説明

エレベータの点検用作業床装置

【課題】作業床の高さ位置を変更可能で、昇降路を下降する乗かごとの干渉を生じることなく昇降路内に収納させることができるエレベータの点検用作業床装置の提供。
【解決手段】本発明は、エレベータの昇降路1の壁面に取り付けたベース部3と、このベース部3の下部位置に形成した第1切り欠き部51、上部位置に形成した第2切り欠き部52と、第1切り欠き部51と第2切り欠き部52に選択的に係合する第1支持体5と、一端がベース部3の第1切り欠き部51と第2切り欠き部52の中間に位置する部分に連結され、他端が作業床41の支持部411に連結され、第1支持体5と協働して作業床41を水平状態に保持可能な第2支持体6とを備えた構成にしてある。また本発明は、保全設備機器2の略投影面積内に含まれるように、ベース部3、第1支持体5、第2支持体6、及び作業床41のそれぞれの形状寸法を設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの昇降路内に配置される保全設備機器の点検に際して活用される作業床を有するエレベータの点検用作業床装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの昇降路内に配置され、ピット床から手の届かない位置に設けられる保全設備機器を点検する際には、点検作業者の足場確保のために活用される作業床が必要となる。昨今、エレベータの大容量化、高速化に伴い、巻上機等の昇降路内機器の形状が大きくなりがちであり、また、昇降路の省スペース化が要望されてきている。これに応じて、複数の昇降路内に配置される保全設備機器のそれぞれを、高さ方向に沿って配置するようになってきている。このようなことから、昇降路内に設置される作業床の高さ位置を変更して、点検作業を行うことも必要になる。
【0003】
ところで、上述したような作業床の高さ位置を変更できる装置が、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示された従来技術は、ピット床上に延設される昇降はしご固定腕と、この昇降はしご固定腕の一端から立設され、昇降路の高さ方向に延設させた昇降はしご固定支柱と、下端が昇降はしご固定腕の他端に接続され、上端が昇降はしご固定支柱に接続される昇降はしごと、この昇降はしごに着脱可能に、しかも高さ位置を変えて取り付けることが可能な作業床を備えた構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−182351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術は、乗かごの下降時に乗かごと干渉する大きな形状となることから、昇降路内に配置される保全設備機器の点検作業が終了した際などにあっては、解体し、昇降路内から撤去する煩雑な作業が必要になる。これに伴って、点検作業工数が増加し、点検作業に要する費用が高くなる問題がある。
【0006】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、作業床の高さ位置を変更可能であるとともに、昇降路を下降する乗かごとの干渉を生じることなく昇降路内に収納させることができるエレベータの点検用作業床装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るエレベータの点検用作業床装置は、エレベータの昇降路の内部に設置される保全設備機器の点検に際して活用される作業床を有するエレベータの点検用作業床装置において、上記保全設備機器の下方に位置する上記昇降路の壁面に取り付けられるベース部と、上記ベース部の下部位置に形成され、上記昇降路の壁面から離れる側が開放された第1切り欠き部と、上記ベース部の上部位置に形成され、上記昇降路の壁面から離れる側が開放された第2切り欠き部と、上記第1切り欠き部及び上記第2切り欠き部の一方に選択的に係合し、上記作業床を上記昇降路内に展開させた際に上記昇降路の壁面に近づく側を形成する当該作業床の一端側に連結される第1支持体と、一端が、上記ベース部の上記第1切り欠き部と上記第2切り欠き部の中間に位置する部分に上下方向の回動が可能に連結され、他端が、上記作業床を上記昇降路内に展開させた際に上記昇降路の壁面から離れる側を形成する当該作業床の他端側に連結され、上記第1支持体と協働して上記作業床を水平状態に保持可能な第2支持体とを備え、上記昇降路内における収納時に、上記保全設備機器の略投影面積内に含まれるように、上記ベース部、上記第1支持体、上記第2支持体、及び上記作業床のそれぞれの形状寸法を設定したことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明は、エレベータの昇降路内に配置される保全設備機器の点検作業時には、例えば作業床の一端側に連結される第1支持体をベース部の下部位置に形成された第1切り欠き部に係合させるようにする。この間、第2支持体は昇降路の壁面に沿って配置されている状態からベース部との連結部を中心にわずかに上方に回動する。これにより作業床は、第1支持体と第2支持体によって低位置において水平状態に保持される。この状態で点検作業者が作業床に乗り込むことにより、昇降路内に配置された保全設備機器の手の届く範囲の低所部の点検作業を行うことができる。
【0009】
このような状態から、それまで手の届かなかった保全設備機器の高所部の点検作業を行うときには、点検作業者は一旦作業床から降り、第1支持体を第1切り欠き部から外して、第2切り欠き部に係合させるようにする。この間、第2支持体は上述の状態からさらにベース部との連結部を中心に上方に回動する。これにより作業床は、第1支持体と第2支持体によって上述の低位置よりも上方の高位置において、水平状態に保持される。この状態で点検作業者が作業床に乗り込むことにより、昇降路内に配置された保全設備機器の高所部の点検作業を行うことができる。
【0010】
なお、上述のように低位置において水平状態に保たれている作業床に対する点検作業者の乗り降り、及び高位置において水平状態に保たれている作業床に対する点検作業者の乗り降りは、例えば昇降路のピット床の床面に沿うように載置可能な折りたたみ式の脚立等を利用して行うことができる。
【0011】
また例えば、上述した保全設備機器の点検作業が終了した際などには、本発明は、第1支持体が第2切り欠き部にある場合には、第2切り欠き部から外して第1切り欠き部に戻して第1切り欠き部内で第1支持体を上方に移動させて、第1支持体が第1切り欠き部にある場合には、第1支持体をそのまま第1切り欠き部内で上方に移動させて、第2支持体を下方に回動させるか、第1支持体をそれまで係合していた第1切り欠き部、あるいは第2切り欠き部から外し、第2支持体を下方向に回動させればよい。これにより、第2支持体が昇降路の壁面に沿うようにベース部から吊り下げられるとともに、第1支持体及び作業床が、昇降路の壁面に沿うように第2支持体から吊り下げられる。したがって、ベース部、第1支持体、第2支持体、及び作業床のそれぞれが、昇降路内に配置された保全設備機器の下方に配置され、この保全設備機器の略投影面積内に収納される。
【0012】
すなわち本発明は、第1支持体の第1切り欠き部、または第2切り欠き部との係合動作と、第2支持体の回動動作とによって、作業床の高さ位置を変更可能であるとともに、収納時には、ベース部、第1支持体、第2支持体、及び作業床を保全設備機器の略投影面積内に配置でき、乗かごの下降時にこの乗かごと干渉を生じることなく昇降路内に収納させることができる。したがって、昇降路内から本発明に係る点検用作業床装置を撤去する煩雑な作業が不要となる。
【0013】
また本発明は、上記発明において、上記第1支持体は直線形状の棒体から成り、上記第2支持体は枠形状を形成する棒体から成り、上記作業床は、上記他端側の下部に、上記第2支持体が回動可能に連結する支持部を有することを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記発明において、上記作業床に着脱可能な手摺りを設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、昇降路の内部に設置される保全設備機器の下方に位置する昇降路の壁面に取り付けられるベース部と、このベース部の下部位置に形成され、昇降路の壁面から離れる側が開放された第1切り欠き部と、ベース部の上部位置に形成され、昇降路の壁面から離れる側が開放された第2切り欠き部と、第1切り欠き部及び第2切り欠き部の一方に選択的に係合し、作業床を昇降路内に展開させた際に昇降路の壁面に近づく側を形成する当該作業床の一端側に連結される第1支持体と、一端が、ベース部の第1切り欠き部と第2切り欠き部の中間に位置する部分に上下方向の回動が可能に連結され、他端が、作業床を昇降路内に展開させた際に昇降路の壁面から離れる側を形成する当該作業床の他端側に連結され、第1支持体と協働して作業床を水平状態に保持可能な第2支持体とを備えた構成にしてある。また本発明は、昇降路内における収納時に、保全設備機器の略投影面積内に含まれるように、ベース部、第1支持体、第2支持体、及び作業床のそれぞれの形状寸法を設定した構成にしてある。このような構成に伴って本発明は、作業床の高さ位置を変更可能であるとともに、昇降路内を下降する乗かごとの干渉を生じることなく昇降路内に収納させることができる。これにより本発明は、従来技術におけるような昇降路内から撤去する煩雑な作業が不要となり、従来に比べて点検作業工数を少なくし、点検作業に要する費用を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のエレベータの点検用作業床装置の一実施形態を示す図で、保全設備機器の低所部の点検作業状態を示す斜視図である。
