説明

エレクトロンキャプチャ検出器

【課題】コレクタ電極の汚染の可能性を極力低減するECDを提供する。
【解決手段】セル室23に被検ガスを導入するガス導入孔24の中心軸の延長線がセル室23内に向けて突設されたコレクタ電極22と交わることのない関係位置にガス導入孔24とコレクタ電極22とを配設する。このように構成することにより、底部のガス導入孔24からセル室23内に流入するガスの流れがコレクタ電極22に直接接触することが避けられるので、電極の汚染が少なく、長期にわたって安定した性能を維持することが可能となり、洗浄や交換に要する保守コストを削減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフ用のエレクトロンキャプチャ検出器(以下、ECDと略記する)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ用検出器の一種であるECDは、電子親和性物質(ハロゲン化合物やニトロ化合物等)の選択的検出に適している検出器であって、放射性同位元素の線源を陰極とし棒状のコレクタ電極を陽極として封入した小容積のセル室内を試料ガスが貫流するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3に、従来のECDの構造例を断面図で示す。
同図に示すように、ECDは円筒状のセル筒25の内部にセル室23が形成され、このセル室23の側壁内面に63Niなどの放射線源21が塗着または蒸着され、棒状のコレクタ電極22は頂部からセル室23内に向けて突設されている。セル筒25の下端にはガスクロマトグラフのカラム29の末端を接続する接続部26が設けられ、カラム29から流出する試料成分を含むキャリアガスと側方のメイクアップガス流路27から供給される窒素ガスとの混合ガス(以下、被検ガスと記す)が、セル室23の底部に穿設されたガス導入孔24からセル室23内に送給され、セル室23を通過して上部の排気口28から排出される。
【0004】
上記のように構成された従来のECDの動作については特許文献1にも記載されているところであり、ここでは説明を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−153579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示すような従来構造のECDにおいては、コレクタ電極22とガス導入孔24とがセル筒25の中心軸上に同軸に配置されているので、ガス導入孔24から流入する被検ガスは直接コレクタ電極22に接触しながら上方に向かって流れるので、コレクタ電極22は被検ガス中の重質試料成分が付着することにより汚染されやすい。コレクタ電極22が汚染されると、感度低下、ノイズ増加、ピーク異常等の障害が生じるので、適時に洗浄等のメンテナンスを行う必要があった。しかし、放射線源21を内蔵するECDの洗浄には法規制もあり、その作業は時間、手間、費用の掛かるものであった。このため、コレクタ電極22が汚染されにくい構造のECDが要望されており、例えば前掲の特許文献1では、コレクタ電極を中空円筒状として、被検ガスが直接電極面に接触することなくセル室内を通過するように工夫したECDが提唱されている。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来のECDの基本構造を大きく変更することなく、コレクタ電極の汚染の可能性を極力低減するECDを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、従来と同様の棒状コレクタ電極を用いて、セル室へのガス導入孔とコレクタ電極とを適切な関係位置に配置することにより、コレクタ電極の汚染の可能性を極力低減するようにしたものである。即ち、本発明装置は、セル室に被検ガスを導入するガス導入孔の中心軸の延長線がセル室内に向けて突設されたコレクタ電極と交わることのない関係位置に前記ガス導入孔と前記コレクタ電極とを配設することを特徴とするECDである。
このように構成することにより、底部のガス導入孔からセル室内に流入するガスの流れがコレクタ電極に直接接触することが避けられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記のように構成されているので、電極の汚染が少なく、長期にわたって安定した性能を維持することが可能となり、洗浄や交換に要する保守コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す図である。
【図3】従来の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明が提供するECDの特徴は、セル室に被検ガスを導入するガス導入孔の中心軸の延長線がセル室内に向けて突設されたコレクタ電極と交わることのない関係位置に前記ガス導入孔と前記コレクタ電極とを配設するように構成した点にある。
従って、最良の形態の基本的な構成は、このような構成を備えるECDである。
【0012】
図1に本発明の一実施例を示す。同図においては構成要素は図3と同一であるから同符号を付すことで再度の説明を省く。
本実施例が図3に示す従来例と相違する点は、コレクタ電極22がセル筒25の中心軸cに対して偏心した位置に設けられていることである。一方、底部のガス導入孔24は中心軸c上にあるから、セル室23に流入する被検ガスはコレクタ電極22に直接接触することはない。ガスの流れは乱流や拡散を伴うから、被検ガスの一部はコレクタ電極22に接触するが、従来のようにコレクタ電極22が直接的に被検ガスの流れに曝される場合に比べて汚染の程度は少ない。
本実施例は従来のECDと同一の部品を用いて、コレクタ電極22の位置を少し変えるだけで実施できることが利点である。
【0013】
図2に本発明の他の2つの実施例を示す。
図2(A)は、コレクタ電極22を従来同様にセル筒25の中心軸c上に設け、その代わりに複数個のガス導入孔24を中心軸cから偏心させて設けた例である。このような構成により、ガス導入孔24から流入する被検ガスはガス導入孔24の中心軸の延長線aに沿って上方に流れるから、直接的にコレクタ電極22に接触することがなく、図1の場合と同様の効果が得られる。しかも、図1の場合に比べて、コレクタ電極22がセル室23の中心に位置するため、セル室23内の電位分布に歪みを生じない利点がある。
【0014】
図2(B)は、コレクタ電極22を従来同様にセル筒25の中心軸c上に設け、傾斜させた複数個のガス導入孔24を中心軸cに近い位置に設けた例である。この場合、ガス導入孔24の中心軸の延長線aがコレクタ電極22と交わらないように傾斜角度を定める。
このように構成することで、ガス導入孔24から流入する被検ガスは、ガス導入孔24の中心軸の延長線aに沿ってコレクタ電極22を避けて斜め上方に流れ、コレクタ電極22に直接接触することはないから、図1または図2(A)の場合と同様の効果が得られ、且つ、図2(A)の場合と同様にセル室23内の電位分布に歪みを生じない利点を有する。本実施例は、セル室23の底部に十分なスペースが無い場合に有効である。
【0015】
なお、図2(A)、(B)に示す実施例は、いずれも複数個のガス導入孔24を設けるものとしたが、コレクタ電極22の周りのガスの流れを均等化することを特に重視する必要がない場合は、ガス導入孔24は1つだけでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明はガスクロマトグラフ用のECDに利用できる。
【符号の説明】
【0017】
21 放射線源
22 コレクタ電極
23 セル室
24 ガス導入孔
25 セル筒
26 接続部
27 メイクアップガス流路
28 排気口
29 カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放射線源を有するセル室の頂部から前記セル室内に向けて棒状のコレクタ電極が突設されると共に、ガスクロマトグラフカラムから流出するガスを前記セル室に導入するガス導入孔が前記セル室の底部に穿設されて成るエレクトロンキャプチャ検出器において、前記ガス導入孔の中心軸の延長線が前記コレクタ電極と交わることのない関係位置に前記ガス導入孔と前記コレクタ電極とが配設されていることを特徴とするエレクトロンキャプチャ検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−236928(P2009−236928A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166258(P2009−166258)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3126819号
【原出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】