説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】高収率、高選択的かつ安全にエポキシ化合物を連続的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】エポキシ化能を有する触媒を溶解した過酸化水素水溶液とオレフィン化合物を反応させる。反応は前記過酸化水素水溶液とオレフィン化合物を含有する液体とを少なくとも一つの微小反応器内に供給後混合し、該混合物を前記微小反応器内で一定時間滞留させることにより行う。これによりエポキシ化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素を用いたエポキシ化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは微小反応器(マイクロリアクター)内で過酸化水素とオレフィンとを反応させるエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンを酸化してエポキシ化合物を得る方法としては、例えば酸化剤として重金属化合物や、硝酸、m−クロロ過安息香酸等を用いて行う方法の他、工業的には過酢酸や過蟻酸等の酸化剤を用いる方法が一般的に行われている。
【0003】
しかし、硝酸や過酢酸などを用いた反応は危険を伴う為、実際の製造を行う際には特殊な設備が必要となる。また、これらの酸化剤は酸化力が強いうえに、危険性も高く従来から爆発等の事故事例が知られている。
【0004】
一方、過酸化水素水は、安価で腐食性がなく、反応後の副生物は皆無又は水であるために環境負荷が小さく、工業的に利用するには優れた酸化剤である。
過酸化水素をエポキシ化剤としてオレフィン類からエポキシ化合物を製造する方法としては、従来、(1)塩化第4級アンモニウム、リン酸類、タングステン金属塩の存在下、過酸化水素によりエポキシ化する方法(特許文献1,2)、(2)有機溶媒中、第4級アンモニウム塩のような相間移動触媒とタングステン酸類とα−アミノメチルホスホン酸を触媒に用いてエポキシ化する方法(特許文献3)、(3)トルエン溶媒中、タングステン化合物と過酸化水素とを反応せしめてなるタングステン酸化物、第四級アンモニウム硫酸水素塩およびリン酸類の存在下にエポキシ化する方法(特許文献4)、(4)トルエンのような有機溶媒の存在下に、タングステン化合物、第4級アンモニウム塩、リン酸類及び/ 又はホウ酸類、及び硫酸水素塩を含んでなる多成分系酸化触媒を用いてエポキシ化する方法(特許文献5)、(5)ヘテロポリ酸のセチルピリジニウム塩のような相間移動能とエポキシ化能を両方具備する触媒を用いてクロロホルム溶媒中でエポキシ化する方法(非特許文献1)が知られている。これらの系は何れも反応熱が大きく生成物が不安定なために、ちょっとした条件の変更により反応が暴走したり、生成物のエポキシ化合物が分解することが多かった。
【0005】
タングステン以外の触媒を用いる方法として、(6)無機酸化物担体にメチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)と有機強塩基化合物を担持した触媒を用いて、過酸化水素によりエポキシ化する方法(特許文献6)、(7)チタン含有ゼオライト触媒ならびに3級アミン、3級アミンオキサイドもしくはそれらの混合物を含む添加剤の存在下、過酸化水素によりエポキシ化する方法(特許文献7)、(8)フルオロアルキルケトン触媒下、過酸化水素によりエポキシ化する方法(非特許文献2)などが知られているが、これらの方法は触媒効率が悪く過剰の過酸化水素が必要であったり、小さな基質にしか適用できないなどの制約が多い方法である。
【0006】
また、エポキシ化時の反応暴走を抑える目的で、(9)オレフィンと酸化剤とをマイクロリアクター中で混合し、一定の滞留時間反応させる方法(特許文献8)、(10)酸化触媒が充填されたマイクロリアクターを通過させて、エポキシ化する方法(特許文献9)が開示されている。特許文献8は過酸を用いた場合には有効であるが、過酸自体の危険性は解消されないし、過酸化水素を用いる場合の方法についての実施例は開示されていない。特許文献9の酸化触媒をマイクロリアクターに充填する方法は、反応終了後の触媒と生成物との分離が必要ないように触媒が系内に固体で存在しており、実施例で使用されているチタノシリケート触媒では、基質に制限があることと触媒の劣化の問題があった。
【特許文献1】特開2004−115455号公報
【特許文献2】特開2003−192679号公報
【特許文献3】特開平8−27136号公報
【特許文献4】特開2004−59573号公報
【特許文献5】特開2005−169363号公報
【特許文献6】特開2001−25665号公報
【特許文献7】特表2002−526483号公報
【特許文献8】特表2003−532646号公報
【特許文献9】特開2007−230908号公報
【非特許文献1】J.Org.Chem.,第53巻15号3587−3593(1988)
