説明

エンジン制御装置

【課題】ドライバの意思に適ったエンジン自動停止を実施し、エンジン自動停止の適正化を図る。
【解決手段】ECU30は、エンジン運転中に所定の停止条件が成立した場合にエンジン10を自動停止させるとともに、そのエンジン停止後に所定の再始動条件が成立した場合にエンジン10を再始動させる。所定の停止条件としては、車速が所定の停止許可車速まで低下したことを含む。ECU30は、車両の減速開始から、車速が停止許可車速以下まで低下するまでの所定減速期間において、ドライバによりブレーキ操作が行われている状態でのブレーキ操作量の変化幅を検出する。そして、所定の停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施するか否かを、検出したブレーキ操作量の変化幅に基づいて判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン運転中に所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止させるとともに、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジンを再始動させる、いわゆるアイドルストップ制御を実施する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、車両減速中において、シフトポジションが前進走行ポジションにあってブレーキペダルが踏まれている制動中にエンジンを停止することが開示されている。これにより、不要なアイドル運転を行うことなく最大限にエンジンを停止させ、結果として燃料消費量の節減を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−257122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両減速中にドライバがブレーキペダルを踏み込んで車両に制動力を付与した場合であっても、ドライバは車両の運転を継続させる意思を有していることがある。この場合にエンジンを自動停止してしまうと、ドライバの意思に反した車両制御となってしまうおそれがある。例えば、ドライバが意図しないエンジン自動停止を行った場合、その後において、車両の加速が速やかに行われなかったり、かえって燃費が悪化したりする等の不都合が生じることが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ドライバの意思に適ったエンジン自動停止を実施し、エンジン自動停止の適正化を図ることができるエンジン制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
【0007】
本発明は、ドライバによるブレーキ操作量に応じて制動力が付与される車両に適用され、エンジンの運転中に所定の停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止し、その後、所定の再始動条件が成立した場合にエンジンを再始動するエンジン制御装置に関する。そして、請求項1に記載の発明は、前記停止条件として、車速が所定の停止許可車速まで低下したことを含み、車両の減速開始から、車速が前記停止許可車速以下まで低下するまでの所定減速期間において、ドライバによりブレーキ操作が行われている状態でのブレーキ操作量の変化幅を検出する変化幅検出手段と、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施するか否かを、前記変化幅検出手段により検出した変化幅に基づいて判定する停止判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
車両が減速して停止許可車速まで低下し、所定の停止条件が成立したとしても、ドライバが車両停止の意思を有しているとは限らず、車両の運転を継続させたいとする意思を有している場合もある。本発明は、ドライバのエンジン自動停止の意思を、車両減速中におけるドライバのブレーキ操作量の変化幅に基づいて判断する構成としている。すなわち、ドライバは車両減速のためにブレーキ操作を行うが、車両停止を目的とする場合には、目標地点まで安定した減速感を得るためにブレーキ操作量が略一定となる傾向にあり、ブレーキ操作を開始した後においてブレーキ操作量がさほど大きく変化しない。これに対し、車両減速中のブレーキ操作量が大きく変化する場合には、ドライバが車両停止の意思を有しているか否かを特定できず、かかる場合、ドライバの意思に反してエンジンが停止されるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明では、車両減速中において、ブレーキ操作が行われている状態でのブレーキ操作量の変化幅に基づいてドライバのエンジン自動停止の意思の有無を判定し、その判定結果に基づいて、車速条件を含む所定の停止条件が成立した時点でのエンジン自動停止を実施するか否かを判定する。これにより、ドライバの意思に適ったエンジン自動停止を実施し、エンジン自動停止の適正化を図ることができる。
