説明

エリア解析システムおよび無線端末

【課題】場所ごとの通信状況の解析を可能にするエリア解析システムおよび無線端末を提供する。
【解決手段】無線端末は、GPS信号を受信して位置情報を取得する手段と、当該位置情報と、選択したWAN側回線と、そのWAN側回線を利用した通信データ量を含む通信状況を所定の登録周期で通信状況リストとして登録する手段と、当該通信状況リストを所定の周期で複数のWAN側回線の1つを利用してネットワークに接続されるエリア解析サーバへ送信する手段とを備え、エリア解析サーバは、無線端末が1以上存在するときに、各無線端末から送信されるそれぞれの通信状況リストに基づき、位置情報に応じた区画およびWAN側回線ごとの通信データ量を積算した区画情報リストを作成する。無線端末は、通信データ量が閾値を超えた場合に通信状況リストに登録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Global Positioning System )機能を搭載した無線端末が携帯電話回線または無線LAN回線を切り替えてネットワークに接続される無線通信システムにおいて、無線端末の位置情報および通信状況をネットワークに接続されたエリア解析サーバが収集し、場所ごとの通信状況の解析を行うエリア解析システムおよび無線端末に関する。
【背景技術】
【0002】
無線端末が無線ルータを介してネットワークに接続される無線通信システムにおいて、複数のWAN側回線インタフェースを備える無線ルータは、自動的に最適なWAN側回線を選択して接続し、無線端末とWAN側回線との間で中継処理を行う。例えば、無線ルータが携帯電話回線と無線LAN回線に対応できるとき、駅のホームなどの公衆無線LANサービスのサービスエリア内にいるときは公衆無線LAN回線を利用し、そのサービスエリア外に移動したときは携帯電話回線に自動的に切り替わる。無線端末は、このような無線ルータとの接続インタフェースを備えるだけで、複数のWAN側回線を選択してネットワークに接続することができる。
【0003】
この無線ルータによる通信状況(WAN側回線ごとの通信データ量)を容易に把握するシステムとしてエリア解析システムがある(非特許文献1)。
【0004】
このエリア解析システムでは、各無線ルータがGPS機能を搭載し、GPS信号を受信して位置情報を取得し、そのときのWAN側回線種別およびそのWAN側回線を利用した通信データ量を記録する。この記録を各無線ルータからエリア解析サーバへ送信し、エリア解析サーバでは区画ごとの通信データ量を積算することで、場所ごとの通信状況を把握できる。
【0005】
この場所ごとの通信状況は、公衆無線LANの置局設計に利用することができる。例えば、携帯電話回線を用いた通信データ量の多い場所に公衆無線LANの基地局を設置することにより、輻輳している携帯電話回線上のトラヒックを無線LANを経由したネットワークへ流すことで負荷分散することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「無線ルータにおける位置情報連携システムの一検討」,電子情報通信学会ソサイエティ大会B-15-14 ,2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では、無線ルータがGPS機能を備える必要があり、GPS機能を持たない無線ルータは位置情報を取得することができず、位置ごとの通信データ量を記録することができない。そのため、エリア解析サーバにおいて場所ごとの通信状況の解析に利用することができなかった。
【0008】
また、GPS機能をもつ無線ルータが少なければ取得できる情報が少ないため、エリア解析サーバにおいて場所ごとの通信状況を十分に把握することができない。そこで、GPS機能、携帯電話インタフェースおよび無線LANインタフェースを備える無線端末を利用することが考えられる。このような無線端末を介して得られる通信状況を併せて利用することにより、エリア解析サーバにおける通信状況の把握に必要な情報量を補完することが可能である。
【0009】
