説明

エレベータのロープ回転防止拘束治具

【課題】如何なる形式のロープ式エレベータにあっても、主ロープの回転防止作業をかご上から行うことができるエレベータのロープ回転防止拘束治具の提供。
【解決手段】本発明は、エレベータのかご4とカウンタウエイト5を懸架する主ロープ3に取り付けられ、複数本の主ロープ3が挿通される長穴10eを有し、横断面がロの字状を形成する枠体10と、複数本の主ロープ3が収容される空間部14aと、枠体10に載置可能な突出部14bを有し、鉛直方向、及び長穴10eの長手方向に変位可能な横断面がコの字状を形成する本体部14と、この本体部14との間で主ロープ3を挟む方向に変位可能に枠体10に支持される拘束板15と、本体部14に係合支持され、螺子穴16bを有する反力受け板16と、この反力受け板16の螺子穴16bに螺合し、拘束板15を主ロープ3の方向に押圧する螺子17とを備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのかごとカウンタウエイトを懸架する複数本の主ロープの軸心を中心とした回転を防止するエレベータのロープ回転防止拘束治具に関する。
【背景技術】
【0002】
図6はロープ式エレベータの第1形式を示す図、図7はロープ式エレベータの第2形式を示す図である。
【0003】
一般的な1:1ローピングエレベータは、図6に示すように、トラクションシーブ1、及びそらせシーブ2に巻き掛けた主ロープ3によって、かご4とカウンタウエイト5を釣瓶状に懸架している。すなわち、主ロープ3の一端3aはかご4に取り付けられ、主ロープ3の他端3bはカウンタウエイト5に取り付けられている。また、一般的な2:1ローピングエレベータは、図7に示すように、かご側シーブ4a及びカウンタウエイト側シーブ5aを介して、かご4とカウンタウエイト5を懸架し、主ロープ3の一端3a、及び他端3bのそれぞれがマシンビーム6に取り付けられている。
【0004】
ところでロープ式エレベータにあっては、主ロープ3が複数本設けられているが、経年的にそれらの張力に偏差が生じることが知られている。この偏差は主ロープ3の磨耗劣化を促進させるものである。このようなことから、定期的に各主ロープ3の張力を一定とする調整作業が必要であった。この主ロープ3の張力調整作業に際し、各主ロープ3が軸心を中心に回転すると、その張力に変化を生じてしまう。したがって、各主ロープ3が相互に回転しないようにする必要がある。
【0005】
このような主ロープ3の回転を防止するものとして、特許文献1にエレベータのシャックルロッド回転防止構造が提案されている。この従来技術は、複数本の主ロープのうち、1本の先端部分を延設させて各シャックルロッドに挿通させ、その曲げ剛性を利用してシャックルロッドの回転、すなわち主ロープの回転を防止するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−188315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1に示される従来技術は、エレベータの形式が2:1ローピングエレベータである場合に問題がある。すなわち、主ロープの端部となるシャックルロッドが昇降路頂部に位置することから、かご上からシャックルロッド防止構造を形成させる作業を行う場合に、シャックルロッドに手が届かないことが起こり得る。このようなときには、上述した従来技術を採用することができない。
【0008】
なお、特許文献1に示される従来技術を、エレベータの据え付け時から常設させることを考えた場合、主ロープの経年的な伸びやロープテンションの経年的なばらつきが発生してシャックルロッド回転防止構造を取り外すことが必要となったときに、その取り外し作業が困難となりやすい。
【0009】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、如何なる形式のロープ式エレベータにあっても、主ロープの回転防止作業をかご上から行うことができるエレベータのロープ回転防止拘束治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、エレベータのかごとカウンタウエイトを懸架する複数本の主ロープの相互の回転を防止するエレベータのロープ回転防止拘束治具において、前記主ロープに取り付けられ、前記複数本の主ロープが挿通される長穴を有し、横断面がロの字状を形成する枠体と、前記複数本の主ロープ毎に設けられ、前記主ロープが収容される空間部と、前記枠体に載置可能な突出部を有し、前記枠体の前記長穴を形成する側面と摺接して鉛直方向、及び前記長穴の長手方向に変位可能な横断面がコの字状を形成する本体部と、この本体部との間で前記主ロープを挟む方向に変位可能に前記本体部に支持される拘束板と、前記本体部に係合するとともに、前記本体部に支持され、螺子穴を有する反力受け板と、この反力受け板の前記螺子穴に螺合し、前記拘束板を前記主ロープの方向に押圧する螺子とを備えたことを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明を設置するに際しては、例えば、主ロープ毎に設けられる本体部のそれぞれの空間部に該当する主ロープを収容させ、それぞれの主ロープを、本体部との間で挟むように拘束板のそれぞれを該当する本体部に支持させる。さらに、反力受け板のそれぞれを、該当する本体部に係合させて、本体部に支持させる。この状態で反力受け板のそれぞれの螺子穴に螺子を螺合させ、この螺子によって拘束板を主ロープの方向に押圧する。これにより、主ロープのそれぞれは、この主ロープ毎に設けられる本体部と拘束板とによって把持される。また、それぞれの本体部を枠体の長穴内に配置して、この本体部の突出部を枠体に載置させるようにした状態で、枠体を主ロープに取り付けるようにする。このようにして行う作業は、ロープ式エレベータの形式の如何に拘わらず、かご上の手の届く範囲で実施することができる。
【0012】
このように主ロープに取り付けられる本発明は、主ロープの張力調整時には、枠体に対して本体部が上方向に、あるいは枠体10の長穴10eの長手方向に摺動することにより許容させることができる。また、主ロープの軸心を中心とする回転は、拘束板との間で主ロープを把持している本体部の回転が、枠体の長穴を形成している側面によって規制されることにより阻止される。すなわち本発明は、如何なる形式のロープ式エレベータにあっても、主ロープの回転防止をかご上からの作業によって実現させることができる。
【0013】
また本発明は前記発明において、前記枠体を解体可能に形成し、前記拘束板及び前記反力受け板のそれぞれの形状を、これらの上部が前記本体部の上端面に係止されるTの字状に形成したことを特徴としている。
【0014】
また本発明は、前記発明において、前記枠体の上方に位置する主ロープ部分に固定される固定部材と、この固定部材と前記枠体とを連結し、前記枠体を前記主ロープに吊持させる索状体とを備えたことを特徴としている。
【0015】
また本発明は、前記発明において、前記本体部は、その内側面の上下方向に沿って、前記反力受け板の側端部が係合する溝部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、エレベータのかごとカウンタウエイトを懸架する主ロープに取り付けられ、複数本の主ロープが挿通される長穴を有し、横断面がロの字状を形成する枠体と、複数本の主ロープ毎に設けられ、主ロープが収容される空間部と、枠体に載置可能な突出部を有し、枠体の長穴を形成する側面と摺接して鉛直方向、及び長穴の長手方向に変位可能な横断面がコの字状を形成する本体部と、この本体部との間で主ロープを挟む方向に変位可能に枠体に支持される拘束板と、本体部に係合するとともに、本体部に支持され、螺子穴を有する反力受け板と、この反力受け板の螺子穴に螺合し、拘束板を主ロープの方向に押圧する螺子とを備えた構成にしてある。この構成により本発明は、2:1ローピングエレベータを含む如何なる形式のロープ式エレベータにあっても、主ロープの回転防止作業をかご上から行うことができる。これにより本発明は、従来技術に比べて大きな汎用性を確保でき、実用性に優れたエレベータのロープ回転防止拘束治具を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るエレベータのロープ回転防止拘束治具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に備えられる枠体を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に備えられる本体部を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に備えられる拘束板を示す斜視図である。
【図5】本実施形態に備えられる反力受け板を示す斜視図である。
【図6】ロープ式エレベータの第1形式を示す図である。
【図7】ロープ式エレベータの第2形式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るエレベータのロープ回転防止拘束治具の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係るエレベータのロープ回転防止拘束治具の一実施形態を示す斜視図、図2は本実施形態に備えられる枠体を示す斜視図、図3は本実施形態に備えられる本体部を示す斜視図、図4は本実施形態に備えられる拘束板を示す斜視図、図5は本実施形態に備えられる反力受け板を示す斜視図である。
【0020】
本実施形態に係るロープ回転防止拘束治具は、前述した図6,7に示すように、ロープ式エレベータに備えられるものであり、同図6,7に示すように、エレベータのかご4とカウンタウエイト5を懸架する複数本の主ロープ3の相互の回転を防止するものである。
【0021】
本実施形態は、図1,2に示すように、主ロープ3に取り付けられ、複数本の主ロープ3が挿通される長穴10eを有し、横断面がロの字状を形成する枠体10を備えている。この枠体10は、互いに対向する第1長尺部材10a、第2長尺部材10bと、例えば第2長尺部材10bの両端のそれぞれに配置され、この第2長尺部材10bと一体に設けられる第1短尺部材10c、第2短尺部材10dとから成っている。第1長尺部材10aは、例えば第2短尺部材10dに取り付けられる支軸10fを中心に回転可能に設けられ、螺子11によって第1短尺部材10cに締結される。螺子11を緩めて取り外すことにより、第1長尺部材10aを支軸10fを中心に上下方向に回動させることができ、枠体10を解体することができる。
【0022】
また本実施形態は、枠体10の上方に位置する主ロープ3部分に固定される一対の固定部材12と、これらの固定部材12と枠体10の第1,第2短尺部材10c,10dの該当するものとを連結し、枠体10を主ロープ3に吊持させる索状体13とを備えている。
【0023】
また本実施形態は、図1,3に示すように、複数本の主ロープ3毎に設けられ、主ロープ3が収容される空間部14aと、枠体10に載置可能な突出部14bを有し、枠体10の長穴10eを形成する第1長尺部材10a、第2長尺部材10bのそれぞれの内側面と摺接して鉛直方向、及び長穴10eの長手方向に変位可能な横断面がコの字状を形成する本体部14を備えている。この本体部14の突出部14bの下端に形成される段部14cが、第1長尺部材10aの上端面に載置可能となっており、段部14cよりも下方部分14bが枠体10の下端面からさらに下方に延設されている。また、本体部14の互いに対向する内側面のそれぞれには、上下方向に沿って溝部14fを形成してある。
【0024】
また本実施形態は、図1,4に示すように、本体部14との間で主ロープ3を挟む方向に変位可能に本体部14に支持される拘束板15と、図1,5に示すように、両側端部のそれぞれが本体部14に形成した前述の溝部14fに係合するとともに、本体部14に支持され、上下方向に沿って複数形成された螺子穴16bを有する反力受け板16と、この反力受け板16の螺子穴16bのそれぞれに螺合し、拘束板15を主ロープ3の方向に押圧する複数の螺子17とを備えている。図4,5に示すように、拘束板15及び反力受け板16のそれぞれの形状は、これらの上部15a,16aのそれぞれが、図3に示す本体部14の上端面14eに係止されるTの字状に形成してある。
【0025】
前述のように構成される本実施形態を設置するに際しては、例えば主ロープ3のそれぞれ毎に、本体部14の空間部14aに該当する主ロープ3を収容させる。この状態で、それぞれの主ロープ3を、本体部14との間で挟むように拘束板15のそれぞれの上部15aを該当する本体部14の上端面14eに係止させて、本体部14に支持させる。
【0026】
さらに、反力受け板16の両側端部のそれぞれを、該当する本体部14の溝部14fに係合させるように上方から押し込み、反力受け板16のそれぞれの上部16aを該当する本体部14の上端面14eに係止させて、本体部14に支持させる。
【0027】
この状態で反力受け板16のそれぞれの螺子穴16bに螺子17を螺合させ、この螺子17によって拘束板15を主ロープ3の方向に押圧する。これにより、主ロープ3のそれぞれは、この主ロープ3毎に設けられる本体部14と拘束板15とによって把持される。
【0028】
一方、枠体10の第1長尺部材10aを第1短尺部材10cに固定する螺子11が取り外され、第1長尺部材10aが垂れ下がっている状態で、複数の主ロープ3を囲うように装着させ、第1長尺部材10aを支軸10fを中心に回動させて、第1長尺部材10aの端部を第1短尺部材10cに適合させ、螺子11によって第1長尺部材10aを第1短尺部材10cに固定する。これにより、枠体10が形成され、この枠体10の長穴10e内に複数の主ロープ3が挿通された状態となる。
【0029】
ここで、それぞれの本体部14を枠体10の長穴10e内に配置して、この本体部14の突出部14bを枠体10に載置させるようにした状態で、索状体13によって枠体10に取り付けられている固定部材12を、枠体10の上方に位置する主ロープ3部分に固定する。これにより、枠体10は索状体13を介して懸垂された状態に保持される。
