説明

エポキシ樹脂多孔質膜

【課題】透過液量を維持した上で、分離性能を向上させることができるエポキシ樹脂多孔質膜と、その製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のエポキシ樹脂多孔質膜は、分離膜として用いられるシート状のものであり、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有し、前記空孔の孔径が、前記膜の一方の面から前記膜の他方の面にかけて厚み方向に漸増するエポキシ樹脂多孔質膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた耐薬品性を有する上、安価であることから、例えば特許文献1ではカラムクロマトグラフィーの分離媒体に適用されている。
【0003】
上記特許文献1では、エポキシ樹脂及び硬化剤をポロゲンに溶解させて均一な溶液を調製し、この溶液を金型に注入して加熱することにより、エポキシ樹脂を重合させながらエポキシ樹脂の重合物とポロゲンとを相分離させた後、ポロゲンを除去することによりエポキシ樹脂多孔体を得ている。上記特許文献1の方法によれば、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するモノリス型多孔体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO 2006/073173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている製造方法では、孔径が厚み方向に均一な多孔体しか得ることが出来ないため、イオンの分離等を目的とした分離膜用途では、透過液量を維持しつつ分離性能を向上させるのが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、透過液量を維持した上で、分離性能を向上させることができるエポキシ樹脂多孔質膜と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液を一対のシート材間に充填し、一方のシート材のみを加熱することにより、孔径が厚み方向に漸増する非対称構造の膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜は、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜であって、前記空孔の孔径が、前記膜の一方の面から前記膜の他方の面にかけて厚み方向に漸増することを特徴とする。
【0009】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜によれば、空孔の孔径が厚み方向に漸増する構造(非対称構造)を有するため、透過液量を維持した上で、分離性能を向上させることができる。
【0010】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜では、前記他方の面近傍における空孔の平均孔径が、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径の2〜100倍であることが好ましい。透過液量の維持と分離性能の向上の両立を容易に実現できるからである。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜では、前記他方の面近傍における空孔の平均孔径が0.2〜5μmであり、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径が0.02〜0.5μmであってもよい。この場合、前記他方の面近傍では、空孔の平均孔径が0.2〜5μmであるため、透過液量を高く維持した上で、膜強度の低下を防ぐことができる。また、前記一方の面近傍では、空孔の平均孔径が0.02〜0.5μmであるため、透過液の流れの抵抗を低減できる上、分離性能を向上させることができる。
【0012】
また、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法は、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法であって、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液を一対のシート材間に充填する充填工程と、前記シート材の一方のみを加熱して、エポキシ樹脂を重合させながらエポキシ樹脂の重合物とポロゲンとを相分離させる反応誘起相分離工程と、前記反応誘起相分離工程で得られた硬化物からポロゲンを除去する除去工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法によれば、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液を一対のシート材間に充填するため、溶液中のポロゲンの沈降を防ぐことができる。これにより、前記反応誘起相分離工程においてシート材との接触面近傍の溶液内にポロゲンが確実に存在するため、膜面やその近傍においても空孔を形成することができる。また、前記反応誘起相分離工程では、シート材の一方のみを加熱するため、一方のシート材側の膜面(一方の面)と他方のシート材側の膜面(他方の面)との間で、温度差が生じる。これにより、空孔の孔径が、膜の一方の面から他方の面にかけて厚み方向に漸増する構造(非対称構造)が得られるため、透過液量を維持した上で、分離性能を向上させることができるエポキシ樹脂多孔質膜を提供できる。
