説明

エラストマの洗浄方法およびシームレスベルト

【課題】井戸水等の汎用の水を使用して、エラストマからなる基体の表面を、水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一にならない状態に洗浄できるエラストマの洗浄方法と、エラストマからなる無端ベルト状の基体の表面に、水性塗料の塗りむらによる厚みの不均一のない均一な表面層が形成されたシームレスベルトとを提供する。
【解決手段】洗浄方法は、エラストマからなる基体を、水溶性洗浄剤の水溶液によって洗い、水によって濯いだのち、
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2〜0.7質量%の水溶液に浸漬してかく拌する最終濯ぎをしたのち乾燥させる。シームレスベルトは、無端ベルト状の基体を前記洗浄方法によって洗浄後、その表面に水性塗料を塗布して形成された表面層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマからなる基体の表面に水性塗料を塗布するに先立ち、前記基体を洗浄するためのエラストマの洗浄方法、およびエラストマからなる無端ベルト状の基体を前記洗浄方法によって洗浄したのち、その表面に表面層が形成されたシームレスベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばレーザープリンタ等の、電子写真法を利用した画像形成装置において、感光体との間に紙等を挟んで搬送しながら、前記感光体の表面に形成したトナー像を紙等の表面に転写する転写ベルト等として、エラストマからなる無端ベルト状の基体を備えたシームレスベルトが用いられる。
前記シームレスベルトの、紙等と接する表面にトナーが付着すると紙の搬送が不安定化するため、前記表面には、例えばウレタン樹脂、フッ素樹脂等の、トナーが付着し難い材料からなる表面層を形成するのが一般的である。
【0003】
前記表面層は、そのもとになる塗料を、シームレスベルトの表面に塗布したのち乾燥させて形成される。前記塗料としては、環境への負荷を軽減すること等を考慮して水性塗料が好適に用いられる。
水性塗料とは、例えば水溶液型塗料、ディスパージョン型塗料、エマルション型塗料、粉体懸濁型塗料、あるいはこれらの複合型塗料等の、溶媒または分散媒として有機溶剤を含まないか、あるいは少量しか含まず、基本的に水を主体とする塗料を指す。
【0004】
エラストマからなる基体の表面には、当該基体を、例えばプレス成形、押出成形、射出成形等の成形法で成形し、エラストマがゴムである場合は加硫し、さらに必要に応じて前記表面を研磨する等の各種工程を経て基体を製造する際に付着した、例えば指紋等の脂分や機械油等の油分、離型剤等の薬品類、研磨粉等の微小固形物などの多数の汚れ分が存在している。
【0005】
これらの汚れ成分が付着したままの表面に塗料を塗布した場合には塗りむらやはじき等を生じやすいため、厚みが均一で穴あき等のない連続した表面層を形成することはできない。特に水性塗料は脂分や油分等によってはじかれたりし易いため、これらの問題を生じやすい。
そこで水性塗料には、界面活性剤を含有させるのが一般的である。
【0006】
また基体については、前記水性塗料を塗布するに先立って、前記表面を、拭き取り液を浸した布で拭き取る等して汚れ分を除去したり、さらに必要に応じて水で濯いだりしたのち、乾燥させておくのが一般的である。拭き取り液としては、界面活性剤の水溶液等が用いられる。
これらの対策を施すことで、はじきが発生して表面層に穴があくのを防止することはできる。しかし、塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一になるのを防止することはできない。
【0007】
この原因は、拭き取り後に基体の表面に残った水性の拭き取り液や、その後に濯ぎをする場合は濯ぎ水が、前記基体の表面で表面張力によってはじかれて液滴状に集まり、そして前記表面に残るのが原因である。すなわち、拭き取り液や濯ぎ水に使用している水中に本来的に含まれているミネラル分や、あるいは前記拭き取り液中の固形分(界面活性剤等)の残滓などが、前記基体の表面に残った液滴の乾燥に伴って斑状に析出して、当該表面の、水性塗料に対する濡れ性を不均一化させることで、前記水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一になるのである。
【0008】
そこで、例えば特許文献1においては、前記拭き取り液として、界面活性剤である第三級アセチレングリコールを、水ではなく、エラストマからなる基体に対して高い濡れ性を有し、表面張力によってはじかれて液滴状に集まることがない上、短時間で速やかに乾燥するテトラクロロエチレンに溶解したものを用いることが提案されている。
また特許文献2においては、前記エラストマ等の表面を、まず拭き取り液を浸した布で拭くなどした後、ミネラル分等を含まない純水を使用して最終的に濯ぎをすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−136360号公報
【特許文献2】特開2005−161207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1に記載されているように、有機溶媒であるテトラクロロエチレンを含む拭き取り液を使用する場合は、当該テトラクロロエチレンの、環境に対する負荷に十分に考慮する必要が生じる。しかも工場生産レベルでの拭き取りには多量の拭き取り液が必要であるため、表面層のもとになる塗料として水性塗料を選択して用いている意味がなくなってしまう。
【0011】
また、特許文献2に記載されているように最終の濯ぎ工程に純水を使用する場合、環境に対する負荷を考慮する必要はなくなるものの、濯ぎには多量の水が必要であり、しかも一旦濯ぎに使用した後の水は再使用できないため、かかる水として純水を使用する場合は、純水の製造工程をも含めると、シームレスベルトの製造工程数が増加し、生産性が低下するとともに、製造コストが高くついてしまうという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、環境に対する負荷を考慮しなければならない有機溶剤や、例えば井戸水や工業用水道水等の汎用の水からさらに何段階かの製造工程を経て製造しなければならない純水を使用することなく、前記汎用の水をそのまま使用して、エラストマからなる基体の表面を、水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一にならない状態に洗浄することができるエラストマの洗浄方法を提供することにある。
【0013】
また本発明は、エラストマからなる無端ベルト状の基体を前記洗浄方法によって洗浄したのち、その表面に、水性塗料の塗りむらによる厚みの不均一のない、当該厚みが均一な表面層が形成されたシームレスベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、エラストマからなる基体の表面に水性塗料を塗布するに先立ち、前記基体を洗浄する洗浄方法であって、
前記基体を、水溶性洗浄剤の水溶液(以下「洗い液」と記載する場合がある。)によって洗う洗い工程、
前記基体を水によって濯ぐ少なくとも1回の濯ぎ工程、
前記基体を
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下の水溶液(以下「濯ぎ液」と記載する場合がある。)に浸漬してかく拌する最終濯ぎ工程、および
前記基体を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、前記各工程を経ることにより、エラストマからなる基体の表面を、水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一にならない状態に洗浄することができる。
すなわち、洗い工程後に少なくとも1回の濯ぎ工程と最終濯ぎ工程とを連続して実施することや、前記最終濯ぎ工程において、多量の濯ぎ液に基体を浸漬してかく拌することにより、例えば前記濯ぎ液を浸した布で基体の表面を拭き取る場合に比べて、洗い工程で使用した水溶性洗浄剤の残滓が基体の表面にできるだけ残らないように除去することができる。
【0016】
また最終濯ぎ工程において、前記(ア)または(イ)の成分(以下「濯ぎ剤」と記載する場合がある)を前記所定の濃度で含み、水に比べて、エラストマからなる基体に対する濡れ性に優れた前記濯ぎ液を用いることにより、当該最終濯ぎ工程後の表面において、前記濯ぎ液がはじかれて液滴状に集まるのを抑制することができる。
また前記最終濯ぎ工程において、多量の濯ぎ液に基体を浸漬してかく拌したのち引き上げることにより、例えば前記濯ぎ液を浸した布で基体の表面を拭き取る場合に比べて、前記表面に液滴が残るのを抑制して、前記濯ぎ液を、前記表面からできるだけスムースに除去することができる。
【0017】
そのため乾燥工程後の前記表面に、水に含まれるミネラル分や、あるいは前記水溶性洗浄剤、濯ぎ剤等の固形分が斑状に析出するのを防止して、前記基体の表面の、水性塗料に対する濡れ性をできるだけ均一に維持することができる。
したがって本発明によれば、前記各工程に、有機溶剤や純水を使用することなく、例えば井戸水や工業用水道水等の汎用の水を使用しながら、なおかつエラストマからなる基体の表面を、水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一にならない状態に洗浄することが可能となる。
【0018】
本発明は、エラストマからなる無端ベルト状の基体、および前記基体を、水溶性洗浄剤の水溶液(洗い液)によって洗う洗い工程、
前記基体を水によって濯ぐ少なくとも1回の濯ぎ工程、
前記基体を
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下の水溶液(濯ぎ液)に浸漬してかく拌する最終濯ぎ工程、および
前記基体を乾燥する乾燥工程を経て洗浄したのち、前記基体の表面に水性塗料を塗布して形成された表面層を備えることを特徴とするシームレスベルトである。
【0019】
本発明によれば、エラストマからなる無端ベルト状の基体を前記洗浄方法によって洗浄することで、その表面に、水性塗料の塗りむらによる厚みの不均一のない、当該厚みが均一な表面層を形成することができる。
また水性塗料には、界面活性剤を含ませておくのが好ましい。これにより水性塗料の塗りむらをより一層有効に抑制して、前記表面層の厚みをさらに均一にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有機溶剤や純水を使用することなく、例えば井戸水や工業用水道水等の汎用の水をそのまま使用して、エラストマからなる基体の表面を、水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一にならない状態に洗浄することができるエラストマの洗浄方法を提供することができる。
また本発明によれば、エラストマからなる無端ベルト状の基体を前記洗浄方法によって洗浄したのち、その表面に、水性塗料の塗りむらによる厚みの不均一のない、当該厚みが均一な表面層が形成されたシームレスベルトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〈エラストマの洗浄方法〉
本発明は、エラストマからなる基体の表面に水性塗料を塗布するに先立ち、前記基体を洗浄する洗浄方法であって、
前記基体を洗い液によって洗う洗い工程、
前記基体を水によって濯ぐ少なくとも1回の濯ぎ工程、
前記基体を、
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下の水溶液(濯ぎ液)に浸漬してかく拌する最終濯ぎ工程、および
前記基体を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とするものである。
【0022】
(洗い工程)
洗い工程では、エラストマからなる基体を洗い液によって洗う。洗い方としては、エラストマからなる基体を洗い液に浸漬してかく拌するかく拌法、前記基体を洗い液に浸漬して超音波を印加する超音波法、前記基体の表面を、前記洗い液を浸した布で拭き取る拭き取り法等がいずれも採用可能である。
【0023】
特に多量の基体を、手間をかけずに短時間で効率よく洗うことを考慮すると、例えば業務用、家庭用等の電気洗濯機を用いて、後述する濯ぎ工程、および最終濯ぎ工程とともに連続して実施することができるかく拌法が好適に採用される。
洗い液としては、前記のように水溶性洗浄剤の水溶液が用いられる。水溶性洗浄剤としては、前記かく拌法等によって、エラストマからなる基体の表面に付着した汚れ分を除去することができる種々の水溶性洗浄剤がいずれも使用可能である。その濃度も任意に設定することができる。
【0024】
前記水溶性洗浄剤の具体例としては、例えば(株)ネオス製の商品名デタージェント50等が挙げられる。
水としては井戸水や工業用水道水、あるいは上水道水等の汎用の水を用いる。これにより、純水を用いる場合に比べて、例えばシームレスベルト等の、エラストマからなる基体の表面に表面層を形成した製品の製造工程数を少なくし、生産性を向上するとともに、製造コストを引き下げることができる。
【0025】
洗いの時間は、前記電気洗濯機を用いたかく拌法を実施する場合、室温で10分間以上であるのが好ましく、20分間以下であるのが好ましい。
(濯ぎ工程)
濯ぎ工程では、洗い工程を終了した基体を、水を用いて濯いで洗い液を除去する。濯ぎ方としては、エラストマからなる基体を水に浸漬してかく拌するかく拌法、前記基体を水に浸漬して超音波を印加する超音波法、前記基体の表面を流水で流す流水法等がいずれも採用可能である。
【0026】
特に多量の基体を、手間をかけずに短時間で効率よく洗うことを考慮すると、前記電気洗濯機を用いて、先の洗い工程、および後述する最終濯ぎ工程とともに連続して実施することができるかく拌法が好適に採用される。
水としては井戸水や工業用水道水、あるいは上水道水等の汎用の水を用いる。これにより、純水を用いる場合に比べて、前記シームレスベルト等の、エラストマからなる基体の表面に表面層を形成した製品の製造工程数を少なくし、生産性を向上するとともに、製造コストを引き下げることができる。
【0027】
濯ぎの時間は、前記電気洗濯機を用いたかく拌法を実施する場合、室温で10分間以上であるのが好ましく、20分間以下であるのが好ましい。
濯ぎ工程は1回のみ行ってもよいし、2回以上繰り返し行ってもよい。
(最終濯ぎ工程)
最終濯ぎ工程では、濯ぎ工程を終了した基体を、濯ぎ剤としての
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下の水溶液(濯ぎ液)に浸漬してかく拌する。
【0028】
前記(ア)(イ)の濯ぎ剤のもとになる第三級アセチレングリコールとしては、例えば式(1):
【0029】
【化1】

【0030】
〔式中R、R、R、Rは、同一または異なるアルキル基を示す。〕
で表される化合物等が挙げられる。前記R〜Rに相当するアルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等の、炭素数1〜10程度のアルキル基が挙げられる。
【0031】
前記(ア)の、第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物の具体例としては、例えば第三級アセチレングリコールとしての、式(2):
【0032】
【化2】

【0033】
で表される2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール50質量%と、アルコールとしてのエチレングリコール50質量%との混合物である、エアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール(登録商標)104E等が挙げられる。
また前記(イ)の第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物の具体例としては、例えば前記式(2)で表される2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物である、エアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール440等が挙げられる。
【0034】
濯ぎ液における、前記(ア)または(イ)の濯ぎ剤の濃度が0.2質量%以上、0.7質量%以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち、濯ぎ剤の濃度が前記範囲未満では、濯ぎ液の、エラストマからなる基体に対する濡れ性が十分でなく、前記濯ぎ液が、最終濯ぎ工程後の基体の表面において水と同様にはじかれて液滴状に集まりやすくなる。そのため、乾燥工程後の前記表面に、水に含まれるミネラル分や、あるいは水溶性洗浄剤、濯ぎ剤等の固形分が斑状に析出して、当該表面の、水性塗料に対する濡れ性を不均一化し、前記水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一になってしまう。
【0035】
一方、濯ぎ剤の濃度が前記範囲を超えても、それ以上の効果が得られないだけでなく、最終濯ぎには多量の濯ぎ液が必要であるため、前記シームレスベルト等のエラストマからなる基体の表面に表面層を形成した製品の製造コストが高くついてしまう。
また前記(ア)(イ)の濯ぎ剤は、いずれも水に対する溶解度が低いため、過剰の濯ぎ剤が乾燥工程後の前記表面に斑状に析出して、当該表面の、水性塗料に対する濡れ性を不均一化し、前記水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一になってしまうおそれもある。
【0036】
水としては井戸水や工業用水道水、あるいは上水道水等の汎用の水を用いる。これにより、純水を用いる場合に比べて、前記シームレスベルト等の、エラストマからなる基体の表面に表面層を形成した製品の製造工程数を少なくし、生産性を向上するとともに、製造コストを引き下げることができる。
最終濯ぎがかく拌法に限定されるのは、拭き取り法や超音波法では多量の基体を、手間をかけずに短時間で効率よく洗うことができない上、特に拭き取り法では、基体の表面に液滴が残りやすいのに対し、かく拌法によれば、前記多量の基体を効率よく短時間で濯ぐことが出来る上、前記表面に液滴が残るのを抑制して、前記濯ぎ液を、前記基体の表面からできるだけスムースに除去できるためである。
【0037】
またかく拌法によれば、前記電気洗濯機を用いて、先の洗い工程、および濯ぎ工程とともに連続して実施できるという利点もある。
濯ぎの時間は、前記電気洗濯機を用いたかく拌法を実施する場合、室温で10分間以上であるのが好ましく、20分間以下であるのが好ましい。
(乾燥工程)
乾燥工程では、最終濯ぎ工程を終了した基体を加熱して乾燥させる。乾燥法としては、前記基体を、例えば例えば業務用、家庭用等のドラム式乾燥機を用いて、ドラム中でかく拌しながら熱風と接触させる方法が好適に採用される。
【0038】
乾燥の条件は、前記ドラム式乾燥機を用いた方法を実施する場合、温度が80℃以上であるのが好ましく、100℃以下であるのが好ましい。また時間は5分間以上であるのが好ましく、15分間以下であるのが好ましい。
前記各工程を経る本発明の洗浄方法によれば、有機溶剤や純水を使用することなく、例えば井戸水や工業用水道水等の汎用の水をそのまま使用して、エラストマからなる基体の表面を、水性塗料の塗りむらが発生して表面層の厚みが不均一にならない状態に洗浄することができる。
【0039】
かかる本発明の洗浄方法は、エラストマからなり、その表面に水溶性塗料を塗布して表面層を形成する種々の基体の洗浄に適用することができる。
特に、無端ベルト状の基体の表面に水性塗料を塗布して形成された表面層を備えるシームレスベルトの、前記水性塗料を塗布する前の基体の洗浄に好適に適用することができる。
【0040】
これにより、前記表面層の厚みを極力均一化して、例えば転写ベルト等として画像形成装置に組み込んだ際に、前記表面層の厚みのむらに伴う画像の乱れ等を生じないシームレスベルトを提供することができる。
〈シームレスベルト〉
本発明のシームレスベルトは、エラストマからなる無端ベルト状の基体を前記本発明の洗浄方法で洗浄したのち、前記基体の表面に水性塗料を塗布して形成された表面層を備えることを特徴とするものである。
【0041】
前記基体としては、例えば天然ゴム、各種合成ゴム等のゴムや、あるいは各種熱可塑性エラストマ等の1種または2種以上のエラストマからなるものが挙げられる。前記エラストマを、従来同様にプレス成形、押出成形、射出成形等の成形法で成形し、エラストマがゴムである場合は加硫し、さらに必要に応じて前記表面を研磨する等の各種工程を経て基体が製造される。
【0042】
エラストマがゴムである場合、当該エラストマには、例えば加硫剤その他の加硫系の添加剤や、あるいは補強剤等の各種添加剤が配合される。
次いで前記基体を、先に説明した各工程を含む本発明の洗浄方法によって洗浄し、最終工程である乾燥工程の終了後、当該基体の表面に水性塗料を塗布し、乾燥させて表面層を形成することで本発明のシームレスベルトが製造される。
【0043】
表面層は、当該表面層に付与する機能に応じて種々の材料によって形成することができる。例えば先に説明したようにトナーを付着し難くする表面層は、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等によって形成することができる。これらの樹脂からなる表面層は、前記機能に優れる上、柔軟で、しかも基体に対する接着性や耐摩耗性にも優れている。
水性塗料としては、先に説明したように水溶液型塗料、ディスパージョン型塗料、エマルション型塗料、粉体懸濁型塗料、あるいはこれらの複合型塗料等の、溶媒または分散媒として有機溶剤を含まないか、あるいは少量しか含まず、基本的に水を主体とする種々の水性塗料が、いずれも使用可能である。
【0044】
水性塗料には、界面活性剤を含ませておくのが好ましい。これにより水性塗料の塗りむらをより一層有効に抑制して、前記表面層の厚みをさらに均一にすることができる。
前記界面活性剤としては、例えば先に説明した、式(2)で表される2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール50質量%と、アルコールとしてのエチレングリコール50質量%との混合物である、エアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール(登録商標)104E等が挙げられる。
【0045】
前記水性塗料を、例えばスプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等の種々の塗布方法によって基体の表面に塗布したのち乾燥させ、さらにウレタン樹脂、フッ素樹脂等の硬化性樹脂の場合は硬化反応させることで表面層が形成される。
前記表面層の厚みは任意に設定できるが、前記機能を有する、ウレタン樹脂、フッ素樹脂からなる表面層の場合は1μm以上、特に2μm以上であるのが好ましく、20μm以下、特に10μm以下であるのが好ましい。
【0046】
前記表面層を備えたシームレスベルトは、前記のように画像形成装置の転写ベルトとして好適に使用できる他、前記画像形成装置の他の部分のベルトとしても使用可能である。
【実施例】
【0047】
〈実施例1〉
(無端ベルト状の基体)
エラストマとしてのクロロプレンゴム、およびエチレン−プロピレン−ジエンゴムに、加硫系の添加剤としての加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、補強剤としてのカーボンブラック、および難燃剤を添加したゴム組成物を混練し、押出機を用いて筒状に押出成形し、粗カットして加硫したのち定寸カットし、研磨して厚み0.5mm、長さ320mm、周長320mmの、シームレスベルトのもとになる無端ベルト状の基体を作製した。
【0048】
(水の分析)
次項以下で説明する洗浄方法の各工程に使用する井戸水の乾燥後の残滓を、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびエネルギー分散型X線分析装置を用いて元素分析したところ、下記表1に示す各成分を含んでいることが確認された。
【0049】
【表1】

【0050】
(洗い工程)
洗い液としては、水溶性洗浄剤〔前出の(株)ネオス製の商品名デタージェント50〕を前記井戸水に溶解した、濃度0.2質量%の水溶液を用いた。
前記洗い液を市販の渦流式の電気洗濯機の洗濯槽に注入するとともに、前記洗濯槽に前記基体25本を投入し、電気洗濯機を駆動させて、室温で15分間の洗い工程を実施した。
【0051】
(濯ぎ工程)
前記洗い工程の終了後、洗濯槽から洗い液を排水させ、代わって前記井戸水を注入し、電気洗濯機を駆動させて、室温で15分間の濯ぎ工程を実施した。
(最終濯ぎ工程)
濯ぎ液としては、前記(イ)の濯ぎ剤である、前出のエアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール440を前記井戸水に溶解した、濃度0.4質量%の水溶液を用いた。
【0052】
前記濯ぎ工程の終了後、洗濯槽から井戸水を排水させ、代わって前記濯ぎ液を注入し、電気洗濯機を駆動させて、室温で15分間の濯ぎ工程を実施した。
(乾燥工程)
前記最終濯ぎ工程の終了後、洗濯槽から濯ぎ液を排水させるとともに基体を引き上げて、ドラム式乾燥機のドラム内に投入した。そして90℃、10分間の乾燥工程を実施した。
【0053】
(塗布工程)
水性塗料としては、水にフッ素樹脂、レベリング剤、顔料、硬化剤、および界面活性剤を配合したものを用いた。界面活性剤としては、前出のエアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール104Eを用いた。その濃度は、水性塗料の総量の3質量%とした。
前記乾燥工程終了後の期待の表面に、前記水性塗料を、スプレーコート法によって塗布し、次いで160℃で70分間加熱して乾燥させるとともに樹脂を硬化反応させて、厚み2〜10μmの表面層を形成してシームレスベルトを製造した。
【0054】
〈実施例2、3〉
前記最終濯ぎ工程に用いる濯ぎ液として、前出のエアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール440を前記井戸水に溶解した、濃度0.05質量%(比較例1)、0.2質量%(実施例2)、または0.7質量%(実施例3)の水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを製造した。
【0055】
〈実施例4、5、比較例2〉
前記最終濯ぎ工程に用いる濯ぎ液として、前記(ア)の濯ぎ剤である、前出のエアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール104Eを前記井戸水に溶解した、濃度0.05質量%(比較例2)、0.2質量%(実施例4)、または0.5質量%(実施例5)の水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを製造した。
【0056】
〈比較例3〉
前記井戸水による濯ぎ工程を2回実施するとともに、濯ぎ液による最終濯ぎ工程を省略したこと以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを製造した。
〈比較例4〉
前記濯ぎ工程の終了後、洗濯槽から井戸水を排水させるとともに基体を引き上げ、その表面を、前出のエアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール104Eを前記井戸水に溶解した、濃度0.5質量%の水溶液(拭き取り液)を浸した布で拭き取ったのち塗布工程に供給したこと以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを製造した。
【0057】
〈比較例5〉
前記拭き取り液として、前出のエアープロダクツジャパン(株)製のサーフィノール440を前記井戸水に溶解した、濃度0.2質量%の水溶液を用いたこと以外は比較例4と同様にしてシームレスベルトを製造した。
〈表面層の評価〉
前記実施例、比較例で製造したシームレスベルトの表面層を観察して、その10cm×10cmの領域内に見られた塗りむら、およびはじきの個数を計数した。
【0058】
塗りむらの個数は10個以下を良好、11個以上を不良とした。またはじきの個数は0個を良好、1個以上を不良とした。
また表面層の表面のざらつきを下記の基準で評価した。
○:ざらつきなし。良好。
△:僅かにざらつきあるも、実用上差し支えない程度。実用レベル。
【0059】
×:ざらつきあり。不良。
また前記表面層の密着性を、日本工業規格 旧JIS K5400−1990「塗料一般試験方法」の第8.5項所載の碁盤目試験方法に則って、カット間隔2mmで評価した際の評価点数を求めた。
以上の結果を表2、表3に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
比較例3の結果より、洗い工程後に井戸水による濯ぎ工程を実施したのち乾燥させただけでは、水性塗料の塗りむらが生じるのを防止できないことが判った。また比較例4、5の結果より、井戸水による濯ぎ工程後の基体の表面を、拭き取り液を浸した布で拭き取っても、前記塗りむらが生じるのを十分に防止できないことが判った。
これに対し実施例1〜5の結果より、前記濯ぎ工程後に、前記(ア)または(イ)の濯ぎ剤を含む濯ぎ液を用いた最終濯ぎ工程を実施したのち乾燥させることにより、水溶性塗料の塗りむらが生じるのを確実に防止できることが判った。
【0063】
ただし前記実施例1〜5、および比較例1、2の結果より、前記濯ぎ液における、前記(ア)または(イ)の濯ぎ剤の濃度は濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下である必要があることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマからなる基体の表面に水性塗料を塗布するに先立ち、前記基体を洗浄する洗浄方法であって、
前記基体を、水溶性洗浄剤の水溶液によって洗う洗い工程、
前記基体を水によって濯ぐ少なくとも1回の濯ぎ工程、
前記基体を
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下の水溶液に浸漬してかく拌する最終濯ぎ工程、および
前記基体を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とするエラストマの洗浄方法。
【請求項2】
エラストマからなる無端ベルト状の基体、および前記基体を、
水溶性洗浄剤の水溶液によって洗う洗い工程、
前記基体を水によって濯ぐ少なくとも1回の濯ぎ工程、
前記基体を
(ア) 第三級アセチレングリコールとアルコールとの混合物、または
(イ) 第三級アセチレングリコールのポリエーテル化物
の、濃度0.2質量%以上、0.7質量%以下の水溶液に浸漬してかく拌する最終濯ぎ工程、および
前記基体を乾燥する乾燥工程を経て洗浄したのち、前記基体の表面に水性塗料を塗布して形成された表面層を備えることを特徴とするシームレスベルト。
【請求項3】
前記水性塗料は界面活性剤を含んでいる請求項2に記載のシームレスベルト。

【公開番号】特開2013−29671(P2013−29671A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165764(P2011−165764)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】