【0030】
このようにして行う作業は、ロープ式エレベータの形式の如何に拘わらず、かご上の手の届く範囲で実施することができる。すなわち本実施形態は、前述した図6に示す1:1ローピングエレベータにあっても、また2:1ローピングエレベータにあっても適用させることができる。
【0031】
前述のようにして主ロープ3に取り付けられる本実施形態は、主ロープ3の張力調整時には、枠体10に対して本体部14が上方向に、あるいは枠体10の長穴10eの長手方向に摺動することによって許容させることができる。また、主ロープ3の軸心を中心とする回転は、拘束板15との間で主ロープ3を把持している本体部14の回転が、枠体10の長穴10eを形成している内側面に規制されることにより阻止される。したがって、精度の高い主ロープ3の張力調整作業を実施できる。
【0032】
前述したように本実施形態によれば、2:1ローピングエレベータを含む如何なる形式のロープ式エレベータであっても、主ロープ3の回転防止作業をかご上から行うことができる。これにより本実施形態は、大きな汎用性を確保でき、実用性に優れている。
【0033】
なお本実施形態を、該当するエレベータの据え付け時から常設させるようにしてもよい。このように常設した場合、主ロープ3の経年的な伸びやテープテンションの経年的なばらつきが発生したとき、あるいは本体部14、拘束板15、反力受け板16等を新しいものに交換することが必要になったときには例えば、ねじ11を緩めて取り外し、枠体10の第1長尺部材10aを下方に回動させた状態にし、枠体10を主ロープ3に固定していた固定部材12のそれぞれを、枠体10とともに主ロープ3のそれぞれから取り外す。また、ねじ17を緩めて反力受け板16を上方から抜き取り、さらに拘束板15を抜き取って、本体部14のそれぞれを主ロープ3から取り外す。このようにして、本実施形態を主ロープ3から容易に取り外すことができる。
【符号の説明】
【0034】
3 主ロープ
4 かご
5 カウンタウエイト
10 枠体
10a 第1長尺部材
10b 第2長尺部材
10c 第1短尺部材
10d 第2短尺部材
10e 長穴
10f 支軸
11 螺子
12 固定部材
13 索状体
14 本体部
14a 空間部
14b 突出部
14c 段部
14d 下方部分
14e 上端面
14f 溝部
15 拘束板
15a 上部
16 反力受け板
16a 上部
16b 螺子穴
17 螺子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかごとカウンタウエイトを懸架する複数本の主ロープの相互の回転を防止するエレベータのロープ回転防止拘束治具において、
前記主ロープに取り付けられ、前記複数本の主ロープが挿通される長穴を有し、横断面がロの字状を形成する枠体と、
前記複数本の主ロープ毎に設けられ、前記主ロープが収容される空間部と、前記枠体に載置可能な突出部を有し、前記枠体の前記長穴を形成する側面と摺接して鉛直方向、及び前記長穴の長手方向に変位可能な横断面がコの字状を形成する本体部と、
この本体部との間で前記主ロープを挟む方向に変位可能に前記本体部に支持される拘束板と、
前記本体部に係合するとともに、前記本体部に支持され、螺子穴を有する反力受け板と、
この反力受け板の前記螺子穴に螺合し、前記拘束板を前記主ロープの方向に押圧する螺子とを備えたことを特徴とするエレベータのロープ回転防止拘束治具。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータのロープ回転防止拘束治具において、
前記枠体を解体可能に形成し、前記拘束板及び前記反力受け板のそれぞれの形状を、これらの上部が前記本体部の上端面に係止されるTの字状に形成したことを特徴とするエレベータのロープ回転防止拘束治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータのロープ回転防止拘束治具において、
前記枠体の上方に位置する主ロープ部分に固定される固定部材と、
この固定部材と前記枠体とを連結し、前記枠体を前記主ロープに吊持させる索状体とを備えたことを特徴とするエレベータのロープ回転防止拘束治具。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエレベータのロープ回転防止拘束治具において、
前記本体部は、その内側面の上下方向に沿って、前記反力受け板の側端部が係合する溝部を有することを特徴とするエレベータのロープ回転防止拘束治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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