本発明は、GPS機能をもつ無線端末で得られる位置情報と対応付けてWAN側回線ごとの通信データ量を記録し、場所ごとの通信状況の解析を可能にするエリア解析システムおよび無線端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、複数のWAN側回線インタフェースを備える無線端末が、選択した1つのWAN側回線を介してネットワークに接続される無線通信システムにおいて、無線端末は、GPS信号を受信して位置情報を取得する手段と、当該位置情報と、選択したWAN側回線と、そのWAN側回線を利用した通信データ量を含む通信状況を所定の登録周期で通信状況リストとして登録する手段と、当該通信状況リストを所定の周期で複数のWAN側回線の1つを利用してネットワークに接続されるエリア解析サーバへ送信する手段とを備え、エリア解析サーバは、無線端末が1以上存在するときに、各無線端末から送信されるそれぞれの通信状況リストに基づき、位置情報に応じた区画およびWAN側回線ごとの通信データ量を積算した区画情報リストを作成する区画情報リスト作成手段を備え、無線端末は、所定の登録周期で計測される通信データ量が閾値を超えた場合に当該通信データ量を通信状況リストに登録する構成である。
【0011】
第2の発明は、第1の発明のエリア解析システムの無線端末において、GPS信号を受信して位置情報を取得する手段と、位置情報と、選択したWAN側回線と、そのWAN側回線を利用した通信データ量を含む通信状況を所定の登録周期で通信状況リストとして登録する手段と、通信状況リストを所定の周期で複数のWAN側回線の1つを利用してネットワークに接続されるエリア解析サーバへ送信する手段とを備え、所定の登録周期で計測される通信データ量が閾値を超えた場合に当該通信データ量を通信状況リストに登録する構成である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、複数のWAN側回線を選択する無線端末のGPS機能を利用して得られる位置情報と、選択する回線種別ごとの通信データ量を記録し、エリア解析システムに集約することにより場所ごとの通信状況を解析することが可能となる。特に、所定の登録周期で計測される通信データ量が閾値を超えたときに限りその通信データ量を記録することにより、エリア解析サーバで通信状況を分析するために転送する情報量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のエリア解析システムの構成例を示す図である。
【図2】無線端末12の構成例を示す図である。
【図3】通信状況リストの例を示す図である。
【図4】エリア解析サーバ14の構成例を示す図である。
【図5】区画情報リストの区画の概念を説明する図である。
【図6】区画情報リストの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明のエリア解析システムの構成例を示す。
図1において、ネットワーク11と接続した無線LAN基地局AP1,AP2は駅や店舗に設置され、公衆無線LANのサービスを提供している。無線LAN基地局AP1,AP2は自宅に設置されている場合もある。携帯電話基地局BSもネットワーク11に接続されており、公衆無線LANよりも広いエリアを1つの基地局でカバーしている。ユーザは無線端末12を所持し、無線LAN基地局AP1,AP2との通信が可能な無線LANエリアおよび携帯電話基地局BSとの通信が可能な携帯電話エリアを移動する。ネットワーク11に接続されるエリア解析サーバ14は、無線端末12の位置情報とWAN側回線ごとの通信データ量を収集し、場所ごとの通信状況を解析する機能を有する。
【0015】
図2は、無線端末12の構成例を示す。
図2において、無線端末12は、WAN側無線LAN送受信部121、WAN側携帯電話送受信部122、WAN側回線の接続切替を行う制御部123、通信データ量カウンタ124、GPS信号受信部125、位置情報記憶部126および通信状況記憶部127を備える。GPS信号受信部125は、現在位置の位置情報を取得する手段として、一定周期(例えば1秒)ごとにGPS衛星からのGPS信号を受信し、受信地点の緯度、経度の位置情報を算出する。GPS信号が受信できない場合など位置情報を算出できない場合は、最後に受信した緯度経度の位置情報を保持する。GPS信号受信部125で得られた位置情報は、位置情報記憶部126に記憶する。
【0016】
制御部123は、一定周期ごとに利用中のWAN側回線と、通信データ量カウンタ124で計測される当該WAN側回線で送受信した通信データ量を通信状況記憶部127に登録する。ここで、通信状況記憶部127に登録する周期を登録周期とする。
【0017】
通信状況記憶部127に登録される通信状況リストの例を図3に示す。ここでは登録周期を10秒としている。時刻、緯度、経度については、位置情報記憶部126に記憶されている情報を利用する。WAN側利用回線については、登録時点で利用している回線を記憶し、10秒間の間にWAN側回線を利用して送受信した通信データ量を記憶する。登録周期の間にWAN側利用回線が切り替わった場合にはその旨が登録される。
【0018】
ここで、制御部123は、通信データ量カウンタ124で計測される通信データ量が閾値を超えた場合に限り、通信データ量を通信状況記憶部127に登録する。すなわち、エリア解析サーバ14を無線LAN基地局の置局設計に用いる場合には、通信データ量が多い場所を検出できればよく、通信データ量が閾値を超える場所の情報だけを取得することによって、通信状況を把握するために必要な情報量を低減することができる。
【0019】
無線ルータ12の通信状況記憶部127に登録された通信状況は、通信状況リストとしてネットワーク11に接続されたエリア解析サーバ14に一定周期で送信される。例えば1日に1回、深夜の時間帯などネットワーク内のデータ量が少ない時間帯に送信する。送信はいずれかのWAN側回線を利用するが、送信するデータが多い場合には、できるだけ無線LAN回線を利用すると短時間での送信が完了する。エリア解析サーバ14へメールで送信する場合には、無線ルータ12にメール送信機能を備えてもよい。
【0020】
図4は、エリア解析サーバ14の構成例を示す。
図4において、エリア解析サーバ14は、通信部141、通信状況リスト格納部142、エリア解析処理部143、区間情報リスト格納部144により構成される。ネットワーク11に接続された通信部141は、各無線ルータ12から送られる通信状況リストを受信し、通信状況リスト格納部142に登録する。通信状況リスト格納部142は、各無線ルータ12から一定周期で通信状況リストが送られてくるため大規模な容量を備えておく。エリア解析処理部142は、通信状況リストを読み込み、回線種別ごとの通信状況を解析するための区画情報リストを作成し、区画情報リスト格納部144に格納する。また、区画情報リストを表示する表示部を備えてもよい。
【0021】
次に、エリア解析処理部143の動作例を示す。エリア解析処理部143では、解析したい回線種別ごとの区画情報リストを作成する。区画情報リストの区画の概念を図5に示し、実際にエリア解析処理部143内で処理する区画情報リストの例を図6に示す。
【0022】
図5において、区画の座標を示すA,B,C,…は緯度方向、1,2,3…は経度方向を示す。区画の大きさは、解析したい精度に合わせて緯度経度の度単位や50m四方といったように設定することができる。ここでは、緯度経度の小数点以下4桁の数値を用いている。図6において、区画情報リストは、区画の座標(例えば(A,1))、座標の位置を示す緯度経度、各無線ルータ12から受信した通信データ量の合計を格納する合計通信データ量の各項目で構成される。
【0023】
以下、WAN側回線として携帯電話および無線LANの2種類について、各区画の合計通信データ量を示す区画情報リストを作成する例を示す。例えば、区画情報リスト(携帯電話)、区画情報リスト(無線LAN)とする。なお、例えば携帯電話の区画情報リストが必要な場合は、区画情報リスト(携帯電話)のみを作成することになる。
【0024】
エリア解析処理部143は、通信状況リスト格納部142から通信状況リストを1つ取得し、通信状況リスト内の各行について以下の手順で区画情報リストの合計通信データ量へ通信データ量を加算していく。まず、WAN側利用回線の項目で携帯電話と無線LANを識別し、区画情報リスト(携帯電話)および区画情報リスト(無線LAN)のどちらにその行の通信データ量を加算するかを決定する。その行の緯度経度から区画情報リスト内の該当する区画を検索する。そして、その区画の通信データ量を加算する。例えば、WAN側利用回線が携帯電話となっており、緯度経度が区画(A,3)に該当した場合、その行の通信データ量は区画情報リスト(携帯電話)の区画(A,3)の合計通信データ量に加算される。
【0025】
通信状況リスト内の各行の通信データ量は、順次、区画情報リスト(携帯電話)および区画情報リスト(無線LAN)の各区画に加算する。通信状況リスト格納部142には多数の通信状況リストが格納されているので、各リストについて順次同様の処理を行い、通信データ量を区画情報リストに加算していく。すべての通信状況リストについて通信データ量の加算により、区画情報リスト内の各区画での通信データ量の計算が完了する。作業者への表示方法としては、区画情報リストの合計通信データ量を地図上にマッピングして、数値の大小を色の濃淡や記号で識別して表示することで、通信状況マップとして一目で通信データ量が多い場所を作業者は認識することが可能となる。
【0026】
この区画情報リストから該当するWAN側回線の通信データ量が多い地点がわかり、通信設備の増強などの対応を検討することが可能となる。その後も順次各無線ルータから通信状況リストが送られてくるので、その内容を区画情報リストに反映することで、精度を向上させることができる。
【0027】
なお、無線端末12からエリア解析サーバ14への通信状況リストの送信プロトコルとしては、FTPやHTTPを利用することもできる。その場合は、それらのプロトコルを無線端末12に備えることになる。エリア解析サーバ14への送信は、1日に1回といった形で定期的に送信することも可能であるが、通信状況記憶部127の容量が一定量を超えたら送信するといったことも可能である。
【0028】
また、携帯電話の事業者別のエリア解析を行うことや、無線LANについても公衆無線LAN事業者別のエリア解析を行うことも可能である。無線端末12の通信状況記憶部127に記憶するWAN側利用回線の項目として、通信事業者の識別子も合わせて記憶することで対応可能である。通信事業者の識別は、携帯電話回線であれば、無線端末12に搭載したSIMカードの情報を利用することができ、無線LANであれば、ESS−IDを利用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
AP1,AP2 無線LAN基地局
BS 携帯電話基地局
11 ネットワーク
12 無線端末
14 エリア解析サーバ
121 WAN側無線LAN送受信部
122 WAN側携帯電話送受信部
123 制御部
124 通信データ量カウンタ
125 GPS信号受信部
126 位置情報記憶部
127 通信状況記憶部
141 通信部
142 通信状況リスト格納部
143 エリア解析処理部
144 区間情報リスト格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のWAN側回線インタフェースを備える無線端末が、選択した1つのWAN側回線を介してネットワークに接続される無線通信システムにおいて、
前記無線端末は、GPS(Global Positioning System )信号を受信して位置情報を取得する手段と、当該位置情報と、選択したWAN側回線と、そのWAN側回線を利用した通信データ量を含む通信状況を所定の登録周期で通信状況リストとして登録する手段と、当該通信状況リストを所定の周期で前記複数のWAN側回線の1つを利用して前記ネットワークに接続されるエリア解析サーバへ送信する手段とを備え、
前記エリア解析サーバは、前記無線端末が1以上存在するときに、各無線端末から送信されるそれぞれの通信状況リストに基づき、前記位置情報に応じた区画およびWAN側回線ごとの前記通信データ量を積算した区画情報リストを作成する区画情報リスト作成手段を備え、
前記無線端末は、前記所定の登録周期で計測される通信データ量が閾値を超えた場合に当該通信データ量を前記通信状況リストに登録する構成である
ことを特徴とするエリア解析システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエリア解析システムの無線端末において、
GPS(Global Positioning System )信号を受信して位置情報を取得する手段と、
前記位置情報と、選択したWAN側回線と、そのWAN側回線を利用した通信データ量を含む通信状況を所定の登録周期で通信状況リストとして登録する手段と、
前記通信状況リストを所定の周期で前記複数のWAN側回線の1つを利用して前記ネットワークに接続されるエリア解析サーバへ送信する手段と
を備え、
前記所定の登録周期で計測される通信データ量が閾値を超えた場合に当該通信データ量を前記通信状況リストに登録する構成である
ことを特徴とする無線端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26905(P2013−26905A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161091(P2011−161091)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】