説明

エレメント発進架台

【課題】坑口が法面に開口するトンネルをエレメント牽引工法により施工する際に、発進架台の盛り代えや位置決めを容易にかつ確実に行う。
【解決手段】エレメント3を搭載し法面に沿って斜め下後方に順次盛り代え可能なスライドステージ21と、法面に沿って傾斜状態で設置されてスライドステージの前部を法面に沿って斜め下後方にスライド可能に支持するレール22と、スライドステージの両側に配列された複数の支柱23と、支柱に設置されて上下方向に位置を変えて配列された複数段のブラケット24からなり、それら複数段のブラケットの上下間隔を各段のエレメントの高さ寸法に対応して設定しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル施工技術に係わり、特にいわゆるエレメント牽引工法に適用するエレメント発進架台に関する。
【背景技術】
【0002】
非開削トンネル工法としてのエレメント牽引工法についてはたとえば特許文献1に開示がある。
これは角形断面のエレメントを発進位置から牽引して地中に順次貫入することにより、多数のエレメントをトンネル輪郭に沿って連結しつつ配列した後、その内部を掘削することでトンネルを施工するものであって、既存の線路や道路と立体交差してその下を横断する比較的小規模なトンネルであるアンダーパスの施工法として従来より広く採用されている。
【0003】
特に特許文献1に示されるエレメント牽引工法では、エレメントの発進位置に横行可能な発進台車を設置してその発進台車上からエレメントを地中に向けて牽引するようにしており、トンネルの上床版を施工する際には発進台車を順次横方向に移動させていくことによってエレメントを水平方向に配列するようにしている。
また、発進台車を横行可能とするのみならず昇降可能としておくことにより、トンネルの側壁版を施工する際には発進台車を順次降下させていくことによりエレメントを上下方向にも配列できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−262084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エレメント牽引工法により施工するトンネルの坑口が通常のトンネルのように鉛直面に開口している場合には、特許文献1に示されているように、側壁版の施工に際して発進台車を単に降下させていくことでエレメントを上下方向に配列することが可能であり、その施工を効率的に行うことが可能である。
しかし、たとえば土手状の線路敷の下を横断するアンダーパスのように坑口が法面(傾斜面)に開口している場合には、側壁版を施工するためのエレメントの長さが法面の傾斜に応じて下段のものほど長くなるばかりでなく、各エレメントの法面への貫入位置が下段のものほど後退していくことになる。
そのため、法面に対してエレメントを上下方向に配列する状態で貫入していくに際しては、各段のエレメントを貫入するごとに発進台車を降下させるのみならず法面に沿って後退させていく必要があり、そのため特許文献1に示されるような単なる発進台車をそのまま使用することはできず、発進架台の盛り代え作業や位置決め作業にかなりの手間と費用を要するものである。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明はエレメント牽引工法により坑口が法面に開口するトンネルを施工するに際して、盛り代えや位置決めを容易にかつ確実に行うことができ、以て施工性を改善し得る有効適切なエレメント発進架台を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エレメントを牽引して地中に貫入し、多数のエレメントを連結してトンネル輪郭に沿って配列することによってトンネルを構築するエレメント牽引工法に適用され、坑口が法面に開口する矩形断面のトンネルを施工するに際してトンネル側壁版を形成するためのエレメントを前記法面側から順次発進させて上下方向に配列するための発進架台であって、前記エレメントを搭載可能かつ前記法面に沿って斜め下後方に順次盛り代え可能なスライドステージと、前記法面に沿って傾斜状態で設置されて前記スライドステージの前部を前記法面に沿って斜め下後方にスライド可能に支持するレールと、前記スライドステージの両側に配列された複数の支柱と、前記支柱に設置されて上下方向に位置を変えて配列され、前記レールにより前部が支持されている前記スライドステージを水平姿勢としてその後部を支持する複数段のブラケットを有し、該ブラケットの上下間隔