説明

エマルションの製造方法およびその製造方法から得られる水性塗料組成物

【課題】バッチ式のみならず連続式にも対応できるエマルションの製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、(i)有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含む樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを混合して混合物Aを得る工程、(ii)混合物Aに塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液を加え、分散相としての水相および有機溶剤と中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含む連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに(iii)混合物Bに水を加えて、連続相を、油相から水相へと変える転相を行い、エマルションを形成する工程を含んで成り、工程(ii)と工程(iii)との間にて混合物Bから有機溶剤を除去する工程を更に含んだ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションの製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法で得られたエマルションを含んで成る水性塗料組成物(例えば電着塗料)にも関する。更には、かかる水性塗料組成物を用いた塗膜形成方法および塗装物にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルション(またはエマルジョンもしくは乳化液)は、反応釜等の容器に原料を入れて乳化させるバッチ式で製造していた。具体的には、原料となる樹脂成分、硬化剤および有機溶剤(必要に応じて種々の添加剤)を反応釜に供給し、次いで、それらを攪拌すると共に中和剤水溶液および水を加えることによってエマルションを形成していた。このようなエマルションは含まれる有機溶剤によって、貯蔵安定性が低下し、また環境問題の観点から有機溶剤の含有量を極力低減することが望まれているので、エマルション形成後に、エマルションを加温し、反応釜内を減圧することによるバッチ式、あるいは、加温されたエマルションを減圧下で薄い膜状にすることによる薄層式で有機溶剤を除去していた。
【0003】
このように、従来のエマルションの製造法は、乳化させた後で有機溶剤を除去する製造法であった。
【0004】
しかしながら、かかる製造法では、乳化後に有機溶剤を除去する際、有機溶剤が水との共沸混合物として留去されるため、充分な有機溶剤を留去するためには必要以上の水も同時に留去してしまい、工程が複雑になったり、時間がかかるという問題があった。
【0005】
また、上述の従来の製造法はバッチ式であるため、多品種のエマルションを製造するには適しているものの、生産性の点ではエマルションを効率よく製造できるものではなかった。
【0006】
かかる生産性の観点からエマルションを連続式で製造することが考えられるものの、電着塗料等の水性塗料に用いられるエマルションの製造に対しては、連続式の押出機などを使用することは考えられていなかった。なぜなら、「押出機」は、プラスチックの押出成形などの一般に高粘度物質の製造に用いられるものであったため、水性塗料に係る原料およびエマルション等の比較的低粘度な物質を扱うには適していないと考えられていたからである(例えば特許文献1および特許文献2参照)。特に、二軸押出機は、混錬時の剪断力が大きいため、プラスチック材料のペレタイジング(造粒成形)にも用いられていた(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】福岡工業技術センターのホームページ、技術支援、設備利用、開放試験室設置備品の御紹介、2軸押出成形機[online]、[平成18年3月22日検索]、インターネット〈URL:http://www.fitc.pref.fukuoka.jp/kigyo_shien/setsubi/openlab/tex.htm)
【特許文献1】特開平10−210962号公報
【特許文献2】特開平8−27266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、乳化した後に有機溶剤を除去する製造法に取って代わるエマルションの製造法であって、有機溶剤の留去を効率的に行うことができ、かつ、バッチ式のみならず連続式にも対応できるエマルションの製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、
樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、
