説明

エンジンのオイルシール潤滑装置

【課題】オイルシールへの給油用の格別な部材を不要として、部品点数を増加することなく簡単な構造で且つ低コストの装置で以って、オイルシールへのオイル供給を十分に行なって該オイルシールの過熱及びこれに伴うオイルの漏洩さらにはオイルシールの焼損の発生を防止したエンジンのオイルシール潤滑装置を提供する。
【解決手段】クランク軸の軸端部に取付けられたディスクの側面に摺接して該ギヤ室と外部との間の流体のシールを行なうオイルシールをそなえたエンジンのオイルシール潤滑装置であって、クランクケースの内部に設けられたメインギャラリーに連通し、該メインギャラリーからのオイルを前記オイルシールの摺接部に向けて噴出するオイル噴出ノズルを前記クランクケースの端部に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンのクランク軸端部に装備されたオイルシールの潤滑等に適用され、クランク軸の軸端部に取付けられたディスクの側面に摺接して該ギヤ室と外部との間の流体のシールを行なうオイルシールをそなえたエンジンのオイルシール潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速ディーゼルエンジンにおいては、クランク軸の軸端部に円板状のディスクを取付け、該ディスクの側面に摺接する円板面摺接型のオイルシールを設けて、該オイルシールによって、クランク軸端部におけるギヤ室と外部との間の流体のシールを行なうようにしたオイルシール潤滑装置をそなえたものがある。
かかるエンジンにおいては、クランク軸と直結して高速回転している円板状のディスクに摺接するオイルシールの過熱によるオイル洩れを防止するため、該オイルシールにギヤ室側から油滴を落下させ、この油滴でオイルシールを冷却する手段が採られている。
【0003】
また、エンジンのオイルシール潤滑装置の一例として、特許文献1(特開2000−282828号公報)の技術が提供されている。
かかる技術においては、クランク軸に直結されるクランクプーリに摺接するオイルシールを設けるとともに、圧力制御弁付きのオイルポンプを設け、エンジンの冷機状態始動時に、オイルポンプから吐出され圧力制御弁で高圧に制御されたオイルをオイルシールに供給することにより、該オイルシールの潤滑性を向上するとともに、オイル洩れを防止している。
【0004】
【特許文献1】特開2000−282828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、従来技術に係る、オイルシールの過熱によるオイル洩れを防止するため、オイルシールにギヤ室側から落下させた油滴によりオイルシールを冷却する手段では、ギヤ室内のオイル飛沫による自然給油であるため、十分なオイルシールへの給油量が得られず、特にクランク軸と直結して高速回転している軸部にオイルシールを装着している高速エンジンの場合は、オイル不足によるオイルシールの過熱、焼損が発生し易くなる。
【0006】
また、特許文献1の技術にあっては、圧力制御弁付きのオイルポンプから高圧に制御されたオイルをオイルシールに供給するため、前記従来技術のようなオイル不足によるオイルシールの過熱、焼損の発生は回避できるが、圧力制御弁付きのオイルポンプや該オイルポンプからオイルシールの潤滑部までのオイル配管等の格別な部材が必要となって、装置が複雑で部品点数も多くなり、装置コストが上昇する。
等の問題を有している。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、オイルシールへの給油用の格別な部材を不要として、部品点数を増加することなく簡単な構造で且つ低コストの装置で以って、オイルシールへのオイル供給を十分に行なって該オイルシールの過熱及びこれに伴うオイルの漏洩さらにはオイルシールの焼損の発生を防止したエンジンのオイルシール潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、クランク軸の軸端部に取付けられたディスクの側面に摺接して該ギヤ室と外部との間の流体のシールを行なうオイルシールをそなえたエンジンのオイルシール潤滑装置であって、クランクケースの内部に設けられたメインギャラリーに連通し、該メインギャラリーからのオイルを前記オイルシールの摺接部に向けて噴出するオイル噴出ノズルを前記クランクケースの端部に設けたことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
かかる発明において、好ましくは、前記オイル噴出ノズルは、前記クランクケースの端面に着脱可能に取り付けられたノズル部材に、前記オイルシールの摺接部に向けてオイルを噴出可能に穿孔され、該オイル噴出ノズルの入口側を前記メインギャラリーに接続されるオイル溜めに連通し、前記メインギャラリーからのオイルを前記オイル溜めに溜めてから前記オイル噴出ノズルから噴出するように構成する(請求項2)。
【0010】
またかかる発明において、好ましくは、前記オイル噴出ノズルを複数個設け、該複数個のオイル噴出ノズルから前記オイルシールの摺接部の複数箇所にオイルを噴出するように構成する(請求項3)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メインギャラリーからの加圧オイルをオイル噴出ノズルに導き、クランク軸の軸端部に取付けられたディスクの側面、具体的にはクランク軸心に直角な面に摺接して該ギヤ室と外部との間の流体のシールを行なうオイルシールに向けて前記オイル噴出ノズルから高速のオイルジェットを噴出させ、該オイルシールの摺接部を冷却し潤滑するので(請求項1)、該オイルシールの摺接部はメインギャラリーからのオイルを所要の内径に設定された小径のオイル噴出ノズルから噴出される高速のオイルジェットにより十分な油膜が形成されて潤滑されるとともに、かかる高速のオイルジェットの冷却作用によって前記オイルシールの摺接部の温度上昇を抑制できて、前記オイルシールの摺接部を過熱することなく、かかる過熱によるオイルシール部からのオイル洩れの発生を回避できる。
また、メインギャラリーからクランクケースの内部を通してオイル噴出ノズルに導くことができるので、格別なオイル配管を設ける等の部品点数の増加を伴うことなく、簡単な構造で、且つ低コストの装置で以って、オイルシール摺接部の冷却効果及びオイル洩れの防止効果を向上できる。
【0012】
また、前記オイル噴出ノズルをクランクケースの端面に着脱可能に取り付けられたノズル部材にオイルシールの摺接部に向けてオイルを噴出可能に穿孔して形成し、該オイル噴出ノズルの入口側をメインギャラリーに接続されるオイル溜めに連通してメインギャラリーからのオイルを該オイル溜めに溜めてから、前記オイル噴出ノズルから噴出するように構成し(請求項2)、さらには、前記オイル噴出ノズルを複数個設け、該複数個のオイル噴出ノズルから前記オイルシールの摺接部の複数箇所にオイルを噴出するように構成すれば(請求項3)、複数のオイル噴出ノズルから噴出されるオイルによって、オイルシールの摺接部を円周方向において万遍なく冷却、潤滑することができて、オイルシールの摺接部をオイル不足部分の発生を見ることなく均一に冷却及び潤滑することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
図1は本発明の実施例に係るディーゼルエンジンのクランク軸端部オイルシール潤滑装置のクランク軸心線に沿う要部断面図、図2は図1におけるA矢視図である。
図1〜2において、1はクランクケース、14は内部にタイミングギヤ15が収納されたギヤ室、13は該ギヤ室14を形成するギヤケースである。8はクランク軸、12は該クランク軸8の軸端部にスプライン嵌合によって固定されたクランクギヤである。
11は円板状のディスクで、前記クランク軸8の軸端部に、前記クランクギヤ12と並設されて、スプライン嵌合あるいは圧入によって固定されている。
【0014】
10は前記ギヤケース13の内周に固定された円板面摺接型のオイルシールで、前記ディスク11の側面、具体的にはクランク軸心に直角な側面11aに摺接しており、該オイルシール10によって、クランク軸8の軸端部におけるギヤ室14と外部との間の流体のシールを行なうようになっている。
【0015】
2は前記クランクケース1の内部に設けられたメインギャラリーである。6は前記クランクケースの端面に複数のボルト6aにより着脱可能に取り付けられたノズル部材、7は該ノズル部材6に1個(2個以上でもよい)穿孔されたオイル噴出ノズルである。
5は前記クランクケース1の端面に凹接され前記ノズル部材6で覆蓋されたオイル溜めで、該オイル溜め5に前記オイル噴出ノズル7の入口端が開口されている。前記オイル噴出ノズル7は、図2のように、前記オイルシール10の摺接部に向けてオイルジェット7aを噴出するように方向づけて穿孔されている。
この実施例では、図2のように、前記ノズル部材6に穿孔されたオイル噴出ノズル7を2個設けて、オイルシール10の摺接部の2箇所に向けてオイルジェット7aを噴出するようになっているが、前記ノズル部材6に穿孔されたオイル噴出ノズルを1個設けてもよい。
【0016】
また、前記オイル溜め5は、オイル通路3及びオイル通路4を介して前記メインギャラリー2に接続され、該メインギャラリー2内のオイルがオイル通路3、4を通してオイル溜め5に供給され、該オイル溜め5内に溜められたオイルが前記オイル噴出ノズル7からオイルシール10の摺接部に向けて噴出されるようになっている。
【0017】
かかる実施例において、前記メインギャラリー2からのオイルは、前記オイル通路3及びオイル通路4を通してオイル溜め5に導入される。そして、該オイル溜め5内に一旦溜められたオイルは、オイル噴出ノズル7からオイルシール10の摺接部に向けて噴出せしめられて、該摺接部を冷却し、潤滑する。
【0018】
かかる実施例によれば、メインギャラリー2からの加圧オイルをオイル噴出ノズル7に導き、該オイル噴出ノズル7から高速のオイルジェット7aをオイルシール10に向けて噴出させ、該オイルシール10の摺接部を冷却し、潤滑するので、該オイルシール10の摺接部はメインギャラリー2からのオイルを、所要の内径に設定された小径のオイル噴出ノズル7から噴出される高速のオイルジェット7aにより十分な油膜が形成されて潤滑されるとともに、かかる高速のオイルジェット7aの冷却作用によって前記オイルシール10の摺接部の温度上昇を抑制できて、前記オイルシールの摺接部を過熱することなく、かかる過熱によるオイルシール10部からのオイル洩れの発生を回避できる。
また、オイルを、前記メインギャラリー2からクランクケース1の内部を通してオイル噴出ノズル7に導くことができるので、格別なオイル配管を設ける等の部品点数の増加を伴うことなく、簡単な構造で、且つ低コストの装置で以って、オイルシール10の接部の冷却効果及びオイル洩れの防止効果を向上できる。
【0019】
また、前記オイル噴出ノズル7をクランクケース1の端面に着脱可能に取り付けられたノズル部材6にオイルシール10の摺接部に向けてオイルを噴出可能に穿孔して形成し、該オイル噴出ノズル7の入口側をメインギャラリー2に接続されるオイル溜め5に連通して、メインギャラリー2からのオイルを該オイル溜め5に溜めてから、前記オイル噴出ノズル7から噴出するように構成し、さらには、前記オイル噴出ノズル7を2個設け、該2個のオイル噴出ノズル7,7から前記オイルシール10の摺接部の2箇所にオイルを噴出するように構成したので、複数のオイル噴出ノズル7,7から噴出されるオイルによって、オイルシール10の摺接部を円周方向において万遍なく冷却、潤滑することができて、該オイルシールの摺接部をオイル不足部分の発生を見ることなく均一に冷却及び潤滑することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、オイルシールへの給油用の格別な部材を不要として、部品点数を増加することなく簡単な構造で且つ低コストの装置で以って、オイルシールへのオイル供給を十分に行なって該オイルシールの過熱及びこれに伴うオイルの漏洩さらにはオイルシールの焼損の発生を防止したエンジンのオイルシール潤滑装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係るディーゼルエンジンのクランク軸端部オイルシール潤滑装置のクランク軸心線に沿う要部断面図である。
【図2】図1におけるA矢視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 クランクケース
2 メインギャラリー
3、4 オイル通路
5 オイル溜め
6 ノズル部材
7 オイル噴出ノズル
7a オイルジェット
8 クランク軸
10 オイルシール
11 ディスク
11a 側面
13 ギヤケース
14 ギヤ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸の軸端部に取付けられたディスクの側面に摺接して該ギヤ室と外部との間の流体のシールを行なうオイルシールをそなえたエンジンのオイルシール潤滑装置であって、クランクケースの内部に設けられたメインギャラリーに連通し、該メインギャラリーからのオイルを前記オイルシールの摺接部に向けて噴出するオイル噴出ノズルを前記クランクケースの端部に設けたことを特徴とするエンジンのオイルシール潤滑装置。
【請求項2】
前記オイル噴出ノズルは、前記クランクケースの端面に着脱可能に取り付けられたノズル部材に、前記オイルシールの摺接部に向けてオイルを噴出可能に穿孔され、該オイル噴出ノズルの入口側を前記メインギャラリーに接続されるオイル溜めに連通し、前記メインギャラリーからのオイルを前記オイル溜めに溜めてから前記オイル噴出ノズルからオイルを噴出するように構成されたことを特徴とする請求項1記載のエンジンのオイルシール潤滑装置。
【請求項3】
前記オイル噴出ノズルを複数個設け、該複数個のオイル噴出ノズルから前記オイルシールの摺接部の複数箇所にオイルを噴出するように構成されたことを特徴とする請求項1記載のエンジンのオイルシール潤滑装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−263076(P2007−263076A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92125(P2006−92125)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】