説明

エレベータ

【課題】変化する条件下においても、エレベータの乗りかごの安定した高い乗り心地を実現するように縦振動を抑制する。
【解決手段】乗りかごの昇降にともなう同位相振動が発生するとエネルギ回生式ダンパ9のアクチュエータ10も振動する。アクチュエータ10は、得た振動エネルギをもとにした電力回生を行なう。この電力は蓄電装置11に蓄電される。制御装置13の振動制御部13eは、乗りかごのかご位置や荷重値をもとに、動吸振器おもりの振動数が振動系の現在の固有振動数と一致するか近い値となるように、蓄電装置11に蓄電された電力をアクチュエータ10に放電する。アクチュエータ10は、蓄電装置11からの電力を得ると、これを振動エネルギに変換して振動する。これにより動吸振器おもりは、振動系の縦振動を吸収するように振動するので、乗りかごの縦振動を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗りかごの振動抑制機能を有するエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に外乱等による周波数がエレベータの振動系の共振周波数近傍に近づいてくると系全体は共振状態となり、不安定な状態となる。エレベータの運転により発生する振動が系の固有振動数近傍となると振動が大きくなり、乗り心地に大きく影響する。
【0003】
この問題を解決するための第1の手法として、システムの構造を見直し、補強することで固有振動数を高い周波数域に移動させることで、走行中に受ける加振周波数とずらす手法がある。これより乗り心地を改善して剛なシステムを提供する。
【0004】
また第2の手法として、予め系の固有振動数が分かっている場合、つり合いおもりを分割して動吸振器を構成し、この分割したつり合いおもりの質量とばね定数、及び減衰係数を、系の固有振動数近傍で最も吸振性が高くなるように設計することで、効果的に縦振動を制振して高い乗り心地性能を提供する手法がある。
【0005】
また、例えば特許文献1に開示されるように、上下に移動するダイナミックダンパをかご枠下方に設けることで低周波の縦振動を減衰するものや、例えば特許文献2に開示されるように、乗りかごに与えられる振動を減衰させるダンパ装置を当該乗りかご上に設けたものがある。
【特許文献1】特開2005−1773号公報
【特許文献2】特開2004−75228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エレベータにおいて、乗りかごの乗り心地は基本性能のひとつであり、縦振動はその乗り心地を左右する重要な指標である。一般に2,3Hz〜10Hz前後の振動が体感上、問題として取り扱われている。従って、高い乗り心地性能を得るためにはこの数Hz台の縦振動を効果的に抑制することが望ましい。
【0007】
ところが、エレベータは乗りかごの積載容量や昇降行程などにより振動系の固有値が物件毎に異なる。また、近年の機械室エレベータ普及により、エレベータの構造物は小型化、軽量化、低コスト化が進んでおり、系全体の剛性確保が従来のタイプに比べて困難となりつつある。
【0008】
これらの背景より、エレベータの振動系の固有振動数が数Hz台に存在し、走行中定常的に受ける外乱周波数により、系全体が不安定となり乗り心地を損なうケースが従来よりも増加している。
【0009】
前述したような、システムの構造の補強を行なって固有振動数を高い周波数域に移動させることによる剛性の確保は前記の如く市場要求から困難となりつつあり、仮に実現可能でも通常はコストアップに繋がる場合が多い。
【0010】
また、前述したように、つり合いおもりに動吸振器を備える場合は、大幅なコストアップをすることなく、目標とする周波数の振動を効果的に抑制できる。しかしエレベータでは物件毎に容量や昇降行程が異なるため、都度設計が必要であり、設計するためには目標周波数が既知である必要がある。また目標周波数から外れた外乱が印加されると効果がないと言う欠点があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、変化する条件下においても安定して高い乗り心地を実現するように縦振動を抑制することが可能になるエレベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係わるエレベータは、ばね要素およびアクチュエータを介して動吸振器おもりがつり合いおもりに吊り下げられてなる動吸振器と、電力を蓄える蓄電装置とを備え、動吸振器のアクチュエータが乗りかごの縦振動エネルギから変換した電気エネルギを蓄電装置に蓄電し、乗りかごの運行条件にしたがい、動吸振器おもりの振動数が乗りかごの縦振動を抑制する振動数となるように、蓄電装置に蓄電された電力を利用してアクチュエータを振動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変化する条件下においても、エレベータの乗りかごの安定した高い乗り心地を実現するように縦振動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明の理解を容易にするために、エレベータの従来例について説明する。