【非特許文献2】Chem.Commun.,263−264(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高収率、高選択的かつ安全にエポキシ化合物を連続的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、エポキシ化能を有する触媒を溶解した過酸化水素水溶液とオレフィン化合物とを微小反応器(マイクロリアクター)を用いて混合、反応させることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、具体的には以下の[1]から[13]の実施態様を含む。
[1]エポキシ化能を有する触媒を溶解した過酸化水素水溶液とオレフィン化合物を含有する液体とを少なくとも一つの微小反応器内に供給後混合し、該混合物を前記微小反応器内で反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
[2]前記エポキシ化能を有する触媒を溶解した過酸化水素水溶液が助触媒を含む[1]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[3]前記オレフィン化合物を含有する液体がアミンおよび4級アンモニウム塩の少なくとも1種を含む[1]または[2]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[4]前記アミンが3級アミンである[3]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[5]前記オレフィン化合物を含有する液体が有機溶媒を含む[1]乃至[4]のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[6]前記エポキシ化能を有する触媒がタングステン化合物である[1]乃至[5]のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[7]前記タングステン化合物がタングステン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンバナドタングステン酸、ケイバナドタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物から選ばれる少なくとも一種である[6]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[8]助触媒が、以下の構造式(1)で表されるα−アミノメチルホスホン酸を含む[2]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【化3】


(式中、R1 は水素原子またはアシル基を、R2 およびR3 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基を表す)。
[9]前記助触媒が無機酸および有機酸の少なくとも1種を含む[2]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[10]前記アミンのアルキル基の炭素数総和が6以上50以下であり、前記4級アンモニウム塩のアルキル基の炭素数総和が7以上50以下である[3]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[11]前記オレフィン化合物のオレフィン部分がシクロアルケン骨格である[1]乃至[10]のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[12]前記オレフィン化合物が以下の構造式(2)を有する化合物である[11]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【化4】


(式中、R4〜R9はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。)
[13]前記微小反応器が、連続マイクロリアクターである[1]乃至[12]のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[14]前記微小反応器が、スタティックマイクロミキサーである[1]乃至[12]のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[15]前記微小反応器の流路の直径が1μm以上1,000μm以下である[1]乃至[14]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエポキシ化合物の製造方法を用いることにより、高収率、高選択的かつ安全に目的のエポキシ化合物を得ることができる。また、本発明によれば、酸化剤として過酸化水素を用いるため、酸化剤由来の副生物が水であり、生成物との分離が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法において用いられる過酸化水素水の濃度には特に制限はないが、一般的には1〜80質量%、好ましくは20〜80質量%の範囲から選ばれる。過酸化水素水溶液の使用量についても、特に制限はないが、エポキシ化しようとするオレフィン化合物の二重結合に対して0.8〜10.0当量、好ましくは1.0〜3.0当量の範囲から選ばれる。無論、工業的な生産性の観点からは過酸化水素は高濃度のほうが好ましい、無用に過剰の過酸化水素を用いないほうが良いことは言うまでもない。
【0012】
エポキシ化能を有する、すなわちエポキシ化反応を促進させることができる触媒として用いる化合物としては、タングステン化合物、モリブデン化合物、レニウム化合物、チタン化合物を用いることが出来るが、過酸化水素水溶液に溶解した後の触媒、過酸化水素の安定性を考えるとタングステン化合物が好ましい。タングステン化合物としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物であり、例えばタングステン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンバナドタングステン酸、ケイバナドタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン等が挙げられるが、タングステン酸、三酸化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム二水和物等が好ましい。これらタングステン化合物類は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。その使用量は基質のオレフィン化合物に対して0.0001〜20モル%、好ましくは0.01〜20モル%の範囲から選ばれる。
【0013】
また、助触媒として以下の構造式(1)で表されるα−アミノメチルホスホン酸を用いることにより、更にエポキシ化反応の効率を上げることも出来る。さらに、過酸化水素の安定性が良くなる効果もある。
【化5】


(式中、R1 は水素原子またはアシル基を、R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基を表す)。
【0014】
このようなα−アミノメチルホスホン酸は特開平5−112586号公報に開示されているような方法で合成することが出来る。このようなα−アミノメチルホスホン酸としては、α−アミノメチルホスホン酸、α−アミノエチルホスホン酸、α−アミノプロピルホスホン酸、α−アミノブチルホスホン酸、α−アミノペンチルホスホン酸、α−アミノへプチルホスホン酸、α−アミノヘキシルホスホン酸、α−アミノヘプチルホスホン酸、α−アミノオクチルホスホン酸、α−アミノノニルホスホン酸、α−アミノ−α−フェニルメチルホスホン酸、N−アセチル−α−アミノメチルホスホン酸、N−プロピオニル−α−アミノメチルホスホン酸、N−ベンゾイル−α−アミノメチルホスホン酸、N−(4−メトキシベンゾイル)−α−アミノメチルホスホン酸などが上げられる。これらのα−アミノメチルホスホン酸は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。使用する場合にはその使用量は基質のオレフィン化合物に対して0.0001〜5モル%、好ましくは0.01〜5モル%の範囲から選ばれる。
【0015】
また、助触媒として酸を用いることも出来、このような酸としては用いる無機酸、有機酸を用いることが出来、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸等を用いることが出来る。これらの使用量としては基質のオレフィン化合物に対してプロトン比で0.001〜20モル%、好ましくは0.1〜20モル%の範囲から選ばれる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機アミン等の塩基性化合物によって、一部部分的に中和されていても良い。α−アミノメチルホスホン酸とこれらの酸を併用することもできる。
【0016】
微小反応器(マイクロリアクター)での反応は微小な流路内で、二液を混合して分散性をよくして反応させるために、タングステン系触媒、助触媒としてのα-アミノメチルホスホン酸及び酸については、微小反応器(マイクロリアクター)に供給する前に予め過酸化水素水溶液に溶解して用いる。
【0017】
本発明に用いられるオレフィン化合物とは、分子中に炭素−炭素二重結合を少なくとも一つ有する有機化合物であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、鎖状および環状のオレフィン類、H2C=CH−X−OH(式中、Xは炭化水素残基を表す。)で示される不飽和アルコール類および、テルペン類(ただし、分子中に芳香環のみを有するものおよび分子中に炭素−炭素二重結合を含まないものを除く。)などが挙げられる。
