説明

エンジンの始動補助装置

【課題】アイドリングストップ後にエンジンを始動(再始動)するに際して、加熱や保温のためのエネルギを別途必要とすること無く、エンジンの始動を補助或いは促進することが出来るエンジンの始動補助装置の提供。
【解決手段】例えば、排気弁(30)の弁体(32)の中心線(32C)に沿って蓄熱用突起(34)が設けられ、ピストン(14)のキャビティ(C)の内壁面(CW)に切欠部(40)が形成され、切欠部(40)は、ピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起(34)が収容される位置に形成され、且つ、燃料噴射装置(燃料噴射ノズル22)から噴射された燃料が到達する位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば停車中にエンジンを停止する機能(アイドリングストップ機能)を有するエンジンが、アイドリングストップ後に始動(再始動)する際に、容易に再始動させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の向上により、ディーゼルエンジン搭載車両や、いわゆる「ハイブリッド車(特に、ディーゼルエンジン搭載のハイブリッド車)」では、停車中にエンジンを停止する機能、いわゆる「アイドリングストップ」機能を備えているタイプが多くなっている。
そして、停車の際にエンジンを停止すること(アイドリングストップ)により、排気ガスの排出量が減少すると共に、燃料消費量も軽減する。
【0003】
ここで、アイドリングストップ後、車両発進時等では、エンジンを確実に始動(再始動)させる必要がある。
そのため、従来技術においては、例えばグローランプを設け、或いはインテークマニホールドに電気ヒータを設置し、以って、アイドリングストップの間にエンジンを電気加熱し、再始動を容易にしていた。
しかし、その様な電気加熱では、電気消費量が多くなり、コストが掛かってしまうという問題がある。
【0004】
また、ハイブリッド車の場合には、アイドリングストップ後のエンジン再始動に際しては、スタータの代りに走行用電気モータを使用する場合がある。
しかし、エンジンの再始動を走行用電気モータで行なった場合には、やはり電気消費量が多くなってしまう。
【0005】
そのため、アイドリングストップ後、エンジンの再始動を容易にすることができて、しかも、エンジンを再始動するのに必要とする電気消費量を低減し、以って、燃費を向上する技術が要請されていたが、現時点では、未だに提案されていない。
【0006】
その他の従来技術として、ピストン燃焼室のキャビティにセラミックヒータを設け、当該セラミックヒータに通電して加熱する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る技術をアイドリングストップ後のエンジン再始動に適用した場合には、アイドリングストップ後に加熱、保温用に通電する必要があり、電気消費量が多くなってしまうという問題を包含している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平4−71770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、例えばアイドリングストップ後にエンジンを始動(再始動)するに際して、加熱や保温のためのエネルギを別途必要とすること無く、エンジンの始動を補助或いは促進することが出来るエンジンの始動補助装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエンジンの始動補助装置は、吸排気弁(例えば、排気弁30)の弁体(32)の中心に(中心線32Cに沿って)蓄熱用突起(34)が設けられており、ピストン(14)のキャビティ(C)の内壁面(CW)に切欠部(40)が形成されており、切欠部(40)は、ピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起(34)が収容される位置に形成されており、燃料噴射装置(燃料噴射ノズル22)から噴射された燃料が到達する位置に形成されていることを特徴としている。
ここで、ピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起(34)が切欠部(40)に収容された際に、蓄熱用突起(34)と切欠部(40)内壁面(40W)との隙間(δ)は、(蓄熱用突起34と切欠部40の内壁面40Wとが干渉しないのであれば)可能な限り小さいことが好ましい。
又、突起の体積(V1)と、切欠部容積(V2)はほぼ等しくすることにより、圧縮比がベースの仕様と変らず、燃焼マッチングの点で好ましい(図7)。