【0014】
本発明の製造方法では、前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を加熱するとともに前記シート材の他方を冷却することが好ましい。前記一方の面と前記他方の面との間の温度差を大きくすることができるため、非対称構造をより容易に実現できるからである。この場合、前記一方のシート材と前記他方のシート材との温度差が10〜200℃となるように、前記加熱及び冷却を行うことが好ましい。前記他方の面近傍における空孔の平均孔径を、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径の2〜100倍とすることができるため、透過液量の維持と分離性能の向上の両立を容易に実現できるからである。
【0015】
本発明の製造方法では、前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を80〜160℃に加熱し、前記他方のシート材を−50〜80℃に冷却してもよい。この場合、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径を0.02〜0.5μmとすることができるため、透過液の流れの抵抗を低減できる上、分離性能を向上させることができる。また、前記他方の面近傍における空孔の平均孔径を0.2〜5μmとすることができるため、透過液量を高く維持した上で、膜強度の低下を防ぐことができる。
【0016】
前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を加熱するとともに前記他方のシート材を冷却する場合は、前記加熱及び冷却の処理時間が10〜300分であることが好ましい。上記範囲内であれば、膜の強度を確保した上で、透過液量の維持と分離性能の向上を両立させるための孔径の確保が容易となる。
【0017】
前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を加熱するとともに前記他方のシート材を冷却する場合は、前記加熱及び冷却を行った後、前記冷却を停止し、前記加熱のみを引き続き行うことが好ましい。前記他方の面近傍の硬化を充分に行うことができるため、膜の強度の確保が容易となるからである。この場合、前記冷却を停止した後の前記加熱の処理時間が、0.5〜5時間であることが好ましい。膜の強度の確保がより容易となるからである。
【0018】
本発明の製造方法では、前記除去工程後、ポロゲンが除去された硬化物を更に硬化させる乾燥工程を更に含むことが好ましい。硬化剤による架橋を充分に行えるため、膜の強度の確保が容易となるからである。この場合、前記乾燥工程において、前記硬化物を50〜160℃の雰囲気温度で0.5〜20時間乾燥させることが好ましい。膜の強度の確保がより容易となるからである。
【0019】
本発明の製造方法では、前記充填工程において、前記溶液中のポロゲンの含有量が20〜80重量%であってもよい。得られる膜の孔径及び空孔率を適切な値とすることができるため、例えば複合逆浸透膜の支持膜に適用した場合に、透過液量の維持と分離性能の向上が容易となるからである。
【0020】
本発明の製造方法では、前記シート材がガラスシートであることが好ましい。ガラスシートは、耐熱性が高く、エポキシ樹脂硬化物に対して離型性も高い上、リサイクルが可能となるため、製造コストの低減が容易となるからである。ただし、ガラスに限らず、同様に耐熱性が高く、離型性の高いシート材であれば、好適に使用できる。
【0021】
本発明の製造方法では、前記充填工程後の前記一対のシート材の間隔が、0.1〜5mmであることが好ましい。0.1mm以上とすることで、膜の強度の確保が容易となる上、5mm以下とすることで、ポロゲンの沈降を容易に防ぐことができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】A〜Fは、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法の一例を説明するための概略工程図である。
【図2】A〜Cは、本発明の実施例のエポキシ樹脂多孔質膜の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明のエポキシ樹脂多孔質膜は、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜であって、空孔の孔径が、前記膜の一方の面から前記膜の他方の面にかけて厚み方向に漸増することを特徴とする。本発明によれば、空孔の孔径が厚み方向に漸増する構造(非対称構造)を有するため、透過液量を維持した上で、分離性能を向上させることができる。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の厚みは、膜強度の観点から0.1mm以上が好ましく、扱いやすさ、加工のしやすさ、及び透過液量の確保の観点から5mm以下が好ましい。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の空孔率は、透過液量を維持する観点から20%以上が好ましく、分離性能の向上及び膜強度の確保の観点から80%以下が好ましい。なお、上記空孔率は、水銀圧入法により、(株)島津製作所製オートポア9520型装置にて測定する。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜では、前記他方の面近傍における空孔の平均孔径が、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径の2〜100倍であることが好ましく、10〜100倍であることがより好ましい。