【0010】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、前記停止判定手段は、前記変化幅が所定量以下である場合に、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施し、前記変化幅が前記所定量よりも大きい場合に、前記停止条件が成立してもエンジン自動停止を実施しないものとするとよい。
【0011】
エンジンを自動停止したとしても、エンジン停止から再始動までの時間が短い場合には、再始動に要する燃料量を考慮すると却って燃費悪化を招くおそれがある。この場合、ドライバがエンジン自動停止の意思を有しているからといってエンジンを自動停止するのは、燃費の観点からすると好ましくないと考えられる。
【0012】
その点に鑑み、請求項3に記載の発明では、前記所定減速期間における車両減速度が所定値よりも大きいか否かを判定する手段を備え、前記車両減速度が前記判定値よりも大きい場合、前記停止判定手段による判定結果にかかわらず、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施しない。この構成によれば、燃料消費量の低減に寄与しないエンジン自動停止を回避することができ、結果として、燃費向上を図りたいとするドライバの意思に沿ったエンジン制御を実現できる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止が実施されることを、前記停止条件の成立前において報知手段によりドライバに報知させる報知制御手段を備え、前記停止判定手段は、前記報知制御手段による報知後に、前記変化幅に基づいてエンジン自動停止を実施するか否かを判定する。
【0014】
本構成によれば、所定の停止条件が成立した時点でエンジン自動停止が実施される旨を、報知手段により報知されることにより、エンジン自動停止の実施前に、ドライバのブレーキ操作又はブレーキ操作の解除を促すことができる。その結果、ドライバのエンジン自動停止の意思をエンジン停止の実施前に車両側に伝達することができる。ここで、報知手段としては、例えば、光や文字、音等により報知するものが挙げられる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、前記報知制御手段は、前記停止判定手段によりエンジン自動停止を実施しないと判定した場合に、その旨を前記報知手段により報知させる。本構成によれば、今回の車両減速時においてエンジン自動停止が実施されないことをドライバが知ることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、前記停止判定手段は、前記所定減速期間内に定められた第1車速領域における前記変化幅に基づいて、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施するか否かを判定する第1判定手段と、前記所定減速期間内であって前記第1車速領域よりも低車速側に定められた第2車速領域における前記変化幅に基づいて、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施するか否かを判定する第2判定手段と、を備える。また、前記報知制御手段は、前記第1判定手段の判定結果に基づいて、前記第2車速領域において前記報知手段により報知させる。この構成によれば、エンジンを自動停止する旨の報知が必要か否かの判断をドライバのエンジン停止意思に基づいて行うことができる。
【0017】
本発明者らは、クリープ走行が可能な車速領域(クリープ車速領域)において安定した減速感を得るには、その車速領域では、車速が低下するほどブレーキ操作量を大きくする必要があるという知見を得た。これを考慮すると、ブレーキ操作量の変化幅に基づく判定をクリープ車速領域で行った場合には、エンジン停止意思とは異なる要因によってブレーキ操作量の変化幅が変化することがあり、判定精度が低下することが考えられる。
【0018】
その点に鑑み、請求項7に記載の発明では、エンジンの動力を、トルクコンバータを有する自動変速装置を介して車軸へ伝達する車両に適用され、前記停止判定手段は、クリープ力による車両走行が可能な車速領域よりも高車速側において、前記変化幅に基づいてエンジン自動停止を実施するか否かを判定する。これにより、ドライバのエンジン自動停止の意思の有無を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】発明の実施の形態における車両制御システムの概略を示す構成図。
【図2】エンジン自動停止を実施する場合を示すタイムチャート。