【0010】
本発明において、ピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起(34)が切欠部(40)に収容された際に、蓄熱用突起(34)の(ピストン14の)半径方向外方(矢印RO方向)の領域が切欠部(40)に収容され、蓄熱用突起(34)の(ピストン14の)半径方向内方(矢印RI方向)の領域はキャビティ(C)に露出しているのが好ましい。
【0011】
この場合、蓄熱用突起(34)の切欠部(40)に収容されているのは、蓄熱用突起(34)の中心線(C)からピストン(14)の半径方向外方(矢印RO方向)の領域であり、蓄熱用突起(34)のキャビティ(C)に露出しているのは、蓄熱用突起(34)の中心線(C)からピストン(14)の半径方向内方(矢印RI方向)の領域であるのが好ましい。
【0012】
また本発明において、蓄熱用突起(34)は排気弁(30)の弁体(32)に設けられるのが好ましい。
あるいは、蓄熱用突起(34)は排気弁(30)と一体成形されているのが好ましい。
そして、一つのピストン(14)に対して、2つの排気弁(30)が設けられているのが好ましい。
【0013】
さらに本発明において、前記エンジンはディーゼルエンジンであるのが好ましい。
ここで、当該ディーゼルエンジンは、いわゆる「ハイブリッド車」に搭載されていても良い。
【発明の効果】
【0014】
上述する構成を具備する本発明によれば、切欠部(40)はピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で燃料噴射装置(燃料噴射ノズル22)から噴射された燃料が到達する位置に形成されているため、圧縮上死点近傍位置で高温の蓄熱用突起(34)に向かって燃料が噴霧されて、燃焼室内における燃焼が促進或いは補助され、以って、アイドリングストップ後におけるエンジンEの再始動が促進或いは補助される。
ここで、切欠部(40)は、燃料噴射ノズル(22)から噴射される燃料噴霧(FJ)が到達する位置に形成されるため、蓄熱用突起(34)は燃料噴霧(FJ)が到達して燃料濃度が高くなる領域に配置される。そのため、蓄熱用突起(34)により、燃料と空気との混合気が良好に点火、燃焼する。
【0015】
また、蓄熱用突起(34)はキャビティ(C)の内壁面(CW)に形成された切欠部(40)に収容されているので、キャビティ(C)の内壁面(CW)に近い領域から燃焼が開始されることになり、燃焼状態が良好になる。
さらに、切欠部(40)に蓄熱用突起(34)が収容されるので、キャビティ(C)の内壁面(CW)と蓄熱用突起(34)とが干渉してしまうことが防止される。
【0016】
これに加えて、本発明によれば、アイドリングストップ後、エンジンの始動(再始動)の間に加熱用の電力を必要としない。そのため、アイドリングストップ後、エンジンの始動(再始動)に必要なクランキング電力消費が少なくなり、以って、燃費が向上する。
【0017】
本発明において、ピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起(34)が切欠部(40)に収容された際に、切欠部(40)に収容され、蓄熱用突起(34)の(ピストン14の)半径方向内方(矢印RI方向)の領域、特に蓄熱用突起(34)の中心線(C)からピストン(14)の半径方向内方(矢印RI方向)の領域がキャビティ(C)に露出する様に構成すれば、キャビティ(C)に露出している蓄熱用突起(34)の表面積(蓄熱用突起34の中心線32Cから半径方向内方RIの領域の表面積)は比較的大きいため、自着火する条件まで空気と燃料とを効率的に加熱して昇温し、確実に点火することが出来る。
【0018】
一方、ピストン(14)の圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起(34)が切欠部(40)に収容された際に、蓄熱用突起(34)の(ピストン14の)半径方向外方(矢印RO方向)の領域、特に蓄熱用突起(34)の中心線(C)からピストン(14)の半径方向外方(矢印RO方向)の領域が切欠部(40)に収容される様に構成すれば、切欠部(40)に収容されている部分により熱量が十分に蓄積され、蓄熱用突起(34)の高温状態が維持される。そのため、吸気流により冷却されて熱量を失ってしまうことが防止される。
特に、蓄熱用突起(34)と切欠部(40)との隙間(δ)を可能な限り小さく設定すれば、当該保温機能が良好になる。
また、膨張行程において、高温の燃焼ガスに晒されるのは、中心線(32C)よりもピストンの半径方向内方(矢印RI方向)の領域のみであり、蓄熱用突起(34)全面が高熱に晒されることはないので、蓄熱用突起(34)の長寿命化が期待出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】実施形態で用いられるピストンの斜視図である。
【図3】実施形態で用いられる排気弁の弁体の正面図である。
【図4】実施形態で用いられる蓄熱用突起を示す部品図である。
【図5】蓄熱用突起が切欠部に収容された状態を示す部分拡大断面図である。
【図6】不適当な切欠部の位置及び形状を示す部分拡大平面図である。
【図7】蓄熱用突起の体積と切欠部の容積とがほぼ等しい場合の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面の図1〜図6を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号Eで示すのは本発明の実施形態が適用されるエンジンである。図示の簡略化のため、図1では1つの気筒についてのみ示している。
エンジンEは、シリンダ12、ピストン14、シリンダヘッド16を備えており、ピストン14の頂部には燃焼用空間としてキャビティCが形成されている。
シリンダヘッド16には燃料供給系統20が設けられており、燃料供給系統20の先端(図1では下端)には燃料噴射ノズル22が設けられている。そして、燃料噴射ノズル22から、燃料(例えば軽油)がピストン14の頂部に形成されたキャビティCに向かって噴射される。
【0021】
シリンダヘッド16には排気ポート24が形成されており、排気ポート24のシリンダ12側端部(或いはピストン14側端部)には、排気弁30が介装されている。
排気弁30は弁体32を有し、排気工程において、弁体32は矢印VD方向(図1では下方)に移動する。これにより、排気弁30は開放状態となり、燃焼後の排気は排気ポート24を流過して、図示しない排気系統に流れる。
排気工程が終了すると、弁体32は矢印VU方向(図1では上方)に移動して、排気弁30は閉鎖状態となる。
ここで、エンジンEの種類や仕様によって、排気ポート24及び排気弁30の数は異なる。排気ポート24及び排気弁30はピストン14に対して1つのみ設けられるとは限らない。例えば図2で示すように、一つのピストン14に対して排気ポート24及び排気弁30を2つ設ける場合等がある。
【0022】
排気弁30の弁体32は、図3で詳細に示すとおり、その先端側(図1ではピストン14側:図3では下側)に蓄熱用突起34が形成されている。
一般的に、燃焼室の内部で最も温度が高くなるのは、排気弁の弁体である。例えば、ディーゼルエンジンであれば400℃程度まで昇温する。そのため、蓄熱用部材は排気弁の弁体に形成するのが好ましいのである。
【0023】
蓄熱用突起34は、弁体32と一体に成形することが可能である。
或いは、図4で示すように、蓄熱用突起34を単一の部品として製造し、別体に製造された弁体32に固着することも可能である。
ここで、蓄熱用突起34は耐熱性が高く、熱容量が大きい材質、例えばセラミクス、金属、合金、又はそれ等の複合物で構成されている。
図4で示す蓄熱用突起34において、チャンバC内に露出しない側の部分(図4では右側)には雄ネジ36が形成されている。そして、雄ネジ36を排気弁30の弁体32に形成された図示しない雌ネジに螺合することにより、弁体32に蓄熱用突起34を固着することが出来る。
【0024】
図示はされていないが、蓄熱用突起34は、吸気弁(図示せず)の弁体に設けることも可能である。
換言すれば、蓄熱用突起34は、図示の実施形態のように排気弁30の弁体32にのみ設けても良いし、図示しない吸気弁の弁体にのみ設けることも出来るし、吸気弁及び排気弁の双方の弁体に設けることも可能である。
【0025】
再び図1において、アイドリングストップをしたエンジンEを、再び始動する(再始動する)場合について説明する。
蓄熱用突起34は熱容量が大きな材質で構成されているため、アイドリングストップ機能によりエンジンEが一時的に停止したとしても、高温の燃焼排ガスにより加熱された蓄熱用突起34の温度は、さほど低下しない。
アイドリングストップの後、エンジンEを始動(再始動)する際に、膨張行程でピストン14が圧縮上死点或いはその近傍に位置すると、キャビティC内の空気が圧縮されて昇温する。ここで、アイドリングストップの後であればエンジンEの停止時間は比較的短く、蓄熱用突起34は十分に高い温度に保持されている。そのため、キャビティC内において、蓄熱用突起34近傍の空気がさらに加熱されて、自着火し易い状態となる。
【0026】
その状態で、燃料噴射ノズル22から燃料が噴射されると(燃料噴霧:2点鎖線で示す矢印FJ)、蓄熱用突起34近傍では燃焼し易くなり、始動性が向上する。これにより、アイドリングストップの後、エンジンEの始動(再始動)が補助或いは促進されるのである。
換言すれば、排気弁30の弁体32に蓄熱された熱量は、キャビティC内に露出している蓄熱用突起34を介して、エンジンEの始動(再始動)に用いられる。
すなわち、排気弁30の弁体32に設けられ且つキャビティCに露出する蓄熱用突起34は、膨張行程において、自着火する条件まで空気を加熱して昇温する機能を奏している。これに加えて、点火プラグのように、圧縮された混合気に点火する機能をも奏すると推定される。
【0027】
蓄熱用突起34は、例えば、エンジンEを停止した後、長時間(例えば一晩)経過した場合には、周辺の機器と同一レベルまで降温してしまう。この場合には、蓄熱用突起34はエンジン始動の補助或いは促進には寄与しない。
従って、蓄熱用突起34が保有する熱量により、停止したエンジンの始動の補助或いは促進が有効に行なわれるのは、エンジンEの運転停止時間が数分程度の短い場合である。アイドリングストップ機能によりエンジンEが停止した後に、再びエンジンEを始動する場合(再始動)では、エンジンの始動の補助或いは促進が、特に有効に行なわれる。
【0028】
ここで、空気と燃料との圧縮混合気を点火して燃焼するガソリンエンジンにおいては、蓄熱用突起34が保有する熱量によって燃焼室の燃焼を補助或いは促進してしまうと、異常燃焼(ノッキング)を生じる可能性がある。
これに対して、空気を圧縮して昇温した状態で燃料を噴射するディーゼルでは、異常燃焼を生じる心配がない。そのため、図示の実施形態では、エンジンEはディーゼルエンジンである。
【0029】
図1〜図4の実施形態において、エンジンEを稼動して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程というサイクルを繰り返している間に、排気弁30の弁体32は回転する。
蓄熱用突起34は、弁体32の中心位置において、中心線32C(図4)に沿って延在している。仮に蓄熱用突起34が弁体32の中心位置に存在していないと、弁体32が回転した際に、蓄熱用突起34が中心線32Cの周囲を公転して、キャビティCの壁面(内壁面)CW(図1)に干渉してしまう恐れがある。
【0030】
ここで、キャビティCの壁面(内壁面)CWに近い領域(キャビティ外縁部)から燃焼を開始すれば、良好な燃焼となる。そのため、圧縮されて昇温した混合気をさらに昇温して、いわゆる自着火を行なわせる機能を有する蓄熱用突起34は、少なくともピストン14の圧縮上死点近傍位置では、キャビティCの壁面(内壁面)CWに近い領域(キャビティ外縁部)に位置していることが望まれる。
しかし、キャビティCの壁面(内壁面)CWと蓄熱用突起34とが干渉してしまうことは避けなければならない。
【0031】
そのため、図1〜図4の実施形態では、ピストン14頂部に形成されたキャビティCの内壁面CWに切欠部40を形成し、ピストン14の圧縮上死点位置において、排気弁30の弁体32の先端部(図1では下端部)に設けられた蓄熱用突起34が、切欠部40に収容されるように構成されている。
ここで、切欠部40が形成されるのは、キャビティC内において、燃料噴射ノズル22(図1)から噴射される燃料噴霧FJが到達する位置である。
後述するように、蓄熱用突起34は燃料と空気との混合気に点火する機能をも奏すると推定され、係る機能を発揮するためには、燃料濃度が高い領域に蓄熱用突起34を配置するべきである。
圧縮上死点近傍位置において、ノズル22(図1)から噴射される燃料噴霧FJが到達する箇所に蓄熱用突起34を位置せしめるため、切欠部40は当該燃料噴霧FJが到達する位置に形成される。
【0032】
係る切欠部40には、例えば図5で示すように、少なくともピストン14の圧縮上死点近傍位置では、蓄熱用突起34のピストン14の半径方向外方(矢印RO方向)領域が収容されている。
より詳細には、少なくともピストン14の圧縮上死点近傍位置では、蓄熱用突起34の一部が切欠部40内に収容されている。図5で示す状態では、蓄熱用突起34の中心線(弁体32の中心線)32Cは、キャビティCの内壁面CWの延長面(CW−V:仮想面)上に位置しており、蓄熱用突起34の中心線32Cから半径方向外方(矢印RO方向)の領域(図5においてハッチングを付した領域)は切欠部40に収容されているが、蓄熱用突起34の中心線32Cから半径方向内方(矢印RI方向)の領域はキャビティCに露出している。
【0033】
蓄熱用突起34と切欠部40との相対位置関係を上述の様にすることで、図5で示されているように、ピストン14の圧縮上死点近傍位置では、高温の燃焼排ガスにより加熱された弁体32の蓄熱用突起34は、中心線32Cから半径方向内方(矢印RI方向)の領域がキャビティCに露出する。
