説明

エンジンのピストン構造

【課題】ピストンの重量バランスを改善しつつピストンを軽量化する。
【解決手段】クラウン部(5)はピストンピンボス部(26)を挟んで吸気側が排気側に比べて相対的に重くなる形状を有している。ピストン(1)のランド部(20)の下面において、サイドウォール部(25)の上方領域に下方に向けて開放した窪み(30)が形成されている。窪み(30)内には、ランド部(20)とサイドウォール部(25)との間に延びる2つのリブ(31)が形成されており、ピストンピンボス部(26)を挟んで吸気側のリブ(31a)が肉厚に形成され、排気側のリブ(31b)が肉薄に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダに嵌装されて燃焼室を画成するエンジンのピストン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はピストンの典型例を開示している。ピストンは、燃焼形状を形成するクラウン部と、このクラウン部の外周縁から垂下する外周面を備えたランド部とを有し、このランド部の外周面に、シールリング、オイルリングを収容する複数の円周溝が形成されている。ピストンは、また、ランド部から下方に垂下する一対のスカート部と、この一対のスカート部同士を連結するサイドウォール部に形成されたピストンピンボス部とを有し、ピストンピンボス部に穿設されたピン孔には、コンロッドの小端部を貫通したピストンピンが挿入される。
【0003】
ピストンはエンジンのシリンダ内に嵌装されて往復動するものであり、ピストンピンを中心として、その左右の重量バランスが不適であると、シリンダ内での円滑な往復動が阻害される要因となる。
【0004】
特許文献2は、燃焼室内にタンブル流が生成されるように、クラウン部の上面の中央部を突出させると共に上面の一部を大きく陥没させたピストンを開示している。ピストンのクラウン部は燃焼室の形状を規定する主要な要素となるため、上面の形状に関して数多くの提案が行われている。これらの提案は、地球温暖化防止のためにエンジンの燃焼効率を高めて燃料消費量の一層の低下を求める環境面からの要請に応じる意図を含んでいる。
【特許文献1】特開2001−295696号公報
【特許文献1】特開2001−241426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピストンのクラウン部の形状に関する工夫はエンジンの燃焼を最適化することを主眼としたものであり、この工夫の結果、ピストンピンを中心としたピストンの左右の重量バランスを阻害してしまう可能性を含む。ところで、自動車の燃料消費量を低下させるために、自動車部品一つ一つを軽量化する努力が絶え間なく行われており、このことはピストンとて例外ではない。
【0006】
このような背景の下で本発明が案出されたものであり、本発明の目的は、例えばクラウン部などの形状を工夫する等のピストンの設計の際にピストンの重量バランスの確保が難しくなったときに、この重量バランスを改善しつつピストンの軽量化にも寄与することのできるエンジンのピストン構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
シリンダに往復動可能に嵌装されてエンジンの燃焼室を画成するピストンであって、
前記燃焼室の形状を形成するクラウン部と、
該クラウン部の外周縁から垂下する外周面を備え、該外周面にシールリング、オイルリングを収容するシールリング収容溝及びオイルリング収容溝が形成されたランド部と、
該ランド部から下方に垂下する一対のスカート部と、
該一対のスカート部同士を連結するサイドウォール部と、
該サイドウォール部に形成されたピストンピンボス部とを備えたエンジンのピストン構造において、
前記クラウン部が前記ピストンピンボス部を中心にして一側が他側に比べて重量的にアンバランスな構造を有し、
前記ランド部の下面において、前記サイドウォール部の上方領域に、下方に向けて開放した窪みが形成され、
該窪み内に前記ランド部と前記サイドウォール部とを連結し且つ前記ピストンピンボス部を挟んで位置する少なくとも2つのリブを有し、
前記ピストンピンボス部を中心にして前記クラウン部の相対的に重量の軽い側に位置する第1リブが重い側に位置する第2リブよりも重量が重くなるように設定されていることを特徴とするエンジンのピストン構造を提供することにより達成される。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ランド部の下面に窪みを形成し、この窪み内にリブを設けることによりピストンの軽量化が可能となるだけでなく、この窪み内のリブを、ピストンピンボス部を挟んで少なくとも2つ設けると共に、この一側と他側に位置するリブの相対的な重量を異ならせることにより、この重量の異なるリブによってクラウン部の形状に伴う当該クラウン部の重量面でのアンバランスを抑制することができる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態では、クラウン部の相対的に重量の軽い側に位置する第1リブが重い側に位置する第2リブよりも肉厚に形成される。このようにリブの肉厚を変えることで上述したクラウン部の重量面でのアンバランスを抑制することができることは勿論であるが、更に、この肉厚のリブに、オイルリング収容溝とピストンピンボス部のピン孔とに連通するオイル供給孔を形成することで、オイルリング収容溝のオイルの供給通路を効率的に配置することができる。
【0010】
本発明を適用することのできるクラウン部の形状の好適な例として、前記クラウン部の上面に上方に隆起したリング状部分と、該リング状部分で囲まれた中央凹所とを有し、前記リング状部分が、前記ピストンピンボス部を中心にして一側と他側とで高さの異なる形状を備えたピストンを挙げることができる。このピストンは後に説明するように、エンジンの燃焼形態を「後期重心型燃焼」にすることができ、これによりノッキングを防止しつつ高圧縮比を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を詳しく説明する。図1〜図7は実施例のピストンを示し、図8は、実施例のピストンのクラウン部の形態を採用することによりエンジンの耐ノッキング性能を向上させることのできる例を示す。
【0012】
説明の都合上、先ず図8を参照して、実施例のピストン1は、ガソリンエンジンのシリンダ2内に嵌装され、このピストン1の往復動はコンロッド(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に伝達され、このクランクシャフトによって回転運動として出力される。
【0013】
エンジンの燃焼室4はピストン1のクラウン部5の形状及びシリンダヘッド6の表面形状によって規定され、この燃焼室4は従来から周知のペントルーフ型が採用されている。参照符号7は排気ポートを示し、8は吸気ポートを示し、これら排気ポート7と吸気ポート8は、夫々、排気バルブ9、吸気バルブ10によってクランクシャフトの回転に同期した所定のタイミングで開閉される。また、排気ポート7と吸気ポート8はペントルーフ型燃焼室4の傾斜した一側と他側に配置され、これら排気ポート7と吸気ポート8の間の略中間部分に点火プラグ11が配設されている。
【0014】
ピストン1のクラウン部5は、平面視したときに、外周縁部分13と中央部分14とで挟まれ且つ上方に隆起したリング状部分15を有する。すなわち、ピストン1のクラウン部5は、上方に隆起したリング状部分15を挟んで外周側に位置する外周縁部分13及び中央部分14が凹所を形成している。そして、リング状部分15の全周において、排気側部分15aと吸気側部分15bとが比較的低く、排気側と吸気側との境界部分15cが相対的に高くなる形状に形作られている。そして、好ましくは、排気側部分15aが吸気側部分15bに比べて高くなるように形作られているのがよい。したがって、上方に隆起したリング状部分15は、好ましくは、吸気側部分15b、排気側部分15a、境界部分15cの順に高さ寸法が大きくなるように設計される(吸気側部分15b<排気側部分15a<境界部分15c)。
【0015】
図8は、ピストン1が上死点近傍に位置している状態を図示するものであるが、同図から理解できるように、ピストン1のリング状部分15において、その排気側部分15aは、吸気側部分15bに比べて燃焼室4の空間(d1<d2)を狭めることができる。
【0016】
ピストン1のクラウン部5の上記の形状を採用することにより、クラウン部5の外周縁部分13は二次的な燃焼空間を構成する。そして、ピストン1の中央凹所14に臨む点火プラグ11の点火によって燃焼室4に火炎核が形成されると、その火炎面が略球状に広がりながら燃焼が進行して燃焼室4内の圧力が急激に上昇する(膨張行程)。そして、上昇した筒内圧力によってピストン1が押し下げられる。この膨張行程での燃焼について説明すると、前期の主燃焼期間(燃料質量の10%〜90%が燃焼する主燃焼期間のうち、10%以上50%未満が燃焼する期間)では比較的低速で燃焼が行われ、後期の主燃焼期間(燃料質量の50%以上90%未満が燃焼する期間)では比較的高速で燃焼が行われる。このように、上記のクラウン部5の形状を採用することにより後期の主燃焼期間が主体となる燃焼形態にすることができる(このような燃焼形態を「後期重心型燃焼」と呼ぶことにする)。