を各段のエレメントの高さ寸法に対応して設定したことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、前記スライドステージの後部に、両端部が各段のブラケットに対して係合離脱可能な支持梁を水平面内において旋回可能に設置し、該支持梁を介して前記スライドステージの後部を各段のブラケットに支持可能とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明においては、前記スライドステージの少なくとも後部を前記支柱からチェーンブロックにより吊持して、該チェーンブロックにより前記スライドステージを盛り代え可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発信架台によれば、スライドステージの前部を法面に沿って傾斜させたレールにより降下可能に支持するとともに、スライドステージの後部をエレメントの高さ寸法に相当する上下間隔を確保して配列した複数段のブラケットにより段階的に支持するものであるので、スライドステージを容易に盛り代えることができることはもとより、その盛り代えによりスライドステージがレールに沿って降下すると同時に斜め後方に自ずと後退し、したがって各段のエレメントを貫入するに際して各段におけるスライドステージの上下方向および前後方向の位置決めを容易にかつ確実に行うことが可能である。
【0011】
また、スライドステージの後部に旋回可能な支持梁を設け、それを旋回させることによってブラケットに対して係脱させるように構成することにより、スライドステージの後部を支持梁を介してブラケットにより安定かつ確実に支持できることはもとより、スライドステージを盛り代えるに際しては支持梁を旋回させることでブラケットをかわすことができるので、盛り代え作業に支障を来すこともない。
【0012】
さらに、スライドステージをチェーンブロックにより盛り代え可能に構成することにより、クレーン等の大型の重機を必要とすることなく容易に盛り代えが可能であり、その点でも施工性を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示すもので、施工するべきトンネル(アンダーパス)とその断面形状を示す図である。
【図2】同、側壁版の施工状況を示す平面図である。
【図3】同、側壁版の施工状況を示す断面図である。
【図4】同、発進架台を示す立面図である。
【図5】同、発進架台の前部を示す図である。
【図6】同、発進架台の後部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図6を参照して本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態は、図1(a)に示すように土手状の線路敷の下を横断するアンダーパスとしてのトンネルを施工する場合の適用例であって、(b)に示すように上床版1と両側の側壁版2とをそれぞれエレメント3の配列により形成し、底床版4と内部の隔壁版5を現場打ちコンクリート造により形成するようにしたものである。
本実施形態では、上床版1と側壁版2とを特許文献1に示されるエレメント牽引工法によって施工することを基本とするが、線路敷の両側面が法面(傾斜面)とされていることからトンネルの坑口はその法面に開口するものとなり、したがって各エレメント3は法面から地中に貫入させる必要があり、特に側壁版2を形成するためのエレメント3の貫入は法面の傾斜に対応させて行う必要があるため、本実施形態では側壁版用のエレメント3の法面への貫入を特殊な発進架台を用いて行うようにしている。
【0015】
本実施形態では、側壁版2の施工に際して、図2および図3に示すように、側壁版2を施工するべき位置において線路敷を挟んでその両側(到達側および発進側)に到達架台10と発進架台20を対向配置する。
到達架台10は、牽引ジャッキ11を搭載した昇降ステージ12を有しており、その前方に設置した反力杭13から牽引反力を取って発進架台20上からエレメント3をPC鋼撚り線14により地中に牽引するものであり、昇降ステージ12を各段のエレメント3の高さに相当する寸法ずつ段階的に降下させていくことによって各段のエレメント3を順次牽引して上下方向に配列するように構成されている。
【0016】
一方、発進架台20は、牽引するべきエレメント3を搭載するスライドステージ21を有しており、図4に示すようにそのスライドステージ21を到達架台10の昇降ステージ12と同様に各段のエレメント3の高さに相当する寸法ずつ段階的に降下させていくものではあるが、その際にはスライドステージ21を単に直下に降下させるのではなく、法面の傾斜に合わせて斜め後方に段階的に後退させるように構成されている。