(i)有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを混合して混合物Aを得る工程、
(ii)混合物Aに中和剤水溶液を加え、分散相としての水相および有機溶剤と前記中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに
(iii)混合物Bに水を加えて、連続相を、油相から水相へと変える転相を行い、エマルションを形成する工程
を含んで成り、
工程(ii)と工程(iii)との間にて混合物Bから有機溶剤を除去する工程を更に含んだ方法を提供する。
【0009】
本発明において「塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分」とは、中和することによって水和可能な樹脂成分を実質的に意味している。また、本発明において「エマルション」とは、一般的に連続相としての水性媒体に対して油相が分散相して存在する乳濁液または乳化液を意味している。本発明の製造方法で得られるエマルションから水性塗料組成物、特に電着塗料を得ることができる。
【0010】
本発明のエマルションの製造方法は、混合物Bの連続相を油相から水相へと変える転相が実施される前に有機溶剤の除去を行うことを特徴としている。即ち、本発明のエマルションの製造方法は、乳化させる前に有機溶剤を除去する特徴を有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエマルションの製造方法は、乳化効率が良く、安定性の高いエマルションを得ることができる。ここでいう「安定性の高いエマルション」とは、従来の製造方法で得られるエマルションと比べて、時間的に安定しており貯蔵安定性に優れることを意味している。
【0012】
また、本発明のエマルションの製造方法は、バッチ式プロセスとしてだけでなく連続式プロセスとしても実施することができる。特に、押出機(即ち「エクストルーダー」)を用いることによって、連続式プロセスでエマルションを製造できる点で利点を有する。従って、本発明の製造方法は、従来の製造法よりも短い時間でエマルションをより多く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下にて、本発明のエマルションの製造方法を詳細に説明する。図1Aに本発明に係る製造フローを示す。
【0014】
まず、工程(i)では、有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを混ぜ合わせて混合物Aを得る。バッチ式プロセスとして本発明を実施する場合では、一般的な攪拌器または混合器を用いてよい。また、連続式プロセスとして本発明を実施する場合では、後記で詳細に説明する押出機を用いてよい。
【0015】
なお、樹脂成分および/または硬化剤は、有機溶剤に予め混ぜられた形態で用いてもよい。つまり、樹脂成分および/または硬化剤の製造過程・調製過程で、有機溶剤を予め含んだ形態で樹脂成分および/または硬化剤が得られる場合には、有機溶剤を含んだ形態のまま樹脂成分および/または硬化剤を用いることができる。
【0016】
「塩基性基または酸性基を有して成る樹脂成分」は、中和することによって水和可能な官能基を有する樹脂であればいずれの樹脂であってもかまわない。例えば樹脂としては、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、カーボネート樹脂およびポリブタジエン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の樹脂の構造中にアミノ基等の塩基性基またはカルボキシル基等の酸性基を含んで成るものを挙げることができる。その中でも、塩基性基を有する樹脂としてはアクリル樹脂またはエポキシ樹脂であることが好ましく、また、酸性基を有する樹脂としてはアクリル樹脂またはポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0017】
硬化剤(または架橋剤)は、上記の樹脂成分を硬化(または架橋)させ得るものであれば、いずれの種類の硬化剤であってもかまわない。なお、硬化(または架橋)のために必要な樹脂成分の有する反応性官能基は、上記の塩基性基または酸性基であってもかまわない。例えば、樹脂成分がカルボキシル基を含んで成る場合、硬化剤は、カルボジイミド化合物およびエポキシ化合物のいずれか1種を含んでいる硬化剤であることが好ましい。一方、樹脂成分が水酸基を含んで成る場合、硬化剤は、ブロックイソシアネート化合物、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の硬化剤であることが好ましい。
【0018】
有機溶剤は、樹脂成分および硬化剤を分散または溶解させるものであれば、いずれの種類の溶剤であってもかまわない。但し、有機溶剤は最終的には減圧下および/または加熱下で留去されるものであるため、かかる留去に適した物性を有していることが好ましい。例えば、有機溶剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナンもしくはデカン等の炭化水素化合物;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノールもしくはシクロオクタノール等のアルコール系化合物;アセトン、メチルエチルケトンもしくはメチルイソブチルケトン等のケトン系化合物;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブもしくはヘキシルセロソルブ等のセロソルブ系化合物;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンもしくはキシレン等の芳香族系化合物;または、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルもしくは酢酸ペンチル等のエステル系化合物を挙げることができる。上記有機溶剤は、常圧下で60〜150℃の沸点を有していることが好ましく、具体的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0019】
工程(ii)では、工程(i)で得られた混合物Aに対して中和剤水溶液を加えることによって、分散相としての水相、および、有機溶剤と中和剤により塩基性基または酸性基が中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相から成る2相の混合物Bを得る。必要に応じて攪拌・混合操作に付してもよい。連続式でエマルションを製造する場合では、押出機で混合操作を行うことができる。なお、分散相としての水相には、有機溶剤、樹脂成分および/または硬化剤が部分的に含まれてもよい。同様に、連続相としての油相は、あくまでも主として有機溶剤と樹脂成分と硬化剤とを含んでいればよく、中和剤水溶液の成分が部分的に油相に含まれてもよい。また、分散相は連続相中に必ずしも均一に分散している必要はない。
【0020】
本明細書において「中和剤水溶液」とは、樹脂成分が塩基性基を含んで成る場合には、酸性化合物を含んだ水溶液を意味しており、樹脂成分が酸性基を含んで成る場合には、塩基性化合物を含んだ水溶液を意味している。
【0021】
酸性化合物としては、例えば、酢酸、蟻酸、乳酸およびクエン酸等を挙げることができる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールおよび水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
【0022】
工程(ii)で混合物Bが得られると、引き続いて、混合物Bから有機溶剤を除去する操作を行う。この際、有機溶剤を減圧下および/または加熱下で留去することが好ましい。即ち、混合物Bが含まれる系を減圧して有機溶剤を除去したり、混合物Bを加熱して有機溶剤を除去してよく、更には、減圧下で加熱して有機溶剤を除去してもよい。
【0023】
混合物Bから有機溶剤が全て除去されることが好ましいものの、混合物Bに有機溶剤が部分的に残留してもかまわない。この場合は、有機溶剤の少なくとも一部が混合物Bから除去されることになる。なお、加熱(例えば減圧下での加熱)の際には、混合物Bの温度が樹脂成分と硬化剤との硬化反応温度(一般的には70〜120℃程度)以上とならないように温度調整する必要がある。
【0024】
このようにして有機溶剤が除去された後、引き続いて、工程(iii)を実施する。工程(iii)では、有機溶剤が除去された混合物Bに対して水を加える。これによって、中和剤により中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る油相(場合によっては残留する有機溶剤をも含んで成る油相)から、中和剤水溶液および加えられた水を含んで成る水相へと連続相が変化することになる。つまり、水を加えて連続相を油相から水相へと転相させることによって、エマルションを形成する。
【0025】
得られるエマルションは、中和剤水溶液および加えられた水を含んで成る水相を連続相として含む一方、樹脂成分と硬化剤とを含んで成る油相(場合によっては残留する有機溶剤をも含んで成る油相)を分散相として含むことになる。なお、混合物Bと同様、連続相を構成する成分が分散相に部分的に含まれていてもよく、また、分散相を構成する成分が連続相に部分的に含まれていてもよい。エマルションにおいては、分散相が連続相中に必ずしも均一に分散している必要はない。
【0026】
工程(iii)の転相は、例えば混合物Bおよび/またはエマルションを攪拌・混合することで行うことができる。この場合も工程(i)および(ii)と同様、押出機を用いることによって、混合物Bおよび/またはエマルションを連続的に混合に付すことができる。
【0027】
工程(iii)で加えられる水は、一般的な水性塗料の水性媒体に用いられるものであれば特に制限はない。但し、得られるエマルションを電着塗料に用いる場合では、工程(iii)で加えられる水が脱イオン水であることが好ましい。
