説明

エンジン制御装置

【課題】エンジンの性能を表す複数の性能パラメータを独立して制御する。
【解決手段】演算式記憶部41は、複数の性能パラメータと、複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子との相関を定義した第1相関データを記憶する。また、演算式記憶部73は、複数の共通因子と複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第2相関データを記憶する。目標共通因子算出部40は、第1相関データを用い、性能パラメータの目標値に基づいて複数の共通因子の目標値を算出する。燃焼目標値算出部72は、第2相関データを用い、複数の共通因子の目標値に基づいて複数の燃焼パラメータの目標値を算出する。指令値算出部92は、燃焼目標値算出部72で算出した各燃焼パラメータの目標値に基づいて、アクチュエータ11に関する制御パラメータの指令値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関し、詳しくは、燃料噴射弁などのアクチュエータの作動を制御することでエンジンの性能を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから排出されるNOx量、CO量等の排気エミッションに関する値や、出力トルク、燃料消費率(燃費)等といったエンジン性能が要求を満たすように、燃料噴射量や噴射時期、吸気量などを制御するエンジン制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1のものでは、実筒内酸素濃度の下で基本燃料噴射パラメータに従って燃料噴射が行われた場合に発生し得る燃焼騒音と、目標筒内酸素濃度の下で基本燃料噴射パラメータに従って燃料噴射が行われた場合に発生し得る燃焼騒音とを比較する。そして、両者の差が許容値を超える場合、その差が許容値に収まるように基本燃料噴射パラメータを補正し、その補正後の燃料噴射パラメータに従って燃料噴射弁を作動させる。これにより、燃焼騒音の大きさ(性能パラメータ)が適切となるようにしている。
【0004】
また、特許文献1のものでは、目標燃焼騒音を満たす適合値が複数存在する場合に、複数の適合値のうち、スモークの発生量(性能パラメータ)が最も少なくなるものを選択することが行われている。これにより、燃焼騒音だけでなくスモークの発生量についても適切になるようにしている。なお、燃料噴射パラメータとしては、例えばパイロット噴射量、メイン噴射量、噴射の間隔、メイン噴射時期などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−156034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数の性能パラメータの間には相関が存在することがあり、上記特許文献1の図4及び図11に示すように、燃焼騒音(性能パラメータ)が小さくなるようパイロット噴射の噴射間隔(燃焼パラメータ)を小さくしようとすると、スモークの発生量(性能パラメータ)が多くなってしまうことがある。つまり、複数の性能パラメータの目標値を個別に算出し、その算出した目標値を用いて複数の制御パラメータを同時に操作した場合、ある一つの性能パラメータを目標値にしようとすると、他の性能パラメータが目標値からずれてしまうことが考えられる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、エンジンの性能を表す複数の性能パラメータを独立して制御することができるエンジン制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0009】
本発明は、アクチュエータの作動を制御することでエンジンの燃焼状態を制御し、ひいてはエンジンの性能を制御するエンジン制御装置に関するものである。特に、請求項1に記載の発明は、前記性能を表す複数の性能パラメータと、該複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子との相関を定義した第1相関データを記憶する第1記憶手段と、前記複数の共通因子と、前記燃焼状態を表す複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第2相関データを記憶する第2記憶手段と、前記第1記憶手段に記憶された第1相関データを用いて、前記性能パラメータの目標値に基づいて前記複数の共通因子の目標値を算出する因子目標値算出手段と、前記第2記憶手段に記憶された第2相関データを用いて、前記因子目標値算出手段により算出した各々の前記共通因子の目標値に基づいて、前記複数の燃焼パラメータの目標値を算出する燃焼目標値算出手段と、前記燃焼目標値算出手段により算出した各燃焼パラメータの目標値に基づいて、前記アクチュエータに関する制御パラメータの指令値を算出する制御指令値算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
