説明

エレベータ用ブレーキ装置

【課題】構造簡単で高い動作信頼性の補助ブレーキを備えたエレベータ用ブレーキ装置を得ること。
【解決手段】ブレーキドラムに制動面4と、凹凸を持つ係合面13とを設け、ブレーキシューに係合面13に係合する位置に可動の係合部材7を設けた。ブレーキシュー作動用の電磁装置12を3つの位置に動かして、制動バネの作用力に抗してシューを係合部材7と共に制動面4から離間した不作動位置に保持する第1位置と、バネ作用力を部分的に開放してシューだけを制動面4に押圧させる第2位置と、バネ作用力を全て解放してシューを制動面4に押圧させるとともに係合部材7を係合面13に係合させる第3位置とに可動としたエレベータ用ブレーキ装置。
【効果】エレベータ用ブレーキ装置を構造簡単で動作信頼性高くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータ用ブレーキ装置に関し、特に停止時に作動する補助ブレーキ装置を備えたエレベータ用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の補助ブレーキ装置付きのエレベータ用ブレーキ装置においては、例えば特許文献1に記載されているように、補助ブレーキ装置は、巻上機モータに連結されたブレーキ装置とは別に、綱車等の回転部材に歯車を設け、この歯車の歯の間に専用の電磁コイル装置によって作動片を挿入して歯車の回転を阻止し、もってエレベータかごの移動を防ぐようにしたものであった。
【0003】
また例えば特許文献2には、エレベータかごの上昇速度が過剰になったときに、電磁ソレノイドによって綱車のスポークの間に制動ボルトを挿入して制動するものが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−64860号公報
【特許文献2】特開平5−193860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来のエレベータ用ブレーキ装置に於いては、補助ブレーキ装置は、通常運転時の減速/停止用のブレーキ装置とは全く別の機構となっていて、特別な故障検出回路によって作動されるものである。また、一旦補助ブレーキ装置が作動した後の復旧作業も複雑な手順が必要となり、復旧時間が長引いてしまう。
【0006】
従ってこの発明の目的は、簡単な構造で動作信頼性が高い補助ブレーキ装置を備えたエレベータ用ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のエレベータ用ブレーキ装置は、被制動部材と、被制動部材に接触して制動する作動位置と、被制動部材から離間した不作動位置に移動可能に支持された制動部材と、制動部材を常時作動位置に偏倚するバネ部材と、バネ部材の作用力に抗して制動部材を作動位置から不作動位置に移動させる電磁装置とを備えたエレベータ用ブレーキ装置において、上記被制動部材は、上記制動部材が制動時に押圧される制動面と、この制動面内あるいはこの制動面近傍に設けられた上記被制動部材の移動方向に対して垂直方向成分を持つ係合面とを持ち、上記エレベータ用ブレーキ装置は更に、上記制動部材に設けられて、上記被制動部材から離間した非係合位置と、上記制動部材が上記作動位置にあるときだけ上記被制動部材の上記係合面に係合する係合位置とに移動可能に支持された係合部材と、上記制動部材と上記係合部材との間に設けられて上記係合部材を常時上記非係合位置に偏倚するバネとを備え、上記電磁装置は、上記バネ部材のバネ作用力に抗して上記制動部材を上記係合部材と共に上記制動面から離間した上記不作動位置に保持する第1位置と、上記バネ部材のバネ作用力を部分的に開放して上記制動部材だけを上記制動面に押圧させる第2位置と、上記バネ部材のバネ作用力を全て解放して上記制動部材を上記制動面に押圧させるとともに上記係合部材を上記係合面に係合させる第3位置とに可動であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、簡単な構造で動作信頼性が高い補助ブレーキ装置を備えたエレベータ用ブレーキ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1乃至図4にはこの発明のエレベータ用ブレーキ装置の一実施形態を概略図で示し、図1はエレベータ用ブレーキ装置の解放状態の正面図、図2は図1の線A−Aに沿った断面図、図3はエレベータ用ブレーキ装置の制動状態の正面図、図4はエレベータ用ブレーキ装置の停止状態の正面図である。
【0010】
エレベータ用ブレーキ装置は、図示してない綱車等と共に回転するブレーキドラムである被制動部材1を備えており、被制動部材1の内側にはフレーム2によって支持された制動部材3を備えている。被制動部材1は円筒形の部材であって、内周面には制動部材3が図3および図4に示す作動位置にあるとき接触する制動面4を持っている。制動部材3は全体として比較的厚い矩形の板状のブレーキシューであり、一端部でフレーム2にピン5によって回動可能に支持されていて、図3および4に示すように、被制動部材1の制動面4に接触して制動する作動位置と、図1に示すように、被制動部材1から離間して制動作用をしない不作動位置とに移動可能である。
【0011】
制動部材3の他端すなわちピン5で枢着されていない側の端部にはピン6によってレバー状の係合部材7の一端が枢着されている。制動部材3と係合部材7との間には板バネ8が設けられていて、制動部材3と係合部材7との相対位置関係が常時図1に示す角度位置である非係合位置に弾性的に偏倚されるようにしてある。この非係合位置は、後に詳述するように、制動部材3が不作動位置にあるときは勿論、制動部材3が図3に示す作動位置にあって維持される位置である。板バネ8の強さは通常は係合部材7を非係合位置に維持するが、後に説明するように図4に示す完全停止状態では、係合部材7が係合面13に係合する係合位置に移動できるような強さである。
【0012】
係合部材7の他端部にはピン9が設けられていて、ピン9とフレーム2との間には圧縮ばねであるバネ部材10が設けられていて、係合部材7を常時被制動部材1に向かって押圧するようにしてある。また、係合部材7の中間部すなわちピン5とピン9との間の位置にはピン11が設けられていて、このピン11とフレーム2との間にはソレノイド装置である電磁装置12が設けられている。このように、バネ部材10は係合部材7を介して制動部材3を常時作動位置(図3、4)に偏倚するものであり、電磁装置12は附勢されたときにバネ部材10の作用力に抗して係合部材7を介して制動部材3を作動位置(図3および図4)から不作動位置(図1)に移動させるものである。
【0013】
ブレーキドラムである被制動部材1には、上述のようにブレーキシューである制動部材3が制動時に押圧される制動面4が設けられているが、被制動部材1にはまた、この制動面4の内部あるいは近傍あるいは隣接した位置に、被制動部材1の移動方向(周方向)に対して垂直方向成分を持つ係合面13が設けられている。この係合面13は例えば被制動部材1の内周面の軸方向に延びた複数の溝またはスリット、歯車状の多数の歯、周方向に整列した複数の穴などによって与えることができる。図1乃至図4に示す例では、係合面13は、被制動部材1の内周面に制動面4の軸方向両側に隣接して設けられた歯車の歯状に形成されている。
【0014】
図2に良く示されているように、先に説明した係合部材7はこの係合面13に対向する位置に設けられていて、係合部材7の係合面13に対向する部分には係合面13と噛み合って係合できるようにほぼ相補的な形状の係合部分14が設けられている。図示の場合は係合面13が歯車の歯状であるので、係合部分14も歯車の一部のような形状にされている。
【0015】
このようなエレベータ用ブレーキ装置において、エレベータの昇降中には、図1に示すようにブレーキ装置の電磁装置12が附勢されてプランジャがストローク全長分吸引された第1位置となり、バネ部材10のバネ作用力に抗して係合部材7を介して制動部材3が被制動部材1から離間した不作動位置に保持されている。
【0016】
かごが乗場に近づくと図示してない制御装置からの指令により電磁装置12の励磁電流が減少してバネ部材10のバネ作用力が部分的に開放され、ストロークの例えば半分だけ吸引された第2位置となり、図3に示すように制動部材3だけが制動面4に押圧される位置となり、通常のブレーキ動作により減速してかごが停止する。
【0017】
かごが完全に停止すると、制御装置からの指令により電磁装置12の励磁電流が更に減少あるいは完全に無くなって電磁装置12が図4に示す第3位置となり、バネ部材10のバネ作用力を全て解放して、制動部材3を制動面4に押圧させるとともに係合部材7を係合面13に係合させる。
【0018】
このような動作をまとめると、電磁装置12が第1位置のとき、図1に示すように、制動部材3は不作動位置、係合部材7は非係合位置となる。電磁装置12が第2位置のとき、図2に示すように、制動部材3は作動位置、係合部材7は非係合位置となる。電磁装置12が第3位置のとき、図4に示すように、制動部材3は作動位置、係合部材7は係合位置となる。かごの昇降再開の際には上に説明した順番と逆の順番で動作させてエレベータ用ブレーキ装置の制動動作を解除する。
【0019】
以上には本発明のエレベータ用ブレーキ装置の一実施の形態を説明したが、様々な部分の様々な変更変形が可能である。例えば制動部材3と係合部材7との間のバネは板バネでもコイルバネでもよく形状の制限はなく、また圧縮ばね引っ張りばね、あるいはねじりばねでも良い。また、被制動部材1はドラム型でなくともディスク型であっても良く、ドラム型の外周部にブレーキ機構を設けても良い。更に、ブレーキシューである制動部材3はピンによって枢支した回転型のものでなく、平行移動型のものとすることもできる。また、3位置で動作する電磁装置は、電流を切り換えるものであってもよいし、複数のコイルを切り換えて用いるものでもよい。
【0020】
実施の形態2.
図5乃至図7には、この発明のエレベータ用ブレーキ装置の別の実施の形態として制動部材が平行移動する形式のものを概略図で示す。図5はエレベータ用ブレーキ装置の解放状態の正面図、図6は図5の線B−Bに沿って内部のブレーキ機構を取り除いて示した断面図、図7はエレベータ用ブレーキ装置の停止状態の正面図である。
【0021】
このエレベータ用ブレーキ装置においては、被制動部材1の係合面21が、制動面4の軸方向中央部に設けられた複数の円形の凹部として形成されている。フレーム22には電磁装置23の電磁石部24が設けられ、図5の位置では、電磁石部24が励磁されていて圧縮コイルであるばね部材25のばね作用力に抗して可動鉄心26が吸引されている。可動鉄心26は突出ロッド27を持っていてこの突出ロッド27にはブレーキシューである制動部材28が突出ロッド27の軸方向に摺動できるように支持されている。可動鉄心26と制動部材28との間には、圧縮コイルばねであるばね29が設けられている。
【0022】
突出ロッド27の中間部分には、制動部材28の円筒形空胴31内で摺動できるフランジ30が設けられていて、フランジ30よりも先端側部分はプランジャ状の係合部材32となっていて、制動部材28内で摺動して図5に示すように制動部材28内に引き込んだ非係合位置と、図7に示すように制動部材28から突出した係合位置との間で可動である。係合部材32のフランジ30と制動部材28との間には圧縮ばね33が設けられていて、プランジャ状の係合部材32を常時非係合位置に偏倚している。
【0023】
このように、この実施の形態においては、制動部材28は、被制動部材1に対して平行移動可能に支持されており、係合部材32は、制動部材28が図7の制動位置にあるときに一端が制動部材28から突出して係合面21に係合する係合位置(図7)と、制動部材28が制動位置にあるときにも係合面21から離間した非係合位置(図5)とに可動である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明のエレベータ用ブレーキ装置の一実施の形態を解放状態で示す概略平面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿った概略断面図である。
【図3】図1のエレベータ用ブレーキ装置の制動状態の概略正面図である。
【図4】図1のエレベータ用ブレーキ装置の停止状態の概略正面図である。
【図5】この発明のエレベータ用ブレーキ装置の別の実施の形態を解放状態で示す概略平面図である。
【図6】図5の線B−Bに沿って内部のブレーキ機構を取り除いて示した概略断面図である。
【図7】図5のエレベータ用ブレーキ装置の停止状態の概略正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 被制動部材、3、28 制動部材、4 制動面、7、32 係合部材、8、33 バネ、10、25 バネ部材、12、23 電磁装置、13、21 係合面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被制動部材と、被制動部材に接触して制動する作動位置と、被制動部材から離間した不作動位置に移動可能に支持された制動部材と、制動部材を常時作動位置に偏倚するバネ部材と、バネ部材の作用力に抗して制動部材を作動位置から不作動位置に移動させる電磁装置とを備えたエレベータ用ブレーキ装置において、
上記被制動部材は、上記制動部材が制動時に押圧される制動面と、この制動面内あるいはこの制動面近傍に設けられ、上記被制動部材の移動方向に対して垂直方向成分を持つ係合面とを持ち、
上記エレベータ用ブレーキ装置は更に、
上記制動部材に設けられて、上記被制動部材から離間した非係合位置と、上記制動部材が上記作動位置にあるときだけ上記被制動部材の上記係合面に係合する係合位置とに移動可能に支持された係合部材と、
上記制動部材と上記係合部材との間に設けられて上記係合部材を常時上記非係合位置に偏倚するバネとを備え、
上記電磁装置は、上記バネ部材のバネ作用力に抗して上記制動部材を上記係合部材と共に上記制動面から離間した上記不作動位置に保持する第1位置と、上記バネ部材のバネ作用力を部分的に開放して上記制動部材だけを上記制動面に押圧させる第2位置と、上記バネ部材のバネ作用力を全て解放して上記制動部材を上記制動面に押圧させるとともに上記係合部材を上記係合面に係合させる第3位置とに可動であることを特徴とするエレベータ用ブレーキ装置。
【請求項2】
上記制動部材は、一端で回動可能に支持されており、上記係合部材は、上記制動部材の他端に回動可能に支持され、上記バネ部材および上記電磁装置に接続されており、上記制動部材が上記制動位置にあるときに上記係合面に係合する係合位置と、上記制動部材が上記制動位置にあるときにも上記係合面から離間した非係合位置とに可動であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ブレーキ装置。
【請求項3】
上記制動部材は、上記被制動部材に対して平行移動可能に支持されており、上記係合部材は、上記制動部材が上記制動位置にあるときに一端が上記制動部材から突出して上記係合面に係合する係合位置と、上記制動部材が上記制動位置にあるときにも上記係合面から離間した非係合位置とに可動であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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