを充分に受けることのできる電動機を採用する必要が生じ、コストが高くなるおそれがある。
また、遊星歯車機構における歯車の噛合部や軸受部等には、潤滑油を供給する必要がある。この潤滑油の循環のために、ポンプによる循環経路を構成すると、コストの低減が困難となる。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、負荷と接続されると共に水平方向の回転軸を中心に回転可能な入出力キャリアを備えた遊星歯車機構と、
該遊星歯車機構を介して上記負荷と連結され、該負荷のエネルギを回転運動の運動エネルギとして蓄積するフライホイールと、
上記遊星歯車機構を収容すると共に上記入出力キャリアを軸支する遊星部筐体とを有し、
上記遊星歯車機構は、上記フライホイールと直接的又は間接的に連結されたサンギアと、該サンギアに噛合すると共に上記サンギアを中心とする公転が上記入出力キャリアの自転となるように該入出力キャリアに連結された複数のピニオンギアと、上記サンギアとの間に上記ピニオンギアを配置して該ピニオンギアと噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギアとを有し、
上記遊星部筐体の内側空間である遊星部空間の最下部には、潤滑油を貯留する油貯留部を備え、
該油貯留部に貯留された上記潤滑油の油面が、上記リングギアの最下部よりも上方に位置できるよう構成されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
上記エネルギ蓄積装置は、上記遊星部空間の最下部に上記油貯留部を備え、該油貯留部に貯留された上記潤滑油の油面が、上記リングギアの最下部よりも上方に位置できるよう構成されている。上記潤滑油の油面が上記リングギアの最下部よりも上方に配されると、上記リングギアが回転する際には、上記油貯留部に貯留された潤滑油がリングギアの回転の抵抗となる。すなわち、潤滑油による抵抗のトルクが、遊星歯車機構における負荷側とフライホイール側との回転数を調速(以下において、適宜「遊星歯車機構の調速」という。)するためのトルクの少なくとも一部となる。
【0010】
それゆえ、遊星歯車機構の調速のために例えば電動機等を調速器として利用する場合において、潤滑油によってこれを補助することができる。そのため、受けることのできるトルクが比較的小さい電動機等の調速器を用いることができ、コスト低減を図ることができる。
また、場合によっては、潤滑油の抵抗トルクによって調速のトルクのすべてを賄うこともできる。この場合には、調速器を設ける必要がなくなり、装置の簡素化を図ることができる。
また、上記油貯留部における潤滑油の油面を調整することによって、上記遊星歯車機構の調速のトルクを調整することも容易に行うことができる。
【0011】
また、上記リングギアが回転することによって、リングギアによって潤滑油が掻き揚げられ、遊星歯車機構における歯車の噛合部や軸受部等に、潤滑油を供給することができる。それゆえ、他の動力を用いることなく、リングギアの回転によって潤滑油を各部に効率的に循環させることができる。その結果、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
また、上記のように、リングギアによる潤滑油の掻き揚げが、潤滑油の循環と、遊星歯車機構の調速とに利用されるため、効率のよいエネルギ蓄積を実現することができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図2】実施例1における、エネルギ蓄積装置の水平断面説明図。
【図3】実施例1における、遊星部空間の回転軸に直交する垂直断面説明図。
【図4】実施例1における、変速部空間の回転軸に直交する垂直断面説明図。
【図5】実施例1における、下方開閉弁を開放しているときの(A)変速部空間の垂直断面説明図、(B)遊星部空間の垂直断面説明図。
【図6】実施例1における、下方開閉弁を閉止しているときの(A)変速部空間の垂直断面説明図、(B)遊星部空間の垂直断面説明図。
【図7】実施例1における、下方開閉弁の開閉制御フロー図。
【図8】実施例2における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図9】実施例2における、上方開閉弁の開閉制御フロー図。
【図10】実施例3における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図11】実施例3における、下方開閉弁および上方開閉弁の開閉制御フロー図。
【図12】実施例4における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図13】実施例5における、エネルギ蓄積装置の水平断面説明図。
【図14】実施例6における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図15】図14のA−A線矢視断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記態様において、上記負荷としては、例えば、車両の駆動系(ドライブトレイン)等がある。
また、上記遊星部空間には、上記リングギアの回転軸よりも上方に、上記リングギアの回転に伴って上昇した上記潤滑油を受ける油受部を備えていることが好ましい(請求項2)。この場合には、所望の部位に潤滑油を供給しやすくなる。すなわち、上記リングギアによって掻き揚げられた潤滑油を一旦上記油受部に受けることで、該油受部から潤滑油を所望の部位に供給することができる。
【0015】
また、上記遊星歯車機構の上記サンギアと上記フライホイールとの間には、上記サンギアと上記フライホイールとの回転速度を変更する変速歯車機構が介在しており、該変速歯車機構は、変速部筐体の内部空間である変速部空間に配置されており、上記遊星部筐体における上記油受部と上記変速部空間との間には、上記油受部から上記変速部空間へ上記潤滑油を導く上方連通部が形成されており、該上方連通部が上記変速部空間へ開口した下流側開口部は、上記変速歯車機構における複数の歯車間の噛合部よりも上方に位置しており、また、上記変速部空間の下部と上記遊星部空間の下部との間には、上記変速部空間から上記遊星部空間へ上記潤滑油を導く下方連通部が形成されていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記変速歯車機構における複数の歯車の間の噛合部に、潤滑油を効率的に供給することができる。
【0016】
また、上記変速歯車機構は、上記サンギアに固定された大歯車と、上記フライホイールに固定されると共に上記大歯車よりも半径の小さい小歯車とを互いに噛合してなり、回転軸方向から見たとき、上記上方連通部の上記下流側開口部は、上記大歯車と上記小歯車との噛合部の鉛直上方に配置されていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記大歯車と上記小歯車との噛合部へ潤滑油を効率的に供給することができる。
【0017】
また、上記大歯車の回転軸と上記小歯車の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されていることが好ましい(請求項5)。この場合には、上記大歯車と上記小歯車との噛合部へ潤滑油を一層効率的に供給することができる。
【0018】
また、上記下方連通部には、開閉可能な下方開閉弁が配設されていることが好ましい(請求項6)。この場合には、上記変速部空間から上記遊星部空間における油貯留部への潤滑油の供給を制御することが可能となり、油貯留部における油面の高さを適切な高さに調整することができる。これにより、上記遊星歯車機構の調速のためのトルクを、油面の高さによって容易に調整することができる。
【0019】
また、上記下方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることが好ましい(請求項7)。この場合には、上記遊星歯車機構が機能する際、すなわち、上記噛合部において潤滑油による潤滑が特に必要なときに潤滑油を噛合部に供給し、また、遊星歯車機構の調速が必要なときにリングギアに潤滑油の抵抗トルクが作用するようにすることができる。それゆえ、効率的に潤滑油の循環を行うと共に上記遊星歯車機構の調速を確実に行うことができる。なお、一般に、歯車は、伝達するトルクが大きくなるほど焼き付きの危険性が増し、それを防ぐには噛合部に潤滑油を滴下することが有効である。それゆえ、上記のように、噛合部に所定以上のトルクがかかるときに、噛合部に潤滑油を滴下できるようにすることで、噛合部の焼き付きを効果的に防ぐことができる。
【0020】
また、上記上方連通部には、開閉可能な上方開閉弁が配設されていることが好ましい(請求項8)。この場合には、上記上方連通部から上記変速歯車機構への潤滑油の供給を制御することが可能となる。そのため、変速歯車機構への潤滑油の供給を応答性よく行うことができる。
【0021】
また、上記上方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることが好ましい(請求項9)。この場合には、上記変速歯車機構に、必要なタイミングにて必要な量の潤滑油を適切に供給することができる。
【0022】
また、上記変速歯車機構における上記複数の歯車のうちの最下部は、上記リングギアの最下部よりも上方に位置していることが好ましい(請求項10)。この場合には、上記油貯留部に貯留された潤滑油を上記リングギアに接触させつつ、上記変速部空間に貯留した潤滑油が上記変速歯車機構を構成する歯車に接触しないようにすることができる。これにより、変速歯車機構における潤滑油との抵抗による損失を低減することができる。その結果、負荷のエネルギを効率的に上記フライホイールへ伝達することができる。
【0023】
また、上記リングギアは、上記潤滑油を内側に保持して掻き揚げる掻揚部を、外周部もしくは側部に設けてなることが好ましい(請求項11)。この場合には、上記リングギアによって上記潤滑油を効率的に上方へ掻き揚げて循環させると共に、上記遊星歯車機構の調速を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
エネルギ蓄積装置にかかる実施例について、図1〜図7を用いて説明する。
本例のエネルギ蓄積装置1は、図1、図2に示すごとく、遊星歯車機構2と、フライホイール3と、遊星部筐体4とを有する。
遊星歯車機構2は、図1〜図3に示すごとく、負荷と接続されると共に水平方向の回転軸を中心に回転可能な入出力キャリア21を備えている。フライホイール3は、遊星歯車機構2を介して負荷と連結され、該負荷のエネルギを回転運動の運動エネルギとして蓄積する。遊星部筐体4は、遊星歯車機構2を収容すると共に入出力キャリア21を軸支している。