図9は、従来のエレベータの構成の概略を示す図である。
このエレベータは、2:1シングルラップによるローピングを用い、乗りかご41は、メインロープ43に巻き掛けられたカーシーブ42,42aに吊り下げられる。メインロープ43は、カーシーブ42,42a、巻上機シーブ45aを介して、つり合いおもりシーブ46,46aに巻き掛けられる。つり合いおもり47は、つり合いおもりシーブ46,46aに吊り下げられる。
【0015】
乗りかご41は巻上機45のモータ軸に設けられた巻上機シーブ45aに巻き掛けられたメインロープ43を介してつり合いおもり47と連結される。乗りかご41は巻上機45の駆動による巻上機シーブ45aの回転に伴い、つり合いおもり47とともに互いに上下反対方向に昇降する。
【0016】
このエレベータの振動系は、メインロープ43の等価剛性43a,43b,43c及び43d、かご側ロープヒッチばね44、および、つり合いおもり側ロープヒッチばね44aを有する。この系に定常的に印加される外力が系の固有振動数の近傍にある場合に着目する。エレベータの振動系の振動モードには乗りかご41とつり合いおもり47が交互に上下に引っ張り合う逆位相振動モードと、乗りかご41とつり合いおもり47が同時に上下に振動する同位相振動モードとが考えられる。
【0017】
逆位相振動モードについては巻上機45を制御する制御系において制御応答を調整することで改善が可能であるが、同位相の振動モードについては制御応答による抑制が困難である。図9に示した例では、この同位相の振動モードを抑制するために、つり合いおもり47を動吸振器として構成する。
【0018】
乗りかご41とつり合いおもり47とで同位相振動モードで振動している場合、つり合いおもり47の振動を抑制すればメインロープ43で接続されている乗りかご41の振動も抑制することが可能となる。
【0019】
図9に示した例では、つり合いおもり47の質量系は、バランス調整用おもり47a、動吸振器おもり47bで構成される。バランス調整用おもり47aは、つり合いおもり47のフレームに固定され、動吸振器おもり47bは、ばね要素48および減衰器49を介してバランス調整用おもり47aに吊り下げられて上下に振動することが可能な構成とする。
【0020】
次に、運転中の乗りかご41及びつり合いおもり47に発生する同位相振動の周波数をFとし、この周波数による振動を抑制するようためのつり合いおもり47の動吸振器のパラメータの設計手順を説明する。
【0021】
まず、バランス調整用おもり47aの質量をM、動吸振器おもり47bの質量をm、エレベータの振動系全体のばね定数をKとし、定数αを以下の式(1)のように示し、定数βを以下の式(2)のように示す。
【0022】
α=m/M …式(1)
β=ω/Ω …式(2)
ばね要素48のばね定数をkとすると、以下の式(3)が成り立つ。
【0023】
ω=k/m …式(3)
また、以下の式(4)が成り立つ。
【0024】
Ω=K/M …式(4)
また、動吸振器の振動周波数をfとすると、以下の式(5)が成り立つ。
【0025】
β=ω/Ω=2πf/2πF …式(5)
動吸振器の減衰器49の減衰比をζとすると、最適なパラメータを求めるための以下の式(6)、式(7)が成り立つ。
【0026】
β=1/(1+α) …式(6)
ζ={α/(1+α)}1/2 …式(7)
これらの関係から、動吸振器のばね要素48のばね定数kと減衰器49の減衰比ζとが求められる。
【0027】
これにより、つり合いおもり47の縦振動を吸収するように動吸振器おもり47bを振動させて乗りかご41の振動を抑制する動吸振器の設計が可能となる。しかし、実際には乗りかご41の昇降行程は建物ごとに異なるので、エレベータの振動系全体のばね定数Kは物件ごとに異なった値となる。また、乗りかご41の振動数は乗客人数つまり積載荷重やかご位置により変化する。従って、このような構成の動吸振器を有効に機能させるためには、ばね要素48及び減衰器49のパラメータを都度、最適な値に調整する必要があると言う問題があった。
【0028】
以下図面により本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータのエネルギ回生式ダンパの構成例を示す図である。
このエレベータは、2:1シングルラップによるローピングを用い、乗りかご1は、メインロープ3に巻き掛けられたカーシーブ2,2aに吊り下げられる。メインロープ3は、カーシーブ2,2a、巻上機シーブ5aを介して、つり合いおもりシーブ6,6aに巻き掛けられる。つり合いおもり7はつり合いおもりシーブ6,6aに吊り下げられる。