【図2】本実施形態を示す図で、保全設備機器の高所部の点検作業状態を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の収納状態を示す側面図である。
【図4】図3に示す本実施形態の収納状態にあって、乗かごが下降した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るエレベータの点検用作業床装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0018】
図1,2に示すように、本実施形態が設けられるエレベータは、昇降路の壁面に制御盤等の保全設備機器2が取り付けられている。この保全設備機器2は、昇降路1の省スペース化等に伴って高さ方向に長い形状寸法に設定されている。
【0019】
本実施形態に係る点検用作業床装置4は、保全設備機器2の下方に位置する昇降路1の壁面に取り付けられ、一対のL形鋼から成るベース部3と、このベース部3の下部位置に形成され、昇降路1の壁面から離れる側が開放された第1切り欠き部51と、ベース部3の上部位置に形成され、昇降路1の壁面から離れる側が開放された別の第2切欠き部52とを備えている。
【0020】
また本実施形態は、第1切り欠き部51及び第2切り欠き部52の一方に選択的に係合し、同図1,2に示すように作業床41を昇降路1内に展開させた際に、昇降路1の壁面に近づく側を形成する作業床41の一端側に連結され、例えば直線形状の棒体から成る第1支持体5を備えている。
【0021】
また本実施形態は、一端が、ベース部3の第1切り欠き部51と第2切り欠き部52の中間に位置する部分、例えば第1切り欠き部51と第2切り欠き部52に対して等距離に位置する部分に、上下方向の回動が可能に連結され、他端が、作業床41を昇降路1内に展開させた際に、昇降路1の壁面から離れる側を形成する当該作業床41の他端側に連結され、第1支持体5と協働して作業床41を水平状態に保持する例えば枠形状を形成する棒体から成る第2支持体6を備えている。作業床41は、他端側の例えば下部に、第2支持体6が回動可能に連結する支持部411を備えている。また本実施形態は、作業床41に対して着脱可能な手摺り7を備えている。
【0022】
また本実施形態は、図3,4に示すように、昇降路1内における収納時に、保全設備機器2の略投影面積内に含まれるように、ベース部3、第1支持体5、第2支持体6、及び作業床41のそれぞれの形状寸法を設定してある。なお、保全設備機器2の略投影面積内とは、保全設備機器2の上方から見たときに、収納した点検用作業床装置4が保全設備機器2の下方に完全に隠れてしまうか、収納した点検用作業床装置4の大部分が保全設備機器2の下方に隠れて、保全設備機器2の周囲から点検用作業床装置4の一部が見えるような状態であって、保全設備機器2の周囲から見える点検用作業床装置4は乗かご10が昇降しても干渉しない配置状態にあることを言うものとする。
【0023】
このように構成した本実施形態は、保全設備機器2の点検作業時には、例えば図3,4に示すように昇降路1内に収納されている状態から、作業床41の一端側に連結される第1支持体5をベース部3の下部位置に形成された第1切り欠き部51に係合させるようにする。この間、第2支持体6は、同図3,4に示されている状態から、ベース部3との連結部を中心にわずかに上方に回動する。これにより作業床41は、図1に示すように、第1支持体5と第2支持体6によって低位置において水平状態に保持される。この状態で点検作業者8が作業床41に乗り込み、例えば手摺り7を作業床41に装着する。このように準備した状態において、昇降路1内に配置された保全設備機器2の手の届く範囲の低所部21の点検作業を行うことができる。
【0024】
このような状態から、それまで手の届かなかった保全設備機器2の高所部22の点検作業を行うには、点検作業者8は手摺り7を外して一旦作業床41から降り、第1支持体5を第1切り欠き部51から外して、第2切り欠き部52に係合するようにする。この間、第2支持体6は上述した状態からさらにベース部3との連結部を中心に上方に回動する。これにより作業床41は、図2に示すように、第1支持体5と第2支持体6によって上述した低位置よりも上方の高位置において、水平状態に保持される。この状態で点検作業者8が作業床41に乗り込み、手摺り7を作業床41に装着する。このように準備した状態において、昇降路1内に配置された保全設備機器2の高所部22の点検作業を行うことができる。
【0025】
