説明

エレベータの釣合い重り装置

【課題】地震等の発生時において、脱レールした釣合い重りの姿勢を安定させて、脱レールした釣合い重りと乗りかご等との衝突を未然に防止することができるエレベータの釣合い重り装置を得る。
【解決手段】エレベータの釣合い重り装置において、エレベータの昇降路内に昇降自在に配置され、上下に貫通して穿設された通し孔10を有する釣合い重り3と、釣合い重りの昇降経路に沿って、釣合い重りの昇降範囲の全範囲に亘って所定の張力で張設され、釣合い重りの通し孔に挿通された鋼線12とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータの釣合い重り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来におけるエレベータの釣合い重り装置においては、地震等の発生時に、脱レールした釣合い重りと乗りかごとが接触する事故を防ぐものとして、一昇降路内を互いに反対方向へ昇降する乗りかご及び釣合い重りと、前記昇降路内に前記釣合い重りの昇降経路に沿って張設され、水平投影面において前記乗りかご及び前記釣合い重りの間に配置され、所定経路から逸脱した前記釣合い重りに押圧されて水平方向に変位する条体と、前記かごに装着され、前記乗りかご側に向かい水平方向に変位した前記条体によって動作する検出器と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61−001350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今まで、地震発生時において、釣合い重りが重りレールから外れる脱レールや、釣合い重りの重量調整用の加減重りの脱落等、釣合い重りに関する異常や故障が発生するケースが多く確認されている。
そして、さらに、このような釣合い重りに関する異常や故障が発生すると、脱レールした釣合い重りが回転して水平投影面において乗りかごと重なり、乗りかごが移動したときにこれらが衝突してしまう(図6)、又は、釣合い重りの枠体から脱落した加減重りと昇降路内機器や乗りかごとが衝突してしまう等の二次被害が発生してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、前記した特許文献1に示された従来におけるエレベータの釣合い重り装置は、地震発生時等に脱レールした釣合い重りと乗りかごとが接触する事故を防ぐべく、水平投影面において乗りかご及び釣合い重りの間に配置されるワイヤロープや鉄線からなる条体を、昇降路内に釣合い重りの昇降経路に沿って張設し、地震発生時等に脱レールした釣合い重りが接触することによる条体の乗りかご側への変位を、乗りかごに装着した検出器により検出することにより、脱レール発生を検出する構成を採っている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に示された従来におけるエレベータの釣合い重り装置においては、脱レールした釣合い重りの振れ方(挙動)によっては、釣合い重りが条体と条体の間をすり抜けてしまう等して条体に接触せず、このような場合には条体が乗りかご方向へと変位しないため釣合い重りの脱レール発生を検知できない。
そして、脱レール発生を検知できないばかりでなく、条体と条体の間をすり抜けてしまった脱レールした釣合い重りが水平投影面において乗りかごと重なり、乗りかごが移動したときにこれらが衝突してしまうおそれがあるという課題がある。
【0007】
また、この従来おけるエレベータの釣合い重り装置では、釣合い重りの枠体からの加減重りの脱落を防ぐことができず、脱落した加減重りが昇降路内機器や乗りかごとが衝突してしまう等の二次被害が発生してしまうおそれがあるという課題もある。
【0008】
この発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、第1の目的は、地震等の発生時において、脱レールした釣合い重りの姿勢を安定させて、脱レールした釣合い重りと乗りかご等との衝突を未然に防止することができるエレベータの釣合い重り装置を得るものである。
