説明

エレクトロウェッティングセル及びそれを駆動する方法

主に可変焦点レンズとして用いられるエレクトロウェッティングセル(15)は、第1及び第2非混和製流体(51、52)を有する流体チャンバ(50)を有し、第1及び第2非混和製流体(51、52)はメニスカス(14)を介して接触し、第1流体(51)は極性であり、第2流体(52)は電気導電性である。流体チャンバ(50)は内側面(18)を備え、その流体チャンバ内に流体接触層(10)が存在し、その流体接触層は第1流体に対して固有の引力を有する。電極は、この流体接触層(10)により得流体チャンバから分離されている。流体チャンバ(50)は、接触点(102)で内側面(18)の動作点より小さい直径を有するように構成される一方、動作点(101)に対する接線(R1)は第2点(102)に対する接線(R2)よりセル(15)の光軸(OA)と小さい角度を囲む。これは、第2点(102)で内側壁(18)に接するメニスカス(14)は光軸の方に方向付けられ、セル(15)は低い構成高さを有することをもたらす。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光軸を有するエレクトロウェッティングセルであって:流体チャンバ内に第1及び第2懸濁流体であって、それらの懸濁流体の一は電気導電性である、第1及び第2懸濁流体と;それらの流体の界面にあるメニスカスと;を有する、エレクトロウェッティングセルであり、その流体チャンバは、(1)対向する第1側及び第2側であって、光軸は第1側から第2側まで進み、第1流体は第1側とメニスカスとの間に少なくとも実質的に位置付けられている、第1側及び第2側と、(2)第1側と第2側との間に広がっている内側壁であって、その内側壁に流体接触層がある、内側壁と、(3)流体接触層により流体から分離された第1電極と、(4)電気導電性流体に影響を与える第2電極と、を備える、エレクトロウェッティングセルであり、メニスカスの形状は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより設定され、セルは、休止状態から動作状態に移行され、休止状態において、メニスカスは接触点で内側壁と接する、エレクトロウェッティングセルに関する。
【0002】
本発明はまた、そのようなエレクトロウェッティングセルに備えられたレンズ、レンズ系及び電子機器に関する。
【0003】
本発明は更に、セル内の第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、そのようなエレクトロウェッティングセルを駆動する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
そのようなエレクトロウェッティングセルについては、国際公開第03/069380号パンフレットに開示されている。その開示されているセルにおける内側壁は円筒形である。そのセルの光軸は、本質的に、その内側壁と平行である。休止状態の第1流体は内側壁に沿って広がっている。その第1流体は接触点で内側壁と接し、その第1流体は第2側と実質的に接している。このことは、物理化学的引力の結果によるものである。電圧を印加することにより、即ち、動作状態においては、しかしながら、コンデンサタイプの動作が、電気導電性流体と第1電極との間で、それ故、流体接触層において発生する。これは、上記の引力に対して反対方向に作用する力を生じる。このようにして、メニスカスの形状が設定されることが可能である。開示されているセルにおいては、第2流体は電気導電性流体であり、それらの流体は透明であり、それぞれ、異なる屈折率を有する。このことは、セルを非常に適切なレンズにする。
【0005】
構成の高さが比較的高いことが、その開示されているセルの不利点である。特に、この構成の高さは、例えば、携帯電話のためのカメラモジュール内の可変焦点レンズとしてセルを組み込むには、抑えられることが望ましい。
【特許文献1】国際公開第03/069380号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故、本発明の第1の目的は、冒頭の段落で述べた種類のエレクトロウェッティングセルであって、低い構成高さを有するエレクトロウェッティングセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、メニスカスの形状が印加電圧に実質的に依存しない閾値電圧であって、その閾値電圧においてメニスカスの末端が動作点にあり、接触点への接線は、動作点への接線より、セルを通る光軸に対する大きい囲み角を有する、閾値電圧をセルが有することにより達成される。
【0008】
本発明においては、メニスカスが内側壁と接すること、及び、内側壁の方向を調節することにより、メニスカスの方位が休止状態において調節されるという認識を用いる。光軸の方への方位の結果として、メニスカスの表面は縮小して、メニスカスの高さは減少する。メニスカスの高さは、ここでは、一方では、内側壁におけるメニスカスの接点と、他方では、メニスカスの上部が光軸と交わるメニスカスの上部との間における光軸と平行は距離を意味するとして理解される。‘内側壁と接する’の内包的意味は、第1流体の非常に薄い層が内側壁とメニスカスとの間に存在することを排除するものではない。メニスカスのより低い高さは、セルの構成高さを減少させることを可能にする。
【0009】
休止状態から標準的な方法でセルを動作することができるように、先ず、閾値が適用されるようになっている。その閾値は、内側壁におけるメニスカスの端部がその接触点から動作点の方に移動するようにする。それらの点の間に対する接線間の角度が存在するため、及び、動作点における流体チャンバは接触点における角度より小さいため、メニスカスの全形状は、実質的に変化しない。更に、接触点におけるメニスカスの接線は、動作点におけるメニスカスに対する接線と、方位は殆ど変わらない。しかしながら、接触点において、メニスカスは内側壁と接し、動作点において、メニスカスの末端は内側壁にある。
【0010】
この点で、より低い構成高さに伴って、チャンバ内の流体体積がまた、減少することは、本発明にしたがったセルについての有利点である。これは、流体が膨張するために、有利であり、それ故、流体が膨張しないと、全く意味がない。流体の膨張を補償するための手段、例えば、フレキシブルなメンブレンは、温度上昇のための流体膨張を適切に補うことができる。そのようなメンブレンは、好適には、セルの第1側のシーリング部に位置付けられている。
【0011】
休止状態のメニスカスが、光軸に対する角度を有する接触点に対して接するセルについては、例えば、文献Proc.SPIE Vol.4764(2002)159に記載されている。この記載されているセルは、第1及び第2部分を有する内側壁を有する。第1部分において、流体チャンバは円錐状である。第2部分において、内側壁は、光軸に対して90°である。休止状態においては、メニスカスは内側壁の第1部分に対して接し、動作状態においては、メニスカスは、同じ第1部分にその末端がある。
【0012】
本発明の実施形態におけるセルの有利点は、動作点が基準状態として用いられることである。メニスカスの形状を確立する適切な方法は、容量又は電流の測定にある。このような容量又は電流は、電圧差を伴わない場合に容量は適切な方法で規定されることはできないため、実際には、電圧が印加された後にのみ決定される。
【0013】
既知のセルにおいては、物理的基準状態は存在しない。基準は、実際には、特定の電圧において規定されることが可能であり、それ故、容量を測定することが可能である。しかしながら、最初の測定値からずれた測定値が求められた場合、これは、主に、内側壁におけるメニスカスのシフト、及び、主に、光軸の周りに関連付けられる。前者はセルの光学的挙動に関連していない一方、後者は光学的挙動に関連している。それ故、偶発性が存在する。第1流体は、一般に、オイルであり、一般にサリン水溶液である第2流体に比べて非常に広がるため、温度変化がある場合に、その偶発性は、特に起こり易い。
【0014】
本発明にしたがったセルにおいては、閾値電圧は基準状態を規定する。更に、閾値電圧は所定値ではないが、独立して容量において、即ち、印加電圧の関数としての容量変化により得られることが認められる。
【0015】
本発明にしたがったセルの他の有利点は、このようなセルは電圧パルスに対して適切な耐性を有する傾向にあることである。既知のセルにおいては、印加電圧は、直接に、メニスカスの形状変化に繋がる。僅かに大きい電圧パルスを用いる場合、メニスカスがひっくり返る可能性がある。そのような現象は、最終的には、流体の一部の混合又は他の好ましくない影響に繋がる。本発明にしたがったセルにおいては、電圧パルスは、先ず、閾値電圧を超え、そのことは、即ち、内側壁における流体の小さい変位に繋がることを意味する。電圧パルスがその流体変位の時間より短い場合、そのパルスは、メニスカスが実質的に形状を変化させる又は速い速度を得る前に、終わってしまう。それ故、セルは、電圧パルスに対して良好な耐性を有する。
【0016】
接触点に対する接線と光軸との間の囲み角は、メニスカスの接線は90°にまでなる可能性がないため、常に90°より小さい。特開2002−169110号公報に、メニスカスがチャンバに挿入されたチューブにより所定位置に保たれるセルについて記載されている。そのチューブの底部は平坦であり、そのことは、メニスカスがチューブの端部にその末端を置くことを意味する。更に、流体接触層はチューブの表面にはないが、チャンバの底部に形成されている。それ故、流体とチューブとの間の相互作用はまた、本発明にしたがったセルにおけるものとは全く異なった性質を有する。
【0017】
接触点に対する接線と光軸との間の囲み角は、好適には、15°以上且つ75°以下である。更に好適には、その囲み角は30°乃至60°である。
【0018】
他の実施形態においては、動作点と第1側との間の第1部分である流体チャンバは、本質的に、円筒形である。流体チャンバのまさに円筒部分を用いる場合、閾値電圧を用いることは、構成高さの著しい減少に繋がる。円錐状の第1部分についての有利点は、利用可能な光学表面が最大化されることにある。
【0019】
他の好適な更なる実施形態においては、その接線と動作点との間の部分における内側壁は曲面を有し、急峻な角を有していない。チャンバの内側壁において角が存在するとき、その角に対してメニスカスが固定されるリスクがあり、換言すれば、まさにこの位置に末端があり、接触点に対して接線を有しないリスクがある。これは、セルの挙動に重大な影響を与える可能性がある。しかしながら、角が小さい場合、この必要性は何れの問題をもたらさない。
【0020】
本発明の実施形態の他の有利点は、低減されたブレークダウンの可能性にある。これは、より小さい壁領域の結果である。これはまた、内側壁における不所望の光反射(ゴースト)の発生を低減する。
【0021】
円筒形部分と円形状表面の組み合わせは、メニスカスが非常に迅速に所望の状態に設定される点で、有利である。一般に、そのようなメニスカスの設定は、内側壁に対して180°の接触角において非常にゆっくり、そして90°の接触角において非常に早く起こる。この実施形態においては、180°の接触角は、閾値電圧より小さい領域に位置しているため、存在しない。90°の接触角は、平坦なメニスカスに相当する。これは、実際には、低い構成高さ及び小さい光学収差の観点から重要な位置である。対照的に、円錐状チャンバは180°の接触を有し、それ故、ゆっくりの設定を伴う部分を有する。90°の接触角は、メニスカスが球状から中空状に変化した位置に相当する。換言すれば、メニスカスの平坦な位置に対して、接触角は90°より大きいことさえあるが、その場合、早くない。
【0022】
流体チャンバが、動作点と流体チャンバの第2側との間に位置しているサブチャンバを備えているとき、非常に有利である。このサブチャンバは、内側壁におけるサブチャンバ点において、流体チャンバが動作点において有するより大きい直径を有する。サブチャンバにおける接線は光軸に対する囲み角を構成し、その囲み角は、接触点に対する接線と光軸との間の角度より小さい。本質的に、これは、サブチャンバの上部及び側部の両方を規定することを意味する。この有利点は、良好なチャンバのシーリング部にある。第1流体の一部はサブチャンバ内に、即ち、内側壁に、直接、集まる。その結果、内側壁とシーリング部との間の領域は、習慣的にオイルであるこの第1流体のみと接する。それ故、通常、その領域に沿ったサリン水溶液でありまた、内側壁の方に向かうそのオイルは、第2流体の拡散のためのバリア層を成す。このことは、セルの寿命に好適に影響する。
【0023】
更なる実施形態においてはまた、休止状態で、サブチャンバの大きい部分を満たしている第2流体は電気導電性流体である。第1電極は、このとき、チャンバの第2側のシーリング部の孔の中に位置付けられている。この孔は、第1側に垂直に投影されるときに、少なくとも一部がチャンバの外側になるような位置にある。このような手段は、非透明材料で第1電極を形成することを可能にする一方、光学的に使用可能なセルの表面を減少させない。適切な材料の例は、全ての金属及び合金である。特に、銅が非常に適切であるようにみえる。
【0024】
他の実施形態においては、チャンバの内側壁は内側体により構成される。内側体を用いることは、構成上、有利である。セルの支持構成は、次いで、プレートレベルに作られ、その後、個別の内側体が、チャンバ内のそのプレートに位置付けられる。そのような手段の例は、ガラスプレートにおけるメンブレンである。好適には、ガラスプレートは、チャンバから遠い、対向する側に金属パターンを有する。そのようなパターンは、その金属パターンと化学結合を生成する材料の堆積により、チャンバがシーリングされるようにする。例としては、特に、化学的気相成長法、無電解メッキ及び電気メッキがあり、後者の例は最も有利であると考えられる。次の段階において、セルは充填され、それはまた、プレートレベルで行われる。
【0025】
内側体を用いることにより、備えられる所望の形状は、支持構成の形成とは分離される。この内側体はまた、流体接触層の形成のために適用される。このように分離されて備えられることはまた、内側体のものと異なる支持構成のための材料を適用することを可能にするが、熱膨張の観点から許容される制限内にあることは、注意するまでもないことである。
【0026】
他の実施形態においては、流体チャンバは第1及び第2側においてシーリング部を有し、それらシーリング部の少なくとも一は光学的に透明であり、第2側のシーリング部であり、第2側のシーリング部はメニスカスの下に位置付けられ、流体チャンバ内に位置付けられた凸部を有する。その凸部は、例えば、流体チャンバの第1側の形状及び構成を有する。そのような凸部の有利点は、メニスカスの下の流体の量が減少されることである。このことは、少ない流体は少ない膨張を意味するため、温度の上昇に伴う流体の膨張の観点から、特に有利である。シーリング部がガラスから成る場合、そのような凸部は、粉体噴射により残りの部分を切り取ることにより容易に形成される。
【0027】
本発明にしたがったエレクトロウェッティングセルは、レンズとして適用されることができ、また、例えば、ダイヤフラム、ディスプレイ装置(の一部)、光フィルタ等の他の光学要素として適用されることができる。レンズの非常に有利な実施形態においては、流体は光学的に透明であり、異なる破壊指数を有し、更に、シーリング部は光学的に透明である。光学的透明性の条件は、シーリング部が光スペクトル全体において透明であることを必要とすることを意味しない。レンズの場合、両方のシーリング部は光学的に透明である。シーリング部は平坦であることが可能であるが、これは不可欠ではない。例えば、レンズを、シーリング部として用いることが可能である。チャンバから離れて対向しているシーリング部の側において、機械的アライメント手段は、好適に備えられている。所望の光学的挙動を得るように、レンズは、好適には、複数のレンズを有するレンズ系の一部である。このようなレンズ系は、2つ以上の電気的に調節可能なレンズを有し、ズームレンズを成すことが求められる。その点で、エレクトロウェッティングセルはまた、1つのみでなく、2つ又はそれ以上のチャンバを有することが可能である。チャンバの各々は、冒頭の段落で説明したように、エレクトロウェッティングセルの要素、即ち、第1及び第2電極と、メニスカスを介して互いに接触する電気導電性流体及び絶縁性非混和性流体と、壁表面における流体接触層とを有する。チャンバは、チャンバを構成する光学要素が同一である必要がないために、同一である必要はない。チャンバは隣り合わせて位置付けられることが可能であるがまた、列を成して位置付けられることが可能である。後者の場合、同じ光学軸が両方のチャンバを貫き、それらのチャンバはシーリング部により分離され、又は所望の高さのスペーサにより分離されることが可能である。
【0028】
本発明の第2の目的は、セルが短い高電圧パルスに対して適切な耐性を有するエレクトロウェッティングセルを駆動する方法を提供することである。
【0029】
その目的は、セルが少なくとも閾値電圧を印加することにより休止状態から動作状態に移行され、その動作状態において、メンブレンの形状が印加電圧により調節されることにおいて達成される。
【0030】
既知のセルにおいては、印加電圧は、メニスカスの形状の変化に即座に繋がる。短い高電圧パルスの場合、特に、セルが傾斜した内側壁を有するときに、メニスカスの畳み込み又は折れ曲がりの可能性がある。そのような現象は、最終的に、流体の僅かな混合又は他の不所望の影響を生じさせる可能性がある。本発明にしたがったセルにおいては、電圧パルスは、先ず、閾値電圧を超える、即ち、その電圧パルスは、壁における僅かな流体移動に繋がる。電圧パルスがその流体移動の時間より短い場合、メニスカスが実質的に形状を変化させる又は大きい速度を得る前に、そのパルスは既に終わってしまっている。それ故、セルは電圧パルスに対して適切な耐性を有する。
【0031】
本発明にしたがった方法の有利点は、閾値電圧に属すセルの状態が基準状態として用いられるため、容量がセルにおいて適切に測定されることである。
【0032】
レンズを駆動するためには、好適には、別個の駆動機構が用いられる。特に、そのような機構は集積回路(ドライバIC)を有する。そのようなドライバIC自体はよく知られているものである。レンズ又はレンズ系が、画像処理器(画像センサ)をまた、収容するカメラモジュールの一部を構成する場合、ドライバIC及び画像センサは1つの集積回路に組み合わされることが可能である。カメラモジュールは、ここでは、セルであって、特に、本発明にしたがったレンズが組み込まれる装置の唯一の実施例である。他の実施例は、光記録装置のための読み取り及び/又は書き込み装置である。
【0033】
本発明にしたがった方法は、特に、本発明にしたがったエレクトロウェッティングセルとの組み合わせにおいて適用される。
【0034】
本発明の上記の及び他の特徴について、以下、図面を参照しながら説明する。
【0035】
図は、スケーリングして描かれていず、異なる図における同じ参照番号は対応する要素を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図6は、エレクトロウェッティングセル13の一部の模式的断面図である。このセルは、セルに対する印加電圧がない休止状態にある。セル13は、第1流体51及び第2流体52で充填された流体チャンバ50を有する。流体51及び52はメンブレン14を構成する中間領域を有する。流体チャンバ50は、セルの第1側111及び第2側112におけるシーリング部4、6及び内側壁18によりシーリングされている。内側壁18は、その表面に流体接触層10を有する本体8により構成されている。流体接触層は、この場合、パリレンのような無極性有機コーティングである。更に、好適には、名称がAF1600であるDu Pont社製の表面コーティングが形成されている。その流体接触層10の選択は、第1流体51が無極性であり、そして第2流体52が極性であることを条件とする。極性流体の例は水であり、塩を有する水は電気導電性である。第1無極性流体は電気絶縁性であり、例えば、オイル、シリコーンオイル、アルカンである。セルがレンズとして用いられる場合、両方の流体は、透過する光に対して光学的に透明であり、それらの流体の屈折率は異なっていることが好ましい。例えば、ダイヤフラム又は光フィルタのような種々のセルの使用のために、同じ屈折率を有し、異なる光学光透過率を有する流体を選択することは有利である。本体8は第1電極として機能することが可能である。第2電極は、この図には示されていない。
【0037】
図1及び2は、第1実施形態の模式的断面図である。セル15は、構成要素に関しては、先行技術のセル13と実質的に同じである。第1の違いは、本体8と第2側のシーリング部6との間の環状接続片があることである。第2の違いは、サブチャンバ55があることである。
【0038】
図1に示すセル15は休止状態にあり、そのセルはまた、アイドル状態にある。図2に示すセルは、セル15において電圧が印加されたことを示している。本発明にしたがって、内側壁18における接触点102及び動作点101が存在する。両方の点101、102は接線R及びRを有する。接線R及びRは、セル15の光軸OAに対して規定される方位を有する。接線Rと光軸OAとの間の囲み角は、この実施例においては、0°であり、接線Rと光軸OAとの間の囲み角より小さい。後者の角度は、この実施例においては、約45°である。
【0039】
特に、接点102における接線は、この点でまた、メニスカス14は内側壁と接している。メニスカス14に対する接線Rが光軸OAと更に平行に近くなるようにする力は存在しない。既に、この状態においては、第1流体51は内側壁18全体を覆っている。更に、メニスカス14の異なる位置は大きい中間領域を意味し、そのことは、エネルギーに関して不利である。内側壁18を覆うことは、内側壁18の曲がりのために、この実施例においては比較的単純である。第1流体51は、薄い層で内側壁18に沿って流れるため、その層は接点102においてのみ非常に薄い。このことは、第1流体の一部51Aがサブチャンバ55における第2流体の近くに位置しているように、図に示されている。内側壁18が第1接触点101と第2接触点102との間に角を有しないことは、この実施形態の他の有利点である。そのような角は、角においてメニスカス14を持ち上げるために比較的大きい力を必要とするため、セル15が駆動されるときに、不所望の影響が生じる可能性がある。
【0040】
図1に示す実施形態のセル15は更に、アイドルモードを有する。電圧がセル15に印加されるとき、電気導電性流体、この場合には第2流体は、第1電極までの距離を短くする傾向をもつ。第1電極は、ここでは、金属を有する本体8により構成される。この傾向は、第1流体15が内側壁18からゆっくり取り除かれることに繋がる。その処理は、次の2つの段階に分割される。第1段階においては、休止状態が開始され、メニスカス14は、第1側111の方向に内側壁18に沿ってシフトされる。そのとき、メニスカス14の形状の何れの実質的な変化は殆ど存在しない。光学的観点から、セル15は反応しない又は殆ど反応しない。しかしながら、この第1段階は、第1流体51が内側壁の一部から取り除かれるようになっているため、かなりの力を必要とする。この力は閾値電圧で表される。第2段階においては、閾値電圧が得られ、セル15は動作モードにある。ここで、メニスカス14は、形状の調節により電圧の変化に対して、直接反応する。
【0041】
図3は、本発明にしたがったセル15の第2実施形態の模式的断面図である。また、セル15は休止状態で示されている。このセル15は、サブチャンバ55が存在しないため、単純な構造を有する。内側壁18は曲面化していず、角度αを有する。この角度αは140乃至175°のオーダーを有し、好適には、ピニング効果を回避するように、165乃至175°である。この実施例においては、動作点101に対する接線と光軸OAとの間の囲み角は0°より大きく、この場合、15°である。このようなテーパー形状は、駆動電圧が減少する点で有利である。動作点102に対する接線と光軸OAとの間の囲み角は、ここでは、約40°である。この実施形態においてはまた、セル15の構成高さは、先行技術に比較して、非常に減少される。
【0042】
図3においては、実は、電極は示していない。第1電極は、ここでは、本体8により構成されている。第2電極2は、流体チャンバ50の内側に位置している。第2電極2は、腐食を回避するように、適切な保護層を有することが可能である。薄い保護層は、電極2の動作に大きい負の影響を与えることはない。
【0043】
図4は、本発明にしたがったセル15の第3実施形態の模式的断面図である。この第3実施形態は、図1の実施形態と僅かな違いを有するように示されている。先ず、セル15の第2側112におけるシーリング部6は凸部69を有する。この凸部69は、第1側111において流体チャンバ50の幅全体の殆どを覆うって広がっている。このようにして、凸部69の端部69Aにおける反射のための光学的影響が回避される。図1及び3の比較から分かるように、第3実施形態における第2流体52の体積は25乃至30%だけ減少する。
【0044】
図1との第2の違いは第2電極2に関するものである。この場合、第2電極2はシーリング部6の外側に備えられ、電気導電性流体52と接するシーリング部における孔62を貫いている。流体チャンバ50の外側に第2電極を位置付けることは、接触のために高い優位性を与える。更に、流体チャンバ52のシーリング部に伴う問題点を回避することができる。第2電極2及び孔62は凸部69の近くに、そしてまた、第1側における垂直投影で、流体チャンバ50の非常に近くに位置付けられていることが分かる。第2側112における電極2の存在が不利な影響を与えることはない。この実施例における第2電極は流体に電気的に接続されていることが、更に分かる。代替として、結合はまた、容量特性を有することが可能である。
【0045】
図1との第3の違いは本体8に関するものである。この本体8の形状は、この実施形態においては、調節され、それ故、個別の接続片61は不必要になった。このことは、組み立てのために確かに有利である。
【0046】
図5は、左側のみを示しているセル15の第4実施形態を示している。しかしながら、セル15は、示されていない右側部分が左側部分の鏡像を構成するように、対称的に構成されている。この第4実施形態は、基本的には、第3実施形態の詳細図であるが、凸部69を有していない。
【0047】
第1の特徴は、この第4実施形態においては、外側リング90及び内側リング80を有する二重の壁の構成である。内側リングは、流体接触層10で覆われた内側体8を有する。内側リングはまた、第1側のシーリング部4の一部を有する。このシーリング部4は、シーリング部の中央部分にメンブレン45を接続する環状部材81を有する。環状部材81及びその中央部分は、下で説明するように、単一のガラスプレートから成ることが可能である。内側リング80は更に、第2側112においてシーリング部6の先端部61を有する。このシーリング部6は、孔62、第2電極2及び金属部63を有する。代替の実施形態においては、第2側112のシーリング部6は、第1側111のシーリング部に匹敵する又は同じ構成、即ち、環状部材、メンブレン及びカバープレートで置き換えることが可能である。
【0048】
内側リング80の前記3つの要素、即ち、環状ガラス部材81、本体8及び先端部61が、外側リング90の凸部85及び環状シーリング部86との間にクランプされている。このシーリング部86は、ここでは、金属片を有し、電気導電性表面を有する何らかのものであることが可能である。外側リング90は、金属被服された表面を有するプラスチック又は他の材料の内部コアを有する。金属被服された表面91はまた、セル15の第2側112におけるシーリング部6の金属部63を囲んでいる。このようにして、機械的に安定な接続が構築される。
【0049】
内側リング80及び外側リング90は、互いに及びまた、メンブレン45及びシーリング部4に接続されている。この接続はシーリング層95により形成される。シーリング層95は、従来、保護層として用いられるゴム、エポキシ樹脂等の高分子コーティングが例である適切な材料を有する。しかしながら、シーリング層95が金属を有することは好ましいことである。そうすることにより、密封パッケージが与えられ、それ故、空気、水又は流体の拡散は可能ではない。このような金属シーリング層95を形成する非常に適切な方法は電気メッキであり、それは、浴における浸積により三次元表面について電気メッキを実行することができるためである。
【0050】
第2の違いは、メンブレン45の存在にあることが分かる。このメンブレン45は、流体51、52が、例えば、温度上昇により膨張するとき、流体チャンバ50の拡大を与える。メンブレン45、シーリング6及び環状部材61の組み合わせは、例えば、0.01乃至10mmであって、特に、0.05乃至0.5mmの厚さを有するガラスプレートのような基板から開始して、形成されることが可能である。両側におけるフォトレジスト材料の堆積に続いて、フォトレジストは露光されて現像される。その結果、得られるフォトレジスト層は、メンブレンが形成されるようになっているプレートに対向する環状孔を有する。前面のフォトレジスト層は、特に、上記のような機械的技術により、最新のフォトリソグラフィ技術により若しくはフォトレジスト又はダイによる他の層により、起伏のある表面が得られるように処理される。起伏は、表面を強化することにより拡大できる点で有利である。これは、チャンバが膨張するときに起こることである。メンブレンに対して、匹敵する多かれ少なかれ拡大可能な他の形状を選択することができることはまた、注意する必要のないことである。起伏のある表面が前面において金属により強化された後、エッチング段階が背後から実行される。これは、基板に孔を作る必要があるためである。前面及び背面におけるフォトレジストを除去することにより所望の結果が得られる。
【0051】
組み立て時に、メンブレン45を有するシーリング4は、流体チャンバ50の充填後まで、それを取り付ける必要がない非常な有利点を有する。この取り付けの間、先ず、シーリング4は、第1流体51内に置かれる又は浸積される。次いで、環状部材81は押し下げられて浸積される。第1流体51の少しの部分が、環状部材81の端部に沿って流体チャンバ50から流れ出る。環状部材81を押し下げることは、その環状部材81とシーリング4の中央部分との間のメンブレン45のフレキシビリティのために全く可能である。シーリング86を導入することにより、流体チャンバ50は閉止され、その後、流体チャンバ50の外部の流体51は除去され、シーリングが、シーリング層95により強化される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】休止状態における本発明にしたがったセルの第1実施形態の模式的断面図である。
【図2】次いで、セルに電圧が印加された動作状態にある第1実施形態を示す図である。
【図3】セルの第2実施形態の模式的断面図である。
【図4】セルの第3実施形態の模式的断面図である。
【図5】左側半分のみを示すセルの第4実施形態を示す図である。
【図6】先行技術にしたがったセルの模式的断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸を有するエレクトロウェッティングセルであって、該エレクトロウェッティングセルは流体チャンバ内に第1及び第2非混合性流体を有し、該第1及び第2非混合性流体の一は電気導電性であり、メニスカスはそれらの流体の中間領域に存在する、エレクトロウェッティングセルであり、前記流体チャンバは:
対向する第1及び第2側であって、前記光軸は前記第1側から前記第2側に伸びていて、前記第1流体は少なくとも実質的に前記第1側と前記メンブレンとの間に位置付けられている、第1及び第2側;
前記第1側と前記第2側との間に広がっていて、流体接触層が存在する内側壁;
前記流体接触層により前記流体から分離されている第1電極;並びに
前記電気導電性流体において機能する第2電極;
を有する、エレクトロウェッティングセルであり、
前記メニスカスの形状は前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加することにより設定され、前記セルは休止状態から動作状態に移行され、前記休止状態において、前記メニスカスは接触点で前記内側壁に接し、前記セルは、前記メニスカスの前記形状は前記印加電圧に実質的に依存せず、その印加電圧の閾値電圧において、前記メニスカスの末端動作点にあり、前記接触点の接線は、前記動作点に対する接線より、前記セルを通る前記光軸に対して大きい囲み角を有する;
ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記接触点における前記接線と前記光軸との間の前記囲み角は15乃至75°の間の値を有する、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項3】
請求項1に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記動作点と前記第1側との間の第1部分における前記流体チャンバは実質的に円筒形である、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項4】
請求項1に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記接点と前記接触点との間の部分における前記内側壁は曲がっていて、尖っている角を有しない、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れ一項に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記流体チャンバは、前記動作点と前記流体チャンバの前記第側との間に位置しているサブチャンバを備え、前記サブチャンバは前記内側壁のサブチャンバ点において、前記流体チャンバが前記動作点において有するより大きい直径を有し、前記サブチャンバ点における接線は前記光軸に対して囲み角を成し、前記囲み角は前記接線と前記光軸との間の角度より小さい、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項6】
請求項5に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記第1流体の一部は前記内側壁の前記サブチャンバ内に存在する、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項7】
請求項1に記載のエレクトロウェッティングセルであって、内側体は前記セル内に存在し、前記内側体は前記内側壁を構成する、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れ一項に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記流体チャンバは両方の側においてシーリング部を有し、前記シーリング部の少なくとも一は光学的に透明であり、手段は、前記流体の膨張の場合に前記チャンバの体積増加をもたらす前記第1側のシーリング部に含まれる、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項9】
請求項5に記載のエレクトロウェッティングセルであって、前記シーリング部の孔を通り抜ける前記第2電極は前記電気導電性流体に接続され、前記孔は、前記第1側への投影において、前記流体チャンバの外側に少なくとも一部があるように位置付けられている、ことを特徴とするエレクトロウェッティングセル。
【請求項10】
複数のレンズを有するレンズ系であって、該複数のレンズの第1レンズは可変焦点を有し、請求項1乃至9の何れ一項に記載のエレクトロウェッティングセルは第1レンズとして用いられることを特徴とするレンズ系。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れ一項に記載のエレクトロウェッティングセルと、該エレクトロウェッティングセルを駆動するための構成とを有することを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置であって、該装置において、前記セルはレンズとして機能し、更に、画像処理装置が存在する、装置であり、それ故、その装置全体はカメラモジュールとして機能する、ことを特徴とする装置。
【請求項13】
第1電極と第2電極との間に電圧を印加することによりエレクトロウェッティングセルを駆動する方法であって、前記セルは、少なくとも閾値電圧の前記印加により休止状態から動作状態に移行し、前記動作状態において、メニスカスの形状は前記印加電圧により調節される、ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−536593(P2007−536593A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512660(P2007−512660)
【出願日】平成17年5月4日(2005.5.4)
【国際出願番号】PCT/IB2005/051463
【国際公開番号】WO2005/109074
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】