説明

エピクロロヒドリンの製造方法

【課題】1,3−ジクロロ−2−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンを効率的に脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、生成したエピクロロヒドリンがモノクロロヒドリンまたはグリシドールに変換する分解反応を抑制することにより、収率が高く、排水負荷の低い製造方法の提供。
【解決手段】ジクロロヒドリンを効率的に脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、塩基性成分をジクロロヒドリンに投入することにより、または塩基性成分とジクロロヒドリンを同時に投入することにより、エピクロロヒドリンを製造する。さらに製造されたエピクロロヒドリンを速やかに留出させることにより、塩基の接触時間を短縮させ、副反応を抑制することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロヒドリンを塩基により脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エピクロロヒドリンは、エポキシ樹脂や合成ゴムの原料、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、アミン付加物などの出発物質として多量に使用されている。
【0003】
エピクロロヒドリンの製造方法としては、プロピレンの塩素化によるアリルクロライドの製造し、製造したアリルクロライドをクロロヒドリン化反応し、ジクロロヒドリンを製造し、ジクロロヒドリンを脱塩化水素化し、エピクロロヒドリンを製造する方法がよく知られている。しかし、プロピレンを原料とするジクロロヒドリンの製造方法は、以前より副生成物であるトリクロロプロパン等の塩素化物が生成するという問題及び排水が多量に生じるという問題があり、新しい製造方法が望まれている。
【0004】
ジクロロヒドリンを製造する他の製造方法としては、ギ酸や酢酸等の触媒存在下においてグリセリンと塩化水素ガスを反応させてジクロロヒドリンを得る方法(特許文献1〜3参照)が知られている。この方法はトリクロロプロパン等の不要な塩素化物が生成せずに、ジクロロヒドリンが製造できる点で好ましい。
【0005】
また原料のグリセリンは低コストの再生可能資源であり、植物油や動物油を原料とする反応又はバイオディーゼルの製造により副生することから、経済的又は環境的観点から見ても望ましい原料であるといえる(特許文献4参照)。
【0006】
上記理由によりグリセリンを原料とするクロロヒドリンの製造方法に関し、反応に有効な触媒の探索、反応条件及び製造工程について、近年活発に研究されている(例えば、特許文献5〜8参照)。現在は触媒としてカルボン酸、カルボン酸誘導体、カルボン酸構造を有した化合物が使用されている。
【0007】
ところで上述のグリセリンと塩化水素ガスを反応させるクロロヒドリンの製造方法は、一般に前記カルボン酸系触媒存在下、下記式(1)で示される。
【化1】

【0008】
グリセリンからジクロロヒドリンを製造する場合には、ジクロロヒドリンは主として1,3−ジクロロ−2−プロパノールが生成し、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールとの生成比はおおよそ90:10〜99:1である。これに対して従来法であるアリルクロライドからジクロロヒドリンを製造する場合、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールとの生成比はおおよそ30:70である。
【0009】
1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノールは塩基との脱塩化水素化反応により同様にエピクロロヒドリンを製造することができるが、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールの脱塩化水素化の反応速度は大きく異なり、1,3−ジクロロ−2−プロパノールは2,3−ジクロロ−1−プロパノールより脱塩化水素化の反応速度が速く、1,3−ジクロロ−2−プロパノールは比較的低温でも反応が進行するが、2,3−ジクロロ−1−プロパノールは高温にしないと反応が進行しない。しかし反応温度を高温にすると分解反応が促進されるため好ましくない。
【0010】