また、第2の目的は、釣合い重りの枠体からの加減重りの脱落を防ぐことができ、加減重りが昇降路内機器や乗りかごとが衝突してしまう等の二次被害発生を未然に防止することが可能であるエレベータの釣合い重り装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るエレベータの釣合い重り装置においては、エレベータの昇降路内に昇降自在に配置され、上下に貫通して穿設された通し孔を有する釣合い重りと、前記釣合い重りの昇降経路に沿って、前記釣合い重りの昇降範囲の全範囲に亘って所定の張力で張設され、前記釣合い重りの前記通し孔に挿通された鋼線と、を備えた構成とする。
【0010】
また、この前述の構成において、さらに、前記釣合い重りは、その外枠を構成する枠体と、前記枠体内に持設され、前記釣合い重りの重量を調整する加減重りと、を具備し、前記枠体の上下枠及び前記加減重りに前記通し孔が穿設されるとともに、前記鋼線は、前記枠体の上下枠及び前記加減重りに穿設された前記通し孔に挿通された構成とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明はエレベータの釣合い重り装置において、エレベータの昇降路内に昇降自在に配置され、上下に貫通して穿設された通し孔を有する釣合い重りと、前記釣合い重りの昇降経路に沿って、前記釣合い重りの昇降範囲の全範囲に亘って所定の張力で張設され、前記釣合い重りの前記通し孔に挿通された鋼線と、を備えた構成としたことで、地震等の発生時において、脱レールした釣合い重りの姿勢を安定させて、脱レールした釣合い重りと乗りかご等との衝突を未然に防止することができるという効果を奏する。
【0012】
また、この前述の構成において、さらに、前記釣合い重りは、その外枠を構成する枠体と、前記枠体内に持設され、前記釣合い重りの重量を調整する加減重りと、を具備し、前記枠体の上下枠及び前記加減重りに前記通し孔が穿設されるとともに、前記鋼線は、前記枠体の上下枠及び前記加減重りに穿設された前記通し孔に挿通された構成としたことで、釣合い重りの枠体からの加減重りの脱落を防ぐことができ、加減重りが昇降路内機器や乗りかごとが衝突してしまう等の二次被害発生を未然に防止することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に関し当該釣合い重り装置を備えたエレベータの全体構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に関し当該釣合い重り装置の釣合い重り部分を拡大した正面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に関し当該釣合い重り装置の釣合い重り部分の下面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に関し当該釣合い重り装置を備えたエレベータにおいて釣合い重りの脱レールが発生した状態を示す縦断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に関し当該釣合い重り装置を備えたエレベータにおいて釣合い重りの脱レールが発生した状態における釣合い重り部分を拡大した平面図である。
【図6】従来のエレベータにおいて釣合い重りの脱レールが発生した状態における釣合い重り部分を拡大した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明を添付の図面に従い説明する。各図を通じて同符号は同一部分又は相当部分を示しており、その重複説明は適宜に簡略化又は省略する。
【0015】
実施の形態1.
図1から図5は、この発明の実施の形態1に関するもので、図1は当該釣合い重り装置を備えたエレベータの全体構成を模式的に示す縦断面図、図2は当該釣合い重り装置の釣合い重り部分を拡大した正面図、図3は当該釣合い重り装置の釣合い重り部分の下面図、図4は当該釣合い重り装置を備えたエレベータにおいて、釣合い重りの脱レールが発生した状態を示す縦断面図、図5は当該釣合い重り装置を備えたエレベータにおいて、釣合い重りの脱レールが発生した状態における釣合い重り部分を拡大した平面図である。
【0016】
図において1は当該エレベータが設置される建屋内に鉛直に設けられた昇降路であり、この昇降路1内には、並行して略垂直に立設された一対のかごレール(図示せず)に昇降自在に案内される乗りかご2が配置されている。
また、前記昇降路1内には釣合い重り3を昇降自在に案内する一対の重りレール4が並行して略垂直に立設されており、この重りレール4に前記釣合い重り3が摺動自在に係合されることにより、前記釣合い重り3は前記昇降路1内に昇降自在に配置される。
【0017】
そして、前記乗りかご2の上端部には前記主ロープ5の一端部が接続されている。この主ロープ5は、前記昇降路1の上方に設けられた機械室6内に設置された、当該エレベータの運転を駆動する巻上機7の駆動シーブ及びソラセ車8に巻き掛けられており、その上で前記主ロープ5の他端部は前記釣合い重り3の上端部に接続されている。
こうして、前記乗りかご2及び前記釣合い重り3は前記主ロープ5により接続されて、つるべ状に吊持されている。
【0018】
前記釣合い重り3は、正面視略矩形状に組み合わされた枠体内に所定数の加減重り9が持設されて構成されている。この前記釣合い重り3の枠体は上下に設けられた重り上枠3a及び重り下枠3b並びに左右両側に設けられた一対の重り側枠3cからなり、前記釣合い重り3の上端部に接続される前記主ロープ5の前記他端部は、より詳しくは、前記重り上枠3aの中央部にシャックルロッド3dを介して接続されている。
また、前記加減重り9の所定数は、前記釣合い重り3の重量が、定格積載量の半分が積載されている前記乗りかご2の重量と釣合うように調整されて決定される。
【0019】
前記重り上枠3a及び前記重り下枠3b並びに前記加減重り9の左右両側寄りの対称位置には、通し孔10が穿設されている。これらの通し孔10は、左右両側寄りのそれぞれにおいて互いに重なり合って連結されることにより、結果として、前記釣合い重り3の上下を貫通する左右一対の孔を形成している。
そして、前記釣合い重り3の昇降経路に沿って昇降路頂部1aから昇降路底部1bに亘って一対の鋼線12が略鉛直に張設されており、これらの一対の鋼線12は、それぞれが前記重り上枠3a及び前記重り下枠3b並びに前記加減重り9に設けられた一対の前記通し孔10それぞれの孔内に挿通されている。
【0020】
ここで、前記通し孔10の内径寸法は前記鋼線12の外径寸法より大きく前記鋼線12は前記通し孔10内に適当な間隙をもって挿通される。そして、前記重り上枠3aに設けられた前記通し孔10の上面側内縁部、及び、前記重り下枠3bに設けられた前記通し孔10の下面側内縁部のそれぞれには、前記鋼線12と前記通し孔10の内縁が直接接触することによる前記重り上枠3a等の摩耗を防止するための保護材11が取付けられている。
【0021】
また、前記鋼線12の前記昇降路頂部1a及び前記昇降路底部1bのそれぞれにおける接続部分には、例えば弾性体であるバネ等を内蔵する張力装置13が設けられており、この張力装置13により、前記鋼線12には所定の張力が掛けられている。
【0022】
このように構成されたエレベータの釣合い重り装置において、通常時においては、前記釣合い重り3は前記重りレール4に案内されて所定の昇降経路に沿って昇降しており、この際、前記鋼線12が前記通し孔10の内縁、つまり、前記重り上枠3a及び前記重り下枠3b並びに前記加減重り9と接触することはなく、よって、前記鋼線12の存在に関わらず、あたかも前記鋼線12のない釣合い重り装置として振舞う(図1〜3)。すなわち、前記鋼線12の存在が当該エレベータの運行に影響を与えることはない。
【0023】
しかし、地震発生時等に前記釣合い重り3が前記重りレール4から脱レールした場合には、前記釣合い重り3を上下に貫通する前記鋼線12の張力により、前記釣合い重り3は所定の昇降経路に復元される方向へと引かれる(図4)。従って、前記釣合い重り3は前記重りレール4の方向へと引かれるため、水平投影面において前記乗りかご2と重なることのない位置に留まる(図5)。
さらに、前記鋼線12は、全ての前記加減重り9についても貫通した上で、前記重り上枠3a及び前記重り下枠3bを貫通しているため、地震発生時等においても、前記加減重り9が前記釣合い重り3の前記枠体から脱落しない。
【0024】
なお、前記張力装置13により前記鋼線12に掛けられる前記所定の張力は、脱レールした前記釣合い重り3が水平投影面において前記乗りかご2と重なることない位置に留まることができるよう十分な復元力を作用させ、また、脱レールした際の前記釣合い重り3の振動を早期に低減させるために十分な張力となるように調整される。
【0025】
以上のように構成されたエレベータの釣合い重り装置においては、エレベータの昇降路内に昇降自在に配置され、上下に貫通して穿設された通し孔を有する釣合い重りと、釣合い重りの昇降経路に沿って、昇降路頂部から昇降路底部に亘ってすなわち釣合い重りの昇降範囲の全範囲に亘って鋼線を所定の張力で張設し、この鋼線を釣合い重りの通し孔に挿通することにより、地震等の発生時において脱レールした釣合い重りの姿勢を安定させて、脱レールした釣合い重りと乗りかご等との衝突を未然に防止することができる。
【0026】
また、釣合い重りが、その外枠を構成する枠体と、前記枠体内に持設され、釣合い重りの重量を調整する加減重りと、から構成される場合に、この枠体の上下枠及び加減重りに通し孔を穿設し、鋼線を枠体の上下枠及び加減重りに穿設された通し孔に挿通することにより、釣合い重りの枠体からの加減重りの脱落を防ぐことができ、加減重りが昇降路内機器や乗りかごとが衝突してしまう等の二次被害発生を未然に防止することが可能である。
【0027】
そして、鋼線に所定の張力を掛ける張力装置を設けることにより、釣合い重りが脱レールした際に十分な復元力を作用させることができ、また、釣合い重りを貫通して穿設される通し孔を、釣合い重りの左右両側寄りの2箇所に設けることで、脱レールした釣合い重りが自由に回転してしまうことを有効に防止することが可能である。
【0028】
さらに、通し孔の内径寸法を鋼線の外径寸法より大きくし、鋼線を通し孔内に所定の間隙をもって挿通することにより、通常時における釣合い重りの昇降動作について支障は生じることがない。また、通し孔の内縁部に保護材を取付けることにより、鋼線と通し孔の内縁が直接接触することによる摩耗を防止することが可能である。
なお、この保護材を設けなくとも本願発明が主目的とする作用効果を奏することに何ら支障はなく、従って、この保護材は必ずしも設けなくともよい。
【符号の説明】
【0029】
1 昇降路
1a 昇降路頂部
1b 昇降路底部
2 乗りかご
3 釣合い重り
3a 重り上枠
3b 重り下枠
3c 重り側枠
3d シャックルロッド
4 重りレール
5 主ロープ
6 機械室
7 巻上機
8 ソラセ車
9 加減重り
10 通し孔
11 保護材
12 鋼線
13 張力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路内に昇降自在に配置され、上下に貫通して穿設された通し孔を有する釣合い重りと、
前記釣合い重りの昇降経路に沿って、前記釣合い重りの昇降範囲の全範囲に亘って所定の張力で張設され、前記釣合い重りの前記通し孔に挿通された鋼線と、を備えたことを特徴とするエレベータの釣合い重り装置。
【請求項2】
前記釣合い重りは、その外枠を構成する枠体と、前記枠体内に持設され、前記釣合い重りの重量を調整する加減重りと、を具備し、
前記枠体の上下枠及び前記加減重りに前記通し孔が穿設されるとともに、
前記鋼線は、前記枠体の上下枠及び前記加減重りに穿設された前記通し孔に挿通されたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータの釣合い重り装置。
【請求項3】
前記鋼線に前記所定の張力を掛ける張力装置を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のエレベータの釣合い重り装置。
【請求項4】
前記通し孔は、前記釣合い重りの左右両側寄りの2箇所に穿設されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のエレベータの釣合い重り装置。
【請求項5】
前記通し孔の内径寸法は、前記鋼線の外径寸法より大きく、前記鋼線は前記通し孔内に所定の間隙をもって挿通されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のエレベータの釣合い重り装置。
【請求項6】
前記通し孔の内縁部に取付けられた保護材を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のエレベータの釣合い重り装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate