説明

エンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法

【課題】過渡状態で運転しているエンジンの排気微粒子評価を時々刻々に行うことができるエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法を実現する。
【解決手段】供試エンジンについて、予め所定の点数の回転数及び負荷に設定した状態で運転し、エンジンから排出される粒子の粒径対個数濃度の分布を測定するとともに、粒子の粒径毎の有効密度を測定し、粒径対個数濃度の分布及び粒径毎の有効密度とから、回転数と負荷に対する、測定全粒径範囲にわたる排出粒子質量濃度をプロットして成る当該供試エンジンの粒子濃度マップデータを求めておき、評価用の過渡試験モード時のエンジン回転数及び負荷の瞬時値を所定の時間間隔で算出し、粒子濃度マップデータから、補間法で排出粒子質量濃度を時々刻々に求めるとともに、一定の運転期間又は所望の試験モードでのトータル質量濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個数濃度基準計測法によるエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの過渡運転状態で質量濃度測定ができる装置がなかったため、従来はフィルター捕集重量法によりモード毎の積算質量濃度をバッチで計測する方法が行われていた。
【0003】
そして、従来、過渡時の個数濃度分布が測定できる過渡粒径分布測定装置(例えばEEPS(Engine Exhaust Particle Size)など)は知られている。このような過渡粒径分布測定装置で直接過渡時での測定を行い、その結果と予め定義したあるいは文献値等から引用した粒子の有効密度とから過渡時の質量濃度を求める試みも行われ始めている。
【0004】
また、本出願人は、帯電粒子を含む気体を、同軸二重円筒状の内側電極と外側電極間の作動空間内に導入し、外向き遠心力と内向きの静電気力を作用させ、2つの力が釣り合う粒子のみを作動空間から取り出して粒子の質量測定を行うエアロゾル粒子質量分析器(APM)について、提案している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2517872号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記EEPS (Engine Exhaust Particle Sizer)などの個数濃度測定装置により過渡時の個数濃度を測定する場合、従来規制値との相関を知る上では個数濃度と質量濃度の関係を把握しておく必要があり、そのためには粒子密度が既知である必要があった。しかし、従来は上述のように文献値等からの引用であり現実とは相違した仮定値を利用する場合が殆どで、正確な計測が行えていなかった。
【0006】
また、最近良く利用されるようになってきたとは言えEEPSなどの過渡粒径分布測定装置は、未だ校正方法が十分確立されていないため、定常測定に利用されるSMPS(Scanning Mobility Particle Sizer)などに比べ、ディーゼル排気粒子などに対しては正確な粒径分布の測定が難しいことが問題であり、より高精度な測定が行える装置の開発が望まれてきた。
【0007】
一方、自動車の排気微粒子評価のための試験方法も定常試験から過渡モード試験に変更されつつあるが、トラックやバスなどの大型のディーゼル車を過渡運転させるための試験装置(例えば大型シャシーダイナモ実験設備など)は非常に大きく高額となるためそれを保有する機関は極希で、事実上大型車の過渡走行モードでの実験は不可能である。
【0008】
このため、燃費測定でも定常時のマップデータから過渡状態のエンジン回転数、負荷を推定し補間したマップデータにより燃費値を推定する方法が用いられているが、排気微粒子評価にも同様の手法の適用が望まれてきた。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的とし、過渡状態で運転しているエンジンの排気微粒子評価を時々刻々に行うことができるエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、供試エンジンについて、予め所定の点数の回転数及び負荷に設定した状態で運転し、エンジンから排出される粒子の粒径対個数濃度の分布を測定するとともに、粒子の粒径毎の有効密度を測定し、前記測定して得られた粒径対個数濃度の分布及び粒径毎の有効密度とから、回転数と負荷に対する、測定全粒径範囲にわたる排出粒子質量濃度をプロットして成る当該供試エンジンの粒子濃度マップデータを求めておき、評価用の過渡試験モード時のエンジン回転数及び負荷の瞬時値を所定の時間間隔で算出し、前記粒子濃度マップデータから、補間法で排出粒子質量濃度を時々刻々に求めるとともに、一定の運転期間又は所望の試験モードでのトータル質量濃度を求めることを特徴とするエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上のような構成から成る本発明に係るエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法によれば、次のような効果が生じる。
(1)大型車の過渡モード測定を定常状態から推定できるため、大型で高額のシャシーダイナモメータ実験設備を必要としない。
(2)個数濃度計測から過渡時の質量濃度を、簡易・迅速かつ排気微粒子中に含まれる揮発成分に対する温度等の影響を殆ど受けずに、時々刻々に求めることができるとともに、一定の運転期間又は所望の試験モードでのトータル質量濃度を求める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る個数濃度基準計測法によるエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法を実施するための最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【0013】
本発明に係る過渡粒子質量排出濃度の計測方法では、予め所定の点数の回転数及び負荷に設定した状態での定常試験(予め回転数及び負荷の複数の組み合わせのそれぞれについて行う定常試験)により、排出される粒子について、「粒径対個数濃度の分布」を、例えばSMPS など信頼性のある粒径分布測定装置により測定するとともに、「粒径毎の有効密度」をDMA-APM (微分型微粒子分級法−エアロゾル粒子質量分析法)法により求め、両者の測定結果から全粒径範囲に渡る排出粒子質量濃度を、入手しておき、供試エンジンの粒子濃度マップデータを作成する。
【0014】
この粒子濃度マップデータは、粒子濃度毎に、回転数(横軸)と負荷(縦軸)の変化を示すグラフである。
【0015】
そして、このような粒子濃度マップデータを利用すれば、評価用の過渡試験モード時のエンジン回転数及び負荷の瞬時値を所定の時間間隔で算出し、粒子濃度マップデータから補間法で瞬時排出粒子質量濃度を求めることで、過渡時の排出粒子濃度を時々刻々に推定可能とするとともに、一定の運転期間又は所望の試験モードでのトータル質量濃度が測定可能となる。本発明を、以下に実施例でさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0016】
本発明に係る過渡粒子質量排出濃度の計測方法では、供試エンジンについて、予め所定の点数の回転数及び負荷に設定した状態で、各設定回転数及び負荷について、定常試験により、エンジンから排出される粒子の「粒径対個数濃度の分布」を測定するとともに、その粒子の「粒径毎の有効密度」を測定する。
【0017】
この場合、「粒径対個数濃度の分布」を測定する粒径分布測定装置として、この実施例では、SMPSを利用する。SMPSでは、被測定微粒子を、微分型微粒子分級装置(DMA)で分級してから、凝縮核粒子計数器(Condensation Particle Counter; CPC)で計数することにより、粒径対個数濃度(分布)が得られる。即ち、図1(a)に示すような粒径(横軸)に対する個数濃度(個数)の分布状態のデータを得ることができる。
【0018】
また、「粒径毎の有効密度」は、微分型微粒子分級装置(DMA)で分級し、得られ粒径の値から粒子を球と仮定して粒径毎の体積を算出し、その後、エアロゾル粒子質量分析器(APM)により、粒径毎の粒子質量を求めることで、図1(b)に示すような「粒径毎の有効密度」が求められる。
【0019】
図2(a)は、エアロゾル粒子質量分析器(APM)1の概要を説明する図である。エアロゾル粒子質量分析器(APM)1は、共に同じ速度で回転する同軸二重円筒状の内側電極3と外側電極4を備えており、それぞれブラシ3’、4’を介して電圧Vが印加されている。
【0020】
測定すべき微粒子を含む試料気体を粒子帯電装置2を通して、微粒子に帯電させる。この帯電粒子を含む気体を、共に同じ速度で回転する同軸二重円筒状の内側電極3と外側電極4間の作動空間5内に導入する。
【0021】
導入された帯電粒子6は、図2(b)に示すように、外向きの遠心力と内向きの静電気力が作用し、重い粒子は遠心力外側電極4側に飛ばされて外側電極4の内面に付着し、軽い粒子は静電気力で内側電極3側に引き寄せられ、2つの力が釣り合う粒子のみが作動空間5を通過し外部に取り出される。
【0022】
粒子に作用する2つの力の釣り合いは次式(1)で表すことができる。なお、式(1)中、mは粒子質量、rは粒子の動径座標、ωは電極の回転角速度、qは粒子の帯電量、Vは電極印加電圧、r、rは作動空間5の内外半径である。
mrω=qV/rIn(r/r) ………(1)
【0023】
この式(1)から粒子質量mを測定できる。
【0024】
このようにして、各設定回転数及び負荷について、得られた「粒子の粒径対個数濃度」及び「粒子の粒径毎の有効密度」のデータから、回転数と負荷に対する、測定全粒径範囲にわたる排出粒子質量濃度をプロットして成る当該供試エンジンの粒子濃度マップデータを作成する。
【0025】
この粒子濃度マップデータは、図3に示すように、回転数(横軸)に対して負荷(縦軸)の座標上に排出粒子質量濃度がプロットされ、等しい排出粒子質量濃度を結んでなる複数の線が描かれた線図である。
【0026】
具体的には、このような粒子濃度マップデータの作成は、「粒子の粒径対個数濃度」及び「粒子の粒径毎の有効密度」のデータから、粒子濃度マップを作成するソフトがメモリに搭載されたコンピュータによって行われる。
【0027】
即ち、粒子濃度マップデータは、図4に示すコンピュータ5の入力部に、「粒子の粒径対個数濃度」及び「粒子の粒径毎の有効密度」のデータが入力され、コンピュータのメモリに搭載されている粒子濃度マップ作成ソフト(「粒子の粒径対個数濃度」及び「粒子の粒径毎の有効密度」のデータから、粒子濃度マップを作成するソフト)に従って、CPUが動作し、粒子濃度マップが作成され、コンピューの記憶装置に記憶させる。
【0028】
過渡試験モードで運転した評価エンジンから排出される排出粒子質量濃度を求める場合には、過渡試験モード時のエンジン回転数及び負荷の瞬時値を所定の時間間隔で算出する。
【0029】
そして、所定の時間間隔で算出されたエンジン回転数及び負荷の瞬時値のデータをコンピュータに入力し、上記のとおり、予め作成され、コンピュータ記憶されている粒子濃度マップデータに基づき、コンピュータの演算機能によって、上記のエンジン回転数及び負荷の各算出値に対応して、補間法(与えられた点以外の曲線上の点を、この与えられた点を手がかりに推定する方法)で排出粒子質量濃度を時々刻々に算出されて出力することができるとともに、一定の運転期間又は所望の試験モードでのトータル質量濃度を出力することができる。
【0030】
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る過渡粒子質量排出濃度の計測方法は、以上のような構成であるから、ディーゼル自動車等の排出濃度計測に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は粒子の粒径対個数濃度の分布を説明する図であり、(b)は粒子の粒径毎の有効密度を説明する図である。
【図2】(a)はエアロゾル粒子質量分析器(APM)の概要を説明する図であり、(b)はAPMの動作を説明する図である。
【図3】粒子濃度マップデータを説明する図である。
【図4】本発明のデータ処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
1 エアロゾル粒子質量分析器(APM)
2 粒子帯電装置
3 内側電極
3’、4’ ブラシ
4 外側電極
5 作動空間
6 帯電粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試エンジンについて、予め所定の点数の回転数及び負荷に設定した状態で運転し、エンジンから排出される粒子の粒径対個数濃度の分布を測定するとともに、粒子の粒径毎の有効密度を測定し、
前記測定して得られた粒径対個数濃度の分布及び粒径毎の有効密度とから、回転数と負荷に対する、測定全粒径範囲にわたる排出粒子質量濃度をプロットして成る当該供試エンジンの粒子濃度マップデータを求めておき、
評価用の過渡試験モード時のエンジン回転数及び負荷の瞬時値を所定の時間間隔で算出し、前記粒子濃度マップデータから、補間法で排出粒子質量濃度を時々刻々に求めるとともに、一定の運転期間又は所望の試験モードでのトータル質量濃度を求めることを特徴とするエンジンからの過渡粒子質量排出濃度の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−75004(P2009−75004A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245789(P2007−245789)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究事業 「次世代低公害車技術開発プログラム/革新的次世代低公害車総合技術開発/次世代自動車の総合評価技術開発」産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】