そして、蓄熱用突起34の中心線32Cから半径方向内方(矢印RI方向)の領域の表面積は比較的大きく、蓄熱用突起34が奏すると推定される機能、すなわち、膨張行程において自着火する条件まで空気を加熱して昇温する機能と、点火プラグのように圧縮された混合気に点火する機能とを発揮するには十分である。
【0034】
また、蓄熱用突起34と切欠部40との相対位置関係を図5を参照して上述した様にすれば、高温の燃焼排ガスにより加熱された弁体32の蓄熱用突起34は、図1、図5で示すピストン14の圧縮上死点近傍位置では、中心線32Cから半径方向外方(矢印RO方向)の領域(図5においてハッチングを付した領域)が切欠部40に収容される。
そのため、加熱されて昇温した蓄熱用突起34における切欠部40に収容された領域(図5においてハッチングを付した領域)は、高温を維持するのに必要な熱量を蓄積するのに必要な堆積を確保しており、吸気流により冷却されて熱量を失ってしまうことはない。換言すれば、切欠部40により、蓄熱用突起34の保温が期待できる。
【0035】
ここで、蓄熱用突起34と切欠部40との隙間δ(図5)は、蓄熱用突起34と切欠部40とが干渉しない範囲で、可能な限り小さく設定することが望ましい。
係る隙間δが大きいと、切欠部40に吸気流が侵入して、蓄熱用突起34における切欠部40に収容された領域(図5においてハッチングを付した領域)を冷却してしまうからである。
例えば、大〜中型トラック・バス用エンジンでは、δは2mm又はそれ以下が好ましい。
又、突起の体積(V1)と、切欠部容積(V2)はほぼ等しくすることにより、圧縮比がベースの仕様と変らず、燃焼マッチングの点で好ましい(図7)。
【0036】
さらに、膨張行程において、蓄熱用突起34は切欠部40に収容されているので、高温の燃焼ガスに晒される部分が比較的少なく、その分、蓄熱用突起34が長寿命化する。
【0037】
これに対して、例えば、切欠部40を図6で符号40Bで示す様な形状としてしまうと、切欠部40Bに蓄熱用突起34が収容されると、キャビティC側には蓄熱用突起34は殆ど露出しない。図6において符号40BOで示す僅かな開口部分から切欠部40B内に侵入した微量な空気及び/又は燃料のみが、蓄熱用突起34で加熱される。
すなわち、蓄熱用突起34で加熱される空気及び/又は燃料の量が極めて少ない。そのため、図6で示すように、蓄熱用突起34がキャビティCに露出する表面積が小さい切欠部40Bでは、加熱された弁体32の蓄熱用突起34が、例えばアイドリングストップ後の始動(再始動)において、始動(再始動)を補助し或いは寄与することは、極めて困難になってしまう。
【0038】
一方、キャビティCの内壁部CWに切欠部40を設けない場合には、高温の燃焼排ガスにより加熱された弁体32の蓄熱用突起34は、燃焼室内の吸気流により冷却されてしまい、その保有する熱量を失ってしまう可能性がある。
或いは、膨張行程において、蓄熱用突起34の全表面が高温の燃焼ガスに晒されてしまうので、寿命が短縮化されてしまう。
すなわち、図5で示す様な切欠部40を形成しないと、アイドリングストップ後の始動(再始動)を補助し或いは寄与することが極めて困難になってしまう場合が存在する。
【0039】
図2において、実施形態で用いられるピストン14の頂部において、排気弁30の弁体32(図2では図示せず)が座着するシート部(凹部)32Sの位置(排気弁30のレイアウト)は、排気弁30の弁体32が蓄熱用突起34を有していない場合におけるピストン(既存のピストン)と同一である。
図2で示すピストン14では、排気弁30のレイアウトを既存のピストンを使用する場合と同一のレイアウトにして、蓄熱用突起34を切欠部40に収容した際に、両者の相対的な位置関係を図5で示す状態にするため、キャビティCの内径φを、既存のピストンにおけるキャビティの内径寸法よりも小さくしている。
しかし、キャビティCの内径を小さくすることにより、エンジンEの性能が低下する可能性が存在する。
【0040】
これに対して、明確には図示されていないが、図示の実施形態の変形例として、キャビティCの内径寸法φを既存のピストンと同一にして、切欠部40をキャビティCの内壁面CWに切欠部40を形成し、図5で示す状態で切欠部40に蓄熱用突起34を収容するべく、排気弁30のレイアウトを、既存のピストンの場合から変更することも可能である。
【0041】
図1〜図6で説明した実施形態によれば、圧縮上死点近傍位置で高温の蓄熱用突起34に向かって燃料が噴霧されるので、アイドリングストップ後におけるエンジンEの再始動が促進或いは補助される。