【図3】エンジン自動停止を実施しない場合を示すタイムチャート。
【図4】IS許可ランプ点灯処理を示すフローチャート。
【図5】IS予告ランプ点灯処理を示すフローチャート。
【図6】エンジン自動停止処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、例えばエンジンと自動変速装置(オートマチックトランスミッション)とを搭載した車両に具体化しており、その車両制御システムを図1に示す。
【0021】
図1において、エンジン10は例えば多気筒ガソリンエンジンであり、図示しないインジェクタや点火装置(イグナイタ等)等を備えている。エンジン10の出力軸(クランク軸)11には自動変速装置12が接続されている。自動変速装置12は、トルクコンバータ13と自動変速機構14とを備えており、都度設定される変速比によりクランク軸11の回転力を変速してトランスミッション出力軸15に伝達する。詳しくは、トルクコンバータ13は、クランク軸11に接続されたポンプインペラ13aと、自動変速機構14の入力軸に接続されたタービンランナ14bとにより構成される流体クラッチであり、エンジン10からの動力を自動変速機構14に伝達する。
【0022】
トランスミッション出力軸15には、ディファレンシャルギア16や、車両の出力軸としての車軸17等を介して車輪(駆動輪)18が接続されている。また、車輪18には、図示しない油圧回路等により駆動されることで各車輪18に対して制動力を付与するブレーキアクチュエータ19が設けられている。ブレーキアクチュエータ19は、ブレーキペダル21の踏力を作動油に伝達する図示しないマスタシリンダの圧力に応じて、各車輪18に対する制動力を調整する。
【0023】
その他、本システムには、エンジン始動時においてエンジン10に初期回転(クランキング回転)を付与する始動装置としてのスタータ22が設けられている。
【0024】
ECU30は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エンジン10や車両の運転に関する各種制御を実施する。具体的には、ECU30は、本システムに設けられている各種センサの検出結果等に基づいて、インジェクタによる燃料噴射量制御、点火装置による点火制御などの各種エンジン制御や、スタータ22の駆動制御、ブレーキアクチュエータ19による制動制御、自動変速装置12による変速比制御等を実施する。センサ類について詳しくは、ECU30には、アクセルペダル23の踏込み量を検出するアクセルセンサ24や、ブレーキペダル21の踏込み量を検出するブレーキセンサ25、図示は省略するが、車速を検出する車速センサ、マスタシリンダ内部の圧力(ブレーキ圧)を検出するブレーキ圧センサ、加速度を検出するGセンサ等が接続されており、これら各センサの検出信号がECU30に逐次入力されるようになっている。その他、本システムには回転速度センサや負荷センサ(エアフロメータ、吸気圧センサ)等も設けられている。
【0025】
次に、上記のシステム構成において実施されるアイドルストップ制御について詳述する。アイドルストップ制御は、概略として、エンジン10のアイドル運転時に所定のエンジン停止条件が成立した場合にエンジン10を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立した場合にエンジン10を再始動させるものであり、同制御により、燃料消費量の低減を図っている。エンジン停止条件としては、車速条件として、車速が所定のIS許可車速Vis以下まで低下したことを含んでいる。IS許可車速Visについて本実施形態では、クリープ力による車両走行が可能な車速領域(クリープ車速領域)よりも高車速側に設定してあり、例えば、7km/hに設定してある。
【0026】
エンジン停止条件としては、その他、ブレーキ操作が行われたこと、アクセル操作量がゼロになったこと、自動変速装置12のシフト位置が走行レンジ(例えばDレンジ)であること、車載バッテリのバッテリ電圧が所定値以上であること等の少なくともいずれかを含んでいてもよい。また、エンジン再始動条件としては、例えば、エンジン停止状態において、アクセル操作が行われたこと、ブレーキ操作が解除されたこと等の少なくともいずれかが含まれる。
【0027】
本システムのアイドルストップ制御では、エンジン再始動後において車速が所定速度(第1判定車速Vth1)を超えるまでは次回のエンジン自動停止を禁止することとしている。例えば、渋滞時などでは、ドライバがブレーキペダル21のON/OFF操作を繰り返し行いながら低速で走行することが考えられるが、上記の停止禁止制御によれば、エンジン自動停止/再始動が頻繁に行われるのを回避することができる。
【0028】
さらに、本システムには、ドライバに対してエンジン自動停止を行うことを事前に報知するための手段として、IS許可ランプ26及びIS予告ランプ27が設けられている。これらのランプ26,27は、例えば車両のフロントパネル等といったドライバの視認性が高い箇所に取り付けられている。
【0029】
ところで、エンジン停止条件が成立したとしても、ドライバが車両停止の意思を有しているとは限らず、車両の運転を継続させたいとする意思を有している場合もある。このような場合にエンジンを自動停止してしまうと、ドライバにとって意図しないエンジン停止が行われることにより、ドライバが違和感を覚えることが懸念される。具体的には、例えば、ドライバが意図しない状況でエンジン始動音が発生したり、車両の加速が速やかに行われなかったりすることが考えられる。また、次回のエンジン再始動時の燃料量を考慮すると、エンジン自動停止をすることにより、却って燃費が悪化する場合もあると考えられる。
【0030】
そこで、本実施形態では、車両減速中においてドライバが車両停止の意思を持ってブレーキ操作を行う場合にはブレーキ操作量の変化幅が比較的小さくなる傾向があることに着目し、ドライバによりブレーキ操作が行われている状態でのブレーキ操作量の変化幅に基づいて、車両減速中におけるエンジン自動停止を実施するか否かを判定するようにしている。つまり、ドライバに車両停止(エンジン停止)の意思があれば、通常、ドライバは目標地点で車両を停止させるべくブレーキペダル21を所定位置まで踏み込み、車両が停止するまでその所定位置での踏み込みを維持することで、略一定の減速度で車両を停止させようとする。この場合、車両が停止するまでの車両減速中の期間において、ブレーキ操作量はさほど大きく変化しない。
【0031】
これに対し、車両減速中のブレーキ操作量の変化が大きい場合には、ドライバが車両停止の意思を有しているか否かを特定しきれず、かかる場合にエンジン10を自動停止すると、ドライバが意図せずにエンジン10が停止されてしまうことになるおそれがある。これらのことに着目し、本実施形態では、車両が減速開始してから上記の車速条件が成立するまでの間のブレーキ操作量の変化幅(ブレーキ変化幅)が所定量以下である場合には、車速条件を含む上記のエンジン停止条件が成立したときにエンジン自動停止を実施し、該ブレーキ変化幅が所定量よりも大きい場合には、エンジン停止条件が成立したとしてもエンジン自動停止を実施しないこととしている。これにより、ドライバがエンジン停止の意思を確実に有していると判断される場合にエンジン自動停止を行うようにしている。
【0032】
また、本実施形態では、ブレーキ変化幅に基づくエンジン停止の意思の判定を、車速がIS許可車速Visまで低下する前に実施しており、更に、IS許可車速Visをクリープ車速領域よりも高車速側に設定することで、上記の意思判定を、クリープ車速領域よりも高車速側で実施することとしている。クリープ車速領域において減速感を一定に保つには、車速が低下するほどブレーキペダル21の踏み増しを行う必要があり、ドライバにエンジン停止意思がある場合にもブレーキ操作量の変化幅が大きくなるからである。
【0033】
エンジン停止意思の判定に際し、本実施形態では、IS許可車速Visよりも高車速側の異なる複数の車速領域(本実施形態では2つの車速領域A,B)で上記判定を実施しており、それらの車速領域のうち、まず、高車速側の第1車速領域Aで、エンジン停止条件の成立時におけるエンジン自動停止を実施するか否かの仮判定を実施する。そして、仮判定においてブレーキ変化幅が所定量以下であった場合に、低車速側の第2車速領域Bで本判定を実施することとしている。
【0034】
図2及び図3は、本実施形態のエンジン自動停止処理の具体的態様を示すタイムチャートである。これらのうち、図2は、エンジン自動停止を実施する場合を示し、図3は、エンジン自動停止を実施しない場合を示している。なお、図2,3では、エンジン再始動後、車速が第1判定車速Vth1(例えば12km/h)を超え、エンジン自動停止が許可されている場合を想定している。
【0035】
図2において、エンジン停止条件のうち、車速条件以外のエンジン停止条件が成立した場合、そのタイミングt11でIS許可ランプ26が点灯される。また、車両減速中において、第1判定車速Vth1から第2判定車速Vth2(例えば10km/h)までの第1車速領域Aでは、第1判定車速Vth1を通過したタイミングt12でのブレーキ圧(第1基準ブレーキ圧B1)を基準とし、その基準点に対するブレーキ圧の変化幅が所定量α以下であるか否か、及び車両減速度が判定値δ1以下であるか否かの判定(仮判定)が実施される。なお、本実施形態では、ブレーキ圧センサにより検出したブレーキ圧が「ブレーキ操作量」に相当する。
【0036】
ここで、車両減速度の判定値δ1は、IS許可車速Visになったタイミングでエンジン10を停止した場合に、エンジン停止から車両停止(車速=0)までの期間において、エンジン停止による燃費効果を生じさせるのに必要な時間(燃費基準時間、例えば5sec)を確保できる減速度の上限値として定めてある。つまり、本実施形態では、車両減速度が判定値δ1以下の場合には、エンジン停止から車両停止までの期間において燃費基準時間を確保できるため、車両減速中においてエンジン自動停止を実施する。一方、車両減速度が判定値δ1よりも大きい場合には、同期間において燃費基準時間を確保できないため、ドライバがエンジン停止意思を有している場合であっても、エンジン10を自動停止しないこととしている。
