説明

エレベータの地震管制運転装置

【課題】最適な運転領域設定を可能とし、更に、コスト的にも有利なエレベータの地震管制運転装置を提供すること。
【解決手段】地震感知器1は、5ガル以上の加速度を検出すると地震感知信号を出力する。運転領域判別手段12は、加速度検出器10から入力した加速度検出信号を波形分析し、その加速度が115ガルであることを検出すると、これが運転領域設定手段11で設定されている運転領域R1,R2,R3のいずれに該当するかを判別し、この判別結果を運転制御手段5に出力する。運転制御手段5は、これら地震感知器1の感知結果、及び運転領域判別手段12の判別結果に基づき、巻上機6に対する制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの地震管制運転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のエレベータシステムの多くは地震管制運転装置を具備しており、地震発生の際はその管制運転機能に基づいて乗りかごを自動的に最寄り階に停止させ、乗客がかご外へ脱出できるようにしている。そして、比較的小さな地震の場合は、管制運転実行後にシステムが自動的に安全を確認した後に通常運転を再開するようになっている(以下、この場合の管制運転を「自動復旧管制運転」と呼ぶ)。また、一定レベル以上の大きな地震の場合は、安全上問題がないかどうかにつき保守作業員が現場で実際に確認した後に手動で通常運転を再開するようになっている(以下、この場合の管制運転を「手動復旧管制運転」と呼ぶ)。
【0003】
そして、通常運転から管制運転に切り換えるか否か、更に、その管制運転を自動復旧管制運転又は手動復旧管制運転のいずれにするか等についての判別は、建物に設置された地震感知器の感知結果に基づき行われている。この地震感知器は高価なものであるため、極力その設置個数を低減させるシステム構成も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ところで、特許文献1には詳しく開示されていないが、この種の地震管制運転装置は、通常、低階床位置に地震感知の閾値が低く設定されている第1の地震感知器と、高階床位置に地震感知の閾値が高く設定されている第2及び第3の地震感知器とを有している。
【0005】
図4は、このような第1乃至第3の地震感知器を備えた従来のエレベータの地震管制運転装置の構成図である。この図において、第1の地震感知器1は、1階又は地下階などの低階床位置に設置されており、第2及び第3の地震感知器2,3は、最上階又はその上方の機械室などの高階床位置に設置されている。
【0006】
エレベータ制御装置4は、機械室が設けられているタイプのエレベータシステムでは機械室内部に設置され、また機械室が設けられていないタイプのエレベータシステムでは特定階床の乗場又は昇降路などの所定個所に設置されている。
【0007】
エレベータ制御装置4は運転制御手段5を有しており、地震発生時にはこの運転制御手段5が第1乃至第3の地震感知器1〜3からの地震感知信号の有無に基づいて巻上機5を制御するようになっている。
【0008】
巻上機6にはメインロープ7が巻回されており、このメインロープ7の一端側及び他端側にはそれぞれ乗りかご8及びカウンタウェイト9が取り付けられている。そして、巻上機6は運転制御手段5により制御され、これにより乗りかご8及びカウンタウェイト9は昇降路内を互いに逆方向に移動するようになっている。
【0009】
第1乃至第3の地震感知器1〜3は、建物が振動した際に検出した最大加速度(単位はガル[Gal])の値が、建物の高さ又は建物の固有振動数に応じて設定してある閾値を超えた場合に地震感知信号を出力するようになっている。図4の構成では、例えば、建物高さを80mとし、この建物高さに応じて第1の地震感知器1の閾値が5ガルに設定され、また、第2及び第3の地震感知器2,3の閾値がそれぞれ40ガル,80ガルに設定されているものとする。
【0010】
第1の地震感知器1の閾値よりも第2及び第3の地震感知器2,3の閾値の方がかなり大きく設定されているのは、地震発生時の建物の振動や揺れは低階床位置よりも高階床位置の方が激しいからである。そして、第2の第2の地震感知器2が地震を感知すると自動復旧管制運転が行われ、第3の地震感知器3が地震を感知すると手動復旧管制運転が行われるようになっている。
【0011】
次に、図4の動作につき説明する。軽微な地震であって第1乃至第3の地震感知器1〜3のいずれも地震感知信号を出力しない場合(つまり、地震感知器1〜3の検出した加速度がそれぞれ5ガル、40ガル、80ガルを下回っている場合)、運転制御手段5は巻上機6に対して通常運転の制御を行う。
【0012】
しかし、ある程度大きな地震であって第1の地震感知器1又は第2の地震感知器2のいずれか一方が地震感知信号を出力し、第3の地震感知器3が地震感知信号を出力しない場合(つまり、地震感知器1が5ガル以上の加速度を検出したか、あるいは地震感知器2が40ガル以上の加速度を検出した場合であって、且つ地震感知器3が80ガル以上の加速度を検出していない場合)、運転制御手段5は巻上機6に対して自動復旧管制運転を行う。
【0013】
また、かなり大きな地震であり第1乃至第3の地震感知器1〜3の全てが地震感知信号を出力した場合(つまり、地震感知器1〜3の検出した加速度がそれぞれ5ガル、40ガル、80ガル以上である場合)、運転制御手段5は巻上機6に対して手動復旧管制運転を行う。
【特許文献1】特開平8−301544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、第1乃至第3の地震感知器1〜3の動作原理は、上述したように、建物が振動した際に検出した最大加速度の値が予め設定してある閾値を超えた場合に地震感知信号を出力する、というものである。つまり、この地震感知信号によって得られる情報は、単に、地震の大きさが一定レベルを超えたものであるか否かという2値情報にすぎず、地震の大きさの程度を具体的数値で示した情報ではない。
【0015】
したがって、発生した地震の大きさについて詳しい情報を得るためには、異なる閾値が設定された複数台の地震感知器を用いる必要がある。上述した地震管制運転装置の例では、第2及び第3の地震感知器2,3という少なくとも2種類の地震感知器を高階床位置に設置しなければならず、これらからの地震感知信号の有無に基づき、自動復旧管制運転又は手動復旧管制運転のうちのいずれの管制運転を行うのかを決定するようにしている。
【0016】
また、従来の地震管制運転装置の場合、地震感知器メーカー側の立場としては2種類だけの地震感知器を製作すればよいというわけではなく、建物高さに応じて閾値を変えなければならず、更に建物の固有振動数の相違についても考慮しなければならないために、一層多くの種類の地震感知器を標準仕様タイプとして揃えておく必要がある。
【0017】
そして一方、エレベータメーカー側では、自動復旧管制運転レベルの領域や手動復旧管制運転レベルの領域の大きさを設定する場合、建物高さや固有振動数を考慮の上、上記の標準仕様タイプの地震感知器の中から使用する地震感知器を選択しなければならなかった。
【0018】
図5は、例えば5つの種類の地震感知器を用いて設定される建物高さ毎の運転領域を示した説明図である。この図に示すように、運転領域は通常運転領域R1、自動復旧管制運転領域R2、手動復旧管制運転領域R3の3つの領域により形成されている。この図によれば、60m以下の高さの建物では閾値が80ガル及び150ガルの2つの種類の地震感知器を用いなければならないことが分かる。また、60m〜120mの高さの建物では閾値が40ガル及び80ガルの2つの種類の地震感知器を用い、120m以上の高さの建物では閾値が30ガル及び60ガルの2つの種類の地震感知器を用いなければならないことが分かる。
【0019】
しかし、図5から明らかなように、建物高さが60mを超えると手動復旧管制運転領域R3がステップ的に大きく増加し、代わりに自動復旧管制運転領域R2及び通常運転領域R1がステップ的に大幅に減少している。つまり、本来であれば、例えば、建物高さが80mの場合、加速度が120ガル程度を超えたあたりの地点から手動復旧管制運転領域とするのが理想的な設定であったとしても、地震感知器メーカーが標準仕様としてそのような閾値の地震感知器を製作していないために、エレベータメーカーではやむを得ず図4に示すように、必要以上に安全側に大きく余裕を取った領域設定とせざるを得なかったのである。
【0020】
このように、従来の地震管制運転装置は、地震感知器メーカーの標準仕様の中から建物に設置する地震感知器を選択しなければならないために最適な運転領域設定を行うことができず、また、このような地震感知器を少なくとも2個以上は用いなければならないためにコスト的にも満足のいくものではなかった。
【0021】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、最適な運転領域設定を可能とし、更に、コスト的にも有利なエレベータの地震管制運転装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明は、建物の低階床位置に設置され、設定レベル以上の大きさの地震が発生したことを感知する地震感知器と、建物の高階床位置に設置され、加速度検出信号を出力する加速度検出器と、通常運転を行う通常運転領域、地震管制運転及びその後の自動復旧を行う自動復旧管制運転領域、地震管制運転及びその後の手動復旧を行う手動復旧管制運転領域を少なくとも含む複数運転領域を加速度検出レベルに応じて設定可能な運転領域設定手段と、前記加速度検出器からの加速度検出信号のレベルが、前記運転領域設定手段が設定した複数運転領域のうちのいずれに該当するかを判別する運転領域判別手段と、前記地震感知器の感知結果及び前記運転領域判別手段の判別結果に基づき、通常運転、自動復旧管制運転、手動復旧管制運転のうちのいずれかの制御を行う運転制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記運転領域判別手段が前記判別の際に用いる加速度検出信号のレベルは、前記加速度検出器からの加速度検出信号を波形分析することにより求めた振幅最大値である、ことを特徴とする。
