説明

エレクトロルミネッセンス素子

【課題】面発光型のEL素子において、高発光効率および高取り出し効率を実現する。
【解決手段】1対の電極11、16間に積層された、電極11、16の電界の印加により発光光を生じる発光層14を含む複数の層を有する面発光型のEL素子において、発光層14を挟み、発光層14の一方の面側および他方の面側に第1の微粒子21および第2の微粒子22をそれぞれ膜状に複数分散配置する。第1の微粒子21を、発光光の照射を受けて発光光を発光層14側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置し、第2の微粒子22を、発光光の照射を受けて発光光を発光層14側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置する。また、1対の電極11、16のうち他方の面側の電極11を、光透過性を有する光取り出し電極とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界の印加により発光を生じる電界発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)に関し、特に、発光および光取り出しの高効率化を図ったエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子やLED(発光ダイオード)、半導体レーザなどのエレクトロルミネッセンス素子は、基板上に電極層や発光層等が積層された構成をしており、一般に、発光層において発光した光を、透明電極(光取出し電極)を介して取り出している。その際、各層の屈折率の影響により、光取り出し側の層界面において臨界角以上で入射された光は、全反射して素子内に閉じ込められてしまい、外部に取り出すことができない。そのため、発光した光を高効率に取り出すことが難しく、ITO等の現在よく用いられている透明電極の屈折率の場合、その取り出し効率は20%程度であると言われている。
【0003】
また、例えば有機ELにおいては、本質的に有機材料は、励起状態に長時間存在することで、化学結合が壊れ、発光性能が、経時的に低下していくことが知られており、有機物を発光素子に用いる際の大きな課題である。発光効率についても、蛍光を利用する限り、上準位の生成効率が理論的に25%に制限され、これ以上の発光効率は不可能である。燐光を用い、項間交差を促進することで、原理的には、上準位をすべて3重項で生成できるため、理論限界は75%から100%に上昇しうる。しかし、3重項は、上準位寿命が許容遷移である蛍光に比べて長く、励起子同士の衝突確率が大きいために、発光光率が低下するとともに、素子の劣化が早く耐久性が低いという問題がある。
【0004】
このように、EL素子においては、取り出し効率、発光効率が低いことが問題となっており、この問題を解決するための1つのアプローチとして、非特許文献1には、有機発光素子において、発光層の近傍に金属ナノ粒子層を配置することで、プラズモン増強効果により発光の増強を図る方法が提案されている。この発光の増強は、発光素子からの双極子放射が金属表面にプラズモン(あるいは局在プラズモン)を誘起し、エネルギーを吸収したのちに、再放射する新たな発光が加わることに伴うものである。従って、発光素子の持つ発光過程に新たなプラズモンによる発光遷移が付け加わった形となり、上準位寿命(励起寿命)を短縮する効果を発現させることができる。このように、プラズモン増強を利用することにより、発光効率の向上と共に、励起寿命の短縮化による耐久性の向上効果も期待できる。
【0005】
非特許文献1においては、光励起型の発光(フォトルミネッセンス:PL)についてプラズモン増強効果による増強が確認されている。
【0006】
他方、金属ナノ粒子を用いたナノアンテナによる放射特性への指向性の付与に関する理論的な研究が、非特許文献2、3等に開示されている。
【0007】
非特許文献2では、積層基板上における誘電体コアおよび金属シェルからなるコアシェル型の金属ナノ粒子のアンテナ配置による増強放射特性についてシミュレーションを行っている。
【0008】
非特許文献3では、金属ナノディスクのアンテナ配置による光の指向性についてシミュレーションがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】W. Li et al, Proc. of SPIE, vol.7032, 703224(2008
【非特許文献2】Shabnam Ghadarghadr et al, OPTICS EXPRESS, Vol. 17, No.21, p.18556-18570, 12 October 2009,
【非特許文献3】Tavakol Pakizeh et al, NANO LETTERS 2009 Vol.9,No.6 P.2342-2349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既述のとおり、非特許文献1においては、発光の増強のために金属ナノ粒子層を備えることが提案されている。しかしながら、発光光が金属ナノ粒子により増強されても、発光光および金属ナノ粒子により散乱される発光光には指向性がなく、光を効率的に素子の外部に取り出すことが難しいという問題がある。
【0011】
非特許文献2、3には光に対する指向性の付与に関する記載があるが、面発光型のEL素子における、金属ナノ粒子の配置等について検討されていない。そのため、EL素子において、指向性を付与するために非特許文献2、3に記載の技術をどのように適用すべきかが明らかではない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、発光効率を向上させると共に、取り出し効率向上を実現するEL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、1対の電極と、該電極間に積層された、該電極間への電界の印加により発光光を生じる発光層を含む複数の層とからなる面発光型のエレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層を挟み、該発光層の一方の面側および他方の面側に第1の微粒子および第2の微粒子がそれぞれ膜状に複数分散配置されており、
前記第1の微粒子は、前記発光光の照射を受けて、該発光光を前記発光層側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、
前記第2の微粒子は、前記発光光の照射を受けて、該発光光を前記発光層側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、
前記1対の電極のうち前記他方の面側の電極が、光透過性を有する光取り出し電極であることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、「反射する」とは発光層側から照射された発光光のうちの半分超を反射することをいうものとし、「反射しない」とは、発光層側から照射された発光光のうちの半分超を透過させる、すなわち、発光層側への反射が照射された発光光のうちの半分未満であることをいうものとする。
【0015】
また、「膜状に複数分散配置され」とは、積層方向には微粒子が1つであり、膜面内に複数の微粒子が分散して配置されていることを意味する。
【0016】
前記第1の微粒子と前記第2の微粒子との数は同等であってもよいし、異なっていてもよい。また、膜面内における配置は、規則的であってもランダムであってもよい。
【0017】
特には、前記第1の微粒子と前記第2の微粒子とが、前記発光層を挟み1:1で対向配置されていることが好ましい。
【0018】
また、前記複数の第1の微粒子および前記複数の第2の微粒子が、それぞれ規則配列していることが望ましい。
【0019】
前記複数の第2の微粒子と前記光取り出し電極との間に、さらに前記発光光の照射を受けて第3のプラズモン電場を生じる第3の微粒子が、単一または複数の膜状に配置されていてもよい。
【0020】
なお、このとき、第3のプラズモン電場を生じる第3の微粒子は、第2の微粒子と同様に、該第3のプラズモン電場が前記発光光を前記発光層側に反射しない位置に配置する。
【0021】
前記第1、第2および第3の微粒子は、いずれも少なくとも一部に金属を含むものである。前記微粒子は、全体が金属で形成された金属微粒子であってもよいが、特には、少なくとも1つの金属微粒子コアと、該金属微粒子コアを覆う絶縁体シェルとからなるコアシェル型微粒子であることが望ましい。
【0022】
前記金属、金属微粒子の主成分としては、AuまたはAgであることが好ましい。ここで、「主成分」は、含量80質量%以上の成分と定義する。
金属微粒子は、発光光によりプラズモン電場(局在プラズモン)を生じうるサイズであればよいが、粒径が5nm以上であることが好ましい。ここで、粒径は、微粒子の最大長をいうものとする。例えば、微粒子が球状である場合には粒径とはその直径を意味する。
【0023】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、前記複数の層を、それぞれ有機層により構成することができる。
【0024】
なお、エレクトロルミネッセンス素子は、電界印加により発光する素子の総称であり、有機EL素子、無機EL素子、発光ダイオード(LED)および半導体レーザ(LD)を含むものとする。前記複数の層が有機層であるとき、有機EL素子となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、発光層を挟み、発光層の一方の面側および他方の面側に第1の微粒子および第2の微粒子がそれぞれ膜状に複数分散配置されているので、発光光により局在プラズモンが誘起されてプラズモン電場による増強効果を得ることができ、発光効率の向上、耐久性の向上を図ることができる。また、第1の微粒子が、前記発光光の照射を受けて、該発光光を前記発光層側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、前記第2の微粒子が、前記発光光の照射を受けて、該発光光を前記発光層側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されていることにより、アンテナ効果を得ることができ、発光光に対して光取り出し電極側への指向性を付与させることができる。本発明のEL素子においては、このような発光効率の向上および指向性付与により光取り出し効率の高効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるEL素子1の層構成を示す断面図
【図2】微粒子の例を示す断面図
【図3】本発明の第2実施形態にかかるEL素子2の層構成を示す断面図
【図4】本発明の第3実施形態にかかるEL素子3の層構成を示す断面図
【図5】本発明の第4実施形態にかかるEL素子4の層構成を示す断面図
【図6】本発明の第5実施形態にかかるEL素子5の層構成を示す断面図
【図7】本発明の第6実施形態にかかるEL素子6の層構成を示す断面図
【図8】EL素子3の作製工程を示す断面図
【図9】EL素子5の作製工程を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、各図においては視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0028】
<第1の実施形態のEL素子>
図1は、本発明の第1の実施形態のエレクトロルミネッセンス素子(EL素子)1の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態のEL素子1は、各層が有機層から構成されてなる有機EL素子である。
【0029】
本実施形態の有機EL素子1は、透光性を有する材料からなる透光性基板10上に、光取り出し電極であり透光性を有する材料からなる陽極11、正孔注入層12、発光層14、電子注入層15、金属からなる陰極16がこの順に積層され、発光層14を挟み、発光層14の一方の面側(ここでは、電子注入層15中)および他方の面側(ここでは、正孔注入層12中)に第1の微粒子21および第2の微粒子22がそれぞれ膜状に複数分散配置されてなる。ここで、透光性とは、発光光の透過率が70%以上であることとする。
【0030】
第1の微粒子21は、発光光の照射を受けて、発光光を発光層14側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、第2の微粒子22は、発光光の照射を受けて、発光光を発光層側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されている。
【0031】
透光性基板10としては特に制限なく、ガラス、石英の他、ポリマー等の可撓性基板を用いることができる。
【0032】
発光層14は、有機EL素子の発光層として適用可能なものであれば特に制限なく、例えば、Alq(tris(8-quinolinolato)-aluminum)等があげられる。有機EL素子1は、1対の電極である陽極11、陰極16から注入された電子、正孔が発光層14で再結合することにより、発光する。この発光層14中における発光位置は、電子注入層、発光層および正孔注入層等の層構成における電気物性設計により制御することができ、発光層中の電子注入層との境界近傍、発光層中の正孔注入層との境界近傍等とするなどの設計が可能である。図1に示す第1の実施形態においては、発光層14中の電子注入層15との境界近傍が発光位置14aとなるよう設定されている。
【0033】
第1の微粒子21および第2の微粒子22は、少なくとも一部に、発光光の照射によりプラズモン共鳴を生じる金属を備えている。このような微粒子21、22を発光層近傍に備えることにより、プラズモン増強による発光効率の向上と共に、励起寿命の短縮化による耐久性の向上という効果を得ることができる。図2は、微粒子21、22の構成例を示す断面図である。微粒子21、22は、図2(a)に示すように全体が金属からなる金属微粒子28であってもよいし、図2(b)に示すように1つの金属微粒子コア28aと絶縁体からなるシェル29とからなるコアシェル型微粒子、あるいは図2(c)に示すように複数の金属微粒子コア28bと絶縁体からなるシェル29とからなるコアシェル型微粒子であってもよい。
【0034】
金属微粒子28、金属微粒子コア28a、28b等の金属材料としては、発光光によりプラズモン共鳴が生じるものであればよく、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Al(アルミ)、Pt(白金)およびこれらの金属のいずれかを主成分(80%以上)とする合金が適用可能である。なお、特に、発光光が可視域波長であれば、銀が望ましい。プラズマ周波数から、銀は可視域での表面プラズモン共鳴が起こせるためである。発光光が可視域以外の波長、たとえば赤外であれば、金が望ましい。
【0035】
金属微粒子28、金属微粒子コア28a、28bの粒子径は、局在プラズモンを誘起可能な大きさであれば特に制限されないが、5nm以上かつ発光光の波長以下の大きさであることが好ましい。
【0036】
一方、絶縁体シェル29の材料としては、SiO、Al、MgO、ZrO、PbO,B、CaO、BaO等の発光光に対して透光性を有する絶縁体を好適に用いることができる。
【0037】
絶縁体シェル29の厚みは、発光光による金属微粒子コア28a、28bにおける局在プラズモンの誘起を阻害しない膜厚であることが好ましい。ここで絶縁体シェル29の厚みとは、図2(b)のように金属微粒子コア28aが絶縁体シェル29の内部に1つだけ含まれている構成では、絶縁体シェル29の表面と金属微粒子コア表面との平均距離とする。また、図2(c)のように絶縁体シェル29内に複数の金属微粒子コア28bを備えた構成では、絶縁体シェル29の表面と各金属微粒子コア28bの表面との最短距離の平均値を絶縁体シェル29の厚みとする。
【0038】
また、微粒子21、22が、図2(a)に示すような金属微粒子28自体である場合には、発光層14と接触あるいは、5nm未満の距離で近接していると、発光層14から直接電荷移動が生じ、発光の減衰が生じる可能性が高いため、発光層14とは5nm以上離間していることが望ましい。一方で、図2(b)あるいは図2(c)に示すような、金属微粒子28が絶縁体シェルに内包されたコアシェル型の場合には、発光層14中、あるいは発光層14に接触して配置されていても、発光の減衰が生じる可能性は低いため問題ない。
【0039】
EL素子の積層体内に金属微粒子等の金属部材が露出した状態で挿入された場合、金属は、各層に比べて仕事関数が大きく、電界印加時に電荷(電子もしくは正孔)のトラップとなってしまい、電荷の流れを阻害してキャリアバランスを崩すため発光層14における再結合効率が低下して、発光がかえって抑制されてしまう恐れがある。図2(b)あるいは図2(c)に示すようなコアシェル型微粒子を用いれば、プラズモン共鳴に寄与する金属微粒子コア28a、28bが絶縁体シェル29で覆われているため、電界を印加した場合にも、電荷が導電体である金属微粒子にトラップされず、電荷の流れを阻害しないため、プラズモン共鳴の効果の有効性が増す。
【0040】
なお、第1の微粒子および第2の微粒子は、1つの絶縁体粒子コアと金属からなるシェルとからなるコアシェル型微粒子、あるいは複数の絶縁体微粒子コアと金属からなるシェルとからなるコアシェル型微粒子であってもよい。絶縁体粒子コア、金属シェルとしては、それぞれ上述の絶縁体材料、金属材料を用いることができる。
【0041】
本発明においては、第1の微粒子21および第2の微粒子22が、発光層14を挟んで対向する膜状に、それぞれ発光光によりプラズモン共鳴を生じる位置、すなわち表面に局在プラズモンによる増強電場(プラズモン電場)を生じる位置であって、発光位置14aからそれぞれ所定距離d1、d2の位置に配置されていることを特徴とし、これにより、発光光に光取り出し電極方向への指向性を付与するアンテナ効果を得ることができ、光取り出し電極から発光光Lを効率よく取り出すことができる。
【0042】
特に、本実施形態のEL素子1においては、第1の微粒子21および第2の微粒子22は、それぞれ膜状に規則配列されており、また、第1の微粒子21と第2の微粒子22は、発光層14を挟んで1:1で対向配置されている。
【0043】
本実施形態では、発光層14(発光位置14a)が輻射器として、第1の微粒子21が反射器として、第2の微粒子が導波器のエレメントとしてそれぞれ作用するように、発光位置、第1の微粒子および第2の微粒子が理想的な八木・宇多アンテナタイプの配置に設定されている。また、本実施形態では、第1の微粒子21として、第2の微粒子22よりも大きい粒径を有するものを備えている。反射器として作用する微粒子21を導波器として作用する微粒子22よりも大きくすることにより、指向性をより高めることができる。発光位置14aと第1の微粒子21との距離d1、発光位置14aと第2の微粒子22との距離d2は、微粒子21、22の形状やサイズ(粒径)などに応じて適宜設定すればよい。なお、距離d1、d2は、それぞれ発光位置14aの中心と微粒子21、22の中心との間の距離である。
【0044】
第1の微粒子21が生じる第1のプラズモン電場と発光光との位相差がπであるとき、第1のプラズモン電場による発光光の反射率が最も高くなるため、発光光との位相差がπとなる電場を生じさせることができる位置に、第1の微粒子21を配置するのが最も好ましい。しかしながら、発光光に光取り出し電極側への指向性を付与するには、少なくとも発光層側からの光の半分超を発光層側に反射させることができればよいため、第1のプラズモン電場の位相は、発光光の位相との位相差がπからずれたものであってもよい。
【0045】
第2の微粒子22が生じる第2のプラズモン電場と発光光とが同位相であるとき、第2のプラズモン電場による発光光の透過率が最も高くなる、すなわち反射率が最も低くなるため、発光光と同位相となる電場を生じさせることができる位置に、第2の微粒子22を配置するのが最も好ましい。しかしながら、発光光に光取り出し電極側への指向性を付与するには、少なくとも発光層側からの光の半分未満を発光層側に反射する、すなわち、半分超を透過させるものであればよいため、第2のプラズモン電場は、発光光と同位相でなくてもよい。
【0046】
具体例としては、発光光の波長がλ、第1の微粒子および第2の微粒子が共に絶縁体コアと銀シェルからなる球状のコアシェル型微粒子であって、第1の微粒子の直径が0.2λ(全体直径/絶縁体コアの直径=0.75)であり、第2の微粒子の直径が0.2λ(全体直径/絶縁体の直径=0.65)である場合、距離d1〜0.2λ、距離d2〜0.3λとすることにより、第1のプラズモン電場の発光光との位相差を略πとし、第2のプラズモン電場の位相を発光光の位相と略同位相とすることができ、結果として、発光光に対して、最も効果的に光取り出し電極側への指向性を付与することができる。
【0047】
本実施形態のEL素子1は、発光層14を挟んで膜状に配置された第1の微粒子21および第2の微粒子22を備え、第1の微粒子21が、発光光の照射を受けて、発光光を発光層14側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、第2の微粒子22が、発光光の照射を受けて、発光光を発光層側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されていることにより、プラズモン増強による効果として、発光効率および耐久性の向上を図ると共に、発光光に光取り出し電極11側へ向かう指向性を付与することができ、光取り出し電極11からの光取り出し効率を向上させることができる。
【0048】
以下、他の実施形態のEL素子の構成について説明する。以下において、第1の実施形態のEL素子と同等の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略し、主として第1の実施形態のEL素子1と異なる点について説明する。
【0049】
<第2の実施形態のEL素子>
図3は、本発明の第2の実施形態のEL素子2の構造を模式的に示す断面図である。
本実施形態のEL素子2は、発光層14における発光光の発光位置14aが、正孔注入層12との境界側に位置するように構成されており、この発光位置14aに応じて、第1の微粒子21および第2の微粒子22が、発光位置14aからの距離がそれぞれd1、d2となるように配置されている。図3においては、第1の微粒子21は発光層14と接触している。したがって、第1の微粒子21としては、図2(b)、(c)に示すコアシェル型微粒子を用いることが好ましい。
【0050】
本実施形態のEL素子2においても、第1の微粒子21が、発光光の照射を受けて、発光光を発光層14側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、第2の微粒子22が、発光光の照射を受けて、発光光を発光層側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されているので、第1の実施形態のEL素子2と同様の効果を得ることができる。
【0051】
<第3の実施形態のEL素子>
図4は、本発明の第3の実施形態のEL素子3の構造を模式的に示す断面図である。
第1および第2の実施形態のEL素子1、2においては、第1および第2の微粒子21、22として、互いに異なるサイズの球状粒子を備えているが、本実施形態のEL素子3においては、第1の微粒子25および第2の微粒子26として、略同一サイズのディスク状粒子を備えている。微粒子26、27は、発光光の照射が照射されることによりプラズモン共鳴を生じる金属からなるディスク状粒子である。
図4に示す本実施形態のEL素子3において、発光層14における発光光の発光位置は示していないが、第1および第2の実施形態のEL素子1、2と同様に、第1の微粒子25が発光光の照射を受けて発光光を発光層14側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に、第2の微粒子26が発光光の照射を受けて発光光を発光層14側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、これらの微粒子25、26によりアンテナ効果を得ることができる。
【0052】
第1および第2の微粒子25、26が、ディスク状粒子である場合にも、発光層14(発光位置)が輻射器として、第1の微粒子25が反射器として、第2の微粒子26が導波器のエレメントとしてそれぞれ作用するように、発光位置、第1の微粒子25および第2の微粒子26の配置が八木・宇多アンテナタイプの配置に設定されている。また、発光位置と第1の微粒子25との距離、発光位置と第2の微粒子26との距離は、ディスク状微粒子25、26のサイズ(ディスク径、厚み)などに応じて、アンテナ効果を得ることができるように適宜設定すればよい。
【0053】
本実施形態のEL素子3についても、第1および第2の実施形態のEL素子1、2と同様に、プラズモン増強による効果と共に、発光光への指向性付与の効果を得ることができる。
【0054】
<第4の実施形態のEL素子>
図5は、本発明の第4の実施形態のEL素子4の構造を模式的に示す断面図である。
本実施形態のEL素子4は、図1に示した本実施形態のEL素子において、膜状に配置された第2の微粒子22と光取り出し電極11との間に、さらに発光光の照射を受けて第3のプラズモン電場を生じる第3の微粒子23が、2層の膜状に配置されている。
【0055】
このとき、第3のプラズモン電場を生じる第3の微粒子23は、第2の微粒子22と同様に、第3のプラズモン電場が発光光を発光層14側に反射しない位置に配置される。すなわち、この第3の微粒子23は、第2の微粒子22と共に八木・宇多アンテナタイプにおける導波管のエレメントとして作用するように配置される。このように、導波管のエレメントとして作用する微粒子を複数の膜状に配置することにより、複数のエレメントを備えたアンテナと同様の効果を得ることができ、発光光の指向性をさらに高めることができる。
【0056】
<第5の実施形態のEL素子>
図6は、本発明の第5の実施形態のEL素子5の構造を模式的に示す断面図である。
本実施形態のEL素子5は、第1の微粒子21、第2の微粒子22および第3の微粒子23がそれぞれ膜状にランダム配置されている点で第4の実施形態のEL素子4と異なっている。
【0057】
積層方向における、各微粒子の位置は、第4の実施形態の場合と同様であるが、各膜面内において、各微粒子が規則的に配列されておらず、また第1の微粒子と第2の微粒子が1:1で対向配置されていない。
【0058】
本実施形態のEL素子5においては、膜面内に規則配列され、第1の微粒子と第2の微粒子が1:1で対向配置されている場合と比較してアンテナ効果は低いと考えられるが、金属微粒子膜が発光層の一方の面側にのみ設けられている場合と比較すると、指向性の向上効果は得られると考えられる。なお、後記するように本実施形態のEL素子5は、微粒子を規則配列させた素子と比較して容易な方法で作製することができる。
【0059】
<第6の実施形態のEL素子>
図7は、本発明の第6の実施形態のEL素子6の構造を模式的に示す断面図である。
本実施形態のEL素子6は、第3の実施形態のEL素子3と同様に、第1の微粒子25および第2の微粒子26として、略同一サイズのディスク状粒子を備えている。さらに、第4の実施形態と同様に、膜状に配置された第2の微粒子26と光取り出し電極11との間に、さらに発光光の照射を受けて第3のプラズモン電場を生じる第3の微粒子27が、2層の膜状に配置されている。
【0060】
本実施形態のEL素子6においては、第4の実施形態と同様に、発光光の指向性を高めることができる。
【0061】
上記各実施形態において、陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極などの各層は、それぞれの機能を有する層として周知の種々の材料のなかから、適宜選択可能である。さらに、正孔輸送層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子ブロック層、保護層などの層が備えられていてもよい。
【0062】
なお、上記のような各EL素子は、例えば、基板10上に陽極11側から順次積層されて、陽極11側から光が取り出させるように構成される。微粒子以外の各層については、従来の有機EL素子の材料および積層方法により形成することができる。
【0063】
<EL素子の製造方法>
以下に、本発明のEL素子の製造方法の例として、上記実施形態のEL素子3の製造方法を簡単に説明する。図8は、EL素子3の製造工程を示す工程断面図である。
【0064】
まず、図8(a)に示すように、ガラス等の透光性基板10上に、ITO(酸化インジウム錫)からなる陽極11を蒸着等により形成し、さらに図8(b)に示すように、最初の正孔注入層12aを蒸着形成する。
【0065】
次に、図8(c)に示すように、第1の正孔注入層12a上にパターン状のマスク30を形成したのち、金属材料をマスク蒸着し、図8(d)に示すように、マスク30を剥離することにより、正孔注入層12a上に金属からなる複数の第2の微粒子26を規則的に分散配置形成する。
【0066】
次に、図8(e)に示すように、第2の微粒子26を覆うようにしてさらに第2の正孔注入層12bを蒸着形成する。このようにして、第1および第2の正孔注入層12a、12bからなる正孔注入層12中に第2の微粒子26が埋め込まれた構造を作り込むことができる。なお、正孔注入層12bの厚みにより微粒子26の発光層14からの距離を制御する。
【0067】
図8(f)に示すように、正孔注入層12上に発光層14を蒸着形成し、さらに図8(g)に示すように、発光層14上に第1の電子注入層15aを蒸着形成する。
【0068】
次に、図8(h)に示すように、電子注入層15a上にパターン状のマスク30を形成したのち、金属材料をマスク蒸着し、図8(i)に示すように、マスク30を剥離することにより、第1の電子注入層15a上に金属からなる複数の第1の微粒子25を規則的に分散配置形成する。第1の電子注入層15aの厚みにより微粒子25の発光層からの距離を制御する。
【0069】
さらに、図8(j)に示すように、第1の微粒子25を覆うようにしてさらに第2の電子注入層15bを蒸着形成する。このようにして、第1および第2の電子注入層15a、15bからなる電子注入層15中に第1の微粒子25が埋め込まれた構造を作りこむことができる。
【0070】
最後に、図8(k)に示すように、金属からなる陰極16を電子注入層15上に蒸着形成してEL素子3を作製することができる。
【0071】
以上のように、各層を蒸着法により順次形成することにより、各層の厚みを制御し、所望の配置に第1および第2の微粒子が位置するEL素子を製造することができる。第6の実施形態のEL素子6は、上記と同様の手順でホール注入層蒸着、マスク形成、金属微粒子形成の工程を複数回繰り返すことにより製造することができる。
【0072】
本発明のEL素子の製造方法の他の例として、上記実施形態のEL素子5の製造方法を簡単に説明する。図9は、EL素子5の製造工程を示す工程断面図である。
【0073】
まず、図9(a)に示すように、ガラス等の透光性基板10上に、ITOからなる陽極11を蒸着等により形成し、陽極11上に微粒子23aを塗布により分散配置する。
【0074】
図9(b)に示すように、微粒子23aを覆うようにして第1の正孔注入層12aを塗布形成し、図9(c)に示すように、第1の正孔注入層12a上に、微粒子23bを塗布により分散配置し、さらに図9(d)に示すように、微粒子23bを覆うようにして第2の正孔注入層12bを塗布形成する。第1の正孔注入層12aと第2の正孔注入層12bとが積層されて正孔注入層12となる。
【0075】
同様にして、図9(e)に示すように、正孔注入層12上に微粒子22を塗布により分散配置して、図9(f)に示すように、微粒子22を覆うようにして第3の正孔注入層12cを塗布形成する。このように第1から第3の正孔注入層12a〜12cを積層することにより連続的な正孔注入層12が形成されてなる。微粒子23a、微粒子23bは2層の膜状に配置された第3の微粒子23を構成するものである。微粒子23a、微粒子23bが、それぞれが発光光を反射しないプラズモン電場を生じる位置となるように、第1の正孔注入層12a、第2の正孔注入層12bおよび第3の正孔注入層12cの塗布厚みを制御する。
【0076】
図9(g)に示すように、正孔注入層12上に発光層14を塗布形成し、図9(h)に示すように発光層14上に第1の微粒子21を塗布により分散配置する。さらに、図9(i)に示すように、第1の微粒子21を覆うようにして電子注入層15を塗布形成する。
最後に、図9(j)に示すように、陰極16を電子注入層15上に形成してEL素子5を作製することができる。
【0077】
以上のように、各層を塗布法により順次形成することにより、各層の厚みを制御し、所望の積層方向位置に第1〜第3の微粒子が位置するEL素子を製造することができる。
【0078】
なお、図1、図2あるいは図5に記載のように、微粒子が発光層を挟み1:1で規則的に配列されてなるEL素子の、微粒子の規則配列は、リソグラフィと表面ミリングプロセスでパターニングすることにより形成することができる。
【0079】
上記各実施形態では、発光層を含む複数の層が有機化合物層からなる有機EL素子について説明したが、本発明のEL素子は、発光層を含む複数の層が無機化合物層である無機EL素子のほか、複数の半導体層からなる発光ダイオード(LED)および半導体レーザにも好適に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のEL素子は、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1、2、3、4、5、 エレクトロルミネッセンス素子
10 透光性基板
11 光取り出し電極(陽極)
12 正孔注入層
14 発光層
15 電子注入層
16 金属電極(陰極)
21、25 第1の微粒子
22、26 第2の微粒子
23、27 第3の微粒子
28 金属微粒子
29 絶縁体シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の電極と、該電極間に積層された、該電極間への電界の印加により発光光を生じる発光層を含む複数の層とからなる面発光型のエレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層を挟み、該発光層の一方の面側および他方の面側に第1の微粒子および第2の微粒子がそれぞれ膜状に複数分散配置されており、
前記第1の微粒子は、前記発光光の照射を受けて、該発光光を前記発光層側に反射する第1のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、
前記第2の微粒子は、前記発光光の照射を受けて、該発光光を前記発光層側に反射しない第2のプラズモン電場を生じる位置に配置されており、
前記1対の電極のうち前記他方の面側の電極が、光透過性を有する光取り出し電極であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記複数の第1の微粒子と前記複数の第2の微粒子とが、前記発光層を挟み1:1で対向配置されていることを特徴とする請求項1記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記複数の第1の微粒子および前記複数の第2の微粒子が、それぞれ規則配列していることを特徴とする請求項1または2記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記複数の第2の微粒子と前記光取り出し電極との間に、さらに前記発光光の照射を受けて第3のプラズモン電場を生じる微粒子が、単一または複数の膜状に配置されていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記微粒子が、少なくとも1つの金属微粒子コアと、該金属微粒子コアを覆う絶縁体シェルとからなるコアシェル型微粒子であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記複数の層が、それぞれ有機層であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−222244(P2011−222244A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89201(P2010−89201)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】