説明

エレクトレットおよびエレクトレットコンデンサマイクロフォン

【課題】表面電荷密度が大きなエレクトレットおよび該エレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォンの提供。
【解決手段】含フッ素芳香族ポリマーを主成分として含む含フッ素芳香族系樹脂を含有することを特徴とするエレクトレット。該エレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォン。前記含フッ素芳香族ポリマーは、フッ素原子が芳香環に直接結合した分子構造を有する含フッ素芳香族ポリマーを含むことが好ましい。前記含フッ素芳香族ポリマーは、含フッ素ポリアリーレンおよび/または含フッ素ポリアリーレンエーテルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットおよび該エレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサマイクロフォンは、一般的に、振動板と、これに対向する背極板とを備えるコンデンサ部を備えており、該コンデンサ部において、空気の振動による振動板の動きが、振動板−背極板間の静電容量の変化として電気信号に変換される。該コンデンサ部にエレクトレットを備えるものがエレクトレットコンデンサマイクロフォンであり、エレクトレットコンデンサマイクロフォンは、民生用マイクとして携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ、コンピュータ等に広く用いられている。
エレクトレットは、通常、樹脂膜に電荷を注入することにより製造されている。
エレクトレットコンデンサマイクロフォンに用いられるエレクトレットとしては、これまで、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂を含むものが提案されている(たとえば特許文献1〜2参照。)。
【特許文献1】特開2006−109264号公報
【特許文献2】特開2006−287279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のエレクトレットコンデンサマイクロフォンに用いられているエレクトレットは、電荷を充分に注入できず、表面電荷密度が低いため、電気エネルギーと運動エネルギーとの変換効率が低く、当該エレクトレットを使用したエレクトレットコンデンサマイクロフォンの性能が不充分となる問題があった。
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、表面電荷密度が大きなエレクトレットおよび該エレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォンの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]含フッ素芳香族ポリマーを主成分として含む含フッ素芳香族系樹脂を含有することを特徴とするエレクトレット。
[2]前記含フッ素芳香族ポリマーが、フッ素原子が芳香環に直接結合した分子構造を有する[1]に記載のエレクトレット。
[3]前記含フッ素芳香族ポリマーが、含フッ素ポリアリーレンおよび/または含フッ素ポリアリーレンエーテルである[1]または[2]に記載のエレクトレット。
[4]前記含フッ素芳香族ポリマーが、架橋性含フッ素芳香族プレポリマーを硬化させることにより形成される硬化物である[1]〜[3]のいずれか一項に記載のエレクトレット。
[5]前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)が、架橋性官能基およびフェノール性水酸基を有する化合物(Y−1)、ならびに架橋性官能基およびフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y−2)のいずれか一方または両方と、下式(Z)で表される含フッ素芳香族化合物(Z)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱HF剤の存在下に縮合反応させて得られる、架橋性官能基およびエーテル結合を有し、数平均分子量が1×10〜1×10である含フッ素ポリアリーレンエーテルである[4]に記載のエレクトレット。
【0005】
【化1】

[式中、sは0〜3の整数を表し、t、uはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、RfおよびRfはそれぞれ独立に炭素数1〜8のフッ素化アルキル基を表し、RfまたはRfがそれぞれ複数存在する場合、複数のRfまたはRfはそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。]
【0006】
「6」[1]〜[5]のいずれか一項に記載のエレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォン。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面電荷密度が大きなエレクトレットおよび該エレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォンを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のエレクトレットは、含フッ素芳香族系樹脂を含む。
本発明における「含フッ素芳香族系樹脂」は、含フッ素芳香族ポリマーを主成分として含む樹脂である。「含フッ素芳香族ポリマー」とは、分子内にフッ素原子および芳香環を有するポリマー(芳香環を有する含フッ素ポリマー)である。
ここで、ポリマーが樹脂の主成分であるとは、当該ポリマーが、樹脂中で50質量%以上を占めることを意味する。本発明において、含フッ素芳香族系樹脂中の含フッ素芳香族ポリマーの割合は、好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
含フッ素芳香族系樹脂中に含まれる含フッ素芳香族ポリマーは1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0009】
本明細書において「芳香環」とは芳香族性を有する環状有機化合物における環構造を意味し、特に断りのない限り、任意の置換基を有するものも含む。
含フッ素芳香族ポリマーが有する芳香環は、炭素原子および水素原子からなる炭化水素環であってもよく、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含む複素環であってもよく、これらが混在していてもよい。
前記炭化水素環としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ペンタセン等が挙げられる。
前記複素環としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピラン等が挙げられる。
【0010】
前記含フッ素芳香族ポリマーにおいては、複数の芳香環が連結基により結合していることが好ましい。ここで連結基としては、単結合、アルキレン基、エーテル性酸素原子(−O−)、スルフィド、スルホン、カルボニル、エステル、アミド等の原子団が例示できる。
【0011】
本発明において、含フッ素芳香族ポリマーは、フッ素原子が芳香環に直接結合した分子構造を有することが好ましい。すなわち、その分子構造中に、フッ素原子が直接結合した芳香環(フッ素原子置換芳香環)を有することが好ましい。
この場合、当該含フッ素芳香族ポリマー中に、芳香環に結合していない(鎖状炭素に結合した)フッ素原子が存在していてもよい。
また、フッ素原子置換芳香環において、当該フッ素原子置換芳香環を構成する全ての炭素原子にフッ素原子が結合していてもよく、していなくてもよい。
また、当該含フッ素芳香族ポリマー中に存在する芳香環の全てにフッ素原子が結合していてもよく、していなくてもよい。
【0012】
含フッ素芳香族ポリマーの具体例としては、含フッ素芳香族ポリイミド、含フッ素ポリベンゾオキサゾール、含フッ素ポリベンゾイミダゾール、含フッ素ポリフェニレンスルフィド、含フッ素芳香族ポリスルホン、含フッ素芳香族ポリエーテルスルホン、含フッ素芳香族ポリエステル、含フッ素芳香族ポリカーボネート、含フッ素芳香族ポリアミドイミド、含フッ素芳香族ポリアミド、含フッ素芳香族ポリエーテルイミド、含フッ素ポリアリーレン、含フッ素ポリフェニレンオキシド、含フッ素芳香族ポリエーテルエーテルケトン、含フッ素ポリアリーレンエーテル等が例示できる。
これらのうち、含フッ素芳香族ポリイミド、含フッ素ポリベンゾオキサゾール、含フッ素芳香族ポリエーテルスルホン、含フッ素芳香族ポリエーテルイミド、含フッ素ポリアリーレン、含フッ素芳香族ポリエーテルエーテルケトン、含フッ素ポリアリーレンエーテルが、誘電率が低く、吸湿性が低く、エレクトレット特性に優れることから好ましい。
さらに上記の中でも、含フッ素芳香族ポリマーが、含フッ素ポリアリーレンおよび/または含フッ素ポリアリーレンエーテルであることがより好ましい。特に、主鎖が分岐構造であるものが、注入された電荷を保持しやすく、熱による損失が少ない(耐熱性に優れる)ことから好ましい。
【0013】
本明細書および特許請求の範囲において、含フッ素ポリアリーレンは、その構造中に少なくとも1つのフッ素原子を有するポリアリーレンを意味し、「ポリアリーレン」は、主鎖にポリアリーレン構造を有するポリマーを意味する。
「ポリアリーレン構造」とは、1または複数の芳香環を有する構造の繰り返しによるポリマー構造を意味し、「主鎖にポリアリーレン構造を有する」とは、ポリアリーレン構造を構成している各芳香環において、芳香環を構成する炭素原子の2以上が、主鎖を構成する炭素連鎖中の炭素原子であることをいう。
本明細書においては、含フッ素ポリアリーレンを構成する炭素連鎖のうち、ポリアリーレン構造を含む部分、または「2以上の炭素原子が炭素連鎖中の炭素原子である芳香環」を含む部分は主鎖の一部とみなし、これらの構造を含まない末端部分を「側鎖」と称する。
含フッ素ポリアリーレンの主鎖を構成する炭素連鎖は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。本発明の効果の点からは、分岐構造を有することが好ましい。
含フッ素ポリアリーレンは、芳香環に直接結合しているフッ素原子を有することが好ましい。すなわち、含フッ素ポリアリーレンは、フッ素原子置換芳香環を有することが好ましい。
【0014】
前記含フッ素ポリアリーレンとしては、1または複数のフッ素原子が結合した1または複数の芳香環を有する含フッ素アリール型構造単位を有するポリマーが、誘電率が低く、吸湿性が低く、エレクトレット特性に優れることから好適に例示できる。
前記含フッ素アリール型構造単位としては、たとえば、下式(b1)〜(b6)で表される構造単位が挙げられる。
【0015】
【化2】