【0017】
すなわち、この発進架台20は、法面に沿って傾斜状態で設置されてスライドステージ21の前部を斜め後方に降下可能に支持するためのレール22と、スライドステージ21の両側に配列された多数の支柱23と、それら支柱23に設置されて上記のレール22とほぼ平行な状態で配列されることによりスライドステージ21の後部を段階的に支持する複数段(図示例では5段)のブラケット24により構成されている。
【0018】
スライドステージ21は、図5〜図6に示すように鉄骨材からなるメインフレーム30上にサブフレーム31を介してステージ版33を固定したもので、その上面はエレメント3を容易に牽引可能なように充分に平滑とされているものである。
スライドステージ21の前部には、図5に示すように脚部34が設けられてその下端には車輪35が設けられており、スライドステージ21を盛り代える際にはその車輪34が上記のレール22上を転動することによりスライドステージ21全体がレール22に沿って斜め後方に降下していくようになっている。
スライドステージ21の後部には、図6に示すように支持梁36の中心が旋回軸37により軸支されて水平面内において旋回可能に設けられている。支持梁36はスライドステージ21の幅寸法よりもやや長くされていてその両端部が上記の各段のブラケット24のそれぞれに対して係合離脱可能とされており、各段のエレメント3を牽引する際には(a),(c)に示すように支持梁36の両端部をブラケット24に係合させることでスライドステージ21の後部を支持し、これにより上記のレール22により前部が支持されているスライドステージ21を水平姿勢で保持可能とされている。
また、スライドステージ21を盛り代える際には(b)に示すように支持梁36をブラケット24から離脱させて旋回させることにより、ブラケット24の位置をかわしてスライドステージ21の斜め後方への降下が許容されるようになっている。
【0019】
なお、スライドステージ21の前部を支持する上記のレール22は鉄骨材からなるもので、上記の支柱23に対してブラケット32により支持されて傾斜状態で設置されており、レール22の上面には車輪35の脱落を防止しかつ降下を案内するための凹溝が形成されている。
また、スライドステージ21の後部を支持梁36を介して支持する各段のブラケット24の上下間隔は、各段のエレメント3の高さ寸法に対応してそれに厳密に合致するように設定されており、したがって実質的に上記のレール22とほぼ同様に傾斜する状態で(つまり、法面の傾斜にほぼ合致する状態で)配列されている。
それら各段のブラケット24は、地盤に打ち込まれてほぼ等間隔で配列されている鉄骨からなる上記の支柱23に固定された主ブラケット38と、隣り合う2つの主ブラケット38上に跨るように横架されて固定された所定長のサブブラケット39からなり、そのサブブラケット39の長さの範囲内で支持梁36の係合位置(スライドステージ21の支持点)を前後に調整可能とされている。
【0020】
また、本実施形態ではスライドステージ21の盛り代えをクレーン等の重機を用いることなくチェーンブロック40の操作により行うことが可能とされている。
すなわち、図5(b)および図6に示すようにスライドステージ21の前部および後部はそれぞれチェーンブロック40によって支柱23から吊持可能とされていて、スライドステージ21を盛り代える際には図6(a)に示す状態から後部側のチェーンブロック40の操作によりスライドステージ21の後部を若干持ち上げ、ブラケット24に対する支持梁36の係合を解いた状態で支持梁36を旋回させ、その状態で各チェーンブロック40を同期させて操作することによりスライドステージ21全体を水平姿勢に保持しつつレール22により案内して斜め後方に降下させれば良い。そして(c)に示すように支持梁36を下段側のブラケット24に係合させれば1段分の盛り代えが完了し、スライドステージ21は自ずと水平姿勢となってレール22およびブラケット24により支持されることになる。
【0021】
以上のように、本実施形態の発進架台20によれば、スライドステージ21の前部を法面に沿って傾斜させたレール22により降下可能に支持するとともに、スライドステージ21の後部をエレメント3の高さ寸法に対応して上下間隔を設定した複数段のブラケット24により段階的に支持する構成であるので、スライドステージ21を盛り代える際にはレール22に沿って降下させることで同時に斜め後方に自ずと後退して下段のブラケット24により位置決めがなされ、したがって各段のエレメント3の貫入に際してのスライドステージ21の各段における上下方向および前後方向の位置決めを容易にかつ確実に行うことが可能である。
