説明

エポキシ樹脂組成物の製造方法

【課題】低温でも短時間に硬化が完了し、かつ室温での保存においても、十分な使用可能期間を確保できるエポキシ樹脂組成物の提供。
【解決手段】以下のA成分と、分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物であるB−1成分とを混合して樹脂組成物を得た後、C成分及びD成分をさらに混合して、エポキシ樹脂組成物を得る際、エポキシ樹脂組成物中のC成分の含有率を1〜15質量%とし、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子の含有率を0.2〜7質量%とする。A成分:エポキシ樹脂。B−1成分:分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物。C成分:尿素化合物。D成分:ジシアンジアミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物の製造方法に関する。本願で得られるエポキシ樹脂は、特にはプリプレグに好適に用いることのできるエポキシ樹脂組成物であり、比較的低温で短時間で硬化できる。この為、これを用いて、機械物性に優れ、室温で長期間保存できる優れたプリプレグを得ることができる。さらに、本発明に好適な熱硬化性樹脂組成物は、高速成形に適し、成形された繊維強化複合材料(以後本明細書においてFRPと記載することもある。)に高い機械物性を発現させることが可能である。よってこの組成物を使用することより、優れたプリプレグ及び繊維強化複合材料成形品を得ることが可能である。また本発明に好適な優れたプリプレグは、輸送機器や産業機械の外板として使用されうる、繊維強化複合材料の板材を得るために、好適に用いることができる。さらに本発明では、高強度でかつ意匠性に優れたFRPを容易に製造する方法、特には圧縮成形法を用いて短時間で製造する方法を提供する。
なお、本出願は、日本国特許出願平成14年第346198号、日本国特許出願平成14年第347650号、日本国特許出願平成14年第353760号、日本国特許出願平成14年第362519号を基礎としており、その内容をここに組み込むものとする。
【背景技術】
【0002】
FRPは、軽量かつ高強度で高剛性の特徴を生かし、釣り竿、ゴルフクラブシャフト等のスポーツ・レジャー用途から自動車や航空機等の産業用途まで、幅広く用いられている。
FRPの製造方法としては、強化繊維などの長繊維からなる補強材に樹脂を含浸させた中間材料であるプリプレグを使用する方法が、強化繊維のプリプレグ中の含有量が管理し易く、かつ、その含有量を高めに設計することが可能であることから適している。
プリプレグからFRPを得る具体的な方法としては、特開平10−128778号公報(特許公報1)に示すオートクレーブを用いた方法、特開2002−159613号公報(特許公報2)に示す真空バッグによる方法、特開平10−95048号公報(特許公報3)に示す圧縮成形法などがある。
【0003】
しかしながら、これらのいずれの方法においても、プリプレグを積層し、目的の型状に賦型後、加熱硬化する際、硬化までに約160℃以上の条件で約2〜6時間程度の時間が必要であった。即ち高温及び長時間の処理が必要とされた。
一方、製品の大量生産を可能にする為には、100〜130℃程度の比較的低温で、数分から数十分程度の短時間で成形できることが求められている。この課題を達成するための1つの方法には、わずかな熱エネルギーで硬化反応が開始するエポキシ樹脂組成物を用い、エポキシ樹脂組成物の硬化が完了するまでの時間を短くする事が挙げられる。しかしながら、反応活性が高すぎると、硬化反応が暴走しやすく危険である。一方、従来用いられている硬化剤を用いた場合、その硬化剤の量を増やすと、機械物性が低下するおそれがある。また、このようなエポキシ樹脂組成物は使用可能期間も短く、室温では数日保存しただけで硬化する恐れもある。このように、好ましい反応性を持つエポキシ樹脂組成物の開発が待たれているのが現状である。
【0004】
次にプリプレグに好適に要求される条件から考えると、以下の条件が挙げられる。
・室温付近での良好なタック(べとつき具合)、適度なドレープ性(柔軟性)などの取り扱い性に優れること。
・その取り扱い性を長期間維持すること、すなわち室温付近での長いライフを達成すること、さらに成形後のFRPが機械物性や熱物性に優れること。
【0005】
強化繊維にエポキシ樹脂組成物などのマトリックス樹脂を含浸してなり、繊維強化複合材料の中間材料として幅広く用いられているプリプレグは、様々な分野で使用可能であるが、上述される産業用途の場合には、特に成形性に優れることが要求されるものである。
現在のところ、通常のプリプレグでは、1時間程度の加熱硬化が必要でありすでに述べたように、昇温降温の時間も含めると条件にもよるが、一回の成形に2あるいは3時間〜6時間程度を必要としている。これは非常に長時間であり、成形コストが嵩む原因のひとつになっている。
【0006】
しかしながら、成形に必要な加熱時間を短くしようとすると、室温付近でのライフが短くなってしまうため、成形温度を極端に高くしないといけないというような弊害が起こる傾向がある。プリプレグに優れた特性を与える熱硬化性樹脂組成物の開発がまたれている。
【0007】
次にSMCとプリプレグの特性、及びFPR板材について述べる。
プリプレグ以外のFRPに使用される材料では、シートモールディングコンパウンド(以下、SMCという)などの成形材料を用いて成形されることも多い。しかし、FRPの製造において実質的に連続した強化繊維を一方向に引き揃えてなるプリプレグ(以下、UDプリプレグという。)や織物プリプレグ等を用いることは、後に述べるような幾つかの改善すべき点も抱えるSMCを用いるより、特にFRPの強度の点で有利である。
【0008】
しかしながら、現在使用されているプレプリグにも、さらに優れたFRPを効率よく得るためには、新たな改良等が求められている。
FRPの板材は、耐腐食性に優れているため、自動車をはじめとする輸送機器や各種産業機械の外板として使用が試みられている。例えば、自動車のボンネットやフェンダー等の外板には、SMCというFRP板材が広く使用されている。
SMC(例えば、特開平6−286008号公報(特許文献4)参照)は、炭素繊維やガラス繊維の短繊維の強化繊維とポリエステル樹脂等を混ぜ合わせたスラリー状の中間基材である。これを加熱、型内で高圧プレス(通常は50kg/cm以上)で賦形して、外板となる下地板を作成する。次いで、本下地板の表面をサンドペーパーや鑢で削り取って平坦・平滑とし、引き続いて有色塗装して、例えば自動車用のFRP製外板となる。
【0009】
SMCからなる外板は、強化繊維が短繊維(非連続繊維)であるため、強化繊維を連続繊維とした場合より剛性が低い(短繊維が強化繊維というだけでなく、ガラスの弾性率は70GPaでスチールの弾性率210GPaの1/3と低い)。よって、金属外板よりも外板の板厚は大きくなり、金属外板に比べ必ずしも軽量とはならない場合があると同時に、軽量化できたとしても小幅に留まるケースが多い。さらに、SMC製外板は繊維が連続していないために、剛性以外の外板にとして重要な特性である強度、特に、飛来物が外板に衝突するような局所衝撃により容易に貫通損傷する。従って、輸送機器など屋外で使用する外板では、さらに厚みを増したりゴムを貼るなどの耐衝撃用保護対策を講じる必要がある。このように、重量面で金属製外板を代替できる軽量外板、すなわち、環境に優しい輸送機器用の外板とはなっていない。
【0010】
しかしながら、少なからずもSMCからなる外板が実用化されている大きな理由は、短繊維がランダム(ほぼ均一に)に分散していることで、上記した削り取り前の下地板において、ほぼ均一な表面品位が得やすいということである。連続繊維を使用する場合、繊維分布の不均一さや、繊維の蛇行、うねり、繊維同士の交差等による凹凸や厚みの不均一さのために、下地板の表面起伏が短繊維より大きくなる。よって、この場合では
1)上記削り取り作業の労力が大きい、
2)削り取りの際に連続である強化繊維をも削ってしまい、上記した外板としての機械的および機能的物性をさらに低下させるといった問題が生じるためである。
【0011】
一方、連続繊維である方が、剛性や強度の点でより高物性であって、かつ軽量なFRP板材ができるので好ましい。しかし、連続繊維の形態は、一方向プリプレグ、織物、3次元織物等々、複雑多様であるが、どれも実用化には至っていない。
一方、連続繊維を強化繊維とする部材の検討もなされている。一方向に配列した連続繊維と樹脂からなるプリプレグを型の上に積層して、オートクレーブ等で硬化したり、織物等のプリフォームを型内にセットして樹脂を注入するRTM(レジントランスファーモールディグ)等で製造される部材である。しかし、上記した、連続繊維に固有の、繊維の蛇行、うねり、繊維同士の交差等による凹凸や厚みの不均一さのために、表面品位は低く、自動車などの輸送機器の外板としては実用化されていないのが実状である。
【0012】
表面品位を向上させるためには、ゲルコートと呼ばれるコーティング法が採用される。ゲルコート法(特開平11−171942号公報(特許文献5)参照)とは、型の内面に予め外板の表面となりうるポリエステル等の樹脂材料をコーティングして形成し、強化繊維基材を本コーティングの上に配し、型を閉じる。次に、樹脂を注入、硬化させ、脱型して、FRP外板の表面に該コーティングを転写するというものである。本方法は、表面の削り取りや塗装を省略できるため、工業的には有力なものである。しかし、加熱硬化させた場合には、FRPとゲルコート層の線膨張係数の差から、成形体全体が反るなどの変形が生じてしまう。よって、精度が要求される外板には適さず、また、ゲルコート層が割れたり皺が寄ったりして外板には適さない。
【0013】
さらに、前記したように連続繊維を強化繊維とするFRPの表面は凹凸があるため、ゲルコートの厚みは200ミクロン以上と塗装した場合の塗装膜より厚い。このため、重量増加となるばかりか、外板が外力を受けて変形した場合、ゲルコート層が割れたり、剥がれ落ちるという欠点が存在し、外板には適さない。
【0014】
ゲルコート層の割れや剥がれは、屋外で使用する外板のゲルコート層の場合には、雨水等の水分がFRP内部に侵入してFRPの特徴である軽量性、耐久性を損なうことがある。また、ゲルコートの場合、塗装に比べ、色の選択枝が極めて少なく、メタリック感やファション性に富む外観を出せない。よって、自動車外板など、他の部材との色合わせも必要な外板には、商品全体の価値が低下してしまうために、適用できないという問題がある。ゲルコート層の上に塗装を施すという考えもあるが、この場合はさらなる重量増加、コスト増加というペナルティーが生じる。
表面品位を向上させるため別の試みが、強化繊維として用いる炭素繊維織物のカバーファクターを調整することによっても行なわれている(特開2001−322179号公報(特許文献6)参照)。
【0015】
しかし、炭素繊維織物は製織された後、中間材料への加工、裁断・積層・プリフォーム化、FRPへの成形という、さまざまな加工を経るため、カバーファクターを好適な範囲に保っておくことは、困難である。目止めにより炭素繊維の移動を拘束するとカバーファクターは、好適な範囲に留めておけるが、炭素繊維が拘束されているため、曲面形状のFRPを得ることが非常に困難となる欠点があった。
【0016】
以上のように、プリプレグ、即ち強化繊維が連続繊維であるものを使用したFRP板材を特に外板に実用化する例は少ないこともあって、実用性のあるFRP板材の構造、表面品位の定量的な指標が確立されていないのが実状である。
FRPの厚み方向の線膨張係数は金属のそれより大きい。よって、表面の平滑性が悪いと、温度変化に伴う変形により雨水などが停留して、紫外線などの光線によるレンズ効果により、塗装の劣化にムラが生じて、斑模様の外板となってしまう。
【0017】
さて、外板の表面品位は、上記した商品性や長期耐久性に加え、空気や水に対する流体抵抗に大きな影響を及ぼすことがわかってきている。従って、自動車だけでなく、電車、小型機、ボート、船舶等の移動する輸送機器全般において、省エネ目的で、表面品位の向上の必要性が求められている。通常、軽量目的で外板をFRP製とすると、金属より弾性率が低いため、輸送機器が高速で移動中に受ける空気抵抗に対し大きく変形して流動抵抗がより大きく変化する。このようなことからも、FRP板材の表面については、金属材料とは異なるクライテリアが独立して設定されるべきである。
繰り返しになるが、連続繊維を使用したFRP板材を実用化するために、FRP板材に適した構造、材料、表面品位の定量的な指標といった総合的な技術の確立が至急求められている。
【0018】
次に製造方法について述べる。