エピクロロヒドリンの効率的な製造を考えた場合、反応速度が速い1,3−ジクロロ−2−プロパノールの脱塩化水素化は一般的に好ましいことであると考えられる。しかし、エピクロロヒドリンの収率を向上させるには、ジクロロヒドリンを脱塩化水素化しエピクロロヒドリンを製造する際に、生成したエピクロロヒドリンの分解反応を抑制する必要がある。製造したエピクロロヒドリンは塩基過剰条件化ではモノクロロヒドリンに変換されうる。またモノクロロヒドリンは塩基と反応し、グリシドールを生成しうる(下記式2を参照)。モノクロロヒドリンが脱塩化水素化反応に使用する塩基と反応しグリシドールを生成した場合には、ジクロロヒドリンからエピクロロヒドリンを製造に使用する塩基も消費され、効率的な製造ができなくなる。また排水中のCOD負荷も増大するため好ましくはない。
【化2】

【0011】
現在一般的に行われている2,3−ジクロロ−1−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンの脱塩化水素化反応は、以前より様々な試みがなされている。例えば、反応により生成するエピクロロヒドリンを水蒸気でストリッピングする方法がある(特許文献9、特許文献10参照)。また本出願人が光学活性な2,3−ジクロロ−1−プロパノールとアルカリ水溶液とを減圧下で撹拌しつつ反応させて生成する光学活性なエピクロロヒドリンを反応系外に留出させる方法がなされてきた(特許文献11参照)。しかし、上述のように脱塩化水素化反応の反応速度が大きく異なる1,3−ジクロロ−2−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンの製造方法が確立されつつあり、従来の2,3−ジクロロ−1−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンの脱塩化水素化反応だけではなく、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンの効率の良い脱塩化水素化を検討することが必要になった。
【0012】
【特許文献1】DE197308
【特許文献2】DE238341
【特許文献3】US2144612
【特許文献4】GB14767
【特許文献5】WO2005/021476
【特許文献6】WO2005/054167
【特許文献7】WO2006/020234
【特許文献8】WO2006/110810
【特許文献9】特開昭60−258171
【特許文献10】特公平6−25196
【特許文献11】特開平6−211822
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
1,3−ジクロロ−2−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンを効率的に脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、生成したエピクロロヒドリンがモノクロロヒドリンまたはグリシドールに変換する分解反応を抑制することにより、収率が高く、排水負荷の低い製造方法を提供することにある。特にジクロロヒドリンに塩基として塩基性が強く、高濃度で溶解する水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水溶液を用いる場合に、反応系において塩基が過剰となる条件になりやすいため上記の分解反応を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねたところ、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンを効率的に脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、塩基をジクロロヒドリン又はジクロロヒドリンを含む混合物に添加することにより、または塩基とジクロロヒドリン又はジクロロヒドリンを含む混合物を同時に添加することにより、エピクロロヒドリンを生成する。さらに、生成したエピクロロヒドリンを速やかに留出させることにより、塩基の接触時間を短縮させ、分解反応を抑制することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0015】
本発明は、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比が60:40〜100:0であるジクロロヒドリンを塩基性物質により脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、
(A) 塩基性物質をジクロロヒドリン又はジクロロヒドリンを含む混合物に対して添加して、脱塩化水素化により生成するエピクロロヒドリンを水との共沸現象により減圧下で留出させる工程、及び
