説明

エンジンの吸気通路構造

【課題】 燃料噴射弁を適切な角度でスロットルボディに配設する際にその配設のためのスペースに制限がある場合でも、簡易な構成でコストの低廉な手段を用いて噴射燃料が円滑にエンジンに吸入されるようにして、燃料を正確に供給できるようにする。
【解決手段】 絞り弁10aの下流側に燃料噴射弁8を装備したスロットルボディ10Aがインシュレータ11Aを挟んでエンジン2の吸気口2aに至る湾曲吸気通路部3b入口側に接続され、燃料噴射弁8が吸気口2aに向けて燃料を噴射するように斜めに配置されている吸気通路構造1Aについて、燃料噴射弁8の先端部を嵌装した燃料噴射路10dの吸気通路3への開口端部の一部をインシュレータ11Aに設けた切り欠き部12aによって形成し、この切り欠き部12aが燃料噴射路10dの吸気通路3と反対側の内壁面10fと滑らかに連続して傾斜したものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り弁の下流側に燃料噴射弁を装備したスロットルボディがインシュレータを挟んでエンジンの吸気口に至る湾曲面通路部入口の吸気管に接続されている吸気通路構造に関し、殊に、燃料噴射弁から噴射された燃料が吸気通路の内壁に衝突して付着することを回避することのできるエンジンの吸気通路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用エンジンの吸気系において、図3に示すように絞り弁10aの下流側に燃料噴射弁8が配設されたスロットルボディ10Bを、弾性部材からなるインシュレータ11Bを挟んでエンジン2から延出された吸気管5に接続したものがある。インシュレータ11Bはエンジン2で発生する熱や振動をスロットルボディ10Bおよびその上流側に伝えない目的で配設されるため、熱伝導性が低く振動吸収性に優れる合成ゴムなどの弾性部材で作られている。
【0003】
そして燃料噴射弁8は、スロットルボディ10Bの壁体を外側から吸気通路3まで貫通する燃料噴射路10dにその先端部を嵌装して、噴射孔をエンジン2の吸気口に向けるように吸気通路3の中心軸線に対し傾斜して配設されており、図示しない電子式制御装置がエンジン運転状態を基に燃料噴射量を算出して噴射させるようになっている。
【0004】
その際、図3に示すように燃料噴射弁8から噴射された燃料は円錐状に拡がってスロットルボディ10Bや吸気管5内の吸気通路3の内壁面に衝突して付着することがあり、そのため吸入空気と一緒にエンジン2の燃焼室内に吸入される燃料が電子式制御装置の算出した量よりも少なくなって燃料供給不足が生じてエンジン運転に不調を生じたり、付着した燃料がその噴射時期に遅れてエンジン2の吸気口2aに吸い込まれると燃料供給過剰となってエンジン運転を不調にするとともに排気中の有害成分を増加したりする、という問題が生じる。
【0005】
この問題に対し、特開平7―49070号公報には吸気通路内壁面の燃料が付着しやすい部分にヒータを配設し、付着した燃料の気化を促進させることで燃料供給量を安定させようとする技術が提示されている。しかし、この技術はヒータを増設することにより製造コストが高騰することに加え、余分な電力を浪費することになるため実用性の低いものである。
【0006】
一方、特開平5−202829号公報には燃料噴射弁に空気ノズルを併設し噴射燃料の周囲を空気流で覆いながらこれを燃焼室まで導くことで吸気通路内壁面に燃料が付着することを回避しようとする技術が提示されている。ところが、この技術においては燃料噴射弁先端部付近の構造が複雑となって製造コストが高騰するとともに、空気ノズルからの噴射空気量が不安定となりやすく最適な空燃比に制御することが困難となる、という問題がある。
【0007】
従って、噴射燃料の吸気通路内壁面への付着を回避するには、燃料噴射弁の取付け角度を吸気通路の中心軸線に対し小さい鋭角にして、噴射燃料の角度を吸入空気の流れに沿うようにすることで吸気通路の内壁に付着する燃料の量を最小限とするのが一般的である。ところが、例えば図4に示すようにスロットルボディ10Cの入口にエアクリーナボックス4を配設したものにおいて、燃料噴射弁8およびそのホルダ10bがエアクリーナボックス4と干渉してしまい、吸気通路3に対する位置や噴射角度を適切なものとしながら燃料噴射弁8を配設することが不可能となることがある。
【0008】
そこで、図5に示すようにスロットルボディ10Dのインシュレータ11Dとの接合部の外径寸法を拡大し、その中心を吸気通路3の中心軸線に対し偏心させて各部品の配置を成立させることが考えられる。このようにすることで、燃料噴射弁8から噴射された燃料を吸気通路3に導く燃料噴射路10dをスロットルボディ10Dに設けるための壁体の厚さを確保することができるため、燃料噴射弁8をインシュレータ11D寄りに配設することが可能となって、燃料噴射弁8を適切な角度で配設する場合に他の部品と干渉することを回避できる。
【0009】
しかしながら、このままでは燃料噴射弁8から噴射され円錐状に拡がる燃料の一部がスロットルボディ10Dに形成された燃料噴射路10dの壁に衝突する心配がある。
【0010】
その対策として、図6に示すように燃料噴射路10dの先端部分にインシュレータ11Dに亘る切り欠き部10f,12dを設けて燃料衝突の心配をなくすことが考えられる。しかしこの場合、スロットルボディ10Eの切り欠き部10fはダイカストの金型では脱型できないアンダカット形状となることから、切削加工により形成する必要が生じて製造コストが高騰してしまう。
【0011】
一方、図7に示すようにスロットルボディ10Fについて脱型ができるように吸気通路3の中心軸線に沿う方向に切り欠いた形状の切り欠き部10gを形成すると、燃料噴射路10dおよびインシュレータ11Fの切り欠き部12cとの間に急激な段差(角部)が形成されて通気抵抗が増大するため、エンジン2に供給する燃料の量を正確に制御することが困難になる、という問題が生じる。
【特許文献1】特開平7―49070号公報
【特許文献2】特開平5−202829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、燃料噴射弁を適切な角度でスロットルボディに配設する際にその配設のためのスペースに制限がある場合でも、簡易な構成でコストの低廉な手段を用いて噴射燃料が円滑にエンジンに吸入されるようにして、エンジンに燃料を正確に供給できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明は、絞り弁の下流側に燃料噴射弁を装備したスロットルボディがインシュレータを挟んでエンジンの吸気口に至る湾曲吸気通路部入口の吸気管に接続され、燃料噴射弁が吸気口に向けて燃料を噴射するように斜めに配置されているエンジンの吸気通路構造について、燃料噴射弁の先端部を嵌装した燃料噴射路の吸気通路への開口端部の一部がインシュレータに設けた切り欠き部によって形成され、この切り欠き部が燃料噴射路の吸気通路と反対側の内壁面と滑らかに連続して傾斜したものとした。
【0014】
このようにすることで、燃料噴射弁をインシュレータ寄りに配設して噴射燃料が吸気通路内壁に付着しないものとしながらその配設スペースを最小限としてスロットルボディ入口のエアクリーナボックスと干渉しないようにすることができるとともに、吸気通路に吸入空気の流れを阻害する段差が存在しないため、噴射燃料が円滑にエンジンに吸入されるようになる。
【0015】
また、上述したエンジンの吸気通路構造において、インシュレータ接続側の外径中心軸線と吸気通路の中心軸線とを偏心させて、スロットルボディの燃料噴射路が設けられている側の壁体を他の部分よりも厚肉とすれば、燃料噴射弁をインシュレータに近接配置する場合に燃料噴射路を形成するスペースを確保しやすいものとなる。
【0016】
さらに、上述したスロットルボディについて、吸気通路の中心軸線方向に型抜き可能な凹部を燃料噴射路の吸気通路と反対側の内壁面先端側に設けるとともに、インシュレータに切り欠き部が形成された凸部を設け、この凹部と凸部とが互いに嵌合して内壁面と切り欠き部とを滑らかに連続させたものとすれば、スロットルボディに凹部を設けるために切削工程を加える必要がなくなり製造コストを低く抑えることができるとともに、インシュレータとの接合作業が極めて容易なものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、燃料噴射弁配設のためのスペースに制限がある場合においても、簡易な構成で噴射燃料が円滑にエンジンに吸入されるため、低コストでエンジンに燃料を正確に供給することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明すると、図1は本実施の形態の吸気通路構造1Aが配設されたエンジンの燃料供給装置の縦断面図を示しており、エアクリーナボックス4内側に開口したエアファンネル4aに、絞り弁10aの下流側に燃料噴射弁8を具えたスロットルボディ10Aが接続され、これにインシュレータ11Aを介してエンジン2から延出された吸気管5が接合している。スロットルボディ10Aから吸気管5に亘る直線吸気通路部3aと吸気口2aに至る湾曲吸気通路部3bとは吸気通路3を形成しており、基本的構成は図3に記載した従来のものと同様である。
【0019】
本実施の形態の燃料供給装置は、全体としてコンパクトに纏められ刈払機など、比較的エンジン配置スペースの狭いものに好適なものである。そのため、燃料噴射弁8は吸気通路3の内壁面にその噴射燃料が衝突して付着しない噴射角度となるように基端部をホルダ10bで固定され先端部を燃料噴射路10d内に嵌装されて配設される。
【0020】
そして、燃料噴射弁8はその基端部およびホルダ10bがエアクリーナボックス4に干渉しないようにインシュレータ11Aに近接して配設されているが、このような配設を可能とするため、スロットルボディ10Aのインシュレータ11A接続側である燃料噴射路10d側を厚肉とするようにその外径中心軸線を直線吸気通路部3の中心軸線から燃料噴射路10d側に偏心させている。