【0016】
本明細書において、各式中の芳香環内のFは、当該芳香環の水素原子が全てフッ素原子で置換されていることを表す。
【0017】
前記含フッ素アリール型構造単位においては、芳香環に結合したフッ素原子の一部が他の原子または置換基で置換されていてもよい。他の原子としては、たとえば水素原子が挙げられる。置換基としては、たとえば炭素数1〜8のフッ素化アルキル基が挙げられる。
【0018】
含フッ素ポリアリーレンは、1種の含フッ素アリール型構造単位を有するものであってもよく、2種以上の含フッ素アリール型構造単位を有するものであってもよい。
1種の含フッ素アリール型構造単位を有する含フッ素ポリアリーレンとしては、たとえば含フッ素ポリフェニレン、含フッ素ポリビフェニレン、含フッ素ポリナフタニレン等が挙げられる。
2種以上の含フッ素アリール型構造単位を有する含フッ素ポリアリーレンとしては、たとえば、下式(B1)で表されるポリアリーレン(以下、含フッ素ポリアリーレン(B1)という。)が挙げられる。
【0019】
【化3】

[式中、m及びnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、1≦m+n≦5であり;p、q及びrはそれぞれ独立に0〜5の整数を表し;a、b及びcはそれぞれ独立に0〜3の整数を表す。]
【0020】
m+nが2以上であると、含フッ素ポリアリーレン(B1)が分岐構造の主鎖を有するものとなり、上述したように、耐熱性に優れるため好ましい。したがって、m+nは2〜5の整数であることが好ましく、2または3がより好ましい。
p、q及びrはそれぞれ独立に0〜3の整数であることが好ましい。
a、b及びcはそれぞれ独立に0〜2の整数であることが好ましい。
含フッ素ポリアリーレン(B1)の具体例としては、下式(B1−1)〜(B1−4)で表されるポリアリーレンが挙げられる。
【0021】
【化4】

