説明

エリスロマイシンの結晶化方法

本発明は、調製溶媒としてジクロロメタン含有溶媒を用いることと、供されたエリスロマイシンのジクロロメタン溶液を、勾配をもつように高温から低温に冷却することにより、エリスロマイシンを結晶化させることとを含む、エリスロマイシンの結晶化方法を提供する。本発明の方法によれば、エリスロマイシンAの含量は高く、エリスロマイシン結晶のエリスロマイシンAの含量は、94.5%よりも多く(HPLC検出法)、エリスロマイシン結晶のジクロロメタンの含量は、600ppm未満であり、エリスロマイシン結晶の水の含量は、2.5%未満であり、エリスロマイシン結晶の微生物学的力価は、940μ/mgよりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、エリスロマイシンの結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
エリスロマイシン,C37H67NO13,分子量733.94は、14員環マクロライドを有する抗生物質である。それは、ペニシリンに類似する、あるいはペニシリンよりもわずかに広い抗菌スペクトルを有し、G+細菌に対する強い抗菌効果がある。それは、エリスロマイシン含有物質を調製するための物質、又はエリスロマイシン誘導体を調製するための出発物質として、用いることができる。
【化1】

【0003】
CN1513864A号は、溶媒としてアセトンと水を用いる、エリスロマイシン塩からエリスロマイシンを調製するための動的再結晶化の方法を開示する。生成物のエリスロマイシンAの量は、93%未満である。エリスロマイシン結晶の水の量は、3.5%よりも多い。エリスロマイシン結晶の微生物学的力価(microbiological titre)は、930μ/mg未満である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、新しい溶媒を用いて、品質の良いエリスロマイシンを得る。エリスロマイシン結晶のエリスロマイシンAの量は、94.5%よりも多い(HPLC検出法)。該エリスロマイシン結晶のジクロロメタンの量は、600ppm未満である。該エリスロマイシン結晶の水の含量は、2.5%未満である。該エリスロマイシン結晶の微生物学的力価(microbiological titre)は、940μ/mgよりも高い。
【発明を実施するための形態】
【0005】
(発明の詳細)
本発明の目的は、高含量のエリスロマイシンAを含む生成物を生成することができる、エリスロマイシンの再結晶化方法を提供することである。
本発明の目的を達成するために、本発明のエリスロマイシンの再結晶化方法は、
1)第一に、アルカリ条件下で、エリスロマイシン又はエリスロマイシン塩を、ジクロロメタンか、又はジクロロメタンを含む溶媒混合物に溶解して、エリスロマイシン溶液を生成するステップと、
2)次いで、該エリスロマイシン溶液を、勾配をもつように(gradiently)37℃から-5℃に冷却して、エリスロマイシン結晶の懸濁液を生成するステップと、
3)次いで、該懸濁液からエリスロマイシン結晶を分離するステップと、
4)そして、該結晶を洗浄及び乾燥するステップと、を含み、
該エリスロマイシン塩が、チオシアン酸エリスロマイシン又はエリスロマイシンラクテート(erythromycin lactate)であり得る。
【0006】
ジクロロメタンを含む溶媒混合物は、エタノール、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、又は、他の類似のアルコール、ケトン若しくはエステルのうちのいずれか1つを更に含み得る。該溶媒混合物のジクロロメタンの容積含有率は、60〜100%である。
該アルカリ条件とは、該エリスロマイシン溶液のpHが8.6〜12であることを指す。
該エリスロマイシン溶液のエリスロマイシンAの量は、4〜20%であり、好ましくは14〜16%である。
【0007】
温度は、2〜36時間の再結晶期間において、勾配をもつように、1時間当たり1〜10℃の冷却速度で、37℃から-5℃に冷却される。好ましくは、該エリスロマイシン溶液の温度は、勾配をもつ冷却時に、1〜10時間、23〜28℃に維持される。
分離ステップは、遠心分離機、濾過装置等の当技術分野で一般的に用いる装置によって行うことができる
遠心分離によって分離したエリスロマイシン結晶は、有機溶媒又は純水で洗浄することができ、エリスロマイシン結晶の溶媒の残分は、乾燥方法によって除去することができる。
該有機溶媒は、90%以上を超えるジクロロメタンと、アルコール、ケトン又はエステル等の他の有機溶媒成分とを含む。
【0008】