【0028】
工程(iii)で得られるエマルションは、10〜40℃の温度の下、好ましくは5〜200mPa・sの粘度を有しており、より好ましくは5〜100mPa・sの粘度を有している。なお、本明細書において「エマルションの粘度」とは、25℃の温度条件の下でブルックフィールド型粘度計により求めた粘度である。
【0029】
また、工程(iii)で得られるエマルションの粒子径は、好ましくは60〜120nmであり、より好ましくは60〜100nmとなっており、乳化後に有機溶剤を留去する従来の製造法で得られるエマルションよりも小さい粒子径となっている。従って、得られるエマルションは、従来の製造法のエマルションと比べて貯蔵安定性に優れている。なお、本明細書において「エマルションの粒子径」とは、エマルション中に分散する油相成分の粒子の直径であって、レーザー光散乱法により求めた体積平均粒子径である。
【0030】
以上、図1Aに示す製造フローを中心にして本発明の製造方法を説明してきた。図1Aでは、工程(ii)と工程(iii)との間で有機溶剤を除去する態様であったが、図1Bに示すように、工程(i)と工程(ii)との間で有機溶剤を除去する態様であってもよい。この場合では、工程(i)で得られた混合物Aから有機溶剤を除去することになり、工程(ii)で得られる混合物Bが、分散相としての水相および中和剤により塩基性基または酸性基が中和された樹脂成分と硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成ることになる。換言すれば、本発明の製造方法では、工程(i)の後であって、工程(iii)の転相が生じる前であれば、有機溶剤の除去工程をいずれの時点で実施してもかまわない。
【0031】
ある好適な実施態様では、工程(i),工程(ii)および/または工程(iii)において、添加剤を加えてもよい。添加剤としては、一般的な水性塗料の製造に用いられる添加剤が好ましく、例えば、表面調整剤、消泡剤、可塑剤および粘度調整剤から成る群から選択される少なくとも1種以上の添加剤を挙げることができる。
【0032】
また、別の好適な実施態様では、混合物A、混合物Bおよびエマルションにて硬化反応が生じないように温度調整することが好ましい。つまり、工程(i)〜工程(iii)および有機溶剤の除去工程において、樹脂成分と硬化剤との硬化反応が生じないように温度調整することが好ましい。なぜなら、硬化反応が一部生じたエマルションを用いた塗料は塗膜形成時のフロー性が不充分であり、塗膜外観が低下するからである。従って、混合物A、混合物Bおよびエマルションの温度は、好ましくは50〜110℃、より好ましくは60〜100℃である。例えば、樹脂成分としてエポキシ樹脂、硬化剤としてブロックイソシアネートを用いた場合では、混合物A、混合物Bおよびエマルションの温度を70〜90℃に保持することが好ましい。
【0033】
更に別の好適な実施態様では、工程(i)と工程(ii)とを実質的に同時に行ってもよい。つまり、樹脂成分と硬化剤と有機溶剤と中和剤水溶液とから混合物Bを直接形成してもよい。
【0034】
本発明の製造方法の特徴の1つは、バッチ式プロセスのみならず連続式プロセスで実施できることである。換言すれば、工程(i)において、有機溶剤、樹脂成分および硬化剤を連続的に供して混合物Aを得ること、工程(ii)において中和剤水溶液を連続的に混合物Aに加えること、有機溶剤の除去工程において有機溶剤を連続的に除去すること、ならびに、工程(iii)において水を連続的に混合物Bに加えることによって、エマルションを連続的に製造できる。このように本発明の製造方法は、連続式プロセスで実施できるため、従来のバッチ式プロセスとは違ってエマルションを短時間でより多く製造できる利点を有する。
【0035】
本発明の製造方法を連続式プロセスで実施する場合、複数のスクリューを有する押出機を用いることが好ましい。この場合、工程(i)〜(iii)および有機溶剤を除去する工程をかかる押出機を通じて実施することができる。
【0036】
複数のスクリューを有する押出機は、二軸押出機、三軸押出機などの一般的な多軸押出機であればいずれの種類の押出機であってもかまわない。
【0037】
多軸押出機に用いるスクリューの形状も特に制限はなく、混合作用および搬送作用(または押出作用)に資するものであればいずれの形状・サイズのスクリューを用いてもよい。
【0038】
但し、本発明の製造方法で用いる押出機では、「樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とを供給する供給部」が設けられていると共に、「中和剤水溶液を供給する供給口」、「除去すべき有機溶剤を排出するための排出口」および「転相用の水を供給するための供給口」がバレル部に設けられている必要がある。なお、工程(i)と工程(ii)とを実質的に同時に行う場合には、中和剤水溶液を「樹脂成分と硬化剤と有機溶剤を供給する供給部」から加えることになるので、中和剤水溶液の供給口を特に設けなくてもよい。好ましくは温度調整できるように、バレル部に温度調整ジャケットを備えた押出機が好ましい。温度調整ジャケットを用いる場合、バレル部全体に温度調整ジャケットを設けてもよいが、バレル部を構成する各要素ごとに温度調整ジャケットを部分的に設けてもよい。また、有機溶剤の除去効果を高めるために、有機溶剤の排出口が設けられているバレル部にシーリング機構を設けることが好ましい。
【0039】
例えば二軸押出機を例にとった場合、2つのスクリューの回転は「同方向回転」または「異方向回転」のいずれでもよいが、好ましくは、生産効率の点で「同方向回転」の方が好ましい。スクリュー径は、好ましくは20mm〜150mmである。
【0040】
押出機は、1基のみならず、例えば2基などの複数で用いてもよい。押出機を2基用いた場合では、工程(i)、(ii)および有機溶剤の除去工程までを第1の押出機で実施し、工程(iii)を第2の押出機で行うことができる。この場合、第1の押出機から得られる混合物Bを一旦溜め置きしておくことができ、必要に応じて第2の押出機でエマルションを随時製造することができる。
【0041】
本発明の製造方法で得られるエマルションからは、水性塗料組成物を得ることができる。具体的には、得られたエマルションに、顔料ペースト、表面調整剤および粘度調整剤等の各種添加剤、ならびに、必要に応じてその他の水性樹脂成分等、当業者によってよく知られている塗料に用いられる各種成分を含むことによって、水性塗料組成物が得られる。このような水性塗料組成物はスプレー塗装やハケ塗り用の塗料だけでなく、電着塗料として用いることができる。
【0042】
そのように得られた水性塗料組成物は、自動車のボディー、ホイールまたは二輪車のフレーム等の基材に対して、塗装することによって塗膜を形成することができ、基材に塗膜を有する塗装物を得ることができる。塗装方法としては特に限定されず、スプレー塗装、ハケ塗り、電着塗装等を挙げることができる。
【0043】
以下では、本発明の製造方法を更に詳細に説明するために、図2を参照して、押出機を用いた水性塗料用エマルションの連続的な製造方法について説明する。図2に示す押出機では、工程(i)〜(iii)および有機溶剤の除去工程が実施されるセクションI〜IVを模式的に示している。このセクションI〜IVは、各工程を説明するために便宜的に用いるものであり、実際の押出機では図示するようなセクションが特に存在しないことに留意されたい。
【0044】
まず、押出機14のフィード部4に、有機溶剤に溶解している樹脂成分1、硬化剤2および添加剤3を供給する。これにより、樹脂成分1と硬化剤2と添加剤3とがスクリューの回転でセクションIにおいて混合(または混錬)されることになる。かかる混合と相俟って、スクリューの回転によって、原料成分(樹脂成分1、硬化剤2および添加剤3)がA方向(図2にて矢印で図示する方向)へと搬送される。従って、セクションIでは、原料成分が搬送されつつ混合物Aが形成されることになる。
【0045】
次いで、セクションIIまで混合物Aが搬送されると、混合物A(図2にて参照番号12)に対して中和剤水溶液6が供給口5から加えられ、混合物Bが形成される。このセクションIIでも、スクリューの回転によって、混合物Aと中和剤水溶液とが混合されるので、搬送に伴って混合物Bが形成されることになる。
【0046】
セクションIIIでは、混合物B(図2にて参照番号13)から有機溶剤が除去される。例えば、排出口7に接続された真空ポンプを作動させることによって、セクションIIIを減圧し、有機溶剤を除去する。減圧に加えて、又は、減圧に代えて、セクションIIIを加熱してもよい。
【0047】
次いで、有機溶剤が除去された混合物BがセクションIVへと搬送されてくると、供給口9を介して、脱イオン水などの水10が混合物Bに加えられる。これによって、混合物Bにおける連続相が油相から水相へと変化し(即ち「転相」が生じる)、エマルション11が形成されることになる。このセクションIVでも、スクリューの回転によって、混合物Bと水とが混合されるので、搬送に伴って転相が生じることになる。
【0048】
供給口9から供給される水10は、セクションIVで転相が生じる量さえあれば充分である。従って、得られるエマルションの固形分濃度は、押出機から排出された後で必要に応じて調整してもよい。
【0049】
更に、必要に応じて、得られたエマルションからゴミや凝集物等を取り除くために、押出機の下流側に濾過器を設けてもよい。この場合、例えば珪藻土を用いた濾過器を用いることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0051】
例えば、本発明のエマルションの製造方法は、多軸押出機で実施できるのみならず、適当な操作条件下で単軸押出機でも実施することができる。更に、本発明のエマルションの製造方法は、多軸押出機のみならず、ボテーターまたはコニーダー等の捏和機を用いても実施することができる。
【実施例】
【0052】
実施例1〜3は、図3に示すような押出機を用いて本発明の製造方法を実施した例であり、比較例は、電着塗料用エマルションの従来の製造法を実施した例である。なお、図3は、押出機の主たる構成を示すものであり、実際には幾分改造して用いたことに留意されたい。
【0053】
まず、実施例1〜3および比較例に先立って、以下の前処理1〜3を実施した。
(前処理1:樹脂成分の調製)
樹脂成分としてアミン変性エポキシ樹脂を調製した。まず、撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂1000.0部(ダウケミカル製 DER−331J)、ビスフェノールA351.7部、オクチル酸191.5部およびメチルイソブチルケトン(以下MIBKと略す)151.0部を仕込んで100℃に昇温した。撹拌して均一な混合物を得た後、ベンジルジメチルアミン1.65部を添加し、エポキシ当量が1700になるまで120℃で反応させた。引き続いて、MIBK25部を加えて混合物を冷却した後、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルジケチミン73%MIBK溶液206.8部およびN−メチルエタノールアミン21.4部を加えた。次いで、混合物を115℃で1時間保持した。以上の操作によって、アミン変性エポキシ樹脂1949.0部(固形分88%)を得た。
【0054】
(前処理2:硬化剤の調製)
硬化剤としてポリウレタン架橋剤を調製した。まず、攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器にポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート132部(日本ポリウレタン製 MR−200)を仕込み、次いで、MIBK73.5部を反応容器に加えて希釈した。引き続いて、ジブチル錫ジラウレート0.1部を加え、得られた混合物を80℃に昇温した。その後、混合物が90℃を超えないように制御しながら、ブチルジグリコール162部を徐々に加えた。IRスペクトル測定でイソシアネート基の吸収が実質上消失することを確認できるまで混合物を80℃に保持した。以上の操作によって、ポリウレタン架橋剤367.5部(固形分80%)を得た。
【0055】
(前処理3:顔料ペーストの調製)
製造されるエマルションに加えられる顔料ペーストを調製した。エポキシ系4級アンモニウム塩型顔料分散樹脂(固形分50%)120.0部、50%乳酸4.2部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水(調製する顔料ペーストの固形分が56%となる量のイオン交換水)をサンドグラインドミルに仕込み、粒子径が10μm以下となる分散状態が得られるまで処理することによって、顔料ペーストを得た。
【0056】
実施例1
押出機として池貝製PCM−30の二軸混合機(L/D[長径比]=36)を用いた。本実施例は、図4に模式的に示す押出機30を参照して説明する。
【0057】
まず、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂8.59kg、前処理2で得られたポリウレタン架橋剤4.05kgおよび90%工業用酢酸0.216kgを、撹拌機を備えた容器に仕込んで、80℃で30分撹拌して酸性樹脂液Aを得た。
【0058】
押出機30のホッパー部31の温度を60℃、バレル部32および33の温度を80℃、バレル部34の温度を60℃、バレル部35および36の温度を30℃に設定すると共に、スクリュー回転数を1200rpmに設定した。また、冷却槽および有機溶剤トラップを備えた真空ポンプを排出口aを介してバレル部34に接続した。
【0059】
次いで、ギヤポンプを用いて12.857kg/hrの割合で酸性樹脂液Aをホッパー部31に仕込んで押出機へ供すると共に、真空ポンプでバレル部34の内部を70mmHgまで減圧することによって、バレル34に搬送されてくる混合物からMIBKを留去した。次いで、チューブポンプを用いて、バレル部36に設けられた供給口dよりイオン交換水を18.99kg/hrの割合で供給した。押出機を運転してから5分後には、吐出口よりエマルションが流出し始めた。1時間連続運転すると、30.24kgのエマルション(固形分36%)を得ることができた。アミン変性エポキシ樹脂とポリウレタン架橋剤とを混合し始めてからエマルション30kgが得られるまでに要した時間は約1時間40分であった。得られたエマルションの粒子径は62nmであり、MIBKの残存率は0.8%であった。
【0060】
最終的には、得られたエマルション2025gを、イオン交換水2025gおよび前処理3で得られた顔料ペースト444gと混合することによって、カチオン型電着塗料4000gを得た。
【0061】
実施例2
前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂を8.59kg/hrの割合でホッパー部31から供給し、前処理2で得られたポリウレタン架橋剤を4.05kg/hrの割合でバレル部32に設けられた供給口aから供給し、90%工業用酢酸0.216kgとイオン交換水1.0kgとの混合液を1.216kg/hrの割合でバレル部33に設けられた供給口bから供給し、また、イオン交換水の割合を17.99kg/hrで供給口dから供給したこと以外の操作条件は、実施例1と同様の操作条件でもってエマルションを製造した。その結果、30.00kgのエマルション(固形分36%)を得ることができた。アミン変性エポキシ樹脂とポリウレタン架橋剤とを混合し始めてからエマルション30kgが得られるまでに要した時間は約1時間10分であった。得られたエマルションの粒子径は68nmであり、MIBKの残存率は1.0%であった。
【0062】
最終的には、得られたエマルション2025gを、イオン交換水2025gおよび前処理3で得られた顔料ペースト444gと混合することによって、カチオン型電着塗料4000gを得た。
【0063】
実施例3
90%工業用酢酸とイオン交換水との混合液を1.216kg/hrの割合でバレル部35に設けられた供給口cから供給したこと以外の操作条件は、実施例2と同様の操作条件でもってエマルションを製造した。その結果、30.00kgのエマルション(固形分36%)を得ることができた。アミン変性エポキシ樹脂とポリウレタン架橋剤とを混合し始めてからエマルション30kgが得られるまでに要した時間は約1時間10分であった。得られたエマルションの粒子径は58nmであり、MIBKの残存率は0.8%であった。
【0064】
最終的には、得られたエマルション2025gを、イオン交換水2025gおよび前処理3で得られた顔料ペースト444gと混合することによって、カチオン型電着塗料4000gを得た。
【0065】
比較例
本比較例では、押出機を用いずにバッチ式でエマルションを製造した。まず、撹拌機を備えた容器に、前処理1で得られたアミン変性エポキシ樹脂8.59kgと前処理2で得られたポリウレタン架橋剤4.05kgとを仕込み、次いで、80℃で30分撹拌することによって混合物を得た。得られた混合物に対して90%工業用酢酸を0.216kg加えて、30分撹拌した後、冷却しながらイオン交換水20.89kgを3時間かけて加えた。このような操作によって、33.75kgのエマルションA(固形分32%)を得た。次いで、得られたエマルションAを60℃まで加温し、減圧下で2時間かけて3.75kgのMIBKと水の混合液を留去することによって、30.00kgのエマルションBを得た。アミン変性エポキシ樹脂とポリウレタン架橋剤とを混合し始めてから30kgのエマルションBが得られるまでに要した時間は約6時間30分であった。得られたエマルションBの粒子径は127nmであり、MIBKの残存率は1.4%であった。
【0066】
(結論)
実施例1〜3および比較例から以下のことが分かった。
(イ)押出機を用いた本発明の製造方法では、従来の製造法よりも短い時間でエマルションを製造することができる。
(ロ)実施例1〜3で得られたエマルションの粒子径は、比較例で得られたエマルションの粒子径よりも小さいので、押出機を用いた本発明の製造方法は乳化後に有機溶剤を留去する従来の製造法よりも効率よく乳化できる。また、粒子径が小さいので、押出機を用いた本発明の製造方法で得られたエマルションは、従来の製造法で得られたエマルションよりも貯蔵安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のエマルションの製造方法は、例えば電着塗料など水性塗料組成物に用いるエマルションを連続的に製造するのに特に適している。しかしながら、原料成分を適当に変えることによって、化粧品または医薬品等のエマルションを連続的に製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1A】図1Aは、本発明の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図1B】図1Bは、本発明の製造方法の別の工程を示すフローチャートである。
【図2】図2は、押出機を用いて実施される本発明の製造方法を模式的に示した図である。
【図3】図3は、実施例1〜3で用いた二軸押出機の主たる構成を示した側面図である。
【図4】図4は、実施例1〜3で用いた二軸押出機を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0069】
1…有機溶剤に溶解している樹脂成分、2…硬化剤、3…添加剤、4…フィード部、5…中和剤水溶液の供給口、6…中和剤水溶液、7…有機溶剤の排出口、8…混合物から除去された有機溶剤、9…水の供給口、10…水、11…エマルション、12…混合物A、13…混合物B、14,20,30…押出機、21…駆動装置、22…バレル部、23…スクリュー、24…ギヤポンプ、25…サイドフィード(供給口)、26…エマルション排出部、31…ホッパー部および32〜36…バレル部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤に溶解可能な塩基性基または酸性基を含んで成る樹脂成分と硬化剤と有機溶剤とからエマルションを製造する方法であって、
(i)前記樹脂成分と前記硬化剤と前記有機溶剤とを混合して混合物Aを得る工程、
(ii)前記混合物Aに前記塩基性基または酸性基を中和する中和剤水溶液を加え、分散相としての水相および前記有機溶剤と前記中和剤により中和された前記樹脂成分と前記硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る工程、ならびに
(iii)前記混合物Bに水を加えて、前記連続相を、前記油相から水相へと変える転相を行い、エマルションを形成する工程
を含んで成り、
前記工程(ii)と前記工程(iii)との間にて前記混合物Bから前記有機溶剤を除去する工程を更に含む方法。
【請求項2】
前記工程(ii)と前記工程(iii)との間で前記混合物Bから前記有機溶剤を除去する工程に代えて、前記工程(i)と前記工程(ii)との間にて前記混合物Aから前記有機溶剤を除去する工程を含むことを特徴とし、
前記工程(ii)では、分散相としての水相および前記中和剤により中和された前記樹脂成分と前記硬化剤とを含んで成る連続相としての油相の2相から成る混合物Bを得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
減圧下および/または加熱下で前記有機溶剤を留去することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物A、前記混合物Bおよび前記エマルションにて硬化反応が生じないように温度調整することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記エマルションの粘度が、25℃の温度条件の下、5〜200mPa・sであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(i)において、前記有機溶剤、前記樹脂成分および前記硬化剤を連続的に供して前記混合物Aを得ること、前記工程(ii)において前記中和剤水溶液を連続的に前記混合物Aに加えること、前記有機溶剤の除去工程において前記有機溶剤を連続的に除去すること、ならびに、前記工程(iii)において前記水を連続的に前記混合物Bに加えることによって、前記エマルションを連続的に製造することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(i)〜(iii)および前記有機溶剤の除去工程を、複数のスクリューを有する押出機を通じて実施することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記複数のスクリューを有する押出機が二軸押出機であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記樹脂成分は、前記塩基性基としてアミノ基または前記酸性基としてカルボキシル基を含んで成る、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、カーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の樹脂であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記工程(i),(ii)および/または(iii)において、表面調整剤、消泡剤、可塑剤および粘度調整剤から成る群から選択される少なくとも1種以上の添加剤を加えることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法で得られるエマルションを含んで成ることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項12】
前記水性塗料組成物が電着塗料であることを特徴とする、請求項11に記載の水性塗料組成物。
【請求項13】
基材に対して塗料を塗装して塗膜を形成する方法であって、
前記塗料が、請求項11に記載の水性塗料組成物であることを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項14】
請求項13に記載の塗膜形成方法よって得られることを特徴とする塗装物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−18320(P2008−18320A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191516(P2006−191516)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】