[式中、a1、b1及びc1はそれぞれ前記a、b及びcと同じである。]
【0022】
含フッ素ポリアリーレンの分子量としては400〜10000程度が好ましく、製膜性の観点から1000〜5000程度がより好ましい。
【0023】
本明細書および特許請求の範囲において、含フッ素ポリアリーレンエーテルは、その構造中に少なくとも1つのフッ素原子を有するポリアリーレンエーテルを意味し、「ポリアリーレンエーテル」は、主鎖にポリアリーレンエーテル構造を有するポリマーを意味する。
「ポリアリーレンエーテル構造」とは、エーテル結合(−O−)により2個の芳香環が結合されている構造の繰り返しによるポリマー構造を意味し、「主鎖にポリアリーレンエーテル構造を有する」とは、ポリアリーレンエーテル構造を構成している各芳香環において、芳香環を構成する炭素原子の2以上が、主鎖を構成する炭素連鎖(ただし、前記芳香環を連結するエーテル結合は主鎖を構成する炭素連鎖の一部とみなす。)中の炭素原子であることをいう。
本明細書においては、含フッ素ポリアリーレンエーテルを構成する炭素連鎖のうち、ポリアリーレンエーテル構造を含む部分、または「2以上の炭素原子が炭素連鎖中の炭素原子である芳香環」を含む部分は主鎖の一部とみなし、これらの構造を含まない末端部分を「側鎖」と称する。
含フッ素ポリアリーレンエーテルの主鎖を構成する炭素連鎖は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。本発明の効果の点からは、分岐構造を有することが好ましい。
含フッ素ポリアリーレンエーテルは、芳香環に直接結合しているフッ素原子を有することが好ましい。すなわち、含フッ素ポリアリーレンエーテルは、フッ素原子置換芳香環を有することが好ましい。
【0024】
前記含フッ素ポリアリーレンエーテルとしては、1または複数の芳香環を有し、任意の1または複数の芳香環に3以上の酸素原子が直接結合している多置換フェニレンエーテル型構造単位と;1または複数のフッ素原子が結合した1または複数の芳香環を有し、かつ、フッ素原子が結合した芳香環と前記酸素原子とが結合した含フッ素アリールエーテル型構造単位とを有するポリマーが、誘電率が低く、吸湿性が低く、エレクトレット特性が良好であることから好適に例示できる。
多置換フェニレンエーテル型構造単位としては、たとえばトリヒドロキシベンゼンから導かれる構造単位、トリスフェノールから導かれる構造単位等が挙げられる。
含フッ素アリールエーテル型構造単位としては、たとえば前記含フッ素アリール型構造単位の芳香環に酸素原子(−O−)が結合したものが挙げられる。
多置換フェニレンエーテル型構造単位および含フッ素アリールエーテル型構造単位を有するポリマーとしては、たとえば特開平10−74750号公報、国際公開第03/8483号パンフレット、特開2005−105115号公報等に記載の含フッ素芳香族ポリマーが例示できる。
【0025】
本発明においては、特に、前記含フッ素芳香族ポリマーが、架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(以下、架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)ということがある。)を硬化させることにより形成される硬化物であることが好ましい。前記含フッ素芳香族ポリマー(B2)が該硬化物であれば、エレクトレットが、耐久性等に優れたものとなる。すなわち、架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)は、溶剤に溶解して溶液とすることが可能であり、該溶液を用いれば、銅基板等の導電性基板上にコーティング膜としてエレクトレットを形成できる。該コーティング膜は、高温処理に対する耐久性が高く、たとえばPTFE等の樹脂フィルムを導電性基板と貼り合わせる場合と比べて、剥離、変形等の問題が生じにくい。そのため、エレクトレット製造時に、電荷の注入を比較的高温(たとえば100〜180℃)で行うことができる。このように高温で注入された電荷は安定性に優れており、エレクトレットとしての耐久性に優れる。
【0026】
架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)は、架橋性官能基を有する含フッ素芳香族ポリマーである。
架橋性官能基は、当該プレポリマー製造時には実質上反応を起こさず、硬化物を作製する時点、又は作製後の任意の時点で、外部エネルギーを与えることにより反応し、プレポリマー分子間の架橋又は鎖延長を引き起こす反応性官能基である。
外部エネルギーとしては、熱、光、電子線等が挙げられる。これらを併用してもよい。
外部エネルギーとして熱を用いる場合、40〜500℃の温度で反応する架橋性官能基が好ましい。反応する温度が低すぎると、プレポリマーの保存時における安定性が確保できず、高すぎると反応時にプレポリマー自体の熱分解が発生してしまうので、前記範囲にあることが好ましい。より好ましくは60〜400℃であり、70〜350℃が最も好ましい。外部エネルギーとして光を用いる場合、プレポリマーに、さらに、特定波長光に対応して好適な光ラジカル発生剤、光酸発生剤、増感剤等を添加することも好ましい。
架橋性官能基としては、硬化物の比誘電率を上昇させないことから、極性基を含まない架橋性官能基であることが好ましい。該極性基としては、水酸基、アミノ基、カルボニル基、シアノ基等が挙げられる。
【0027】
架橋性官能基の具体例としては、ビニル基、アリル基、メタクリロイル(オキシ)基、アクリロイル(オキシ)基、ビニルオキシ基、トリフルオロビニル基、トリフルオロビニルオキシ基、エチニル基、1−オキソシクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル基、シアノ基、アルコキシシリル基、ジアリールヒドロキシメチル基、ヒドロキシフルオレニル基等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高く、高い架橋密度が得られることから、ビニル基、メタクリロイル(オキシ)基、アクリロイル(オキシ)基、トリフルオロビニルオキシ基、エチニル基が好ましい。さらに、得られる硬化物が良好な耐熱性を有する点から、エチニル基またはビニル基が好ましい。
【0028】
架橋性官能基は、架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)の主鎖中にあってもよく、側鎖にあってもよい。なお「主鎖中に架橋性官能基がある」とは、架橋性官能基を構成している炭素原子の1個以上(エーテル結合を含んでいてもよい)が、主鎖を構成する炭素連鎖中の炭素原子であることをいう。
原料の入手の容易性の点からは架橋性官能基が側鎖にあり、主鎖中に架橋性官能基を有さないことが好ましい。
架橋性官能基は、たとえば、当該プレポリマーの原料として架橋性官能基を有する化合物(たとえば後述する化合物(Y−1)、化合物(Y−2)等)を用いることにより導入できる。
【0029】
本発明において、前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)は、架橋性官能基およびフェノール性水酸基を有する化合物(Y−1)、ならびに架橋性官能基およびフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y−2)のいずれか一方または両方と、下式(Z)で表される含フッ素芳香族化合物(Z)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱HF剤の存在下に縮合反応させて得られる、架橋性官能基およびエーテル結合を有し、数平均分子量が1×10〜1×10である含フッ素ポリアリーレンエーテルであることが好ましい。
【0030】
【化5】

[式中、sは0〜3の整数を表し、t、uはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、RfおよびRfはそれぞれ独立に炭素数1〜8のフッ素化アルキル基を表し、RfまたはRfがそれぞれ複数存在する場合、複数のRfまたはRfはそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。]
【0031】
前記含フッ素ポリアリーレンエーテル(以下、プレポリマー(B2−1)ということがある。)の硬化物は、含フッ素ポリアリーレンエーテルである。該硬化物は、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)を用いて製造され、かつ架橋性官能基を有することにより、低誘電率、高耐熱性および優れたエレクトレット特性の安定性を同時に満足する。すなわち、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)を用いることにより、ポリマー鎖に分岐構造を導入し、分子構造を三次元化することにより、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化、すなわち低誘電率化が達成される。また、プレポリマー(B2−1)が架橋性官能基を有することにより、プレポリマー(B2−1)分子間の架橋または鎖延長反応を進行させることができ、その結果、得られる硬化物の耐熱性が大きく向上し、同時に耐溶剤性も向上する。
さらに、前記含フッ素芳香族化合物(Z)を用いることにより、得られる硬化物の可とう性が良好となる。すなわち、それ自体が分岐構造を有する含フッ素芳香族化合物を用いて製造された含フッ素芳香族プレポリマーに比べて、エーテル結合の密度を高めることができ、主鎖の柔軟性が向上し、その結果、得られる硬化物の可とう性、ひいてはエレクトレットの可とう性が良好となる。
【0032】
化合物(Y−1)、化合物(Y−2)が有する架橋性官能基としては、前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマーの説明で挙げた架橋性官能基と同様のものが挙げられる。
【0033】
化合物(Y−1)は、架橋性官能基とフェノール性水酸基とを有する。
化合物(Y−1)としては、架橋性官能基を有し、かつフェノール性水酸基を1個有する化合物(Y−1−1)、および/または架橋性官能基を有し、かつフェノール性水酸基を2個有する化合物(Y−1−2)が好ましい。
化合物(Y−1−1)の具体例としては、4−ヒドロキシスチレン等の反応性二重結合を有するフェノール類、3−エチニルフェノール、4−フェニルエチニルフェノール、4−(4−フルオロフェニル)エチニルフェノール等のエチニルフェノール類が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
化合物(Y−1−2)の具体例としては、2,2’−ビス(フェニルエチニル)−5,5’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ビス(フェニルエチニル)−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビス(フェニルエチニル)ジヒドロキシビフェニル類、4,4’−ジヒドロキシトラン、3,3’−ジヒドロキシトラン等のジヒドロキシジフェニルアセチレン類等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明においては、化合物(Y−1)として、そのフェノール性水酸基の水素原子がアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等の保護基で置換されたものを用いてもよい。かかる化合物において、前記保護基は、縮合反応に用いられる水酸化カリウム等のアルカリ(脱HF剤)により解離し、その結果、フェノール性水酸基が形成される。かかる化合物としては、たとえば4−アセトキシスチレンが挙げられる。
【0034】
化合物(Y−2)は、架橋性官能基およびフッ素原子置換芳香環を有する。
化合物(Y−2)としては、架橋性官能基と、ペルフルオロフェニル、ペルフルオロビフェニル等のペルフルオロ芳香環とを有する化合物が好ましい。その具体例としては、ペンタフルオロスチレン、ペンタフルオロベンジルアクリレート、ペンタフルオロベンジルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルアクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、ペルフルオロスチレン、ペンタフルオロフェニルトリフルオロビニルエーテル、3−(ペンタフルオロフェニル)ペンタフルオロプロペン等の反応性二重結合を有する含フッ素アリール類;ペンタフルオロベンゾニトリル等のシアノ基を有する含フッ素アリール類;ペンタフルオロフェニルアセチレン、ノナフルオロビフェニルアセチレン等の含フッ素アリールアセチレン類;フェニルエチニルペンタフルオロベンゼン、フェニルエチニルノナフルオロビフェニル、デカフルオロトラン等の含フッ素ジアリールアセチレン類が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
化合物(Y−2)としては、比較的低温で架橋反応が進行し、かつ得られる硬化物の耐熱性が向上することから、含フッ素アリールアセチレン類が好ましい。
【0035】
含フッ素芳香族化合物(Z)は前記式(Z)で表される。
式(Z)中、sは1が最も好ましい。
RfおよびRfにおける含フッ素アルキル基は、耐熱性の観点から、ペルフルオロアルキル基が好ましい。具体例としては、ペルフルオロメチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基が挙げられる。
t及びuは、それぞれ独立に0〜2の整数が好ましく、0が最も好ましい。t、uの値が小さいほど、すなわちRf、Rfの数が少ないほど、含フッ素芳香族化合物(Z)の製造が容易となる。
含フッ素芳香族化合物(Z)の具体例としては、たとえばs=0の場合、ペルフルオロベンゼン、ペルフルオロトルエン、ペルフルオロキシレン等が挙げられる。s=1の場合、ペルフルオロビフェニル等が挙げられる。s=2の場合、ペルフルオロテルフェニル等が挙げられる。s=3の場合、ペルフルオロ(1,3,5−トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロ(1,2,4−トリフェニルベンゼン)が好ましく、特にペルフルオロベンゼン、ペルフルオロビフェニルが好ましい。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)におけるフェノール性水酸基の数は、3個以上であればよく、実用的に3〜6個が好ましく、3〜4個が特に好ましい。
化合物(C)としては、多官能フェノール類が好ましい。具体例としては、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシビフェニル、トリヒドロキシナフタレン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、テトラヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシビフェニル、テトラヒドロキシビナフチル、テトラヒドロキシスピロインダン類等が挙げられる。
化合物(C)としては、得られる硬化膜の可とう性が高いことから、フェノール性水酸基を3個有する化合物が好ましい。その中でも、得られる硬化物の誘電率が低くなることから、トリヒドロキシベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが特に好ましい。
【0037】
前記縮合反応に用いられる脱HF剤としては、塩基性化合物が好ましく、特にアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物が好ましい。具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0038】
プレポリマー(B2−1)は、化合物(Y−1)および/または化合物(Y−2)に由来する架橋性官能基を有する。
プレポリマー(B2−1)における架橋性官能基の含有量は、プレポリマー(B2−1)1gに対して架橋性官能基が0.1〜4ミリモルが好ましく、0.2〜3ミリモルがより好ましい。この含有量を0.1ミリモル以上とすることで硬化物の耐熱性及び耐溶剤性を高くでき、また4ミリモル以下とすることで、脆性を小さく抑えやすい。
【0039】
プレポリマー(B2−1)は、架橋性官能基およびエーテル結合の他に、下記一般式(I)で表される側鎖を有していてもよい。プレポリマー(B2−1)が該側鎖を有すると、硬化物が柔軟性に優れ、可とう性に優れる。
【0040】
【化6】

