説明

エンジンベンチ

【課題】応答性が良く、エンジンの温度変動を極力抑えることのできるエンジンベンチを提供する。
【解決手段】エンジンベンチ10は、エンジン12に接続されて負荷を与えるダイナモメータ20と、エンジン12とダイナモメータ20を制御するエンジン・ダイナモ制御部30と、エンジン12を冷却する冷却装置60と、冷却装置60を操作することによってエンジン12の温度を制御する温度制御装置70と、運転パターンとエンジンモデルに基づいてシミュレーションを実行し、その結果に基づいてエンジン・ダイナモ制御部30を操作する運転管理部40とを備える。温度制御装置70は、シミュレーションの結果を用いてエンジン12の発熱量を予測し、冷却装置60の操作量と操作時間差を決定するとともに、冷却装置を、エンジン・ダイナモ制御部30の操作によりも前記操作時間差の分だけ先に前記操作量で操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンベンチに係り、特に試験中にエンジンを冷却するエンジンベンチに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンベンチは、開発・製造された供試エンジンが所定の性能を備えているかを評価する試験装置であり、試験対象であるエンジンは、台上試験機(エンジンベンチ)に取り付けられる。エンジンの出力軸はトルク計や回転数計を介してダイナモメータに接続され、このダイナモメータによってエンジンの出力軸の回転力が吸収される。これにより、台上試験が行われ、エンジンの性能が測定・評価される。
【0003】
このようなエンジンベンチにおいて、試験中のエンジンは、冷却することによって所定の温度に維持される。たとえば、工業用水によって冷却水を冷却する熱交換器が設けられ、この熱交換器で冷却した冷却水がエンジンに循環供給されている。このようなエンジンベンチでは、エンジン出口での冷却水の温度が一定になるように工業用水の流量がPID制御されている。
【0004】
ところで、上記の如くPID制御を行っても、エンジンの回転数が大きく変化した場合は、オーバーシュートが発生し、エンジンの温度が不安定になるという問題が発生する。そこで、特許文献1は、オーバーシュートを小さくするため、エンジンの回転数とトルクに応じて補正を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−343270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにエンジンの回転数とトルクに応じて冷却量を補正しても、エンジンの発熱量の変化が大きい場合(たとえば運転パターンで急加速した場合)は、オーバーシュートを十分に抑制することができないという問題があった。これは、冷却量を調節してからエンジンが実際に冷却されるまで一定の時間がかかるためである。したがって、従来は、エンジンの温度が安定するまで暫く待ってからデータを取る必要があり、試験時間が長くなるという問題や、過渡条件での正確なデータが得られないという問題があった。
【0007】
このような不具合を解消する方法として、急速冷却装置や加熱装置などを別途設ける方法が考えられるが、この場合には制御量が大きくなって制御が難しくなるという問題や装置が大型化するという問題があった。このため、従来の装置を大型化したり制御を複雑化したりすることなく応答性を向上させ、且つ、エンジンの温度を精度良く管理できるエンジンベンチが望まれている。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、応答性が良く、エンジンの温度を精度良く管理することのできるエンジンベンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、エンジンに接続されて該エンジンに負荷を与えるダイナモメータと、前記エンジン及び前記ダイナモメータを制御するエンジン・ダイナモ制御部と、前記エンジンを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を操作して前記エンジンの温度を制御する温度制御装置と、前記エンジンの運転計画を示す運転パターンと前記エンジンの動作を仮想したエンジンモデルに基づいてシミュレーションを実行し、その結果に基づいて前記エンジン・ダイナモ制御部を管理する運転管理部と、を備えたエンジンベンチにおいて、前記温度制御装置は、前記運転パターンと前記エンジンモデルを用いることによって前記エンジンの発熱量を予測し、前記予測結果から前記発熱量に応じた前記冷却装置の操作量を算出するとともに、前記冷却装置の操作を前記発熱量に対応させるための操作時間差を算出し、前記算出結果に基づいて前記冷却装置を、前記エンジン・ダイナモ制御部よりも前記操作時間差の分だけ先に前記操作量で操作することを特徴とするエンジンベンチを提供する。
【0010】
本発明によれば、運転パターンとエンジンモデルからエンジンの発熱量の変動を正確に予測することができるので、その発熱量の変動に対応した冷却装置の操作量と操作時間差を正確に算出することができる。したがって、冷却装置をエンジン・ダイナモ制御部の操作よりも前記操作時間差の分だけ先に前記操作量で操作することによって、エンジンの発熱量の変動に応じた冷却を行うことができる。これにより、エンジンを所望の温度に正確に管理することができる。なお、本発明において、運転パターンとはエンジンの運転計画を示すものであり、たとえばエンジンを搭載した車両の経時速度変化として示される。また、エンジンモデルとは、エンジンの動作を仮想したものであり、運転パターンに示された情報から少なくともエンジンの回転数とアクセルの開度を出力できるものが用いられる。また、操作時間差とは、冷却装置によるエンジンの冷却とエンジンの発熱とを時間的に一致させるために、冷却装置の操作をエンジン・ダイナモの操作よりも早く操作する時間であり、実際には冷却装置の操作がエンジンの温度変化として現れるまでの制御時間差を意味している。
【0011】
請求項2に記載の発明は請求項1において、前記冷却装置は、前記エンジンに循環供給される二次冷媒を一次冷媒によって冷却する熱交換器と、前記熱交換器に流れる一次冷媒の流量を調節するバルブと、を備え、前記温度制御装置は、少なくとも、前記二次冷媒が前記熱交換器から前記エンジンに移動するまでの移動時間と、前記バルブが制御信号を受けてから応答するまでの応答遅れ時間と、を加算することにより前記操作時間差を求めることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、冷却装置によるエンジンの冷却とエンジンの発熱との時間ずれの要因のうち、最も影響が大きいと思われる二次冷媒の移動時間とバルブの応答遅れ時間とを加算して操作時間差を求めるので、エンジンの冷却とエンジンの発熱とのタイミングを合わせることができ、エンジンの温度を制度良く管理することができる。なお、二次冷媒は一般に冷却水やラジエータ液などが用いられ、一次冷媒は一般に工業用水が用いられる。
【0013】
請求項3に記載の発明は請求項1または2において、前記温度制御装置には、前記エンジンの回転数、前記エンジンの発熱量、アクセル開度の対応関係を示す発熱量マップと、前記エンジンの発熱量、前記冷却装置の操作量の対応関係を示す操作量マップと、が予め入力され、前記温度制御装置は、前記発熱量マップから前記エンジンの発熱量の変動を予測し、該予測結果と前記操作量マップから前記冷却装置の操作量を求めることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1において、前記エンジンの温度変化が所定の範囲から外れた際に警告を行う警告手段を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、エンジンの温度変化が所定の範囲(たとえば±1℃)を超えた場合に警告するようにしたので、データの信頼性を高めることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は請求項1の発明において、前記運転管理部には、前記冷却装置の動作を仮想した冷却装置モデルと前記エンジンモデルとを少なくとも含むエンジン周辺部モデルが予め入力され、前記運転管理部は、前記エンジン周辺部モデルと前記運転パターンに基づいてシミュレーションを実行し、前記温度制御装置は、前記シミュレーションの結果から、前記冷却装置の操作量と前記操作時間差を求めることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、冷却装置モデルとエンジンモデルを含むエンジン周辺部モデルを用いてシミュレーションを実行し、そのシミュレーションの結果から冷却装置の操作量と操作時間差を求めるので、エンジンの発熱量の変動と冷却装置による冷却とを対応させることができ、エンジンの温度を精度良く管理することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、運転パターンとエンジンモデルを用いてエンジンの発熱量の変動を予測し、冷却装置の操作量と操作時間差を算出するので、エンジンの発熱量の変動に応じた冷却を行うことができ、温度管理の応答性と温度管理の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態のエンジンベンチの概略構成を示す図
【図2】第1の実施形態におけるモデルの説明図
【図3】温度制御装置の説明図
【図4】エンジンベンチの作用を示す図
【図5】第2の実施形態のエンジンベンチの概略構成を示す図
【図6】第2の実施形態におけるモデルの説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に従って、本発明に係るエンジンベンチの好ましい実施形態について説明する。図1は本実施の形態のエンジンベンチの概略構成図である。
【0021】
同図に示すエンジンベンチ10は、試験対象であるエンジン12の性能を測定・評価する装置であり、主としてダイナモメータ20、エンジン・ダイナモ制御部30、運転管理部40、冷却装置60、温度制御装置70で構成される。
【0022】
エンジン12は、保持機構を介して架台14に固定される。エンジン12の内部には燃焼室(不図示)が設けられ、この燃焼室に吸気管(不図示)から吸引された空気が供給され、燃焼された後、排気管(不図示)から排気される。吸気管には、スロットル(不図示)が設けられ、このスロットルによって空気の流入量が調節される。一方、排気管には触媒装着部(不図示)が設けられ、この触媒装着部に装着された触媒によって排ガスが浄化される。
【0023】
エンジン12は、その出力軸がシャフト22を介してダイナモメータ20に接続される。シャフト22は、メインシャフトなどの複数の軸部材を連結して構成されており、その連結部分にはユニバーサルジョイントが介在される。また、エンジン12とダイナモメータ20との間には中間軸受24が設けられており、この中間軸受24にシャフト22が回動自在に支持される。シャフト22にはトルクメータ26が取り付けられ、このトルクメータ26でシャフト22のトルクが測定される。なお、本実施の形態は、トルクメータ26でトルクを測定するようにしたが、これに限定するものではなく、たとえばダイナモメータ20の出力からトルクを検出してもよい。また、この他にクラッチ、変速機、各種の連結手段等を目的に応じて挿入してもよく、さらにはトルク以外のエンジン12の状態、たとえば排ガスの温度などを測定してもよい。
【0024】
ダイナモメータ20は、エンジン12に所定の負荷トルクを与える装置であり、電流・電圧を可変させることで負荷トルクを設定できるようになっている。ダイナモメータ20としては、低慣性ダイナモメータを用いることが好ましく、低慣性ダイナモを用いることにより、低速回転から高速回転までの急激な回転数の変化に応じた安定した出力が得られる。
【0025】
上述したエンジン12とダイナモメータ20はエンジン・ダイナモ制御部30に接続されている。エンジン・ダイナモ制御部30は、エンジン12に対して、スロットル開度や点火進角等の制御パラメータを与えてエンジン12を駆動制御する機能を備えている。このエンジン駆動制御機能は通常、ECUもしくはECUにバイパス回路を付加したエンジン制御回路で実現される。ECUの代わりに仮想ECUと称するDSP(Digital Signal Processor)で実現してもよい。このエンジン・ダイナモ制御部30によってエンジン12に制御パラメータ(たとえばスロットル開度)が与えられる。これにより、エンジン12が回転し、その回転がシャフト22を介してダイナモメータ20に伝達される。なお、エンジン・ダイナモ制御部30から与えられる制御パラメータとしては、回転数、スロットル開度の他、燃料注入量、空気注入量、燃料と空気の混合比、点火時間(ガソリンエンジンの場合)、燃料噴射制御方法(ジーゼルエンジンの場合)など様々なパラメータがある。
【0026】
また、エンジン・ダイナモ制御部30は、ダイナモメータ20に印加する電流・電圧を可変制御する機能を備えており、電流・電圧を可変制御することによってダイナモメータ20に接続されたエンジン12の負荷トルクが制御される。なお、本実施の形態では、エンジン・ダイナモ制御部30として説明したが、エンジン制御部とダイナモ制御部とに分けてもよい。
【0027】
エンジン・ダイナモ制御部30は、運転管理部40に接続されている。運転管理部40は、運転パターンとモデル50(図2参照)に基づいてエンジン・ダイナモ制御部30に制御信号を出力する手段であり、主として記憶部42、実行部44、測定部46、システム制御部48を備えている。
【0028】
記憶部42には、運転パターンとモデル50が予め入力されている。運転パターンは、エンジン12の運転計画(試験計画)を示すものであり、たとえばエンジン12を搭載した車両の速度と時間の関係をパターンとして示され、具体的には10・15モードやJC08モードに対応したパターンが示されている。一方、モデル50は、任意の入力と出力に介在する関係(伝達特性)を式、グラフ等で表現したものであり、エンジン12の動作を仮想したものが予め記憶部42に記憶される。モデル50の種類や形式は特に限定するものではないが、運転パターンに示された情報から少なくともエンジン12の回転数とアクセルの開度を出力できるものを用いる必要があり、たとえば図2に示すように、ドライバーモデル52、エンジンモデル54、車両モデル56が組み合わされて用いられる。同図においてドライバーモデル52は、ドライバーの動作を仮想したモデルであり、運転パターンからの情報と、後述の車両モデル56の出力である車両速度とを入力値とし、車両のアクセル開度を出力値としている。エンジンモデル54は、エンジン12の動作を仮想したモデルであり、ドライバーモデル52からのアクセル開度と、車両モデル56からのトルクとを入力値とし、エンジン12の回転数を出力値としている。このエンジンモデル54としては、定常状態(パラメータの値を一定時間、一定値に安定させた状態、たとえばパラメータをステップ状に変化させた試験の状態)を仮想したものや、過渡状態(パラメータを時間的に連続的に変化させた状態)を仮想したものが適宜選択される。車両モデル56は、エンジン12が搭載される車両の動作を仮想したモデルであり、エンジンモデル54からのアクセル開度を入力値とし、エンジン12にかかるトルクと車両の速度とを出力値としている。これらのモデル52、54、56を組み合わせてシミュレーションを実行することにより、アクセル開度、エンジン12の回転数、トルク、車両速度の予測値を求めることができる。なお、本実施の形態は、予め作成されたモデルを使用する例で説明するが、試験によって得られたデータからモデルを作成したり、作成されたモデルをデータで検証し、修正したりしてもよい。
【0029】
実行部44は、モデル50を用いてシミュレーションを実行する部分であり、運転パターンに示された状態となるようにシミュレーションが実行され、各パラメータが出力される。図2に示す出力値のうち、エンジン12の回転数とトルクはエンジン・ダイナモ制御部30に指令値として出力され、この出力値に従ってエンジン12とダイナモメータ20が制御される。また、アクセル開度と回転数は、後述の温度制御装置70に出力され、この出力値に基づいて冷却装置50が制御される。
【0030】
図1に示す測定部46は、測定値を示すデータに対して各種の信号処理を行う手段であり、エンジン・ダイナモ制御部30やトルクメータ26等からエンジン12の動作状態を示すデータが入力されると、これらのデータに対してノイズ除去や各種演算などの信号処理を行う。
【0031】
システム制御部48は各種の制御を行う手段であり、計測内容の各種条件を設定(定義)する機能を備え、たとえばアクセル開度、燃料噴射時期、点火進角、噴射時間、VVT、EGRなどの制御パラメータや、吸気温度、排気温度、燃料注入量、空気注入量、NО密度、HC密度、CО濃度、CО濃度、燃料消費量、水温などの計測パラメータについて、その入出力の有無や入出力の範囲などを設定することができる。また、使用頻度の高い設定条件が予め標準アクションとして登録されており、たとえば矩形波状に入力条件を変化させたり、ステップ状に徐々に入力条件を変化させたりする設定が予め登録されている。作業者はこれらの標準アクションのなかから選択することによって、計測条件を簡単に設定することができる。また、システム制御部48は、予め設定された標準アクションの他、自由にシーケンスを作成できる機能を備えている。シーケンスの作成手段は特に限定するものではないが、たとえば、MATLAB(登録商標)のm−fileやSimulink(登録商標)を使用することにより作成される。このようにシーケンスを作成することによって、作業者がシミュレーションの条件を自在に設定することができる。なお、定義の際の入力設定では、実験計画法(DОE)や中心複合計画(CCF)に基づいて設定することが好ましい。その際、出力値により応答曲面が十分に得られるように設定することが好ましい。また、定義の際の操作はキーボードや複数の操作ボタンなどから成る操作部59を用いて行われ、定義された条件は、記憶部42に記憶される。
【0032】
さらに、システム制御部48は、計測を実行させる機能を備えており、定義された条件(またはシーケンス)に基づいて計測を実行させるように構成される。なお、システム制御部48は、境界エラー(たとえばノッキングや失火など)の境界値を自動で探索する自動探索機能を備えていてもよい。また、システム制御部48に解析装置を接続し、この解析装置によってパラメータの測定値の最適点を策定し、ECUマップを作成するようにしてもよい。その際、最適点の策定方法は特に限定するものではなく、たとえば最小二乗法を用いて応答曲面を作成して最適点を策定するとよい。
【0033】
上述した運転管理部40には、表示部58が接続される。表示部58には、メモリ(不図示)に格納されている各種データ、各種仮想モデル、各種演算結果、各種シミュレーション結果が表示される。また、表示部58には、複数のデータの関係グラフ、軌跡、度数分布表、標準偏差グラフなど、様々な画像が表示される。この表示部58にシミュレーションの結果をグラフ化して表示することにより、ロバスト性のチェックを行うことができる。なお、表示部58は、データ、マップ、グラフなど複数のものを同一画面に同時に表示するようにしてもよい。
【0034】
ところで、上述したエンジン12は、その周囲がジャケット(不図示)で覆われており、ジャケットの内部を冷却水が流れることによってエンジン12が冷却されるように構成されている。また、エンジン12の内部にはポンプ(不図示)が設けられており、このポンプを駆動することによってジャケット内の冷却水を循環させることができる。ポンプは通常、エンジン12の回転数に応じて吐出量が変動し、エンジン12の回転数が増加するに伴って吐出量が増加するようになっている。
【0035】
エンジン12には冷却装置60が接続されており、この冷却装置60からエンジン12に冷却水(二次冷媒)が供給される。冷却装置60の構成は特に限定するものではないが、たとえば冷却水を工業用水(一次冷媒)で冷却する熱交換器62を備え、この熱交換器62とエンジン12とが冷却水配管64によって接続される。冷却水配管64のうちエンジン12の出口近傍には、センサ65が配設されており、このセンサ65によって、エンジン12から流出した直後の冷却水の温度が測定される。センサ65は後述のバルブコントローラ69に接続されており、センサ65の測定値がバルブコントローラ69に出力される。
【0036】
熱交換器62には工業用水配管66が接続されており、この工業用水配管66を介して工業用水が熱交換器62に供給される。工業用水配管66にはバルブ68が配設されており、このバルブ68によって工業用水の流量が調節される。バルブ68はバルブコントローラ69に接続されており、このバルブコントローラ69によってバルブ68の開度が調節される。バルブコントローラ69は、前述のセンサ65の測定値が設定温度になるように、バルブ68のPID制御を行っている。
【0037】
このように構成された冷却装置60によれば、熱交換器62内で冷却水が工業用水によって冷却される。そして、冷却された冷却水がエンジン12内のジャケットに供給されることによって、エンジン12が冷却される。その際、バルブコントローラ69がバルブ68をPID制御するので、エンジン12の出口での冷却水の温度を略一定に保つことができる。
【0038】
バルブコントローラ69は、温度制御装置70に接続されている。温度制御装置70は、バルブ68の操作量(すなわち開度の指令値)と操作時間差(すなわちバルブ68の開度を変更するタイミング)を求め、それに応じてバルブコントローラ69に制御信号を出力する装置であり、操作量算出部72と、時間差算出部74を備えている。
【0039】
操作量算出部72は、エンジン12の発熱量を推定してバルブ68の操作量を求める手段であり、図3に示す発熱量マップ76と操作量マップ78が予め入力されている。発熱量マップ76は、エンジン12の回転数、エンジン12の発熱量、アクセル開度の関係を示すマップであり、エンジン12の回転数とアクセル開度を入力することによって、エンジン12の発熱量を求めることができる。一方、操作量マップ78は、エンジン12の発熱量と、その発熱量に釣り合う冷却量にするためのバルブ68の操作量との関係を示すマップであり、エンジン12の発熱量が入力されることによって、適切なバルブ68の操作量(開度)が出力される。
【0040】
操作量算出部72には、図1に示した運転管理部40からシミュレーション結果の一部が入力される。具体的には、エンジン12の発熱量の算出に必要なパラメータ(たとえばアクセル開度やエンジン12の回転数などのデータ)が入力される。操作量算出部72は、入力されたパラメータ(アクセル開度、エンジン12の回転数)と発熱量マップ76に基づいてエンジン12の発熱量を算出し、さらに、その発熱量と操作量マップ78に基づいてバルブ68の操作量を算出する。そして、この操作量を指令値としてバルブコントローラ69に出力する。これにより、シミュレーションの結果に基づいた精度の良いバルブ68の制御を行うことができる。
【0041】
時間差算出部74は、バルブ68を操作するのに適切なタイミングを演算する手段であり、エンジン12、ダイナモメータ20が操作されるタイミングに対して、バルブ68を操作するタイミングをどのくらい早くするか(すなわち操作時間差ΔT)を求める。具体的には、まず、冷却水が熱交換器62からエンジン12に移動するまでの移動時間t1を求める。移動時間t1は、エンジン12の出口から熱交換器62の入口までの冷却水配管62内の冷却水体積をVとし、冷却水流量をQとした際、V/Qとして求めることができる。次に、求めた移動時間t1に、バルブ68の応答遅れ時間t2を加算し、操作時間差Δt(=t1+t2)を求める。応答遅れ時間t2とは、バルブ68が制御信号を受けてから応答するまでの時間であり、バルブ68の特性により予め決定される。なお、本実施の形態では、冷却装置60によるエンジン12の冷却とエンジン12の発熱とが時間的にずれる要因のうち、最も影響が大きいと思われる二つの要因(移動時間t1と応答遅れ時間t2)によって操作時間差Δtを求めるようにしたが、これに限定するものではなく、他の要因も含めて操作時間差Δtを求めてもよい。たとえばエンジン12の回転数が変化してから実際に温度が上昇するまでの時間や、冷却水がエンジン12に達してからエンジン12の温度が実際に低下するまでの時間、熱交換器62内で工業用水と冷却水が実際に熱交換するのに必要な時間などによって、操作時間差Δtを求めてもよい。
【0042】
温度制御装置70は、上記の如く求めた操作時間差Δtとバルブ操作量とに基づいて、バルブコントローラ69に制御信号を出力する。これにより、エンジン・ダイナモ制御部30よりもバルブ68が操作時間差Δtだけ早く作動するとともに、操作時間差Δtだけ早い時刻でのエンジン12の発熱量に対応した冷却量となるようにバルブ68の開度が調節される。以下、上記の如くバルブ68をエンジン・ダイナモ制御部30よりも先に制御することを先読み制御という。
【0043】
温度制御装置70は、運転パターンが大きく変わる際にのみ先読み制御を行う。すなわち、運転パターンが大きく変わり、エンジン12の発熱量が大きく変化する際、それをシミュレーション結果から読み取り、読み取った際にバルブ68を操作時間差Δtの分だけエンジンダイナモ制御部30よりも先に操作し、バルブ68の開度を調節する。そして、その後はバルブコントローラ69によるPID制御を行う。
【0044】
なお、温度制御装置70は、常に先読み制御を行い、先読み制御とPID制御とを併用してもよい。この場合、算出したバルブ操作量と実際のバルブ開度を比較し、その差が所定範囲内の場合にPID制御を優先し、所定範囲を超えた場合に先読み制御を優先させるとよい。また、温度制御装置70は、バルブ68の操作を早める代わりに、エンジン・ダイナモ制御部30の制御タイミングを相対的に遅らせてもよい。
【0045】
次に上記の如く構成されたエンジンベンチ10の作用について図4に従って説明する。図4(A)、図4(B)、図4(C)はそれぞれ、運転パターンが大きく変化する際のエンジン12の発熱量、工業用水の流量、エンジン12の温度を示している。図4(B)、図4(C)において実線は本実施の形態の例(すなわち冷却装置60がエンジン12やダイナモメータ20よりも早く制御された例)であり、点線は従来装置の比較例(すなわち冷却装置60が単なるPID制御のみで制御された例)である。
【0046】
この試験では、運転パターンが時刻b、dで変更されている。このため、図4(A)に示すように、エンジン12の発熱量は時刻bで大きく増加し、時刻dで大きく減少している。
【0047】
図4(B)に点線で示す比較例の場合、工業用水の流量は、時刻bの直後に増加してピークを迎え、時刻dの直後に減少してピークを迎えている。これは、発熱量の変化に伴ってバルブ68がPID制御されるためである。しかし、このようにPID制御を行っても、エンジン12が実際に冷却されるまで時間がかかるため、エンジン12の温度変化を十分に抑えることができない。その結果、図4(C)に点線で示すように、エンジン12の温度は時刻bの直後、時刻dの直後に大きく変化している。
【0048】
これに対して、本実施例は図4(B)に実線で示すように、時刻b、dよりも早い時刻a、cでバルブ68の操作が開始され、工業用水の流量が増加している。この時刻a、cは、時刻b、dよりも操作時間差Δtだけ早い時刻に設定されている。また、時刻a、cでのバルブ68の操作量は、時刻b、dでのエンジン12の発熱量をシミュレートすることによって求められており、時刻b、dでのエンジン12の発熱量の変化に対応する分だけ、時刻a、cにおいて冷却量を変化させている。その結果、時刻b、dでは、エンジン12の発熱量の増減と、冷却装置60による冷却量の増減が略釣り合うことになる。したがって、エンジン12の温度は、図4(C)に実線で示すように、時刻b、dでも大きな変化が見られない。
【0049】
このように本実施の形態によれば、エンジン12やダイナモメータ20の制御よりも、操作時間差Δtだけ早く、バルブ68を操作するようにしたので、エンジン12の発熱量が増減するタイミングとエンジン12が冷却されるタイミングを合わせることができ、エンジン12の温度変化を抑制することができる。
【0050】
特に本実施の形態では、シミュレーション結果に基づいて求めたエンジン12の発熱量に応じてバルブ68の開度を制御しているので、エンジン12の発熱量と冷却装置60による冷却量を正確に合わせることができ、エンジン12の温度変化を極力抑制することができる。すなわち、バルブ68の開度を単に早めただけでは、バルブ68の開度が不適切になり、かえってエンジン12の温度変化が生じるおそれがあるが、本実施の形態のように、シミュレーション結果に基づいてバルブ68の開度を制御することによって、エンジン12の温度変化を確実に抑制することができる。
【0051】
さらに本実施の形態によれば、エンジン12を常に所望の温度に管理することができるので、過渡特性の試験を行うことができる。すなわち、従来の場合には、エンジン12が安定した温度になるまで待ってからの定常試験しかできなかったが、本実施の形態の場合には、エンジン12が常に所望の温度になるので、定常状態になるまで待つ必要がなく、過渡特性の試験を行うことができる。過渡特性の試験を行う場合、エンジン12の温度勾配を示す運転パターンを入力しておき、その温度勾配になるように冷却装置60の操作量と操作時間差を決定するとよい。その際、エンジン12の比熱容量に基づいて操作量と操作時間差を補正するようにするとよい。
【0052】
なお、上述した実施の形態において、温度制御装置70は、一般の定常試験と同程度の精度を得るため、エンジン12の温度変化を所定範囲(たとえば±1℃、好ましくは±0.5℃)内に収めるべく制御することが好ましく、所定範囲を超えた場合には警告手段によって警告を発することが好ましい。警告は、画面への表示や警報音などによって作業者に直接的に知らせる方法のほか、所定範囲を超えたデータに警告情報を付すことによって作業者に間接的に知らせる方法が考えられる。さらに間接的な方法の場合には、警告情報の付いたデータを自動的に省いて演算したり、警告情報の付いたデータの演算結果を(表示色を変えるなど)別表示にしたりすることが好ましい。なお、警告情報が全くない場合には信頼性が高いことを示す表示を別途行うようにしてもよい。さらに、警告を発した後に、操作時間差Δtの算出式やバルブ操作量の算出式を自動的に補正してもよい。
【0053】
図5は、第2の実施形態のエンジンベンチ80の概略構成図である。なお、図1の第1の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0054】
第2の実施形態のエンジンベンチ80は、第1の実施形態の温度制御装置70がなく、その機能が運転管理部82に設けられている。すなわち、運転管理部82において、バルブ68の適正な操作量(開度)と操作時間差を求め、バルブコントローラ69に出力するようになっている。これを具体的に説明すると、記憶部42には、図6に示すモデル84が記憶されている。モデル84は、ドライバーモデル52、エンジンモデル54、車両モデル56の他に、熱交換器モデル86が設けられている。熱交換器モデル86は、冷却装置60の動作を仮想したモデルであり、たとえばエンジンモデル54の出力値であるエンジン12の発熱量と、冷却装置60の操作情報(操作量と操作時間差)、予め入力された冷却装置60の特性値(たとえば冷却水配管64の長さやバルブ68の応答遅れ時間等)と、工業用水の情報(温度や流量)を入力値とし、エンジン12の温度を出力値としている。熱交換器モデル86とエンジンモデル54は時間項を有するものが用いられる。このような熱交換器モデル86とエンジンモデル54を含むエンジン周辺部モデルを用いてシミュレーションを行うことによって、エンジン12の発熱と冷却装置60による冷却とを含めた形で、エンジン12の温度の時間変化を正確に予測することができる。したがって、冷却装置60の操作量と操作時間差Δtを正確に求めることができる。
【0055】
図5に示した運転管理部82の実行部44は、上述の熱交換器モデル86を有するモデル84を用いてシミュレーションを実行し、バルブ68の操作量と操作時間差Δtを求める。そして、求めた操作量と操作時間差Δtに基づいて、バルブコントローラ69に制御信号を出力し、バルブ68を適切に制御する。上記の如く求めた操作時間差ΔTは、制御の時間遅れが考慮されているので、熱交換器62によるエンジン12の冷却とエンジン12の発熱とを時間的に一致させることができ、エンジン12の温度変化を極力抑制することができる。
【0056】
このように第2の実施形態によれば、熱交換器モデル86を有するモデル84を用いてシミュレーションを実行し、バルブ68の操作量と操作時間差を求め、バルブ68を操作するので、エンジン12の発熱に応じた冷却を行うことができ、エンジン12を所望の温度に管理することができる。
【0057】
さらに、上述した実施の形態によれば、エンジン12の温度を考慮したシミュレーションを実行することができ、エンジン12の温度変化を対応した適合マップ等を作成することができる。
【0058】
