説明

エレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤ

【課題】厚鋼板の1電極エレクトロガスアーク溶接における作業性が優れており、更に、強度が高く、かつ衝撃性能が優れた溶接金属を得ることができるエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】C:0.03乃至0.07質量%、Si:0.3乃至0.6質量%、Mn:1.8乃至2.0質量%、Ni:0.9乃至1.2質量%、Cr:0.1質量%以下、Cu:0.3質量%以下、Mo:0.3乃至0.8質量%、Ti:0.10乃至0.27質量%、B:0.008乃至0.014質量%、Mg:0.15乃至0.30質量%、Al:0.05質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、スラグ生成剤:1.0乃至2.0質量%、スラグ生成剤のうちF:0.4乃至0.7質量%を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、YP460鋼等の厚鋼板の立向1パス溶接が可能な1電極エレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロガスアーク溶接は、高能率立向溶接方法として、船舶、石油貯蔵タンク及び橋梁等の幅広い分野に適用されている。近時、中国・東アジア諸国の経済、産業の発展が著しく、物流量の増加に伴い、コンテナ貨物の効率的な輸送を目的に、コンテナ船の大型化が急速に進んでいる。
【0003】
コンテナ船の大型化に伴い、船側外板又はハッチコーミング等の厚肉化が進んでおり、コンテナ積載数が8000TEUの場合、降伏強度が390N/mmの鋼材を使用すると、適用板厚は80mm程度となる。一方で、鋼材の降伏強度を460N/mm以上とすることで、適用板厚は60mm程度に薄くすることができ、船体の軽量化が可能である。これにより、燃費効率が向上するうえ、溶接施工能率も向上する。従って、鋼材の高強度化が進んでおり、それに対応したエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤの開発が望まれている。
【0004】
従来から、降伏強度が460N/mm以上のような高強度の鋼材に対するエレクトロガスアーク溶接の適用に関する検討がなされている。例えば、特許文献1はワイヤの化学組成及び溶接金属の化学組成を規定することにより、耐脆性破壊特性を向上させたエレクトロガスアーク溶接方法を提案している。
【0005】
しかし、このような高強度の鋼材を適用するためには、溶接継手強度の確保が重要であり、エレクトロガスアーク溶接のような大入熱溶接の場合には、鋼材の熱影響部の幅が大きいため、熱影響による鋼材の軟化幅も増大し、十分な継手強度が確保できないという問題点がある。
【0006】
そこで、このような課題の解決のため、溶接金属の強度を従来よりも高めて、熱影響部の塑性変形を拘束し、継手強度の確保を図ることが提案された。
【0007】
【特許文献1】特開2005−329460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、単純に、従来ワイヤよりも更に合金成分を添加し、強度を高めると、溶接時のスラグの粘度が高くなり、作業性が悪くなるうえ、母材希釈も小さくなるため、溶接金属の強度が高くなり過ぎ、靭性が劣化するという問題点がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、厚鋼板の1電極エレクトロガスアーク溶接における作業性が優れており、更に、強度が高く、かつ衝撃性能が優れた溶接金属を得ることができるエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤは、表面側が裏面側より幅広である開先が形成された1対の被溶接板を前記開先が上下方向に延びるように配置し、前記被溶接板の表面側に前記被溶接板に相対的に上方に摺動する摺動銅板を当て、前記被溶接板の裏面側に前記被溶接板に対して固定された裏当材を当てて、前記開先内を1電極エレクトロガスアーク溶接により立向突き合わせ溶接するために使用するフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり
C:0.03乃至0.07質量%、
Si:0.3乃至0.6質量%、
Mn:1.8乃至2.0質量%、
Ni:0.9乃至1.2質量%、
Mo:0.3乃至0.8質量%、
Ti:0.10乃至0.27質量%、
B:0.008乃至0.014質量%、
Mg:0.15乃至0.30質量%、
スラグ生成剤:1.0乃至2.0質量%、