(B) 留出液をエピクロロヒドリン層と水層に分液する工程
を含むことを特徴とするエピクロロヒドリンの製造方法である。
【0016】
また本発明は1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比が60:40〜100:0であるジクロロヒドリンを塩基性物質により脱塩化水素化して、エピクロロヒドリンを製造する製造方法において、
(C) 塩基物質とジクロロヒドリン又はジクロロヒドリンを含む混合物を同時に添加して、脱塩化水素化により生成するエピクロロヒドリンを水との共沸現象により減圧下で留出させる工程、及び
(D) 留出液をエピクロロヒドリン層と水層に分液する工程
を含むことを特徴とするエピクロロヒドリンの製造方法でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法により、ジクロロヒドリンを脱塩化水素化において、分解反応を抑制することが可能になり、分解反応が抑制されたことによるエピクロロヒドリンの収率の向上、また分解反応で消費される塩基が減ることによる必要塩基量の減少、副生成物の減少による総排水負荷の低減の効果が得られた。本発明の製造方法は、特に脱塩化水素化の反応速度が速い1,3−ジクロロ−2−プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンの脱塩化水素化において、高濃度の水溶液として用いることの多い物質を塩基として選択する場合に適した製造方法であると言える。
【0018】
以下本発明を詳細に説明する。
出発原料であるジクロロヒドリンは1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノール及びこれらの混合物を総称である。本発明に使用するジクロロヒドリンの1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比は60:40〜100:0である。この製造方法は脱塩化水素化の反応速度の速い1,3−ジクロロ−2−プロパノールに適した製造方法であり、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比の好ましくは70:30〜100:0であり、より好ましくは80:20〜100:0であり、更に好ましくは90:10〜100:0であり、最も好ましくは95:5〜100:0である。尚、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比が100:0とは、ジクロロヒドリンとして1,3−ジクロロ−2−プロパノールのみ存在していることを意味する。
【0019】
本発明に使用するジクロロヒドリンの製造方法は問題とはならない。ジクロロヒドリンの入手経路としてはアリルクロライドから得られるジクロロヒドリン、アリルアルコールから得られるジクロロヒドリン、グリセリンから得られるジクロロヒドリン及びこれらの混合物を例示できる。尚、アリルクロライドから得られるジクロロヒドリン及びアリルアルコールから得られるジクロロヒドリンは、2,3−ジクロロ−1−プロパノールを主生成物として生成しているので、上記の高い1,3−ジクロロ−2−プロパノールのモル比率にはなり得ないので、本発明に使用するジクロロヒドリンは、実質的にはグリセリンから得られるジクロロヒドリン又はグリセリンから得られるジクロロヒドリンとアリルクロライドから得られるジクロロヒドリン、アリルアルコールから得られるジクロロヒドリンとの混合物であると言える。本発明は高い1,3−ジクロロ−2−プロパノールのモル比率を必要としているため、グリセリンから得られるジクロロヒドリンを使用することが特に好ましい。
【0020】
本発明のジクロロヒドリンは、水、有機溶媒、塩等を含んだものであってもよい。例えば水やナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを含んだ組成や上述したジクロロヒドリンを製造する際に含まれる不純物を含んだ組成を例示することができる。また本発明のジクロロヒドリンがグリセリンを塩素化して得られる場合には、塩化水素、水、反応中間体であるモノクロロヒドリン、ジグリセリン等の高沸点物や触媒など種々の化合物、更にカルボン酸を触媒に用いた場合には、カルボン酸およびカルボン酸エステルなどの化合物も含まれうるが、蒸留等の分離操作によりできる限り除くことが好ましい。
【0021】
本発明に使用する塩基は、ジクロロヒドリンを脱塩化水素化できるものであれば特に制限されることはない。例示するとアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物、塩などのスラリーや溶液が挙げられる。
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム、水酸化カリウム等が例示できる。
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物として、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム等が例示できる。
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が例示できる。
【0022】
本発明の脱塩化水素化反応はジクロロヒドリンに塩基を添加して行うが、具体的には反応槽中のジクロロヒドリンに塩基を添加しても良いし、ジクロロヒドリンと塩基を同時に添加しても良い。塩基とジクロロヒドリンを同時に添加することは、ジクロロヒドリンと塩基を同時に、かつ、別系列で反応槽に添加することだけではなく、反応槽に添加する直前にジクロロヒドリンと塩基を予め混合して添加することを含む。これらの方法は予め存在する塩基にジクロロヒドリンを添加する方法に比べると、系内の塩基の残存量を制御することが容易になり、生成したエピクロロヒドリンの分解反応を抑制することができる。
【0023】
エピクロロヒドリンの留出は生成後にできるだけ早く行うことが、分解反応を抑制することとなり好ましい。その際にエピクロロヒドリンは水との共沸現象において、極小共沸点(常圧において88℃)を有する性質を有していることを利用して、水との共沸によりエピクロロヒドリンを留出させることが好ましい。
【0024】
塩基の添加速度は、エピクロロヒドリンの留出速度との関係により、速すぎても遅すぎても好ましくないが、反応槽中のジクロロヒドリンを含んだ組成に塩基を添加する場合には、添加する塩基は初期のジクロロヒドリンに対して0.003〜0.1当量/分の割合で行うことができる。ジクロロヒドリンを含んだ組成と塩基を同時に添加する場合には、添加するジクロロヒドリンに対して、同当量程度加えることができる。
【0025】
また反応に使用する塩基は1種類である必要はなく、反応初期において水酸化カルシウムのスラリーを使用した後に、反応後期において水酸化ナトリウム水溶液を使用することも可能である。
【0026】
反応系内のジクロロヒドリンの濃度はジクロロヒドリンと塩基を同時に添加することにより調整することも可能である。具体的には反応初期において反応槽中のジクロロヒドリンを含んだ組成に塩基を添加し、ある程度反応が進んだ後、塩基とジクロロヒドリンを同時に添加することも可能である。
【0027】
反応温度と反応時の圧力については、分解反応を抑制するため、低温で行う場合には減圧で行うことが好ましいが好ましい。様態としては、20℃〜90℃の時は20〜760mmHgが好ましく、40℃〜80℃の時は50〜500mmHgであることがより好ましく、50℃〜70℃の時は100〜400mmHgであることが更に好ましい。
【0028】
図1は本発明における反応槽中のジクロロヒドリンに塩基を添加して脱塩化水素化反応を行う場合の工程スキームの例を示す。反応槽(1)にジクロロヒドリンを仕込み、管(2)から塩基を添加し反応させる。脱塩化水素反応により生成したエピクロロヒドリンは水との共沸により留出させ、管(3)を経由して、凝縮器(4)により凝縮させる。その際に未反応のジクロロヒドリンが存在する場合は水と共沸し留出する。凝縮したエピクロロヒドリン、ジクロロヒドリンおよび水は、管(5)を経由して、分液ポット(6)により分液され、エピクロロヒドリン層(下層)は管(7)をより系外へ抜き出し、水層(上層)は管(8)により系内に還流させる。
【0029】
図2は本発明における反応槽中ジクロロヒドリンに塩基を添加して脱塩化水素化反応を行う場合で分縮器と凝縮器を併用した工程スキームの例を示す。反応槽(9)にジクロロヒドリンを仕込み、管(10)から塩基を添加し反応させる。脱塩化水素反応により生成したエピクロロヒドリンは水との共沸により管(11)を経由して留出する。未反応のまま留出したジクロロヒドリンは分縮器(12)により凝縮させ、管(13)により反応槽(9)に戻し、エピクロロヒドリンと水は管(14)を経由して、凝縮器(15)により凝縮させる。凝縮したジクロロヒドリンと水は管(16)を経由して、分液ポット(17)により分液され、エピクロロヒドリン層(下層)は管(18)により系外へ抜き出し、水層(上層)は管(19)により系内に還流させる。
【0030】
図3は本発明におけるジクロロヒドリンと塩基を同時に添加して脱塩化水素化反応を行う場合の工程スキームの例を示す。反応槽(20)に管(21)から塩基を添加し、管(22)からジクロロヒドリンを添加し反応させる。脱塩化水素反応により生成したエピクロロヒドリンは水との共沸により留出させ、管(23)を経由して、凝縮器(24)により凝縮させる。その際に未反応のジクロロヒドリンが存在する場合は水と共沸し留出する。凝縮したエピクロロヒドリン、ジクロロヒドリンおよび水は管(25)を経由して、分液ポット(26)により分液され、エピクロロヒドリン層(下層)は管(27)により系外へ抜き出し、水層(上層)は管(28)により系内に還流させる。
【0031】
図4は本発明におけるジクロロヒドリンと塩基を同時に添加して脱塩化水素化反応を行う場合の工程スキームの例を示す。管(31)よりジクロロヒドリンと管(32)より塩基を添加し、混合槽(30)において混合し、管(33)により混合したジクロロヒドリンと塩基を反応槽(29)に添加し反応させる。脱塩化水素反応により生成したエピクロロヒドリンは水との共沸により留出させ、管(34)を経由して、凝縮器(35)により凝縮させる。その際に未反応のジクロロヒドリンが存在する場合は水と共沸し留出する。凝縮したエピクロロヒドリン、ジクロロヒドリンおよび水は管(36)を経由して、分液ポット(37)により分液され、エピクロロヒドリン層(下層)は管(38)により系外へ抜き出し、水層(上層)は管(39)により系内に還流させる。
【0032】
図5は本発明におけるジクロロヒドリンと塩基を同時に添加して、連続的に脱塩化水素化反応を行う場合の工程スキームの例を示す。第一の反応槽(40)に管(41)から塩基を添加し、管(42)からジクロロヒドリンを添加し反応させる。この時管(41)より添加される塩基はジクロロヒドリンに対して0.90〜0.98当量であることが好ましい。脱塩化水素反応により生成したエピクロロヒドリンは水との共沸により留出させ、管(43)を経由して、凝縮器(44)により凝縮させる。その際に未反応のジクロロヒドリンが存在する場合は水と共沸し留出する。凝縮したエピクロロヒドリン、ジクロロヒドリンおよび水は管(45)を経由して、分液ポット(46)により分液され、エピクロロヒドリン層(下層)は管(47)により系外へ抜き出し、水層(上層)は管(48)により系内に還流させる。生成したエピクロロヒドリンを留出させるとともに反応槽(40)より脱塩化水素化反応している反応液をポンプ等により抜き出して、管(49)を経由して、第二の反応槽(50)に添加し、管(51)から管(41)で不足した分を含めた塩基を添加し反応させる。反応槽(40)と同様に脱塩化水素反応により生成したエピクロロヒドリンは水との共沸により留出させ、管(52)を経由して、凝縮器(53)により凝縮させる。その際に未反応のジクロロヒドリンが存在する場合は水と共沸し留出する。凝縮したエピクロロヒドリン、ジクロロヒドリンおよび水は管(54)を経由して、分液ポット(55)により分液され、エピクロロヒドリン層(下層)は管(56)より系外へ抜き出し、水層(上層)は管(57)より系内に還流させる。
【0033】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
1000mLフラスコに1,3−ジクロロ−2−プロパノール257.98g(1,3−ジクロロ−2−プロパノール:2,3−ジクロロ−1−プロパノール=95:5,2000mmol)を加え、系内150Torr、内温60℃に設定した。所定条件に到達後、15%水酸化ナトリウム水溶液(544.00g,2040mmol)を2時間かけて滴下した。滴下と平行して、生成したエピクロロヒドリンと水を留出させ、留出液は分液ポット内にて分液し、水層は系内に還流させ、エピクロロヒドリン層は系外へ抜き取り189.73gの粗エピクロロヒドリンを得た。得られた粗エピクロロヒドリンを蒸留精製し、153.78gのエピクロロヒドリン(収率83.1%)を得た。
【0035】
実施例2
1000mLフラスコに1,3−ジクロロ−2−プロパノール257.98g(1,3−ジクロロ−2−プロパノール:2,3−ジクロロ−1−プロパノール=95:5,2000mmol)、塩化ナトリウム142.36g,水468.01gを加え、系内150Torr、内温60℃に設定した。所定条件に到達後、15%水酸化ナトリウム水溶液(544.00g,2040mmol)を2時間かけて滴下した。滴下と平行して、生成したエピクロロヒドリンと水を留出させ、留出液は分液ポット内にて分液し、水層は系内に還流させ、エピクロロヒドリン層は系外へ抜き取り186.33gの粗エピクロロヒドリンを得た。得られた粗エピクロロヒドリンを蒸留精製し、160.63gのエピクロロヒドリン(収率86.8%)を得た。
【0036】
実施例3