透過液量の維持と分離性能の向上の両立を容易に実現できるからである。なお、「面近傍における空孔の平均孔径」とは、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製S−4800、倍率:4000倍)により膜を断面観察し、視野幅60μmで、表面から厚み方向に、膜の厚みの1/5〜1/100までの深さの範囲内に存在する空孔について、フリーソフト「Image J」又はAdobe社製「Photoshop」を用いて画像処理して求めた平均孔径をさす。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜では、前記他方の面近傍における空孔の平均孔径が0.2〜5μm(好ましくは0.5〜2μm)であり、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径が0.02〜0.5μm(好ましくは0.05〜0.2μm)であってもよい。前記他方の面近傍における空孔の平均孔径が0.2〜5μmの場合、透過液量を高く維持した上で、膜強度の低下を防ぐことができる。また、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径が0.02〜0.5μmの場合、透過液の流れの抵抗を低減できる上、分離性能を向上させることができる。なお、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径が0.5μm以下の場合、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜を複合逆浸透膜の支持膜に適用した場合に、スキン層形成材料の塗布が容易となる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂多孔質膜は、安価で耐薬品性を有する分離膜として、海水やかん水などの淡水化を処理目的とする複合逆浸透膜の支持膜や、微粒子等をろ過する限外ろ過膜等に好適に使用できる。また、耐熱性に優れていることから、過酷な環境下においても使用可能である。なお、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の構成材料の具体例については、以降の本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法の説明で例示する。
【0029】
次に、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法について説明する。本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法は、三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法であって、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液を一対のシート材間に充填する充填工程と、前記シート材の一方のみを加熱して、エポキシ樹脂を重合させながらエポキシ樹脂の重合物とポロゲンとを相分離させる反応誘起相分離工程と、前記反応誘起相分離工程で得られた硬化物からポロゲンを除去する除去工程とを含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の製造方法によれば、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液を一対のシート材間に充填するため、溶液中のポロゲンの沈降を防ぐことができる。これにより、前記反応誘起相分離工程においてシート材との接触面近傍の溶液内にポロゲンが確実に存在するため、膜面やその近傍においても空孔を形成することができる。また、前記反応誘起相分離工程では、シート材の一方のみを加熱するため、一方のシート材側の膜面(一方の面)と他方のシート材側の膜面(他方の面)との間で、温度差が生じる。これにより、空孔の孔径が、膜の一方の面から他方の面にかけて厚み方向に漸増する構造(非対称構造)が得られるため、透過液量を維持した上で、分離性能を向上させることができるエポキシ樹脂多孔質膜を提供できる。
【0031】
本発明に使用できるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂や、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。本発明では、これらの一種を用いても良いし、複数種を用いても良い。中でも製膜性が高く、多孔化が容易なビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0032】
本発明に使用できる硬化剤としては、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなど)、芳香族酸無水物(例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、複素芳香環含有アミン(例えば、トリアジン環含有アミンなど)などの芳香族硬化剤や、脂肪族アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなど)、脂環族アミン類(イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンやこれらの変性品など)、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどの非芳香族硬化剤が挙げられる。本発明では、これらの一種を用いても良いし、複数種を用いても良い。中でも反応性の観点から脂環族アミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミンが好ましい。