【0018】
鎖状および環状のオレフィン化合物としては、後述するテルペン類に含まれない、分子内に炭素−炭素二重結合を有する化合物であれば特に限定されず公知のものを使用することができる。なお、鎖状および環状のオレフィン類は分子中に分岐構造を有していても良い。具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ヘキセン、シクロヘキセン等が挙げられる。また、二重結合を複数有する化合物もエポキシ樹脂としての使用を考えると有用であり、このような化合物としては、4−ビニルシクロヘキセン、3−シクロヘキセンカルボン酸アリル、1−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸アリル、3−シクロヘキセニルメチル−3’−-シクロヘキセンンカルボキシレート、1−メチル−3−シクロヘキセニルメチル−1’−メチル−3’−-シクロヘキセンンカルボキシレート、2−メチル−4−シクロヘキセニルメチル−2’−メチル−4’−-シクロヘキセンンカルボキシレート、2−フェニル−4−シクロヘキセニルメチル−2’−フェニル−4’−-シクロヘキセンンカルボキシレートが挙げられる。
【0019】
前記不飽和アルコール類としては、炭素数3以上で、かつ分子内に炭素−炭素二重結合を少なくとも1つ有するアルコール類であれば特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、2−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、3−ペンテン−1−オール、2−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、4−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール、5−ヘプテン−1−オール、4−ヘプテン−1−オール、3−ヘプテン−1−オール、3−ヘプテン−1−オール、2−ヘプテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、6−オクテン−1−オール、5−オクテン−1−オール、4−オクテン−1−オール、3−オクテン−1−オール、2−オクテン−1−オールなどの一級アルコール、3−ブテン−2−オール、4−ペンテン−2−オール、4−ペンテン−3−オール、3−ペンテン−2−オール、5−ヘキセン−2−オール、5−ヘキセン−3−オール、4−ヘキセン−2−オール、4−ヘキセン−3−オール、3−ヘキセン−2−オール、6−ヘプテン−2−オール、6−ヘプテン−3−オール、6−ヘプテン−4−オール、5−ヘプテン−2−オール、5−ヘプテン−3−オール、5−ヘプテン−4−オール、4−ヘプテン−2−オール、4−ヘプテン−3−オール、7−オクテン−2−オール、7−オクテン−3−オール、7−オクテン−4−オール、6−オクテン−2−オール、6−オクテン−3−オール、6−オクテン−4−オール、5−オクテン−2−オール、5−オクテン−3−オール、4−オクテン−2−オールなどの二級アルコール、3−プロペン−1,1−ジメチル−1−オール、4−ブテン−1,1−ジメチル−1−オール、3−ブテン−1,1−ジメチル−1−オール、4−ヘプテン−1,1−ジメチル−1−オール、4−ヘプテン−1,1−ジメチル−1−オール、3−ヘプテン−1,1−ジメチル−1−オール、2−ヘプテン−1,1−ジメチル−1−オールなどの三級アルコールが挙げられる。
【0020】
テルペン類としては、特に限定されず、分子中に芳香環のみを有するものおよび分子中に炭素−炭素二重結合を含まないものを除く公知のものを使用することができる。なお、本発明で、テルペン類とは、(C58)p(pは整数)の組成の炭化水素および当該炭化水素から導かれる含酸素化合物ならびに、含有する二重結合の数が異なり不飽和度を異にするものをいう。具体的には、テルペン炭化水素、テルペンアルコール、テルペンアルデヒド、テルペンケトン、その他の化合物などが挙げられる。テルペン炭化水素としては、例えば、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、β−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、オーシメン、ミルセン、カンフェン、テルピノレン、シルベストレン、サビネン、カレン、トリシクレン、フェンチェンなどのモノテルペン類、ロンギフォレン、カリオフィレン、ビザボレン、サンタレン、ジンギベレン、クルクメン、カジネン、セスキベニヘン、セドレンなどのセスキテルペン類、カンフォレン、ポドカルプレン、ミレン、フィロクラデン、トタレンなどのジテルペン類などが挙げられる。
【0021】
テルペンアルコールとしては、β−シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、テルピネオール、カルペオール、ツイルアルコール、ピノカンフェオール、フェンチルアルコール等のモノテルペンアルコール類、ファルネソール、ネロリドール、カジノール、オイデスモール、グアヨール、バチュリアルコール、カロトール、ランセオール、ケッソグリコールなどのセスキテルペンアルコール類、フィトール、スクラレオール、マノール、ヒノキチオール、フェルギノール、トタロール等のジテルペンアルコールなどが挙げられる。
【0022】
テルペンアルデヒドとしては、シトロネラール、シトラール、シクロシトラール、サフラナール、フェランドラール、ペリルアルデヒドなどのモノテルペンアルデヒド類などが挙げられる。
【0023】
テルペンケトンとしては、ダゲトン、ヨノン、イロン、カルボメントン、カルボタナセトン、ピペリテノン、ツヨン、カロンなどのモノテルペンケトン類、シペロン、エレモフィロン、ゼルンボンなどのセスキテルペンケトン類、スギオール、ケトマノイルオキシド等のジテルペンケトン類などが挙げられる。
【0024】
その他の化合物としては、シネオール、ピノール、アスカリドール、マノイルオキシド等のテルペンオキシド類、シトロネル酸、ヒノキ酸、サンタル酸、アビエチン酸、ピマル酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸、イソ−d−ピマル酸、アデカンジカルボン酸、ルベニン酸などのテルペンカルボン酸類が挙げられる。
【0025】
これらのオレフィン化合物の中でも、特にシクロヘキセン骨格をもつものが好ましく、具体的には以下の(2)、(3)、(5)である。
【化6】


(R4〜R9の置換基はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基から選ばれる。)
【化7】


(R10、R11、R12、R13、R14はそれぞれ独立に水素またはメチル基であり、R15は水素原子またはメチル基またはフェニル基、または式(4)のR18で表され、R16は炭素数2〜8よりなるアルキレン基またはシクロアルキレン基であり、R17は炭素数が1〜10のアルキル基、アリール基またはアルケニル基であり、nは0〜5の整数を表す)。
【化8】


(R19は炭素数2〜8よりなるアルキレン基またはシクロアルキレン基であり、R20は炭素数が1〜10のアルキル基、アリール基またはアルケニル基であり、mは0〜5の整数を表す。)
【化9】


(R21、R22はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。)
【0026】
これらのオレフィン化合物は単独でも用いることも出来るが、水相(過酸化水素水溶液)−有機相(オレフィン化合物を含む相)間での反応を促進させる目的でアミンおよび4級アンモニウム塩の少なくとも1種を混合して用いることが好ましい。アミンとして1級、2級アミンを使用すると酸化反応自体は進行するが、反応生成物のエポキシ基と反応し反応生成物の収率を低下させるため、3級アミンおよび4級アンモニウム塩の少なくとも1種を混合して用いることが好ましい。
【0027】
3級アミンとしては、3つのアルキル基の炭素数の総和が6以上50以下、より好ましくは12以上40以下の3級アミンを触媒として用いたほうが、エポキシ化反応の活性が高くて好ましい。炭素数が少なすぎると水相−有機相の二相系にした場合に、アミンの有機相への溶解性が低くなり反応活性落ちるし、あまりに多すぎると疎水性が高くなりすぎるのでやはり反応活性が落ちてしまう。このような3級アミンの具体例としては、トリブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−(2−エチルヘキシル)アミン、トリオクチルアミン(C6〜C10の混合物)、N,N−ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルミリスチルアミン、N,N−ジメチルパルミチルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミン、N,N−ジメチルココアルキルアミン、N,N−ジメチル牛脂アルキルアミン、N,N−ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、N,N−ジメチルオレイルアミン、N,N−ジイソプロピル−2−エチルヘキシルアミン、N,N−ジブチル−2−エチルヘキシルアミン、N−メチルジオクチルアミン、N−メチルジデシルアミン、N−メチルジココアルキルアミン、N−メチル硬化牛脂アルキルアミン、N−メチルジオレイルアミンが挙げられる。
【0028】
4級アンモニウム塩の場合にも、アルキル基の炭素数の総和が7以上50以下、より好ましくは13以上40以下の4級アンモニウム塩を触媒として用いたほうが、エポキシ化反応の活性が高くて好ましい。炭素数が少なすぎると水相−有機相の二相系にした場合に、アミンの有機相への溶解性が低くなり反応活性落ちるし、あまりに多すぎると疎水性が高くなりすぎるのでやはり反応活性が落ちてしまう。具体的には、硫酸水素トリ−n−オクチルメチルアンモニウム、硫酸水素トリオクチル(C6〜C10の混合物)メチルアンモニウム、硫酸水素トリ−n−オクチルエチルアンモニウム、硫酸水素トリ−n−オクチルブチルアンモニウム、硫酸水素テトラ−n−オクチルアンモニウム、硫酸水素トリ( デシル) メチルアンモニウム、硫酸水素トリ( デシル) エチルアンモニウム、硫酸水素トリ( デシル) ブチルアンモニウム、硫酸水素テトラ( デシル) アンモニウム、硫酸水素トリ( ドデシル) メチルアンモニウム、硫酸水素トリ( ドデシル) エチルアンモニウム、硫酸水素トリ( ドデシル) ブチルアンモニウム、硫酸水素テトラ( ドデシル) アンモニウム、硫酸水素トリ( テトラデシル) メチルアンモニウム、硫酸水素トリ( テトラデシル) エチルアンモニウム、硫酸水素トリ( テトラデシル) ブチルアンモニウム、硫酸水素テトラ( テトラデシル) アンモニウム、硫酸水素トリ( ヘキサデシル) メチルアンモニウム、硫酸水素トリ( ヘキサデシル)エチルアンモニウム、硫酸水素トリ( ヘキサデシル) ブチルアンモニウム、硫酸水素テトラ( ヘキサデシル) アンモニウム、硫酸水素トリ( オクタデシル) メチルアンモニウム、硫酸水素トリ( オクタデシル) エチルアンモニウム、硫酸水素トリ( オクタデシル) ブチルアンモニウム、硫酸水素テトラ(オクタデシル) アンモニウム、硫酸水素トリヘキシルメチルアンモニウム、硫酸水素トリヘキシルエチルアンモニウム、硫酸水素トリヘキシルブチルアンモニウム、硫酸水素テトラヘキシルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、硫酸水素テトラエチルアンモニウム、硫酸水素テトラプロピルアンモニウム、硫酸水素ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、硫酸水素ベンジルトリメチルアンモニウム、硫酸水素ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素N − ラウリルピリジニウム、硫酸水素N − セチルピリジニウム、硫酸水素N − ラウリルピコリニウム等の硫酸水素アンモニウム塩、また、これらの亜硫酸塩、硫酸塩、クロライド、ブロマイド、ヨーダイドでもよい。
【0029】
また、窒素環含有第4級アンモニウム塩類としては、窒素環がピリジン環、ピコリン環、キノリン
環、イミダゾリン環またはモルホリン環などからなる第4級アンモニウム塩類が挙げられるが、ピリジン環からなる第4級アンモニウム化合物が好ましく、具体例として下記のものが挙げられる。アルキル(炭素数8〜20の直鎖または分岐のアルキル、以下同様)ピリジニウム塩(例えば、N−ラウリルピリジニウムクロライド、N−セチルピリジニウムクロライドなど)、アルキルピコリウム塩(例えばN−ラウリルピコリニウムクロライドなど)、アルキルキノリウムクロライド、アルキルイソキノリウムクロライド、アルキルヒドロキシエチルイミダゾリンクロライド、アルキルヒドロキシモルホリンクロライドなどであり、これらのブロマイド、ヨーダイドまたは硫酸塩、硫酸水素塩でもよい。
【0030】
これらアミン、アンモニウム塩類は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。その使用量は基質のオレフィン化合物に対して0.0001〜10モル%、好ましくは0.01〜10モル%の範囲から選ばれる。
【0031】
後工程での精製を考えると有機溶媒を用いないほうが好ましいが、粘度低下や液状化を目的として有機溶媒を用いることも出来る。このような溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチレングリコール等のグリコール類、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラハイドロキノンのようなエーテル溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル溶媒、およびこれらの混合物を例示することができるが、特にトルエン、ヘキサン、酢酸エチル等のエポキシ化反応に影響を及ぼさず、水と二層分離を行うことが出来る溶媒が取り扱い容易であるという点から好ましい。
【0032】