成形材料からFRPを得る方法としては、上記に述べたように、オートクレーブを用いた方法、真空バッグによる方法、圧縮成形法などが知られている。なかでも、圧縮成形法は、オートクレーブや真空バッグによる成形法に比べて、成形時間が比較的短時間ですむことから、良好な外観を有し、高強度なFRPの大量生産に好適である。またこの方法では、型を加工することも容易であるから、複雑な形状のFRPの製造も容易であるという利点がある。
【0019】
しかしながら、連続した強化繊維を強化材とする成形材料を用いて圧縮成形法によりFRPを製造する場合、粘度の下がった樹脂が加圧によりFRP内部や表面で激しく流動する。そしてその流れによって強化繊維の配列が乱れ、いわゆる目曲がりが発生する。すると、表面部の目曲がりによって意匠性が悪くなるばかりでなく、内部の目曲がりは、その部分の強化繊維の配列乱れに起因し、FRPの機械物性が低下した。このため、圧縮成形法によるFRPの製造は特開平10−95048号公報(特許文献7)にも示したSMCなどを用いたものに限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平10−128778号公報
【特許文献2】特開2002−159613号公報
【特許文献3】特開平10−95048号公報
【特許文献4】特開平6−286008号公報
【特許文献5】特開平11−171942号公報
【特許文献6】特開2001−322179号公報
【特許文献7】特開平10−95048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、以下に示す四つの態様を提案し、これらをひとつまたは二つ以上組み合わせることによって、以下に記載する課題の、ひとつまたは二つ以上を達成することができることを見出した。
本発明の第一の課題は、従来のエポキシ樹脂組成物と比較して、低温でも短時間に硬化が完了し、かつ室温での保存においても、十分な使用可能期間を確保できるエポキシ樹脂組成物、及びこの樹脂を用いて得られるプリプレグによって、優れた機械物性を発現する繊維強化複合材料、を提供することである。これは、以下の第一の態様によって達成された。
すなわち第一の態様は、以下のA成分、B成分、C成分及びD成分からなるエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子及びC成分の含有率が、それぞれ0.2〜7質量%及び1〜15質量%であるエポキシ樹脂組成物である。
A成分:エポキシ樹脂
B成分:分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物(B−1成分)及び/又はエポキシ樹脂と分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物との反応生成物(B−2成分)
C成分:尿素化合物
D成分:ジシアンジアミド
上記のエポキシ樹脂組成物においては、130℃でのゲルタイムが200秒以下であるエポキシ樹脂組成物が、特に好適に用いることができる。また、本発明者は、第一の態様に関連して、エポキシ樹脂と分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物との反応生成物であるB−2成分、C成分及びD成分からなるエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子及びC成分の含有率が、それぞれ0.2〜7質量%及び1〜15質量%であるエポキシ樹脂組成物を提供する。
B−2成分:エポキシ樹脂と分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物との反応生成物
C成分:尿素化合物
D成分:ジシアンジアミド
さらに、本発明者は、第一の態様に関連して、A成分100質量部とB−1成分0.2〜7質量部とを混合して樹脂組成物を得た後、C成分及びD成分をさらに混合して、エポキシ樹脂組成物を得る際、エポキシ樹脂組成物中のC成分の含有率を1〜15質量%とするエポキシ樹脂組成物の製造方法を提供する。
A成分:エポキシ樹脂
B成分:分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物(B−1成分)
C成分:尿素化合物
D成分:ジシアンジアミド
本発明の第二の課題は、従来のプリプレグとしての特徴、すなわち、室温での取り扱い性、室温での長いライフに優れ、成形後の良好な物性を維持することができる特徴に加え、産業用途に要求されるような高速成形が可能な特徴を持つプリプレグに好適な熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。又、その熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなるプリプレグを提供すること、更に、そのプリプレグを用いて機械強度や熱的物性に優れるFRPを高速で成形する製造方法を提供することである。
この課題は、以下の第二の態様によって達成された。
第二の態様は、50℃での粘度が5×10〜1×10Pa・sec、120℃の雰囲気下で1000秒以内に1×10Pa・secに到達する熱硬化性樹脂組成物であって、30℃で3週間放置した後の50℃での粘度の増加が2倍以下である熱硬化性樹脂組成物である。
本願の第三の課題は、連続繊維を使用したFRP板材、特に外板としての構造、材料、表面の総合問題を解決することである。すなわち、輸送機器等に適する、軽量で、高剛性、高強度であるFRP板材であるのは勿論のこと、長期の使用にも耐える表面品位を有し環境にも優しいFRP製の外板の構造、材料、表面性を有するFRP板材を提供することにある。この課題は以下の第三の態様によって達成された。
第三の態様は、(1)成形圧10kg/cm以上、成形時間15分以内で加熱硬化して得られるFRP板材の表面の中心平均粗さ(Ra)が0.5μm以下であるプリプレグ、(2)成形圧10kg/cm以上、成形時間15分以内で加熱硬化して得られるFRP板材であって、FRP板材の表面の中心平均粗さ(Ra)が0.5μm以下であるFRP板材、である。
本発明の第四の課題は、高強度で意匠性に優れた、実質的に連続した強化繊維を強化材とするFRPを圧縮成形法によって短時間で製造することである。この課題は以下の態様によって達成された。
第四の態様は、成形型を予め熱硬化性樹脂の硬化温度以上に調温する工程と、その調温した成形型内(片面表面積S)に、実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸してなる成形材料(片面表面積S)をいれる工程と、こののち、成形型を締めて、成形型の内部のすべてを成形材料で満たす工程と、S/Sが0.8〜1となるように圧縮成形する工程を含むことを特徴とする繊維強化複合材料成形品の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そして、本発明において、具体的には、以下の解決手段を提案する。
すなわち、以下のA成分と、分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物であるB−1成分とを混合して樹脂組成物を得た後、C成分及びD成分をさらに混合して、エポキシ樹脂組成物を得る際、エポキシ樹脂組成物中のC成分の含有率を1〜15質量%とし、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子の含有率を0.2〜7質量%とするエポキシ樹脂組成物の製造方法である。
A成分:エポキシ樹脂。
B−1成分:分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物。
C成分:尿素化合物。
D成分:ジシアンジアミド。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、定量的な指標を与えられ、また比較的低温での短時間硬化が可能になり、機械物性に優れ、また室温で長期間保存が可能である優れたプリプレグ及び軽量かつ高強度で高剛性のFRPが容易に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(a)は、型を締める前の成形材料を型内部に置いた状態を表した断面図である。図1(b)は、型を締めた状態を表した断面図である。
【図2】図2は、第四の態様で用いる型に好ましく用いられる、型を締めた時に上型・下型(雄型・雌型)があたる部分のシェアエッジ構造を示した断面図である。
【図3】図3は、第四の態様で用いる型に好ましく用いられる型の内部に設けられた開閉可能な孔が示された断面図である。この孔からエアブローすることによりFRPの脱型も利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の第一の態様から第四の態様について詳細に説明する。
第一の態様
以下に本発明の第一の態様について説明し、各成分や添加剤、製造方法、更にエポキシ樹脂より得られるプリプレグ等について詳細に述べる。
【0026】
本態様により、従来のエポキシ樹脂組成物と比較して、低温でも短時間に硬化が完了し、かつ室温での保存においても、十分な使用可能期間を確保できるエポキシ樹脂組成物が提供される。この樹脂を用いて得られるプリプレグにより、優れた機械物性を発現する繊維強化複合材料を得ることができる。
【0027】
(A成分)
第一の態様におけるA成分は、エポキシ樹脂である。この例としては、2官能性エポキシ樹脂ではビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、あるいはこれらを変性したエポキシ樹脂等が挙げられる。3官能以上の多官能性エポキシ樹脂としては例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンやトリス(グリシジルオキシメタン)のようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂及びこれらを変性したエポキシ樹脂やこれらのエポキシ樹脂をブロム化したブロム化エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定はされない。また、A成分として、これらエポキシ樹脂を1種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0028】
中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が特に好適に使用できる。これらのエポキシ樹脂を用いると、例えば、分子内にナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂など剛直性の高いエポキシ樹脂を用いた場合と比較して、成形品としたときの機械強度が向上すると言う更なる効果を奏する。これは、剛直性の高いエポキシ樹脂は短時間で硬化させると架橋密度が上がるため歪みが生じやすくなるのに対し、上述のエポキシ樹脂を用いると、そういった問題が起こる可能性が低いためである。
【0029】
一方、分子内に硫黄原子を有するエポキシ樹脂として、ビスフェノールS型エポキシ樹脂や、チオ骨格を有するエポキシ樹脂があり、これらを本発明において用いることもできる。ただし、本発明において、効果的にこれらを用いるためには、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子の含有率を定量する必要がある。エポキシ樹脂組成物内の硫黄原子の含有率をあらかじめ定量する方法には、原子吸光法などを用いれば良い。
【0030】
(B成分)
第一の態様のB−1成分は、分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物(B−1成分)及び/又はエポキシ樹脂と分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物との反応生成物(B−2成分)である。
B−1成分は分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物であれば特に限定しないが、例として、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン,4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、ビス(4−(4アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(3アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、4’4−ジアミノジフェニルスルファイド,o−トリアンスルフォン、及び、これらの誘導体等が好ましく用いられる。
【0031】
一方、B−2成分は、上述した、エポキシ樹脂と分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物とを反応させた反応生成物である。本態様のエポキシ樹脂組成物においては、A成分とB−1成分とを混合し、反応させることでB−2成分を含む混合物が得られるが、この中からB−2成分を単離して用いる必要は特にない。
また、本態様のエポキシ樹脂組成物を製造する過程において、A成分とB−1成分として添加したものの一部又は全部がB−2成分に変化していてもよい。
【0032】
これらの場合、A成分とB−1成分のうちの一方又は両方がすべて消費されてB−2成分に変化してもよい。
本態様においては、B−1成分およびB−2成分のいずれを用いても良いが、B−2成分またはB−1成分とB−2成分の混合物を用いると貯蔵安定性が向上する。
【0033】
(C成分)
本態様におけるC成分は、尿素化合物である。
C成分は特に、限定されるものではないが、ジクロロジメチルウレア、フェニルジメチルウレア、などの尿素化合物が好適に用いられる。中でも、C成分として分子内にハロゲンを有しないものは反応性が高く、毒性も低いので、特に好適に用いることができる。
本発明でいう尿素化合物には、さらに、炭酸のジアミド,カルバミン酸のアミドも含まれる。一般にはホスゲン,クロロギ酸エステル,塩化カルバモイル,炭酸エステル、イソシアネート、シアン酸などにアンモニア等のアミン類を作用させれば得ることが出来る。
また、尿素に酸塩化物を作用させたウレイド(アシル尿素)や、尿素の水素を炭化水素基で置換したアルキル尿素(ウレイン)など、一般に尿素類と呼ばれる化合物も本態様でいう尿素化合物に含まれる。
【0034】
また、本態様でいう尿素化合物は尿素アダクトも含有する。
尿素アダクトとは、一例を挙げて説明すると炭化水素と尿素の飽和水溶液またはメタノール等低級アルコールの飽和溶液とを混合すると得られる尿素の結晶構造の中に炭化水素を取りこんだものを指す。
【0035】
エポキシ樹脂組成物中の、C成分の含有率は、1〜15質量%であることが必要である。3質量%以上であることが好ましく、12質量%以下であることが好ましい。1質量%未満であると充分に硬化反応が完了しない場合があり、15質量%を超えると使用可能期間が短くなり、室温付近では長期間保存できない恐れがある。
【0036】
さらに、C成分として固体のものを用いる場合は、平均粒径が、150μm以下、さらに好ましくは50μm以下であることが好ましい。平均粒径が150μm以下を超えると、粒子の分散速度が低下するため、結果として硬化反応の速度が低下し、本発明の最も重要な効果である短時間での硬化が達成できなくなる恐れがある。
【0037】
(D成分)
第一の態様におけるD成分は、ジシアンジアミドである。このジシアンジアミドはエポキシ樹脂の硬化剤としてはたらき、本態様における他の成分と組み合わせて用いることにより、比較的低温での硬化ができるものである。
本態様においては、エポキシ樹脂組成物中のD成分の含有率は0.1〜10質量%であることが好ましい。また、D成分の平均粒径は150μm以下、特に、50μm以下であれば、分散性が良くなって反応速度が速くなるので好ましい。
【0038】
(その他の添加剤)
第一の態様のエポキシ樹脂組成物には、さらに、微粉末状のシリカなどの無機質微粒子、顔料、エラストマー、難燃剤となる水酸化アルミニウムや臭素化物又はリン系化合物、脱泡剤、取り扱い性や柔軟性の向上を目的としたポリビニルアセタール樹脂やフェノキシ樹脂といったエポキシ樹脂に溶解する熱可塑性樹脂、硬化反応の触媒となるイミダゾール誘導体、金属錯体塩又は3級アミン化合物等を適量添加してもよい。
【0039】
(エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子の含有率)
第一の態様のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子の含有率が0.2〜7質量%でなければならない。0.2質量%未満であると、低温で短時間での硬化の完了が困難となり、7質量%を超えると、使用可能期間が短くなる恐れがある。
【0040】
(ゲルタイム)
第一の態様のエポキシ樹脂組成物は、130℃でのゲルタイムが200秒以下であることが好ましい。本態様において、ゲルタイムとは未硬化のエポキシ樹脂組成物に特定の温度をかけたとき、ゲル化が完了するまでの時間である。ここで、ゲル化とは、エポキシ樹脂組成物が分子間で3次元的網目構造を形成して、流動性を失った状態をいう。
130℃でのゲルタイムが200秒以下であるエポキシ樹脂組成物は、特に短時間での硬化を実現できる。
【0041】
(エポキシ樹脂組成物の製造方法)
本態様のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、例えば、上述のA成分、B−1、C成分、D成分及びその他の添加剤を適量添加して混合すればよい。このとき、前述したように、添加したA成分やB−1成分の一部又は全部が反応してB−2成分に変化することは差し支えない。
また、あらかじめ、A成分とB−1成分とを混合して、B−2を含む樹脂組成物を調製してから、さらに、C成分及びD成分と混合してもよい。
なお、混合時の温度は、50〜180℃、より好ましくは、60〜160℃とすることが好ましい。
【0042】
(プリプレグ)
上述したエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として強化繊維に含浸することで、比較的低温で短時間で成形可能なプリプレグが得られる。プリプレグの製造は、公知の装置及び製造方法により行うことができる。
【0043】
第一の態様のプリプレグに適用できる強化繊維は、複合材料の使用目的に応じて様々なものが使用でき、特に限定されない。例えば炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、タングステンカーバイド繊維、ガラス繊維などが好ましく用いられる。また、これらの複数の強化繊維を組み合わせて用いてもかまわない。
これらの強化繊維のうち、炭素繊維や黒鉛繊維は、比弾性率が良好で軽量化に大きな効果が認められるので本発明に好適である。また、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維又は黒鉛繊維が用いることができるが、引張強度3500Ma以上、引張弾性率190GPa以上が特に好ましい。
【0044】
また、プリプレグ中の強化繊維の形態としては特に限定しないが、強化繊維を、一方向に引き揃えたものや製織されたもの又は短く裁断した強化繊維を用いた不織布等とすることができる。特に、一方向に引き揃えたものや製織されたものの場合、これまでは、圧縮成形法での成形は、硬化までに時間がかかると樹脂が型内で流動するため、外観が良好な繊維強化複合材料は得られなかったが、本態様のエポキシ樹脂組成物を用いると、エポキシ樹脂組成物が短時間で硬化するため、外観が良好な繊維強化複合材料が得られる。
【0045】
第二の態様
以下に本発明の第二の態様について説明し、各文の具体的説明や本態様の好ましい例等について詳細に記載する。
第二の態様により、室温での取り扱い性や室温での長いライフに優れ、成形後の良好な物性を維持しながら、産業用途に要求されるような高速成形が可能なプリプレグに好適な優れた熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0046】
『粘度の測定』
本発明者は、上記した課題を解決するために鋭意検討した結果、熱硬化性樹脂組成物の粘度、加熱状態(具体的には120℃)での目標粘度への到達時間、及び、放置後の粘度が重要であることを確認するに至った。第二の態様において、粘度の測定は、レオメトリックス社製のRDS−200(同等の性能を有する動的粘度測定装置でも可。)を用いて行われ、得られた値は、25mmφのパラレルプレートを用い、1Hzの周波数で測定した値である。加熱状態(具体的には120℃)の温度への昇温条は、その項で詳細に説明する。
【0047】
『50℃での粘度が5×10〜1×10Pa・secであること』
第二の態様の熱硬化性樹脂組成物は、50℃での粘度が5×10〜1×10Pa・secであることが必要である。
この粘度が5×10Pa・sec未満である場合には、プリプレグとしたとき、室温付近でのタックが強くなりすぎて非常に扱いづらいものとなってしまう。逆にこの粘度が1×10Pa・secを超える場合には、プリプレグのドレープ性がなくなってかたくなってしまい、やはり扱いづらいものとなってしまう。
【0048】
『120℃の雰囲気下で1000秒以内に1×10Pa・secに到達する』
次に、第二の態様では熱硬化性樹脂組成物は、120℃で1000秒以内に1×10Pa・secに到達しなければならない。
粘度が1×10Pa・secに達するまでの時間が1000秒を超える場合には、高温での成形時間が長くなってしまう。800秒以内の場合には、高温での成形時間が短くなるので好ましく、600秒以内の場合は更に好ましい。
測定方法は、『粘度の測定』で述べた方法で測定するが、加熱状態(具体的には120℃)の温度への昇温条件は、次のようにして実施する。すなわち、50℃で熱硬化性樹脂組成物サンプルをセットした後、10℃/分の昇温速度で120℃まで昇温し、120℃で等温粘度を測定する。温度が120℃に達した時点より、計時を開始し、粘度が1×10Pa・secに達するまでの時間を計時する。1×10Pa・secまでの粘度測定が困難な場合には、最低1×10Pa・sec程度までの粘度を測定し、最後の2点を外挿して1×10Pa・secに達する時間を算出する。ただし最低でも1桁以上の粘度測定を実施することが必要である。つまり、1×10Pa・secでのデータを外挿して1×10Pa・secの粘度を求める場合には120℃に達した時の粘度が1×10Pa・sec以下でなければならない。
【0049】
『30℃で3週間放置した後の50℃での粘度の増加が2倍以下である』
そして、第二の態様の熱硬化性樹脂組成物は、30℃で3週間放置した後の50℃での粘度の増加が2倍以内でなければならない。
粘度の測定方法は、『粘度の測定』と同様である。この粘度の増加が2倍を超える場合には、プリプレグの室温付近での安定性が悪くなってしまう。
【0050】
『樹脂組成』
第二の態様の熱硬化性樹脂組成物の原料としては、特に制限はなく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、BT樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾキサジン樹脂、アクリル樹脂等が例示できるが、取り扱い性、硬化物物性からエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、BT樹脂、シアネートエステル樹脂が好ましく用いられ、中でもエポキシ樹脂は補強材との接着に優れる為に特に好適に用いられる。
本態様の熱硬化性樹脂組成物には、プリプレグの取り扱い性が向上、成形後のFRPの外観の向上や耐衝撃性などの物性の向上を目的として、熱可塑性樹脂やその他添加剤を添加することも可能である。
【0051】
第二の態様に好適に添加できる熱可塑性樹脂としては、例えばポリアラミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、等が例示できる。
又、そのほか添加剤としては、エラストマーとしてはブチルゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、等の合成ゴムやラテックスなどの天然ゴム、等が例示できる。
【0052】
『フィラーの添加』
第二の態様の熱硬化性樹脂組成物には、得られるFRPの表面平滑性を良好なものとするため、フィラー等の充填材を添加することが好ましい。フィラーとしては炭酸カルシウムが好ましく、炭酸カルシウムの粒径としては3〜10μmが好ましい。
フィラーの添加量としては、熱硬化性樹脂組成物の樹脂の種類によっても異なるが、熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して10〜300質量部が好ましい。
なお、本態様の熱硬化性樹脂組成物に上記のような添加剤を添加する場合も、最終的にプリプレグに含浸させる熱硬化性樹脂組成物で上記した粘度条件を満足しなければならないのは、言うまでもない。
【0053】
『プリプレグ』
第二の態様のプリプレグは、本発明の熱硬化性樹脂組成物を補強材に含浸してなるプリプレグである。本態様のプリプレグに用いられる補強材の素材としては特に制限はなく、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、ボロン繊維、スチール繊維、等が例示できるが、得られるFRPの性能、特に軽量で高強度、高剛性の機械物性の得られる炭素繊維、ガラス繊維が好ましく用いられる。