【0033】
本発明に使用できるポロゲンとは、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、かつエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生ぜしめることが可能な溶剤をさし、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類や、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類などが挙げられる。中でも相分離性の観点からポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。
【0034】
また、個々のエポキシ樹脂又は硬化剤と常温で不溶又は難溶であっても、エポキシ樹脂と硬化剤との反応物が可溶となる溶剤についてはポロゲンとして使用可能である。このようなポロゲンとしては、例えば臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート5058」)などが挙げられる。
【0035】
本発明では、溶液中のエポキシ樹脂に対する硬化剤の添加割合は、膜強度の観点からエポキシ基1当量に対して硬化剤当量が0.6以上であることが好ましい。また、未反応の硬化剤の残留を防ぐ観点からエポキシ基1当量に対して硬化剤当量が1.5以下であることが好ましい。なお、本発明では、上述した硬化剤の他に、目的とする多孔構造を得るために、溶液中に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミンや、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェノール−4,5−ジヒドロキシイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
【0036】
本発明で得られるエポキシ樹脂多孔質膜の空孔率、孔径、孔径分布などは、使用されるエポキシ樹脂、硬化剤、ポロゲンなどの原料の種類や比率、又は後述する反応誘起相分離工程における加熱温度や冷却温度などの反応条件により変化するため、目的とする多孔質膜の空孔率、孔径、孔径分布を得るためには、系の相図を作成し、最適な条件を選択することが好ましい。また、相分離時におけるエポキシ樹脂重合物の分子量、分子量分布、系の粘度、架橋反応速度などを制御することにより、エポキシ樹脂とポロゲンの共連続構造を特定の状態で固定し、安定した多孔構造を得ることができる。
【0037】
本発明の製造方法では、前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を加熱するとともに前記シート材の他方を冷却することが好ましい。前記一方の面と前記他方の面との間の温度差を大きくすることができるため、非対称構造をより容易に実現できるからである。この場合、前記一方のシート材と前記他方のシート材との温度差が10〜200℃(より好ましくは、50〜150℃)となるように、前記加熱及び冷却を行うことが好ましい。前記他方の面近傍における空孔の平均孔径が、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径の2〜100倍とすることができるため、透過液量の維持と分離性能の向上の両立を容易に実現できるからである。なお、シート材の温度は、ランダムに10箇所測定した値の平均値とすることが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法では、前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を80〜160℃(好ましくは、100〜140℃)に加熱し、前記他方のシート材を−50〜80℃(好ましくは、−20〜10℃)に冷却してもよい。前記一方のシート材を80〜160℃に加熱することにより、前記一方の面近傍における空孔の平均孔径を0.02〜0.5μmとすることができるため、透過液の流れの抵抗を低減できる上、分離性能を向上させることができる。また、前記他方のシート材を−50〜80℃に冷却することにより、前記他方の面近傍における空孔の平均孔径を0.2〜5μmとすることができるため、透過液量を高く維持した上で、膜強度の低下を防ぐことができる。
【0039】
前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を加熱するとともに前記他方のシート材を冷却する場合は、前記加熱及び冷却の処理時間が10〜300分であることが好ましく、10〜60分であることがより好ましい。上記範囲内であれば、膜の強度を確保した上で、透過液量の維持と分離性能の向上を両立させるための孔径の確保が容易となる。
【0040】
前記反応誘起相分離工程において、前記一方のシート材を加熱するとともに前記他方のシート材を冷却する場合は、前記加熱及び冷却を行った後、前記冷却を停止し、前記加熱のみを引き続き行うことが好ましい。前記他方の面近傍の硬化を充分に行うことができるため、膜の強度の確保が容易となるからである。この場合、前記冷却を停止した後の前記加熱の処理時間が、0.5〜5時間であることが好ましく、1〜3時間であることがより好ましい。膜の強度の確保がより容易となるからである。