【0037】
図2の説明に戻り、第1車速領域Aにおいてブレーキ圧の変化幅が所定量α以下に収まっており、かつ車両減速度が判定値δ1以下であれば、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされたまま、車速が第2判定車速Vth2になったタイミングt13でIS予告ランプ27が点灯される。
【0038】
第1判定車速Vth1から第2判定車速Vth2までの第2車速領域Bでは、IS予告ランプ27が点灯された状態において、第2判定車速Vth2の通過タイミングでのブレーキ圧(第2基準ブレーキ圧B2)を基準とし、その基準点に対するブレーキ圧の変化幅が所定量β以下であるか否か、及び車両減速度が判定値δ2以下であるか否かの判定(本判定)が実施される。つまり、第2車速領域Bでは、IS予告ランプ27の点灯によって、エンジン10が自動停止されることをドライバが事前に知ることができる。また、エンジン自動停止する旨の報知開始後にエンジン停止意思の判定を行うことにより、ドライバがエンジン自動停止を回避したい旨の意思を有している場合には、ドライバは、第2車速領域Bにおいて、ブレーキペダル21の踏み込み解除か、又はブレーキペダル21の踏み増しを行うことにより、その意思を車両側に伝達することが可能である。
【0039】
なお、ブレーキ圧の変化幅の判定値である所定量βは、上記の所定量αと同じ値であっても異なる値であってもよい。また、車両減速度の判定値δ2は、上記判定値δ1と同じ値であっても異なる値であってもよい。
【0040】
第2車速領域Bにおいてブレーキ圧の変化幅が所定量β以下であれば、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされた状態が継続され、IS許可車速Vis以下になり、エンジン停止条件が成立したタイミングt14でエンジン自動停止が実施される。
【0041】
一方、IS予告ランプ27の点灯後、第2車速領域Bにおいてドライバがブレーキペダル21の踏み込み解除を行った場合には、図3に示すように、ブレーキ圧の変化幅が所定量βよりも大きくなることにより、タイミングt21でエンジン停止禁止フラグFisxに「1」がセットされる。また、タイミングt21では、IS予告ランプ27が点滅後消灯されるとともに、IS許可ランプ26が消灯される。この場合、車速がIS許可車速Vis以下になっても、そのタイミングt22ではエンジン10が自動停止されない。
【0042】
また逆に、IS予告ランプ27の点灯後、第2車速領域Bにおいてドライバがブレーキペダル21の踏み増しを行った場合、上記図3と同様に、ブレーキ圧の変化幅が所定量βよりも大きくなることによりエンジン自動停止が禁止される。
【0043】
なお、図示は省略するが、第1車速領域Aにおいてブレーキ操作量が大きく変化した場合についても上記図3と同様である。すなわち、第1車速領域Aでブレーキ操作量が大きく変化した場合には、その変化があったタイミングでIS許可ランプ26が点滅後に消灯される。また、その後、車速条件を含むエンジン停止条件が成立した場合にも、エンジン10は自動停止されないこととなる。
【0044】
次に、アイドルストップ制御によるエンジン停止処理の具体的態様について、図4〜6のフローチャートを用いて説明する。これらのうち、図4は、IS許可ランプ26の点灯処理を示し、図5は、IS予告ランプ27の点灯処理を示し、図6は、エンジン自動停止処理を示す。
【0045】
まず、IS許可ランプ点灯処理について図4を用いて説明する。図4において、ステップS11では、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされているか否かを判定する。エンジン停止禁止フラグFisxは、エンジン自動停止の禁止中に「1」がセットされるフラグである。本実施形態では、エンジン再始動後、車速が第1判定車速Vth1を超える前や、車両減速中のブレーキ変化幅に基づきエンジン自動停止を許可しない場合に「1」がセットされる。
【0046】
エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされている場合にはステップS12へ進み、IS許可ランプ26が点灯中か否かを判定する。IS許可ランプ26が点灯中であればステップS13へ進み、エンジン運転中か否かを判定し、エンジン運転中であればステップS14において、車速条件以外のエンジン停止条件が成立しているか否かを判定する。ステップS14がYESであればステップS15へ進み、IS許可ランプ26を点灯して本ルーチンを終了し、ステップS11〜S14のいずれかがNOであれば、そのまま本ルーチンを終了する。