スラグ生成剤のうちF:0.4乃至0.7質量%(F換算値でワイヤ全質量あたり)、
を含有し、
Cr:0.1質量%以下、
Cu:0.3質量%以下、
Al:0.05質量%以下、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
に規制することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る他のエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤは、更に、ワイヤ全質量あたりCO:0.10乃至0.25質量%を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、厚鋼板の1電極エレクトロガスアーク溶接における作業性が向上し、更に、強度が高く、かつ衝撃性能が優れた溶接金属を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明のフラックス入りワイヤを使用して、1電極エレクトロガスアーク溶接により、立向突き合わせ溶接する方法を示す模式図である。この図1は被溶接鋼板1のV開先の内部を示す図であり、図の右側が被溶接鋼板の表面、左側が裏面である。被溶接板1の裏面側の開先部分に被溶接板1に対して固定された裏当材3を当て、被溶接板1の表面側の開先部分に被溶接板1に対して上方に摺動する摺動銅板2を当てる。この摺動銅板2の上部にシールドガスを開先内に供給するシールドガスの供給部4を設け、摺動銅板2自体は、パイプ8を介して冷却水が供給されて冷却される。そして、被溶接板1の表面側から溶接電極7を開先内に挿入し、溶接電極7からアークを生成し、被溶接板1の厚さ方向にウィービングしつつ、摺動銅板2を上昇させて、被溶接板1を溶接する。これにより溶融スラグ及び溶融池6が形成され、溶融池6が凝固して溶接金属5が形成される。摺動銅板2と被溶接板1との間には、スラグ逃がし溝9が形成される。
【0014】
このような1電極エレクトロガスアーク溶接による立向突き合わせ溶接において、本発明者らが鋭意検討した結果、ワイヤの化学組成を更に適切に規定することにより、高強度の溶接継手においても作業性が良好で、溶接金属の衝撃性能を高めることができることを見出した。
【0015】
熱影響部の塑性変形を拘束する拘束力を高めるためには、従来よりも溶接金属の強度を高める必要があるため、ワイヤのSi,Mn,Mo等の合金成分を増加させる必要があった。しかし、これらの成分が増加すると、溶融金属及び溶融スラグの粘度は高くなり、図1に示すスラグ逃がし溝から、スラグを良好に排出できなくなる。従って、溶融池にスラグが過度にたまり、アークが不安定となり、溶込みも浅くなり、融合不良が発生しやすくなる上、強度が高くなり過ぎ、靱性も劣化するという問題点がある。
【0016】
また、靱性劣化に対しては、従来、主に靭性を安定化させる効果のあるNi添加による改善を図ってきた。しかし、このようにNiが主体の成分系で、継手強度を確保するために合金成分を添加し、強度を高めると、靭性が劣化する傾向が認められた。
【0017】
そこで、本発明者らは、前述の溶接作業性の改善が可能であり、即ちスラグの排出性が良好であり、かつ衝撃性能が良好な溶接金属が得られるワイヤの成分系を開発すべく鋭意検討した結果、ワイヤに添加する合金成分の適正化、並びにスラグ生成剤の量及びそのうちのF量を厳密に規定することが有効であることが明らかとなった。
【0018】
溶融金属及び溶融スラグの粘度が高いと、前述のとおり、スラグの排出性が悪くなるが、Si,Mn添加量を過度にならないよう調整することで、溶融金属及び溶融スラグの粘度の上昇を抑えることができる。更には、スラグ生成剤の量を増やすことで、スラグ逃がし溝へ溶融スラグを流れやすくし、粘度の高い溶融金属がスラグ逃がし溝を塞ぐことを防止することができる。また、スラグ生成剤のうちのF量を増やすことで、溶融スラグの粘性を低くし、排出性をよくすることができる。
【0019】
衝撃性能に関しては、従来よりもNi量を減らし、Moを添加することで、組織の微細化が可能となり、厚板における強度及び靭性の確保に有効であることを見出した。但し、Niを過度に減らすと、遷移温度を低下させる効果がなくなり、低温での靭性が劣化する。一方、Mo量が過大となると、焼入れ効果が高いため、強度が高くなり過ぎ、靱性が劣化する方向となり、Ni,Mo量の適正化が溶接金属の強度及び靭性の安定化に重要である。
【0020】
以下、本発明のフラックス入りワイヤの成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0021】
「C:0.03乃至0.07質量%」
Cは溶接金属の強度を確保するためには欠かせない元素であるが、強度を高める目的で過度に添加すると、靱性が劣化するため、強度を高めるために従来以上にCを添加するということは好ましくない。Cの質量が0.03質量%未満では、溶接金属の強度が低下し、目的の強度が得られない。一方、Cが0.07質量%を超えると、溶接金属の強度が高くなり過ぎ、靭性が劣化する。なお、C源としては、鋼製外皮中のC,C単体、鉄粉及び金属粉中のC等がある。
【0022】
「Si:0.3乃至0.6質量%」
Siは溶接金属の強度を高めるため、従来よりも多く添加する必要がある。また、Siは脱酸剤として溶接金属の酸素量を低減し靭性を向上させる効果もある。Siの質量が0.3質量%未満では、溶接金属の靱性が劣化する。一方、Siが0.6質量%を超えると、溶融スラグの粘度が高くなり、スラグの排出性が悪く、アークが不安定となり、融合不良が発生する。なお、Si源としては、鋼製外皮中のSi,Fe−Si,Fe−Si−Mn,Fe−Si−B,Fe−Si−Mg,REM−Ca−Si等がある。
【0023】
「Mn:1.8乃至2.0質量%」
Mnも溶接金属の強度を高めるため、従来よりも多く添加する必要がある。また、Mnは脱酸剤として溶接金属の酸素量を低減し、靱性を向上させる効果もある。Mnの質量が1.8質量%未満では、溶接金属の強度が低下し、目的の強度が得られない。一方、Mnが2.0質量%を超えると、溶接金属の強度が高くなり過ぎ、靭性が劣化する。なお、Mn源としては、鋼製外皮中のMn,金属Mn,Fe−Mn,Fe−Si−Mn等がある。
【0024】
「Ni:0.9乃至1.2質量%」
Niはオーステナイト形成元素であり、前述したとおり、溶接金属の靱性を安定化させる効果がある。しかし、Mo等の合金成分を添加し、組織微細化効果により靭性を確保するため、靱性が不安定にならない程度まで、従来よりもNiの添加量を減らす必要がある。但し、Niの質量が0.9質量%未満では、溶接金属の靱性が不安定となり劣化する。一方、Niが1.2質量%を超えると、強度が高くなり過ぎ、靭性が劣化する。なお、Ni源としては、金属Ni,Fe−Ni,Ni−Mg等がある。
【0025】
「Mo:0.3乃至0.8質量%」
Moは溶接金属の強度を高めるため、従来よりも多く添加する必要がある。また、Moはフェライト形成元素であり、溶接金属の焼入れ性を高める効果があり、凝固組織微細化に有効な元素である。従って、Moは靱性を向上させる。Moの質量が0.3質量%未満では、溶接金属の強度が低下し、目的の溶接継手強度が得られない。一方、Moが0.8質量%を超えると、強度が高くなり靱性は劣化する。なお、Mo源としては、金属Mo,Fe−Mo等がある。
【0026】
「Ti:0.10乃至0.27質量%」
TiはBとの相乗効果により溶接金属組織を微細化し、靭性を向上させる効果がある。Tiの質量が0.10質量%未満では、組織の微細化効果が得られず、溶接金属の靭性が劣化する。一方、Tiが0.27質量%を超えると、溶接金属中にTiが過剰となり、靱性が劣化する。なお、Ti源としては、金属Ti,Fe−Ti等がある。
【0027】
「B:0.008乃至0、014質量%」
Bは少量の添加でTiとの相乗効果により溶接金属組織を微細化し、靱性を向上させる効果がある。Bの質量が0.008質量%未満では、組織の微細化効果が得られず、溶接金属の靱性が劣化する。一方、Bが0.014質量%を超えると、溶接金属中にBが過剰となり、強度が高くなり過ぎ、靱性が劣化する。なお、B源としては、Fe−B,Fe−Si−B,B等がある。
【0028】
「Mg:0.15乃至0.30質量%」
Mgは脱酸剤として溶接金属の酸素量を低減し、靭性を向上させる効果がある。Mgの質量が0.15質量%未満では、溶接金属の酸素量低減効果が得られず、溶接金属の靱性が劣化する。一方、Mgが0.30質量%を超えると、アークが不安定となり、スパッタが多発する。なお、Mg源としては、金属Mg,Al−Mg,Fe−Si−Mg,Ni−Mg等がある。
【0029】
「Al:0.05質量%以下」
溶接金属のAl量が高いと、Ti酸化物による組織微細化効果が抑制され、靭性は劣化するので、Alは0.05質量%以下に抑制する。
【0030】
「Cu:0.3質量%以下」
Cuは意図的には添加しない。ただし、フラックス入りワイヤの外周面のメッキにより、不可避的に0.3質量%以下含まれることがあるが、この程度の量は許容される。
【0031】
「Cr:0.1質量%以下」
Crはフェライト形成元素であり、溶接金属の焼入れ性を高める効果があるが、その効果はMoと比較して小さく、意図的には添加せず、不可避的に0.1質量%以下含まれることは許容される。
【0032】
「P、S:0.025質量%以下」
P,Sが高いと高温割れが発生しやすくなるため、0.025質量%以下に抑制する。
【0033】
「スラグ生成剤:1.0乃至2.0質量%」
スラグ生成剤は、アークの安定化、スパッタ低減、溶落防止等、溶接作業性の安定化に不可欠である。本発明の溶接金属成分は、合金元素が多く、溶融金属が酸化される成分量も多く、溶融金属及び溶融スラグの粘性が高くなり、溶融金属がスラグ逃がし溝を塞ぎ、さらには粘度の高い溶融スラグのため、スラグの排出性が著しく悪くなる。そこで、スラグの生成剤の量を従来よりも増やし、スラグ逃がし溝まで溶融金属がこないようにすることで作業性の劣化は抑えられる。スラグ生成剤の量が1.0質量%未満であると、スラグ量が不足し、溶融金属がスラグ逃がし溝を塞ぎ、スラグの排出性が悪くなるため、融合不良が発生する。更には、スラグが溶融金属を抑えられなくなり、溶落しやすくなる。一方、スラグ量が2.0質量%を超えると、供給されるスラグ量が過大となり、かえってスラグの排出性が悪くなる。従って、アークが不安定となり、融合不良が発生する。
【0034】
「スラグ生成剤のうちF量:0.4乃至0.7質量%(F換算値でワイヤ全質量あたり)」
前述のスラグ生成剤の量を規定するだけでは、作業性の向上を図ることができない。そこで、スラグ生成剤のF量について検討した。Fは溶融スラグの粘性を低くし、スラグの排出性を向上させる効果がある。その質量が0.4質量%未満であると、スラグの排出性が悪くなり、アークが不安定となって、融合不良が発生する。一方、Fが0.7質量%を超えると、溶融スラグの粘性が低くなり過ぎ、排出性が良くなり過ぎるため、溶融金属を保持しきれなくなり、溶融金属が溶落しやすくなる。F量は、より好ましくは、0.5乃至0.7質量%である。なお、F源としては、CaF,BaF,NaF,KSiF,SrF,AlF,MgF,LiF等がある。F量とは、これらの化合物の量をF量に換算した値であり、ワイヤ全質量あたりの含有量である。
【0035】
「CO:0.10乃至0.25質量%」
COは、通常、炭酸塩によりワイヤ中に添加される。炭酸塩の分解で発生するCOはアークを安定的に広げる効果がある。ワイヤに炭酸塩を添加することで、アークが広がった状態で安定しているため、溶融スラグがスラグ逃がし溝から安定的に排出される。CO量が0.10質量%未満であると、その効果が得られず、融合不良が発生しやすくなる。一方で、CO量が0.25質量%を超えると、ガス発生量が過大となり、アークが若干不安定となりやすい。なお、炭酸塩としては、CaCO,MgCO,BaCO,LiCO,NaCO,SrCO等がある。CO量とは、これらの炭酸塩のCO量換算値である。
【0036】
なお、スラグ生成剤としては、SiO,CaO,NaO,MgO,Al,LiO,CaF,BaF,NaF,SrF,KO,KSiF,AlF,MgF,LiF,CaCO,MgCO,BaCO,LiCO,NaCO,SrCO等がある。
【0037】
フラックス入りワイヤの残部は、Fe、BのO、及びREM等の他は、不可避的不純物である。なお、残部のうち、Feは90質量%以上を含有し、そのFe源は、鋼製外皮、鉄粉、Fe合金のFe等がある。
【0038】
また、本発明のフラックス入りワイヤのフラックス充填率は、20乃至30質量%である。
【実施例】
【0039】
本発明のエレクトロガスアーク溶接においては、母材の影響も少なからず受けるため、適用鋼板としては、一般構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材、溶接構造用高降伏点鋼板、建築構造用圧延鋼、船舶用に使用される鋼板のうち、下記表1に示す範囲(単位は質量%)とすることが好ましい。本実施例において使用した被溶接鋼板は、下記表2に示すもの(単位は質量%)である。この供試鋼板は板厚60mm、幅500mm、長さ1000mmの大きさを有する。これらの表1及び2において、炭素等量Ceqは、下記数式1により現される。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【数1】

【0043】
そして、下記表3は試験条件、表4は溶接施工条件を示し、これらの表3及び表4に示す条件で1パス溶接を行った。そして、溶接中に作業性を確認した。溶接後、UT検査を行い、融合不良の有無を確認した。なお、溶接が安定していないスタート側及びクレータ側の各100mmは検査対象外とした。従って、有効長は800mmである。なお、途中で溶落したものは短くなる。有効長の範囲において、融合不良が認められないものを◎、融合不良の長さが2%未満のものを○、2%を超えるものを×とした。なお、ワイヤ径は1.6mmである。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

開先形状:V開先
【0046】
溶接金属の衝撃試験については、JIS Z 3128に規定されている方法により−20℃における衝撃値を測定し、3本の値の平均値が53J以上のものを、衝撃性能が良好と判断した。溶接金属の強度は、溶接金属の中央部の位置でNK U1A号試験片を使用し(試験片直径10mm、標点距離50mm)、600N/mm以上を目標強度とした。
【0047】
下記表5及び表6はワイヤの化学組成(単位は質量%)を示す。また、これらのワイヤにより溶接したときの溶接金属の特性を下記表7に示す。この表5及び表6に示す組成の実施例1〜14のワイヤでは、溶接作業性は良好で、靱性も良好であり、目標とする溶接金属強度が得られた。比較例15のワイヤでは、ワイヤのスラグ生成剤のうち、Fの量が0.4質量%未満であり、スラグの排出性が悪くなり、融合不良が発生した。比較例16のワイヤでは、ワイヤのC量が0.03質量%未満,Mo量が0.3質量%未満であり、目的の強度が得られなかった。比較例17では、ワイヤのC量が0.07質量%を超え、Mn量が2.1質量%を超え、Mo量が0.8質量%を超えており、溶接金属の強度が高くなり過ぎ、靱性が劣化した。比較例18では、ワイヤSi量が0.3質量%未満であり、靱性が劣化した。比較例19では、ワイヤのTi量が0.27質量%を超え、B量が0.014質量%を超えており、溶接金属の強度が高くなり過ぎ、靱性が劣化した。比較例20では、ワイヤのスラグ生成剤の量が2.0質量%を超えており、スラグの排出性が悪くなり、融合不良が発生した。比較例21では、ワイヤのスラグ生成剤の量が1.0質量%未満であり、スラグの排出性が悪くなり、融合不良が発生した。更には、溶接途中で溶接金属が溶落した。比較例22では、ワイヤのSi量が0.6質量%を超えており、スラグの排出性が悪くなり、融合不良が発生した。更には、ワイヤNi量が1.2質量%を超えており、溶接金属強度が高くなり過ぎ、靭性が劣化した。比較例23では、ワイヤTi量が0.10質量%未満で、B量が0.008質量%未満であり、溶接金属組織の微細化効果が得られず、靭性が劣化した。比較例24では、ワイヤのスラグ生成剤のうちFの量が0.7質量%を超えており、溶接途中で溶落した。比較例25では、ワイヤのMn量が1.8質量%未満であり、目的の強度が得られなかった。比較例26では、ワイヤのNi量が0.9質量%未満であり、靱性が劣化した。比較例27では、ワイヤのMg量が0.15質量%未満であり、靱性が劣化した。比較例28では、ワイヤのMg量が0.30質量%を超えており、スパッタが多発した。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】溶接方法を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1:被溶接板
2:摺動銅板
3:裏当材
4:シールドガス供給部
5:溶接金属
6:溶融スラグ及び溶融池
7:電極
8:パイプ
9:スラグ逃がし溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側が裏面側より幅広である開先が形成された1対の被溶接板を前記開先が上下方向に延びるように配置し、前記被溶接板の表面側に前記被溶接板に相対的に上方に摺動する摺動銅板を当て、前記被溶接板の裏面側に前記被溶接板に対して固定された裏当材を当てて、前記開先内を1電極エレクトロガスアーク溶接により立向突き合わせ溶接するために使用するフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり
C:0.03乃至0.07質量%、
Si:0.3乃至0.6質量%、
Mn:1.8乃至2.0質量%、
Ni:0.9乃至1.2質量%、
Mo:0.3乃至0.8質量%、
Ti:0.10乃至0.27質量%、
B:0.008乃至0.014質量%、
Mg:0.15乃至0.30質量%、
スラグ生成剤:1.0乃至2.0質量%、
スラグ生成剤のうちF:0.4乃至0.7質量%(F換算値でワイヤ全質量あたり)、
を含有し、
Cr:0.1質量%以下、
Cu:0.3質量%以下、
Al:0.05質量%以下、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
に規制することを特徴とするエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【請求項2】
ワイヤ全質量あたりCO:0.10乃至0.25質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−82947(P2009−82947A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254416(P2007−254416)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】