【0025】
遊星歯車機構2は、フライホイール3と間接的に連結されたサンギア22と、該サンギア22に噛合する複数のピニオンギア23と、サンギア22との間にピニオンギア23を配置した円環状のリングギア24とを有する。複数のピニオンギア23は、サンギア22を中心とする公転が入出力キャリア21の自転となるように該入出力キャリア21に連結されている。リングギア24は、ピニオンギア23と噛合する内側歯面を備えてなる。
【0026】
遊星部筐体4の内側空間である遊星部空間40の最下部には、潤滑油15を貯留する油貯留部41が形成されている。
油貯留部41に貯留された潤滑油15の油面151は、リングギア24の最下部よりも上方に配されるよう構成されている。
【0027】
本例においては、上記負荷は、車両の駆動系(ドライブトレイン)であって、図2に示すごとく、入出力キャリア21には、駆動系に接続される駆動系接続歯車61が噛合している。つまり、リングギア24の外周面には歯面が形成されており、この歯面に駆動系接続歯車61が噛合している。
図1、図3に示すごとく、遊星部空間40には、リングギア24の回転軸よりも上方に、リングギア24の回転に伴って上昇した潤滑油15を受ける油受部42が形成されている。本例においては、油受部42は、リングギア24の上端部付近に配置されている。
【0028】
図1、図2に示すごとく、遊星歯車機構2のサンギア22とフライホイール3との間には、サンギア22とフライホイール3との回転速度を変更する変速歯車機構5が介在している。変速歯車機構5は、変速部筐体11の内部空間である変速部空間110に配置されている。図1に示すごとく、遊星部筐体4における油受部42と変速部空間110との間には、油受部42から変速部空間110へ潤滑油15を導く上方連通部43が形成されている。図4に示すごとく、上方連通部43が変速部空間110へ開口した下流側開口部431は、変速歯車機構5における複数の歯車間の噛合部53よりも上方に位置している。
【0029】
変速歯車機構5は、サンギア22に固定された大歯車51と、フライホイール3に固定されると共に大歯車51よりも半径の小さい小歯車52とを互いに噛合してなる。回転軸方向から見たとき、上方連通部43の下流側開口部431は、大歯車51と小歯車52との噛合部53の鉛直上方に配置されている。
大歯車51の回転軸と小歯車52の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されている。
【0030】
変速部空間110の下部と遊星部空間40の下部との間には、変速部空間110から遊星部空間40へ潤滑油15を導く下方連通部44が形成されている。すなわち、変速部空間110の下部に設けた油保持部111と、遊星部空間40の下部に設けた油貯留部41との間をつなぐように、下方連通部44が形成されている。下方連通部44には、開閉可能な下方開閉弁441が配設されている。本例において、下方開閉弁441は電磁弁によって構成されている。また、油保持部111は、変速歯車機構5の軸方向における変速部空間110の幅を部分的に大きくして、その容量が大きくなるようにしてある。
【0031】
図1、図2に示すごとく、変速歯車機構5における大歯車51は、遊星歯車機構2におけるサンギア22の回転軸を構成するサンギア用シャフト121に固定され、サンギア22と共に回転する。サンギア用シャフト121は、遊星部筐体4に対して回転可能に軸支されている。すなわち、遊星部筐体4に設けた軸受部131において、サンギア用シャフト121が軸支されている。サンギア用シャフト121は、遊星部筐体4における変速部筐体11との間の隔壁から変速部空間110へ突出し、該変速部空間110における大歯車51に固定されている。また、サンギア用シャフト121は、遊星部筐体4における変速部筐体11と反対側においても、軸受部131に軸支されている。そして、この軸受部131の外側に、潤滑油15の漏れを防ぐためのシール部材132が配設されている。なお、軸受部131はボールベアリングによって構成することができる。
【0032】
また、変速歯車機構5における小歯車52は、フライホイール3の回転軸を構成するフライホイール用シャフト122に固定され、フライホイール3と共に回転する。フライホイール用シャフト122は、フライホイール3を収容するホイール部筐体14に対して回転可能に軸支されている。すなわち、ホイール部筐体14に設けた一対の軸受部131において、ホイール用シャフト122が軸支されている。各軸受部131におけるフライホイール3側には、潤滑油15の漏れを防ぐためのシール部材132が配設されている。そして、フライホイール用シャフト122は、ホイール部筐体14における変速部筐体11との間の隔壁から変速部空間110へ突出し、該変速部空間110における小歯車52に固定されている。
【0033】
遊星部筐体4と変速部筐体11とホイール部筐体14とは、互いに一体化されている。また、遊星部筐体4は、遊星歯車機構2と負荷(ドライブトレイン)とを接続する駆動系接続歯車61等を収容する筐体と一体化されている。
【0034】
遊星歯車機構2における入出力キャリア21は、遊星部筐体4における変速部筐体11との間の隔壁において、軸受部131によって回転可能に支持されている。入出力キャリア21は円環状に形成され、周方向の4か所においてピニオンシャフト211を取り付けてなり、該ピニオンシャフト211にピニオンギア23が取り付けてある。ピニオンシャフト211とピニオンギア23との間には、例えば針状ころ軸受(図示略)が介設されており、ピニオンシャフト211に対してピニオンギア23が回転可能に軸支されている。
また、リングギア24も、遊星部筐体4に回転可能に支持されている(図示略)。
そして、油貯留部41に貯留された潤滑油15に、リングギア24の一部が浸漬された状態となっている。また、リングギア24には、電動機等が調速器として接続されている。
【0035】
また、負荷(ドライブトレイン)とエネルギ蓄積装置1との間にはクラッチが設けられている(図示略)。また、入出力キャリア21には、ロック機構が設けられ、その回転を強制的に停止することができるよう構成されている。
【0036】
上記のように構成されたエネルギ蓄積装置1は、例えば次のように動作する。
すなわち、車両が定常走行している際には、ドライブトレインと駆動系接続歯車61との間に設けたクラッチ(図示略)が切られており、ドライブトレインのエネルギがエネルギ蓄積装置1に伝わらないようにしてある。そして、車両の減速時においては、上記クラッチを繋げて、ドライブトレインのエネルギが駆動系接続歯車61を通じて、遊星歯車機構2における入出力キャリア21に伝わる。これにより、ピニオンギア23がサンギア22の周囲を公転する。このとき、リングギア24に抵抗トルクがかかっていないと、リングギア24が回転し、サンギア22はほとんど回転しない。これはサンギア22にはフライホイール3が接続されており、リングギア24よりイナーシャが大きいためである。そこで、リングギア23に対して抵抗トルクをかけることにより、リングギア23の回転を抑制し、ピニオンギア23の公転(入出力キャリア21の回転)に伴い、サンギア22が回転する。これにより、サンギア22に接続された変速歯車機構5を介してフライホイール3に回転力が伝わり、フライホイール3が回転する。変速歯車機構5は、サンギア22の回転数を所定の割合で増加させてフライホイール3を回転させる。これにより、負荷(ドライブトレイン)から入出力キャリア21に入力されたエネルギが、フライホイール3に蓄積される。
【0037】
ここで、リングギア23に対する抵抗トルクには、リングギア23に接続された電動機のトルクに加え、油貯留部41に貯留された潤滑油15によるトルクもある。
車両の減速がなされ、フライホイール3が所定の速度で回転している状態において、上記クラッチを切って、フライホイール3に蓄積されたエネルギを維持する。
その後、フライホイール3に蓄積されたエネルギは、上記クラッチを繋げることにより、遊星歯車機構2を介して入出力キャリア21からドライブトレインに返すことができる。つまり、例えば、加速時等において、再びクラッチを繋げることによって、フライホイール3のエネルギをドライブトレインへ伝えて、加速の補助に用いることができる。
【0038】
このように動作するエネルギ蓄積装置1において、油貯留部41に貯留された潤滑油15がリングギア24に接触していると、潤滑油15がリングギア24の回転に伴い掻き揚げられ、遊星部空間40の上部まで上昇する。ここで、リングギア24がある程度の高速で回転している場合には、潤滑油15は遊星部空間40の上部において飛び散ることとなる。それゆえ、リングギア24によって掻き揚げられた潤滑油15の一部は、遊星部空間40の上部に設けられた油受部42に溜まる。この油受部42に溜まった潤滑油15は、上方連通部43を通じて変速部空間110に導入され、上方連通部43の下流側開口部431から、変速歯車機構5の大歯車51と小歯車52との噛合部53に落下する。これにより、大きいトルクのかかる噛合部53に対して潤滑油15を充分に供給することができる。
【0039】
噛合部53に供給された潤滑油15は、噛合部53を潤滑した後、変速部空間110の下部における油保持部111に溜まる。変速部空間110の下部と遊星部空間40の下部である油貯留部41との間には、下方連通部44が設けてあり、そこには下方開閉弁441が設けてある。それゆえ、下方開閉弁441が開放されているときには、変速部空間110の油保持部111に溜まった潤滑油15は、その油面152が油貯留部41における潤滑油15の油面151と一致するまで、油貯留部41へ移動する。一方、下方開閉弁441が閉止されているときには、油貯留部41の油面151に関わらず、油保持部111における潤滑油15の油面151が上がる。そして、図6(B)に示すごとく、油貯留部41の潤滑油15はリングギア24によって次々と上方へ掻き揚げられ、油面151が低くなり、その結果、油貯留部41における潤滑油15とリングギア24とが接触しなくなる。
【0040】
そこで、下方開閉弁441を適切に開閉制御することによって、必要に応じて潤滑油15を変速歯車機構5へ供給すると共に、潤滑油15を遊星歯車機構2の調速に用いることができる。
つまり、例えば、減速時等においてドライブトレインのエネルギをフライホイール3へ蓄積する際には、リングギア24にトルクをかけてサンギア22を回転させる必要があるため、この場合において、下方開閉弁441を開放する。これによって、図5に示すごとく、変速部空間110の油保持部111における潤滑油15が下方連通部44を通じて遊星部空間40の油貯留部41に導かれ、そこに溜まる潤滑油15の油面151が上昇する。そして、この潤滑油15にリングギア24が充分に接触する。そうすると、リングギア24にトルクがかかり、入出力キャリア21の回転エネルギがサンギア22へ伝わる。このとき、電動機等の調速器によってもリングギア24にトルクをかけて調速することとなるが、そのトルクを補助するように潤滑油15によってもリングギア24にトルクをかけることができる。
【0041】
また、潤滑油15に接触したリングギア24が回転することによって、上述したように潤滑油15が油受部42に供給され、上方連通部43から変速部空間110に導かれ、変速歯車機構5の噛合部53に供給される。つまり、上記のように減速時等においてドライブトレインのエネルギをフライホイール3へ蓄積する際には、変速歯車機構5の噛合部53にも大きなトルクがかかっているため、噛合部53に充分な潤滑油15が必要とされる。かかる状況において、タイミング良く、潤滑油15を変速歯車機構5へ供給することができる。
【0042】
一方、定速運転時等、ドライブトレインとフライホイール3との間のエネルギの授受を行わない場合、すなわちリングギア24にトルクをかけないときには、下方開閉弁441を閉じておく。これにより、図6(B)に示すごとく、油貯留部41における潤滑油15の油面151が低下し、潤滑油15とリングギア24とが接触しなくなり、リングギア24に潤滑油15からトルクがかからなくなる。それゆえ、フライホイール3の回転の抵抗となるトルクを低減することができ、フライホイール3におけるエネルギを維持しやすくなる。また、この場合には、変速歯車機構5においてもトルクがかからないため、変速歯車機構5の噛合部53には特に潤滑油15が必要とされない。それゆえ、リングギア24による潤滑油15の掻き揚げによる変速歯車機構5への潤滑油15の供給も特に必要がない。
【0043】
上記のような下方開閉弁44の開閉制御のフローチャートを図7に示す。すなわち、イグニッションオン(ステップS11)からイグニッションオフ(ステップS15、S16)までの間、この制御プログラムが作動する。すなわち、この間、上述のようにリングギア24にトルクをかけるかかけないかの判断を随時繰返し、トルクをかける際に下方開閉弁441を開放し、トルクをかけないときに下方開閉弁441を閉じるという制御を行う(ステップS12、S13、S14、S15)。
【0044】
次に、本例の作用効果につき説明する。
エネルギ蓄積装置1は、遊星部空間40の最下部に油貯留部41を備え、油貯留部41に貯留された潤滑油15の油面151は、リングギア24の最下部よりも上方に配されるよう構成されている。油面151がリングギア24の最下部よりも上方に配されると、リングギア24が回転する際には、油貯留部41に貯留された潤滑油15がリングギア24の回転の抵抗となる。すなわち、潤滑油15による抵抗のトルクが、遊星歯車機構2における負荷側とフライホイール3側との回転数を調速するためのトルクの少なくとも一部となる。
【0045】
それゆえ、遊星歯車機構2の調速のために例えば電動機等を調速器として利用する場合において、潤滑油15によってこれを補助することができる。そのため、受けることのできるトルクが比較的小さい電動機等の調速器を用いることができ、コスト低減を図ることができる。
また、場合によっては、潤滑油15の抵抗トルクによって調速のトルクのすべてを賄うこともできる。この場合には、調速器を設ける必要がなくなり、装置の簡素化を図ることができる。
また、油貯留部41における潤滑油15の油面151を調整することによって、遊星歯車機構2の調速のトルクを調整することも容易に行うことができる。
【0046】
また、リングギア24が回転することによって、リングギア24によって潤滑油15が掻き揚げられ、遊星歯車機構2における歯車の噛合部や軸受部131等に、潤滑油15を供給することもできる。それゆえ、他の動力を用いることなく、リングギア24の回転によって潤滑油15を各部に効率的に循環させることができる。その結果、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
また、上記のように、リングギア24による潤滑油15の掻き揚げが、潤滑油15の循環と、遊星歯車機構2の調速とに利用されるため、効率のよいエネルギ蓄積を実現することができる。
【0047】
また、遊星部空間40には、リングギア24の上端部付近に油受部42が形成されている。そのため、所望の部位に潤滑油15を供給しやすくなる。すなわち、リングギア24によって掻き揚げられた潤滑油15を一旦油受部42に受けることで、該油受部42から潤滑油15を所望の部位に供給することができる。
【0048】
また、遊星部筐体40における油受部42と変速部空間110との間には上方連通部43が形成されており、上方連通部43の下流側開口部431は変速歯車機構5における複数の歯車間の噛合部53よりも上方に位置している。また、変速部空間110の下部と遊星部空間40の下部との間には、変速部空間110から遊星部空間40へ潤滑油15を導く下方連通部44が形成されている。これにより、遊星部空間40と変速部空間110との間において潤滑油15を循環させて、変速歯車機構5における複数の歯車の間の噛合部53に、潤滑油15を効率的に供給することができる。
【0049】
また、図4に示すごとく、回転軸方向から見たとき、上方連通部42の下流側開口部421は、大歯車51と小歯車52との噛合部53の鉛直上方に配置されている。そのため、噛合部53へ潤滑油15を効率的に供給することができる。
また、大歯車51の回転軸と小歯車52の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されている。そのため、大歯車51と小歯車52との噛合部53へ潤滑油15を一層効率的に供給することができる。
【0050】
また、下方連通部44には下方開閉弁441が配設されている。それゆえ、変速部空間110から遊星部空間40における油貯留部41への潤滑油15の供給を制御することが可能となり、油貯留部41における油面151の高さを適切な高さに調整することができる。これにより、遊星歯車機構2の調速のためのトルクを、油面151の高さによって容易に調整することができる。
【0051】
また、変速歯車機構5における大歯車51の最下部は、リングギア24の最下部よりも上方に位置している。そのため、油貯留部41に貯留された潤滑油15をリングギア24に接触させつつ、変速部空間110に貯留した潤滑油15が大歯車51に接触しないようにすることができる。これにより、変速歯車機構5における潤滑油15との抵抗による損失を低減することができる。その結果、負荷のエネルギを効率的にフライホイール3へ伝達することができる。
【0052】
以上のごとく、本例によれば、潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供することができる。
【0053】
(実施例2)
本例は、図8に示すごとく、上方連通部43に上方開閉弁432を設けた例である。
また、本例においては、下方連通部44には下方開閉弁441を設けず、下方連通部44は常に連通している。それゆえ、遊星部空間40の油貯留部41における潤滑油15の油面151と変速部空間110の油保持部111における潤滑油15の油面152とは同じ高さとなる。また、上方開閉弁432は電磁弁によって構成されている。
【0054】
本例のエネルギ蓄積装置1においては、リングギア24の回転に伴って掻き揚げられて油受部42に溜まった潤滑油15の変速歯車機構5への供給を、上方開閉弁432の開閉によって制御することができる。
つまり、変速歯車機構5への潤滑油15の供給が必要なときには、上方開閉弁432を開放して、油受部42から上方連通部43を介して、変速部空間110へ潤滑油15を供給する。変速部空間110に供給され、大歯車51と小歯車52との噛合部53を潤滑した後の潤滑油15は、油保持部111に落下し、下方連通部44を通じて油貯留部41へ導かれる。そして、油貯留部41における潤滑油15の油面151がリングギア24の最下部よりも上方となるように保たれる。これにより、リングギア24の回転に伴い、次々と潤滑油15が掻き揚げられ、油受部42、上方連通部43を通じて、変速部空間110へ供給される。このようにして、潤滑油15が循環することとなる。
【0055】
一方、変速歯車機構5への潤滑油15の供給が必要でないときには、上方開閉弁432を閉止する。
また、上方開閉弁432は、その開口量をも調整できるよう構成することもできる。つまり、状況に応じて、変速歯車機構5への潤滑油15の供給量を調整することができるよう構成することもできる。
【0056】
上記のような変速歯車機構5への潤滑油15の供給の要不要を、変速部空間110における噛合部53にかかるトルクTが所定値T0を超えるか超えないかによって判断する場合のフローチャートを、図9に示す。上記トルクTの所定値T0は、これを超えたときに潤滑油15による潤滑がないと焼き付きのおそれが生じるトルクとして決定する。
【0057】
上方開閉弁432の開閉制御の一例としては、図9に示すごとく、まず、イグニッションオン(ステップS21)の後、噛合部53にかかるトルクTが所定値T0よりも大きいか否かを判断する(ステップS22)。トルクTがトルクT0よりも大きいとき、上方開閉弁432を開く(ステップS23)。また、このときの上方開閉弁432の開口量は、トルクTの大きさに応じて、例えば比例関数等の所定の関数によって決定することができる。一方、トルクTがトルクT0以下のとき、上方開閉弁432を閉じる(ステップS24)。
このように、ステップS22、S23、S24を、イグニッションオフ(ステップS25、S26)まで逐次繰返し、上方開閉弁432の開閉制御を適切に行う。
その他は、実施例1と同様である。
【0058】
本例の場合には、上方連通部43から変速歯車機構5への潤滑油15の供給を制御することが可能となる。そのため、変速歯車機構5への潤滑油15の供給を応答性よく行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(実施例3)
本例は、図10、図11に示すごとく、下方連通部44に下方開放弁441を設けると共に、上方連通部43に上方開閉弁432を設けた例である。
その他は、実施例1と同様である。
【0060】
本例の場合には、油貯留部41における潤滑油15の油面151の調整と、変速歯車機構5への潤滑油15の供給制御とを、個別に行うことができる。つまり、図11に示すごとく、遊星歯車機構2の調速のトルクをリングギア24にかけるタイミングと、変速歯車機構5における噛合部53への潤滑油15の供給タイミングとをそれぞれ個別に制御することができる。
【0061】
本例のエネルギ蓄積装置1においては、例えば、図11のフローチャートに示すように、実施例2に示した上方開閉弁432の制御フロー(図9)と、実施例1に示した下方開閉弁441の制御フロー(図7)とを並列的に繋げた制御フローによって、上方開閉弁432と下方開閉弁441とをそれぞれ適宜開閉制御する。
なお、図11において、ステップS322〜S325は、実施例2に示した制御フロー(図9)におけるステップS22〜S25と同様であり、ステップS312〜S315は、実施例1に示した制御フロー(図7)におけるステップS12〜S15と同様である。
これにより、遊星歯車機構2の調速と、変速歯車機構5における噛合部53の潤滑とを、より的確に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0062】
(実施例4)
本例は、図12に示すごとく、リングギア24の外周部に、潤滑油15を内側に保持して掻き揚げる掻揚部241を設けた例である。
本例において、掻揚部241は、リングギア24の外周部から、径方向外側に向かうと共に回転方向前方に向かうように突出形成されている。つまり、掻揚部241は、リングギア24の径方向に対して回転方向前方へ傾斜してなる。なお、この掻揚部241は、図12に記載の形状に限るものではなく、たとえば、フランシス水車やペルトン水車において用いられるようなプロペラ状のランナであってもよい。
その他は、実施例1と同様である。
【0063】
本例の場合には、リングギア24によって潤滑油15を効率的に上方へ掻き揚げて循環させると共に、遊星歯車機構2の調速を効率的に行うことができる。つまり、上記掻揚部241を設けることによって、リングギア24が掻き揚げる潤滑油15の量を多くすることができると共に、潤滑油15からリングギア24が受ける抵抗トルクが大きくなり、遊星歯車機構2の調速を効率的に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
なお、上記掻揚部241の形状や形成位置は特に限定されるものではなく、例えば、リングギア24の側面に形成されていてもよい。
【0064】
(実施例5)
本例は、図13に示すごとく、駆動系に接続される駆動系接続歯車61と、入出力キャリア21とを、チェーン62によって接続した例である。
すなわち、駆動系接続歯車61および入出力キャリア21の外周部をスプロケットとし、両者にチェーン62を噛み合わせることにより、両者を連結してある。
その他は、実施例1と同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。
【0065】
(実施例6)
本例は、図14、図15に示すごとく、変速歯車機構5(図1、図2参照)を設けることなく、遊星歯車機構2とフライホイール3とを直接接続したエネルギ蓄積装置1の例である。
すなわち、本例のエネルギ蓄積装置1は、遊星歯車機構2におけるサンギア22と、フライホイール3とが共通の共有シャフト120に固定されている。また、共有シャフト120には、サンギア22におけるフライホイール3側の面に接するように、サンギア22よりも直径の小さい環状のストッパー部材124が固定されている。ストッパー部材124は、共有シャフト120に対するサンギア22の軸方向位置を決める位置決め部材として機能すると共に、共有シャフト120の軸受部131へ潤滑油15が導かれるようにするための誘導壁としての役割をも果たす。
【0066】
また、共有シャフト120の軸受部131や、入出力キャリア21の軸受部131の周りには、遊星部空間40に連通した連通路45が適宜形成されている。遊星部空間40とフライホイール3との間に形成された連通路45には、遊星部空間40における油貯留部41と略同等の高さ位置に、油保持部111が形成されている。この油保持部111と油貯留部41との間には、下方連通部44が形成され、該下方連通部44に下方開閉弁441が配設されている。
【0067】
また、油保持部111の底面は、油貯留部41の底面よりも低い位置に形成されており、該底面に磁石体112が配設されている。該磁石体112によって、潤滑油15内に混入した鉄粉等を捕集するよう構成されている。
その他は、実施例1と同様である。
【0068】
本例の場合には、リングギア24によって掻き揚げられた潤滑油15が連通路45を通じて各軸受部131に供給されるため、各軸受部131の潤滑を効率的に行うことができる。また、掻き揚げられた潤滑油15は、遊星歯車機構2における各種歯車同士の噛合部にも供給されるため、噛合部の潤滑も効率的に行うことができる。
また、油貯留部41における潤滑油15の油面151の調整によって、リングギア24にかけるトルクを調整することもできるため、潤滑油15による遊星歯車機構2の調速を効率的に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0069】
なお、実施例1〜5においても、実施例6に示したような潤滑油15の連通路45を形成して、各軸受部131にも潤滑油15が効率的に循環するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1 エネルギ蓄積装置
15 潤滑油
151 油面
2 遊星歯車機構
21 入出力キャリア
22 サンギア
23 ピニオンギア
24 リングギア
3 フライホイール
4 遊星部筐体
40 遊星部空間
41 油貯留部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両における駆動系等の負荷のエネルギを、回転運動の運動エネルギとしてフライホイールに蓄積するエネルギ蓄積装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両における駆動系等の負荷のエネルギを、回転運動の運動エネルギとしてフライホイールに蓄積するエネルギ蓄積装置がある。すなわち、かかるエネルギ蓄積装置は、例えば車両の減速時等において、駆動系の運動エネルギをフライホイールに伝達することにより、この運動エネルギをフライホイールの回転運動の運動エネルギとして蓄積する。そして、フライホイールに蓄積されたエネルギを、加速時等に駆動系に返して再利用することができる。
【0003】
かかるエネルギ蓄積装置において、負荷とフライホイールとの間に、遊星歯車機構を設けたものがある(特許文献1)。すなわち、遊星歯車機構を介して、負荷のエネルギをフライホイールに伝達する。このように、遊星歯車機構をCVT(無段変速機)として使用し、円滑なエネルギ伝達を可能にしている。
【0004】
すなわち、遊星歯車機構は、フライホイールに直接的又は間接的に連結されるサンギアと、該サンギアに噛合すると共に上記サンギアを中心とする公転が上記入出力キャリアの自転となるように該入出力キャリアに連結された複数のピニオンギアと、上記サンギアとの間に上記ピニオンギアを配置して該ピニオンギアと噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギアとを有する。そして、特許文献1に記載のシステムにおいては、リングギアに対して電動機を接続し、電動機によって駆動系側の回転数とフライホイールの回転数とを調速することで、円滑なエネルギの回収を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/010819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両等においてブレーキをかけたときなど、大きなエネルギを急激にエネルギ蓄積装置に蓄積されようとする際には、反力として大きなトルクが電動機の回転軸に加わることとなる。それゆえ、電動機によっては充分な調速を行うことが困難となるおそれがある。その結果、大きなトルクを充分に受けることのできる電動機を採用する必要が生じ、コストが高くなるおそれがある。
また、遊星歯車機構における歯車の噛合部や軸受部等には、潤滑油を供給する必要がある。この潤滑油の循環のために、ポンプによる循環経路を構成すると、コストの低減が困難となる。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、負荷と接続されると共に水平方向の回転軸を中心に回転可能な入出力キャリアを備えた遊星歯車機構と、
該遊星歯車機構を介して上記負荷と連結され、該負荷のエネルギを回転運動の運動エネルギとして蓄積するフライホイールと、
上記遊星歯車機構を収容すると共に上記入出力キャリアを軸支する遊星部筐体とを有し、
上記遊星歯車機構は、上記フライホイールと直接的又は間接的に連結されたサンギアと、該サンギアに噛合すると共に上記サンギアを中心とする公転が上記入出力キャリアの自転となるように該入出力キャリアに連結された複数のピニオンギアと、上記サンギアとの間に上記ピニオンギアを配置して該ピニオンギアと噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギアとを有し、
上記遊星部筐体の内側空間である遊星部空間の最下部には、潤滑油を貯留する油貯留部を備え、
該油貯留部に貯留された上記潤滑油の油面が、上記リングギアの最下部よりも上方に位置できるよう構成されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
上記エネルギ蓄積装置は、上記遊星部空間の最下部に上記油貯留部を備え、該油貯留部に貯留された上記潤滑油の油面が、上記リングギアの最下部よりも上方に位置できるよう構成されている。上記潤滑油の油面が上記リングギアの最下部よりも上方に配されると、上記リングギアが回転する際には、上記油貯留部に貯留された潤滑油がリングギアの回転の抵抗となる。すなわち、潤滑油による抵抗のトルクが、遊星歯車機構における負荷側とフライホイール側との回転数を調速(以下において、適宜「遊星歯車機構の調速」という。)するためのトルクの少なくとも一部となる。
【0010】
それゆえ、遊星歯車機構の調速のために例えば電動機等を調速器として利用する場合において、潤滑油によってこれを補助することができる。そのため、受けることのできるトルクが比較的小さい電動機等の調速器を用いることができ、コスト低減を図ることができる。
また、場合によっては、潤滑油の抵抗トルクによって調速のトルクのすべてを賄うこともできる。この場合には、調速器を設ける必要がなくなり、装置の簡素化を図ることができる。
また、上記油貯留部における潤滑油の油面を調整することによって、上記遊星歯車機構の調速のトルクを調整することも容易に行うことができる。
【0011】
また、上記リングギアが回転することによって、リングギアによって潤滑油が掻き揚げられ、遊星歯車機構における歯車の噛合部や軸受部等に、潤滑油を供給することができる。それゆえ、他の動力を用いることなく、リングギアの回転によって潤滑油を各部に効率的に循環させることができる。その結果、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