1000mLフラスコに1,3−ジクロロ−2−プロパノール257.98g(1,3−ジクロロ−2−プロパノール:2,3−ジクロロ−1−プロパノール=95:5,2000mmol)、塩化ナトリウム142.36g,水468.01gを加え、内温90℃に設定した。所定条件に到達後、15%水酸化ナトリウム水溶液(544.00g,2040mmol)を2時間かけて滴下した。滴下と平行して、生成したエピクロロヒドリンと水を留出させ、留出液は分液ポット内にて分液し、水層は系内に還流させ、エピクロロヒドリン層は系外へ抜き取り160.19gの粗エピクロロヒドリンを得た。得られた粗エピクロロヒドリンを蒸留精製し、139.17gのエピクロロヒドリン(収率75.2%)を得た。
【0037】
実施例4
1000mLフラスコにNaCl142.36g,H2O468.01gを加え、系内150Torr、内温60℃に設定した。所定条件に到達後、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(257.98g、1,3−ジクロロ−2−プロパノール:2,3−ジクロロ−1−プロパノール=95:5,2000mmol)と15%NaOH水溶液(544.00g,2040mmol)を2時間かけて滴下した。滴下と平行して、生成したエピクロロヒドリンと水を留出させ、留出液は分液ポット内にて分液し、水層は系内に還流させ、エピクロロヒドリン層は系外へ抜き取り174.25gの粗エピクロロヒドリンを得た。得られた粗エピクロロヒドリンを蒸留精製し、164.52gのエピクロロヒドリン(収率88.9%)を得た。
【0038】
比較例1
1000mLフラスコに15%水酸化ナトリウム水溶液(544.00g,2040mmol)を加え、系内150Torr、内温60℃に設定した。所定条件に到達後、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(257.98g、1,3−ジクロロ−2−プロパノール:2,3−ジクロロ−1−プロパノール=95:5,2000mmol)を2時間かけて滴下した。滴下と平行して、生成したエピクロロヒドリンと水を留出させ、留出液は分液ポット内にて分液し、水層は系内に還流させ、エピクロロヒドリン層は系外へ抜き取り60.19gの粗エピクロロヒドリンを得た。得られた粗エピクロロヒドリンを蒸留精製し、45.52gのエピクロロヒドリン(収率24.6%)を得た。
【0039】
比較例1は反応槽に塩基を予め添加しておき、ジクロロヒドリンを滴下し、生成したエピクロロヒドリンを留出させている。エピクロロヒドリンが留出するまでに、エピクロロヒドリンが過剰な塩基にさらされたため、モノクロロヒドリンに分解される副反応が生じた。従って、上記比較例の方法では、ジクロロヒドリンがエピクロロヒドリンに即時変換されることが可能であったとしても、エピクロロヒドリンの分解を抑制することは非常に困難である。一方、実施例は反応槽のジクロロヒドリンを含んだ組成に塩基を添加するか、又は塩基とジクロロヒドリンを含んだ組成を同時に添加して脱塩化水素化反応を行い、生成したエピクロロヒドリンを留出させている。反応槽のジクロロヒドリンを含んだ組成に塩基を添加する場合では基本的に反応槽内はジクロロヒドリンが過剰となっており、エピクロロヒドリンの分解が抑制される。また塩基とジクロロヒドリンを含んだ組成を同時に添加する場合には、充分な反応を進行させるためには若干の過剰な塩基が必要となり副反応が起こるが、ジクロロヒドリンを反応槽に予め添加して塩基を添加する場合と異なり、反応槽内に存在する未反応のジクロロヒドリンが少なく、未反応のジクロロヒドリンが留出することも抑制することができる。
【0040】
上記のように1,3-ジクロロ-2-プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンの脱塩化水素化反応を行う場合には、2,3-ジクロロ-1-プロパノールと異なり、1,3-ジクロロ-2-プロパノールからエピクロロヒドリンが生成する速度が速く、エピクロロヒドリンの留出が遅いために予め塩基を反応槽に添加するといった塩基が過剰となる条件を取ることができない。従って塩基として塩基性が強く、高濃度で溶解する水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水溶液を用いる場合に、本発明は優れていると言える。
【0041】
ただ予め反応槽にジクロロヒドリンを添加する場合は、予め反応槽に塩基を添加する場合と比較して、過剰の未反応のジクロロヒドリンが存在するために、ジクロロヒドリンが留出しやすい。未反応のジクロロヒドリンが留出すると収率が低下するので、ジクロロヒドリンのみエピクロロヒドリンとは別に凝縮して回収し反応系にリサイクルする、又は分液工程において分液された水層とともにジクロロヒドリンをリサイクルすることが好ましい。