エンジンの性能を表す複数の性能パラメータの間に相関がある場合、ある1つの性能パラメータを目標値にしようとすると、他の性能パラメータが目標値からずれてしまうことがある。つまり、性能パラメータ間の相互干渉により、それぞれの性能パラメータを相互に独立して制御できないことがある。
【0011】
その点、本構成では、複数の性能パラメータと複数の共通因子との相関を第1相関データとして定義しておき、その第1相関データを用いて、性能パラメータの目標値を、複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子で表す。また、複数の共通因子と複数の燃焼パラメータとの相関を第2相関データとして定義しておき、性能パラメータの目標値を変換して表される複数の共通因子(目標値)に基づいて、第2相関データを用いて複数の燃焼パラメータの目標値を算出する。そして、該算出した複数の燃焼パラメータの目標値に基づいて、アクチュエータに関する制御パラメータの指令値を算出する。この場合、複数の共通因子同士は相関を持たないため、このような共通因子を用いて算出した制御パラメータの指令値によれば、複数の性能パラメータについて、それぞれの性能パラメータを独立にかつ同時に制御することができる。その結果、エンジンの制御性向上を図ることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、前記複数の燃焼パラメータと複数の前記制御パラメータとの相関を定義した第3相関データを記憶する第3記憶手段を備え、前記制御指令値算出手段は、前記第3記憶手段に記憶された第3相関データを用いて、前記燃焼目標値算出手段により算出した各燃焼パラメータの目標値に基づいて前記指令値を算出する。
【0013】
本構成における第3相関データは、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義したものである。つまり、燃焼パラメータと制御パラメータとが1対1で関連付けされているのではなく、複数対複数で関連付けされている。この場合、複数の燃焼パラメータの相互干渉を抑制することができ、その相互干渉による制御性悪化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エンジン制御システムの全体概略を示す機能ブロック図。
【図2】複数の性能パラメータの相関を示す図。
【図3】共通因子演算式の一例を示す図。
【図4】燃焼パラメータ演算式の一例を示す図。
【図5】制御量演算式の一例を示す図。
【図6】制御指令値算出処理を示すフローチャート。
【図7】第2実施形態にかかるエンジン制御装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、ディーゼルエンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものである。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射制御等を実施するものとしている。図1に、本実施形態におけるエンジン制御システムの全体概略を示す機能ブロック図を示す。
【0016】
図1において、エンジン10には複数のアクチュエータ11が搭載されている。アクチュエータ11としては、例えば燃料系について、燃焼に供する燃料を噴射する燃料噴射弁や、燃料噴射弁へ供給する燃料の圧力を制御する高圧ポンプ等を含む。また、吸気系について、排気の一部をEGRガスとして吸気に循環させるEGR量を制御するEGRバルブや、過給圧を可変制御する可変型過給器、新気量を制御するスロットルバルブ、吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期やリフト量を可変制御するバルブ制御機構等を含む。
【0017】
また、エンジン10には、エンジン10の性能を検出する各種の性能検出センサ12や、エンジン10の燃焼状態を検出する各種の燃焼状態検出センサ13が設けられている。性能検出センサ12としては、例えば排気中の特定成分量(例えばNOx量、CO量、HC量など)を検出するためのセンサとしてNOxセンサや酸素センサ、スモーク量を検出するスモークセンサ、エンジン10の出力トルクを検出するトルクセンサ、燃焼音を検出するセンサなどが挙げられる。また、燃焼状態検出センサ13としては、例えば気筒内圧力を検出する筒内圧センサなどが挙げられる。
【0018】
その他、本システムには、エンジン10のクランク角度を検出するクランク角センサや、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサなどの各種センサが設けられている。
【0019】
ECU20は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(マイコン)を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。
【0020】
具体的には、ECU20のマイコンは、上記の各種センサからの検出信号を入力し、随時入力される各種の検出信号等に基づいて、要求されるエンジン性能とするにはどのようなエンジン燃焼状態とすべきかをまず求める。そして、その求めたエンジン燃焼状態になるよう制御パラメータの操作量を制御する。これにより、複数のエンジン性能について、それぞれの目標値(性能目標値)が同時に満たされるようにアクチュエータ11の作動を制御し、結果として、複数のエンジン性能が協調して制御されるようにしている。
【0021】
なお、エンジン燃焼状態は、複数の燃焼パラメータにより表されている。燃焼パラメータの具体例としては、例えば、気筒内圧力、熱発生量、熱発生率、着火タイミング、着火開始遅れ時間、着火終了遅れ時間などを含む。着火タイミング、着火開始遅れ時間、着火終了遅れ時間については、筒内圧センサにより検出された筒内圧力の変化に基づいて取得可能である。
【0022】
また、エンジン性能は、複数の性能パラメータにより表されている。これら性能パラメータの具体例としては、例えば排気中の特定成分量(例えばNOx量、CO量、HC量など)、スモーク量、トルク、燃料消費率(燃費)、燃焼音などを含む。
【0023】
ここで、複数の性能パラメータの間には相関関係が存在することがある。この場合、複数の性能パラメータの目標値を個別に設定してアクチュエータ11を同時制御しようとすると、性能パラメータが相互干渉することにより、ある一つの性能パラメータを目標値に制御すると、他の性能パラメータが目標値からずれていってしまうといった事象が生じることが考えられる。
【0024】
そこで、本実施形態では、複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子Fpを取り出し、その複数の共通因子Fpを中間パラメータとして用いて制御パラメータを制御することとしている。
【0025】
具体的には、複数の性能パラメータと複数の共通因子Fpとの相関を予め定義した共通因子演算式(第1相関データ)と、複数の共通因子Fpと複数の燃焼パラメータとの相関を予め定義した燃焼パラメータ演算式(第2相関データ)とをROM等に記憶しておく。ECU20のマイコンは、共通因子演算式を用いて、複数の性能パラメータの各目標値から複数の共通因子Fpの各目標値を算出し、その複数の共通因子Fpの各目標値から、燃焼パラメータ演算式を用いて、複数の燃焼パラメータの各目標値を算出する。そして、その複数の燃焼パラメータの目標値に基づいて制御パラメータの指令値を算出し、その指令値に基づいてアクチュエータ11の作動を制御することとしている。
【0026】
次に、性能パラメータ間における相関について図2を用いて更に説明する。図2は、2つの性能パラメータの関係を示す図であり、同図では、横軸を燃料消費率(BSFC)、縦軸をトルク(TRQ)としている。図中、(a)は性能パラメータ間の相関を説明する図であり、(b)は共通因子Fpを説明する図である。
【0027】
図2(a)に示すように、複数の性能パラメータのうち燃料消費率とトルクとの間には相関があり、例えば燃料消費率を小さくするとトルクが大きくなるといった関係がある。そのため、燃料消費率を小さくし、かつトルクを小さくするといった2つの要求が同時に生じたときに、既存の技術のように、複数の性能パラメータの個々について独立して燃焼パラメータの目標値を設定した場合には、燃料消費率を目標値で制御しようとすると、トルクが目標値からずれてしまい、また逆に、トルクを目標値で制御しようとすると、燃料消費率が目標値からずれてしまうといったことが生じることが考えられる。
【0028】
これに対し、本システムでは、複数の性能パラメータの間に存在する共通因子Fp(共通の軸)を、例えば因子分析などの手法により取り出し、その共通の軸上で複数の性能パラメータを同時に制御する。例えば、燃料消費率及びトルクの2つの性能パラメータでは、図2(b)に示すように、共通の軸として線L1が取り出される。また、本実施形態では、複数の出力パラメータ間に存在する複数の共通因子を取り出す際に、それら複数の共通因子Fpが互いに無相関となるようにすることで、複数の性能パラメータをそれぞれ独立して制御可能になっている。なお、図2では共通の軸としての線L1を直線で示したが、曲線であってもよい。
【0029】
次に、エンジン制御に関する基本機能の構成について説明する。
【0030】
図1に示すように、ECU20は、性能パラメータの目標値(性能目標値)を算出する性能目標値算出部30と、燃焼パラメータの目標値を算出する燃焼パラメータ算出部70と、アクチュエータ11を制御するアクチュエータ制御部90とを備えている。また特に、本システムでは、複数の性能パラメータから共通因子Fpを取り出す構成として、目標共通因子算出部40と実共通因子算出部50とを備えている。以下、各構成を順に説明する。
【0031】
性能目標値算出部30では、エンジン運転状態を表すパラメータ(エンジン回転速度やアクセル操作量など)や、環境条件を表すパラメータ(エンジン冷却水温や大気圧、外気温など)を用いて、例えば性能目標値算出用マップにより性能目標値Ptを算出する。
【0032】
目標共通因子算出部40では、性能目標値算出部30で算出した性能目標値Ptから、複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子を取り出すことで、共通因子目標値Ftを算出する。具体的には、目標共通因子算出部40は演算式記憶部41を備えており、この演算式記憶部41において、複数(j個)の性能パラメータ(p1,・・・pj)と複数(i個)の共通因子Fp(f1,・・・fi)との相関を定義した共通因子演算式(第1相関データ)が記憶されている。目標共通因子算出部40では、入力した性能目標値Ptを共通因子演算式に代入することにより共通因子目標値Ftを算出する。
【0033】
図3に、共通因子演算式の一例を示す。本実施形態における共通因子演算式は行列式で表され、具体的には、複数の性能パラメータを変数とするj次元の列ベクトルA1と、i行j列の成分a11〜aijで構成される行列A2との積が、複数の共通因子を変数とするi次元の列ベクトルA3として表されている。なお、共通因子演算式は、例えば因子分析等の手法を用いて設定されている。
【0034】
図1の説明に戻り、実共通因子算出部50では、性能パラメータの実値Paを入力し、その入力した実値Paから、複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子を取り出すことにより共通因子実値Faを算出する。具体的には、実共通因子算出部50は演算式記憶部51を備えており、この演算式記憶部51において、複数の性能パラメータと複数の共通因子Fpとの相関を定義した共通因子演算式(例えば図3の行列式)が記憶されている。実共通因子算出部50では、入力した実際値Paを共通因子演算式に代入することにより共通因子実値Faを算出する。
【0035】
なお、性能パラメータの実値Paは、性能検出センサ12の検出値に基づいて算出した値でもよいし、エンジンモデル等を用いて算出した推定値でもよい。
【0036】
算出した共通因子目標値Ft及び共通因子実値Faは、共通因子偏差算出部60に入力される。共通因子偏差算出部60では、複数の共通因子のそれぞれにおける共通因子目標値Ftと共通因子実値Faとの差分を共通因子偏差Δfとして算出する。
【0037】
燃焼パラメータ算出部70では、共通因子実値Faを目標値Ftに一致させるための燃焼パラメータの目標値として燃焼目標値Qtを算出する。具体的には、燃焼パラメータ算出部70は、積分器71と、燃焼目標値算出部72とを備えている。積分器71では、共通因子偏差算出部60で算出した共通因子偏差Δfを積算することにより積分値xを算出する。燃焼目標値算出部72では、積分器71から入力した積分値xをパラメータとして燃焼目標値Qtを算出する。
【0038】
より具体的には、燃焼目標値算出部72は演算式記憶部73を備えており、この演算式記憶部73において、複数(i個)の共通因子の変化量と、複数(k個)の燃焼パラメータ(q1,・・・qk)の変化量との相関を定義した燃焼パラメータ演算式(第2相関データ)が記憶されている。燃焼目標値算出部72では、各共通因子の積分値xを燃焼パラメータ演算式に代入することにより、複数の燃焼パラメータのそれぞれにおける目標値の変化分として目標変化量ΔQtを算出する。そして、算出した目標変化量ΔQtで燃焼パラメータの基準値Qbを補正することにより燃焼目標値Qtを算出する。なお、燃焼パラメータの基準値Qbは、エンジン運転条件毎に、予め設定又は算出される値である。
【0039】
図4は、燃焼パラメータ演算式の一例を示す図である。本実施形態における燃焼パラメータ演算式は行列式で表され、具体的には、複数の共通因子の変化量を変数とするi次元の列ベクトルA4と、k行i列の成分b11〜bkiで構成される行列A5との積が、複数の燃焼パラメータの変化量を変数とするk次元の列ベクトルA6として表されている。この燃焼パラメータ演算式は、例えば重回帰分析等の手法を用いて設定されている。
【0040】
なお、燃焼パラメータ算出部70では、積分値xを燃焼パラメータ演算式に代入して燃焼目標値Qtを算出することで、性能パラメータの実値が目標値に対して定常的に偏差を持つような定常偏差の発生を抑制している。また、積分値xがゼロになると、燃焼パラメータ演算式により算出される値はゼロとなり、現状の燃焼状態が維持されることとなる。燃焼パラメータ算出部70で算出した燃焼目標値Qtは燃焼偏差算出部80に入力される。
【0041】
燃焼偏差算出部80では、燃焼パラメータの実値としての燃焼実値Qaを入力するとともに燃焼目標値Qtを入力し、それらの差分を燃焼パラメータ偏差ΔQとして算出する。なお、燃焼実値Qaは、燃焼状態検出センサ13により検出することができるが、エンジンモデル等を用いて算出した推定値を用いてもよい。
【0042】
アクチュエータ制御部90は、積分器91と、指令値算出部92とを備えている。積分器91では、燃焼偏差算出部80で算出した燃焼パラメータ偏差ΔQの積分値yを算出する。指令値算出部92では、積分器91から入力した積分値yをパラメータとして制御パラメータの指令値である制御指令値Dを算出する。そして、算出した制御指令値Dをアクチュエータ11のそれぞれに対して出力する。
【0043】
より具体的には、指令値算出部92は演算式記憶部93を備えており、この演算式記憶部93において、複数(k個)の燃焼パラメータの変化量と、複数(h個)の制御パラメータの変化量との相関を定義した制御量演算式(第3相関データ)が記憶されている。指令値算出部92では、積分値yを制御量演算式に代入することにより、複数の制御パラメータのそれぞれにおける指令値の変化分として偏差ΔDを算出する。そして、算出した偏差ΔDで基準制御量Dbを補正することにより制御指令値Dを算出する。なお、基準制御量Dbは、エンジン運転条件毎に、予め設定されるか又はマップ等を用いて算出される。
【0044】
図5は、制御量演算式の一例を示す図である。本実施形態における制御量演算式は行列式で表され、具体的には、複数の燃焼パラメータの変化量を成分としたk次元の列ベクトルA7と、h行k列の成分c11〜chkで構成される行列A8との積が、複数の制御パラメータの変化量を変数としたh次元の列ベクトルA9として表されている。なお、制御量演算式は、例えば重回帰分析等の手法を用いて設定されている。
【0045】
なお、アクチュエータ制御部90では、積分値yを制御量演算式に代入して制御指令値Dを算出することで、燃焼パラメータの実値が目標値に対して定常的に偏差を持つような定常偏差の発生の抑制を図っている。
【0046】
次に、制御指令値Dの算出処理について図6のフローチャートを用いて説明する。この処理は、ECU20のマイコンにより所定周期毎に実行される。
【0047】
図6において、ステップS11では、エンジン回転速度や、運転者によるアクセル操作量(負荷)、エンジン冷却水温等のエンジン運転状態に基づいて、複数の性能パラメータの各々について性能目標値Ptを算出する。続くステップS12では、共通因子演算式(図3)を用いて、複数の共通因子の各々について共通因子目標値Ftを算出する。具体的には、共通因子演算式(図3)における列ベクトルA1を構成する各々の成分に性能目標値Ptを代入することで、列ベクトルA3を構成する各々の成分の解として共通因子目標値Ftを算出する。
【0048】
ステップS13では、複数の性能パラメータの実値Paを取得する。実値Paは、性能検出センサ12の検出値に基づき算出した値を用いてもよいし、モデル等により算出した推定値を用いてもよい。ステップS14では、その実値Paに基づいて、共通因子演算式を用いて共通因子実値Faを算出する。具体的には、共通因子演算式における列ベクトルA1を構成する各々の成分に性能パラメータの実値Paをそれぞれ代入することで、列ベクトルA3を構成する各々の成分の解として共通因子実値Faを算出する。
【0049】
続くステップS15では、複数の共通因子の各々の目標値Ftと実値Faとの差分(共通因子偏差)Δfを算出する。ステップS16では、各々の共通因子偏差Δfの積分値x(i)を算出する。具体的には、前回の積分値x(i-1)に今回の共通因子偏差Δfを加算することで、複数の共通因子の各々における今回の積分値x(i)を算出する。
【0050】
ステップS17では、燃焼パラメータの目標値として燃焼目標値Qtを算出する。ここでは、各々の燃焼パラメータについて、共通因子偏差Δfの積分値x(i)に基づいて、複数の燃焼パラメータの目標値の変化分として目標変化量ΔQtを算出し、その算出した目標変化量ΔQtで燃焼パラメータの基準値Qbを補正することにより燃焼目標値Qtを算出する。
【0051】
具体的には、燃焼パラメータ演算式(図4)において、列ベクトルA4を構成する各々の成分に積分値xをそれぞれ代入することで、列ベクトルA6を構成する各々の成分の解としての目標変化量ΔQtを算出する。また、エンジン回転速度等のエンジン運転条件に基づいて、例えばマップや数式により燃焼パラメータの基準値Qbを算出する。そして、算出した基準値Qbに目標変化量ΔQtを足し合わせることで燃焼目標値Qtを算出する。
【0052】
ステップS18では、複数の燃焼パラメータの実値Qaを取得する。実値Qaは、燃焼状態検出センサ13の検出値に基づき算出した値を用いてもよいし、モデル等の算出手段により推定した値を用いてもよい。続くステップS19では、複数の燃焼パラメータのそれぞれについて、燃焼目標値Qtと実値Qaとの差分(燃焼パラメータ偏差ΔQ)を算出する。
【0053】
ステップS20では、算出した各々の燃焼パラメータ偏差ΔQの積分値y(i)を算出する。具体的には、前回の積分値y(i-1)に今回の燃焼パラメータ偏差ΔQを加算することで、複数の燃焼パラメータの各々に対する今回の積分値y(i)を算出する。
【0054】
その後のステップS21では、制御パラメータの指令値として制御指令値Dを算出する。ここでは、複数の制御パラメータの各々について、燃焼パラメータ偏差ΔQの積分値y(i)に基づいて制御指令値の変化分としての偏差ΔDを算出し、その算出した偏差ΔDで基準制御量Dbを補正することにより制御指令値Dを算出する。具体的には、制御量演算式(図5)の列ベクトルA7を構成する各々の成分に、積分値yをそれぞれ代入することで、列ベクトルA9を構成する各々の成分の解としての偏差ΔDを算出する。また、エンジン回転速度等のエンジン運転条件に基づいて、例えばマップや数式により制御パラメータの基準制御量Dbを算出する。そして、算出した基準制御量Dbに偏差ΔDを足し合わせ、これを制御指令値Dとする。この制御指令値Dをエンジン10の各アクチュエータ11に出力することにより、エンジン10の性能パラメータが協調して制御される。
【0055】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0056】
複数の性能パラメータと複数の共通因子との相関を第1相関データとして定義しておき、その第1相関データを用いて、性能パラメータの目標値を、複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子で表すとともに、複数の共通因子と複数の燃焼パラメータとの相関を第2相関データとして定義しておき、性能パラメータの目標値を変換して表される複数の共通因子(目標値)に基づいて、第2相関データを用いて複数の燃焼パラメータの目標値を算出し、該算出した複数の燃焼パラメータの目標値に基づいて、アクチュエータに関する制御パラメータの指令値を算出する構成とした。
【0057】
上記構成では、共通因子演算式及び燃焼パラメータ演算式は、それぞれのパラメータ間の相関が、1対1で関連付けされたものではなく、複数対複数で関連付けされたものとなっている。したがって、パラメータの個々について独立して目標値が設定される既存の技術とは異なり、複数の性能パラメータが相互干渉することを抑制でき、その相互干渉による制御性悪化を回避できる。また特に、上記構成では、複数の性能パラメータから取り出した中間パラメータとしての複数の共通因子が互いに相関を持たないため、それら共通因子Fpを用いて算出した制御パラメータの指令値によれば、複数の性能パラメータを独立かつ同時に制御することができる。その結果、エンジンの制御性の更なる好適化を図ることができる。
【0058】
また、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を第3相関データとして定義しておき、その第3相関データを用いて、複数の燃焼パラメータの目標値に基づいて制御パラメータの指令値を算出する構成とした。つまり、第3相関データでは、燃焼パラメータと制御パラメータとが1対1で関連付けされているのではなく、複数対複数で関連付けされている。これにより、複数の燃焼パラメータの相互干渉を抑制することができ、その相互干渉による制御性悪化を回避することができる。
【0059】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、第2相関データとしての燃焼パラメータ演算式に「複数の共通因子偏差」を代入し、その解として「複数の燃焼パラメータの変化量」を算出するとともに、第3相関データとしての制御パラメータ演算式に「複数の燃焼パラメータ偏差」を代入し、その解として「複数の制御パラメータの変化量」を算出する構成としたが(図1参照)、これを変更する。
【0060】
すなわち、本実施形態では、図7に示すように、燃焼目標値算出部72において、第2相関データとしての燃焼パラメータ演算式に「複数の共通因子の目標値」を代入し、その解として「複数の燃焼パラメータの目標値」を算出するとともに、指令値算出部92において、第3相関データとしての制御パラメータ演算式に「複数の燃焼パラメータの目標値」を代入し、その解として「複数の制御パラメータの指令値」を算出する構成としている。
【0061】
また、図7では、燃焼パラメータの目標値の算出に関して、フィードバック制御部95と補正部96とを備えており、燃焼パラメータ演算式により算出した複数の燃焼パラメータの目標値を、フィードバック制御部95で算出したフィードバック補正量により補正する構成としている。さらに、制御パラメータの指令値の算出に関して、フィードバック制御部97と補正部98とを備えており、制御パラメータ演算式により算出した複数の制御パラメータの指令値を、フィードバック制御部97で算出したフィードバック補正量により補正する構成としている。
【0062】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の協調制御が実施されるとともに、燃焼パラメータ及び性能パラメータの実値又は推定値をフィードバックさせるので、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0063】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0064】