また、上記のように、リングギアによる潤滑油の掻き揚げが、潤滑油の循環と、遊星歯車機構の調速とに利用されるため、効率のよいエネルギ蓄積を実現することができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図2】実施例1における、エネルギ蓄積装置の水平断面説明図。
【図3】実施例1における、遊星部空間の回転軸に直交する垂直断面説明図。
【図4】実施例1における、変速部空間の回転軸に直交する垂直断面説明図。
【図5】実施例1における、下方開閉弁を開放しているときの(A)変速部空間の垂直断面説明図、(B)遊星部空間の垂直断面説明図。
【図6】実施例1における、下方開閉弁を閉止しているときの(A)変速部空間の垂直断面説明図、(B)遊星部空間の垂直断面説明図。
【図7】実施例1における、下方開閉弁の開閉制御フロー図。
【図8】実施例2における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図9】実施例2における、上方開閉弁の開閉制御フロー図。
【図10】実施例3における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図11】実施例3における、下方開閉弁および上方開閉弁の開閉制御フロー図。
【図12】実施例4における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図13】実施例5における、エネルギ蓄積装置の水平断面説明図。
【図14】実施例6における、エネルギ蓄積装置の回転軸に平行な垂直断面説明図。
【図15】図14のA−A線矢視断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記態様において、上記負荷としては、例えば、車両の駆動系(ドライブトレイン)等がある。
また、上記遊星部空間には、上記リングギアの回転軸よりも上方に、上記リングギアの回転に伴って上昇した上記潤滑油を受ける油受部を備えていることが好ましい(請求項2)。この場合には、所望の部位に潤滑油を供給しやすくなる。すなわち、上記リングギアによって掻き揚げられた潤滑油を一旦上記油受部に受けることで、該油受部から潤滑油を所望の部位に供給することができる。
【0015】
また、上記遊星歯車機構の上記サンギアと上記フライホイールとの間には、上記サンギアと上記フライホイールとの回転速度を変更する変速歯車機構が介在しており、該変速歯車機構は、変速部筐体の内部空間である変速部空間に配置されており、上記遊星部筐体における上記油受部と上記変速部空間との間には、上記油受部から上記変速部空間へ上記潤滑油を導く上方連通部が形成されており、該上方連通部が上記変速部空間へ開口した下流側開口部は、上記変速歯車機構における複数の歯車間の噛合部よりも上方に位置しており、また、上記変速部空間の下部と上記遊星部空間の下部との間には、上記変速部空間から上記遊星部空間へ上記潤滑油を導く下方連通部が形成されていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記変速歯車機構における複数の歯車の間の噛合部に、潤滑油を効率的に供給することができる。
【0016】
また、上記変速歯車機構は、上記サンギアに固定された大歯車と、上記フライホイールに固定されると共に上記大歯車よりも半径の小さい小歯車とを互いに噛合してなり、回転軸方向から見たとき、上記上方連通部の上記下流側開口部は、上記大歯車と上記小歯車との噛合部の鉛直上方に配置されていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記大歯車と上記小歯車との噛合部へ潤滑油を効率的に供給することができる。
【0017】
また、上記大歯車の回転軸と上記小歯車の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されていることが好ましい(請求項5)。この場合には、上記大歯車と上記小歯車との噛合部へ潤滑油を一層効率的に供給することができる。
【0018】
また、上記下方連通部には、開閉可能な下方開閉弁が配設されていることが好ましい(請求項6)。この場合には、上記変速部空間から上記遊星部空間における油貯留部への潤滑油の供給を制御することが可能となり、油貯留部における油面の高さを適切な高さに調整することができる。これにより、上記遊星歯車機構の調速のためのトルクを、油面の高さによって容易に調整することができる。
【0019】
また、上記下方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることが好ましい(請求項7)。この場合には、上記遊星歯車機構が機能する際、すなわち、上記噛合部において潤滑油による潤滑が特に必要なときに潤滑油を噛合部に供給し、また、遊星歯車機構の調速が必要なときにリングギアに潤滑油の抵抗トルクが作用するようにすることができる。それゆえ、効率的に潤滑油の循環を行うと共に上記遊星歯車機構の調速を確実に行うことができる。なお、一般に、歯車は、伝達するトルクが大きくなるほど焼き付きの危険性が増し、それを防ぐには噛合部に潤滑油を滴下することが有効である。それゆえ、上記のように、噛合部に所定以上のトルクがかかるときに、噛合部に潤滑油を滴下できるようにすることで、噛合部の焼き付きを効果的に防ぐことができる。
【0020】
また、上記上方連通部には、開閉可能な上方開閉弁が配設されていることが好ましい(請求項8)。この場合には、上記上方連通部から上記変速歯車機構への潤滑油の供給を制御することが可能となる。そのため、変速歯車機構への潤滑油の供給を応答性よく行うことができる。
【0021】
また、上記上方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることが好ましい(請求項9)。この場合には、上記変速歯車機構に、必要なタイミングにて必要な量の潤滑油を適切に供給することができる。
【0022】
また、上記変速歯車機構における上記複数の歯車のうちの最下部は、上記リングギアの最下部よりも上方に位置していることが好ましい(請求項10)。この場合には、上記油貯留部に貯留された潤滑油を上記リングギアに接触させつつ、上記変速部空間に貯留した潤滑油が上記変速歯車機構を構成する歯車に接触しないようにすることができる。これにより、変速歯車機構における潤滑油との抵抗による損失を低減することができる。その結果、負荷のエネルギを効率的に上記フライホイールへ伝達することができる。
【0023】
また、上記リングギアは、上記潤滑油を内側に保持して掻き揚げる掻揚部を、外周部もしくは側部に設けてなることが好ましい(請求項11)。この場合には、上記リングギアによって上記潤滑油を効率的に上方へ掻き揚げて循環させると共に、上記遊星歯車機構の調速を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
エネルギ蓄積装置にかかる実施例について、図1〜図7を用いて説明する。
本例のエネルギ蓄積装置1は、図1、図2に示すごとく、遊星歯車機構2と、フライホイール3と、遊星部筐体4とを有する。
遊星歯車機構2は、図1〜図3に示すごとく、負荷と接続されると共に水平方向の回転軸を中心に回転可能な入出力キャリア21を備えている。フライホイール3は、遊星歯車機構2を介して負荷と連結され、該負荷のエネルギを回転運動の運動エネルギとして蓄積する。遊星部筐体4は、遊星歯車機構2を収容すると共に入出力キャリア21を軸支している。
【0025】
遊星歯車機構2は、フライホイール3と間接的に連結されたサンギア22と、該サンギア22に噛合する複数のピニオンギア23と、サンギア22との間にピニオンギア23を配置した円環状のリングギア24とを有する。複数のピニオンギア23は、サンギア22を中心とする公転が入出力キャリア21の自転となるように該入出力キャリア21に連結されている。リングギア24は、ピニオンギア23と噛合する内側歯面を備えてなる。
【0026】
遊星部筐体4の内側空間である遊星部空間40の最下部には、潤滑油15を貯留する油貯留部41が形成されている。
油貯留部41に貯留された潤滑油15の油面151は、リングギア24の最下部よりも上方に配されるよう構成されている。
【0027】
本例においては、上記負荷は、車両の駆動系(ドライブトレイン)であって、図2に示すごとく、入出力キャリア21には、駆動系に接続される駆動系接続歯車61が噛合している。つまり、リングギア24の外周面には歯面が形成されており、この歯面に駆動系接続歯車61が噛合している。
図1、図3に示すごとく、遊星部空間40には、リングギア24の回転軸よりも上方に、リングギア24の回転に伴って上昇した潤滑油15を受ける油受部42が形成されている。本例においては、油受部42は、リングギア24の上端部付近に配置されている。
【0028】
図1、図2に示すごとく、遊星歯車機構2のサンギア22とフライホイール3との間には、サンギア22とフライホイール3との回転速度を変更する変速歯車機構5が介在している。変速歯車機構5は、変速部筐体11の内部空間である変速部空間110に配置されている。図1に示すごとく、遊星部筐体4における油受部42と変速部空間110との間には、油受部42から変速部空間110へ潤滑油15を導く上方連通部43が形成されている。図4に示すごとく、上方連通部43が変速部空間110へ開口した下流側開口部431は、変速歯車機構5における複数の歯車間の噛合部53よりも上方に位置している。
【0029】
変速歯車機構5は、サンギア22に固定された大歯車51と、フライホイール3に固定されると共に大歯車51よりも半径の小さい小歯車52とを互いに噛合してなる。回転軸方向から見たとき、上方連通部43の下流側開口部431は、大歯車51と小歯車52との噛合部53の鉛直上方に配置されている。
大歯車51の回転軸と小歯車52の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されている。
【0030】
変速部空間110の下部と遊星部空間40の下部との間には、変速部空間110から遊星部空間40へ潤滑油15を導く下方連通部44が形成されている。すなわち、変速部空間110の下部に設けた油保持部111と、遊星部空間40の下部に設けた油貯留部41との間をつなぐように、下方連通部44が形成されている。下方連通部44には、開閉可能な下方開閉弁441が配設されている。本例において、下方開閉弁441は電磁弁によって構成されている。また、油保持部111は、変速歯車機構5の軸方向における変速部空間110の幅を部分的に大きくして、その容量が大きくなるようにしてある。
【0031】
図1、図2に示すごとく、変速歯車機構5における大歯車51は、遊星歯車機構2におけるサンギア22の回転軸を構成するサンギア用シャフト121に固定され、サンギア22と共に回転する。サンギア用シャフト121は、遊星部筐体4に対して回転可能に軸支されている。すなわち、遊星部筐体4に設けた軸受部131において、サンギア用シャフト121が軸支されている。サンギア用シャフト121は、遊星部筐体4における変速部筐体11との間の隔壁から変速部空間110へ突出し、該変速部空間110における大歯車51に固定されている。また、サンギア用シャフト121は、遊星部筐体4における変速部筐体11と反対側においても、軸受部131に軸支されている。そして、この軸受部131の外側に、潤滑油15の漏れを防ぐためのシール部材132が配設されている。なお、軸受部131はボールベアリングによって構成することができる。
【0032】
また、変速歯車機構5における小歯車52は、フライホイール3の回転軸を構成するフライホイール用シャフト122に固定され、フライホイール3と共に回転する。フライホイール用シャフト122は、フライホイール3を収容するホイール部筐体14に対して回転可能に軸支されている。すなわち、ホイール部筐体14に設けた一対の軸受部131において、ホイール用シャフト122が軸支されている。各軸受部131におけるフライホイール3側には、潤滑油15の漏れを防ぐためのシール部材132が配設されている。そして、フライホイール用シャフト122は、ホイール部筐体14における変速部筐体11との間の隔壁から変速部空間110へ突出し、該変速部空間110における小歯車52に固定されている。
【0033】
遊星部筐体4と変速部筐体11とホイール部筐体14とは、互いに一体化されている。また、遊星部筐体4は、遊星歯車機構2と負荷(ドライブトレイン)とを接続する駆動系接続歯車61等を収容する筐体と一体化されている。
【0034】
遊星歯車機構2における入出力キャリア21は、遊星部筐体4における変速部筐体11との間の隔壁において、軸受部131によって回転可能に支持されている。入出力キャリア21は円環状に形成され、周方向の4か所においてピニオンシャフト211を取り付けてなり、該ピニオンシャフト211にピニオンギア23が取り付けてある。ピニオンシャフト211とピニオンギア23との間には、例えば針状ころ軸受(図示略)が介設されており、ピニオンシャフト211に対してピニオンギア23が回転可能に軸支されている。
また、リングギア24も、遊星部筐体4に回転可能に支持されている(図示略)。
そして、油貯留部41に貯留された潤滑油15に、リングギア24の一部が浸漬された状態となっている。また、リングギア24には、電動機等が調速器として接続されている。
【0035】
また、負荷(ドライブトレイン)とエネルギ蓄積装置1との間にはクラッチが設けられている(図示略)。また、入出力キャリア21には、ロック機構が設けられ、その回転を強制的に停止することができるよう構成されている。
【0036】
上記のように構成されたエネルギ蓄積装置1は、例えば次のように動作する。
すなわち、車両が定常走行している際には、ドライブトレインと駆動系接続歯車61との間に設けたクラッチ(図示略)が切られており、ドライブトレインのエネルギがエネルギ蓄積装置1に伝わらないようにしてある。そして、車両の減速時においては、上記クラッチを繋げて、ドライブトレインのエネルギが駆動系接続歯車61を通じて、遊星歯車機構2における入出力キャリア21に伝わる。これにより、ピニオンギア23がサンギア22の周囲を公転する。このとき、リングギア24に抵抗トルクがかかっていないと、リングギア24が回転し、サンギア22はほとんど回転しない。これはサンギア22にはフライホイール3が接続されており、リングギア24よりイナーシャが大きいためである。そこで、リングギア23に対して抵抗トルクをかけることにより、リングギア23の回転を抑制し、ピニオンギア23の公転(入出力キャリア21の回転)に伴い、サンギア22が回転する。これにより、サンギア22に接続された変速歯車機構5を介してフライホイール3に回転力が伝わり、フライホイール3が回転する。変速歯車機構5は、サンギア22の回転数を所定の割合で増加させてフライホイール3を回転させる。これにより、負荷(ドライブトレイン)から入出力キャリア21に入力されたエネルギが、フライホイール3に蓄積される。
【0037】
ここで、リングギア23に対する抵抗トルクには、リングギア23に接続された電動機のトルクに加え、油貯留部41に貯留された潤滑油15によるトルクもある。
車両の減速がなされ、フライホイール3が所定の速度で回転している状態において、上記クラッチを切って、フライホイール3に蓄積されたエネルギを維持する。
その後、フライホイール3に蓄積されたエネルギは、上記クラッチを繋げることにより、遊星歯車機構2を介して入出力キャリア21からドライブトレインに返すことができる。つまり、例えば、加速時等において、再びクラッチを繋げることによって、フライホイール3のエネルギをドライブトレインへ伝えて、加速の補助に用いることができる。
【0038】
このように動作するエネルギ蓄積装置1において、油貯留部41に貯留された潤滑油15がリングギア24に接触していると、潤滑油15がリングギア24の回転に伴い掻き揚げられ、遊星部空間40の上部まで上昇する。ここで、リングギア24がある程度の高速で回転している場合には、潤滑油15は遊星部空間40の上部において飛び散ることとなる。それゆえ、リングギア24によって掻き揚げられた潤滑油15の一部は、遊星部空間40の上部に設けられた油受部42に溜まる。この油受部42に溜まった潤滑油15は、上方連通部43を通じて変速部空間110に導入され、上方連通部43の下流側開口部431から、変速歯車機構5の大歯車51と小歯車52との噛合部53に落下する。これにより、大きいトルクのかかる噛合部53に対して潤滑油15を充分に供給することができる。
【0039】
噛合部53に供給された潤滑油15は、噛合部53を潤滑した後、変速部空間110の下部における油保持部111に溜まる。変速部空間110の下部と遊星部空間40の下部である油貯留部41との間には、下方連通部44が設けてあり、そこには下方開閉弁441が設けてある。それゆえ、下方開閉弁441が開放されているときには、変速部空間110の油保持部111に溜まった潤滑油15は、その油面152が油貯留部41における潤滑油15の油面151と一致するまで、油貯留部41へ移動する。一方、下方開閉弁441が閉止されているときには、油貯留部41の油面151に関わらず、油保持部111における潤滑油15の油面151が上がる。そして、図6(B)に示すごとく、油貯留部41の潤滑油15はリングギア24によって次々と上方へ掻き揚げられ、油面151が低くなり、その結果、油貯留部41における潤滑油15とリングギア24とが接触しなくなる。
【0040】
そこで、下方開閉弁441を適切に開閉制御することによって、必要に応じて潤滑油15を変速歯車機構5へ供給すると共に、潤滑油15を遊星歯車機構2の調速に用いることができる。
つまり、例えば、減速時等においてドライブトレインのエネルギをフライホイール3へ蓄積する際には、リングギア24にトルクをかけてサンギア22を回転させる必要があるため、この場合において、下方開閉弁441を開放する。これによって、図5に示すごとく、変速部空間110の油保持部111における潤滑油15が下方連通部44を通じて遊星部空間40の油貯留部41に導かれ、そこに溜まる潤滑油15の油面151が上昇する。そして、この潤滑油15にリングギア24が充分に接触する。そうすると、リングギア24にトルクがかかり、入出力キャリア21の回転エネルギがサンギア22へ伝わる。このとき、電動機等の調速器によってもリングギア24にトルクをかけて調速することとなるが、そのトルクを補助するように潤滑油15によってもリングギア24にトルクをかけることができる。
【0041】
また、潤滑油15に接触したリングギア24が回転することによって、上述したように潤滑油15が油受部42に供給され、上方連通部43から変速部空間110に導かれ、変速歯車機構5の噛合部53に供給される。つまり、上記のように減速時等においてドライブトレインのエネルギをフライホイール3へ蓄積する際には、変速歯車機構5の噛合部53にも大きなトルクがかかっているため、噛合部53に充分な潤滑油15が必要とされる。かかる状況において、タイミング良く、潤滑油15を変速歯車機構5へ供給することができる。
【0042】
一方、定速運転時等、ドライブトレインとフライホイール3との間のエネルギの授受を行わない場合、すなわちリングギア24にトルクをかけないときには、下方開閉弁441を閉じておく。これにより、図6(B)に示すごとく、油貯留部41における潤滑油15の油面151が低下し、潤滑油15とリングギア24とが接触しなくなり、リングギア24に潤滑油15からトルクがかからなくなる。それゆえ、フライホイール3の回転の抵抗となるトルクを低減することができ、フライホイール3におけるエネルギを維持しやすくなる。また、この場合には、変速歯車機構5においてもトルクがかからないため、変速歯車機構5の噛合部53には特に潤滑油15が必要とされない。それゆえ、リングギア24による潤滑油15の掻き揚げによる変速歯車機構5への潤滑油15の供給も特に必要がない。
【0043】
上記のような下方開閉弁44の開閉制御のフローチャートを図7に示す。すなわち、イグニッションオン(ステップS11)からイグニッションオフ(ステップS15、S16)までの間、この制御プログラムが作動する。すなわち、この間、上述のようにリングギア24にトルクをかけるかかけないかの判断を随時繰返し、トルクをかける際に下方開閉弁441を開放し、トルクをかけないときに下方開閉弁441を閉じるという制御を行う(ステップS12、S13、S14、S15)。
【0044】
次に、本例の作用効果につき説明する。
エネルギ蓄積装置1は、遊星部空間40の最下部に油貯留部41を備え、油貯留部41に貯留された潤滑油15の油面151は、リングギア24の最下部よりも上方に配されるよう構成されている。油面151がリングギア24の最下部よりも上方に配されると、リングギア24が回転する際には、油貯留部41に貯留された潤滑油15がリングギア24の回転の抵抗となる。すなわち、潤滑油15による抵抗のトルクが、遊星歯車機構2における負荷側とフライホイール3側との回転数を調速するためのトルクの少なくとも一部となる。
【0045】
それゆえ、遊星歯車機構2の調速のために例えば電動機等を調速器として利用する場合において、潤滑油15によってこれを補助することができる。そのため、受けることのできるトルクが比較的小さい電動機等の調速器を用いることができ、コスト低減を図ることができる。
また、場合によっては、潤滑油15の抵抗トルクによって調速のトルクのすべてを賄うこともできる。この場合には、調速器を設ける必要がなくなり、装置の簡素化を図ることができる。
また、油貯留部41における潤滑油15の油面151を調整することによって、遊星歯車機構2の調速のトルクを調整することも容易に行うことができる。
【0046】
また、リングギア24が回転することによって、リングギア24によって潤滑油15が掻き揚げられ、遊星歯車機構2における歯車の噛合部や軸受部131等に、潤滑油15を供給することもできる。それゆえ、他の動力を用いることなく、リングギア24の回転によって潤滑油15を各部に効率的に循環させることができる。その結果、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
また、上記のように、リングギア24による潤滑油15の掻き揚げが、潤滑油15の循環と、遊星歯車機構2の調速とに利用されるため、効率のよいエネルギ蓄積を実現することができる。
【0047】
また、遊星部空間40には、リングギア24の上端部付近に油受部42が形成されている。そのため、所望の部位に潤滑油15を供給しやすくなる。すなわち、リングギア24によって掻き揚げられた潤滑油15を一旦油受部42に受けることで、該油受部42から潤滑油15を所望の部位に供給することができる。
【0048】
また、遊星部筐体40における油受部42と変速部空間110との間には上方連通部43が形成されており、上方連通部43の下流側開口部431は変速歯車機構5における複数の歯車間の噛合部53よりも上方に位置している。また、変速部空間110の下部と遊星部空間40の下部との間には、変速部空間110から遊星部空間40へ潤滑油15を導く下方連通部44が形成されている。これにより、遊星部空間40と変速部空間110との間において潤滑油15を循環させて、変速歯車機構5における複数の歯車の間の噛合部53に、潤滑油15を効率的に供給することができる。
【0049】
また、図4に示すごとく、回転軸方向から見たとき、上方連通部42の下流側開口部421は、大歯車51と小歯車52との噛合部53の鉛直上方に配置されている。そのため、噛合部53へ潤滑油15を効率的に供給することができる。
また、大歯車51の回転軸と小歯車52の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されている。そのため、大歯車51と小歯車52との噛合部53へ潤滑油15を一層効率的に供給することができる。
【0050】
また、下方連通部44には下方開閉弁441が配設されている。それゆえ、変速部空間110から遊星部空間40における油貯留部41への潤滑油15の供給を制御することが可能となり、油貯留部41における油面151の高さを適切な高さに調整することができる。これにより、遊星歯車機構2の調速のためのトルクを、油面151の高さによって容易に調整することができる。
【0051】
また、変速歯車機構5における大歯車51の最下部は、リングギア24の最下部よりも上方に位置している。そのため、油貯留部41に貯留された潤滑油15をリングギア24に接触させつつ、変速部空間110に貯留した潤滑油15が大歯車51に接触しないようにすることができる。これにより、変速歯車機構5における潤滑油15との抵抗による損失を低減することができる。その結果、負荷のエネルギを効率的にフライホイール3へ伝達することができる。
【0052】
以上のごとく、本例によれば、潤滑油の循環を効率的に行うことができ、構成の簡素化、低コスト化を実現することができるエネルギ蓄積装置を提供することができる。
【0053】
(実施例2)
本例は、図8に示すごとく、上方連通部43に上方開閉弁432を設けた例である。
また、本例においては、下方連通部44には下方開閉弁441を設けず、下方連通部44は常に連通している。それゆえ、遊星部空間40の油貯留部41における潤滑油15の油面151と変速部空間110の油保持部111における潤滑油15の油面152とは同じ高さとなる。また、上方開閉弁432は電磁弁によって構成されている。
【0054】
本例のエネルギ蓄積装置1においては、リングギア24の回転に伴って掻き揚げられて油受部42に溜まった潤滑油15の変速歯車機構5への供給を、上方開閉弁432の開閉によって制御することができる。
つまり、変速歯車機構5への潤滑油15の供給が必要なときには、上方開閉弁432を開放して、油受部42から上方連通部43を介して、変速部空間110へ潤滑油15を供給する。変速部空間110に供給され、大歯車51と小歯車52との噛合部53を潤滑した後の潤滑油15は、油保持部111に落下し、下方連通部44を通じて油貯留部41へ導かれる。そして、油貯留部41における潤滑油15の油面151がリングギア24の最下部よりも上方となるように保たれる。これにより、リングギア24の回転に伴い、次々と潤滑油15が掻き揚げられ、油受部42、上方連通部43を通じて、変速部空間110へ供給される。このようにして、潤滑油15が循環することとなる。
【0055】
一方、変速歯車機構5への潤滑油15の供給が必要でないときには、上方開閉弁432を閉止する。
また、上方開閉弁432は、その開口量をも調整できるよう構成することもできる。つまり、状況に応じて、変速歯車機構5への潤滑油15の供給量を調整することができるよう構成することもできる。
【0056】
上記のような変速歯車機構5への潤滑油15の供給の要不要を、変速部空間110における噛合部53にかかるトルクTが所定値T0を超えるか超えないかによって判断する場合のフローチャートを、図9に示す。上記トルクTの所定値T0は、これを超えたときに潤滑油15による潤滑がないと焼き付きのおそれが生じるトルクとして決定する。
【0057】
上方開閉弁432の開閉制御の一例としては、図9に示すごとく、まず、イグニッションオン(ステップS21)の後、噛合部53にかかるトルクTが所定値T0よりも大きいか否かを判断する(ステップS22)。トルクTがトルクT0よりも大きいとき、上方開閉弁432を開く(ステップS23)。また、このときの上方開閉弁432の開口量は、トルクTの大きさに応じて、例えば比例関数等の所定の関数によって決定することができる。一方、トルクTがトルクT0以下のとき、上方開閉弁432を閉じる(ステップS24)。
このように、ステップS22、S23、S24を、イグニッションオフ(ステップS25、S26)まで逐次繰返し、上方開閉弁432の開閉制御を適切に行う。
その他は、実施例1と同様である。
【0058】
本例の場合には、上方連通部43から変速歯車機構5への潤滑油15の供給を制御することが可能となる。そのため、変速歯車機構5への潤滑油15の供給を応答性よく行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(実施例3)
本例は、図10、図11に示すごとく、下方連通部44に下方開放弁441を設けると共に、上方連通部43に上方開閉弁432を設けた例である。
その他は、実施例1と同様である。
【0060】
本例の場合には、油貯留部41における潤滑油15の油面151の調整と、変速歯車機構5への潤滑油15の供給制御とを、個別に行うことができる。つまり、図11に示すごとく、遊星歯車機構2の調速のトルクをリングギア24にかけるタイミングと、変速歯車機構5における噛合部53への潤滑油15の供給タイミングとをそれぞれ個別に制御することができる。
【0061】
本例のエネルギ蓄積装置1においては、例えば、図11のフローチャートに示すように、実施例2に示した上方開閉弁432の制御フロー(図9)と、実施例1に示した下方開閉弁441の制御フロー(図7)とを並列的に繋げた制御フローによって、上方開閉弁432と下方開閉弁441とをそれぞれ適宜開閉制御する。
なお、図11において、ステップS322〜S325は、実施例2に示した制御フロー(図9)におけるステップS22〜S25と同様であり、ステップS312〜S315は、実施例1に示した制御フロー(図7)におけるステップS12〜S15と同様である。
これにより、遊星歯車機構2の調速と、変速歯車機構5における噛合部53の潤滑とを、より的確に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0062】
(実施例4)
本例は、図12に示すごとく、リングギア24の外周部に、潤滑油15を内側に保持して掻き揚げる掻揚部241を設けた例である。
本例において、掻揚部241は、リングギア24の外周部から、径方向外側に向かうと共に回転方向前方に向かうように突出形成されている。つまり、掻揚部241は、リングギア24の径方向に対して回転方向前方へ傾斜してなる。なお、この掻揚部241は、図12に記載の形状に限るものではなく、たとえば、フランシス水車やペルトン水車において用いられるようなプロペラ状のランナであってもよい。
その他は、実施例1と同様である。
【0063】
本例の場合には、リングギア24によって潤滑油15を効率的に上方へ掻き揚げて循環させると共に、遊星歯車機構2の調速を効率的に行うことができる。つまり、上記掻揚部241を設けることによって、リングギア24が掻き揚げる潤滑油15の量を多くすることができると共に、潤滑油15からリングギア24が受ける抵抗トルクが大きくなり、遊星歯車機構2の調速を効率的に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
なお、上記掻揚部241の形状や形成位置は特に限定されるものではなく、例えば、リングギア24の側面に形成されていてもよい。
【0064】
(実施例5)
本例は、図13に示すごとく、駆動系に接続される駆動系接続歯車61と、入出力キャリア21とを、チェーン62によって接続した例である。
すなわち、駆動系接続歯車61および入出力キャリア21の外周部をスプロケットとし、両者にチェーン62を噛み合わせることにより、両者を連結してある。
その他は、実施例1と同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。
【0065】
(実施例6)
本例は、図14、図15に示すごとく、変速歯車機構5(図1、図2参照)を設けることなく、遊星歯車機構2とフライホイール3とを直接接続したエネルギ蓄積装置1の例である。
すなわち、本例のエネルギ蓄積装置1は、遊星歯車機構2におけるサンギア22と、フライホイール3とが共通の共有シャフト120に固定されている。また、共有シャフト120には、サンギア22におけるフライホイール3側の面に接するように、サンギア22よりも直径の小さい環状のストッパー部材124が固定されている。ストッパー部材124は、共有シャフト120に対するサンギア22の軸方向位置を決める位置決め部材として機能すると共に、共有シャフト120の軸受部131へ潤滑油15が導かれるようにするための誘導壁としての役割をも果たす。
【0066】
また、共有シャフト120の軸受部131や、入出力キャリア21の軸受部131の周りには、遊星部空間40に連通した連通路45が適宜形成されている。遊星部空間40とフライホイール3との間に形成された連通路45には、遊星部空間40における油貯留部41と略同等の高さ位置に、油保持部111が形成されている。この油保持部111と油貯留部41との間には、下方連通部44が形成され、該下方連通部44に下方開閉弁441が配設されている。
【0067】
また、油保持部111の底面は、油貯留部41の底面よりも低い位置に形成されており、該底面に磁石体112が配設されている。該磁石体112によって、潤滑油15内に混入した鉄粉等を捕集するよう構成されている。
その他は、実施例1と同様である。
【0068】
本例の場合には、リングギア24によって掻き揚げられた潤滑油15が連通路45を通じて各軸受部131に供給されるため、各軸受部131の潤滑を効率的に行うことができる。また、掻き揚げられた潤滑油15は、遊星歯車機構2における各種歯車同士の噛合部にも供給されるため、噛合部の潤滑も効率的に行うことができる。
また、油貯留部41における潤滑油15の油面151の調整によって、リングギア24にかけるトルクを調整することもできるため、潤滑油15による遊星歯車機構2の調速を効率的に行うことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0069】
なお、実施例1〜5においても、実施例6に示したような潤滑油15の連通路45を形成して、各軸受部131にも潤滑油15が効率的に循環するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1 エネルギ蓄積装置
15 潤滑油
151 油面
2 遊星歯車機構
21 入出力キャリア
22 サンギア
23 ピニオンギア
24 リングギア
3 フライホイール
4 遊星部筐体
40 遊星部空間
41 油貯留部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷と接続されると共に水平方向の回転軸を中心に回転可能な入出力キャリアを備えた遊星歯車機構と、
該遊星歯車機構を介して上記負荷と連結され、該負荷のエネルギを回転運動の運動エネルギとして蓄積するフライホイールと、
上記遊星歯車機構を収容すると共に上記入出力キャリアを軸支する遊星部筐体とを有し、
上記遊星歯車機構は、上記フライホイールと直接的又は間接的に連結されたサンギアと、該サンギアに噛合すると共に上記サンギアを中心とする公転が上記入出力キャリアの自転となるように該入出力キャリアに連結された複数のピニオンギアと、上記サンギアとの間に上記ピニオンギアを配置して該ピニオンギアと噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギアとを有し、
上記遊星部筐体の内側空間である遊星部空間の最下部には、潤滑油を貯留する油貯留部を備え、
該油貯留部に貯留された上記潤滑油の油面が、上記リングギアの最下部よりも上方に位置できるよう構成されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギ蓄積装置において、上記遊星部空間には、上記リングギアの回転軸よりも上方に、上記リングギアの回転に伴って上昇した上記潤滑油を受ける油受部を備えていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエネルギ蓄積装置において、上記遊星歯車機構の上記サンギアと上記フライホイールとの間には、上記サンギアと上記フライホイールとの回転速度を変更する変速歯車機構が介在しており、該変速歯車機構は、変速部筐体の内部空間である変速部空間に配置されており、上記遊星部筐体における上記油受部と上記変速部空間との間には、上記油受部から上記変速部空間へ上記潤滑油を導く上方連通部が形成されており、該上方連通部が上記変速部空間へ開口した下流側開口部は、上記変速歯車機構における複数の歯車間の噛合部よりも上方に位置しており、また、上記変速部空間の下部と上記遊星部空間の下部との間には、上記変速部空間から上記遊星部空間へ上記潤滑油を導く下方連通部が形成されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエネルギ蓄積装置において、上記変速歯車機構は、上記サンギアに固定された大歯車と、上記フライホイールに固定されると共に上記大歯車よりも半径の小さい小歯車とを互いに噛合してなり、回転軸方向から見たとき、上記上方連通部の上記下流側開口部は、上記大歯車と上記小歯車との噛合部の鉛直上方に配置されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギ蓄積装置において、上記大歯車の回転軸と上記小歯車の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記下方連通部には、開閉可能な下方開閉弁が配設されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエネルギ蓄積装置において、上記下方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記上方連通部には、開閉可能な上方開閉弁が配設されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエネルギ蓄積装置において、上記上方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項10】
請求項3〜9のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記変速歯車機構における上記複数の歯車のうちの最下部は、上記リングギアの最下部よりも上方に位置していることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記リングギアは、上記潤滑油を内側に保持して掻き揚げる掻揚部を、外周部もしくは側部に設けてなることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項1】
負荷と接続されると共に水平方向の回転軸を中心に回転可能な入出力キャリアを備えた遊星歯車機構と、
該遊星歯車機構を介して上記負荷と連結され、該負荷のエネルギを回転運動の運動エネルギとして蓄積するフライホイールと、
上記遊星歯車機構を収容すると共に上記入出力キャリアを軸支する遊星部筐体とを有し、
上記遊星歯車機構は、上記フライホイールと直接的又は間接的に連結されたサンギアと、該サンギアに噛合すると共に上記サンギアを中心とする公転が上記入出力キャリアの自転となるように該入出力キャリアに連結された複数のピニオンギアと、上記サンギアとの間に上記ピニオンギアを配置して該ピニオンギアと噛合する内側歯面を備えた円環状のリングギアとを有し、
上記遊星部筐体の内側空間である遊星部空間の最下部には、潤滑油を貯留する油貯留部を備え、
該油貯留部に貯留された上記潤滑油の油面が、上記リングギアの最下部よりも上方に位置できるよう構成されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギ蓄積装置において、上記遊星部空間には、上記リングギアの回転軸よりも上方に、上記リングギアの回転に伴って上昇した上記潤滑油を受ける油受部を備えていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエネルギ蓄積装置において、上記遊星歯車機構の上記サンギアと上記フライホイールとの間には、上記サンギアと上記フライホイールとの回転速度を変更する変速歯車機構が介在しており、該変速歯車機構は、変速部筐体の内部空間である変速部空間に配置されており、上記遊星部筐体における上記油受部と上記変速部空間との間には、上記油受部から上記変速部空間へ上記潤滑油を導く上方連通部が形成されており、該上方連通部が上記変速部空間へ開口した下流側開口部は、上記変速歯車機構における複数の歯車間の噛合部よりも上方に位置しており、また、上記変速部空間の下部と上記遊星部空間の下部との間には、上記変速部空間から上記遊星部空間へ上記潤滑油を導く下方連通部が形成されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエネルギ蓄積装置において、上記変速歯車機構は、上記サンギアに固定された大歯車と、上記フライホイールに固定されると共に上記大歯車よりも半径の小さい小歯車とを互いに噛合してなり、回転軸方向から見たとき、上記上方連通部の上記下流側開口部は、上記大歯車と上記小歯車との噛合部の鉛直上方に配置されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギ蓄積装置において、上記大歯車の回転軸と上記小歯車の回転軸とは、互いに同等の鉛直方向の高さ位置に配置されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記下方連通部には、開閉可能な下方開閉弁が配設されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエネルギ蓄積装置において、上記下方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記上方連通部には、開閉可能な上方開閉弁が配設されていることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエネルギ蓄積装置において、上記上方開閉弁は、上記変速歯車機構における上記噛合部にかかるトルクが所定トルクよりも大きいときに開き、小さいときに閉じるよう構成してあることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項10】
請求項3〜9のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記変速歯車機構における上記複数の歯車のうちの最下部は、上記リングギアの最下部よりも上方に位置していることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のエネルギ蓄積装置において、上記リングギアは、上記潤滑油を内側に保持して掻き揚げる掻揚部を、外周部もしくは側部に設けてなることを特徴とするエネルギ蓄積装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−2528(P2013−2528A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133277(P2011−133277)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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