[式中、Rfは炭素数3〜50の含フッ素アルキル基(ただし、エーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい)を表す。]
【0041】
上記一般式(I)において、Rfは炭素数3〜50の含フッ素アルキル基を示し、エーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい。Rfとしての含フッ素アルキル基は、アルキル基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。またこの含フッ素アルキル基は、鎖状アルキル基であっても、シクロアルキル基であってもよい。
Rfは直鎖状、分岐鎖状または環状が好ましい。またRfはアルキル基の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子で置換されたペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
上記一般式(I)で表される側鎖のうち直鎖状のものとしては、下式(I−1)または(I−2)で表されるものが好ましい。
下記一般式(I−1)で表される側鎖のさらに好ましい例としては下式(I−1−1)または(I−1−2)で表される一価基が挙げられる。
【0042】
【化7】

【0043】
式(I−1)において、mは1〜5の整数を表し、Rfは炭素数4〜50の含フッ素アルキル基を示し、エーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい。mは1〜3の整数であることがより好ましい。
式(I−1−1)において、kは1〜10の整数を表す。
式(I−1−2)において、pは1〜10の整数を表す。
式(I−2)において、jは2〜40の整数を表す。
【0044】
上記一般式(I)で表される側鎖のうち分岐鎖状のものとしては、下式(I−3)または(I−4)で表される一価基が好ましい。
【0045】
【化8】

【0046】
式(I−3)において、iは0〜10の整数を表す。
式(I−4)において、hは0〜10の整数を表す。
【0047】
上記一般式(I)で表される側鎖のうち環状のものとしては、下記式(I−5)、(I−6)または(I−7)で表される一価基が好ましい。
【0048】
【化9】

【0049】
一般式(I)で表される側鎖が導入される位置は特に限定されないが、主鎖中のハロゲン置換芳香環に該側鎖が結合していることが、製造上好ましい。すなわち、主鎖にハロゲン置換芳香環が存在しており、その芳香環に一般式(I)で表される側鎖が結合していることが好ましい。
該側鎖が結合しているハロゲン置換芳香環は、ポリアリーレンエーテル構造を構成している芳香環であってもよく、それ以外の他の芳香環であってもよい。プレポリマーの製造が容易である点からは、後者、すなわちポリアリーレンエーテル構造を構成していないハロゲン置換芳香環に一般式(I)で表される側鎖が結合していることがより好ましい。また、該側鎖が結合しているハロゲン置換芳香環は、ペルフルオロ芳香環であることがより好ましい。
【0050】
プレポリマー(B2−1)の1分子中に存在する「一般式(I)で表される側鎖」は1種でもよく、2種以上であってもよい。
プレポリマー(B2−1)における「一般式(I)で表される側鎖」の含有量は、プレポリマー(B2−1)1gに対して0.01〜1gが好ましく、0.05〜0.5gがより好ましい。この含有量が上記範囲の下限値以上であると、撥水性および撥油性の向上効果が良好に得られ、上限値以下であると耐熱性が良好である。
【0051】
プレポリマー(B2−1)は、化合物(Y−1)および化合物(Y−2)のいずれか一方または両方と、含フッ素芳香族化合物(Z)と、化合物(C)とを、脱HF剤の存在下に縮合反応させることにより製造される。
前記縮合反応においては、下記式(2)で示されるように、フェノール性水酸基から誘導されるフェノキシ基が、含フッ素芳香族化合物(Z)のフッ素原子が結合した炭素原子を攻撃し、ついでフッ素原子が脱離する反応機構等によりエーテル結合が生成する。また、化合物(C)及び/又は化合物(Y−1)がオルト位置関係にある2個のフェノール性水酸基を有する場合には、同様の反応機構等により、下記式(3)に示すようにジオキシン骨格が生成する可能性がある。
【0052】
【化10】

【0053】
【化11】

【0054】
プレポリマー(B2−1)の製造方法として、より具体的には、下記(i)〜(iii)のいずれかの製造方法により製造することができる。
(i)含フッ素芳香族化合物(Z)と化合物(C)と化合物(Y−1)とを脱HF剤存在下に縮合反応させる方法。
(ii)含フッ素芳香族化合物(Z)と化合物(C)と化合物(Y−2)とを脱HF剤存在下に縮合反応させる方法。
(iii)含フッ素芳香族化合物(Z)と、化合物(C)と、化合物(Y−1)と、化合物(Y−2)とを脱HF剤存在下に縮合反応させる方法。
【0055】
前記縮合反応における脱HF剤の使用量は、反応系中のフェノール性水酸基の総モル数に対し、モル比で1倍以上の量が必要であり、1.1〜3倍が好ましい。
ここで、反応系中のフェノール性水酸基の総モル数とは、前記製造方法(i)および(iii)にあっては、化合物(C)のフェノール性水酸基および化合物(Y−1)のフェノール性水酸基の合計モル数であり、前記製造方法(ii)にあっては、化合物(C)のフェノール性水酸基のモル数である。
【0056】
前記縮合反応は、極性溶媒を含有する溶媒中で行うことが好ましい。極性溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類等の非プロトン性の極性溶媒が好ましい。
溶媒中には、生成するプレポリマーの溶解性を低下せず、縮合反応に悪影響を及ぼさない範囲で、トルエン、キシレン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ベンゾトリフルオライド、キシレンヘキサフルオライド等が含有されてもよい。これらを含有することにより、溶媒の極性(誘電率)が変化し、反応速度をコントロールすることが可能である。
【0057】
縮合反応条件としては、10〜200℃で1〜80時間が好ましい。より好ましくは20〜180℃で2〜60時間、最も好ましくは50〜160℃で3〜24時間である。
【0058】
前記縮合反応においては、一段階で全ての化合物を反応させてもよく、多段階に分けて反応させてもよい。また反応原料のうち特定の化合物を先に優先的に反応させた後に、引き続いて他の化合物を反応させてもよい。
一段階で全ての化合物を反応させる場合、プレポリマー(B2−1)の製造は、たとえば下記工程(S1)と工程(S2)とを同時に行うことにより実施できる。
また、多段階に分けて反応させる場合、プレポリマー(B2−1)の製造は、たとえば下記工程(S1)を行った後に工程(S2)を行うことにより実施できる。
工程(S1):含フッ素芳香族化合物(Z)と化合物(C)とを脱HF剤存在下に縮合反応させる工程。
工程(S2):化合物(Y−1)および化合物(Y−2)の一方または両方を脱HF剤存在下に縮合反応させる工程。
縮合反応を多段階に分けて行う場合に、途中で得られた中間生成物は、反応系から分離し精製した後に、後続の反応(縮合反応)に用いてもよい。
反応の場において原料化合物は一括で投入されてもよく、連続的に投入されてもよく、間歇的に投入されてもよい。
【0059】
プレポリマー(B2−1)が前記一般式(I)で表される側鎖を有するものである場合、該プレポリマー(B2−1)は、前記化合物(Y−1)および化合物(Y−2)のいずれか一方または両方と、含フッ素芳香族化合物(Z)と、化合物(C)とともに、下記一般式(II)で表されるアルコール(Q)を脱HF剤存在下に縮合反応させることにより製造できる。
【0060】
【化12】

【0061】
式(II)中、Rfは前記式(I)中のRfと同じである。
アルコール(Q)の具体例としては、前記で挙げた一般式(I−1)、(I−1−1)、(I−1−2)、(I−2)〜(I−7)で表される基の末端の酸素原子(−O−)に水素原子が結合してなるアルコールが挙げられる。
【0062】
アルコール(Q)を反応させる際に用いられる脱フッ化水素剤としては、前記の化合物(Z)、化合物(C)、化合物(Y−1)もしくはその誘導体または化合物(Y−2)の縮合反応に用いる脱HF剤と同じものを使用できる。すなわち脱HF剤としては、塩基性化合物が好ましく、特にアルカリ金属の水素化物、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物が好ましい。具体例としては、水素化ナトリウム、水素化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
アルコール(Q)を反応させる際に用いられる脱フッ化水素剤としては、水素化ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化セシウムがより好ましい。
脱HF剤の使用量は、使用するアルコール(Q)の水酸基のモル数に対し、モル比で1倍以上の量が必要であり、1.1〜3倍が好ましい。
アルコール(Q)を反応させる際は、極性溶媒を含有する溶媒中で行うことが好ましい。極性溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル性溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性の極性溶媒が好ましい。
反応条件としては、0〜200℃で1〜80時間が好ましい。より好ましくは20〜180℃で2〜60時間、最も好ましくは30〜100℃で3〜48時間である。
【0063】
化合物(Y−1)および化合物(Y−2)のいずれか一方または両方と、含フッ素芳香族化合物(Z)と、化合物(C)と、アルコール(Q)との縮合反応は、たとえば、前記工程(S1)と工程(S2)とを行った後に、アルコール(Q)を脱HF剤存在下に縮合反応させる工程(S3)を行う方法;前記工程(S1)と該工程(S3)とを行った後に工程(S2)を行う方法等により実施できる。
工程(S1)と該工程(S3)とを行った後に工程(S2)を行う場合、工程(S1)を行った後に工程(S3)を行ってもよく、工程(S1)と工程(S3)とを同時に行ってもよい。
【0064】
プレポリマー(B2−1)の数平均分子量は、1×10〜1×10であり、好ましくは1.5×10〜1×10の範囲である。この範囲にあると、該プレポリマーを溶剤に溶解したプレポリマー溶液の塗布特性が良好であり、膜状の硬化物(硬化膜)を得やすい。また、得られた硬化膜は良好な耐熱性、機械特性、耐溶剤性等を有する。
【0065】
プレポリマー(B2−1)の数平均分子量は、前記製造方法(i)においては、化合物(C)および化合物(Y−1)の合計(前記アルコール(Q)を用いる場合は該アルコール(Q)も含む)と、含フッ素芳香族化合物(Z)との仕込み比率を変化させることによって制御できる。ここで、プレポリマー(B2−1)中に残存する水酸基が少ないほど、比誘電率が低くなり、エレクトレット特性が向上するため好ましい。
前記縮合反応では、含フッ素芳香族化合物(Z)は通常、二官能性化合物としてはたらく。従って、プレポリマー(B2−1)の数平均分子量を上記範囲内とするためには、化合物(C)および化合物(Y−1)の水酸基の合計モル数が、含フッ素芳香族化合物(Z)のモル数の2倍を超えない範囲内で調整することが好ましい。
【0066】
同様に、製造方法(ii)においてプレポリマー(B2−1)の数平均分子量は、含フッ素芳香族化合物(Z)および化合物(Y−2)の合計と、化合物(C)との仕込み比率を変化させることによって制御できる。
プレポリマー(B2−1)の数平均分子量を上記範囲内とするためには、化合物(Y−2)が一官能性化合物として働く場合は、化合物(C)の水酸基の合計モル数(前記アルコール(Q)を用いる場合はさらに該アルコール(Q)の水酸基のモル数も含む)が、含フッ素芳香族化合物(Z)のモル数の2倍と化合物(Y−2)のモル数の合計を超えない範囲内で調整することが好ましい。また、化合物(Y−2)が二官能性化合物として働く場合は、化合物(C)の水酸基の合計モル数(前記アルコール(Q)を用いる場合はさらに該アルコール(Q)の水酸基のモル数も含む)が、含フッ素芳香族化合物(Z)と化合物(Y−2)の合計モル数の2倍を超えない範囲内で調整することが好ましい。
【0067】
また、製造方法(ii)において、含フッ素芳香族化合物(Z)と化合物(Y−2)の反応速度が異なる場合、添加順序によって得られるプレポリマーの分子量や組成が異なる場合がある。例えば、化合物(C)のフェノール性水酸基から誘導されるフェノキシ基に対する反応速度が、含フッ素芳香族化合物(Z)>化合物(Y−2)である場合、含フッ素芳香族化合物(Z)と化合物(Y−2)とを同時に仕込むと、化合物(Y−2)がすべて消費される前に、すべてのフェノキシ基が含フッ素芳香族化合物(Z)により消費され、未反応の化合物(Y−2)が残存する場合がある。この様な場合、化合物(Y−2)の反応率を高めるためには、化合物(Y−2)を先に仕込んだ後に含フッ素芳香族化合物(Z)を仕込むことが好ましいが、本方法では、得られるプレポリマー鎖間の組成のばらつきが大きくなる傾向がある。得られるプレポリマー鎖間の組成のばらつきを小さくする必要がある場合は、一括仕込みにより製造することが好ましい。
【0068】
製造方法(i)において、化合物(C)の使用量は、含フッ素芳香族化合物(Z)に対するモル比で0.1〜1倍が好ましく、より好ましくは0.3〜0.6倍である。また、化合物(Y−1)の使用量は、含フッ素芳香族化合物(Z)に対するモル比で0.1〜2倍が好ましく、より好ましくは0.2〜1.5倍である。
製造方法(ii)において、化合物(C)の使用量は、含フッ素芳香族化合物(Z)に対するモル比で0.5〜2倍が好ましく、より好ましくは0.6〜1.5倍である。また、化合物(Y−2)の使用量は、含フッ素芳香族化合物(Z)に対するモル比で0.1〜2倍が好ましく、より好ましくは0.2〜1.5倍である。
製造方法(iii)において、化合物(C)の使用量は、含フッ素芳香族化合物(Z)に対するモル比で0.1〜1倍が好ましく、より好ましくは0.3〜0.6倍である。また、化合物(Y−1)および化合物(Y−2)の使用量は、それらの合計量が、含フッ素芳香族化合物(Z)に対するモル比で0.1〜2倍であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5倍である。
各値が上記の範囲にあると、得られるプレポリマーが、低い誘電率値と高い耐熱性を併せ持ち、エレクトレット特性に優れるので好ましい。
【0069】
プレポリマー(B2−1)の硬化物が脆性である場合には、硬化物の可とう性を改良するためにプレポリマー(B2−1)製造時に共縮合成分を添加することができる。共縮合成分としては、硬化膜の可とう性向上のためには(Y−1)以外のフェノール性水酸基を2個有する化合物(Y−3)が挙げられる。
前記フェノール性水酸基を2個有する化合物(Y−3)としては、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシターフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシフェナントラセン、ジヒドロキシ−9,9−ジフェニルフルオレン、ジヒドロキシジベンゾフラン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン、ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルヘキサフルオロプロパン、ジヒドロキシビナフチル等の2官能フェノール類が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0070】
プレポリマー(B2−1)は、縮合反応後に、中和、再沈殿、抽出、ろ過等の方法で精製することが好ましい。精製は、製造時において好ましく使用される極性溶媒が存在する状態又は後述する溶剤に溶解もしくは分散された状態で行った方が、効率がよいため好ましい。
【0071】
前記プレポリマー(B2−1)等の架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)に熱、光、電子線等の外部エネルギーを与えると、架橋性官能基が反応して当該プレポリマー分子間の架橋または鎖延長が進行し、硬化物となる。
【0072】
前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)を硬化させる際、架橋反応の反応速度を上げる又は反応欠陥を低減させる等の目的で、前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)とともに、各種の触媒又は添加剤を併用してもよい。
前記触媒としては、たとえば架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)が架橋性官能基(A)としてエチニル基またはビニル基を含有する場合には、アニリン、トリエチルアミン、アミノフェニルトリアルコキシシラン、アミノプロピルトリアルコキシシラン等のアミン類や、モリブデン、ニッケル等を含有する有機金属化合物等が例示できる。
前記添加剤としては、ビスシクロペンタジエノン誘導体が好ましい。エチニル基とシクロペンタジエノン基(1−オキソシクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル基)は熱によりディールスアルダー反応で付加物を形成した後、脱一酸化炭素反応して芳香環を形成する。したがって、ビスシクロペンタジエノン誘導体を使用すると芳香環が結合部位である架橋又は鎖延長ができる。
ビスシクロペンタジエノン誘導体の具体例としては、1,4−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)ベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)ビフェニル、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−オキシビスベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−チオビスベンゼン、1,4−ビス(1−オキソ−2,5−ジ−[4−フルオロフェニル]−4−フェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)ベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−(1,2−エタンジイル)ビスベンゼン、4,4’−ビス(1−オキソ−2,4,5−トリフェニル−シクロペンタ−2,5−ジエン−3−イル)1,1’−(1,3−プロパンジイル)ビスベンゼン等を挙げることができる。
これらのビスシクロペンタジエノン誘導体のうち、耐熱性の観点から全芳香族骨格のビスシクロペンタジエノン誘導体が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
硬化物の形状、大きさは、所望のエレクトレットの形状、大きさに応じて適宜設定すればよい。エレクトレット膜は、一般的に、厚さ1〜200μmの膜として用いられる。該硬化物の形状は、厚さ1〜50μmの硬化膜であることが好ましい。
【0074】
前記硬化膜は、たとえば架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)および溶剤を含む液状の塗布用組成物を調製し、該塗布用組成物を基材上にコーティングし、硬化せしめることにより形成できる。
前記溶剤としては、架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)および必要に応じて添加される成分(たとえば前記触媒、添加剤等)を溶解又は分散できるものであればよい。また、該塗布用組成物の性状を、所望の方法で、所望の膜厚を有し、かつ膜厚の均一性が良好な塗膜を形成できる性状とするのに好適な溶剤を用いることが好ましい。
前記溶剤として、より具体的には、例えば芳香族炭化水素類、双極子非プロトン系溶媒類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、メシチレン、テトラリン、メチルナフタレン等が挙げられる。双極子非プロトン系溶媒類としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
ケトン類としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルアミルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ピラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジフェニルエーテル、アニソール、フェネトール、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。
エステル類としては、乳酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素類としては、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
溶剤は、前述したプレポリマー製造時の反応溶剤と同じであっても、異なっていてもよい。異なる溶剤を使用する場合には、再沈殿法等でプレポリマーを一旦反応溶液より回収し、異なる溶剤に溶解若しくは分散させるか、又はエパポレーション法、限外濾過法等の公知の手法を用いて溶剤置換を行うことができる。
溶剤の使用量は、本発明の塗布用組成物中におけるプレポリマーの固形分濃度が1〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%となるように調整することが好ましい。
【0075】
本発明のエレクトレットは、たとえば、銅基板等の導電性基板上に、上述した硬化膜等の含フッ素芳香族系樹脂からなる樹脂膜を形成し、該樹脂膜に電荷を注入することにより製造できる。電荷の注入には、コロナ放電等の従来公知の方法が利用できる。
【0076】
本発明のエレクトレットは、含フッ素芳香族ポリマーを主成分として含む含フッ素芳香族系樹脂を含有することにより、注入できる電荷の量が多く、従来のエレクトレットに比べて高い表面電荷密度を達成できる。また、耐熱性に優れており、注入された電荷が熱によって損なわれにくく、高い表面電荷密度を長期にわたって保持できる。
含フッ素芳香族系樹脂を用いることにより上記効果が得られる理由としては、フッ素原子および芳香環を有することにより、絶縁破壊電圧が高いことと、高い絶縁性、高い熱安定性に起因して電荷の保持能力が向上していることが考えられる。本発明のエレクトレットは、特に、エレクトレットコンデンサマイクロフォン用として好適である。
【0077】
<エレクトレットコンデンサマイクロフォン>
本発明のエレクトレットコンデンサマイクロフォンは、エレクトレットとして前記本発明のエレクトレットを備えるものであればよく、その構造は特に限定されず、従来公知のエレクトレットコンデンサマイクロフォンの構造と同様であってよい。
【0078】
図1に、エレクトレットコンデンサマイクロフォンの構造の一実施形態を示す。図1は該実施形態のエレクトレットコンデンサマイクロフォンの概略断面図である。
本実施形態のエレクトレット コンデンサマイクロフォン1は、回路基板2と、該回路基板2の上面に実装された集積回路3と、絶縁基板4aおよび該絶縁基板4aの上面に形成された背極電極4bから構成される背極基板4と、背極電極4bの上面に膜形成されたエレクトレット5と、背極基板4の上面にスペーサ6を介して設置された振動膜ユニット7とから概略構成される。
回路基板2は、絶縁基板2aと、該絶縁基板2aの端部に、接続、出力等のために膜形成された接続電極2bとから構成される。
絶縁基板4aには、当該絶縁基板4aを貫通する複数の貫通孔4cが設けられている。
振動膜ユニット7は、絶縁基板から構成される振動膜支持枠7aと、振動膜支持枠7aの下面に膜形成された電極7bと、電極7bに固着された振動膜7cとから構成される。振動膜7cは表面に導電膜を有する導電性の膜である。
【0079】
上記エレクトレットコンデンサマイクロフォン1においては、振動膜7cと、表面にエレクトレット5が形成された背極電極4bとがスペーサ6を挟んで対向配置されてコンデンサを形成する。そして、空気の振動等により振動膜7cが変位すると、該変位が前記コンデンサにおいて電気信号に変換され、該電気信号が電極7b、図示しない各接続電極を介して回路基板2に導かれ、集積回路3で処理された後、回路基板2の裏面の設けられた電極2bより出力される。このとき、貫通孔4cの存在によって振動膜7cの動作がスムーズになり、音響特性等が確保される。
【0080】
本発明のエレクトレットコンデンサマイクロフォンは、表面電荷密度、耐熱性等に優れるエレクトレットを備えることから、容量、耐久性、ハンダリフロー耐性等の特性に優れたものである。
【実施例】
【0081】
以下に、上記実施形態の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[合成例1:前駆体(P1−1)の合成]
ジムロートコンデンサ、スターラーチップの付いた200mL二つ口フラスコに、1,3,5−トリヒドロキシベンゼンの1.79g、(0.014モル)、ペルフルオロビフェニルの10.0g(0.030モル)、ジメチルアセトアミド(DMAc)の106.14gを仕込んだ。撹拌しながらオイルバス上で40℃に加温し、脱HF剤として炭酸カリウムの8.84g(0.064モル)を素早く添加し、撹拌を継続しながら40℃で24時間加熱した。
その後、反応液を室温に冷却し、激しく撹拌した0.5N塩酸水の300mLに徐々に投入すると白色粉状物が沈殿した。この白色粉状物をろ過し、さらに純水で2回洗浄した後に、80℃で12時間真空乾燥を行って、9.84gの白色粉末状の前駆体(P1−1)を得た。
【0082】
[実施例1:エレクトレットAの製造]
ジムロートコンデンサ、熱電対温度計、メカニカルスターラーの付いた50mLパイレックス(登録商標)製4つ口フラスコに、合成例1で得た前駆体(P1−1)の2g、4−アセトキシスチレンの0.5g(0.003モル)、ジエチレングリコールジメチルエーテルの21.2gを仕込んだ。撹拌しながら水酸化カリウム(48%水溶液)の0.76g(0.006モル)を素早く添加し、22時間撹拌した。
その後、反応液を、激しく撹拌した0.5mol/L塩酸の100gに徐々に投入すると白灰色粉状物が沈殿した。この白灰色粉状物をろ取し、さらに水で3回洗浄した後に、60℃で12時間真空乾燥を行って、2.0gの白灰色粉末状のプレポリマー(P1−2)を得た。得られたプレポリマー(P1−2)はエーテル結合、および架橋性官能基であるビニル基を有する含フッ素ポリアリーレンエーテルであった。
得られたプレポリマー(P1−2)(含フッ素ポリアリーレンエーテル)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解し、該溶液をろ過して、50質量%のプレポリマー溶液を得た。
前記プレポリマー溶液を用い、3cm角、厚さ0.3mmの銅基板上に、スピンコート法によって湿潤膜を形成した。このときのスピン条件は1,000〜3,000回転で30秒とした。前記湿潤膜に対し、ホットプレートによる100℃で90秒のプリベークを行った後、縦型炉を用い300℃で30分、窒素雰囲気下でのファイナルベークを行った。得られた樹脂膜(以下、コーティング膜Aという。)の厚さは約15μmであった。
【0083】
前記コーティング膜Aに、コロナ放電にて電荷を注入することによりエレクトレットAとした。電荷の注入は、図1に概略構成図を示すコロナ荷電装置を用い、室温にて、荷電電圧−8kV、荷電時間3分の条件で、以下の手順により行った。すなわち、銅基板(10)を電極として、直流高圧電源装置(12)(HAR−20R5;松定プレシジョン製)により、コロナ針(14)と銅基板(10)との間に−8kVの高電圧をかけることにより、銅基板(10)上に形成されたコーティング膜A(11)に電荷を注入した。このコロナ荷電装置においては、コロナ針(14)から放電した負イオンはグリッド(16)で均一化された後、コーティング膜A(11)上に降り注ぎ、電荷が注入される。なお、グリッド(16)には、グリッド用電源(18)から−600Vの電圧が印加されている。
【0084】
[実施例2:エレクトレットBの製造]
ジムロートコンデンサ、熱電対温度計、メカニカルスターラーの付いた50mLパイレックス(登録商標)製4つ口フラスコに、合成例1で得た前駆体(P1−1)の3g、含フッ素アルコール:CF(OCFCFOCFCHOH(平均分子量1000)の0.75g(0.0007モル)、DMAcの33.8gを仕込んだ。撹拌しながらオイルバス上で60℃に加温し、脱HF剤として炭酸セシウムの0.94g(0.003モル)を素早く添加し、撹拌を継続しながら60℃で46時間加熱した。
その後、反応液を室温に冷却し、激しく撹拌した0.5mol/L塩酸の120gに徐々に投入すると白灰色粉状物が沈殿した。この白灰色粉状物をろ取し、さらに水で3回洗浄した後に、60℃で12時間真空乾燥を行って、3.1gの白灰色粉末状のポリマーを得た。
続いて、ジムロートコンデンサ、熱電対温度計、メカニカルスターラーの付いた50mLパイレックス(登録商標)製4つ口フラスコに、上記反応で得たポリマーの2g、4−アセトキシスチレンの0.35g(0.002モル)、ジエチレングリコールジメチルエーテルの21.2gを仕込んだ。撹拌しながら水酸化カリウム(48%水溶液)の0.76g(0.006モル)を素早く添加し、22時間撹拌した。
その後、反応液を激しく撹拌した0.5mol/L塩酸の100gに徐々に投入すると白灰色粉状物が沈殿した。この白灰色粉状物をろ取し、さらに水で3回洗浄した後に、60℃で12時間真空乾燥を行って、2.0gの白灰色粉末状のプレポリマー(P1−3)を得た。得られたプレポリマー(P1−3)はエーテル結合、架橋性官能基であるビニル基および含フッ素の側鎖を有する含フッ素ポリアリーレンエーテルであった。
得られたプレポリマー(P1−3)を洗浄、乾燥後、シクロヘキサノンに溶解、ろ過し、40質量%のプレポリマー溶液を得た。
上記プレポリマー溶液を用い、3cm角、厚さ0.3mmの銅基板上にスピンコート法によって湿潤膜を形成した。このときのスピン条件は1,000〜3,000回転で30秒とした。前記湿潤膜に対し、ホットプレートによる100℃で90秒のプリベークを行った後、縦型炉を用い300℃で30分、窒素雰囲気下でのファイナルベークを行った。得られた樹脂膜(以下、コーティング膜Bという。)の厚さは約15μmであった。
前記コーティング膜Bに、実施例1と同じ手順により電荷を注入してエレクトレットBとした。
【0085】
[比較例1:エレクトレットCの製造]
3cm角、厚さ0.3mmの銅基板に、膜厚100μmのポリテトラフルオロエチレン(以下,PTFEと称する)のシート(以下、PTFE膜という。)を載せ、プレス処理することによりこれらを貼り合わせた。
銅基板上のPTFE膜に、実施例1と同じ手順により電荷を注入してエレクトレットCとした。
【0086】
[試験例1]
上記エレクトレットA,B,Cについて、以下の手順により荷電試験を行った。
電荷を注入した直後のエレクトレットA,B,Cを、それぞれ、20℃、65%RH(相対湿度)の条件下で保管し、電荷を注入した時点から600時間までの間の表面電位を測定し、その経時変化を観察した。
表面電位は、表面電位計(model279;モンローエレクトロニクス製)を用い、常温(25℃)にて、各エレクトレットの9点の測定点(膜の中心から3mm毎に格子状に設定。図2参照。)で測定した。
表面電荷密度(mC/m)は、式:(前記9点の測定点の表面電位の平均値(V)/(測定面積(9cm))により求めた。
図3にその結果を示す。図3のグラフにおいては、横軸が経過時間であり、縦軸が表面電荷密度である。図3からわかるように、エレクトレットA,Bは、エレクトレットCに対して表面電荷密度が大きく向上した。
一定時間経過後に減衰がほぼなくなった時点での表面電荷密度は、エレクトレットAが、0.71mC/m(550時間後)、エレクトレットBが、0.5mC/m(550時間後)、エレクトレットCが、0.18mC/m(460時間後)、であった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】エレクトレットコンデンサマイクロフォンの一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例において電荷の注入に用いたコロナ荷電装置の概略構成図である。
【図3】エレクトレットA,B,Cの表面電位の測定点を示す図である。
【図4】エレクトレットA,B,Cに保持された表面電荷密度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1…エレクトレットコンデンサマイクロフォン、2…回路基板、2a…絶縁基板、2b…接続電極、3…集積回路、4…背極基板、4a…絶縁基板、4b…背極電極、4c…貫通孔、5…エレクトレット、6…スペーサ、7…振動膜ユニット、10…銅基板、11…樹脂膜、12…直流高圧電源装置、14…コロナ針、16…グリッド、17…電流計、18…グリッド用電源、19…ホットプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素芳香族ポリマーを主成分として含む含フッ素芳香族系樹脂を含有することを特徴とするエレクトレット。
【請求項2】
前記含フッ素芳香族ポリマーが、フッ素原子が芳香環に直接結合した分子構造を有する請求項1に記載のエレクトレット。
【請求項3】
前記含フッ素芳香族ポリマーが、含フッ素ポリアリーレンおよび/または含フッ素ポリアリーレンエーテルである請求項1または2に記載のエレクトレット。
【請求項4】
前記含フッ素芳香族ポリマーが、架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)を硬化させることにより形成される硬化物である請求項1〜3のいずれか一項に記載のエレクトレット。
【請求項5】
前記架橋性含フッ素芳香族プレポリマー(B2)が、架橋性官能基およびフェノール性水酸基を有する化合物(Y−1)、ならびに架橋性官能基およびフッ素原子置換芳香環を有する化合物(Y−2)のいずれか一方または両方と、下式(Z)で表される含フッ素芳香族化合物(Z)と、フェノール性水酸基を3個以上有する化合物(C)とを、脱HF剤の存在下に縮合反応させて得られる、架橋性官能基およびエーテル結合を有し、数平均分子量が1×10〜1×10である含フッ素ポリアリーレンエーテルである請求項4に記載のエレクトレット。
【化1】

[式中、sは0〜3の整数を表し、t、uはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、RfおよびRfはそれぞれ独立に炭素数1〜8のフッ素化アルキル基を表し、RfまたはRfがそれぞれ複数存在する場合、複数のRfまたはRfはそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。]
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のエレクトレットを備えるエレクトレットコンデンサマイクロフォン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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