【0022】
また、スライドステージ21の後部に旋回可能な支持梁36を設け、それを旋回させることによってブラケット24に対して係脱させるように構成しているので、スライドステージ21の後部を支持梁36を介してブラケット24により安定かつ確実に支持できることはもとより、スライドステージ21を盛り代えるに際しては支持梁36を旋回させることのみでブラケット24をかわすことができるので盛り代え作業に支障を来すこともない。
【0023】
さらに、スライドステージ21をチェーンブロック40により盛り代え可能であるので、クレーン等の大型の重機を必要とすることなく容易に盛り代えが可能であり、その点でも施工性を改善することが可能である。
なお、上記実施形態では盛り代えに際してスライドステージ21の前部および後部の双方をそれぞれチェーンブロック40により吊持するようにしたが、スライドステージ21の前部は常にレール22により支持されつつ自ずと降下していくから、少なくともスライドステージ21の後部のみをチェーンブロック40により吊持してその操作のみで盛り代えることも可能であり、その場合は前部を吊持するチェーンブロック40は省略可能である。
【0024】
また、上記実施形態では、図4に示しているように最下段(6段目)のエレメント3を貫入する際にはスライドステージ21をレール22およびブラケット24から外して地盤面上(ピット底面上)に配置して行うようにしており、したがってその分だけレール22の長さは短く設定され、かつ最下段用のブラケット24は省略しているが、レール22の長さやブラケット24の段数、各ブラケット24の形態や位置、各ブラケット24の上下間隔は、牽引するべきエレメント3の段数とそれぞれの高さ寸法および法面の傾斜角度に対応させて現場毎に適宜設定すれば良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0025】
1 上床版
2 側壁版
3 エレメント
4 底床版
5 隔壁板
10 到達架台
11 牽引ジャッキ
12 昇降ステージ
13 反力杭
14 PC鋼材撚り線
20 発進架台
21 スライドステージ
22 レール
23 支柱
24 ブラケット
30 メインフレーム
31 サブフレーム
32 ブラケット
33 ステージ版
34 脚部
35 車輪
36 支持梁
37 旋回軸
38 主ブラケット
39 サブブラケット
40 チェーンブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレメントを牽引して地中に貫入し、多数のエレメントを連結してトンネル輪郭に沿って配列することによってトンネルを構築するエレメント牽引工法に適用され、坑口が法面に開口する矩形断面のトンネルを施工するに際してトンネル側壁版を形成するためのエレメントを前記法面側から順次発進させて上下方向に配列するための発進架台であって、
前記エレメントを搭載可能かつ前記法面に沿って斜め下後方に順次盛り代え可能なスライドステージと、
前記法面に沿って傾斜状態で設置されて前記スライドステージの前部を前記法面に沿って斜め下後方にスライド可能に支持するレールと、
前記スライドステージの両側に配列された複数の支柱と、
前記支柱に設置されて上下方向に位置を変えて配列され、前記レールにより前部が支持されている前記スライドステージを水平姿勢としてその後部を支持する複数段のブラケットを有し、
該ブラケットの上下間隔を各段のエレメントの高さ寸法に対応して設定したことを特徴とするエレメント発進架台。
【請求項2】
請求項1記載のエレメント発進架台であって、
前記スライドステージの後部に、両端部が各段のブラケットに対して係合離脱可能な支持梁を水平面内において旋回可能に設置し、該支持梁を介して前記スライドステージの後部を各段のブラケットに支持可能としたことを特徴とするエレメント発進架台。
【請求項3】
請求項2記載のエレメント発進架台であって、
前記スライドステージの少なくとも後部を前記支柱からチェーンブロックにより吊持して、該チェーンブロックにより前記スライドステージを盛り代え可能としたことを特徴とするエレメント発進架台。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate