説明

エレクトロルミネッセンス装置及び電子機器

【課題】補助電極によって形成される段差を低減し、緩衝層中の気泡や、段差部近傍の保護膜の欠損等を防止することのできるエレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、複数の第1電極14と、前記複数の第1電極14を区画する隔壁層16と、前記隔壁層16によって区画された領域に設けられた機能層17と、前記機能層17及び前記隔壁層16を覆って設けられた第2電極18と、前記第2電極18上に設けられた保護膜19と、前記隔壁層18の上面に設けられた溝部H2と、前記溝部H2によって形成された凹部内に選択的に設けられた補助電極50とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス装置及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス素子を画素として用いたエレクトロルミネッセンス装置の開発が進んでいる。エレクトロルミネッセンス素子は、発光層を含む少なくとも1層以上の層からなる機能層を上下一対の電極で挟んだ構造を有する。アクティブマトリクス型のエレクトロルミネッセンス装置では、マトリクス状に配置された複数の第1電極(画素電極)を区画して格子状の隔壁層が形成され、隔壁層で区画された領域に機能層が配置される。そして、機能層及び隔壁層を覆って第2電極(対向電極)が形成される。ここで、第2電極は基板全体を覆って形成され、前記複数の第1電極に共通の共通電極として機能する。以下、「エレクトロルミネッセンス」を「EL」と略記する。
【0003】
EL素子は、発光層からの光の取り出し方向の違いにより、基板側から光を取り出すボトムエミッション構造と、封止基板やカラーフィルタ基板等の対向基板側から光を取り出すトップエミッション構造とに分類される。トップエミッション構造のEL装置では、一般に第2電極は光が射出される側に配置されている。そして、第2電極は透光性を有する導電材料、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)膜やIZO(インジウム・亜鉛酸化物)膜等によって形成されている。しかし、このような透光性導電膜は、Al等の金属膜に比べて抵抗が大きいため、第2電極内において電圧の不均一を招き、表示品質が低下する惧れがある。このため、特に大型のトップエミッション構造のEL装置では、隔壁層上に抵抗の小さい補助電極を形成し、第2電極の電圧降下を防止することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−123988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12は、従来のEL装置の概略構成図である。同図において、補助電極50は隔壁層16の上面に設けられている。隔壁層16の開口部Hには機能層17が設けられており、機能層17を覆って第2電極18が設けられている。補助電極50は、第2電極18上に積層されている。ここで、隔壁層16の厚みは1μm程度であり、補助電極50の厚みは0.5μm〜1μm程度である。補助電極50は、隔壁層16の上面から突出するように設けられており、補助電極50を含めた隔壁部分の段差は2μm程度となっている。
【0005】
ところで、EL装置においては、酸素や水分に対する耐久性向上が課題となっている。そのため、EL素子の表面をガスバリア性に優れた保護膜19(ガスバリア層)で覆う薄膜封止と呼ばれる技術が用いられている。薄膜封止は、ガスバリア性に優れた珪素窒化物、珪素酸化物、セラミックス等の保護膜19を高密度プラズマ成膜法により基板全体に成膜するものであり、この保護膜19が第2電極18の表面及び隔壁層16の側面を覆って外部からの酸素や水分の浸入を防止する。
【0006】
しかしながら、保護膜19は、水分遮断性を発現させるために高密度で非常に硬い無機膜が用いられるため、当該薄膜の表面に凹凸部や急峻な段差があると、外部応力が集中し、クラックや剥離等を生じる場合がある。このようなクラックや剥離を防止するために、保護膜の下地に平坦化膜としての緩衝層を設ける構造が提案されているが、緩衝層はスクリーン印刷等で形成されるため、基板10Aの表面に大きな段差があると、段差部分で気泡が発生し、表示品質を低下させる場合がある。例えば、スキージを矢印方向に走査すると、符号K1で示す部分に段差部の影が生じ、この部分で気泡が発生し易くなる。また、スキージを走査する際に、基板10A上に大きな段差があると、スキージの押圧力にむらが生じ、平坦な緩衝層が形成できない場合がある。さらに、段差の頂上部でスキージの押圧力が大きくなるため、段差部近傍K2の機能層17に剥離が生じる場合もある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、補助電極によって形成される段差を低減し、緩衝層中の気泡や、段差部近傍の保護膜の欠損等を防止することのできるエレクトロルミネッセンス装置を提供することを目的とする。また、このようなエレクトロルミネッセンス装置を備えることにより、信頼性が高く、発光特性に優れた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、複数の第1電極と、前記複数の第1電極を区画する隔壁層と、前記隔壁層によって区画された領域に設けられた機能層と、前記機能層及び前記隔壁層を覆って設けられた第2電極と、前記第2電極上に設けられた保護膜と、前記隔壁層の上面に設けられた溝部と、前記溝部によって形成された凹部内に選択的に設けられた補助電極とを備えることを特徴とする。この構成によれば、補助電極が溝部内に埋め込まれるため、隔壁層上の段差が低減され、保護膜のクラックや剥離等の生じにくいエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。
【0009】
本発明においては、前記保護膜上に緩衝層が設けられ、前記緩衝層上に第2の保護膜が設けられていることが望ましい。この構成によれば、エレクトロルミネッセンス素子の表面を保護膜と第2の保護膜によって2重に保護できるため、酸素や水分に対して耐久性が高く、信頼性に優れたエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。また、緩衝層によって第2の保護膜の下地の平坦化が実現できるため、基板表面の段差に起因するクラックや剥離を抑制でき、さらに第2の保護膜との密着性も向上することができる。緩衝層は一般的にスクリーン印刷等により形成され、基板に大きな凹凸があると、段差部分に気泡が発生する場合があるが、本発明では、隔壁層上の段差が低減されているので、このような気泡の問題は生じにくく、表示品質に優れたエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。
【0010】
本発明においては、前記溝部の深さは前記補助電極の厚みと略等しいことが望ましい。この構成によれば、補助電極に起因する段差を略平坦化することができる。前述のように、隔壁層の表面に大きな段差があると、保護膜にクラックが発生したり、緩衝層に気泡が発生する等の問題を生じるため、溝部の深さは浅すぎても深すぎても段差の解消という点では不適切である。したがって、補助電極に起因する段差は完全に無くすことが望ましく、そのためには補助電極の厚みと溝部の深さは完全に一致していることが望ましい。本発明においては、このような段差が略完全に解消されるため、気泡の発生防止や、平坦で欠損のない保護膜の形成を可能としたエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。
【0011】
本発明においては、前記溝部は、前記溝部の底部から上部にかけて開口面積が大きくなるようなテーパ状の斜面を有していることが望ましい。この構成によれば、溝部の表面に形成される第2電極や補助電極に断線等が発生しにくくなり、信頼性の高いエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。
【0012】
本発明においては、前記第2電極は透光性の導電材料により形成され、前記機能層から射出された光は前記第2電極を透過して外部に取り出されることが望ましい。この構成によれば、表示品質が高く、信頼性に優れたトップエミッション型のエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。トップエミッション型のエレクトロルミネッセンス装置では、第2電極側から光が取り出されるため、第2電極の光透過率を高めるために第2電極を薄くしなければならないが、第2電極の抵抗は補助電極によって低減されているので、第2電極を薄くしても抵抗が大きくなることがないからである。
【0013】
本発明においては、前記補助電極は、遮光性又は光反射性の導電材料により形成され、前記複数の第1電極を区画するように格子状に設けられていることが望ましい。この構成によれば、補助電極をブラックマトリクスとして用いることができる。特に、補助電極は隔壁層の一部を構成し、第1電極の周囲に壁状に形成されているため、隣接ドット領域間の混色が防止され、高い表示品質が実現できる。また、補助電極を格子状に設けているため、第2電極の抵抗を最大限小さくすることができ、表示品質に優れたエレクトロルミネッセンス装置が提供できる。
【0014】
本発明の電子機器は、前述した本発明のエレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする。この構成によれば、信頼性が高く、発光特性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0016】
[有機EL装置の構成]
図1は、本発明のEL装置の一実施形態である有機EL装置1の概略構成図である。有機EL装置1は、互いに対向する第1基板10及び第2基板20を備えている。第1基板10と第2基板20とは接着層43によって接着されている。第1基板10と第2基板20との間には図示略のギャップ材が設けられており、該ギャップ材によって第1基板10と第2基板20との間隔が一定の間隔に保持されている。
【0017】
第1基板10は、ガラス、石英、プラスチック等からなる基板本体10Aを基体としてなる。基板本体10Aの第2基板20側には、回路素子部15、画素電極(第1電極)14、隔壁層16、機能層17、対向電極(第2電極)18、補助電極50、第1保護膜19、緩衝層40及び第2保護膜41が設けられている。回路素子部15は、画素電極14を駆動する回路素子としての薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor; TFT)を含む1又は2以上の層からなり、走査線11、信号線12、共通給電線13、スイッチング用TFT31、駆動用TFT32、保持容量cap等を含んで構成されている。本実施形態の場合、画素電極14は陽極であり、対向電極18は陰極であるが、画素電極14を陰極、対向電極18を陽極としても良い。
【0018】
基板本体10A上には、発光領域としての複数のドット領域Aがマトリクス状に配列されている。それぞれのドット領域Aには、画素電極14が配置されており、画素電極14の近傍には、走査線11、信号線12及び共通給電線13が配置されている。画素電極14は平面視矩形状に設けられており、画素電極14の短辺側の一辺に沿って走査線11が延在し、それと直交する2辺に沿って信号線12及び共通給電線13がそれぞれ延在している。なお、画素電極14の平面形状は、図に示す矩形の他に、円形、長円形など任意の形状が適用可能である。
【0019】
ドット領域Aには、走査線11を介して走査信号がゲート電極31gに供給されるスイッチング用TFT31と、スイッチング用TFT31を介して信号線12から供給される画像信号を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画像信号がゲート電極32gに供給される駆動用TFT32と、駆動用TFT32を介して共通給電線13に電気的に接続したときに共通給電線13から駆動電流が流れ込む画素電極14と、画素電極14と対向電極18との間に挟み込まれる機能層17と、が設けられている。
【0020】
機能層17は、画素電極14及び隔壁層16を覆って設けられている。機能層17は、発光層を含む少なくとも1層以上の層からなる。発光層としては、白色の蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の低分子発光材料を用いることができ、例えばアントラセンやピレン、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、またはこれら低分子材料に、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、DCM、DCJ、ペリノン、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジアザインダセン誘導体等をドープして用いることができる。また、機能層17には、発光層の他に、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の層が含まれる。
【0021】
隔壁層16は、無機或いは有機の絶縁材料からなり、画素電極14(ドット領域A)を区画するように平面視格子状に設けられている。隔壁層16は画素電極14上に開口部H1を備えており、隔壁層16の開口部H1の底面に画素電極14の一部が露出している。機能層17は、画素電極14上に配置された部分が発光に寄与し、隔壁層16上に配置された部分は発光に寄与しない。このため、機能層17から光が射出される領域(発光領域)は、隔壁層16の開口部H1によって規定される。
【0022】
隔壁層16の上面には、補助電極50用の溝部H2が設けられている。溝部H2は、ドット領域Aの間隙に沿って平面視ストライプ状に設けられている。溝部H2の延在方向は、例えばドット領域Aの短辺に平行な方向である。溝部H2の深さは、補助電極50の厚みと略同じである。溝部H2は、表面に形成される対向電極18及び補助電極50に断線等が生じないように、溝部H2の底部から上部にかけて開口面積が大きくなるようなテーパ状の斜面を有している。
【0023】
隔壁層16の表面には、開口部H1及び溝部H2の内壁面を覆って機能層17が設けられている。また、機能層17上には、開口部H1及び溝部H2によって形成された凹部の表面を覆って対向電極18が設けられている。対向電極18は、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)等を含む材料によって形成されている。好ましくは、MgAgからなる薄膜の透光性電極が好適に採用されるが、この他にも、MgAgAl電極、LiAl電極、LiFAl電極等を用いることもできる。また、これらの金属薄膜とITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電材料を積層した膜を対向電極18とすることもできる。対向電極18は、マトリクス状に配置されたドット領域Aを覆って第1基板10の略全面に設けられており、各画素電極14に共通の共通電極として機能する。
【0024】
対向電極18の表面には、ドット領域Aの間隙に沿って平面視ストライプ状の補助電極50が設けられている。補助電極50は、溝部H2によって形成された凹部内に選択的に設けられている。補助電極50は、前記凹部内に埋め込まれるように配置されており、当該凹部によって形成された隔壁層上面部の凹凸を平坦化している。補助電極50は、導電性に優れたAl、Au、Ag等の金属材料によって形成される。
【0025】
対向電極18の表面には、対向電極18及び補助電極50を覆って第1保護膜19が設けられている。第1保護膜19は、対向電極18の表面全体を覆って第1基板10の略全面に設けられており、大気中に存在する酸素や水分から対向電極18(有機EL素子)を遮断する機能を有している。第1保護膜19は、透明性、密着性、耐水性等の面から、珪素酸窒化物等の無機化合物によって形成されていることが望ましい。
【0026】
第1保護膜19の表面には、緩衝層41と第2保護膜42とからなる封止層40が設けられている。緩衝層41は、第2保護膜42の下地を平坦化すると共に、第1基板10の反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、第1保護膜19が対向電極18から剥離するのを防止する機能を有する。緩衝層41としては、アクリル等の透光性の樹脂膜が用いられる。第2保護膜42は、主にガスバリア層として機能し、第1保護膜19と共に大気中に存在する酸素や水分から対向電極18(有機EL素子)を遮断する機能を有する。第2保護膜42は、透明性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、窒素を含む珪素化合物、例えば珪素窒化物等によって形成されていることが望ましい。
【0027】
第1基板10上には、第2基板20が設けられている。第2基板20は、ガラス、石英、プラスチック等からなる基板本体20Aを基体としてなる。基板本体20Aの第1基板10側には、カラーフィルタ21が設けられている。カラーフィルタ21は、R(赤),G(緑),B(青)の3原色を所定のパターン、例えば、ストライプ配列、デルタ配列、モザイク配列で配列することにより形成されている。カラーフィルタ21の1つの色要素は、画像を形成するための最小単位であるドット領域Aの1つに対応して設けられている。そして、R,G,Bに対応する3つの色要素が1つのユニットとなって1つの画素が形成されている。
【0028】
第1基板10及び第2基板20の間には、接着層43が設けられている。接着層43としては、熱硬化樹脂あるいは紫外線硬化樹脂等が用いられ、特に、熱硬化樹脂の1種であるエポキシ樹脂が好ましく用いられる。第2基板20は、接着層43を介して第1基板10に接着されている。第1基板10の有機EL素子が形成された面は、接着層43及び第2基板20によって封止されており、水や酸素の侵入を防いで有機EL素子の酸化を防止するようになっている。
【0029】
上記構成の有機EL装置1では、走査線11が駆動されてスイッチング用TFT31がオンになると、そのときの信号線12の電位が保持容量capに保持され、この保持容量capの状態に応じて駆動用TFT32の導通状態が決まる。また、駆動用TFT32のチャネルを介して共通給電線13から画素電極14に電流が流れ、さらに機能層17を通じて対向電極18に電流が流れる。そして、このときの電流量に応じて機能層17(発光層)が発光する。機能層17から対向電極18側に射出された光は、カラーフィルタ21及び基板本体20Aを透過して外部に射出されると共に、機能層17から基板本体10A側に発した光が、画素電極14又は画素電極14の下側に設けられた図示略の反射膜によって反射され、その光がカラーフィルタ21及び基板本体20Aを透過して外部に射出される(トップエミッション型)。
【0030】
[有機EL装置の製造方法]
次に、図2〜図9を用いて有機EL装置1の製造方法を説明する。なお、図2〜図9では、説明に必要な層のみを図示し、回路素子部15等の付帯的な層の図示は省略する。
【0031】
まず、図2に示すように、画素電極14が形成された基体10A上に隔壁層16を形成する。隔壁層16は、基体10A上にアクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の絶縁材料を成膜し、フォトリソグラフィ技術を用いて、画素電極14上に開口部H1を形成し、画素電極14(ドット領域A)の間隙に沿って溝部H2を形成することにより得られる。溝部H2の深さは、補助電極の厚みに応じて適切な深さに形成する。開口部H1及び溝部H2は、共通の工程により同時に形成することが望ましい。
【0032】
次に、図3に示すように、画素電極14及び隔壁層16の全面に機能層17を形成する。機能層17は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層及び電子輸送層を順次成膜することにより形成することができる。各層の蒸着材料及び蒸着方法としては公知の蒸着材料及び蒸着方法を用いることができる。
【0033】
次に、図4に示すように、機能層17の全面に対向電極18を形成する。この対向電極18の形成工程では、トップエミッション構造を実現するために、例えばイオンプレーティング法等の物理気相成長法により透明なITO膜を対向電極18として成膜する。またはAlの薄膜、MgAgの薄膜を蒸着法で形成し、或いはこの薄膜にITO膜を積層することにより、対向電極18とすることもできる。対向電極18は、開口部H1及び溝部H2によって形成される凹部の表面を覆って形成される。
【0034】
次に、図5に示すように、溝部H2によって形成された凹部内に補助電極50を形成する。補助電極50はマスク蒸着法を用いて前記凹部内ニ選択的に形成されるが、インクジェット法を用いて溝部H2内に補助電極材料を吐出し、これを乾燥処理及び焼成処理することにより補助電極50を形成することもできる。補助電極50の厚みは、溝部H2の深さに対応した厚みとされる。これにより、隔壁層16の上面は略平坦化され、基体表面の凹凸は最小限に抑えられる。
【0035】
次に、図6に示すように、対向電極18及び補助電極50の全面に第1保護膜19を形成する。第1保護膜19は隔壁層16によって形成された凹凸を覆って形成されるが、隔壁層16の上面は平坦化されているため、クラックや剥離が生じにくいものとなる。
【0036】
次に、図7に示すように、第1保護膜19の全面に緩衝層41を形成する。緩衝層41は、エポキシ樹脂等の透光性の樹脂膜をスクリーン印刷法により塗布し、これを加熱処理することにより形成することができる。スキージは、例えば矢印の方向に沿って走査されるが、基体10Aの表面には補助電極50に起因した急峻な段差は形成されていないため、段差部分の影によって気泡が発生する等の問題は生じない。また、スキージは基体10Aの表面を加圧しつつ走査されるが、隔壁層16の上面には大きな段差が形成されていないため、隔壁層16の上面近傍で機能層17の剥離が生じる等の問題も生じない。
【0037】
次に、図8に示すように、緩衝層41の全面に第2保護膜42を形成する。第2保護膜42は、緩衝層41によって平坦化された面に形成されるため、クラックや剥離等の問題が生じにくいものとなる。
【0038】
以上により第1基板10が完成したら、図9に示すように、接着層を介して第1基板10上に第2基板20を接着する。接着層及び第2基板20は、第1保護膜19、緩衝層41及び第2保護膜42と共に有機EL素子を封止する封止手段として機能する。以上により、有機EL装置1が完成する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の有機EL装置1によれば、補助電極50が溝部H2内に埋め込まれるように形成されるため、第1保護膜19のクラックや剥離等の生じにくく、信頼性の高い有機EL装置が提供できる。また、緩衝層41を介して第2保護膜42を形成する際に、緩衝層41に気泡が混入しにくくなり、表示品質に優れたトップエミッション型の有機EL装置が提供できる。
【0040】
なお、本実施形態の有機EL装置1では、溝H2をドット領域Aの短辺に沿って平面視ストライプ状に設けたが、溝H2は、図10のようにドット領域Aの長辺及び短辺に沿って平面視格子状に設けることもできる。この構成によれば、例えば、補助電極50を遮光性又は光反射性の導電材料によって形成することにより、補助電極50をブラックマトリクスとして用いることができる。特に、補助電極50は隔壁層16の一部を構成し、画素電極14の周囲に壁状に形成されているため、隣接ドット領域間の混色が防止され、高い表示品質が実現できる。また、補助電極50を格子状に設けているため、対向電極18の抵抗を最大限小さくすることができ、表示品質に優れた有機EL装置が提供できる。
【0041】
[電子機器]
次に、図11を用いて、本発明のEL装置を備えた電子機器の実施形態について説明する。図11は、本発明のEL装置の一例である図1の有機EL装置を映像モニタの表示部に適用した例についての概略構成図である。同図に示す映像モニタ1200は、先の実施形態の有機EL装置を備えた表示部1201と、筐体1202と、スピーカ1203等を備えている。上記実施形態の有機EL装置は、上記映像モニタに限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、携帯電話機、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。かかる構成とすることで、信頼性が高く、発光特性に優れた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】EL装置の一実施形態である有機EL装置の概略構成図である。
【図2】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図3】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図4】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図5】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図6】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図7】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図8】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図9】同有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図10】補助電極の他の構成例を示す模式図である。
【図11】電子機器の一例である映像モニタの概略構成図である。
【図12】従来の補助電極の構成を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1…有機EL装置(エレクトロルミネッセンス装置)、14…画素電極(第1電極)、16…隔壁層、17…機能層、18…対向電極(第2電極)、19…第1保護膜、41…緩衝層、42…第2保護膜、50…補助電極、1200…映像モニタ(電子機器)、H1…開口部(隔壁層によって区画された領域)、H2…溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1電極と、
前記複数の第1電極を区画する隔壁層と、
前記隔壁層によって区画された領域に設けられた機能層と、
前記機能層及び前記隔壁層を覆って設けられた第2電極と、
前記第2電極上に設けられた保護膜と、
前記隔壁層の上面に設けられた溝部と、
前記溝部によって形成された凹部内に選択的に設けられた補助電極とを備えることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記保護膜上に緩衝層が設けられ、前記緩衝層上に第2の保護膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記溝部の深さは前記補助電極の厚みと略等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記溝部は、前記溝部の底部から上部にかけて開口面積が大きくなるようなテーパ状の斜面を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記第2電極は透光性の導電材料により形成され、前記機能層から射出された光は前記第2電極を透過して外部に取り出されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記補助電極は、遮光性又は光反射性の導電材料により形成され、前記複数の第1電極を区画するように格子状に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの項に記載のエレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−153043(P2008−153043A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339501(P2006−339501)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】