【0029】
乗りかご1は巻上機5のモータ軸に設けられた巻上機シーブ5aに巻き掛けられたメインロープ3を介してつり合いおもり7と連結される。乗りかご1は巻上機5の駆動による巻上機シーブ5aの回転に伴い、つり合いおもり7とともに互いに上下反対方向に昇降する。
【0030】
このエレベータの振動系は、メインロープ3の等価剛性3a,3b,3c及び3d、かご側ロープヒッチばね4、および、つり合いおもり側ロープヒッチばね4aを有する。
また、このエレベータは、巻上機5の軸回転を検出してその回転角度に比例した数のパルス信号を発生するパルス発生器14、および乗りかご1内の荷重値を検出する荷重検出手段である荷重検出装置15を備える。
【0031】
図1に示した例では、つり合いおもり7を動吸振器として構成している。つまり、このエレベータでは、つり合いおもり7の質量系をバランス調整用おもり7a、動吸振器おもり7bで構成している。バランス調整用おもり7aは、つり合いおもり7のフレームに固定され、動吸振器おもり7bは、ばね要素8およびエネルギ回生式ダンパ9を介してバランス調整用おもり7aに吊り下げられて動吸振器として上下に振動することが可能な構成とする。エネルギ回生式ダンパ9は振動減衰機能および電力回生機能を有する。
【0032】
図2は、本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータのエネルギ回生式ダンパの構成例を示す図である。
図2に示すように、エネルギ回生式ダンパ9は、アクチュエータ10、蓄電装置11、昇降圧チョッパ回路12および制御装置13を備える。蓄電装置11は、例えばニッケル水素電池や、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池などの二次電池や、電気二重層コンデンサといった大容量キャパシタなどからなる。
蓄電装置11に蓄電された電力が制御装置13により放電制御されると、アクチュエータ10はエレベータの振動系の縦振動の減衰力を発生する。
【0033】
昇降圧チョッパ回路12は、スイッチング素子回路12aおよびインダクタンス12bを備える。スイッチング素子回路12aは、第1のスイッチング素子12cおよび第2のスイッチング素子12dが直列に接続されてなる。第1のスイッチング素子12cのコレクタと第2のスイッチング素子12dのエミッタはアクチュエータ10と接続される。第2のスイッチング素子のコレクタとエミッタの間には、インダクタンス12bおよび蓄電装置11の直列回路が接続される。また、第1のスイッチング素子12cのベースと第2のスイッチング素子12dのベースは制御装置13に接続される。
【0034】
制御装置13は、増幅器13a、フィルタ13bおよびマイクロコンピュータ13cを備える。マイクロコンピュータ13cは、蓄電制御手段である蓄電制御部13dおよび振動制御手段である振動制御部13eを備える。
【0035】
図1に示したパルス発生器14による検出結果を示す信号および荷重検出装置15による検出結果を示す信号は、制御装置13の増幅器13aおよびフィルタ13bによる信号処理を介してマイクロコンピュータ13cに入力される。
【0036】
この実施形態では、動吸振器の固有振動数を、乗りかご1が無荷重で、かご位置が中間階である場合のエレベータの振動系の固有振動数と一致させることで、この振動系の縦振動を動吸振器おもり7bの振動により吸収できるようになっている。
【0037】
次に、図1および図2に示した構成のエレベータによる乗りかご振動抑制に関わる動作について説明する。図3は、本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータの乗りかご振動抑制に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
【0038】
乗りかご1の昇降にともなってつり合いおもり7の上下移動中の同位相振動が発生すると(ステップS1)エネルギ回生式ダンパ9のアクチュエータ10も振動する(ステップS2)。
【0039】
アクチュエータ10は、得た振動エネルギをもとにした電力回生を行なう(ステップS3)。昇降圧チョッパ回路12は、電力回生により発生した電気エネルギを制御装置13の蓄電制御部13dによる制御にしたがって適正な電圧に変換し、蓄電装置11に回生電力として蓄電する(ステップS4)。
【0040】
制御装置13は、パルス発生器14からの信号をもとに乗りかご1のかご位置を検出する。つまり制御装置13はかご位置検出手段として機能する。制御装置13の振動制御部13eは、検出済みのかご位置や荷重検出装置15からの信号で示される荷重値をもとに、動吸振器おもり7bの振動数がエレベータの振動系の現在の固有振動数と一致するか近い値となるように、スイッチング素子回路12aの各スイッチング素子をPWM制御を用いてスイッチングすることで、蓄電装置11に蓄電された電力をアクチュエータ10に放電する(ステップS5,S6)。アクチュエータ10は、蓄電装置11からの電力を得ると、これを振動エネルギに変換して振動する(ステップS7)。
【0041】
これによりアクチュエータ10に発生する力、すなわち減衰率を変化させることができる。つまり、アクチュエータ10は外部からの給電を必要としない可変減衰装置として機能する。
【0042】
このようにして、アクチュエータ10の振動数が制御された結果、動吸振器おもり7bの振動数がエレベータの振動系の現在の固有振動数と一致するか近い値となると、動吸振器おもり7bは、エレベータの振動系の縦振動を吸収するように振動する(ステップS8)、この結果、乗りかご1の縦振動を抑制することができる(ステップS9)。
【0043】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータは、乗りかご1の昇降により発生する縦方向の振動をもとに電力回生を行なって蓄電装置11に蓄電し、この電力をアクチュエータ10に供給して、乗りかご1の振動を抑制するように動吸振器おもり7bを振動させる。これにより、減衰比を固定した減衰器を備えた動吸振器を用いる場合と比較して、エレベータの振動系の固有振動数が乗りかご1の積載やかご位置により変化する場合においても、つり合いおもり7に組み込んだ動吸振器による適切な吸振効果を得ることができ、高い乗り心地性能を得ることが可能となる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態に係るエレベータの構成のうち図1に示したものと同一部分の説明は省略する。
図4は、本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータの構成の概略を示す図である。
図4に示すように、本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータは、第1の実施形態と比較して、つり合いおもり7の代わりにつり合いおもり20を動吸振器として備える。
【0045】
図5は、本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータのつり合いおもりの内部構成の一例を示す図である。
この実施形態では、図5に示すように、つり合いおもり20の質量系は、バランス調整用おもり20a、第1動吸振器おもり20bおよび第2動吸振器おもり20eで構成される。
【0046】
バランス調整用おもり20aは、つり合いおもり20のフレームに固定される。また、第1動吸振器おもり20bは、ばね要素20cおよび第1アクチュエータ20dを介してバランス調整用おもり20aに吊り下げられて第1の動吸振器として上下に振動することが可能である。
【0047】
さらに、第2動吸振器おもり20eは、ばね要素20fおよび第2アクチュエータ20gを介して第1動吸振器おもり20bに吊り下げられて、第2の動吸振器として上下に振動することが可能である。
【0048】
図5に示すように、つり合いおもり20は、第1の実施形態で説明した蓄電装置11、昇降圧チョッパ回路12および制御装置13を備える。ただし、第2の実施形態では、スイッチング素子回路12aの第1のスイッチング素子12cのコレクタと第2のスイッチング素子12dのエミッタは第1アクチュエータ20dと接続される。また、蓄電装置11の両端は第2アクチュエータ20gと接続される。
【0049】
この実施形態では、第1の動吸振器の固有振動数を、乗りかご1が無荷重の場合で、かご位置が中間階である場合のエレベータの振動系の固有振動数と一致させることで、振動系の縦振動を第1動吸振器おもり20bの振動により吸収できるようになっている。
【0050】
次に、図4および図5に示した構成のエレベータによる乗りかご振動抑制に関わる動作について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータの乗りかご振動抑制に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
乗りかご1の昇降にともなってつり合いおもり20の上下移動中の同位相振動が発生すると(ステップS11)第1アクチュエータ20dも振動する(ステップS12)。
【0051】
第1アクチュエータ20dは、得た振動エネルギをもとにした電力回生を行なう(ステップS13)。昇降圧チョッパ回路12は、電力回生により発生した電気エネルギを制御装置13の蓄電制御部13dによる制御にしたがって適正な電圧に変換し、蓄電装置11に回生電力として蓄電する(ステップS14)。
【0052】
そして、制御装置13は、パルス発生器14からの信号をもとに乗りかご1のかご位置を検出する。制御装置13の振動制御部13eは、検出済みのかご位置や荷重検出装置15からの信号で示される荷重値をもとに、第2動吸振器おもり20eの振動数がエレベータの振動系の現在の固有振動数と一致するか近い値となるように、スイッチング素子回路12aの各スイッチング素子をPWM制御を用いてスイッチングすることで、蓄電装置11に蓄電された電力を第2アクチュエータ20gに放電する(ステップS15,S16)。第2アクチュエータ20gは、蓄電装置11からの電力を得ると、これを振動エネルギに変換して振動する(ステップS17)。
【0053】
このようにして第2アクチュエータ20gの振動数が制御された結果、第2動吸振器おもり20eの振動数がエレベータの振動系の現在の固有振動数と一致するか近い値となると、第2動吸振器おもり20eはエレベータの振動系の縦振動を吸収するように振動する(ステップS18)、この結果、乗りかご1の縦振動を抑制することができる(ステップS19)。
【0054】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータは、乗りかご1の昇降により発生する縦方向の振動による第1アクチュエータ20dからの回生電力を蓄電装置11に蓄電し、この電力を第2の動吸振器の第2アクチュエータ20gに供給して、乗りかご1の振動を抑制するように第2動吸振器おもり20eを振動させるので。エレベータの振動系の固有振動数が乗りかご1の積載やかご位置により変化する場合においても適切な吸振効果を得ることができ、高い乗り心地性能を得ることが可能となる。
【0055】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図7は、本発明の第3の実施形態にしたがったエレベータの構成の概略を示す図である。
図7に示すように、本発明の第3の実施形態にしたがったエレベータは、第1の実施形態と比較して、乗りかご1の振動値を検出する振動検出手段である乗りかご振動検出装置31をさらに備える。乗りかご振動検出装置31による検出結果を示す信号は、エネルギ回生式ダンパ9の制御装置13の増幅器13aおよびフィルタ13bによる信号処理を介してマイクロコンピュータ13cに入力される。
【0056】
図8は、本発明の第3の実施形態にしたがったエレベータの乗りかご振動抑制に関わる処理動作の一例を示すフローチャートである。
この実施形態では、乗りかご1の昇降にともなってつり合いおもり7の上下移動中の同位相振動の発生から蓄電装置11への蓄電までの処理は、第1の実施形態で説明したステップS1からS4までの処理と同様である。
【0057】
マイクロコンピュータ13cは、乗りかご振動検出装置31による検出結果を示す信号を予め定められた時間間隔で入力し、この信号で示される振動値の比較演算を行なう。
【0058】
そして、制御装置13は、パルス発生器14からの信号をもとに乗りかご1のかご位置を検出する。制御装置13の振動制御部13eは、検出済みのかご位置や荷重検出装置15からの信号で示される荷重値をもとに、乗りかご1の振動値の前述した比較演算の結果、振動値の変動幅がゼロもしくは予め定められた基準値以下の変動幅となるように、スイッチング素子回路12aの各スイッチング素子をPWM制御を用いてスイッチングすることで、蓄電装置11に蓄電された電力をアクチュエータ10に放電する(ステップS21,S22)。アクチュエータ10は、蓄電装置11からの電力を得ると、これを振動エネルギに変換して振動する(ステップS23)。
【0059】
このようにして、アクチュエータ10の振動数が制御された結果、動吸振器おもり7bの振動数がエレベータの振動系の現在の固有振動数と一致するか近い値となると、動吸振器おもり7bは、エレベータの振動系の縦振動を吸収するように振動する(ステップS24)、この結果、乗りかご1の縦振動を抑制することができる(ステップS25)。
【0060】
以上説明したように、本発明の第3の実施形態にしたがったエレベータは、アクチュエータ10の減衰比を能動的に変化させるための制御指令値に乗りかご1の振動値をフィードバックするので、第1の実施形態と比較して、より適切な吸振効果を発揮し、より高い乗り心地性能を得ることが可能となる。
【0061】
なお、この発明は前記実施形態そのままに限定されるものではなく実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータの構成の概略を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータのエネルギ回生式ダンパの構成例を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態にしたがったエレベータの乗りかご振動抑制に関わる処理動作の一例を示すフローチャート。
【図4】本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータの構成の概略を示す図。
【図5】本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータのつり合いおもりの内部構成の一例を示す図。
【図6】本発明の第2の実施形態にしたがったエレベータの乗りかご振動抑制に関わる処理動作の一例を示すフローチャート。
【図7】本発明の第3の実施形態にしたがったエレベータの構成の概略を示す図。
【図8】本発明の第3の実施形態にしたがったエレベータの乗りかご振動抑制に関わる処理動作の一例を示すフローチャート。
【図9】従来のエレベータの構成の概略を示す図。
【符号の説明】
【0063】
1,41…乗りかご、2,42…カーシーブ、3,43…メインロープ、3a,3b,3c,3d,43a,43b,43c,43d…ロープの等価剛性、4,44…かご側ロープヒッチばね、4a,44a…つり合いおもり側ロープヒッチばね、5,45…巻上機、5a,45a…巻上機シーブ、6,6a,46,46a…つり合いおもりシーブ、7,20,47…つり合いおもり、7a,20a,47a…バランス調整用おもり、7b,47b…動吸振器おもり、8,20c,20f,48…ばね要素、9…エネルギ回生式ダンパ、10…アクチュエータ、11…蓄電装置、12…昇降圧チョッパ回路、12a…スイッチング素子回路、12b…インダクタンス、13…制御装置、13a…増幅器、13b…フィルタ、13c…マイクロコンピュータ、13d…蓄電制御部、13e…振動制御部、14…パルス発生器、15…荷重検出装置、20b…第1動吸振器おもり、20d…第1アクチュエータ、20e…第2動吸振器おもり、20g…第2アクチュエータ、31…乗りかご振動検出装置、49…減衰器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーブに巻き掛けられて乗りかごと連結されるつり合いおもりと、
振動エネルギを電気エネルギに変換するアクチュエータと、
動吸振器おもりが、ばね要素および前記アクチュエータを介して前記つり合いおもりに吊り下げられてなる動吸振器と、
電力を蓄える蓄電装置と、
前記動吸振器のアクチュエータが前記乗りかごの縦振動エネルギから変換した電気エネルギを前記蓄電装置に蓄電する蓄電制御手段と、
前記乗りかごの運行条件にしたがい、前記動吸振器おもりの振動数が前記乗りかごの縦振動を抑制する振動数となるように、前記蓄電装置に蓄電された電力を利用して前記アクチュエータを振動させる振動制御手段と
を備えたことを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
シーブに巻き掛けられて乗りかごと連結されるつり合いおもりと、
振動エネルギを電気エネルギに変換するアクチュエータと、
動吸振器おもりが、ばね要素および前記アクチュエータを介して前記つり合いおもりに吊り下げられてなる第1の動吸振器と、
動吸振器おもりが、ばね要素およびアクチュエータを介して前記第1の動吸振器の動吸振器おもりに吊り下げられてなる第2の動吸振器と、
電力を蓄える蓄電装置と、
前記第1の動吸振器のアクチュエータが前記乗りかごの縦振動エネルギから変換した電気エネルギを前記蓄電装置に蓄電する蓄電制御手段と、
前記乗りかごの運行条件にしたがい、前記第2の動吸振器の動吸振器おもりの振動数が前記乗りかごの縦振動を抑制する振動数となるように、前記蓄電装置に蓄電された電力を利用して前記第2の動吸振器のアクチュエータを振動させる振動制御手段と
を備えたことを特徴とするエレベータ。
【請求項3】
前記乗りかごの縦方向の振動数を検出する振動検出手段をさらに備え、
前記振動制御手段は、
前記振動検出手段により検出した振動数が予め定められた条件を満たすように前記アクチュエータを振動させる
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記乗りかごの荷重値を検出する荷重検出手段と、
前記乗りかごのかご位置を検出するかご位置検出手段とをさらに備え、
前記振動制御手段は、
前記荷重検出手段による検出結果および前記かご位置検出手段による検出結果にしたがい、前記動吸振器おもりの振動数が前記乗りかごの縦振動を抑制する振動数となるように、前記蓄電装置に蓄電された電力を利用して前記アクチュエータを振動させる
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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