【0017】
具体的に説明すると、クラウン部5の中央部分14を構成する第1凹所(中央凹所)と排気側の外周縁部分13との間はリング状部分15の比較的大きく隆起した排気側部分15aによって燃焼室4が狭められている(d1)。したがって、クラウン部5の中央凹所14で形成された火炎核が略同心球状に広がる過程で、リング状部分15によって一種の絞り作用を受け、この影響を受けて火炎が外周方向に伝播されるのが抑制される。このことから、クラウン部5の中央凹所14における燃焼速度が比較的低く抑えられる(前期主燃焼期間)。そして、火炎面(火炎伝播の最前線)がリング状部分15を越えると、クラウン部5の外周縁部分13で比較的高速に火炎が伝播する(後期主燃焼期間)。
【0018】
上述したように、リング状部分15のうち、比較的低温の吸気バルブ10が臨む吸気側部分15bに比べて、高温の排気バルブ9が臨む排気側部分15aを相対的に大きく隆起させた形状としてある。この構成による利点は、次の問題点、つまりピストン1のクラウン部5の全領域のうち排気側への火炎伝播が相対的に急速に進み、吸気側への火炎伝播が相対的に遅くなるという燃焼速度の不均一な状態の発生を抑制することにある。そして、上述のクラウン部5の形状を採用して後期重心型燃焼を実現することにより、ノッキングを防止しつつ高圧縮比を実現することができる。
【0019】
図1、図2、図3などを参照して、ピストン1は、従来と同様に、クラウン部5の外周縁から垂下する外周面を備えたランド部20を有し、このランド部20の外周面に、シールリング収容溝21、22、オイルリング収容溝23が形成されている。また、ピストン1は、ランド部20から下方に垂下する一対のスカート部24、24と、この一対のスカート部24、24同士を連結するサイドウォール部25に形成されたピストンピンボス部26とを有する。一対のピストンピンボス部26には、同一軸線上に位置するピストンピン(図示せず)が挿入されるピン孔27が夫々形成されている。
【0020】
なお、ピストン1のクラウン部5を前述した形状にしたことに関連して、図1を参照すると良く理解できるように、一対のピン孔27、27の軸線L(図4)を挟んで排気側と吸気側とで形状が異なっており、クラウン部5だけに注目すれば、排気側の方が吸気側に比べて重量が重い。
【0021】
図6、図7を参照すると最も良く分かるように、ランド部20の下面において、サイドウォール部25の上方領域に下方に向けて開放した窪み30が形成されている。この窪み30は、図2から最もよく分かるように、上方つまり深部に行くほどピストン中心に接近するように斜めに配置されている。そして、図1、図5に現れてるように、窪み30内には、ランド部20とサイドウォール部25との間に延び且つ両者20、25を連結する複数のリブ31が形成されており、図示の実施例では、ピストンピンボス部26を挟んで左右に一対形成されている。
【0022】
一つ窪み30に含まれる複数のリブ31のうち、吸気側に位置する第1リブ31aは比較的肉厚のリブとされ、排気側に位置する第2リブ31bは相対的に肉薄のリブとされて、クラウン部5の形状によって当該クラウン部5の重量が相対的に軽い吸気側の第1リブ31aが、相対的に重い排気側の第2リブ31bよりも相対的に重くなるように設定されている。すなわち、上述したクラウン部5の形状に関連し、クラウン部5はピストンピンボス部26を挟んで吸気側が排気側に比べて相対的に重くなる形状を有している。したがって、吸気側に位置する第1リブ31aを、排気側に位置する第2リブ31bに比べて重くなるように(例えば肉厚)することで、上述したクラウン部5の形状に伴う当該クラウン部5での重量面でのアンバランスを改善することができる。つまり、クラウン部5の形状に伴う重量バランスの不均衡を第1リブ31aと第2リブ31bの重量差によって抑制することができる。
【0023】
吸気側に位置する比較的肉厚の第1リブ31aは、これを肉厚に設計したときには、その肉厚の形状を利用して、オイルリング収容溝23に通じるオイル供給通路32を設けてられていてもよい。このオイル供給通路32はピストンピンボス部26のピン孔27に連通している。このオイル供給通路32は、第1リブ31aを貫通して延びる横孔32aと、ピストンピンボス部26を底面から該ボス部26を貫通して、上述した横孔32aに通じる縦孔32bとからなり、これら横孔32aと縦孔32bとでオイル供給通路32が構成されている。
【0024】
如上のように、ピストン1のクラウン部5の形状に例えば燃料の燃焼性を改善するために工夫を施した結果、クラウン部5の重量バランスを阻害してしまう場合に、ピストン1の軽量化のために設けた上記窪み30内の複数のリブ31を使って、このリブ31のうち、重量バランスが相対的に軽くなる部位のリブ31aを典型的には肉厚に設計し、他方、重量バランスが相対的に重くなる部位のリブ31bを小さく(例えば肉薄)に設計することで、ピストン1の重量バランスを改善することができる。
【0025】
また、ピストン1の第1のリブ31aを肉厚に設計したときには、この肉厚のリブ31aを使ってオイルリング収容溝23からピストンピンボス部26のピン孔27に通じるオイル供給通路32を形成することでオイルリング収容溝23に設けられるオイル供給通路を効率良く配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例のピストンをピストンピンボス部側から見た側面図。
【図2】実施例のピストンをスカート部側から見た側面図。
【図3】実施例のピストンを排気側から見た斜視図。
【図4】実施例のピストンを吸気側から見た斜視図。
【図5】ピストンを下から見た底面図。
【図6】図3のVI−VI線に沿った断面図。
【図7】図6の断面構造を斜めから見た図。
【図8】シリンダに嵌装したピストンにより形成される燃焼室形状を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0027】
1 ピストン
2 シリンダ
4 燃焼室
5 ピストンのクラウン部
7 排気ポート
8 吸気ポート
11 点火プラグ
14 中央部分(中央凹所)
15 リング状部分
15a リング状部分の排気側部分
15b リング状部分の吸気側部分
20 ランド部
21、22 シールリング収容溝
23 オイルリング収容溝
24 スカート部
25 サイドウォール部
26 ピストンピンボス部
27 ピン孔
30 窪み
31 リブ
31a 第1リブ(吸気側:肉厚)
31b 第2リブ(排気側:肉薄)
32 オイル供給通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダに往復動可能に嵌装されてエンジンの燃焼室を画成するピストンであって、
前記燃焼室の形状を形成するクラウン部と、
該クラウン部の外周縁から垂下する外周面を備え、該外周面にシールリング、オイルリングを収容するシールリング収容溝及びオイルリング収容溝が形成されたランド部と、
該ランド部から下方に垂下する一対のスカート部と、
該一対のスカート部同士を連結するサイドウォール部と、
該サイドウォール部に形成されたピストンピンボス部とを備えたエンジンのピストン構造において、
前記クラウン部が前記ピストンピンボス部を中心にして一側が他側に比べて重量的にアンバランスな構造を有し、
前記ランド部の下面において、前記サイドウォール部の上方領域に、下方に向けて開放した窪みが形成され、
該窪み内に前記ランド部と前記サイドウォール部とを連結し且つ前記ピストンピンボス部を挟んで位置する少なくとも2つのリブを有し、
前記ピストンピンボス部を中心にして前記クラウン部の相対的に重量の軽い側に位置する第1リブが重い側に位置する第2リブよりも重量が重くなるように設定されていることを特徴とするエンジンのピストン構造。
【請求項2】
前記クラウン部の相対的に重量の軽い側に位置する第1リブが重い側に位置する第2リブよりも肉厚に形成され、
前記第1リブに、前記オイルリング収容溝と前記ピストンピンボス部のピン孔とに連通するオイル供給孔が形成されている、請求項1に記載のエンジンのピストン構造。
【請求項3】
前記クラウン部の上面に上方に隆起したリング状部分と、該リング状部分で囲まれた中央凹所とを有し、前記リング状部分が、前記ピストンピンボス部を中心にして一側と他側とで高さの異なる形状を備えている、請求項1又は2に記載のエンジンのピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−8170(P2008−8170A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177854(P2006−177854)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】