説明

エポキシ官能性カルボシラン化合物を含む歯科用組成物

本発明は、少なくとも1個のSi−アリール結合と、少なくとも1個のケイ素原子と、零個のSi−酸素結合と、少なくとも1個の脂肪族エポキシ部分とを含むカルボシラン化合物であって、グリシジルエーテル部分を含まない少なくとも1種のカルボシラン化合物と、開始剤と、任意に充填剤と、任意に、変性剤、安定剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料の群から選択された添加剤成分とを含む歯科用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ官能性カルボシラン化合物を含む硬化性歯科用組成物に関する。本組成物は改善された特性を有し、例えば歯科充填用材料として用いることが可能である。
【背景技術】
【0002】
複合材は市場にある周知された歯科用修復材である。しかし、今までの有機系歯科用修復材の殆どは、メタクリレート化学および/またはアクリレート化学に基づいている。オキシラン化学に基づくより新しい材料は、重合収縮がより小さく、そしてひずみがより小さいと考えられる。
【0003】
(特許文献1)には、エポキシ樹脂および光開始剤系を含む光硬化性付加重合性組成物が記載されている。エポキシ樹脂はグリシジルエーテルモノマーを含む。
【0004】
(特許文献2)には、シリコーンオリゴマーまたはシリコーンポリマーを含む義歯または歯科用修復材を製造するために有用な歯科用組成物が開示されている。この組成物はエポキシ反応性基を保持し、カチオン硬化プロセスを経由して重合可能である。
【0005】
(特許文献3)には、エポキシドまたはエポキシドの混合物、充填剤材料、開始剤、禁止剤および/または促進剤を含む重合性物質が記載されている。この物質は比較的高い粘度を有する脂環式エポキシ官能基を含む。
【0006】
(特許文献4)には、ケイ素を含むエポキシに基づく重合性組成物が開示されている。この組成物は、脂環式エポキシ官能基を有するシラン化合物に基づいている。これらの脂環式エポキシ官能基含有化合物は比較的高い粘度を有する。これは、歯科用組成物を調製するために少量の充填剤を用いなければならないので、一方では取扱い特性および機械的特性が劣る。
【0007】
市場にある歯科用複合材の欠点は、エポキシ官能性重合性樹脂が、歯科用組成物を調製するために一般に用いられる充填剤の屈折率に似た屈折率を保持していないことである。これは複合材の高い不透明度をもたらし、それは硬化した材料の劣った美的特性につながる。市場にあるエポキシ官能性歯科用複合材料の一部の更なる欠点は、こうした複合材料が加水分解に対してあまり安定性でなく、長年にわたって口の中で分解し、望ましくない物質を放出し得る成分を含むことである。
【0008】
従って、本発明の目的は上述した問題の1つ以上を軽減することである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、特に歯科分野で用いるための美的組成物を提供するために、改善された特性を有する組成物を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、硬化性樹脂の屈折率が用いた充填剤の屈折率に似ている組成物を提供することである。
【0011】
【特許文献1】国際公開第98/47046号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/19967号パンフレット
【特許文献3】国際公開第98/22521号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/51540号パンフレット
【特許文献5】EP第0897710A1号明細書
【特許文献6】国際公開第98/47047号パンフレット
【特許文献7】米国特許第3,971,754号明細書
【特許文献8】EP第0238025A1号明細書
【特許文献9】米国特許第6,387,981号明細書
【特許文献10】米国特許第6,572,693号明細書
【特許文献11】国際公開第01/30305号パンフレット
【特許文献12】国際公開第01/30306号パンフレット
【特許文献13】国際公開第01/30307号パンフレット
【特許文献14】国際公開第03/063804号パンフレット
【特許文献15】米国特許第5,322,440A1号明細書
【特許文献16】米国特許第4,391,590号明細書
【特許文献17】米国特許第5,165,890号明細書
【特許文献18】米国特許第4,788,268号明細書
【非特許文献1】マルシニエク(Marciniec,B)著、「ヒドロシリル化に関する包括的ハンドブック(Comprehensive Handbook on Hydrosilylation)」、ペルガモンプレス(Pergamon Press)発行、オックスフォード(Oxford)、1992。
【非特許文献2】フーベン−ウェイル(Houben−Weyl)著、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、第VI/3巻、p385ff.、ゲオルグ・ティエメ・ベルラグ(Georg Thieme Verlag)発行、シュツッツガルト(Stuttgart)、1965、第4版。
【非特許文献3】ベック(Beck,H.N.)、チャフィー(Chaffee,R.G.)著、J.Chem.Eng.Data、1963、8(3)、453〜454。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明の意味内の「含む(comprise)」および「含む(contain)」という用語は、機能の網羅的でないリストを導入する。同様に、「1つの」または「a」という単語は「少なくとも1つ」の意味で理解されるべきである。
【0013】
本発明による「歯科用組成物」という用語は、通常は数グラムの少量で種々の目的のために歯科分野で用いられるべき硬化性組成物である。
【0014】
以下のテキストで記載された組成物を提供することにより、上述した目的の1つ以上を達成することが可能であることが見出された。
【0015】
驚くべきことに、カルボシロキサン基もグリシジルエーテル基も含まない脂肪族エポキシなどの重合性基を含むカルボシラン化合物を用いると、改善された特性を有する硬化性歯科用組成物を提供することを可能にすることが見出された。
【0016】
従って、本発明は、
a)少なくとも1個のSi−アリール結合と、
少なくとも1個のケイ素原子と、
零個のSi−酸素結合と、
少なくとも1個の脂肪族エポキシ部分と、
を含むカルボシラン化合物であって、グリシジルエーテル部分を含まない少なくとも1種のカルボシラン化合物と、
b)開始剤と、
c)任意に充填剤と、
d)任意に、変性剤、安定剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された添加剤成分と、
を含む硬化性歯科用組成物に関する。
【0017】
カルボシラン化合物の必須Si−アリール結合のアリールは、好ましくは6〜20個の炭素原子を含む芳香族部分である。それは、本発明の機能を妨げないあらゆる原子またはあらゆる部分によって置換されていることが可能である。芳香族部分に関する例は、フェニル、ナフチル、アルコキシフェニル、アルコキシナフチル、ビスフェノールAエーテルおよび/またはビスフェノールFエーテルから選択された置換基または非置換基である。
【0018】
1種以上のカルボシラン化合物は、本発明の範囲内の歯科用材料を調製するための反応性化合物として単独で、または脂肪族エポキシ官能基および/または脂環式エポキシ官能基および/またはエポキシ以外の官能基の重合性化合物を含む他の成分との混合物中で用いることが可能である。本発明の組成物は、必要ならば他の反応性成分および/または非反応性成分も含んでよい。
【0019】
本発明は以下で記載されたように歯科用組成物を製造する方法にも関連する。
【0020】
更に、本発明は以下で記載されたように組成物を使用する方法に関連する。
【0021】
本発明のカルボシラン化合物は、低い粘度と合わせて高い屈折率を示す。高い屈折率は、一般に用いられた充填剤の屈折率に似ている。従って、優れた不透明度および高い美的特性を示す歯科用組成物は、本発明のカルボシラン化合物を用いることにより達成することが可能である。
【0022】
本発明により記載された歯科用組成物のもう1つの利点は、それらの適切な親油性である。
【0023】
更に、本組成物は、市場にある他の歯科用組成物と比べて、硬化後に同等に低い収縮ならびに(例えば、コーヒー、お茶、赤ワインからの)水および/または水溶性染料の低い取込みを示す。
【0024】
驚くべきことに、本発明のカルボシラン化合物が脂環式エポキシ化合物と共重合できることが見出された。これは、一般のエポキシ、例えばグリシジルエーテル含有脂肪族エポキシが脂環式エポキシ化合物と適切に共重合しないことが技術上知られているので意外であった。
【0025】
カルボシラン化合物は、好ましくは1.500〜1.600、より好ましくは1.510〜1.580、最も好ましくは1.520〜1.560の屈折率を有する。
【0026】
カルボシラン化合物の粘度は、好ましくは0.01〜40Pas、より好ましくは0.1〜20Pas、最も好ましくは1〜5Pasである。
【0027】
カルボシラン化合物は、300〜10,000g/モル、好ましくは800〜10,000g/モル、最も好ましくは1,200〜5,000g/モルの平均分子量を好ましく有する。
【0028】
本発明の歯科用組成物は、1〜90重量%、好ましくは3〜65重量%、より好ましくは10〜30重量%の1種以上のカルボシラン化合物を好ましくは含む。
【0029】
開始剤の量は、硬化した組成物の好ましくは0.01〜25重量%、より好ましくは0.5〜10重量%、最も好ましくは0.5〜3重量%である。
【0030】
充填剤が歯科用組成物中に存在する場合、それは、好ましくは0〜90重量%、より好ましくは25〜80重量%、最も好ましくは50〜75重量%の量で存在する。
【0031】
1種以上の添加剤成分が硬化性組成物中に存在する場合、それらは、硬化性歯科用組成物の用途に応じて、0〜25重量%、好ましくは0〜15重量%、より好ましくは0〜3重量%の全量で好ましく存在する。
【0032】
これらの上述した範囲のすべては、硬化性組成物の重量%として計算される。
【0033】
好ましくは、本発明の硬化性歯科用組成物は、硬化した状態にある時に以下の特徴の少なくとも1つを保持する。
【0034】
硬化した歯科用組成物の不透明度は、好ましくは10〜93%である。より好ましくは、それは、40〜91%、最も好ましくは70〜89%である。
【0035】
硬化した歯科用組成物の圧縮強度は、好ましくは約150MPaより大きい、より好ましくは約200MPaより大きい、最も好ましくは約250MPaより大きい。
【0036】
硬化した歯科用組成物の曲げ強度は、好ましくは50MPaより大きい、より好ましくは65MPaより大きい、最も好ましくは80MPaより大きい。
【0037】
本発明のカルボシラン化合物は以下を含む。
− 少なくとも1個、好ましくは2個、より好ましくは2〜4個のSi−アリール結合。
− 少なくとも1個、好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜4個のケイ素原子。
− 少なくとも1個、好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜4個の脂肪族エポキシ部分。
− 零個のSi−酸素結合。
− 少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、より好ましくは少なくとも4個の芳香族部分。
− 任意に、ビスフェノール誘導スペーサ部分。
ここで、前記カルボシラン化合物はグリシジルエーテル部分を含まない。
【0038】
本発明の一実施形態において、歯科用組成物は、一般式(A’):
アリール−[Si(A)a(D−B)bn (A’)
の少なくとも1個の基を含む1種または異なるカルボシラン化合物の混合物を含む。
式中、
各Aは独立して、1〜6個の炭素原子(好ましくは1個の炭素原子)を有する脂肪族部分または脂環式部分、6〜14個の炭素原子を有する芳香族部分(好ましくはフェニル)または8〜16個の炭素原子を有する脂肪族芳香族部分または芳香族脂肪族部分(好ましくは8個の炭素原子、例えば2−フェニルエチル)を表し、
各Bは独立して、2〜6個の炭素原子を有する脂肪族エポキシ部分、好ましくは末端C2に基づくエポキシ部分を表し、
各Dは独立して、2〜10個の炭素原子(好ましくは4〜8個の炭素原子)を有する脂肪族部分または脂環式部分、6〜14個の炭素原子を有する芳香族部分または芳香族脂肪族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であり、
各アリールは独立して、6〜14個の炭素原子を有する置換芳香族部分または非置換芳香族部分を表し、
aは0、1または2、好ましくは2であり、
bは1、2または3、好ましくは1であり、
a+b=3、
nは1、2、3、4、5または6、好ましくは2である。
ここで、カルボシラン化合物はグリシジルエーテル部分を含まない。
【0039】
7個の炭素原子を有する置換基D、例えば、Siに結合されたフェニル環および脂肪族エポキシ部分Bに結合されたメチレン基を有するα,3−トルエンジイルまたはα,4−トルエンジイルは、本発明の幾つかの実施形態のために好ましい。
【0040】
アリールは、置換芳香族部分または非置換芳香族部分を表す。芳香族部分は6〜14個の炭素原子を含む。1〜10個の炭素原子を有する芳香族部分の前記置換基は分岐であっても非分岐であってもよく、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能である。
【0041】
一般式(A’)による少なくとも1個の結合されたSi原子に加えて、芳香族部分(アリール)は、上述した1個または2個の置換基、好ましくは、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、アリール、アルキルエーテルおよび/またはアリールエーテル基(例えば、C18アルキル、C210アルケニル、C36シクロアルキル、C48シシクロアルケニル、C610アリール)および/または(2,3−エポキシプロピル)基によって好ましく置換されていてもよい。
【0042】
アリールに関する例は、ベンゼン、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、ナフタレン、アルコキシベンゼン、アルコキシナフタレン、ビスフェノールAエーテルおよび/またはビスフェノールFエーテルである。
【0043】
エポキシ官能性部分BはスペーサD上に結合されている。このスペーサDは、同じ分子内で似た化学構造および/または似ていない化学構造のスペーサの異なるタイプの混合物であることが可能である。同じ分子内のスペーサDの異なるタイプの混合物の使用は、カルボシラン化合物の粘度および/または反応性および/または極性および/または屈折率ならびに剛性のような硬化した歯科用組成物の特性の注文通りの調節に関して、特に興味深い。
【0044】
本発明のカルボシラン化合物は、同等に低い粘度と合わせて同等に高い屈折率を有する。カルボシラン化合物は、同等に高い親油性および同等に高い分子量を更に示す。
【0045】
高い屈折率および高い親油性は、適切な美的性を達成するとともに(例えば、コーヒー、お茶、赤ワインからの)水および/または水溶性染料の取込みによる汚れおよび/または膨潤を避けるために歯科用材料に関して興味深い。
【0046】
特にスペーサDの化学構造またはスペーサDの異なるタイプの混合物の化学構造に応じて、カルボシラン化合物の同等に低い粘度は調節することが可能であり、それは、適切な取扱い特性を達成するために歯科用組成物に関して多少重要であり得る。
【0047】
好ましい実施形態おいて、カルボシラン化合物は、カルボシラン化合物の分子構造およびカルボシラン化合物内の構造要素{アリール−[Si(A)a(D−B)bnmの数mに応じて以下の式(I〜IV)の1つによって特徴付けられることが可能である。
【0048】
好ましい実施形態おいて、カルボシラン化合物は、唯一の構造要素{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm(すなわち、m=1)および唯一のアリール−Si結合(すなわち、n=1)を含み、式(Ia):
{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (Ia)
によって特徴付けられることが可能である。
式中、
mは1であり、
nは1である。
【0049】
式(Ia)によると、以下の化合物はカルボシラン化合物の好ましい例である。
式中、
【0050】
【化1】

【0051】
もう1つの好ましい実施形態において、カルボシラン化合物は、唯一の構造要素{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm(すなわち、m=1)および唯一のアリール−Si結合(すなわち、n=1)を含み、式(Ib):
B−D−E−{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (Ib)
によって特徴付けられることが可能である。
式中、
mは1であり、
nは1であり、
Eは5〜11個の炭素原子、好ましくは7〜9個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0052】
Eが5〜11個の炭素原子、好ましくは7〜9個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分を表し、ここで、少なくとも1個以上のC原子がSi原子によって置換されていなければならず、そして1個以上のC原子またはH原子がO、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であることが更に好ましい。
【0053】
式(Ib)によると、以下の化合物はカルボシラン化合物の好ましい例である。
式中、
【0054】
【化2】

【0055】
更なる実施形態において、カルボシラン化合物は、唯一の構造要素{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm(すなわち、m=1)および1個を上回るアリール−Si結合(すなわち、n≧2)を含む。カルボシラン化合物は、式(II):
{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (II)
によって特徴付けることが可能である。
式中、
mは1であり、
nは2、3、4、5または6、好ましくは2または3であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0056】
式(II)によると、以下の例は好ましいカルボシラン化合物である。
式中、
【0057】
【化3】



【0058】
更に好ましい実施形態において、カルボシラン化合物は、少なくとも1個の構造要素{アリール−[Si(A)a(D−B)bnmおよび1個を上回るアリール−Si結合(すなわち、芳香族部分はケイ素原子に常に結合されている)を含み、m(すなわち、m≧2またはm=1)に応じて式(IIIaおよびIIIb)によって特徴付けることが可能である。
F−{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (IIIa)
式中、
mは2、3または4、好ましくは2であり、
nは1、2、3、4、5または6、好ましくは2であり、
Fは0〜25個の炭素原子(好ましくは0〜9個の炭素原子)を有する脂肪族部分または脂環式部分あるいは0〜20個の炭素原子(好ましくは6〜10個の炭素原子)を有する芳香族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0059】
式(IIIa)によるカルボシラン化合物の好ましい例を以下で示す。
式中、
【0060】
【化4】


【0061】
好ましい実施形態において、カルボシラン化合物は、構造要素アリール−[Si(A)a(D−B)bnにおける分子内で唯一のケイ素原子およびケイ素原子にそれぞれ結合された1個を上回る芳香族部分を含み(すなわち、n=1、b≧1)、他の指標は上で定義された通りである式(IIIb)によって特徴付けることが可能である。
アリール−[Si(A)a(D−B)bn 式(IIIb)
式中、
アリールは(2,3−エポキシプロピル)ベンゼンを表し、
各Aは独立して、1〜6個の炭素原子(好ましくはC1)を有する脂肪族部分または脂環式部分あるいは6〜16個の炭素原子(好ましくは8個の炭素原子、例えば、2−(フェニルエチル))を有する芳香族部分または脂肪族芳香族部分を表し、
各Bは独立して末端C2に基づくエポキシ部分を表し、
各Dは独立して、7〜14個の炭素原子を有する芳香族脂肪族部分、好ましくは、Siに結合されたフェニル環および脂肪族エポキシ部分Bに結合されたメチレン基を有するα,3−トルエンジイルまたはα,4−トルエンジイルを表し、
aは0、1または2であり、
bは1、2、3であり、
nは1であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0062】
式(IIIb)によるカルボシラン化合物の好ましい例は次の通りである。
式中、
【0063】
【化5】



【0064】
好ましい実施形態において、カルボシラン化合物は、構造要素{アリール−[Si(A)a(D−B)bnmにおいてのみでなく分子内で1個を上回る芳香族部分(すなわち、芳香族部分はケイ素原子に必ずしも結合されているとはかぎらない)を含み、式(IV):
G−{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (IV)
によって特徴付けられることが可能である。
式中、
Gは1〜200個の炭素原子(好ましくは、3〜63個の炭素原子)を有する脂肪族部分、脂環式部分、芳香族部分、(環式)脂肪族芳香族部分または芳香族(環式)脂肪族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClおよびSiによって置換されていることが可能であり、
mは2、3または4であり、好ましくは2であり、
nは1、2、3、4、5または6、好ましくは2であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0065】
式(IV)によるカルボシラン化合物の好ましい例は次の通りである。
式中、
【0066】
【化6】



【0067】
m=2を有する式(IV)のより詳細な実施形態において、式(IV)によるカルボシラン化合物は式(IVa)によって表すことが可能である。
【0068】
【化7】

式中、
各Qは独立してHまたはメチルを表し、
各R、Sは独立してH、フェニルまたは1〜8個の炭素原子を有する分岐アルキル部分あるいは非分岐アルキル部分を表し、ここで、RおよびSは一緒に脂環式環を形成してもよく、
各T、Uは独立してH、メチルまたはエチルを表し、
各V、W、X、Yは独立してH、Br、ClまたはFを表し、
Pは0、1、2、3または4であり、
qは0、1、2、3、4または5であり、
他の指標は上で定義された通りである。
【0069】
式(IVa)によるカルボシラン化合物の好ましい例は次の通りである。
式中、
【0070】
【化8】


【0071】
m=2を有する式(IV)のもう1つのより詳細な実施形態において、q=0に関し、式(IV)によるカルボシラン化合物は式(IVb)によって表すことが可能である。
【0072】
【化9】

式中、
他の指標は上で定義された通りである。
【0073】
式(IVb)によるカルボシラン化合物の好ましい例は次の通りである。
式中、
【0074】
【化10】

【0075】
有用な開始剤は、組成物のカルボシラン化合物の硬化を開始させることが可能である。こうした開始剤は光硬化性または化学硬化性あるいはレドックス硬化性であることが可能である。開始剤のすべてのタイプは当業者に周知されている。
【0076】
こうした開始剤の例は、重合を開始させる例えば、ルイス酸またはブレンステッド酸あるいはこうした酸を遊離する化合物、例えば、BF3またはそのエーテル付加体(BF3.THF、BF3*Et2Oなど)、AlCl3、FeCl3、HPF6、HAsF6、HSbF6またはHBF4あるいは例えば、(エタ−6−クメン)(エタ−5−シクロペンタジエニル)ヘキサフルオロ燐酸鉄、(エタ−6−クメン)(エタ−5−シクロペンタジエニル)テトラフルオロ硼酸鉄、(エタ−6−クメン)(エタ−5−シクロペンタジエニル)ヘキサフルオロアンチモン酸鉄、置換ジアリールヨードニウム塩およびトリアリールスルホニウム塩などの、UV線または可視光線よる照射後重合を開始させるか、あるいは熱および/または圧力によって重合を開始させる物質である。用いることが可能である促進剤は、過エステル(perester)、過酸化ジアシル、ペルオキシジカーボネートおよびヒドロペルオキシ型のペルオキシ化合物である。ヒドロペルオキシドが好ましくは用いられ、クメン中の約70〜90%溶液のクメンヒドロペルオキシドは、特に好ましい促進剤として用いられる。光開始剤対クメンヒドロペルオキシドの比は、1:0.001〜1:10の広い限界内で異なることが可能であるが、用いられる比は、好ましくは1:0.1〜1:6、特に好ましくは1:0.5〜1:4である。例えば、シュウ酸、8−ヒドロキシキノリン、エチレンジアミン四酢酸および芳香族ポリヒドロキシ化合物などの錯化剤の使用は可能である。
【0077】
同様に、異なる成分からなる開始剤系は、(特許文献5)、(特許文献1)または(特許文献6)に記載されたように用いることが可能である。(例えば、2−ブトキシエチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、エチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート)のようなベンゾエートとして)第三芳香族アミンおよび/または(例えばアントラセンとして)適するポリ縮合芳香族化合物と合わせて、(例えば樟脳キノンとして)1,2ジケトン、(例えば、トリクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートまたはトリクミルヨードニウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)−フェニル)ボレートとして)貧配位アニオン(poor coordinating anion)を有するヨードニウム塩を含む系は、好ましい開始剤系として用いられる。
【0078】
本発明の組成物は、歯科用充填剤であり得る1種以上の充填剤も含んでよい。石英、粉砕ガラス、シリカゲルならびに発熱性珪酸および沈降珪酸またはそれらの粒体のような無機充填剤は好ましく用いられる。X線不透明充填剤も少なくとも部分的に好ましく用いられる。これらは、例えば、ストロンチウム、バリウムまたはランタンを含有するガラスなどの例えばX線不透明ガラスであることが可能である(例えば、(特許文献7)に記載されたもの)。充填剤の一部は、(例えば、(特許文献8)による)例えば、三弗化イットリウム、ヘキサフルオロジルコン酸ストロンチウムまたは希土類金属の弗素化物などのX線不透明添加剤からなってもよい。ポリマーマトリックスにより良く導入するために、無機充填剤を疎水化することが有益な場合がある。通例の疎水化剤は、シラン、例えば、(3−グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランまたは[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチル]トリメトキシシランである。充填剤は、20μm未満、好ましくは5μm未満、特に2μm未満の平均粒径および150μm、好ましくは70μm、特に25μmの上限粒度を好ましく有する。こうした充填剤は、組成物の約3〜約90重量%、特に約25〜約80重量%または約50〜約75重量%の量で存在することが可能である。
【0079】
適する他の充填剤は、(特許文献9)および(特許文献10)ならびに(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)および(特許文献14)で開示されている。これらの参考文献に記載された充填剤成分には、ナノサイズシリカ粒子、ナノサイズ金属酸化物粒子およびそれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤も米国特許出願、発明の名称「ナノジルコニア充填剤を含む歯科用組成物(Dental Compositions Containing Nanozirconia Fillers)」(代理人事件番号59609US002)、「ナノ充填剤を含む歯科用組成物および関連方法(Dental Compositions Containing Nanofillers and Related Methods)」(代理人事件番号59610US002)および「歯科用組成物の屈折率を調節するためのナノ粒子の使用(Use of Nanoparticles to Adjust Refractive Index of Dental Compositions)」(代理人事件番号59611US002)に記載されている。それらのすべては2004年5月17日出願であった。
【0080】
石英、クリストバライト、珪酸カルシウム、珪藻土、珪酸ジルコニウム、ベントナイトなどのモンモリロナイト、ゼオライト(アルミニウム珪酸ナトリウムなどのモレキュラーシーブが挙げられる)、酸化アルミニウムまたは酸化亜鉛あるいはそれらの混合酸化物などの金属酸化物粉末、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、プラスター、ガラスおよびプラスチック粉末などの非強化用充填剤も用いてよい。
【0081】
適する充填剤は、例えば、発熱性珪酸または沈降珪酸およびシリカアルミニウム混合酸化物などの強化用充填剤でもある。上述した充填剤は、例えば、オルガノシランまたはシロキサンで処理することにより、またはヒドロキシル基をアルコキシ基にエーテル化することにより疎水化することが可能である。充填剤の1つのタイプまたは少なくとも2種の充填剤の混合物を用いることが可能である。
【0082】
強化用充填剤と非強化用充填剤の組み合わせは特に好ましい。この点に関して、強化用充填剤の量は、硬化した組成物の約1〜約10重量%まで、特に約2〜約5重量%までの範囲である。
【0083】
指定された全体範囲の差、すなわち約2〜約89重量%は、非強化用充填剤によって占められる。
【0084】
表面処理によって好ましく疎水化された熱分解で調製された高度に分散した珪酸は強化用充填剤として好ましい。表面処理は、例えば、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシクロテトラシロキサンまたはポリメチルシロキサンで行うことが可能である。
【0085】
特に好ましい非強化用充填剤は、表面処理されることが可能である石英、クリストバライト、炭酸カルシウムおよびアルミニウム珪酸ナトリウムである。表面処理は、一般的に強化用充填剤の場合に記載されたのと同じ方法で行うことが可能である。
【0086】
安定剤、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、希薄剤、高分子増粘剤、界面活性剤および希釈剤のような任意の添加剤成分を単独で、または混合して添加してもよい。
【0087】
上述したカルボシラン化合物は、エポキシ基のカチオン開環重合を好ましくは経由して硬化可能である歯科用組成物中のモノマーとして用いることが可能である。
【0088】
本発明の歯科用組成物は、例えば、歯科充填用材料、歯冠材料および架工義歯材料、ベニヤ材料、インレーまたはアンレー、小蒿裂溝封鎖剤または結合剤を調製するために用いることが可能である。
【0089】
本発明の歯科用組成物は、1パート混合物または多パート混合物として提供することが可能である。これは、通常は用いられる開始剤に応じて決まる。開始剤が光硬化開始剤である場合、歯科用組成物は1パート混合物として提供することが可能である。開始剤がレドックス硬化開始剤である場合、歯科用組成物は多パート混合物として提供するべきである。
【0090】
従って、本発明は、ベースパート(i)および触媒パート(ii)を含む要素からなるキットにも関連する。ここで、ベースパート(i)は、1種以上のカルボシラン成分および充填剤を含み、触媒パート(ii)は開始剤を含む。ここで、任意の添加剤成分は、ベースパートまたは触媒パート中に存在するか、あるいは両方のパート中に存在する。
【0091】
本発明の歯科用組成物は、容器またはカートリッジ、好ましくは歯科用コンプル中に通常は包装される。こうしたコンプルの例は、(特許文献15)、(特許文献16)または(特許文献17)において記載されている。
【0092】
本発明は、
a)カルボシラン化合物、開始剤、任意に充填剤および任意に添加剤成分を提供する工程と、
b)工程a)の成分を混合する工程と、
を含む硬化性歯科用組成物を製造する方法にも関連する。ここで、ポリSi−H官能性カルボシラン成分(aa)とオレフィン置換脂肪族エポキシ部分含有成分(bb)とを反応させることを含むヒドロシリル化反応を経由してカルボシラン化合物を得ることが可能であるか、
または
脂肪族オレフィン前駆体(dd)を有機過酸(ee)と反応させることを含むエポキシ化反応を経由してカルボシラン化合物を得ることが可能である。
【0093】
好ましくは、本発明のカルボシラン化合物は、ヒドロシリル化反応(例えば、(非特許文献1)に記載された反応などの)またはエポキシ化反応(例えば、(非特許文献2)に記載された反応などの)を経由して合成することが可能である。
【0094】
ヒドロシリル化反応は、Si−H官能性化合物(aa)をスキーム1で示された触媒の存在下でオレフィン官能性化合物(bb)に添加し、新たなSi−C単結合を形成するとともにケイ素含有化合物(cc)を与える付加反応である。
【0095】
【化11】

式中、
1、R2、R3、R4は互いに独立して選択してもよく、脂肪族部分、脂環式部分、芳香族部分、(環式)脂肪族芳香族部分または芳香族(環式)脂肪族部分を表し、ここで、1個以上のC原子およびH原子は、カルボシラン化合物のヒドロシリル化反応または硬化を妨げない置換基、例えば、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、エポキシ基のような官能基を含むことが可能である。
式中、R1、R2、R3の少なくとも1つは、Si原子に結合された芳香族環を有する芳香族部分を表す。
【0096】
すなわち、本発明のカルボシラン化合物は、例えば(特許文献3)(例えば、頁19〜20の調製実施例2〜3参照)において類似シロキサン系化合物のために記載された触媒として例えば一般的な貴金属化合物を用いてポリSi−H官能性カルボシラン成分(aa)をオレフィン置換脂肪族エポキシ部分含有成分(bb)と反応させることによりスキーム1によりヒドロシリル化反応を経由して得ることが可能である。
【0097】
1,3,5−トリス(ジメチルシリル)ベンゼンおよび2,4,6−トリス(ジメチルシリル)アニソールのようなポリSi−H官能性カルボシラン成分(aa)は、例えば(非特許文献3)において記載されたin−situグリニャール反応を経由して合成することが可能である。
【0098】
1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテンおよび1,2−エポキシ−9−デセンなどのオレフィン置換脂肪族エポキシ部分含有成分(bb)は市販されている。
【0099】
オレフィン前駆体のエポキシ化反応(例えば、(非特許文献2)に記載されたもの)を経由してカルボシラン化合物を製造するために他の前駆体も用いることが可能である。
【0100】
エポキシ化反応は、スキーム2で示された例えば有機過酸R6−CO3H(ee)の使用によってオレフィン前駆体(dd)の炭素:炭素二重結合を3員環式エーテル(ff)に転換する酸化反応である。
【0101】
【化12】

式中、
5は脂肪族部分、脂環式部分、芳香族(環式)脂肪族芳香族部分または芳香族(環式)脂肪族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能である。
【0102】
6は脂肪族部分または芳香族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、Br原子、Cl原子、F原子によって置換されていることが可能である。
【0103】
すなわち、本発明のカルボシラン化合物は、例えば(特許文献18)(欄6〜17の調製実施例1、2、4、5、6および7)において類似シロキサン系化合物のために記載されたように脂肪族オレフィン前駆体(dd)を有機過酸(ee)と反応させることによりスキーム2によるエポキシ化反応を経由して得ることが可能である。
【0104】
ビス[4−アリル−フェニル]ジメチルシランのような好ましい脂肪族オレフィン前駆体(dd)は、(特許文献18)(欄6〜17の調製実施例1、2、4、5、6および7)において類似シロキサン系化合物のために記載されたグリニャール反応を経由して、または例えば(非特許文献3)によって他のカルボシラン化合物のために記載されたin−situグリニャール反応を経由して合成することが可能である。
【0105】
以下の化合物は、式(Ia)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いられる好ましいポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)の例である。ジフェニルシラン、ベンジルフェニルシラン、(2−フェニルエチル)フェニルシラン、メチルフェニルシラン。
【0106】
以下の化合物は、式(Ia)、(Ib)、(II)、(IIIa)、(IV)、(IVa)および(IVb)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いられる好ましいオレフィン置換脂肪族エポキシ部分含有成分(bb)の例である。
【0107】
【化13】

【0108】
以下の化合物は、式(Ib)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いることが可能である好ましいポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)の例である。
【0109】
【化14】


【0110】
以下の化合物は、式(II)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いられる好ましいポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)の例である。
【0111】
【化15】



【0112】
以下の化合物は、式(IIIa)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いられる好ましいポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)の例である。
【0113】
【化16】



【0114】
以下の化合物は、式(IIIb)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム2により用いられる好ましい脂肪族オレフィン前駆体(dd)の例である。
【0115】
【化17】



【0116】
以下の化合物は、式(IV)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いられる好ましいポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)の例である。
【0117】
【化18】


【0118】
以下の化合物は、式(IVaおよびIVb)による要求事項を満たすカルボシラン化合物の合成のためにスキーム1により用いられる好ましいポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)の例である。
【0119】
【化19】


【0120】
これらのポリSiH官能性カルボシラン成分(aa)は、例えば、SiH化合物(aa)の合成のためにスキーム1により用いられる非ケイ素含有ジオレフィン前駆体(bbb)とポリSiH官能性カルボシラン成分(aaa)とのヒドロシリル化反応を経由して合成することが可能である。
【0121】
非ケイ素含有ジオレフィン前駆体(bbb)の好ましい例は以下の通りである。
【0122】
【化20】













【0123】
ポリSiH官能性カルボシラン成分(aaa)の好ましい例は以下の通りである。
【0124】
【化21】

【実施例1】
【0125】
特に指示がない限り、測定は以下で記載した方法により標準温度および標準圧力(「STP」、すなわち23℃および1023hPa)で行った。
【0126】
カルボシラン化合物の屈折率は、「クルエス(Kruess)」AR4D装置(アッベ(Abbe)の測定原理による屈折計)で測定した。屈折率は20.0℃で測定した。屈折率は589nmの波長で測定した。
【0127】
カルボシラン化合物の粘度は、「ハーケ・ロトビスコ(Haake RotoVisco)」RV1装置(ステータP61と合わせて8000mPas以下の粘度に関してロータC60/1または8000mPasを上回る粘度に関してロータC20/1)で測定した。粘度は2つの平面と平行板(すなわち、ステータおよびロータ)との間で23℃で測定した。システムの活性化および修正後に、適切なロータを設置した。その後、ロータを下げ、ステータとロータとの間の距離を粘度測定のために(ソフトウェア「レオウィン・プロジョッブマネージャ・ソフトウェア・バージョン(RheoWin Pro Job Manager Software Version)」2.94を用いて)0.052mmに調節した。その後、ロータを上げ、測定しようとする材料をステータ上に置いた(ロータC60/1で1.0mlまたはロータC20/1で0.04ml)。甚だしく遅れずに、ロータを予備調節した測定位置に下げた。測定しようとする材料を23.0℃で調合した。測定のための剪断速度は、トルクが少なくとも5000μNmである値に調節されなければならない(従って、測定しようとする材料の粘度に応じて100、200、500または1000s-1の剪断速度を通常は用いる)。測定を開始し、60秒にわたり行う。粘度値(Pas)を測定の開始から20秒後開始して記録し、記録した値の平均値を粘度として与えた。
【0128】
カルボシラン化合物の分子量(Mw)はGPCで決定した。
【0129】
硬化した歯科用組成物の不透明度は、規定高さ3.6(±0.1)mmおよび直径20(±0.1)mmの試験片によって測定した。これらは、検査しようとする材料を適切に高い環に均一に且つ泡がないように充填し、平らで透明でシリコーン油処理されたガラススライドの間で照明装置(「トリライト(Trilight)」(登録商標)、3M ESPS)によって重なり面において40秒ごとに接触して材料に照射することにより調製した。その後、米国のハンター・ラブ・アソーシエーツ・ラボラトリー(Hunter Lab Associates Laboratory,Inc.)の色測定装置「ハンターラブ・ラブスキャン・スペクトラルカラリメータ(HunterLab LabScan Spectralcolorimeter)」(ソフトウェア、「スペックウェア・ソフトウェア・バージョン(SpecWare Software Version)」1.01)で不透明度を測定し、装置によって%値で与えた。
【0130】
圧縮強度および曲げ強度は、ISO4049に準拠してそれぞれISO9917と同等に測定した。圧縮強度の測定のために、各材料の10個の試験片(3×3×5mm)を製造者の推奨により調製し、ユニバーサル試験機(「ズウィック(Zwick)」Z010、クロスヘッド速度4mm/分)を用いて測定をISO9917と同等に行った。圧縮強度はMPaで与えられる。曲げ強度の測定は、ユニバーサル試験機(「ズウィック(Zwick)」Z010、クロスヘッド速度2mm/分)を用いてISO4049に準拠して行った。曲げ強度はMPaで与えられる。
【実施例2】
【0131】
本発明を以後実施例によって説明する。実施例は例示目的のみのためであり、本発明を限定することを意図していない。
【0132】
表1に記載された化合物を上に記載した参考文献により調製し、それらの屈折率および粘度を測定した。参考文献実施例に関して、当該分野で知られている化合物を用いた。実施例1〜7は、本発明による異なるカルボシラン化合物のためのデータを示している。
【0133】
表1の異なるカルボシラン化合物および/または当該分野で知られている化合物により、表2による歯科用組成物を調製し、硬化した歯科用組成物の不透明度を測定した。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1個のSi−アリール結合と、
少なくとも1個のケイ素原子と、
零個のSi−酸素結合と、
少なくとも1個の脂肪族エポキシ部分と、
を含むカルボシラン化合物であって、グリシジルエーテル部分を含まない少なくとも1種のカルボシラン化合物と、
b)開始剤と、
c)任意に充填剤と、
d)任意に、変性剤、安定剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料の群から選択された添加剤成分と、
を含む硬化性歯科用組成物。
【請求項2】
a)カルボシラン化合物が1.500を上回る、好ましくは1.510を上回る、より好ましくは1.520を上回る屈折率を有する、
b)カルボシラン化合物が40Pas未満、好ましくは20Pas未満、より好ましくは5Pas未満の粘度を有する、
c)カルボシラン化合物が300〜10,000g/モル、好ましくは800〜10,000g/モル、より好ましくは1200〜5,000g/モルの平均分子量を有する、
d)硬化した歯科用組成物の不透明度が93%未満、好ましくは91%未満、より好ましくは89%未満である、
の内の少なくとも1つの要求事項を満たす、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
全組成物を基準にして、
a)1〜90重量%、好ましくは3〜65重量%、より好ましくは10〜30重量%の1種のカルボシラン化合物またはカルボシラン化合物の混合物と、
b)0.01〜25重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは0.5〜3重量%の開始剤と、
c)0〜90重量%、好ましくは25〜80重量%、より好ましくは50〜75重量%の充填剤と、
d)0〜25重量%の添加剤成分と、
を含む、請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
カルボシラン化合物が一般式(A’):
アリール−[Si(A)a(D−B)bn (A’)
(式中、
各Aは独立して、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分、6〜14個の炭素原子を有する芳香族部分あるいは8〜16個の炭素原子を有する脂肪族芳香族部分または芳香族脂肪族部分を表し、
各Bは独立して、2〜6個の炭素原子を有する脂肪族エポキシ部分、好ましくは末端C2に基づくエポキシ部分を表し、
各Dは独立して、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分、6〜14個の炭素原子を有する芳香族部分または芳香族脂肪族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であり、
各アリールは独立して、6〜14個の炭素原子を有する置換芳香族部分または非置換芳香族部分を表し、
aは0、1または2であり、
bは1、2または3であり、
a+b=3、
nは1、2、3、4、5または6である)
の少なくとも1個の基を含み、該カルボシラン化合物がグリシジルエーテル部分を含まない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
カルボシラン化合物が一般式(A’):
アリール−[Si(A)a(D−B)bn (A’)
(式中、
各Aは独立してメチル、フェニルまたは2−フェニルエチルを表し、
各Bは独立して2,3−エポキシプロピルを表し、
各Dは独立して、4〜8個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分あるいは7個の炭素原子を有する芳香族脂肪族部分、好ましくは、Siに結合されたフェニル環および脂肪族エポキシ部分Bに結合されたメチレン基を有するα,3−トルエンジイルまたはα,4−トルエンジイルを表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClおよびSiによって置換されていることが可能であり、
各アリールは独立してベンゼン、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、ナフタレン、アルコキシベンゼン、アルコキシナフタレン、ビスフェノールAエーテルまたはビスフェノールFエーテルを表し、
aは0、1または2、好ましくは2であり、
bは1、2または3、好ましくは1であり、
a+b=3、
nは1、2、3、4、5または6である)
の少なくとも1個の基を含み、該カルボシラン化合物がグリシジルエーテル部分を含まない、請求項4に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
カルボシラン化合物が、式(Ia):
{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (Ia)
(式中、
m=1、
n=1、
他の指標は請求項4で定義された通りである)、
式(Ib):
B−D−E−{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (Ib)
(式中、
m=1、
n=1、
Eは5〜11個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であり、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
式(II):
{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (II)
(式中、
m=1、
n=2、3、4、5または6、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
式(IIIa):
F−{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (IIIa)
(式中、
m=2、3または4、
n=1、2、3、4、5または6、
Fは0〜25個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分あるいは0〜20個の炭素原子を有する芳香族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClまたはSiによって置換されていることが可能であり、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
式(IIIb):
アリール−[Si(A)a(D−B)bn (IIIb)
(式中、
アリールは(2,3−エポキシプロピル)ベンゼンを表し、
各Aは独立して、1〜6個の炭素原子を有する脂肪族部分または脂環式部分あるいは6〜16個の炭素原子を有する芳香族部分または脂肪族芳香族部分を表し、
各Bは独立して末端C2に基づくエポキシ部分を表し、
各Dは独立して、7〜14個の炭素原子を有する芳香族脂肪族部分、好ましくはα,3−トルエンジイルまたはα,4−トルエンジイルを表し、
aは0、1または2であり、
bは1、2、または3であり、
n=1、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
または式(IV):
G−{アリール−[Si(A)a(D−B)bnm (IV)
(式中、
Gは1〜200個の炭素原子を有する脂肪族部分、脂環式部分、芳香族部分、(環式)脂肪族芳香族部分または芳香族(環式)脂肪族部分を表し、ここで、1個以上のC原子またはH原子は、O、Br、ClおよびSiによって置換されていることが可能であり、
m=2、3または4、
n=1、2、3、4、5または6、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
の1つによって表される、請求項4または5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
カルボシラン化合物が式(IVa)および式(IVb)
【化1】

(式中、
各Qは独立してHまたはメチルを表し、
各R、Sは独立してH、フェニル部分または1〜8個の炭素原子を有する分岐アルキル部分あるいは非分岐アルキル部分を表し、ここで、RおよびSは一緒に脂環式環を形成してもよく、
各T、Uは独立してH、メチルまたはエチルを表し、
各V、W、X、Yは独立してH、Br、ClまたはFを表し、
p=0、1、2、3または4、
q=0、1、2、3、4または5、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
の1つによって表される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
カルボシラン化合物が、
【化2】




から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
開始剤が光硬化開始剤またはレドックス硬化開始剤あるいは両方の組み合わせを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
充填剤が強化用充填剤および/または非強化用充填剤を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
容器またはカートリッジに充填された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
ベースパート(i)および触媒パート(ii)を含む要素からなるキットであって、該ベースパート(i)がカルボシラン化合物の1種または混合物を含み、該触媒パート(ii)が開始剤を含み、充填剤成分および添加剤成分が任意に該ベースパート中または該触媒パート中に存在するか、あるいは該ベースパート及び該触媒パート中に存在するキット。
【請求項13】
a)請求項1〜10に記載されたカルボシラン化合物、開始剤、任意に充填剤および任意に添加剤成分を提供する工程と、
b)工程a)の成分を混合する工程と、
を含む歯科用組成物を製造する方法であって、カルボシラン化合物が、ヒドロシリル化反応および/またはエポキシ化反応を経由して得られる方法。
【請求項14】
前記ヒドロシリル化反応がポリSi−H官能性カルボシラン化合物をオレフィン置換脂肪族エポキシ部分含有成分と反応させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記エポキシ化反応が脂肪族オレフィン前駆体化合物を有機過酸と反応させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
歯科充填用材料、歯冠材料および架工義歯材料、ベニヤ材料、インレーまたはアンレーとして請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科用組成物を用いる方法。
【請求項17】
a)カルボシラン化合物および開始剤を含む歯科用組成物を提供する工程と、
b)該歯科用組成物を表面に被着させる工程と、
c)該歯科用組成物を硬化させる工程と、
を含む方法において歯科用材料を調製するための請求項1〜8のいずれか1項に記載のカルボシラン化合物の使用。

【公表番号】特表2008−505945(P2008−505945A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520674(P2007−520674)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007791
【国際公開番号】WO2006/005369
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(504169278)スリーエム イーエスピーイー アーゲー (43)
【Fターム(参考)】