なお、上述した第1、第2の実施形態は、工業用水によって冷却水を冷却し、この冷却水によってエンジン12を外側から冷却するようにしたが、エンジン12を冷却する冷却装置60の構成はこれに限定するものではなく、エンジン12を外側あるいは内側から冷却する様々な態様が可能である。たとえば、エンジン12を一次冷媒(工業用水や冷水)によって直接冷却するとともにその流量を操作する態様も可能である。この場合にも、運転パターンとモデルに基づいてエンジン12の発熱量の変動を予測し、その発熱量の変動に応じた冷却装置の操作量と操作時間差を算出し、算出結果に基づいて冷却装置を操作することによって、試験中のエンジン12の温度を精度良く制御することができる。
【0059】
また、エンジン12の内側をエンジンオイルによって冷却する冷却装置を本発明に適用してもよい。この場合、エンジンオイルを循環させるオイルポンプの操作量と操作時間差を上述した実施の形態の如く制御すればよい。すなわち、運転パターンとモデルに基づいてエンジン12の発熱量の変動を予測し、それに応じたオイルポンプの操作量と操作時間差を算出し、算出結果に基づいてオイルポンプを操作すればよく、これによって、試験中のエンジン12の温度を精度良く制御することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 エンジンベンチ
12 エンジン
20 ダイナモメータ
30 エンジン・ダイナモ制御部
40 運転管理部
42 記憶部
44 実行部
50 モデル
52 ドライバーモデル
54 エンジンモデル
56 車両モデル
60 冷却装置
62 熱交換器
68 バルブ
69 バルブコントローラ
70 温度制御装置
72 操作量算出部
74 時間差算出部
76 発熱量マップ
78 操作量マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに接続されて該エンジンに負荷を与えるダイナモメータと、前記エンジン及び前記ダイナモメータを制御するエンジン・ダイナモ制御部と、前記エンジンを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を操作して前記エンジンの温度を制御する温度制御装置と、前記エンジンの運転計画を示す運転パターンと前記エンジンの動作を仮想したエンジンモデルに基づいてシミュレーションを実行し、その結果に基づいて前記エンジン・ダイナモ制御部を管理する運転管理部と、を備えたエンジンベンチにおいて、
前記温度制御装置は、
前記運転パターンと前記エンジンモデルを用いることによって前記エンジンの発熱量を予測し、
前記予測結果から前記発熱量に応じた前記冷却装置の操作量を算出するとともに、前記冷却装置の操作を前記発熱量に対応させるための操作時間差を算出し、
前記算出結果に基づいて前記冷却装置を、前記エンジン・ダイナモ制御部よりも前記操作時間差の分だけ先に前記操作量で操作することを特徴とするエンジンベンチ。
【請求項2】
前記冷却装置は、前記エンジンに循環供給される二次冷媒を一次冷媒によって冷却する熱交換器と、前記熱交換器に流れる一次冷媒の流量を調節するバルブと、を備え、
前記温度制御装置は、少なくとも、前記二次冷媒が前記熱交換器から前記エンジンに移動するまでの移動時間と、前記バルブが制御信号を受けてから応答するまでの応答遅れ時間と、を加算することにより前記操作時間差を求めることを特徴とする請求項1に記載のエンジンベンチ。
【請求項3】
前記温度制御装置には、前記エンジンの回転数、前記エンジンの発熱量、アクセル開度の対応関係を示す発熱量マップと、前記エンジンの発熱量、前記冷却装置の操作量の対応関係を示す操作量マップと、が予め入力され、
前記温度制御装置は、前記発熱量マップから前記エンジンの発熱量の変動を予測し、該予測結果と前記操作量マップから前記冷却装置の操作量を求めることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンベンチ。
【請求項4】
前記エンジンの温度変化が所定の範囲から外れた際に警告を行う警告手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のエンジンベンチ。
【請求項5】
前記運転管理部には、前記冷却装置の動作を仮想した冷却装置モデルと前記エンジンモデルとを少なくとも含むエンジン周辺部モデルが予め入力され、
前記運転管理部は、前記エンジン周辺部モデルと前記運転パターンに基づいてシミュレーションを実行し、
前記温度制御装置は、前記シミュレーションの結果から、前記冷却装置の操作量と前記操作時間差を求めることを特徴とする請求項1に記載のエンジンベンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−127904(P2011−127904A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283713(P2009−283713)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】