本発明においては、過酸化水素とオレフィン化合物を別々にマイクロリアクターに供給して、混合した後、二層懸濁下の状態で一定の滞留時間反応させて留出させることが好ましい。マイクロリアクター以外で予め混合したものをマイクロリアクターに供給する場合には、分散が良くないと反応が不十分となり、小スケールでも分散良く混合すると発熱がひどく反応暴走を起こす。なお、本発明において、マイクロリアクターとは、2以上の流入路および1以上の流出路並びに該2以上の流入路が合流する空間を有するものであって、合流空間につながる流入路の直径が、0.01μm〜3000μm程度、より好ましくは1μmから1000μmであるものをいう。マイクロリアクターとしては、例えば複数のマイクロリアクターを直列に繋げた連続マイクロリアクター(部分的に並列の部分が有っても可)や基本的に反応流路を通過させるだけで、機械的な混合機を持たないスタティックマイクロリアクター等が挙げられる。なお、マイクロリアクターの形状等については特に制限はなく、公知のものを使用でき、T字型マイクロリアクターやY字型マイクロリアクターなどいかなる形状のものを用いてもよい。
【0033】
本発明の方法では、反応温度は、特に限定されないが、通常、室温〜150℃程度、好ましくは室温〜100℃で行えばよい。反応系を加熱する場合には、例えばマイクロリアクター本体に直接リボンヒーターを巻き付ける等の方法を採用すればよく、また、マイクロリアクター本体を所定の温度に設定したウォーターバスやオイルバス中に浸す方法を採用してもよい。
【0034】
また、オレフィン化合物と、過酸化水素水溶液をマイクロリアクターに供給する際の送液方法についても特に限定されず公知の方法を採用できる。具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー用の送液ポンプや、シリンジポンプ等、一定の流量で送液できるものを採用することができる。
【0035】
オレフィン化合物と過酸化水素の混合物をマイクロリアクターに供給する際の送液速度については、特に限定されないが、送液速度が速すぎると、反応混合物のマイクロリアクター内での滞留時間が短すぎて反応が十分に進行しない恐れがあり、逆に低すぎると反応混合物のマイクロリアクター内での滞留時間が長すぎて副反応を生じ、エポキシ化合物の選択率が低下する恐れがある。具体的には、例えば内径が1,000μm、長さ250mm程度のリアクターの場合には滞留時間1秒〜60分程度、好ましくは30秒〜30分程度となるように流速を調整すれば良い。
【0036】
このようにして得られた反応物は、蒸留、再結晶等の公知の精製方法により精製され、目的とするエポキシ化合物が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例、比較例によって本発明を更に詳述するが、本発明はこれによって何等制限を受けるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できる。
【0038】
(実施例1)
A液として、35質量%過酸化水素水溶液(三菱ガス化学(株)製、表-1ではH22と略)83.95gに、アミノメチルホスホン酸(表-1ではAMPAと略)0.8721g、タングステン酸ナトリウム二水和塩(日本無機化学工業(株)製、表-1ではWと略)5.181gをこの順に溶解した。この溶液の密度は1.185(25℃)であり、この溶液の過酸化水素濃度は、混合直後は31.05%、24時間後30.59%、72時間後は30.54%であった。
B液としてリモネン(小川香料(株)製)48.52gにメチルトリオクチルアンモニウムクロライド(表-1ではMTOAHSと略)1.576gを溶解した。この溶液の密度は0.8388(25℃)であった。
【0039】
上記A液を2.74ml/min(3.24g/min)、B液を5ml/min(4.19g/min)の速度で乳化混合に優れたピラー型ミキサー(チャンネル高さ0.015mm、チャンネル幅0.05mm、長さ25mm)に送液し、ミキサーの出口に内径0.5mm、長さ2mのテフロン(登録商標)チューブを繋ぎ、100℃のオイルバス中に浸けた。滞留時間は約2分になる。この反応液を分析したところ転化率33%、選択率95%でリモネンモノオキサイドを得ることが出来た。
【0040】
(実施例2〜9)
原料成分、フィード、反応条件を変えて実施例1同様に実験を行った結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(比較例)
滴下ロート、ジムロート冷却管を備えた300mLの三ツ口フラスコに、50%硫酸水溶液0.360g(1,84mmol)、トリオクチルアミン(TNOA)5.18g(14.7mmol)、アミノメチルホスホン酸0.815g(7.34mmol)、タングステン酸ナトリウム二水和物4.61g(14.7mmol)、リモネン100g(0.734mol)、35%過酸化水素水3.57g(36.7mmol)を三ッ口丸底フラスコに入れ、反応液を55℃に調節し、撹拌しながら、更に35%過酸化水素67.8g(0.697mol)を反応温度が60℃を越えないように気をつけながら、4〜5時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間、攪拌を継続し、反応液を室温まで冷却した。撹拌を止めると反応液は速やかに二層分離し、上層に有機層、下層に水層に分かれた。上層に有機層を分析するとリモネンの転化率は73%、リモネンモノオキサイドへの選択率は80%であった。