ここで、キャビティCの内壁面CWに形成された切欠部40に蓄熱用突起34が収容されるので、キャビティCの内壁面CWに近い領域から燃焼が開始されることになり、燃焼状態が良好になる。
そして、切欠部40に蓄熱用突起34が収容されるので、キャビティCの内壁面CWと蓄熱用突起34とが干渉してしまうことが防止される。
ここで、切欠部40は、キャビティCの内壁面CWにおいて、燃料噴射ノズル22から噴射される燃料噴霧FJが到達する位置に形成されるので、蓄熱用突起34は燃料噴霧FJが存在して燃料濃度が高い領域に配置される。そのため、蓄熱用突起34により、燃料と空気との混合気に点火する機能が良好に発揮される。
【0042】
また、図5で示されているように、ピストン14の圧縮上死点近傍位置において、高温の燃焼排ガスにより加熱された弁体32の蓄熱用突起34は、中心線32Cからピストンの半径方向外方(矢印RO方向)の領域が切欠部40に収容され、中心線32Cからピストンの半径方向内方(矢印RI方向)の領域はキャビティCに露出している。
そして、蓄熱用突起34の中心線32Cから半径方向内方(矢印RI方向)の領域の表面積は比較的大きいので、膨張行程において、自着火する条件まで空気を効率的に加熱して昇温し、且つ、圧縮された混合気に確実に点火することが出来る。
【0043】
また、中心線32Cからピストンの半径方向外方(矢印RO方向)の領域が切欠部40に収容されており、蓄熱用突起34と切欠部40との隙間δは可能な限り小さく設定されているので、蓄熱用突起34は高温状態で保温され、吸気流により冷却されて熱量を失ってしまうことが防止される。
さらに、膨張行程において、高温の燃焼ガスに晒されるのは、中心線32Cよりもピストンの半径方向内方(矢印RI方向)の領域のみであり、蓄熱用突起34全面が高熱に晒されることはないので、蓄熱用突起34の長寿命化が期待出来る。
【0044】
そして、図示の実施形態によれば、アイドリングストップ機能によりエンジンEが停止した後、エンジンEの始動(再始動)を補助或いは促進することが出来る。
これに加えて、図示の実施形態によれば、アイドリングストップ後、エンジンの始動(再始動)に必要なクランキング電力消費及び燃料消費が少なくなり、以って、燃費が向上する。
【0045】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0046】
E・・・エンジン
C・・・キャビティ
CW・・・キャビティ内壁
12・・・シリンダ
14・・・ピストン
16・・・シリンダヘッド
20・・・燃料供給系統
22・・・燃料噴射ノズル
24・・・排気ポート
30・・・排気弁
32・・・排気弁の弁体
34・・・蓄熱用突起
36・・・雄ネジ
40・・・切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸排気弁の弁体の中心に蓄熱用突起が設けられており、ピストンのキャビティの内壁面に切欠部が形成されており、切欠部は、ピストンの圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起が収容される位置に形成されており、燃料噴射装置から噴射された燃料が到達する位置に形成されていることを特徴とするエンジンの始動補助装置。
【請求項2】
ピストンの圧縮上死点近傍位置で蓄熱用突起が切欠部に収容された際に、蓄熱用突起の半径方向外方の領域が切欠部に収容され、蓄熱用突起の半径方向内方の領域はキャビティに露出している請求項1のエンジンの始動補助装置。
【請求項3】
蓄熱用突起の切欠部に収容されているのは、蓄熱用突起の中心線からピストンの半径方向外方の領域であり、蓄熱用突起のキャビティに露出しているのは、蓄熱用突起の中心線からピストンの半径方向内方の領域である請求項2のエンジンの始動補助装置。
【請求項4】
蓄熱用突起の体積と、その一部を収容する切欠部の体積とがほぼ等しい請求項1〜3の何れか1項のエンジンの始動補助装置。
【請求項5】
蓄熱用突起は排気弁の弁体に設けられている請求項1〜4の何れか1項のエンジンの始動補助装置。
【請求項6】
蓄熱用突起は排気弁と一体成形されている請求項1〜4の何れかに記載のエンジンの始動補助装置。
【請求項7】
エンジンはディーゼルエンジンである請求項1〜6の何れか1項のエンジンの始動補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−112011(P2011−112011A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271061(P2009−271061)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】