【0042】
ジクロロヒドリン中の脱塩化水素化の反応速度が遅い2,3-ジクロロ-1-プロパノールの比率が高くなると、エピクロロヒドリンの留出が遅くなり、未反応のジクロロヒドリンが留出量が多くなるため、収率と生産性が低下し好ましくはない。従って1,3-ジクロロ-2-プロパノールの比率が高いジクロロヒドリンを使用することが本発明にとって好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0043】
ジクロロヒドリンを塩基により脱塩化水素化し、エピクロロヒドリンを製造する方法において、本発明は、塩基との接触時間を短縮させ、1,3-ジクロロ-2-プロパノールを主成分とするジクロロヒドリンから効率的にエピクロロヒドリンを製造することを特徴としている。製造されたエピクロロヒドリンは、エポキシ樹脂や合成ゴムの原料、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、アミン付加物などの出発物質として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】はエピクロロヒドリンを製造するための製造工程を模式的に例示している。
【図2】はエピクロロヒドリンを製造するためのより好ましい製造工程としてジクロロヒドリンを反応槽にリサイクルする工程を含むものを模式的に例示する。
【図3】はエピクロロヒドリンを製造するために、塩基をジクロロヒドリンと同時に反応槽に添加する製造工程を模式的に例示している。
【図4】はエピクロロヒドリンを製造するために、塩基とジクロロヒドリンを予め混合して反応槽に添加する模式的に例示する。
【図5】はエピクロロヒドリンを連続的製造するための製造工程を模式的に例示している。
【符号の説明】
【0045】
1 反応槽
2 管
3 管
4 凝縮器
5 管
6 分液ポッド
7 管
8 管
9 反応槽
10 管
11 管
12 分縮器
13 管
14 管
15 凝縮器
16 管
17 分液ポッド
18 管
19 管
20 反応槽
21 管
22 管
23 管
24 凝縮器
25 管
26 分液ポッド
27 管
28 管
29 反応槽
30 混合槽
31 管
32 管
33 管
34 管
35 凝縮器
36 管
37 分液ポッド
38 管
39 管
40 反応槽
41 管
42 管
43 管
44 凝縮器
45 管
46 分液ポッド
47 管
48 管
49 管
50 反応槽
51 管
52 管
53 凝縮器
54 管
55 分液ポッド
56 管
57 管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比が60:40〜100:0であるジクロロヒドリンを塩基性物質により脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、
(A) 塩基性物質をジクロロヒドリン又はジクロロヒドリンを含む混合物に対して添加して、脱塩化水素化により生成するエピクロロヒドリンを水との共沸現象により減圧下で留出させる工程、及び
(B) 留出したエピクロロヒドリン層と水層に分液する工程
を含むことを特徴とするエピクロロヒドリンの製造方法。
【請求項2】
1,3−ジクロロ−2−プロパノールと2,3−ジクロロ−1−プロパノールのモル比が60:40〜100:0であるジクロロヒドリンを塩基性物質により脱塩化水素化するエピクロロヒドリンの製造方法において、
(C) 塩基性物質とジクロロヒドリン又はジクロロヒドリンを含む混合物を同時に添加して、脱塩化水素化により生成するエピクロロヒドリンを水との共沸現象により減圧下で留出させる工程、及び
(D) 留出したエピクロロヒドリン層と水層に分液する工程
を含むことを特徴とするエピクロロヒドリンの製造方法。
【請求項3】
ジクロロヒドリンを脱塩化水素化する塩基性物質が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである請求項1又は2記載のエピクロロヒドリンの製造方法。
【請求項4】
(B)工程で分液された水層を反応系にリサイクルすることを特徴とする請求項1又は3記載のエピクロロヒドリンの製造方法。
【請求項5】
(D)工程で分液された水層を反応系にリサイクルすることを特徴とする請求項1又は3記載のエピクロロヒドリンの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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