【0054】
第二の態様のプリプレグに用いられる補強材の形態としても特に制限はなく、平織、綾織、朱子織、や繊維束を一方向、あるいは角度を変えて積層したような状態のものをほぐれないようにステッチしたノン・クリンプト・ファブリックのようなステッチングシート、あるいは不織布、マット状物、更には強化繊維束を一方向に引きそろえた一方向材、等が例示できるが、取り扱い性に優れた織物、あるいはステッチングシートが好適に用いられる。
本態様のプリプレグの樹脂含有量としては、特に制限はないが、樹脂含有量が少ないほど、得られるFRPの外観が良好となり、又、補強材の補強効果が大きくなるので好ましい。具体的には、プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の体積含有率が45体積%以下であることが好ましく、40%体積以下は更に好ましく、35体積%以下は特に好ましい。
プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物の体積含有率の下限については、熱硬化性樹脂組成物の含有量が少なすぎると、FRPの隅々にまで熱硬化性樹脂組成物が充填されないケースが発生するので好ましくない。具体的には熱硬化性樹脂組成物の含有量は20体積%以上が好ましく、25体積%以上は更に好ましい。
【0055】
『FRPの製造方法』
第二の態様のFRPの製造方法は、本態様のプリプレグを成形型にセットし、型を閉じて加熱、加圧して成形するFRPの製造方法である。成形型としては特に制限はないが、金属製の成形型は高圧が加わっても方が変形しにくいので好ましい。
【0056】
加熱する温度にも特に制限はないが、高い温度であるほど成形時間を短くすることができるので好ましい。具体的には120℃以上が好ましく、140℃以上は更に好ましい。しかしながら温度が高すぎると成形型の温度を下げるのに非常に時間がかかる、又は、温度を下げずにプリプレグをセットする場合は硬化が始まって最終成形物の隅々にまで樹脂が行き渡らないこともある。そのため加熱は200℃以下が好ましく、180℃以下は更に好ましい。加圧の程度についても特に制限はないが、高圧で成形した方が表面のピンホールやFRP内部のボイドが低減される為好ましい。具体的には、プリプレグに加わる圧力で0.5MPa以上が好ましく、1MPa以上は更に好ましい。上限は100MPaあれば十分である。
成形する設備、様式についても特に制限はないが、油圧式の加熱プレスを使用する方法が最も効率が良く、本発明のFRPの製造方法に適している。その際の成形型については、シェアエッヂ構造を有する密閉系の成形型が好ましい。
【0057】
第三の態様
以下に本発明の第三の態様について説明する。
第三の態様では、連続繊維を使用したFRP板材、特に外板としての構造、材料、表面の総合問題を解決する、優れたプリプレグ及びFRP板材が提供される。
【0058】
<プリプレグ>
『成形圧力』
第三の態様のプリプレグは、10kg/cm以上の成形圧で、実質的に連続した強化繊維にマトリックス樹脂を含浸したプリプレグを成形することが、FRP板材の中心線平均粗さ(Ra)を0.5μm以下の良好な表面品位を有し、ひいては長期の使用にも耐える表面品位を有するために必要である。
成形時の圧力が10kg/cm未満の場合は、良好な表面品位とすることが難しい。
【0059】
『成形時間』
第三の態様では、成形時間15分以内で加熱硬化することが、特にコスト意識が高い輸送機器用途に用いられるFRP板材を得るために必要であり、さらに10分以内であることが好ましい。本発明において、成形時間というのは、プリプレグに成形温度・圧力がかかる状態に置かれる時間のことをいう。
【0060】
『強化繊維』
第三の態様で使用できる強化繊維は、実質的に連続した強化繊維であれば特に種類は限定されず、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ボロン繊維などを用いることができる。中でも、航空機や自動車等の部材としては、比強度比弾性の高い炭素繊維が最も好適に用いることができる。
成形材料中の強化繊維の形態は、強化繊維を一方向に引き揃えたもの、強化繊維を製織したものなどを用いることができ、特に限定されない。例えば、FRPの意匠性を高めるために、FRPの表面の成形材料を強化繊維の織物で強化し、内部は強化繊維を一方向に引き揃えたものとするなど、複数の強化形態のものを併用することも可能である。
なお、本明細書において、実質的に連続した強化繊維とは、成形材料の内部に端部を実質的に有さないものをいう。
【0061】
本態様のプリプレグでは、強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、PAN(ポリアクリルニトリル)系、ピッチ系のいずれかのものを用いることができる。PAN系の炭素繊維は強度、弾性率、伸度のバランス上から織物を作る上でより好ましい。外板用としては、強度と弾性率は高ければ高いほど好ましいが、耐衝撃性を持たせるには、伸度が1.4%以上の炭素繊維が好ましい。FRPの伸度はJIS K−7054に準じて求められるもので、厳密には引張破壊歪みをさす。
【0062】
『炭素繊維織物』
炭素繊維織物は、連続繊維状態で平織り、綾織り、繻子織り等の織物形態とする。中でも、本発明における織物は、炭素繊維織物の目付け(Wg/m)と厚み(tmm)の比率(W/t)が700〜1700の範囲内であることが好ましい。
【0063】
本範囲内である織物は、薄物と呼ばれ、目付けの割には薄く、繊維が広がった構造を有している。これは繊維の厚み方向のうねりが小さいため、強度及び剛性が高く発現して、外板をより軽量化にできる。また、織物表面の凹凸が小さいため、外板の表面品位も向上し、FRP板材の耐久性が向上からである。なお、織物の目付と厚みはJIS R7602により測定する。
さらに、炭素繊維織物のカバーファクターは90〜100%の範囲内であると、樹脂のみからなる部分が極めて少なく、面外衝撃特性が高くなるとともに、樹脂の厚み方向への収縮による表面凹凸や凹凸ムラが無くなり高い写像鮮映性を得られて好ましい。貫通衝撃において、飛来物が小片の場合も想定すると、より好ましいカバーファクターは95〜100%の範囲内である。
【0064】
炭素繊維織物のカバーファクターCfは、特開平7−118988号公報に記載、定義されているように、織糸間に形成される空隙部の大きさに関係する要素で、織物上に面積Sの領域を設定したとき、面積S内において織糸間に形成される空隙部の面積をsとすると、次式で定義される値をいう。
【0065】
カバーファクターCf(%)={(S−s)/S}×100
【0066】
なお、該織物は、外板の物性のうち、特に重要な面剛性や表面品位に寄与するものであるから、該織物の位置は、板の表面層近くにあることが好ましい。外板の表層に高剛性の炭素繊維が存在することで、外板の面剛性がより高くなり、軽量化が可能となる。
最も好ましい位置は最外層である。また、2軸や3軸などの多軸織物が最外層にあると、ユニークな織物の意匠性を外板に付与することもできる。さらに、目付けと厚みの関係が上記範囲の織物を最外層に位置させることで、外板の表面は極めて平滑となり、薄い塗膜を設けた際にも極めて平滑となる。
【0067】
すなわち、炭素繊維織物の目付け(Wg/m)と厚み(tmm)の比率(W/t)が700〜1700の範囲内である前記の薄物織物は、繊維の厚み方向への凹凸、蛇行が小さいため、外板とした場合に、表面の樹脂層の厚み変化が小さく、塗装前、塗装後ともにより平滑な表面が得られるからである。
【0068】
又、カバーファクターが上記90〜100%の範囲内であると、外板の厚み方向において、樹脂のみからなる箇所が無くなることから、写像鮮映性という耐久性上極めて重要な特性が向上し、実用性が高まり好ましい。
【0069】
『炭素繊維以外の強化繊維』
本発明では、炭素繊維以外に、ガラス繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維などの無機繊維、アラミド系繊維やナイロン等の有機繊維を併用しても差し支えない。これらの長繊維、短繊維、織物状、マット状にしたもの、あるいはこれら形態の混合などを炭素繊維や樹脂中に規則的または、不規則的に配置させることで耐衝撃性、振動減衰特性などを向上させることができる。
中でも、ガラス繊維は価格が安く、圧縮/引張の強度バランスが良い。ガラス繊維とは、二酸化珪素(SiO)を主成分とするいわゆるEガラス、Cガラス、Sガラスなどの繊維状ガラスのことで、繊維径は5〜20μm程度のものであることが好ましい。ガラスクロスは剛性を向上させると同時に、樹脂を保持するので、成形性が良好となる。適切なのは、織物目付が20〜400g/mのものである。表層に使用する場合には、20〜50g/mであると、織物の意匠性を害さず、また、透明感も保持できて好ましい。
【0070】
ガラス繊維の使用量は、剛性が必要な場合は、炭素繊維の50重量%以下、耐衝撃特性が必要な場合は、80重量%以下とすることが好ましい。
【0071】
なお、有機繊維は、炭素繊維やガラス繊維のように脆性ではなく、延性であり、しなやかで、屈曲させても容易に破断しないという特徴がある。また、合成繊維は炭素繊維と比較した場合、電気腐食の可能性がないという特徴があるため、電気腐食対策を必要としないという長所もある。
又、ガラス繊維と比較した場合には、燃焼が可能であるため廃棄が容易であるという特長、さらには比重がガラス繊維の約半分であるので部材を極めて軽量にすることができるという特長もある。
【0072】
『マトリックス樹脂』
第三の態様のFRP板材を構成する樹脂は、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂及びこれら樹脂を変性した変性樹脂からなる。
なかでも耐薬品性、耐候性などに優れるエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂及びこれら樹脂の変性樹脂が好ましい。又、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂も難燃性に優れ、耐熱性の要求される外板には好ましい。
又、アクリル樹脂等の透明樹脂は、意匠性上好ましい。中でもアクリル系樹脂は、耐候性に優れ好ましい。さらに、これら透明樹脂中に紫外線吸収剤や太陽光吸収剤、酸化防止剤を3から20%添加することで、さらに耐候性を向上させることができる。
【0073】
『樹脂組成物(1)』
さらに第三の態様に使用される好ましいマトリックス樹脂として、本発明の第一の態様であるエポキシ樹脂組成物(第一の態様の記載参照。以下樹脂組成物(1)と記載する場合がある。)が挙げられる。なお第一の態様の樹脂組成物に記載される材料、条件や好ましい例等は、特に問題のない限り、第三の態様でも好ましい。
【0074】
この樹脂組成物(1)を用いた場合は、比較的低温で短時間に硬化できるので、このエポキシ樹脂組成物を用いて得られるプリプレグは、室温での保存においても十分な使用可能期間を有し、かつ、このプリプレグから得られるFRP板材は、優れた機械物性を発現する。さらに、このプリプレグを用いることで繊維強化複合材料の成形において加工時間を短縮できるので、低コストでの製造が可能である。
【0075】
(その他の添加剤)
樹脂組成物(1)には、第一の態様に述べられるのと同様の添加剤が使用可能である。
【0076】
(樹脂組成物(1)中の硫黄原子の含有率)
樹脂組成物(1)は、第一の態様に記載されるのと同様の硫黄原子の含有率を有することができる。
【0077】
(ゲルタイム)
樹脂組成物(1)は、第一の態様と同様のゲルタイムを有することが好ましい。
【0078】
(樹脂組成物(1)の製造方法)
樹脂組成物(1)は、第一の態様と同様の方法で製造することができる。第一の態様で好ましい条件は第三の態様においても同様に好ましい。
【0079】
(プリプレグ)
第三の態様では、第一の態様と同様に、上述した樹脂組成物(1)をマトリックス樹脂として強化繊維に含浸することで、得ることができる。強化繊維の種類や形態等も、第一の態様と同様のものを使用でき、好ましい例は同様に好ましい。
プリプレグ中の強化繊維の形態としては特に限定しないが、強化繊維を、一方向に引き揃えたものや製織されたもの又は短く裁断した強化繊維を用いた不織布等とすることができる。特に、一方向に引き揃えたものや製織されたものの場合、これまでは、圧縮成形法での成形は、硬化までに時間がかかると樹脂が型内で流動するため、外観が良好な繊維強化複合材料は得られなかったが、本態様のエポキシ樹脂組成物を用いると、エポキシ樹脂組成物が短時間で硬化するため、外観が良好な繊維強化複合材料が得られる。
【0080】
以上詳細に説明したように、樹脂組成物(1)は、比較的低温で短時間に硬化できるものである。よって、このエポキシ樹脂組成物を用いて得られるプリプレグは、室温での保存においても十分な使用可能期間を有し、かつ、このプリプレグから得られるコンポジットは優れた機械物性を発現するといった効果が得られる。さらに、このプリプレグを用いることで繊維強化複合材料の成形において加工時間を短縮できるから、低コストでの製造が可能である。
【0081】
『樹脂組成物(2)』
又、第三の態様のプリプレグに好ましく用いられるマトリックス樹脂は、その硬化特性から考えると、本願の第二の態様の熱硬化性樹脂組成物(第二の態様参照。以下、樹脂組成物(2)と記載することがある。)を使用することも、好ましい。なお第二の態様の樹脂組成物に記載される材料、条件や好ましい例等は、特に問題のない限り、第三の態様でも好ましい。
この熱硬化性樹脂組成物は、室温での取り扱い性、室温での長いライフ、及び成形後の良好な物性を維持しながら、なおかつ、産業用途に要求されるような高速成形、が可能なプリプレグのマトリックス樹脂として好適なものである。そして、プリプレグは、室温での取り扱い性、室温での長いライフ、及び成形後の良好な物性を維持しながら、産業用途に要求されるような高速成形が可能であり、産業用途に要求されるような高速成形が可能となる。
【0082】
次に、樹脂組成物(2)について詳細に説明する。
(粘度の測定)
第二の態様と同様にして測定が行われる。
【0083】
(50℃での粘度が5×10〜1×10Pa・secであること)
第二の態様における説明と同様である。
【0084】
(120℃の雰囲気下で1000秒以内に1×10Pa・secに到達すること)
第二の態様における説明と同様である。
【0085】
(30℃で3週間放置した後の50℃での粘度の増加が2倍以下であること)
第二の態様における説明と同様である。
【0086】
(樹脂組成)
第二の態様に記載される樹脂組成を同様に使用可能である。
【0087】
(フィラーの添加)
第二の態様に記載と同様に使用可能である。
【0088】
(プリプレグ)
第二の態様に記載にそって、同様に製造可能である。第二の態様において量や材料などの好ましい例は、第三の態様でも同様に好ましい。
【0089】
(FRPの製造方法)
第二の態様と同様にして、第三の態様でFRPを製造できる。第二の態様で好ましい製造条件や方法、設備等の例は、第三の態様においても同様に好ましい。
樹脂組成物(2)は、室温での取り扱い性、室温での長いライフ、成形後の良好な物性を維持しながら、なおかつ、産業用途に要求されるような高速成形が可能なプリプレグのマトリックス樹脂に好適な熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0090】
又、樹脂組成物(2)によるプリプレグは、室温での取り扱い性、室温での長いライフ、成形後の良好な物性を維持しながら、産業用途に要求されるような高速成形が可能である。更に、産業用途に要求されるような高速成形が可能である。樹脂組成物(2)は、高速成形に非常に適しており、FRPの最大の欠点であった成形加工費の低減に大いに役立つものである。
【0091】
『プリプレグにおけるマトリックス樹脂の割合』
プリプレグにおけるマトリックス樹脂の割合は、質量比で20〜45%の範囲内であることが好ましい。45%を上回るとFPR平板としての剛性、耐衝撃性を金属製外板並にするには、軽量化を犠牲にしなくてはならなくなる可能性があるからである。
又、20%以上である理由は、20%未満では、マトリックス樹脂の含浸が難しくなり、ボイドが発生して物性上好ましくない場合があるからである。
プリプレグにおけるマトリックス樹脂の割合が20〜30%で、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ樹脂に難燃剤を添加しなくても充分な難燃性が得られるので好ましい。
【0092】
『表面粗面化度−中心平均粗さ(Ra)』
本態様のプリプレグは、上で述べた成形条件で得られるFRPの表面の中心平均粗さ(Ra)が0.5μm以下であることが、FRP板材表面の凹凸に起因する外観の低下や耐久力低下の点で必要である。中心平均粗さ(Ra)が0.5μm以下である場合は、さらに好ましい。凹凸は、塗装によっても消えずさらに顕著となる。又、外観を損ねるだけでなく、その大きさに応じて凹部の先端での応力集中が大きくなり、破壊が進行するため、凹凸は小さい方が外板の耐久性は向上する。
【0093】
本態様において、FRP表面の中心平均粗さ(Ra)は、株式会社ミツトヨ製表面粗さ測定機178−368(解析ユニット178)を用いて、カットオフ値:2.5mm、測定区間:2.5×5mm、レンジ:5μmで測定したものである。もちろん、FRP表面は、金型面の傷に由来する凹凸を生じる場合があるので、上で述べた測定においてもこのような部分は除外して測定する。
【0094】
『成形方法』
本態様のプリプレグは、例えば次のようにして硬化することによって、FRP平板を得ることができる。
型を締めた時に型の内部から気体の流出は可能であるが、樹脂の流出を抑制できる構造を有する、表面精度を#800以上とした型を予め熱硬化性樹脂の硬化温度以上に調温し、その型内に、上述の、連続の炭素繊維からなるプリプレグの積層体を入れたのち、型を締めて、型の内部のすべてをプリプレグの積層体で満たし圧縮成形する。
そして、型が有する、「型を締めた時に型の内部から気体の流出は可能であるが、樹脂の流出を抑制できる構造」としては、一般にシェアエッジ構造と呼ばれる構造やゴムシール構造が挙げられる。
【0095】
又、型は、型を締めた時あるいは型を締めつつある時に内部を脱気できる構造を有していることが好ましい。
この脱気機構としては、型の内部に開閉可能な孔を設け、型外部に開放する、前記孔とポンプで内部を脱気した容器とバルブを介して連通し、型内部が閉じられたときにバルブを開き、型内部を一気に脱気するなどの方法がある。
【0096】
更に、FRP板材の成形終了後、FRP板材の取り出しを容易にするために、イジェクタピンやエアブロー弁等のFRP板材を脱型する機構を型に取り付けることも可能である。これにより、型の冷却を待たずに容易にFRP板材を取り出すことが可能となるので大量生産に好適である。なお、脱型する機構は、イジェクタピン、エアブロー弁またはそれ以外の機構であっても従来公知のいかなるものを用いることに差し支えない。
【0097】
その型内(片面表面積がS)に、上述の、連続の炭素繊維からなるプリプレグの積層体(片面表面積S)をS/Sが0.8〜1となるように入れることが、マトリクス樹脂が加圧で極端に流動することがなく好ましい。マトリクスの流動は、強化繊維を流動させ、FRP板材表面の凹凸を発生させる。凹凸は、塗装によっても消えずさらに顕著となる。又、外観を損ねるだけでなく、その大きさに応じて凹部の先端での応力集中が大きくなり、破壊が進行するため、凹凸は小さい方が外板の耐久性は向上する。
FRP板材は、硬化後、脱型し、さらにスプレーガン等の均一塗装法を施すことで得ることができる。成形時の樹脂の成形収縮、熱収縮も表面品位に影響するので、樹脂の成形収縮が小さいエポキシ樹脂、タルクやガラス微粒子や炭酸カルシウムなどのフィラーを混入した低収縮樹脂が好ましい。
【0098】
成形温度は、外板が使用される温度より10℃以上であることが好ましく、自動車外板では、90℃以上、より好ましくは110℃以上であるが、130℃以上であることが成形時間の短縮の上から好ましい。
【0099】
『FRP板材』
FRP板材の厚みは、用途により異なるが、自動車等の地上を走る輸送機器の外板の場合は、0.5〜8mmの範囲内が好ましい。本範囲以下では、耐貫通特性に問題が生じる場合があり、以上では軽量性が十分ではない。
空を移動する輸送機器の場合は、速度がさらに早いので、1〜10mmの範囲が好ましい。
又、サンドイッチ構造、コルゲート構造や外板の一部にフレームを設けた構造とすることも好ましい対応である。
【0100】
第三の態様のFRP板材は、強化繊維として連続の炭素繊維を用いることで、炭素繊維の特徴の一つである高い弾性率と強度を発現させることができ、外板として必要なへこみに対する抵抗、剛性感、強度が軽量で達成できる。かつ、連続繊維であることから、外板に極めて重要な特性である耐貫通衝撃特性が得られる。すなわち、短単繊維では達成できない軽量さで、剛性と衝撃特性が得られる。勿論、変形抵抗、最大荷重、変位量、エネルギー吸収も大きい。
さらに、連続繊維は織物形態をしていることから、一方向に配列するプリプレグを積層した場合よりも、同じ量の強化繊維でありながら、耐貫通衝撃特性はさらに高いものとなる。原理的には、織物は繊維が交差するネット状に似た構造であるため、飛来物を捕獲することができるためである。
【0101】
又、織物は、一層(単層)で直交する2方向の物性が等しく、一方向に配列するプリプレグを積層した場合よりも、少ない枚数で外板を構成できてより軽量となる。例えば、2枚のプリプレグを直交させて積層した外板とすると、硬化時の熱収縮により、鞍型と呼ばれる面外のねじれ変形が生じる。本面外変形は、外力型でなく、温度変化によっても生じる。外板に面内応力が作用した場合にも発生して、外板をいびつに変形させて、外観上、空力上、好ましくない。
さらに、強化繊維を、軽量かつ高弾性率、高強度である炭素繊維とすることで、外板は、軽量で高機械物性となり、また、耐環境性上も優れる。
【0102】
『塗装』
本発明のFRP板材は、表面に塗装を施しても良い。塗装は、ゲルコートより薄く(通常150ミクロン以下)軽量である。塗装により色だけでなく、特性の選択枝が多い。適切な塗料を選定することで、表面の光沢や凹凸、低温・高温環境、耐水性、耐紫外線環境など、FRP板材のみではカバーしきれない特性や機能を付与することができ、初めて外板としての実用性が生じるからである。
例えば、FRP板材の樹脂部分が耐紫外線に弱い樹脂のような場合には、耐紫外線に優れる塗装を施すことで、外板としての耐紫外線特性を賦与することができる。もちろん、様々な外観(化粧)も可能であり、意匠上も塗装は好ましい。外板では、安全への配慮等から他の部材と色合わせを行う必要があり、塗装により微妙な色合わせが可能となる。また、塗装することで、FRPに直接水分や、光線が入射しないことから、耐環境性に優れる高耐久外板が可能となる。又、塗装は、流体抵抗上も好ましい。
【0103】
なお、好ましいのは、塗装の厚みは20〜200μm以下である。200μmを越えると、塗膜が剥がれ易くなり、機械特性や外観上好ましくない。また、20μm未満であると、直接太陽光などの光線が入射して、劣化を来したり、また、塗りムラが出やすく、意匠性上も好ましくない。本範囲内であることで、重量増加も伴わず、耐久性上も好ましいFRP外板となる。より好ましくは、40〜100μmである。
塗料は、例えば、シリコン/エポキシ系樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、フッソ樹脂塗料、カシュー樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、フェノール樹脂塗料、油性ペイント、油ワニス、ニトルセルロース・ラッカー等の合成樹脂塗料や水溶性樹脂塗料、プライマー・サーフェーサ、プライマーサーフェーサ・パテ等も含む塗料から選ぶことができる。
【0104】
塗料は、大別して、1液型、2液型、多液型の自然乾燥または常温乾燥塗料、焼き付け塗装、紫外線硬化塗料、電子線硬化塗料などに大別される。また、塗装法により、吹き付け用塗料、ロール用塗料、フローコータ用塗料、ハケ用塗料等と呼んだりする。
なお、塗料の選定には、FRPの樹脂と接着性の良い塗料組成を選ぶことが好ましい。また、FRPは金属に比べ耐紫外線性に劣るので、耐候性に優れる塗料を選定することが好ましい。具体的には、太陽光遮断塗料や紫外線遮断塗料とよばれるもので、アルキド・アクリル・ウレタンのビヒクルにカーボンブラックを顔料としてUV吸収剤、あるいは還元テロポリ酸等を配合したものや、酸化コバルト、酸化銅、鉄黒等の黒色顔料を添加したアクリル・ウレタン・エポキシ・シルコーン塗料や、フッ素系統塗料などがある。クリアー塗装の場合には、特に上記添加剤が不可欠である。
【0105】
又、カーボンブラックやグラファイト、金属粉末等の導電フィラーを分散させた導電塗料が好ましい。酸化スズや酸化アンチモン系の導電体を添加した塗料は、透明性導電塗膜を与えるので、炭素繊維織物の意匠性を利用する場合や、自動車などの外板に静電気による埃や汚れの付着を抑制する帯電防止上効果を賦与する目的では好ましい導電塗料である。
又、夜間等に注意を喚起する必要性の高い輸送機器の外板には、JIS K5671に記載されている発光塗料(夜光塗料)を外板全体または一部に施すことも有効である。
【0106】
塗装方法は、スプレー(吹き付け)塗装(エアーガンやエアーレス方式など)、静電塗装(静電噴霧化方式やガン方式など)、電着塗装(カチオン形やアニオン形など)、粉体塗装(溶射法、流動浸漬法、静電粉体塗装法など)のほか、公知の特殊塗装法も適用する
ことができる。
【0107】
中でも、本態様のFRP板材に好ましいのは、耐熱性が金属よりも低いため、乾燥温度を120℃以下、FRPを陽極とした静電塗装が塗着性に優れ好ましい。また、炭素繊維は導電性であることから、静電塗装も塗料の使用効率が高く好ましい塗装法である。
なお、本厚みの塗装を施すにあたり、FRP板材の表面は、離型剤を取り除くための脱脂やサンディングを施すことが好ましい。離型剤に非シリコン系のものを用いることで脱脂やサンディング作業を無くしたり、低減したりすることができる。塗装の温度は、外板の耐熱温度と深く関係しており、耐熱温度付近で塗装乾燥することが好ましい。自動車用外板の場合は、耐熱温度は100℃程度であり、塗料の乾燥温度は60〜110℃の範囲とすることが好ましい。また、乾燥時間は3分〜60分程度である。
【0108】
塗装の色は、他の部材との配色で決定されるが、炭素繊維織物を補強基材としている本態様のFRP外板においては、FRP部分の劣化の状態、内部損傷の状態を目視で観察できるクリアー塗装とすることが好ましい。クリアーであることで、FRPの状態を精緻に把握でき、金属外板しか経験のない第3者にFRP外板を使用する機運を芽生えさせる効果もある。もちろん、クリアー塗装は、織り構造の意匠性を利用して商品価値を高める効果も有する。なお、クリアー塗装は外板の全体であっても一部であっても差し支えない。
【0109】
なお、クリアー塗料の代表的なものは、シリコン/エポキシ系塗料、アクリル系塗料であるが、ウレタン系であっても、これら塗料の混合、アロイ系であっても、有色クリアーであっても差し支えない。
炭素繊維織物は目付と厚みの比率が大きい構造の織物が適切である。塗装は、スプレーガンなどのように均一に薄く塗膜形成できる塗装法とする。塗膜が薄すぎても厚すぎても写像鮮映性は低下する傾向があるので、適切な厚みとすることが好ましい。
【0110】
『FRP板材の用途』
本態様のFRP板材は、二輪車、自動車、高速車輌、高速船艇、単車、自転車、航空機など輸送機器の内・外板として利用することができる。
具体的には、オートバイフレーム、カウル、フェンダー等の二輪車パネル、ドア、ボンネット、テールゲート、サイドフェンダー、側面パネル、フェンダー、トランクリッド、ハードップ、サイドミラーカバー、スポイラー、ディフューザー、スキーキャリアー等の自動車パネル、エンジンシリンダーカバー、エンジンフード、シャシー等の自動車部品用途、先頭車両ノーズ、ルーフ、サイドパネル、ドア、台車カバー、側スカートなどの車輌用外板用途、荷物棚、座席等の車輌用インテリア、ウイングトラックにおけるウイングのイナーパネル、アウターパネル、ルーフ、フロアー等、自動車や単車に装着するエアースポイラーやサイドスカート、などのエアロパーツ用途、窓枠、荷物棚、座席、フロアパネル、翼、プロペラ、胴体等の航空機用途、ノートパソコン、携帯電話等の筐体用途、X線カセッテ、天板等のメディカル用途、フラットスピーカーパネル、スピーカーコーン等の音響製品用途、ゴルフヘッド、フェースプレート、スノーボード、ウィンドサーフィンボード、プロテクター(アメリカンフットボール、野球、ホッケー、スキー等)のスポーツ用品用途、板バネ、風車ブレード、エレベーター(籠パネル、ドア)等の一般産業用途、である。なお本発明でいう板材とは、平板だけではなく、もちろん曲率を有する板材も含まれる。
【0111】
第四の態様
以下に本発明の第四の態様について詳細に説明し、さらに文の説明や好ましい製造条件等について述べる。
第四の態様では、高強度でかつ意匠性に優れた繊維強化複合材料成形品を、圧縮成形法を用いて短時間に製造できる優れた方法を提供する。
【0112】
(実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸してなる成形材料)
本態様で用いる成形材料(プリプレグ)は、実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸してなる成形材料である。
【0113】
本態様で使用できる強化繊維は、第三の態様で述べられた強化繊維を使用でき、好ましい例は本態様でも同様に好ましい。
【0114】
第四の態様で用いる熱硬化性樹脂は、FRPのマトリックス樹脂として使用される公知の熱硬化性樹脂であればよく、エポキシ樹脂、不飽和ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂等をいずれも好適に用いることができる。なかでも、硬化後の機械特性が高く強化繊維との接着性にすぐれたエポキシ樹脂は、成形品(繊維強化複合材料板材)の機械物性を考慮すると最も好適に用いることが出来る。
本態様においては、上述した成形材料に代えて、実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したものと、その少なくとも片側表面にあり、短繊維状の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したものとを重ね合わせた成形材料を用いることもできる。短繊維状の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したものとしては、通常SMCと呼ばれている12〜50mmに切断した強化繊維を前述の熱硬化性樹脂で含浸したものを好適に用いることができる。
【0115】
短繊維状の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したものは、強化繊維の配向がランダムなため、実質的に連続した強化繊維のみからなる成形材料に比べて、FRPのリブ構造やボス構造を有する複雑な形状に沿い易い利点を有するが、機械物性は劣る欠点がある。そこで、両者を重ね合わせて圧縮成形することにより、両者の長所を合わせ持った、機械物性に優れ、リブ構造やボス構造を有する複雑な形状を有するFRPを得ることができる。
ここで、短繊維状の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したものの熱硬化性樹脂としては、実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸したものと同じものを用いてもよいし、異なるものを用いても良い。
【0116】
(型)
第四の態様のFRPの製造方法では、型を締めた時に型の内部を気密に保つ構造を有する型を用いる事が好ましい。本態様において、型に要求する気密というのは、型を満たすのに十分な量の成形材料(プリプレグ)を型内に入れ、加圧した際にも成形材料を構成する熱硬化性樹脂が型から実質的に漏れ出さないことをいう。型の内部を気密に保つ構造として、型を締めた時に上型・下型(雄型・雌型)があたる部分をシェアエッジ構造(図2参照)やゴムシール構造を採用することで可能である。型の内部を気密に保つものであれば公知のいかなる構造を採用してもよい。
また、型を締めた時に型の内部に残存する空気は、FRP表面のピンホールやFRP内部のボイドの原因となる場合があるが、型として脱気機構を有する型を用い、型の内部のすべてを成形材料で満たす際に、脱気機構を用いて脱気することにより、型の内部に残存する空気を効果的に脱気することが可能である。
【0117】
脱気機構としては、型の内部に開閉可能な孔(図3参照)を設け、型外部に開放するとか、更にポンプを設け、減圧することも可能である。脱気は、型の内部のすべてを成形材料で満たす瞬間まで開孔し加圧時には閉じることにより行なわれる。
更に、FRPの成形終了後、FRPの取り出しを容易にするために、イジェクタピンやエアブロー弁(図3参照)等のFRPを脱型する機構を型に取り付けることも可能である。これにより、型の冷却を待たずに容易にFRPを取り出すことが可能となるので大量生産に好適である。なお、脱型する機構は、イジェクタピン、エアブロー弁またはそれ以外の機構であっても従来公知のいかなるものを用いることに差し支えない。
【0118】
(FRPの製造方法)
上述した成形材料及び型を用いてFRPを得る方法について図を用いて説明する。
図1Aは、型を締める前の成形材料を型内部に置いた状態を表した図である。なお、本態様の複数の図中に示される1は雌型を、2は雄型を、3はシェアエッジ構造を、4は開閉可能な孔を、5はピン(エアーにより上下)を、6はパッキンを、7はシェアエッジを、Aは開孔時のエアー流入を、Bは閉孔時のエアー流入を表している。まず、型を成形材料の熱硬化性樹脂の硬化温度以上まで調温したのち、型の内部に成形材料を入れる。
【0119】
そして、型を締めることで成形材料を加圧して成形を行う。図1Bは型を締めた状態を表した図である。この図に示したように、熱硬化性樹脂は型の外へほとんど流出することはなく、成形材料は加圧されて型の内部のすべてを満たすこととなる。
先に述べたように、連続した強化繊維からなるプリプレグを圧縮成形する際に起こる目曲がりは、主としてマトリックス樹脂の過剰な流動が原因である。そこで本態様では、樹脂の流動を抑制するためには、型を締めた時の内部の片面表面積(FRPの片面表面積)に近い片面表面積とした成形材料を用いれば、良い結果が得られること、具体的には、実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸してなる成形材料の片面表面積Sと、型を締めた時の型の内部の片面表面積Sとの比S/Sが0.8〜1となるようにすればよいことを見出したのである。S/Sが0.8未満であれば、型の内部での樹脂の流動が激しくなるため、目曲がりが生じやすくなる。一方S/Sが1を超える場合には、成形材料の周縁部が型からはみ出すと型を締める障害や成形品内の成形材料不足となり、成形材料が折り畳まれると繊維配向の乱れが生じる。ここで、片面表面積とは成形品を構成する基本的に厚み間隔を有した実質的に同等な2面の一方の表面積である。
【0120】
また、特に高品質なFRPを得る場合は、成形材料の体積および高さについても成形品(型を締めた時の型内部の形状)に近いものを用いるのがよい。型の内部に入れる成形材料の体積及び厚みが、それぞれ成形品の体積の100〜120%及び厚みの100〜150%となることが好ましい。
【0121】
型の内部に入れる成形材料(プリプレグ)の体積が、成形品(繊維強化複合材料板材)の体積の100%未満であると成形材料に十分圧力がかからない。一方、120%を超えると、型の気密性が得られる以前に成形材料が流出することになるので好ましくない。
また、成形材料の厚みがFRPの厚みに対して100%未満、150%を超える場合には、成形材料の全面を均等に加圧することが難しくなるので好ましくない。ここで成形材料の厚み及びFRPの厚みというのは、それぞれ平均の厚みである。
【0122】
本態様では、上述の型を予め熱硬化性樹脂の硬化温度以上に調温することが必要である。その際、調温する温度は、熱硬化性樹脂の組成によって決まる硬化温度以上であれば、組成や温度以外の成形条件によってより好ましい温度を選んでよい。
本態様のFRPの製造方法では、圧縮成形を行う際の圧力は公知の圧縮成形を行う際の圧力でよく特に限定しない。FRPの形状等によって適宜決定すればよい。
【実施例】
【0123】
以下実施例により本発明の4つの態様を具体的に説明する。
【0124】
第一の態様の実施例
各例では、以下の略称で示されるものを用いた。平均粒径はレーザー回折散乱法で測定した値である。なお、本態様は以下の実施例に限定されるものではない。
【0125】
<エポキシ樹脂>
EP828:ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート828(登録商標、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、120p/25℃)
EP807:ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート807(登録商標、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、30p/25℃)
EP604:ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート604(登録商標、グリシジルアミン型エポキシ樹脂)
N740:大日本インキ化学工業(株)製EPICLON N−740(フェノールノボラック型
エポキシ樹脂、半固形)
YCDN701:東都化成(株)製 フェノトートYCDN701(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)
フレップ50:東レチオコール社製エポキシ樹脂、登録商標
EXA1514:大日本インキ化学工業株式会社 EPICLON EXA1514 ビスフェノールS型エポキシ樹脂
【0126】
<分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物>
DDS:和歌山精化(株)製 セイカキュア−S(ジアミノジフェニルスルフォン、登録商標、硫黄原子含有率 12.9質量%)
BAPS:和歌山精化(株)製 BAPS(4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、硫黄原子含有率 7.4質量%)
BAPS−M:和歌山精化(株)製 BAPS−M(ビス(4−(3アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、硫黄原子含有率 7.4質量%)
ASD:和歌山精化(株)製 ASD(4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、硫黄原子含有率 14.8質量%)
TSN:和歌山精化(株)製 TSN(o−トリジンスルフォン,硫黄原子含有率11.7質量%)
【0127】
<尿素化合物>
PDMU:フェニルジメチルウレア(平均粒径 50μm)
DCMU:3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチルウレア(平均粒径 50μm)
<ジシアンアミド>
DICY7:ジシアンジアミド(平均粒径 7μm)
DICY15:ジシアンジアミド(平均粒径 15μm)
DICY1400:ジシアンジアミド(平均粒径 20μm)
【0128】
<添加剤>
PVF:チッソ(株)製 ビニレックE(ポリビニルフォルマール)YP50:東都化成(株)製 フェノトートYP50
アエロジル:日本アエロジル(株)製、アエロジル300
【0129】
(評価方法)
本態様の樹脂組成物を用いて、後述する方法でプリプレグを製造し、そのゲルタイム、使用可能期間、機械物性を測定した。測定方法は以下に示す通りである。
【0130】
(1)ゲルタイム
プリプレグから2mm角のサンプルを切り出し、2枚のカバーガラス挟む。それを130℃±0.5℃でコントロールされたヒータープレート上に置く。サンプルを置いた直後をゲルタイム測定開始時間とする。常時ピンセット等でプリプレグへの押圧を繰り返して、エポキシ樹脂組成物の状態を確認し、完全にゲル化が完了する時間を測定してそれをゲルタイムとする。ただし、ここでいう完全なゲル化とは、ピンセット等で押圧した際に、エポキシ樹脂組成物の流動が無くなった状態のこととする。
【0131】
(2)使用可能期間
プリプレグを30±1℃の恒温乾燥機に入れ、プリプレグの粘着性を毎日、最大21日後まで観察し、粘着性が失われた(プリプレグ同士が貼り付かなくなった)日数を使用可能期間とした。
【0132】
(3)機械物性
プリプレグを真空バッグ成形によって成形し、縦200mm×横200mm×厚さ150mmの平板状の繊維強化複合材料を作製した。この平板の0゜曲げ強度及び90゜曲げ強度をASTM D 790に準拠して測定した。
【0133】
(硫黄原子の含有率)
硫黄原子の含有率Sは、A成分が硫黄原子を有していない場合は、添加したA成分、C成分、D成分及び添加剤の質量部の総和をX、エポキシ樹脂組成物の製造に使用したB−1成分の質量部をY、及び、エポキシ樹脂組成物の製造に使用したB−1成分中の硫黄原子の含有率p(質量%)を用いて次の式から求めた。
【0134】
S(質量%)=pY/(X+Y)
【0135】
A成分が硫黄原子をする場合は、以下の原子吸光法で、エポキシ樹脂組成物から直接測定した。すなわち、エポキシ樹脂組成物を製造した後、このエポキシ樹脂組成物50mgを硝酸水溶液中で分解し、この溶液をイオン交換水を用いて50mlまで希釈し、この水溶液を測定サンプルとした。
この測定サンプルに、高周波プラズマ発光分析装置(日本ジャーレル・アッシュ社製 ICAP−575 MK−II)を用いて、で、原子吸光法による硫黄原子濃度の測定を行った(測定条件;プラズマガス:0.8L/min、クーラントガス:16L/min、キャリアガス:0.48L/min、測定波長:180.7nm)。予め作成した検量線を用いて水溶液中の硫黄原子の濃度を求め、さらにこの硫黄原子の濃度から、このエポキシ樹脂組成物中の硫黄原子含有量(質量%)を算出した。
【0136】
(実施例1〜12)
表1に示した組成比で均一になるまで混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を簡易型ロールコーターで離型紙上に樹脂目付33.7g/mで均一に塗布し樹脂層を形成した。この樹脂層を三菱レイヨン(株)製炭素繊維(TR50S、引張弾性率:240GPa)を繊維目付が125g/mになるように一方向に引きそろえたシート状物の両面に貼り付けた後、ローラーで100℃、線圧2kg/cmで加熱及び加圧しエポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、繊維目付が125g/m(樹脂含有率が35質量%)のプリプレグを作成した。
【0137】
実施例1〜12のエポキシ樹脂組成物から得られたプリプレグの130℃でのゲルタイム及び使用可能期間を評価したところ、ゲルタイムはいずれも200秒以下で、使用可能期間は21日を経過した時点でも粘着性を保持していたことから、21日以上の使用可能期間が確認された。
平板コンポジット物性も、0゜曲げ強度が160kg/mm、90゜曲げ強度が10kg/mmをいずれも超えており良好な物性を示した。
【0138】
(実施例13〜22)
表2に示した組成比で均一になるまで混合した以外は、すべて実施例1と同様にプリプレグを製造し評価を実施した。
実施例13〜22のエポキシ樹脂組成物から得られたプリプレグも、ゲルタイムはいずれも200秒以下で、21日以上の使用可能期間も確認された。
平板コンポジット物性(FPR板材物性)もいずれも0゜曲げ強度が160kg/mmに、90゜曲げ強度が10kg/mmを超えており良好な物性を示した。
【0139】
(実施例23)
表3の実施例23に示した組成において、B成分のエポキシ樹脂とアミン成分(DDS)を室温で混合した後、150℃に加熱し一部反応させ90℃の粘度が30〜90ポイズになるよう調製した(B−2成分)。その反応物とA成分とC,D成分を表3の実施例23に示した組成比で均一になるまで混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を簡易型ロールコーターで離型紙上に樹脂目付33.7g/mで均一に塗布し樹脂層を形成した。この樹脂層を三菱レイヨン(株)製炭素繊維(TR50S、引張弾性率:240GPa)を繊維目付が125g/mになるように一方向に引きそろえたシート状物の両面に貼り付けた後、ローラーで100℃、線圧2kg/cmで加熱及び加圧しエポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、繊維目付が125g/m(樹脂含有率が35質量%)のプリプレグを作成した。
【0140】
実施例23のエポキシ樹脂組成物から得られたプリプレグの130℃でのゲルタイム及び使用可能期間を評価したところ、ゲルタイムはいずれも200秒以下で、使用可能期間は21日を経過した時点でも粘着性を保持していたことから、21日以上の使用可能期間が確認された。
平板コンポジット物性も、0゜曲げ強度が160kg/mm、90゜曲げ強度が10kg/mmをいずれも超えており良好な物性を示した。
【0141】
(実施例24〜33)
表3に示した組成比で、A成分のエポキシ樹脂とアミン成分(DDS)を室温で混合した後、150℃に加熱し一部反応させ90℃の粘度が30〜90ポイズになるよう調製した。その反応物とC成分およびD成分等を表3に示した組成比で均一になるまで混合させること以外はすべて実施例23と同様にプリプレグを製造し評価を実施した。
実施例24〜33のエポキシ樹脂組成物から得られたプリプレグも、ゲルタイムはいずれも200秒以下で、21日以上の使用可能期間も確認された。
平板コンポジット物性もいずれも0゜曲げ強度が160kg/mmに、90゜曲げ強度が10kg/mmを超えており良好な物性を示した。
【0142】
(実施例34〜45)
表4に示した組成比で、A成分のエポキシ樹脂とアミン成分を室温で混合した後、150℃に加熱し一部反応させ90℃の粘度が30〜90ポイズになるよう調製した。その反応物とC成分およびD成分等を表4に示した組成比で均一になるまで混合させること以外はすべて実施例23と同様にプリプレグを製造し評価を実施した。
実施例34〜45のエポキシ樹脂組成物から得られたプリプレグも、ゲルタイムはいずれも200秒以下で、21日以上の使用可能期間も確認された。
【0143】
(比較例1〜8)
表5に示した組成比で均一になるまで混合した以外は、すべて実施例1と同様にプリプレグを製造し評価を実施した。
その結果、比較例2,4,6以外はいずれもゲルタイムが200秒を超えるか又は数時間以内には硬化が完了しなかった。比較例2,4,6はゲルタイムが200秒以下と速硬化性が発現したが、使用可能期間は5日以下と短いものとなってしまった。
【0144】
(比較例9〜10)
表3に示した組成比で均一になるまで混合した以外は、すべて実施例23と同様にプリプレグを製造し評価を実施した。
その結果、ジシアンジアミドを含まない比較例9および10では、硬化剤の総量としては実施例23や実施例26と同じ量を配合しているにもかかわらず、各実施例で製造した平板コンポジットよりも、0゜曲げ強度が10%程度劣る平板コンポジットしか得られなかった。さらに比較例10では、使用可能期間は5日以下と短いプリプレグとなってしまった。
以上詳細に説明したように、本態様のエポキシ樹脂組成物は、比較的低温で短時間に硬化できた。よって、このエポキシ樹脂組成物を用いて得られるプリプレグは、室温での保存においても十分な使用可能期間を有し、かつ、このプリプレグから得られるコンポジットは優れた機械物性を発現するといった効果が得られた。さらに、このプリプレグを用いることで繊維強化複合材料の成形において加工時間を短縮できる為、低コストでの製造が可能であることが証明された。
【0145】
【表1】

【0146】
【表2】

【0147】
【表3】

【0148】
【表4】

【0149】
【表5】

【0150】
第二の態様の実施例
以下、実施例に基づき、本発明の第二の態様を詳細に説明する。なお、本態様は、以下の実施例に限定されるものではない。
熱硬化性樹脂組成物の原材料として、以下のエポキシ樹脂及び硬化剤を用意した。
【0151】
<エポキシ樹脂>
EP828:
ジャパンエポキシレジン社製液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エピコート828(登録商標)」
EP1009:
ジャパンエポキシレジン社製固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、「エピコート1009(登録商標)」
AER4152:
旭化成社製エポキシ樹脂、「アラルダイト AER4152(登録商標)」
N740:
大日本インキ化学工業社製フェノールノボラック型エポキシ樹脂、「エピクロン N740(登録商標)」
【0152】
<硬化剤>
HX3722:
旭化成社製マイクロカプセル型潜在性硬化剤、「ノバキュア HX3722(登録商標)」
FXE1000:
富士化成社製エポキシ樹脂用潜在性硬化剤、「フジキュア FXE1000」
PDMU:
PTIジャパン社製フェニルジメチルウレア、「オミキュア94(登録商標)」
DCMU:
保土ヶ谷化学社製3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチウレア、「DCMU99」
Dicy:
ジャパンエポキシレジン社製ジシアンジアミド、「Dicy7」
2P4MZ:
四国化成社製2−フェニル−4−メチルイミダゾール
【0153】
<粘度測定>
装置:レオメトリックス社製RDS−200
測定モード:パラレルプレート(25mmφ、ギャップ0.5mm)
周波数:1Hz
温度設定:50℃から10℃/分で昇温し、120℃に達した後は等温粘度を測定 測定データ:50℃での粘度、120℃に達してから粘度が10Pa・secを超えるまでの時間。本実施例では、全ての熱硬化性樹脂組成物において、120℃に達した時の粘度が10Pa・sec以下であることを確認した。
【0154】
<30℃×3週間後の増粘>
熱硬化性樹脂組成物を調製した直後にサンプリングし上記の粘度測定法により50℃での粘度ηを測定し、同じ熱硬化性樹脂組成物を30℃の乾燥機に3週間放置して熱履歴を与えた後、同様にして粘度測定を実施し、50℃での粘度ηを測定した。増粘はη/ηにより求めた。
【0155】
<プリプレグの調製>
熱硬化性樹脂組成物を50℃に加温して粘度を下げ、離型紙に薄く塗工してホットメルトフィルムを調製し、三菱レイヨン社製炭素繊維織物TR3110にこれを含浸させてプリプレグを得た。樹脂含有量は30質量%になるように調整した。
【0156】
<成形>
プリプレグ11プライを同じ方向に積層し、シェアエッヂを有する金型を用いて2MPaの成形圧で、加温プレス機にて成形した。成形板の厚みはおおよそ2mmであった。
<機械物性測定>
インストロン社製万能試験機を用い、ASTM D790にしたがって曲げ試験を、ASTM D2344にしたがって層間せん断試験(ILSS)を実施した。
【0157】
(参考例1〜5)
表6に示す組成で熱硬化性樹脂組成物を調製し、50℃の粘度測定、30℃×3週間後の50℃の粘度測定。120℃に達してから粘度が10Pa・secを超えるまでの時間を測定した。プリプレグ化し取り扱い性の評価を触感にて実施した。タック、ドレープが適度で取扱いやすかったものは「○」、取り扱いにくかったものは「×」とした。又、調製後のプリプレグを30℃×3週間放置し、その後の取り扱い性についても同様にして評価した。更にプリプレグを上記の方法により成形した。成形は120℃×15分、120℃×10分、140℃×4分の3条件で実施し、それぞれ機械物性を測定した。結果をあわせて表6に示した。実施例で示した熱硬化性樹脂組成物では、調製直後のプリプレグの取り扱い性、調製後30℃で3週間経過後のプリプレグの取り扱い性、ともに良好であった。成形後の表面外観もきれいであり、機械物性も良好であった。
【0158】
(参考例6)−50℃での粘度が低い例−
表7に示す組成で熱硬化性樹脂組成物を調製した。50℃の粘度が5×10Pa・sec未満であったので、調製直後のプリプレグはタックが非常に強くてべたべたしており、扱いづらいものであった。
【0159】
(参考例7)−50℃での粘度が高い例−
表7に示す組成で熱硬化性樹脂組成物を調製した。50℃での粘度が1×10Pa・secを超えていたので、熱硬化性樹脂組成物は非常に硬く、フィルム化できなかった。
【0160】
(参考例8)−30℃×3週間後の粘度の増粘が2倍を超えている例−
表7に示す組成で熱硬化性樹脂組成物を調製した。30℃×3週間後の本熱硬化性樹脂組成物は非常に硬く、粘度の測定ができなかった。又、調製直後のプリプレグの取り扱い性は良かったが、室温で3週間放置後は硬くてライフ切れの状態であった。
【0161】
(参考例9)−120℃での10Pa・sec到達時間が1000秒を超えている例−
表7に示す組成で熱硬化性樹脂組成物を調製した。120℃での10Pa・sec到達時間が1300秒と長く、実施例に比べ明らかに硬化性が劣っていることがわかる。なお、曲げ試験は破壊しなかったので「測定不能」とした。
【0162】
以上のように、本態様の熱硬化性樹脂組成物は、室温での取り扱い性、室温での長いライフが良好であり、成形後の良好な物性を維持しながら、なおかつ、産業用途に要求されるような高速成形が可能なプリプレグのマトリックス樹脂に好適な熱硬化性樹脂組成物を提供することができた。
以上のように、本態様のプリプレグは、室温での取り扱い性、室温での長いライフ、成形後の良好な物性を維持しながら、産業用途に要求されるような高速成形が可能にするものである。
以上から、本態様の熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、及びFRPの製造方法は、いずれも高速成形に非常に適しており、FRPの最大の欠点であった成形加工費の低減に大いに役立つものであることが証明された。
【0163】
【表6】

【0164】
【表7】

【0165】
第三の態様の実施例
以下実施例により本発明の第三の態様を具体的に説明する。なお、本態様は以下の実施例に限定されるものではない。
【0166】
『樹脂組成物(1)による実施例』
第一の態様に示される実施例1〜20は、本態様で要求される条件を満たすものである。実施例1〜20は優れた結果を示したことは第一の態様の実施例で述べられたとおりであり、これによって本態様によって提供されるエポキシ樹脂組成物及びプリプレグが優れた特性を持つことが証明されていた。また、第一の態様に示される比較例1〜8は、本態様で要求される条件をみたしていない。このため、比較例1〜8のどれも、実施例1〜20のような優れた特性を示すことができないことが証明された。
【0167】
(実施例46)
第一の態様の実施例3で得たエポキシ樹脂組成物を簡易型ロールコーターで離型紙上に樹脂目付26.8g/mで均一に塗布し樹脂層を形成した。この樹脂層を三菱レイヨン(株)製炭素繊維(TR50S、引張弾性率:240GPa)を繊維目付が125g/mになるように一方向に引きそろえたシート状物の両面に貼り付けた後、ローラーで100℃、線圧2kg/cmで加熱及び加圧して、エポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、繊維目付が125g/m(樹脂含有率が30質量%)のプリプレグを作成した。
【0168】
一方、実施例3で得たエポキシ樹脂組成物を簡易型ロールコーターで離型紙上に樹脂目付164g/mで均一に塗布し樹脂層を形成した。この樹脂層を三菱レイヨン(株)製炭素繊維織物TR3110(TR30S3L(フィラメント数3000本)を織密度12.5本/インチで平織した織物(目付200g/m))片面に貼り付けた後、ローラーで100℃、線圧2kg/cmで加熱及び加圧して、エポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、繊維目付が200g/m(樹脂含有率が45質量%)のクロスプリプレグを作成した。
プリプレグ及びクロスプリプレグを200×200mmに切り出し、プリプレグを繊維方向が0°/90°/0°/90°/0°/90°/0°/90°/0°/90°/0°/90°/0°/90°/0°/90°となるように計16枚積層し、その上(0°層の上)にクロスプリプレグを1枚積層して、プリプレグ積層体を準備した。
【0169】
巾10mm、厚さ3mmのブチルゴム製パッキンを4辺のうち2辺にL字型に置いた220×220mmの金型(使用できる金型面は210×210mmとなっている。)を130℃に加熱した。
先に準備したプリプレグ積層体を金型の使用できる部分に金型端部又はブチルゴムパッキンからそれぞれ5mmずつ離して置いた。そして、即座に金型を締め10kg/cmの圧力を15分間かけつづけ、FRP板材を得た。
FRP板材から任意に30×30mmの試験片3個を切り出し、炭素繊維の体積含有率(アルキメデス法)を求めたところ、平均で60.6体積%であった。マトリックス樹脂の密度1.25、炭素繊維の平均密度1.82を用いて樹脂含有率を計算すると30.9重量%であった。
得られたFRP板材は、金型の表面の傷に由来する凹凸が散見されたが、凹凸がない部分の中心線平均粗さを詳細な説明に記載した装置、方法で測定したところ、0.27μmであった。
【0170】
以上のように、本態様によって輸送機器や産業機械の外板として好適なFRP板材及びFRP板材を得るのに好適に用いることのできるプリプレグが提供されることが証明された。
【0171】
第四の態様の実施例
以下実施例により本発明の第四の態様を具体的に説明する。なお、本態様は以下の実施例に限定されるものではない。
【0172】
(実施例47)
型の内部を気密に保つ構造として、型を締めた時に上型・下型があたる部分をシェアエッジ構造(図2参照)を採用し、下型のFRP部分の厚さ部分を除く表面積が900cmである型を上型、下型共に、140℃に加熱した。
成形材料として、一方向に引き揃えた炭素繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸したプリプレグシートTR390E125S(三菱レイヨン(株)製)を285×285mmに切断し、繊維の配向方向が0°と90°が交互になるように18枚(厚さ2mm、総体積16cm、片面表面積812cm)積層したものを用意した。S/Sは812/900=0.9である。なお、プリプレグシートTR390E125Sに用いたエポキシ樹脂は、以下の製造方法で製造した、第一の様態のエポキシ樹脂組成物に相当する、エポキシ樹脂組成物である。
【0173】
「Ep828とDDSとの混合物(質量比92:8)を150℃で反応させた樹脂組成物100質量部に、Ep828を15質量部、PDMUを6質量部、ジシアンジアミドを9質量部加えて、均一になるまで混合したエポキシ樹脂組成物。」
【0174】
下型上に上記成形材料を置き、すぐに上型を降ろして型を締め、9.8×10kPaの圧力を10分間かけた後、型開きを行い、型の温度を140℃に保ったまま、型に備え付けられたイジェクタピンにより成形品(厚さは1.6mm、体積144cm)を取り出した。この成形品は表面、裏面、及び断面ともピンホールやボイドがなく外観に優れるものであった。
【0175】
(実施例48)
成形材料として、実施例1で用いた成形材料と炭素繊維含有エポキシ樹脂SMC Lytex4149(QUANTUM COMPOSITES社製)(厚さ部分を除く片側表面積812cm)とを貼り合せた成形材料(総厚さ4mm、総体積325cm)を用いた。S/Sは、0.9である。
下型上に上記成形材料を置き、すぐに上型を降ろして型を締め、3.0×10kPaの圧力を10分間かけた後、型開きを行い、型の温度を140℃に保ったまま、型に備え付けられたイジェクタピンにより成形品(厚さ3.2mm、体積288cm)を取り出した。この成形品は表面も外観及び物性上問題ないレベルの製品が得られた。
【0176】
以上のように本態様のFRPの製造方法を用いることによって、大量生産に好適な圧縮成形法を用いて、高強度で意匠性に優れた、実質的に連続した強化繊維からなるFRPを得ることができることが証明された。
【0177】
(参考例10)
成形材料として、一方向に引き揃えた炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸したプリプレグシートTR390E125S(三菱レイヨン(株)製)を250×250mmに切断し、繊維の配向方向が0°と90°が交互になるように24枚(厚さ2.6mm、総体積162cm、片面表面積625cm)積層したものを使用する以外は、実施例23と同条件にて成形を行った。S/Sは625/900=0.7である。
成形品は成形中の樹脂の流動による繊維配向の乱れが激しく、特に外周部の乱れが著しいものとなった。
【0178】
(参考例11)
成形材料として、一方向に引き揃えた炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸したプリプレグシートTR390E125S(三菱レイヨン(株)製)を320×320mmに切断し、繊維の配向方向が0°と90°が交互になるように14枚(厚さ1.6mm、総体積162cm、片面表面積1024cm)積層したものを使用する以外は、実施例23と同条件にて成形を行った。S/Sは1024/900=1.1である。
成形中に成形材料を構成する強化繊維が型からはみ出したため、繊維が引きずられることにより、繊維配向の乱れが発生した。このため、得られた成形品は、外観不良で、表面も平滑なものは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明は、スポーツ・レジャー用途から自動車や航空機等の産業用途まで、幅広く適用可能である。
【符号の説明】
【0180】
1 雌型
2 雄型
3 シェアエッジ構造
4 開閉可能な孔
5 ピン
6 パッキン
7 シェアエッジ
A 開孔時のエアー流入
B 閉孔時のエアー流入

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のA成分と、分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物であるB−1成分とを混合して樹脂組成物を得た後、C成分及びD成分をさらに混合して、エポキシ樹脂組成物を得る際、エポキシ樹脂組成物中のC成分の含有率を1〜15質量%とし、エポキシ樹脂組成物中の硫黄原子の含有率を0.2〜7質量%とするエポキシ樹脂組成物の製造方法。
A成分:エポキシ樹脂。
B−1成分:分子内に少なくとも一つの硫黄原子を有するアミン化合物。
C成分:尿素化合物。
D成分:ジシアンジアミド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70771(P2010−70771A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297927(P2009−297927)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願2005−510293(P2005−510293)の分割
【原出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】