説明

エレクトロスピニング法で作製した人工神経移植物、作製方法及び装置

エレクトロスピニング法により作成された人工神経移植物は、人体に対して生体適合性の高い生分解性の材料により作られている。神経移植物の管壁は、神経細胞の成長に必要な栄養素の輸送ができる多数の微小孔をもつ三次元構造である。神経移植物の作成方法及びその特殊な装置についても、開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は事故などにより生じた末梢神経の欠損を修復するのに適した人工神経移植物の候補材料を特徴とする人工神経移植物に係るものである。
【背景技術】
【0002】
現代化が進み、生活リズムが速くなるにつれ、より多くなってきた交通事故や労働災害やスポーツ事故などの事故、及び頻繁な地域戦争や暴力事件や地震などの自然災害は、人類の末梢神経を損傷させることがある。
【0003】
臨床的には、端々縫合する方法にて神経欠損を修復できない場合、移植物を橋渡しとしてつなぎ合わせることにより神経を修復しなければならない。長年にわたって、自己神経のほかに適当な移植物を見出すことができなかった。自己神経の移植について、使える神経が少なく、組織の仕組みと寸法がマッチングしがたいなどの理由で、臨床的応用には限界がある。
【0004】
組織工学の発展に伴って自己神経にかわるものとする候補材料の開発ができるようになった。以前の人工神経移植物の作製方法は主に二種類があった。一つは、元の神経管を利用する。たとえば、化学セル同種異体の移植した神経とは、元の神経の管を利用し異体の細胞を取り除く。もう一つは、適当な鋳型を用いて溶液鋳造法にて作製する。たとえば、以前にキトサンとフィブロンを用いて作製された医用人工神経の移植物がある。
【0005】
現在、エレクトロスピニング法はナノファイバーを作る方法のうち、最も重要な一つである。作製方法のキーボードは重合体の溶液が数千から数万ボルトの高圧の静電で、表面張力を克服し、電界力によって安定している噴射流体になり、溶剤が揮発して荷電流体が収集装置に収集される。産物はナノファイバーにより構成されている不織布のようなネットまたは膜である。
【0006】
エレクトロスピニングは大きな比表面積をもち、さらに寸法がそれぞれ違った穴のクリアランスもたくさんもっている。さらに、そのナノファイバーのネット構造は細胞外マトリックスと類似し、細胞接着に有利だ。したがって、組織の再生を促進することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は従来にはない細胞接着に有利な、組織再生を促進できる人工神経の移植物、及びそれを作製する方法と装置を開発する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
重合体を用い、エレクトロスピニング法で得られるナノファイバーにより構成される管状の神経移植物を作製する。
【0009】
重合体はフィブロン、キトサン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン(PCL)、コラーゲン、ポリ乳酸とゼラチンなどのうち、1種または数種である。
【0010】
エレクトロスピニング法で人工神経の移植物の作製方法として、重合体を溶剤に溶解し、製糸原液を得る。その後、エレクトロスピニング法を用いて、回転と往復移動している収集用ロールにこの溶液を噴射することにより、ナノファイバーが得られる。同時に収集用ロールにナノファイバーにより構成される管も形成され、取り外してから処理することにより管状の人工神経の移植物を得る。
【0011】
エレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製する装置は、トレース測定ポンプ、製糸の溶液噴射機、収集用ロール、コンピューターと高圧静電発電機などが含まれている。具体的には、トレース測定ポンプは製糸の溶液噴射機と連結し、製糸の溶液噴射機の噴射方向に向け回転と回復移動するロールを設置し;コンピューターはトレース測定ポンプや製糸の溶液噴射機やコールなど作動をコントロールし;高圧静電発電機は高圧静電を供給する。
【0012】
前述した人工神経の移植物の作製中もしくは作製後、治療効果を持っている細胞因子、たとえば神経成長因子(NGF)、神経栄養因子-3(NT-3)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ダリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)などの因子を加えることができる。単独でも併用でも加えることは可能である。
【0013】
作製した人工神経の移植物には治療効果を持つシードセル(seed cell)を添加することができる。たとえば、骨髄幹細胞、神経幹細胞、シュワン細胞、嗅覚鞘細胞、胚胎幹細胞などである。単独でも併用でも加えることは可能である。
【0014】
本発明におけるすべての材料は生分解性材料であり、良好な生体適合性を持っている。作製過程により生じた外因性毒性および副作用がない。導管壁には豊富な三次元構造があるため、神経細胞の生長に必要な栄養素と誘導作用、さらに必要な成長空間を提供できる。
【0015】
インビトロにおいて、前述の製品を神経組織細胞と共に培養し、形態学観察、酵素代謝測定及び神経生長因子の発現測定などの調べによって、良好な組織適合性が認められた。インビボにおいて、本製品を用いてラットでの坐骨神経欠損(1cm以上の場合)を修復できたことにより、神経再生に役に立つこと、損傷した神経の機能を回復させることと、生体適合性が確認された。
【0016】
エレクトロスピニングには大きな比表面積をもち、さらに寸法がそれぞれ違った穴のクリアランスもたくさんある。さらに、そのナノファイバーのネット構造は細胞外マトリックスと類似し、細胞接着に有利で、組織の再生を促進することができる。さらに、このような物は優れた生体適合性と生分解性を持つだけでなく、良好な機械的な性質も備えている。同時に治療用細胞因子、薬物とシードセル(seed cell)を添加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図を添付し説明する。
本発明の人工神経の移植物を作製した装置を図1に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
具体的な実施例
以下に、図と実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
エレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製した装置は、トレース測定ポンプ1、製糸の溶液噴射機、収集用ロール、コンピューターと高圧静電発電機などが含まれている。具体的には、トレース測定ポンプ1は製糸の溶液噴射機2と連結し、製糸の溶液噴射機の噴射する方向に向き回転と回復移動するロール3を設置し、コンピューター4でトレース測定ポンプや製糸の溶液噴射機やコールなどをコントロールし、高圧静電発電機5から高圧静電を供給する。
【実施例1】
【0019】
蚕糸を弱塩基溶液(0.1%−10%炭酸ナトリウムまたは0.1%−10%炭酸カリウム)に50−100℃加熱処理し、その処理したファイバーを蒸留水で洗浄しフィブロンを得た。得られたシルクフィブロンを25−80℃(例25,50,80℃)、三成分系(モル比は:塩化カルシウム:エタノール:H2O=1:2:8)0.5−6時間(例0.5,3,6時間)に溶かしていた。溶解した混合液をファイバーの袋に移し、蒸留水で透析を施した。次いで、透析した溶液をフラットダイに入れ、乾燥することによりフィブロンの膜を得た。得られたフィブロンの膜を蟻酸で溶解してから製糸原液になり、溶液の濃度は13%であった。その後、前述したエレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製した装置にて成型加工を行い、製糸原液をトレース測定ポンプで測定してから溶液噴射機に入れ、回転と往復移動をしている収集用ロールに製糸原液を噴射することによってナノファイバーが形成され、収集用ロールにナノファイバーにより構成されている管も形成された。成型加工の際、高圧静電発電機の電圧は20KV、溶液の噴射する速度は0.3ml/h、溶液噴射機の先と収集用ロールとの間の距離は7−11cm、収集用ロールの並進速度は1.5m/h、回転速度は150回/minであった。形成されたフィブロン管をエタノール溶液で処理してから、蒸留水で洗浄し、目的とするナノファイバーのシルクのフィブロンである人工神経移植物を得た。
【実施例2】
【0020】
キトサンを弱酸の溶液に溶解し、弱酸は酢酸(もしくは燐酸、クエン酸、乳酸)であり、濃度は2−15%(例は2%,8%,15%)であった。コラーゲン溶液(濃度は5%,25%,または50%)を加えることにより10%の製糸原液が得られた。次いで、前述したエレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製した装置にて成型加工を行い、製糸原液をトレース測定ポンプで測定してから溶液噴射機に入れ、回転と往復移動をしている収集用ロールに製糸原液を噴射することによってナノファイバーが形成され、収集用ロールにナノファイバーにより構成されている管も形成された。成型加工する際、高圧静電発電機の電圧は25KV、溶液の噴射する速度は0.2ml/h、溶液噴射機の先と収集用ロールとのあいだの距離は8−11cm、収集用ロールの並進速度は2m/h、回転速度は90回/minであった。形成された管を1mol/l水酸化ナトリウム溶液、50mmol/lリン酸塩バッファーと蒸留水の順で洗浄し、目的とするナノファイバーのキトサン/コラーゲンである複合人工神経移植物を得た。
【実施例3】
【0021】
クロロホルムでポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、もしくはグリコール酸共重合体(PLGA,50/50)を溶解し、濃度が10−20%の製糸溶液になった。次いで、前述したエレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製した装置にて成型加工を施し、製糸原液をトレース測定ポンプで測定してから溶液噴射機に入れ、回転と往復移動をしている収集用ロールに製糸原液を噴射することによってナノファイバーが形成され、収集用ロールにナノファイバーにより構成されている管も形成された。成型加工する際、高圧静電発電機の電圧は20−30KV、溶液の噴射する速度は0.2ml/h、溶液噴射機の先と収集用ロールとのあいだの距離は7−11cm、収集用ロールの並進速度は2m/h、回転速度は70−130回/minであった。形成された管をエタノールで処理してから蒸留水で洗浄し、目的とするナノファイバーのポリグリコール酸、ポリ乳酸またはグリコール酸共重合体などの人工神経移植物を得た。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法で作製した人工神経移植物であって、重合体を使用しエレクトロスピニング法にて得られるナノファイバーによって構成されることを特徴とする管状の人工神経移植物。
【請求項2】
フィブロン、キトサン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン(PCL)、コラーゲン、ポリ乳酸及びゼラチンなどの重合体のうち1種又は数種の重合体であることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスピニング法で作成した人工神経移植物。
【請求項3】
エレクトロスピニング法で人工神経移植物を作製する方法であって、エレクトロスピニング法に基づき、重合体を溶剤に溶解することによって得られる製糸原液をエレクトロスピニング溶液噴射機械から回転と往復移動をしている収集用ロールに噴射し、ナノファイバーが形成され、同時に管にナノファイバーによって構成される管状の人工神経の移植物を得ることを特徴とする人工神経移植物の製法。
【請求項4】
シルクを0.1%‐10%の炭酸ナトリウムまたは0.1%‐10%の炭酸カリウムに、50−100℃で加熱処理してから、蒸留水で洗浄することにより得られたシルクフィブロンを25−80℃で、三成分系(モル比:塩化カルシウム:エタノール:H2O=1:2:8)に0.5−6時間溶解し、溶かした混合液をファイバーの袋に移し、蒸留水で透析を行った後、透析した溶液をフラットダイに入れ、乾燥することにより得られたフィブロンの膜は蟻酸で溶解してから製糸原液になり、それを用いてエレクトロスピニング法で成型加工を行い(溶液濃度:13%;電圧:20KV;溶液流速:0.3ml/h;針の先とついたてとの間の距離:7−11cm;収集用ロールの並進速度:1.5m/h;回転速度:150回/min)、こうして得られたフィブロン管をエタノール溶液で処理してから、蒸留水で洗浄し、ナノファイバーのシルクのフィブロン人工神経移植物を得ることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロスピニング法による人工神経移植物の製法。
【請求項5】
キトサンを弱酸に溶解し(酢酸、燐酸、クエン酸、または乳酸、濃度:2−15%)、5−25%のコラーゲン溶液を加えることにより得られた製糸原液をエレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製した装置にて成型加工を行い(溶液濃度:10%;電圧:25KV;溶液流速:0.2ml/h;針の先とついたてとの間の距離:8−11cm;収集用ロールの並進速度:2m/h;回転速度:90回/min)、こうしてできた管を1mol/L水酸化ナトリウム溶液、50mmol/Lリン酸塩バッファーと蒸留水の順で洗浄し、ナノファイバーのキトサン/コラーゲンである複合人工神経移植物を得ることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロスピニング法による人工神経移植物の製法。
【請求項6】
クロロホルムでポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、またはグリコール酸共重合体(PLGA,50/50)を溶解し、エレクトロスピニング法で人工神経の移植物を作製した装置にて成型加工を行い(溶液濃度:10−20%;電圧:20−30KV;溶液流速:0.2ml/h;針の先とついたてとの間の距離:7−11cm;収集用ロールの並進速度:2m/h;回転速度:70−130回/min)、こうしてできた管をエタノールで処理してから蒸留水で洗浄し、ナノファイバーのポリグリコール酸、ポリ乳酸またはグリコール酸共重合体などの人工神経移植物を得ることを特徴とする請求項3に記載のエレクトロスピニング法による人工神経移植物の製法。
【請求項7】
エレクトロスピニング法で人工神経移植物を作製する装置であって、トレース測定ポンプ、トレース測定ポンプとつながる製糸の溶液噴射機、製糸の溶液噴射機の噴射方向に向け設置する回転と往復移動するロール、トレース測定ポンプや製糸の溶液噴射機や収集用コールなどを控えるコンピューター、高圧静電を供給している高圧静電発電機などが含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の人工神経移植物を作成する装置。

【公表番号】特表2013−503661(P2013−503661A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527181(P2012−527181)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/CN2010/071471
【国際公開番号】WO2011/026323
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(511128206)南通大学 (1)
【Fターム(参考)】