【0021】
図2は、図1の燃料供給装置における吸気通路構造1Aをスロットルボディ10Aとインシュレータ11Aとに分解し、燃料噴射路10d側を下にした状態を示す斜視図であり、これを用いて燃料噴射路10dの吸気通路3と反対側の内壁面10f先端側に設けられた凹部10eと、これに嵌合するインシュレータ11Aの凸部11bの構成を以下に詳細に説明する。
【0022】
インシュレータ11Aに設けられた凸部11bは、スロットルボディ10Aの端面が当接する当接面11aから直線吸気通路部3の中心軸線に沿ってスロットルボディ10A方向に突出した略直方体状の形状を有しており、全体として僅かに内側に湾曲している。
【0023】
これに対し、スロットルボディ10Aの凹部10eは、インシュレータ11A接続側端面から燃料噴射路10d開口部にかけて形成され、スロットルボディ10Aとインシュレータ11Aとを接合させたときに凸部11bが隙間なく嵌合するようになっており、その成型時に直線吸気通路部3の中心軸線に沿う方向に脱型できる形状である。
【0024】
そして、凸部11bは凹部10eと嵌合した状態において、その吸気通路3に向かい合う内壁面10fと切り欠き部12aとは滑らかに傾斜し、燃料噴射路10dからエンジン2に向かって円錐状に拡がる噴射燃料を遮らない形状となっている。
【0025】
本実施の形態のエンジンの吸気通路構造1Aは以上のような構成であり、スロットルボディ10Aとインシュレータ11Aとは、直線吸気通路部3の中心軸線方向に互いに押し込むことで容易に接合することができる。そして、燃料が燃料噴射弁8から噴射されたとき、吸気通路3内壁面に付着することがなくエンジン2に吸入空気とともに吸引され、殊に切り欠き部12aが設けられていることで円錐状に拡がる噴射燃料が遮られることがない。
【0026】
また、切り欠き部12aをインシュレータ11Aの凸部11eに設ける構成としたことから、吸気通路3に段差が生じることがなく、その形状を円錐状に拡がる噴射燃料に沿って滑らかに傾斜させた湾曲面とすることができるため、吸気通路3に通気抵抗が生じることを回避することができる。
【0027】
以上述べたように、簡易な構成の本発明により、燃料噴射弁配設のためのスペースに制限がある場合でも、燃料噴射弁から噴射する燃料が吸気通路の内壁面に付着したり燃料噴射路で遮られずにエンジンに円滑に吸入されるようにすることができ、エンジンへの燃料供給を確実なものとすることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の吸気通路構造を具えた燃料供給装置の一部拡大した縦断面図。
【図2】図1の吸気通路構造の分解斜視図。
【図3】従来例を示す縦断面図。
【図4】従来例を示す縦断面図。
【図5】従来例を示す縦断面図。
【図6】従来例を示す縦断面図。
【図7】従来例を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0029】
1A 吸気通路構造、2 エンジン、3 吸気通路、3a 直線吸気通路部、3b 湾曲吸気通路部、8 燃料噴射弁、10A スロットルボディ、10a 絞り弁、10d 燃料噴射路、10e 凹部、10f 内壁面、11A インシュレータ、11b 凸部、12a 切り欠き部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞り弁の下流側に燃料噴射弁を装備したスロットルボディがインシュレータを挟んでエンジンの吸気口に至る湾曲吸気通路部入口の吸気管に接続され、前記燃料噴射弁は前記吸気口に向けて燃料を噴射するように斜めに配置されているエンジンの吸気通路構造において、
前記燃料噴射弁の先端部を嵌装した燃料噴射路の吸気通路への開口端部の一部が前記インシュレータに設けた切り欠き部によって形成され、前記切り欠き部は前記燃料噴射路の前記吸気通路と反対側の内壁面と滑らかに連続して傾斜したものとされている、
ことを特徴とするエンジンの吸気通路構造。
【請求項2】
前記スロットルボディは、インシュレータ接続側の外径中心軸線と前記吸気通路の中心軸線とが偏心しており、前記燃料噴射路が設けられている側の壁体が他の部分よりも厚肉とされている、ことを特徴とする請求項1に記載したエンジンの吸気通路構造。
【請求項3】
前記スロットルボディは前記吸気通路の中心軸線方向に型抜き可能な凹部を前記燃料噴射路の前記吸気通路と反対側の内壁面先端側に有しているとともに、前記インシュレータは前記切り欠き部が形成された凸部を有しており、前記凹部と凸部とが互いに嵌合して前記内壁面と切り欠き部とを滑らかに連続させている、ことを特徴とする請求項1または2に記載したエンジンの吸気通路構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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