なお、図1に示すように低位置において水平状態に保たれている作業床41に対する点検作業者8の乗り降り、及び図2に示すように高位置において水平状態に保たれている作業床41に対する点検作業者8の乗り降りは、例えば昇降路1のピット床9の床面に沿うように載置可能な折りたたみ式の脚立等を利用して行うことができる。
【0026】
また例えば、上述した図1,2に示す状態から保全設備機器2の点検作業が終了した際などには、第1支持体5が第2切り欠き部52にある場合には、第2切り欠き部52から外して第1切り欠き部51に戻して第1切り欠き部51内で第1支持体5を上方に移動させて、第1支持体5が第1切り欠き部51にある場合には、第1支持体5をそのまま第1切り欠き部51内で上方に移動させて、第2支持体6を下方に回動させればよい。これにより、図3,4に示すように、第2支持体6が昇降路1の壁面に沿うようにベース部3から吊り下げられるとともに、第1支持体5及び作業床41が、昇降路1の壁面に沿うように第2支持体6から吊り下げられる。したがって、ベース部3、第1支持体5、第2支持体6、及び作業床41のそれぞれが、昇降路1内に配置された保全設備機器2の下方に配置され、この保全設備機器2の略投影面積内に収納される。なお、第1支持体5をそれまで係合していた第1切り欠き部51、あるいは第2切り欠き部52から外し、第2支持体6を下方に回動させる形態であってもよい。また点検作業に際し活用された手摺り7、及び脚立等は、昇降路1のピット床9の床面に沿うように寝かせて載置させる。したがって、昇降路1内を下降する乗かご10が最下降位置に至っても、手摺り7、脚立等が乗かご10に接触することはない。
【0027】
すなわち本実施形態は、第1支持体5の第1切り欠き部51、または第2切り欠き部52との係合動作と、第2支持体6の回動動作とによって、作業床41の高さ位置を変更可能であるとともに、収納時には、ベース部3、第1支持体5、第2支持体6、及び作業床41を保全設備機器2の略投影面積内に配置でき、図4に示すように、昇降路1内を下降した乗かご10と干渉を生じることなく、昇降路1内に収納させることができる。
【0028】
したがって本実施形態によれば、昇降路1内から本実施形態に係る点検用作業床装置4を撤去する煩雑な作業が不要となり、これによって点検作業工数を少なくし、点検作業に要する費用を低減させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 昇降路
2 保全設備機器
21 低所部
22 高所部
3 ベース部
4 点検用作業床装置
41 作業床
411 支持部
5 第1支持体
51 第1切り欠き部
52 第2切り欠き部
6 第2支持体
7 手摺り
8 点検作業者
9 ピット床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路の内部に設置される保全設備機器の点検に際して活用される作業床を有するエレベータの点検用作業床装置において、
上記保全設備機器の下方に位置する上記昇降路の壁面に取り付けられるベース部と、
上記ベース部の下部位置に形成され、上記昇降路の壁面から離れる側が開放された第1切り欠き部と、
上記ベース部の上部位置に形成され、上記昇降路の壁面から離れる側が開放された第2切り欠き部と、
上記第1切り欠き部及び上記第2切り欠き部の一方に選択的に係合し、上記作業床を上記昇降路内に展開させた際に上記昇降路の壁面に近づく側を形成する当該作業床の一端側に連結される第1支持体と、
一端が、上記ベース部の上記第1切り欠き部と上記第2切り欠き部の中間に位置する部分に上下方向の回動が可能に連結され、他端が、上記作業床を上記昇降路内に展開させた際に上記昇降路の壁面から離れる側を形成する当該作業床の他端側に連結され、上記第1支持体と協働して上記作業床を水平状態に保持可能な第2支持体とを備え、
上記昇降路内における収納時に、上記保全設備機器の略投影面積内に含まれるように、上記ベース部、上記第1支持体、上記第2支持体、及び上記作業床のそれぞれの形状寸法を設定したことを特徴とするエレベータの点検用作業床装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータの点検用作業床装置において、
上記第1支持体は直線形状の棒体から成り、
上記第2支持体は枠形状を形成する棒体から成り、
上記作業床は、上記他端側の下部に、上記第2支持体が回動可能に連結する支持部を有することを特徴とするエレベータの点検用作業床装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータの点検用作業床装置において、
上記作業床に着脱可能な手摺りを設けたことを特徴とするエレベータの点検用作業床装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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