説明

エポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法

【課題】収率を大幅に改善することによって、生産性を改善することができるエポキシ基含有アクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程によって、1分子内にアクリロイル基とエポキシ基とを有するエポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造する方法であって、該製造方法は、反応工程をアルキルフェノール系化合物の存在下で行うエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法に関する。より詳しくは、エポキシ環を有する反応性モノマー等として好適に用いることができるエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、エポキシ環を有する反応性モノマー等として有用であり、塗料、接着剤、粘着剤、繊維改質剤、分散剤、レジスト材料等のモノマー原料等として広い分野に使用されている。従来より、(メタ)アクリロイル基の部分がメタクリロイルであるメタクリル酸グリシジル(GMA)は、汎用品として世の中に広く出回っており、その製法や精製に関する特許文献等も数多くある。しかし、アクリロイルであるアクリル酸グリシジル(GA)については、反応性が高いという利点があるものの、工業的にも試薬的にもほとんどない。また特許文献等において用いられているものも、メタクリロイルとなったメタクリル酸グリシジル(GMA)しか見受けられない。アクリル酸グリシジル(GA)が用いられていない理由は、非常に皮膚刺激性が高く、扱いにくいことや、化合物の安定性が低く、合成・精製が難しいことが挙げられる。
【0003】
従来の(メタ)アクリル酸グリシジルを製造する通常の方法としては、例えば、下記に示すような3種類の方法が挙げられる。第1の方法は、(メタ)アクリル酸とエピクロロヒドリンとを第4級アンモニウム塩の存在下に反応させ、(メタ)アクリル酸の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエステルを得て、これをアルカリにより脱塩化水素させる方法である。第2の方法は、(メタ)アクリル酸メチルとグリシドールを塩基性触媒の存在下、エステル交換させる方法である。第3の方法は、(メタ)アクリル酸とアルカリ金属を反応させ、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩を得、ついで第4級アンモニウム塩の存在下にエピクロロヒドリンとを反応させ、脱塩化アルカリさせる方法である。
【0004】
第3の方法としては、例えば、反応系内の水分濃度を600〜1600ppmに調整する方法(例えば、特許文献1参照。)、反応後にエピクロロヒドリンを回収しながら冷却した後、水酸化アルカリ水溶液を添加して水層と有機層とを分離し、得られた有機層に触媒不活性化剤を加え、次いで酸素含有ガスを吹き込みながら蒸留分離する方法(例えば、特許文献2参照。)、反応により得られた粗(メタ)アクリル酸グリシジルに、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩基性化合物と第4級オニウム塩を加えてエピクロロヒドリンを留去し、スルホン酸又はその塩を加えて、ろ過又は水洗し、更に蒸留を行う方法(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。
【特許文献1】特開平7−2818号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平9−59268号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開平9−249657号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の方法を用いた場合、メタクリロイルとなっているエポキシ基含有メタクリル酸エステルを製造するときには充分な収率を得ることができるものであっても、アクリロイルとなっているエポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造するときには充分な収率を得ることができるものではなかった。例えば、第1の方法においては、副生成物が多く生成されることとなり、純度が悪く、収率も低いものであった。第2の方法においては、グリシドールのような高値のエポキシ基を有する化合物を用いていることから生産コストの面で改善の余地があり、また、収率も低いものであった。更に、第3の方法を用いた場合も、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造するという技術においては、メタクリロイルがアクリロイルとなっただけで収率が充分ではなくなり、工業的生産方法としては工夫の余地があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、エポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造するに際し、収率を大幅に改善することによって、生産性を改善することができる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、これまでに有効な方法が確立されていなかったエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法について種々検討したところ、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程によってエポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造する場合、アクリル酸はメタクリル酸よりも反応性が高いことから、従来のエポキシ基含有メタクリル酸エステル類を製造する方法では、アクリル酸同士での反応が進行することや、生成されたエポキシ基含有アクリル酸エステル類の分解が生じることによって収率が悪くなり、充分な収率を得ることができないことが判った。