・上記各実施形態では、燃焼パラメータ及び性能パラメータの実値又は推定値をフィードバックさせているが、本発明の実施にあたり、これらのフィードバックの少なくとも一方を廃止してオープン制御としてもよい。具体的には、図7に示すブロック図において、共通因子偏差算出部60とフィードバック制御部95と補正部96とを廃止し、燃焼目標値算出部72で算出した複数の燃焼パラメータの目標値を、フィードバック演算せずにアクチュエータ制御部90に出力してもよい。また、燃焼偏差算出部80とフィードバック制御部97と補正部98とを廃止し、指令値算出部92で算出した複数の制御パラメータの指令値を、フィードバック演算せずに各アクチュエータ11に出力してもよい。
【0065】
・上記各実施形態では、共通因子の目標値の算出に際し、複数の性能パラメータと複数の共通因子との相関を定義した第1相関データ(共通因子演算式)を用い、燃焼パラメータの目標値の算出に際し、複数の共通因子と複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第2相関データ(燃焼パラメータ演算式)を用い、制御パラメータの指令値の算出に際し、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した第3相関データ(制御パラメータ演算式)を用いる構成としたが、このうち制御パラメータの指令値の算出に関しては、第3相関データ(制御パラメータ演算式)を用いずに、適合マップを用いる構成としてもよい。
【0066】
また、第1相関データ、第2相関データ及び第3相関データを、パラメータ演算式(行列式)でない形態で記憶する構成であってもよい。例えば、これらの各相関データをマップ形式で記憶する構成であってもよい。この場合、第1相関データに関して言えば、「複数の共通因子」に含まれる共通因子ごとに、複数の性能パラメータとの相関を表す定数値をマップ形式で記憶しておくとよい。また、第2相関データに関して言えば、「複数の燃焼パラメータ」に含まれる燃焼パラメータごとに、複数の共通因子との相関を表す定数値をマップ形式で記憶しておくとよい。また、第3相関データに関して言えば、「複数の制御パラメータ」に含まれる制御パラメータごとに、複数の燃焼パラメータとの相関を表す定数値をマップ形式で記憶しておくとよい。
【符号の説明】
【0067】
10…エンジン、11…アクチュエータ、20…ECU、30…性能目標値算出部、40…目標共通因子算出部(因子目標値算出手段)、41…演算式記憶部(第1記憶手段)、50…実共通因子算出部、51…演算式記憶部(第1記憶手段)、60…共通因子偏差算出部、70…燃焼パラメータ算出部、71…積分器、72…燃焼目標値算出部(燃焼目標値算出手段)、73…演算式記憶部(第2記憶手段)、80…燃焼偏差算出部、90…アクチュエータ制御部、91…積分器、92…指令値算出部(制御指令値算出手段)、93…演算式記憶部(第3記憶手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの作動を制御することでエンジンの燃焼状態を制御し、ひいてはエンジンの性能を制御するエンジン制御装置であって、
前記性能を表す複数の性能パラメータと、該複数の性能パラメータの間に存在する互いに無相関の複数の共通因子との相関を定義した第1相関データを記憶する第1記憶手段と、
前記複数の共通因子と、前記燃焼状態を表す複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第2相関データを記憶する第2記憶手段と、
前記第1記憶手段に記憶された第1相関データを用いて、前記性能パラメータの目標値に基づいて前記複数の共通因子の目標値を算出する因子目標値算出手段と、
前記第2記憶手段に記憶された第2相関データを用いて、前記因子目標値算出手段により算出した各々の前記共通因子の目標値に基づいて、前記複数の燃焼パラメータの目標値を算出する燃焼目標値算出手段と、
前記燃焼目標値算出手段により算出した各燃焼パラメータの目標値に基づいて、前記アクチュエータに関する制御パラメータの指令値を算出する制御指令値算出手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記複数の燃焼パラメータと複数の前記制御パラメータとの相関を定義した第3相関データを記憶する第3記憶手段を備え、
前記制御指令値算出手段は、前記第3記憶手段に記憶された第3相関データを用いて、前記燃焼目標値算出手段により算出した各燃焼パラメータの目標値に基づいて前記指令値を算出する請求項1に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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