試験によるエリスロマイシン結晶のエリスロマイシンAの量は、94.5%よりも多い(HPLC検出法)。該エリスロマイシン結晶のジクロロメタンの量は、600ppm未満である。該エリスロマイシン結晶の水の含量は、2.5%未満である。該エリスロマイシン結晶の微生物学的力価は、940μ/mgよりも高い。
本発明は、ジクロロメタンを含む溶媒のエリスロマイシンの溶解度が、温度の低下に伴って低下するという事実を利用する。ジクロロメタン溶媒で溶解したエリスロマイシンは、勾配をもつように高温から低温に冷却され、エリスロマイシン結晶を生成し、かつ高含量のエリスロマイシンAを含む生成物を生成する。
【実施例】
【0009】
試験例は、本発明を例示するだけであるが、本発明の範囲を制限するように利用されないことが意図される。
【0010】
(実施例1)
チオシアン酸エリスロマイシン(200g)をジクロロメタン(500mL)に添加し、37℃まで加熱しながら撹拌し、溶液が透明になるまでpH12に調整した。上部の水相を分離及び除去し、約14%のエリスロマイシンAを含むジクロロメタン溶液を得た。該ジクロロメタン溶液を24℃に冷却し、2時間保持した後、5時間かけて、-4℃に冷却した。生成した結晶を濾過した。ジクロロメタン(20mL)を用いて、結晶を洗浄し、結晶を更に5分間濾過した。乾燥したエリスロマイシンのエリスロマイシンAの量は、95.2%であり、ジクロロメタンの含量は150ppmであり、水の含量は1.0%であり、そして、微生物学的力価は948μ/mgであった。
【0011】
(実施例2)
エリスロマイシン(100g)をジクロロメタン(600mL)に添加し、35℃まで加熱しながら撹拌し、溶液が透明になるまでpH10に調整した。上部の水相を分離及び除去し、約16%のエリスロマイシンAを含むジクロロメタン溶液を得た。該ジクロロメタン溶液を28℃に冷却し、5時間保持した後、5時間かけて、-2℃に冷却した。生成した結晶を濾過した。ジクロロメタン(20mL)を用いて、結晶を洗浄し、結晶を更に5分間濾過した。乾燥したエリスロマイシンのエリスロマイシンAの量は、96.0%であり、ジクロロメタンの含量は178ppmであり、水の含量は0.9%であり、そして、微生物学的力価は955μ/mgであった。
【0012】
(実施例3)
チオシアン酸エリスロマイシンと他の夾雑物の混合物(100g)を、ジクロロメタンとアセトンとを含む溶媒混合物(300mL)(ジクロロメタンの容積含有率は60%)に添加し、34℃まで加熱しながら撹拌し、溶液が透明になるまでpH12に調整した。上部の水相を分離及び除去し、約15%のエリスロマイシンAを含むジクロロメタン溶液を得た。該ジクロロメタン溶液を23℃に冷却し、1時間保持した後、16時間かけて、3℃に冷却した。生成した結晶を濾過した。ジクロロメタン(20mL)(ジクロロメタンの含量は95%、エタノールの含量は5%)を用いて、結晶を洗浄し、結晶を更に5分間濾過した。乾燥したエリスロマイシンのエリスロマイシンAの量は、94.6%であり、ジクロロメタンの含量は352ppmであり、水の含量は2.2%であり、そして、微生物学的力価は941μ/mgであった。
【0013】
(実施例4)
エリスロマイシン(100g)をジクロロメタン(600mL)に添加した。アセトン(20mL)を添加し、35℃まで加熱しながら撹拌し、溶液が透明になるまでpH9.8に調整した。上部の水相を分離及び除去し、約15%のエリスロマイシンAを含むジクロロメタン溶液を得た。該ジクロロメタン溶液を24℃に冷却し、2時間保持した後、8時間かけて、0℃に冷却した。生成した結晶を濾過した。ジクロロメタン(20mL)を用いて、結晶を洗浄し、結晶を更に5分間濾過した。乾燥したエリスロマイシンのエリスロマイシンAの量は、95.4%であり、ジクロロメタンの含量は247ppmであり、水の含量は1.2%であり、そして、微生物学的力価は946μ/mgであった。
【0014】
(実施例5)
チオシアン酸エリスロマイシンと他の夾雑物の混合物(100g)を、ジクロロメタン(300mL)に添加した。酢酸ブチル(又は酢酸エチル)(50mL)を添加し、34℃まで加熱しながら撹拌し、溶液が透明になるまでpH12に調整した。上部の水相を分離及び除去し、約15%のエリスロマイシンAを含むジクロロメタン溶液を得た。該ジクロロメタン溶液を23℃に冷却し、2時間保持した後、16時間かけて、-5℃に冷却した。生成した結晶を濾過した。ジクロロメタン(20mL)を用いて、結晶を洗浄し、結晶を更に5分間濾過した。乾燥したエリスロマイシンのエリスロマイシンAの量は、94.8%であり、ジクロロメタンの含量は385ppmであり、水の含量は1.1%であり、そして、微生物学的力価は943μ/mgであった。
【0015】
(実施例6)
エリスロマイシンを含む混合物(100g)をジクロロメタン(600mL)に添加した。エタノール(20mL)を添加し、35℃まで加熱しながら撹拌し、溶液が透明になるまでpH8.6に調整した。上部の水相を分離及び除去し、約15%のエリスロマイシンAを含むジクロロメタン溶液を得た。該ジクロロメタン溶液を23℃に冷却し、2時間保持した後、12時間かけて、0℃に冷却した。生成した結晶を濾過した。ジクロロメタン(20mL)(ジクロロメタンの含量は95%、エタノールの含量は5%)を用いて、結晶を洗浄し、結晶を更に5分間濾過した。乾燥したエリスロマイシンのエリスロマイシンAの量は、96.0%であり、ジクロロメタンの含量は180ppmであり、水の含量は1.2%であり、そして、微生物学的力価は944μ/mgであった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のエリスロマイシンの再結晶化方法は、調製溶媒としてジクロロメタン含有溶媒を用いることと、エリスロマイシン含有ジクロロメタン溶液を、勾配をもつように高温から低温に冷却することと、エリスロマイシン結晶を生成することとを含む。エリスロマイシン結晶のエリスロマイシンAの量は、94.5%よりも多く(HPLC検出法)、ジクロロメタンの量は600ppm未満であり、水の含量は2.5%未満であり、そして、微生物学的力価は940μ/mgよりも高い。本発明のエリスロマイシンの再結晶化方法によって、高含量のエリスロマイシンAを生成することができ、それによって、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスロマイシンの再結晶化方法であって、
1)第一に、アルカリ条件下で、エリスロマイシン又はエリスロマイシン塩を、ジクロロメタンか、又はジクロロメタンを含む溶媒混合物に溶解して、エリスロマイシン溶液を生成するステップ;
2)次いで、該エリスロマイシン溶液を、勾配をもつように37℃から-5℃に冷却して、エリスロマイシン結晶の懸濁液を生成するステップ;
3)次いで、該懸濁液からエリスロマイシン結晶を分離するステップ;及び
4)最後に、該結晶を洗浄及び乾燥するステップ
を含むことを特徴とする、
エリスロマイシンの再結晶化方法。
【請求項2】
前記ジクロロメタンを含む溶媒混合物が、エタノール、アセトン、酢酸エチル、又は酢酸ブチルのうちのいずれか1つを更に含み、かつ、
前記ジクロロメタンを含む溶媒混合物のジクロロメタンの容積含有率が、60〜100%であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ条件が、前記エリスロマイシン溶液のpHが8.6〜12であることを指すことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記エリスロマイシン溶液のエリスロマイシンAの量が、4〜20%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
温度が、2〜36時間の再結晶期間において、勾配をもつように、1時間当たり1〜10℃の冷却速度で、37℃から-5℃に冷却されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エリスロマイシン溶液の温度が、勾配をもつ冷却時に、1〜10時間、23〜28℃に維持されることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
有機溶媒又は純水を洗浄に用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、90%を超えるジクロロメタンと、他の有機溶媒成分とを含み、該有機溶媒成分が、アルコール、ケトン又はエステルであることを特徴とする、請求項7記載の方法。

【公表番号】特表2012−506877(P2012−506877A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533513(P2011−533513)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/CN2009/001204
【国際公開番号】WO2010/048786
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(511098367)スンシネ ルアケ プハルマ カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】