このように、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類において、メタクリロイルがアクリロイルとなっただけで反応収率が低下するが、エポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造においては、アルキルフェノール系化合物の存在下でアクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程を行うことにより高い収率を得ることができ、生産性を充分に改善することができることを見出したものである。例えば、従来のメタクリル酸グリシジルの合成ではラジカル重合禁止剤としてフェノチアジンやハイドロキノンモノメチルエーテルを用いており、その反応収率は90モル%程度であったが、アクリル酸グリシジルの合成においては、これらの重合禁止剤(安定剤)では非常に効果が薄く、アルキルフェノール系のラジカル重合禁止剤を用いた場合に、飛躍的に反応収率が向上することことを見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程によって、1分子内にアクリロイル基とエポキシ基とを有するエポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造する方法であって、該製造方法は、反応工程をアルキルフェノール系化合物の存在下で行うエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の製造方法によって製造されるエポキシ基含有アクリル酸エステル類は、1分子内に1つ以上のアクリロイル基と1つ以上のエポキシ基とを有する化合物であればよく、アクリロイル基とエポキシ基とを1つずつ有する化合物であってもよいし、2つ以上のアクリロイル基と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物であってもよい。例えば、2つのアクリロイル基を有するジアクリレート化合物や、2つのエポキシ基を有するジエポキシ化合物であってもよく、特に限定されるものではない。
アクリロイル基とエポキシ基とを1つずつ有する化合物である場合には、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、繊維改質剤、分散剤、レジスト材料用途として好ましく用いることができる。また、ジアクリレートや、ジエポキシ化合物である場合には、例えば、塗料、レジスト材料や各種コーティング剤用途として好ましく用いることができる。
【0010】
上記反応工程において、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物の合計の含有量は、反応系内の化合物の総量に対して、80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上であり、更に好ましくは、95質量%以上である。また、上限としては、99.5質量%であることが好ましい。このような割合で反応を行うことにより、エポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造を効率よく行うことができる。
【0011】
上記製造方法は、反応工程をアルキルフェノール系化合物の存在下で行うエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法である。すなわち、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物とを、アルキルフェノール系化合物を重合禁止剤として反応させる製造方法である。従来のエポキシ基含有メタクリル酸エステル類の合成方法においては、ラジカル重合禁止剤としてフェノチアジンやハイドロキノンモノメチルエーテル等を用いていたが、これらの重合禁止剤をアクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物とを反応させる工程に用いたとしても、生成されるエポキシ基含有アクリル酸エステル類の反応収率は低いものであった。本発明のように、アルキルフェノール系化合物の存在下で、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程を行うことによって、エポキシ基含有アクリル酸エステルの合成を高い収率で行うことができ、生産性を大幅に向上させることができる。更に、生産性が向上するため、低コスト化を図ることができる。
【0012】
上記反応工程において、反応系に存在するアルキルフェノール系化合物は、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との合計100質量%に対して、0.001質量%以上が好ましい。このような範囲でアルキルフェノール系化合物が含まれることにより、反応を充分に進行させることができ、より収率を改善することができる。アルキルフェノール系化合物の含有量としては、0.01質量%以上が更に好ましく、0.05質量%以上が特に好ましい。また、5質量%以下が好ましく、3質量%以下が更に好ましく、2質量%以下が特に好ましい。なお、反応系に存在するアルキルフェノール系化合物は、1種でもよいし、2種以上を併用してもよく、特に限定されるものではない。
【0013】
上記アルキルフェノール系化合物は、1つ又は複数の芳香環を有し、1つの芳香環に1つだけ水酸基を有し、かつ該芳香環にアルキル基を有する。アルキル基は、直鎖状に連なった構造でも、分岐した構造でもよいし、環状(例えば、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基)であってもよい。また、置換基があってもよい。このようなアルキルフェノール系化合物が、アクリロイル基が有するラジカルを一時的にトラップすることで、アクリロイル基を有する化合物同士の反応を抑制することができ、優れた収率のものとすることができる。例えば、1つの芳香環に2つ以上の水酸基が存在する、アルキルジフェノール系化合物を用いた場合には充分な収率が得られないものとなる。なお、「1つの芳香環に1つだけ水酸基を有する」とは、1つの芳香環を形成する炭素原子のいずれかに、水酸基が1つだけ結合していることを意味する。
上記水酸基を1つだけ有する芳香環は、アルコキシ基を有していないことが好ましい。水酸基が結合した芳香環に、更にアルコキシ基が結合しているアルキルフェノール系化合物である場合には、重合禁止能の効果が低くなるおそれがある。上記アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基等である。このような形態であれば、本発明の製造で得られるエポキシ基含有アクリル酸エステル類の収率をより改善することができ、本発明の効果を充分に得ることができる。
【0014】
上記アルキルフェノール系化合物の構造は、特に限定されるものではなく、1つの芳香環にアルキル基が1つ以上結合している形態であればよい。アルキル基としては、特に限定されないが、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましく、置換基があってもよい。
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等いずれの形態であってもよく、これらは、炭素原子が直線状に連なった鎖状の形態であってもよいし、分岐した形態であってもよい。また、環状の形態であってもよい。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1〜5のアルキル基であり、更に好ましくは、メチル基、ブチル基である。
上記アルキル基の側鎖に結合する置換基としては、1つの芳香環に2つ以上の水酸基を有するもの以外であることが好ましく、例えば、フェニル基等の芳香族置換基であってもよい。
【0015】
上記アルキルフェノール系化合物は、1つ又は複数の芳香環を有し、1つの芳香環に1つだけ水酸基を有するものであって、水酸基を有する芳香環のオルト位に、置換基を有していてもよい炭素数が1〜10のアルキル基を有することが好ましい。このような形態のアルキルフェノール系化合物は、本発明の効果を充分に発揮し、収率の向上を図ることができる。また、入手が容易であり、安定性が高いことからも好ましい。
【0016】
上記アルキルフェノール系化合物として、具体的には、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、「アンテージW−400」、川口化学工業株式会社製)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、「アンテージW−500」、川口化学工業株式会社製)、1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(例えば、「アデカスタブAO20」、株式会社ADEKA製)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(例えば、「アデカスタブAO30」、株式会社ADEKA製)、4,4−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、「アデカスタブAO40」、株式会社ADEKA製)、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、「アデカスタブAO50」、株式会社ADEKA製)、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン(例えば、「アデカスタブAO60」、株式会社ADEKA製)、トリ−エチレングリコール−ビス−[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、「アデカスタブAO70」、株式会社ADEKA製)、3,9−ビス[1,1−ジ−メチル−2−{β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、「アデカスタブAO80」、株式会社ADEKA製)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、「アデカスタブAO330」、株式会社ADEKA製)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(例えば、「SUMILIZER BHT」、住友化学工業社製)、ジ(α−メチルベンジル)フェノール(例えば、「SUMILIZER S」、住友化学工業社製)、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン(例えば、「IRGANOX 1098」、豊田通商株式会社製)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、「IRGANOX 1330」、豊田通商株式会社製)等が挙げられる。
【0017】
上記反応工程は、(a1)アクリル酸若しくはその金属塩と(b1)ハロゲン元素を有するエポキシ化合物とを反応させる工程、又は、(a2)アクリル酸エステル若しくはアクリル酸無水物と(b2)水酸基を有するエポキシ化合物とを反応させる工程であることが好ましい。アクリロイル基を有する化合物である、(a1)アクリル酸又はその金属塩、並びに、(a2)アクリル酸エステル又はアクリル酸無水物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような反応は、塩基性触媒によって反応を進行させるものであるため、本発明の効果が充分に発揮され、反応収率をより向上させることができるものである。例えば、アクリル酸は水酸基を有するエポキシ化合物とエステル化を行うが、その場合には、触媒として酸触媒を用いることとなり、酸触媒を用いる場合には、エポキシ化合物のカチオン重合が進行することとなり、本発明の効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0018】
上記反応工程の具体例としては、(1)アクリル酸とハロゲン元素を有するエポキシ化合物とをアルキルフェノール系化合物の存在下で反応させ、ハロゲン化されたエポキシ基含有アクリル酸エステルを得て、これをアルカリにより脱塩化水素させる方法、(2)アクリル酸エステルと、グリシドール等の水酸基を有するエポキシ化合物とをアルキルフェノール系化合物の存在下でエステル交換させる方法、(3)アクリル酸とアルカリ金属を反応させてアクリル酸のアルカリ金属塩を得て、アルキルフェノール系化合物の存在下でハロゲン元素を有するエポキシ化合物とを反応させる方法等が挙げられる。これらの(1)〜(3)の反応は、アルキルフェノール系化合物とともに触媒の存在下で行われることが好ましい。触媒の好ましい形態については、後述する。
【0019】
上記(1)〜(3)で示した方法の中でも、副生成物の生成が少なく、より収率を改善することができる観点から、(2)又は(3)の方法が好ましい。(2)又は(3)の方法では、副生成物が少ないことから、精製工程の簡略化や不純物の除去を伴う工程数の削減を図ることができ、低コスト化にも繋がる。また、(2)のように水酸基を有するエポキシ化合物を用いる方法は、ハロゲン元素を含まないため電子材料分野等で用いられる材料として好ましく用いられる。収率、原料の安定性、低コスト化の観点からは(3)の方法がより好ましい。例えば、(2)で用いられる水酸基を有するエポキシ化合物であるグリシドールは、貯蔵安定性が悪く、室温でも経時的に含量低下が生じる。また、グリシドールは高値であるため、(3)の方法では(2)の方法よりもコストの低減を図ることができる。更に、収率を向上させる観点から、アクリロイル基を有する化合物としては、アクリル酸やアクリル酸エステルを用いるよりも、アクリル酸金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)を用いる(3)の方法が好ましい。すなわち、更なる収率の向上、原料の安定性、低コスト化等の総合的観点から、上記反応工程は、(a3)アクリル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、(b3)ハロゲン元素を有するエポキシ化合物とを反応させる工程であることが好ましい。
【0020】
上記エポキシ基含有アクリル酸エステル類を生成する反応としては、例えば、下記式(1);
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。Xは、ハロゲン元素を表す。Yは、炭素数が1〜10のアルキレン基を表し、置換基があってもよい。)で表される反応であることが好ましい。Mとして好ましくは、アルカリ金属であり、更に好ましくは、ナトリウム又はカリウムである。Xとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、好ましくは、塩素又は臭素である。Yとして好ましくは、炭素数が1〜5のアルキレン基であり、更に好ましくは、炭素数が1〜3のアルキレン基である。これらのアルキレン基は、置換基があってもよく、置換基の種類は特に限定されない。上記式(1)で示される反応では、複数種のアクリル酸の金属塩、複数種のハロゲン元素を有するエポキシ化合物を併用して用いてもよく、特に限定されない。
【0023】
以下に、アクリロイル基を有する化合物について、例を挙げて説明する。
上記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イソステアリル等のアクリル酸アルキルエステル類;
アクリル酸2−ビニロキシエチル、アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、アクリル酸2−ビニロキシプロピル、アクリル酸3−ビニロキシプロピル、アクリル酸4−ビニロキシブチル、アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2−[2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ]エチル、アクリル酸2−(2−ビニロキシプロポキシ)プロピル、アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等のビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類;アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等の芳香族基含有アクリル酸エステル類;
アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ポリエチレングリコール、アクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有アクリル酸エステル類;アクリル酸クロライド、アクリル酸ブロマイド、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸テトラフルオロエチル等のハロゲン含有アクリル酸エステル類;エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート等のジアクリレート類;
ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等の窒素原子含有アクリル酸エステル類;等が挙げられる。
【0024】
上記アクリル酸のアルカリ金属塩としては、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム等を好ましく用いることができる。また、アクリル酸のアルカリ土類金属塩としては、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム等を好ましく用いることができる。アルカリ土類金属塩とアルカリ金属塩とを比較した場合、安価で入手しやすい点からは、アクリル酸のアルカリ金属塩であることがより好ましい。これらのアクリル酸系単量体は単独でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
以下に、本発明で好ましく用いることができるエポキシ化合物について説明する。
上記ハロゲン元素を有するエポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物にハロゲンが置換したものであれば特に限定されないが、例えば、エピハロヒドリン等の化合物、これらの化合物にメチル基、フェニル基等の置換基が結合したものが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。ハロゲン元素を有するエポキシ化合物として、より好ましくは、エピハロヒドリンである。
本発明の製造方法で好ましく用いられるエピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、エピヨードヒドリン、メチルエピクロルヒドリン、メチルエピブロムヒドリン、メチルエピヨードヒドリン等や、これらのエピハロヒドリンにメチル基、フェニル基等の置換基が結合したものが挙げられる。
上記水酸基を有するエポキシ化合物としては、無置換型のグリシドール、アルキル基置換型のグリシドール等のグリシドール類が使用できるが、入手の容易さなどからは無置換型のグリシドールが好ましい。
【0026】
上記製造方法は、反応工程を更に酸化防止剤の存在下で行うことが好ましい。酸化防止剤を用いることによって、更に収率を改善することができる。更に加える酸化防止剤としては、リン系、N−オキシル系、フェノール系、硫黄系等を好適に用いることができるが、特に限定されるものではない。酸化防止剤を用いることで、より生成されたエポキシ基含有アクリル酸エステル類の分解を抑制することができ、更なる収率の改善を図ることができる。また、更に加える酸化防止剤としては、特に、リン系、N−オキシル系が好ましい。すなわち、上記製造方法は、反応工程を更にリン系酸化防止剤及び/又はN−オキシル系酸化防止剤の存在下で行うことが好ましい。
上記リン系酸化防止剤としては、種々のものを用いることができ、特に限定されるものではなく、例えば、一般的に用いられるリン系酸化防止剤を好ましく用いることができる。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン等のモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(ジフェニルモノアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニルホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフィンや、モノホスファイト系化合物が好ましい。モノホスファイト系化合物としては、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
【0027】
上記N−オキシル系酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。例えば、一般的に用いられるN−オキシル系酸化防止剤として、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル(4H−TEMPO)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−N−オキシル、4−アセチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−N−オキシルピペリジル)スクシネート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)ピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−グリシジルオキシピペリジン、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)(商品名:EC3314A、ナルコジャパン株式会社製)、エステル結合を有する化合物等が挙げられる。
【0028】
上記製造方法は、反応工程を行う反応系にアクリロイル基を有する化合物、エポキシ化合物、アルキルフェノール系化合物、上記リン系酸化防止剤、N−オキシル系酸化防止剤等の酸化防止剤以外のものが含まれていてもよく、例えば、触媒を用いることが好ましい。すなわち、上記反応工程は、触媒存在下で行うことが好ましい。触媒を用いることで、反応を効率よく行うことができ、生成されるエポキシ基含有アクリル酸エステル類の収率を向上させることができる。触媒の使用量は、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との合計100質量%に対して、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がより好ましく、0.001質量%以上が更に好ましく、0.002質量%以上が特に好ましい。また、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。
【0029】
本発明の製造方法に好ましく使用することができる触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩基性触媒であることが好ましい。触媒としては、エピクロロヒドリン等が開環や重合を起こさないものであることが好ましく、塩基性触媒である有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンや、テトラメチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラエチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウム=ヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、複数の触媒を併用して用いてもよい。
上記塩基性触媒としては、第4級アンモニウム塩が特に好ましい。具体的には、テトラメチルアンモニウムクロリド、トリメチルエチルアンモニウムクロリド、ジメチルジエチルアンモニウムクロリド、メチルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド等が挙げられる。第4級アンモニウム塩は上記の1種でもよく、任意の2種以上のものを組み合わせて使用してもよいが、上記の中でもテトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、およびトリメチルベンジルアンモニウムクロリドが好適に使用される。
【0030】
上記反応系内には水が含まれていてもよいが、水分濃度が高い場合には、副生成物が生成されるおそれがあるため、少ない方が好ましい。水分濃度としては、反応系内の原料の総量に対して、2000ppm以下に調整することが好ましい。
【0031】
上記反応工程により得られる、エポキシ基含有アクリル酸エステル類の収率は、60モル%以上であることが好ましい。より好ましくは、70モル%以上であり、更に好ましくは、80モル%以上である。上述したように、本発明の製造方法を用いることによって、従来のメタクリル酸エステル類の製造においては充分な収率が得られないアクリロイル基を有する化合物を用いた場合であっても、高い収率を得ることができる。
【0032】
上記アルキルフェノール系化合物の存在下で行う反応工程を行う温度は、特に限定されるものではなく、生成する化合物、重合禁止剤等の種類や量によって、適宜選択すればよいが、例えば、90℃以下で行うことが好ましい。このような温度範囲で行うことにより、より収率を向上させたものとすることができる。90℃を超える場合には、生成されたエポキシ基含有アクリル酸エステルが分解すること等によって、高い収率が得られないおそれがある。より好ましくは、80℃以下であり、更に好ましくは、70℃以下である。上記反応工程を行う温度としては、例えば、40℃以上であることが好ましい。40℃未満である場合には、反応が充分に進行しないおそれがある。より好ましくは、45℃以上であり、更に好ましくは、50℃以上である。
【0033】
上記アルキルフェノール系化合物の存在下で行う反応工程を行う時間は、生成する化合物、重合禁止剤、酸化防止剤等の種類や量によって適宜設定すればよいが、例えば、反応時間が0.1時間以上であることが好ましく、また、10時間以内が好ましい。反応時間が短すぎる場合、反応が進行せず、充分な収率が得られないおそれがあり、反応時間が長すぎる場合、生成したエポキシ基含有アクリル酸エステル類の分解が生じたりすることによって、充分な収率が得られないおそれがある。反応時間としてより好ましくは、0.5時間以上であり、更に好ましくは、1時間以上である。また、7時間以内が好ましく、5時間以内が更に好ましい。
【0034】
上記アルキルフェノール系化合物の存在下で行う反応工程は、常圧下で行ってもよいし、加圧下、減圧下で行ってもよく、特に限定されるものではないが、製造方法を簡易なものとする観点からは、常圧下で行うものであることが好ましい。
反応を行う雰囲気は、特に限定されるものではないが、例えば、重合禁止剤は、酸素分子が存在することにより効力を発揮する。また、酸素分子が多すぎても爆発範囲に属することとなるため、分子状酸素濃度を適度な濃度に設定することが好ましい。この観点から、反応気相部の分子状酸素濃度は、下限を0.01容量%以上、上限を10容量%以下に設定することが好ましい。下限は、0.02容量%以上がより好ましく、0.05容量%以上が更に好ましい。下限は、9容量%以下がより好ましく、8容量%以下が更に好ましい。上記の分子状酸素濃度の範囲が、収率、重合抑制、爆発回避、経済性の観点から有効である。分子状酸素濃度の設定は、分子状酸素又は空気等の分子状酸素を含むガスと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとを、反応器に別々に供給したり、予め混合して供給したりすることにより行われる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法は、上述したものとすることにより、これまでのメタクリル酸エステル類を製造する方法では低いものであった収率を大幅に改善することができる。これにより、生産性の改善、ひいては低コスト化をも図ることができる。本発明で得られたエポキシ基含有アクリル酸エステル類は、メタクリル酸エステル類よりも反応性が高く、重合体を合成する際の反応性モノマーとして有用なものとなり、例えば、粘接着剤原料、塗料原料、成形樹脂共重合用、アクリル繊維、アクリルゴム等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0037】
アクリル酸グリシジルの合成
実施例1
攪拌装置、温度計、コンデンサー、空気と窒素の混合ガス導入管を備えたフラスコに、アクリル酸カリウム 350g、エピクロロヒドリン 1470g、テトラメチルアンモニウムクロリド 2.61g、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT) 3.64g、トリフェニルホスフィン 3.64g、1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(AO20) 3.64g、及び、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)(EC3314A) 3.64gを加えた。常圧で加熱を開始して、内温を70℃に保ち3時間反応させた。得られたアクリル酸グリシジルは、アクリル酸カリウム基準で反応収率が87.3モル%であった。
なお、反応収率の測定は、株式会社島津製作所製のガスクロマトグラフ「GC−17A」を用いたガスクロマトグラフィー分析によって以下に示す条件で行った。実施例2〜12、比較例1〜5についても同様の方法で反応収率を測定した。
測定条件
使用カラム:キャピラリーカラム TC−WAX(GL Sciences Inc.製)
キャリア(He)圧 1.1Kgf/cm
圧:0.7Kgf/cm
空気圧:0.6Kgf/cm
インジェクション温度:220℃
ディテクター温度:220℃
昇温プログラム:45℃で5分保持、15℃/分で220℃まで昇温し、220℃で10分間保持
【0038】
実施例2
EC3314Aの代わりに4H−TEMPO 3.64gを加えたこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は85.0モル%であった。
【0039】
実施例3
EC3314Aを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は84.6モル%であった。
【0040】
実施例4
トリフェニルホスフィンの代わりに、トリフェニルホスファイト 3.64gを加えたこと以外は実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は82.0モル%であった。
【0041】
実施例5
トリフェニルホスフィンを加えなかったこと以外は、実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は80.1モル%であった。
【0042】
実施例6
BHTの代わりにトリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアネート(AO30) 3.64gを加え、AO20の代わりに、4,4−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(AO40) 3.64gを加えたこと以外は、実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は83.4モル%であった。
【0043】
実施例7
BHTの代わりに4,4−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(AO40) 3.64gを加え、AO20の代わりにn−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(AO50) 3.64gを加えたこと以外は、実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は79.6モル%であった。
【0044】
実施例8
BHTの代わりにテトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン(AO60) 3.64gを加え、AO20の代わりにジ(α−メチルベンジル)フェノール(スミライザーS) 3.64gを加えたこと以外は、実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は85.0モル%であった。
【0045】
実施例9
反応温度(内温)を80℃にしたこと以外は、実施例2と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は86.6モル%であった。
【0046】
実施例10
反応温度(内温)を90℃にしたこと以外は、実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は73.4モル%であった。
【0047】
実施例11
反応時間を2時間にしたこと以外は、実施例10と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は76.4モル%であった。
【0048】
比較例1
BHTの代わりにハイドロキノン 3.64gを加え、AO20の代わりにフェノチアジン 3.64gを加えたこと以外は、実施例3と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は48.4モル%であった。
【0049】
比較例2
ハイドロキノンの代わりに、ハイドロキノンモノメチルエーテル 3.64gを加えたこと以外は、比較例1と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は46.2モル%であった。
【0050】
下記表1に実施例1〜11及び比較例1〜2における反応工程の収率について測定した結果を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
なお、表1中に示す化合物はそれぞれ下記の通りである。
BHT:2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール
AO20:1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸
AO30:1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニルブタン)
AO40:4,4−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)
AO50:n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
AO60:テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン
スミライザーS:ジ(α−メチルベンジル)フェノール
EC3314A:セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)
4H−TEMPO:2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル
【0053】
表1の結果から、アルキルフェノール系化合物を用いた実施例1〜11では反応収率が70モル%以上となり、中でも、反応温度が80℃以下の場合には80モル%以上となり、高い収率を得ることができていることがわかる。また、比較例1及び2の結果から、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルのようなアルキル基を有していない化合物を重合禁止剤として用いた場合には、反応収率が50モル%以下と低くなり、アルキルフェノールを用いることによる本発明の効果が充分に立証されていることがわかる。
また、実施例1〜4及び実施例6〜8のように、リン系酸化防止剤を用いた場合には、更に収率が向上し、実施例1及び2のように、更にN−オキシル系酸化防止剤を用いると、特に高い収率を得ることができたことがわかる。
【0054】
更に、実施例2、9及び10を、反応温度によって比較すると、70℃及び80℃においてはほぼ同等の反応収率が得られているが、反応温度を90℃とすると反応収率が低下することがわかった。
【0055】
次に、メタクリル酸グリシジルの合成において、アルキルフェノール系化合物を用いた場合と、用いない場合とで反応収率を比較した結果を示す。
【0056】
比較例3
実施例1と同様の手順で、メタクリル酸カリウム 90.0g、エピクロロヒドリン 335.3g、テトラメチルアンモニウムクロリド 0.60g、フェノチアジン 0.425g(仕込み総液量に対して1000ppm)の仕込み量とし、反応温度(内温)は80℃、反応時間は5時間としてメタクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は、94.2モル%であった。
【0057】
比較例4
安定剤としてのフェノチアジンを用いず、BHT 0.425g及びAO20 0.425gを加えたこと以外は、比較例3と同様にしてメタクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は、96.5モル%であった。
下記表2に比較例3及び4の結果について示す。
【0058】
【表2】

【0059】
比較例3と比較例4では、メタクリル酸金属塩を用いて反応を行っているが、フェノチアジンを用いた比較例3と、アルキルフェノール系化合物を用いた比較例4とを比較すると、反応収率はほぼ同等である。この比較例3及び4の結果から、アルキルフェノール系化合物を安定剤として用いた場合に反応収率が向上することは、アクリロイル基を有する化合物を用いた場合に特有なものであることが充分に立証されているものといえる。
【0060】
次に、アクリル酸とエピクロロヒドリンとを反応させた場合について述べる。
実施例12
攪拌装置、温度計、コンデンサー、空気と窒素の混合ガス導入管を備えたフラスコに、アクリル酸 100.0g、エピクロロヒドリン 577.8g、テトラメチルアンモニウムクロリド 1.52g、BHT 0.68g、AO20 0.68g、トリフェニルホスフィン 0.68g及びEC3314A 0.68gを加え、90℃で3時間攪拌して反応を行った。ついで48%水酸化ナトリウム 120.2gを6時間かけて滴下しつつ、80℃、200mmHgの条件下で閉環反応を行った。このとき、反応収率は、44モル%であった。
【0061】
比較例5
安定剤としてのBHT、AO20、トリフェニルホスフィン及びEC3314Aを用いず、フェノチアジン 0.68g(仕込み総液量に対して1000ppm)を加えたこと以外は、比較例12と同様にしてアクリル酸グリシジルの合成を行った。反応収率は、38モル%であった。
下記表3に実施例12及び比較例5の結果について示す。
【0062】
【表3】

【0063】
上述した実施例12及び比較例5とを比較すると、アクリル酸とエピクロロヒドリンとを用いた反応においても、アルキルフェノール系化合物を用いることによって反応収率が向上していることがわかる。このようなアクリル酸とエピクロロヒドリンとを反応させる場合、エポキシが開環された3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエステルを得て、その後、閉環させることにより、エポキシ基含有アクリル酸エステル類が生成されることとなる。
【0064】
なお、実施例1〜11及び比較例1〜4の場合、アクリル酸金属塩とハロゲン元素を有する化合物との反応は、金属元素とハロゲン元素との塩の生成とともに、アクリル酸がエステル化されるものであり、実施例12及び比較例5の場合とでは反応機構が異なるものとなる。そのため、反応収率を同一の基準で比較することはできないが、いずれの場合においても本発明の効果は発揮されている。
【0065】
本発明は、アクロイル基を有する化合物とエポキシ化合物とを反応させることによって、エポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造する方法において、少なくともアルキルフェノール系化合物を必須として用いるところに本発明の本質的特徴があり、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物とが同様の化学的特徴を有するものであれば、重合禁止剤としてのアルキルフェノール系化合物の作用が充分に発揮されることとなり、実施例で示されるような効果を奏することとなる。すなわち、本発明の技術的意義は、アルキルフェノール系化合物を用いることによって、アクロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応においてアクリロイル基の反応や生成するエポキシ基含有アクリル酸エステル類の分解による副生成物の生成を抑止し、収率を向上するという効果を発揮することができるところにある。したがって、アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程によって、エポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造するという技術的な範囲において有利な効果を奏することができるといえる。少なくとも、本発明の好ましい形態である、アクリル酸又はアクリル酸の金属塩とエポキシ化合物とを、アルキルフェノール系化合物の存在下で反応させてエポキシ基含有アクリル酸エステル類を得る形態において、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証されているが、アクリロイル基の反応や生成するエポキシ基含有アクリル酸エステル類の分解による副生成物の生成を抑止するという点が同様であることから、(a1)アクリル酸又はその金属塩と(b1)ハロゲン元素を有するエポキシ化合物とを反応させる工程や、(a2)アクリル酸エステル又はアクリル酸無水物と(b2)水酸基を有するエポキシ化合物とを反応させる工程においては、上記実験結果から本発明の技術的意義が裏付けられているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロイル基を有する化合物とエポキシ化合物との反応工程によって、1分子内にアクリロイル基とエポキシ基とを有するエポキシ基含有アクリル酸エステル類を製造する方法であって、
該製造方法は、反応工程をアルキルフェノール系化合物の存在下で行うことを特徴とするエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程は、
(a1)アクリル酸若しくはその金属塩と(b1)ハロゲン元素を有するエポキシ化合物とを反応させる工程、又は、
(a2)アクリル酸エステル若しくはアクリル酸無水物と(b2)水酸基を有するエポキシ化合物とを反応させる工程であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程は、
(a3)アクリル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、
(b3)ハロゲン元素を有するエポキシ化合物とを
反応させる工程であることを特徴とする請求項2記載のエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項4】
前記アルキルフェノール系化合物は、1つ又は複数の芳香環を有し、1つの芳香環に1つだけ水酸基を有するものであって、該水酸基を有する芳香環のオルト位に、置換基を有していてもよい炭素数が1〜10のアルキル基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、反応工程を更にリン系酸化防止剤及び/又はN−オキシル系酸化防止剤の存在下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ基含有アクリル酸エステル類の製造方法。