【0043】
以上の通りマイクロリアクターを用いたエポキシ化反応では、比較例よりも単位時間あたりの反応率、及び反応成績が向上していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のエポキシ化合物の製造方法によれば高収率、高選択的かつ安全に目的のエポキシ化合物を得ることができる。そして酸化剤として過酸化水素を用いるため、腐食性がなく、特殊な設備を必要としない。また酸化剤由来の副生物が水であり、生成物との分離が容易である、など多くの利点があり、工業的な利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化能を有する触媒を溶解した過酸化水素水溶液とオレフィン化合物を含有する液体とを少なくとも一つの微小反応器内に供給後混合し、該混合物を前記微小反応器内で反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
前記エポキシ化能を持つ触媒を溶解した過酸化水素水溶液が助触媒を含む請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記オレフィン化合物を含有する液体がアミンおよび4級アンモニウム塩の少なくとも1種を含む請求項1または2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アミンが3級アミンである請求項3に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記オレフィン化合物を含有する液体が有機溶媒を含む請求項1乃至4のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ化能を有する触媒がタングステン化合物である請求項1乃至5のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
前記タングステン化合物がタングステン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンバナドタングステン酸、ケイバナドタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物から選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項8】
前記助触媒が、以下の構造式(1)で表されるα−アミノメチルホスホン酸を含む請求項2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【化1】


(式中、R1 は水素原子またはアシル基を、R2 およびR3 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基を表す。)
【請求項9】
前記助触媒が無機酸および有機酸の少なくとも1種を含む請求項2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項10】
前記アミンのアルキル基の炭素数総和が6以上50以下であり、前記4級アンモニウム塩のアルキル基の炭素数総和が7以上50以下である請求項3に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項11】
前記オレフィン化合物のオレフィン部分がシクロアルケン骨格である請求項1乃至10のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項12】
前記オレフィン化合物が以下の構造式(2)を有する化合物である請求項11に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【化2】


(式中、R4〜R9はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項13】
前記微小反応器が、連続マイクロリアクターである請求項1乃至12のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項14】
前記微小反応器が、スタティックマイクロミキサーである請求項1乃至12のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項15】
前記微小反応器の流路の直径が1μm以上1,000μm以下である請求項1乃至14のいずれか一に記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−256217(P2009−256217A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104610(P2008−104610)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】