【0047】
次に、IS予告ランプ点灯処理について図5を用いて説明する。図5において、ステップS21では、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされているか否かを判定し、Fisx=0であればステップS22へ進み、IS予告ランプ27が点灯中か否かを判定する。IS予告ランプ27が点灯中でなければステップS23へ進み、IS許可ランプ26が点灯中か否かを判定する。
【0048】
IS許可ランプ26が点灯中の場合、ステップS24へ進み、車速が第1判定車速Vth1以下であるか否かを判定し、ステップS24がYESの場合、ステップS25において、車速が第2判定車速Vth2以下であるか否かを判定する。ステップS25がNOの場合、ステップS26へ進み、第1判定車速Vth1の通過タイミングでブレーキ圧センサにより検出したブレーキ圧を、第1基準ブレーキ圧B1として記憶する。
【0049】
ステップS27では、ブレーキ変化幅が所定量α以下であるか否かを判定する。ここでは、ブレーキ圧センサにより検出した実ブレーキ圧と、第1基準ブレーキ圧B1との差分が所定量α以下であるか否かを判定する。また、ステップS28では、車両減速度が判定値δ1以下であるか否かを判定する。そして、ステップS27,S28のいずれかがNOである場合、ステップS29へ進み、IS許可ランプ26を所定時間点滅した後に消灯するとともに、エンジン停止禁止フラグFisxに「1」をセットする。
【0050】
一方、ステップS27,S28のいずれもYESの場合には、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされたままとなり、次回のステップS21〜S23がYESとなる。この場合、車速が第2判定車速Vth2以下になると、ステップS24がYESとなり、ステップS30へ進み、第2判定車速Vth2の通過タイミングでブレーキ圧センサにより検出したブレーキ圧を、第2基準ブレーキ圧B2として記憶する。また、ステップS31では、IS予告ランプ27を点灯する。そして本ルーチンを終了する。
【0051】
次に、エンジン自動停止処理について図6を用いて説明する。図6において、ステップS41では、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされているか否かを判定し、ステップS41がYESの場合、ステップS42において、IS予告ランプ27が点灯中か否かを判定する。IS予告ランプ27が点灯中であれば、ステップS43において、車速がIS許可車速Vis以下であるか否かを判定し、ステップS43がNOの場合、ステップS44で、ブレーキ変化幅が所定量β以下であるか否かを判定する。ここでは、ブレーキ圧センサにより検出した実ブレーキ圧と第2基準ブレーキ圧B2との差分が所定量β以下であるか否かを判定する。また、ステップS45では、車両減速度が判定値δ2以下であるか否かを判定する。そして、ステップS44,S45のいずれかがNOである場合、ステップS46へ進み、IS予告ランプ27を所定時間点滅した後に消灯するとともに、IS許可ランプ26を消灯する。また、エンジン停止禁止フラグFisxに「1」をセットする。
【0052】
一方、ステップS44,S45のいずれもYESの場合には、エンジン停止禁止フラグFisxに「0」がセットされたままとなり、次回のステップS41,S42がYESとなる。そして、車速がIS許可車速Vis以下になると、ステップS43がYESとなり、ステップS47へ進み、エンジン10の燃料噴射及び点火を停止してエンジン10を自動停止する。また、ステップS48では、IS許可ランプ26及びIS予告ランプ27を消灯し、本ルーチンを終了する。なお、エンジン停止禁止フラグFisxについては、例えば、車速が0になった場合又は車速が所定値を超えた場合に「0」にリセットする。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0054】
車両減速中において、ブレーキ操作が行われている状態でのブレーキ操作量の変化幅(ブレーキ変化幅)に基づいて、エンジン停止条件が成立した時点でのエンジン自動停止を実施するか否かを判定する構成としたため、具体的には、ブレーキ変化幅が所定量α,β以下である場合に、エンジン停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施し、ブレーキ変化幅が所定量よりも大きい場合、エンジン停止条件が成立してもエンジン自動停止を実施しない構成としたため、今回の車両減速時においてドライバがエンジン停止意思を有しているかを考慮しつつ、エンジン自動停止を実施することができる。つまり、ドライバの意思に適ったエンジン自動停止を実施し、エンジン自動停止の適正化を図ることができる。
【0055】
車両減速中における減速度が判定値δ1,δ2よりも大きい場合、ブレーキ変化幅が所定量α,β以下であってもエンジン自動停止を実施しない構成としたため、燃料消費量の低減に寄与しないエンジン自動停止を回避することができ、結果として、燃費向上を図りたいとするドライバの意思に沿ったエンジン制御を実現できる。
【0056】
エンジン停止条件の成立前において、ブレーキ変化幅に基づくエンジン自動停止の実施の判定をIS許可ランプ26又はIS予告ランプ27の点灯開始後に実施する構成としたため、エンジン自動停止を実施する前に、ドライバのブレーキ操作又はブレーキ操作の解除を促すことができる。その結果、ドライバのエンジン自動停止の意思をエンジン停止の実施前にECU30に対して伝達することができる。
【0057】
また、ブレーキ変化幅が所定量よりも大きい場合に、IS予告ランプ27を点灯しないか又はIS予告ランプ27を点滅後に消灯するため、今回の車両減速時においてエンジン自動停止が実施されないことをドライバが知ることができる。
【0058】
第1車速領域Aにおけるブレーキ変化幅に基づいて、第1車速領域Aよりも低速側の第2車速領域BにおいてIS予告ランプ27を点灯するか否かを判定する構成としたため、エンジンを自動停止する旨の報知が必要か否かの判断をドライバのエンジン停止意思に基づいて行うことができる。
【0059】
クリープ車速領域において安定した減速感を得るには車速が低下するほどブレーキ操作量を大きくする必要があることに鑑み、クリープ車速領域よりも高車速側において、ブレーキ変化幅に基づくエンジン自動停止の判定を実施する構成としたため、エンジン停止意思とは異なる要因によるブレーキ操作量の変化の影響を小さくすることができる。これにより、ドライバのエンジン自動停止の意思の有無を精度良く判定することができる。
【0060】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0061】
・車速領域A,Bでは、ブレーキ操作量の変化幅と車両減速度とをパラメータとして、所定の停止条件が成立した時点でのエンジン自動停止を実施するか否かを判定する構成としたが、車両減速度を用いず、ブレーキ操作量の変化幅をパラメータとしてエンジン自動停止を実施するか否かを判定する構成としてもよい。車両減速中にブレーキペダル21の踏み増しが行われると車両減速度が大きくなる側に変化するが、この場合、ブレーキ操作量の変化幅についても大きくなる。つまり、ブレーキ操作量の変化幅と車両減速度とは相関があることから、ブレーキ操作量の変化幅としきい値との比較結果を用いれば、エンジン停止から車両停止までの期間において、エンジン停止による燃費効果を生じさせるのに必要な時間(燃費基準時間)を確保できるか否かの判断が可能である。
【0062】
・ブレーキ変化幅が所定量よりも大きい場合に、IS予告ランプ27を点灯しないか又はIS予告ランプ27を点滅後に消灯する構成としたが、エンジン自動停止しない旨を積極的に報知する構成としてもよい。例えば、エンジン10を自動停止する場合としない場合とでランプの色を変えることにより、エンジン10を自動停止しない旨をドライバに報知する。
【0063】
・報知手段をIS許可ランプ26及びIS予告ランプ27とし、報知制御手段としてのECU30は、ランプ26,27の点灯によってエンジン自動停止する旨をドライバに報知するとともに、ランプ26,27の消灯によってエンジン自動停止しない旨を報知する構成としたが、報知手段としてはランプに限定しない。例えば、「アイドルストップを実施します」、「アイドルストップを実施しません」旨を文字表示や音声により報知する装置であってもよい。
【0064】
・第1判定車速Vth1又は第2判定車速Vth2の通過タイミングで検出したブレーキ圧(ブレーキ操作量)を基準とし、その基準点からのブレーキ圧の変化量に基づいてエンジン停止意思の有無を判定したが、所定時間におけるブレーキ操作量の変化量に基づいてエンジン停止意思の有無を判定してもよい。
【0065】
・ブレーキ操作量の変化量に基づくエンジン停止意思の有無の判定を第1車速領域Aと第2車速領域Bとで行い、第1車速領域Aでの判定結果に基づいて、第2車速領域BにおいてIS予告ランプ27を点灯する構成としたが、IS予告ランプ27の点灯のための判定(仮判定)を行わない構成としてもよい。この場合、例えば、第1判定車速Vth1以下になったタイミングや、第2判定車速Vth2以下になったタイミング、あるいは減速開始のタイミングでIS予告ランプ27を点灯してもよい。
【0066】
・ブレーキ操作量の変化幅を検出する手段をブレーキ圧センサとECU30とで構成し、ブレーキ圧変化幅に基づいてエンジン停止意思の有無を判定したが、ブレーキ操作量の変化幅を検出する手段についてはこれに限定しない。例えば、ブレーキペダル21の踏み込み量を検出するブレーキセンサ25とECU30とにより同手段を構成し、ブレーキ踏み込み量の変化幅に基づいてエンジン停止意思の有無を判定する。また、ブレーキアクチュエータ19における油圧回路の途中に油圧センサを設け、同センサにより検出される油圧の変化幅に基づいてエンジン停止意思の有無を判定してもよい。
【0067】
・自動変速装置12を備える車両について説明したが、ドライバの操作に応じてエンジン10と変速機構との間の動力の遮断及び伝達を行う手動式変速装置に本発明を適用してもよい。また、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…エンジン、12…自動変速装置、13…トルクコンバータ、17…車軸、19…ブレーキアクチュエータ(制動装置)、21…ブレーキペダル、26…IS許可ランプ(報知手段)、27…IS予告ランプ(報知手段)、30…ECU(変化幅検出手段、停止判定手段、報知制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによるブレーキ操作量に応じて制動力が付与される車両に適用され、エンジンの運転中に所定の停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止し、その後、所定の再始動条件が成立した場合にエンジンを再始動するエンジン制御装置であって、
前記停止条件として、車速が所定の停止許可車速まで低下したことを含み、
車両の減速開始から、車速が前記停止許可車速以下まで低下するまでの所定減速期間において、ドライバによりブレーキ操作が行われている状態でのブレーキ操作量の変化幅を検出する変化幅検出手段と、
前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施するか否かを、前記変化幅検出手段により検出した変化幅に基づいて判定する停止判定手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記停止判定手段は、前記変化幅が所定量以下である場合に、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施し、前記変化幅が前記所定量よりも大きい場合に、前記停止条件が成立してもエンジン自動停止を実施しない請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記所定減速期間における車両減速度が所定値よりも大きいか否かを判定する手段を備え、
前記車両減速度が前記所定値よりも大きい場合、前記停止判定手段による判定結果にかかわらず、前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止を実施しない請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記停止条件が成立した時点でエンジン自動停止が実施されることを、前記停止条件の成立前において報知手段によりドライバに報知させる報知制御手段を備え、
前記停止判定手段は、前記報知制御手段による報知後に、前記変化幅に基づいてエンジン自動停止を実施するか否かを判定する請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記報知制御手段は、前記停止判定手段によりエンジン自動停止を実施しないと判定した場合に、その旨を前記報知手段により報知させる請求項4に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記停止判定手段は、前記所定減速期間内に定められた第1車速領域における前記変化幅に基づいて、前記停止条件が成立した時点でのエンジン自動停止を実施するか否かを判定する第1判定手段と、
前記所定減速期間内であって前記第1車速領域よりも低車速側に定められた第2車速領域における前記変化幅に基づいて、前記停止条件が成立した時点でのエンジン自動停止を実施するか否かを判定する第2判定手段と、を備え、
前記報知制御手段は、前記第1判定手段の判定結果に基づいて、前記第2車速領域において前記報知手段により報知させる請求項4又は5に記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
エンジンの動力を、トルクコンバータを有する自動変速装置を介して車軸へ伝達する車両に適用され、
前記停止判定手段は、クリープ力による車両走行が可能な車速領域よりも高車速側において、前記変化幅に基づいてエンジン自動停止を実施するか否かを判定する請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−77625(P2012−77625A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220610(P2010−220610)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】