【0024】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記運転領域設定手段は、前記複数運転領域を、前記加速度検出レベルの他に、建物高さ又は建物固有振動数に応じても設定可能なものである、ことを特徴とする。
【0025】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記運転領域設定手段はネットワークを介してエレベータ監視センターの監視装置に接続されており、前記複数運転領域はこの監視装置からの操作により可変可能になっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、最適な運転領域設定を可能とし、更に、コスト的にも有利なエレベータの地震管制運転装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の実施形態の構成図である。図1の構成が図4の構成と異なる主な点は、図4における2台の地震感知器2,3の代わりに1台の加速度検出器10を設置し、また、エレベータ制御装置4Aが運転制御手段5の他に運転領域設定手段11及び運転領域判別手段12を有している点である。
【0028】
図4における地震感知器2,3は、検出した加速度が40ガル又は80ガル以上であるか否かという判断を行い、その判断結果としての地震感知信号を出力するものであった。これに対し、図1における加速度検出器10は、検出した加速度そのものである加速度検出信号を出力するものである。そして、運転領域判別手段12は、加速度検出器10から入力した加速度検出信号について波形分析(周波数分析)を行なって振幅最大値を求め、この振幅最大値が運転領域設定手段11の設定した複数運転領域のいずれに該当するのかを判別するようになっている。
【0029】
運転領域設定手段11は、前述した通常運転領域R1、自動復旧管制運転領域R2、及び手動復旧管制運転領域R3についての領域設定を建物高さ又は固有振動数に応じて設定するものである。図4の従来構成では、コスト的な観点から地震感知器メーカーの標準仕様タイプを極力採用しなければならないという制約があったために、エレベータメーカーの設計者は必ずしも最適な運転領域を設定するのが困難な面があった。しかし、図1の構成では、エレベータメーカーの設計者は設計仕様上最適とされる運転領域を自由に設定することができる。運転領域設定手段11が予め設定する各運転領域は、このような設計仕様上最適とされるものである。
【0030】
図2は、建物高さが80mの場合に設定される本発明の運転領域と、従来の運転領域とを比較して示した説明図である。図2(a)では、建物高さが80mの場合に、固有振動数等の技術的条件のみを考慮して最適とされた55ガル及び120ガルを閾値として各運転領域R1〜R3を設定することが可能である。これに対し、図2(b)では、地震感知器メーカーの標準仕様タイプを用いなければならないという経済的条件が加味されているため、不必要に安全側に偏った40ガル及び80ガルが閾値として採用されている。
【0031】
次に、図1の動作につき説明する。いま地震が発生し、地震感知器1が5ガル以上の加速度を検出し地震感知信号を運転制御手段5に出力したとする。また、運転領域判別手段12は加速度検出器10から入力した加速度検出信号を波形分析し、その加速度が115ガルであることを検出したとする。
【0032】
運転領域判別手段12はこの検出した加速度115ガルが運転領域設定手段11で設定されている運転領域R1,R2,R3のいずれに該当するかを判別する。図2(a)によれば、加速度115ガルは自動復旧管制運転領域R2に該当することが分かるので、運転領域判別手段12は、この判別結果を運転制御手段5に出力する。
【0033】
運転制御手段5は、地震感知器1の感知結果、及び運転領域判別手段12の判別結果に基づき、いま行うべき運転は自動復旧管制運転であることを認識し、巻上機6に対して自動復旧管制運転の制御を実行する。これに対し、図4の従来装置では、図2(b)の運転領域設定からも明らかなように、手動復旧管制運転の制御が実行されることになる。
【0034】
図3は、図1における運転領域設定手段11で設定される建物高さ毎の運転領域を示した説明図である。従来用いられていた図5の説明図と対比すれば明らかなように、各運転領域を画成する閾値はなだらかに変化する曲線により形成されており、ステップ的に大きく変化することはない。したがって、このように設定された運転領域に基づいて、運転制御手段5は建物高さ又は固有振動数に正しく対応した運転制御を実行することができる。これは、地震感知器メーカーの標準仕様にとらわれることなく、加速度検出器10を用いて任意の加速度を検出可能な構成としたことにより得られる効果である。
【0035】
上記のように、図1の構成によれば、従来用いられていた地震感知器の代わりに加速度検出器10を用いており、地震感知器メーカーの標準仕様タイプを用いなければならないなどという経済的条件を考慮する必要がなくなるので、建物の高さや固有振動数に応じた最適な運転領域を設定することができる。
【0036】
また、従来は建物の高階床位置に少なくとも2台の地震感知器を設置する必要があったが、図1の構成では1台の加速度検出器10で足りるためコスト的にも有利なものとなる。
【0037】
なお、上記実施形態では、運転領域数が3つの場合につき説明したが、自動復旧管制運転や手動復旧管制運転の内容を更に細分化する(例えば、乗りかご8の走行速度を検出した加速度に応じて可変する)ことも可能であり、その場合にも加速度検出器10は1個で足りる。
【0038】
また、運転領域設定手段11に設定された各運転領域の変更・調整(つまり閾値の変更・調整)は、メンテナンス等の際に建物内に設置されたエレベータ制御装置4Aの扉を開放して行うことが可能であるが、この運転領域設定手段11をネットワークを介してエレベータ監視センターの監視装置に接続し、この監視装置からの遠隔操作により行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係るエレベータの地震管制運転装置の構成図。
【図2】本発明の運転領域と、従来の運転領域とを比較して示した説明図。
【図3】図1における運転領域設定手段で設定される建物高さ毎の運転領域を示した説明図。
【図4】従来のエレベータの地震管制運転装置の構成図。
【図5】従来装置において設定される建物高さ毎の運転領域を示した説明図。
【符号の説明】
【0040】
1:地震感知器
4A:エレベータ制御装置
5:運転制御手段
6:巻上機
7:メインロープ
8:乗りかご
9:カウンタウェイト
10:加速度検出器
11:運転領域設定手段
12:運転領域判別手段
R1:通常運転領域
R2:自動復旧管制運転領域
R3:手動復旧管制運転領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の低階床位置に設置され、設定レベル以上の大きさの地震が発生したことを感知する地震感知器と、
建物の高階床位置に設置され、加速度検出信号を出力する加速度検出器と、
通常運転を行う通常運転領域、地震管制運転及びその後の自動復旧を行う自動復旧管制運転領域、地震管制運転及びその後の手動復旧を行う手動復旧管制運転領域を少なくとも含む複数運転領域を加速度検出レベルに応じて設定可能な運転領域設定手段と、
前記加速度検出器からの加速度検出信号のレベルが、前記運転領域設定手段が設定した複数運転領域のうちのいずれに該当するかを判別する運転領域判別手段と、
前記地震感知器の感知結果及び前記運転領域判別手段の判別結果に基づき、通常運転、自動復旧管制運転、手動復旧管制運転のうちのいずれかの制御を行う運転制御手段と、
を備えたことを特徴とするエレベータの地震管制運転装置。
【請求項2】
前記運転領域判別手段が前記判別の際に用いる加速度検出信号のレベルは、前記加速度検出器からの加速度検出信号を波形分析することにより求めた振幅最大値である、
ことを特徴とする請求項1記載のエレベータの地震管制運転装置。
【請求項3】
前記運転領域設定手段は、前記複数運転領域を、前記加速度検出レベルの他に、建物高さ又は建物固有振動数に応じても設定可能なものである、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のエレベータの地震管制運転装置。
【請求項4】
前記運転領域設定手段はネットワークを介してエレベータ監視センターの監視装置に接続されており、前記複数運転領域はこの監視装置からの操作により可変可能になっている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータの地震管制運転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−37565(P2008−37565A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213092(P2006−213092)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】