【0041】
本発明の製造方法では、前記除去工程後、ポロゲンが除去された硬化物を更に硬化させる乾燥工程を更に含むことが好ましい。硬化剤による架橋を充分に行えるため、膜の強度の確保が容易となるからである。この場合、前記乾燥工程において、前記硬化物を50〜160℃(より好ましくは80〜160℃)の雰囲気温度で、0.5〜20時間(より好ましくは1〜10時間)乾燥させることが好ましい。膜の強度の確保がより容易となるからである。
【0042】
本発明の製造方法では、前記充填工程において、前記溶液中のポロゲンの含有量が20〜80重量%(好ましくは55〜75重量%)であってもよい。得られる膜の孔径及び空孔率を適切な値とすることができるため、例えば複合逆浸透膜の支持膜に適用した場合に、透過液量の維持と分離性能の向上が容易となるからである。
【0043】
本発明に使用できるシート材は、前記溶液との接触界面において均一に加熱(又は冷却)を行うことができ、かつ得られるエポキシ樹脂硬化物に対して離型性を有する限り、特に限定されないが、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、炭化水素系離型剤などが塗布されたシート材や、ガラスシートが使用でき、一対のシート材のそれぞれが相違する材料からなるものを使用してもよい。なかでもガラスシートが好ましい。ガラスシートは、耐熱性が高く、離型性も高い上、リサイクルが可能となるため、製造コストの低減が容易となるからである。また、ポロゲンとしてグリコール類を用いる場合は、該グリコール類の沈降を効果的に防ぐことができる。なお。シート材の厚みは、リサイクル性及び取り扱い性の観点から、例えば0.1〜10mmであり、0.8〜2.0mmが好ましい。
【0044】
本発明の製造方法では、前記充填工程後の前記一対のシート材の間隔が、0.1〜5mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがより好ましい。0.1mm以上とすることで、膜の強度の確保が容易となる上、5mm以下とすることで、ポロゲンの沈降を容易に防ぐことができるからである。なお、シート材の間隔は、ランダムに10箇所測定した値の平均値とすることが好ましい。
【0045】
次に、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。参照する図1A〜Fは、本発明のエポキシ樹脂多孔質膜の製造方法の一例を説明するための概略工程図である。
【0046】
まず、エポキシ樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む溶液1(図1A参照)を調製する。調製方法は特に限定されないが、ポロゲンにエポキシ樹脂を溶解させた後、これに硬化剤を加えて溶液1を調製すると、均一な溶液とすることができるため好ましい。
【0047】
次に、図1Aに示すように、溶液1を一対のガラスシート2a,2b間に充填する。この充填方法についても特に限定されないが、例えば、ガラスシート2b上の周縁部に両面テープなどのスペーサー(図示せず)を設けて、溶液1から得られる硬化物が一定の厚みを確保できるようにした後、ガラスシート2b上の上記スペーサーで囲まれた部分に溶液1を塗布し、その上にガラスシート2aを置いて溶液1とガラスシート2aとを密着させればよい。なお、ガラスシート2a,2bで溶液1を挟んだ状態において、ガラスシート2a,2b間の間隔Sは、上述したように0.1〜5mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがより好ましい。即ち、ガラスシート2a,2b間の間隔Sが、上記範囲内となるようにスペーサーの厚さを調整するのが好ましい。
【0048】
次に、図1Bに示すように、ガラスシート2bをホットプレート3により加熱するとともに、ガラスシート2a上に氷水などの冷媒4で満たされたトレイ5を置いて、ガラスシート2aを冷却する。これにより、冷却されたガラスシート2a側の膜面1aの近傍における空孔の孔径が、加熱されたガラスシート2b側の膜面1bの近傍における空孔の孔径に対し大きくなるため、非対称構造の膜が得られる。
【0049】
上記加熱及び冷却を所定時間行った後、図1Cに示すように、トレイ5(図1B参照)を外して冷却を停止し、ホットプレート3による加熱のみを引き続き行う。これにより、膜面1aの近傍の硬化を充分に行うことができるため、膜の強度の確保が容易となる。
【0050】
上記加熱を所定時間行った後、図1Dに示すように、得られた硬化物6をガラスシート2a,2bから離型する。この際、本実施形態のように、シート材としてガラスシート2a,2bを使用すると、離型性が良好となるため好ましい。
【0051】
続いて、図1Eに示すように、硬化物6を水槽7内の水8に浸漬してポロゲンを除去する。なお、ポロゲンを除去する溶媒としては、膜を損傷させずにポロゲンを溶出できる溶媒であれば、水以外の溶媒(例えばDMF、DMSO、THFなど)を使用してもよい。
【0052】
そして、ポロゲンが除去された硬化物6を更に硬化させる乾燥工程を行って、硬化剤による架橋を充分に行うことにより、図1Fに示すエポキシ樹脂多孔質膜10が得られる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されない。例えば、スペーサーは、粒径の揃ったガラスビーズや厚みの揃った金属板などを用いることができる。反応誘起相分離工程においては、プレス機を用いて、一方の面と他方の面の設定温度に差を設けることも可能である。その際の冷却方法としては、冷風を用いることも可能である。また、反応誘起相分離工程を低温雰囲気下で行い、一方の面のみをホットプレート等で加熱することも可能である。ポロゲンの除去工程においては、溶剤に浸漬する方法や、溶剤を流すことにより除去する方法を用いてもよい。その際、超音波照射等を併用すると、より効率よくポロゲンを除去できる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
上述した図1A〜Fの工程に従って、エポキシ樹脂多孔質膜を製造した。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート828」を用いた。硬化剤としては、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン(東京化成社製)を用いた。ポロゲンとしては、ポリエチレングリコール200(東京化成社製)を用いた。また、ガラスシート2a,2bには、ソーダガラスからなるガラスシートを用いた。
【0056】
まず、エポキシ樹脂23.3gにポロゲン50gを加え、これを自転・公転ミキサー(商品名「あわとり練太郎」ARE-250)により2000rpmで5分間攪拌し溶解させ、エポキシ樹脂/ポロゲン溶液を調製した。次に硬化剤5.2gを上記エポキシ樹脂/ポロゲン溶液に加え、これを上記自転・公転ミキサーにより2000rpmで10分間攪拌して溶解させ、溶液1を調製した。
【0057】
次に、ガラスシート2b上の周縁部に両面テープを2枚重ねて貼り付けた後、ガラスシート2b上の上記両面テープで囲まれた部分に溶液1を塗布し、その上にガラスシート2aを置いて溶液1とガラスシート2aとを密着させた。なお、この状態において、ガラスシート2a,2b間の間隔Sは、800μmであった。
【0058】
次に、ガラスシート2bを120℃に設定したホットプレート3により加熱するとともに、ガラスシート2a上に冷媒4(氷水)で満たされたトレイ5を置いて、ガラスシート2aを冷却した。これにより、ガラスシート2aは0.2℃に冷却された。この状態で約1時間保持し、その後トレイ5を外して冷却を停止し、ホットプレート3による加熱のみを引き続き約2時間行った。
【0059】
上記加熱を行った後、室温まで静置して、得られた硬化物6をガラスシート2a,2bから離型した。続いて、硬化物6を水8に一晩浸漬してポロゲンを除去した。そして、ポロゲンが除去された硬化物6を50℃の雰囲気温度で、約4時間、更に硬化させる乾燥工程を行って、厚み850μmのエポキシ樹脂多孔質膜10を得た。得られたエポキシ樹脂多孔質膜10の断面SEM像を図2A〜Cに示す。図2Aは、ガラスシート2a側の膜面1aの近傍の断面SEM像であり、図2Bは、膜面1aからの深さが400μm付近の中間層の断面SEM像であり、図2Cは、ガラスシート2b側の膜面1bの近傍の断面SEM像である。図2A〜Cに示すように、空孔の孔径が膜面1bから膜面1aにかけて厚み方向に漸増する構造が観察された。なお、上述した平均孔径の測定方法によって図2A及び図2Cに示す空孔の平均孔径を測定したところ、図2Aに示す空孔の平均孔径は5μmであり、図2Cに示す空孔の平均孔径は0.5μmであった。
【符号の説明】
【0060】
1 溶液
1a,1b 膜面
2a,2b ガラスシート
3 ホットプレート
4 冷媒
5 トレイ
6 硬化物
7 水槽
8 水
10 エポキシ樹脂多孔質膜
S 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状骨格と連通する空孔とを有するエポキシ樹脂多孔質膜であって、
前記多孔質膜は、分離膜として用いられるシート状のものであり、
前記空孔の孔径が、前記膜の一方の面から前記膜の他方の面にかけて厚み方向に漸増するエポキシ樹脂多孔質膜。
【請求項2】
前記他方の面近傍における前記空孔の平均孔径が、前記一方の面近傍における前記空孔の平均孔径の2〜100倍である請求項1に記載のエポキシ樹脂多孔質膜。
【請求項3】
前記他方の面近傍における前記空孔の平均孔径が、0.2〜5μmであり、
前記一方の面近傍における前記空孔の平均孔径が、0.02〜0.5μmである請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂多孔質膜。
【請求項4】
複合逆浸透膜の支持膜、又は限外ろ過膜として用いられる請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔質膜。
【請求項5】
原料であるエポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔質膜。
【請求項6】
空孔率が20〜80%である請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔質膜。
【請求項7】
厚みが0.1〜5mmである請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂多孔質膜。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−31851(P2013−31851A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−247731(P2012−247731)
【出願日】平成24年11月9日(2012.11.9)
【分割の表示】特願2008−250482(P2008−250482)の分割
【原出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】