説明

エンジン制御装置

【課題】定速走行時に走行速度を低下させることなく燃費を低減することが可能なエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ベルト式無段変速機2を搭載した車両にあって、アクセル開度Accの変化量及び車両の走行速度Vの変化量から車両の定速走行状態を判定し、車両の定速走行状態が判定された場合にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量低減する。これにより、無段変速機2でベルトを挟持するための油圧低減可能分やベルト滑り低減可能分だけ、エンジントルクの消費を低減することが可能となる。また、車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度VAVからの乖離成分が予め設定された範囲内であり且つアクセル開度の変化量が予め設定された範囲内である場合に、予め設定された所定時間経過毎にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量ずつ低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に関し、特に定速走行時のエンジン制御に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
このようなエンジン制御装置としては、例えば下記特許文献1に記載されるものがある。このエンジン制御装置は、例えば変速比を連続的に変化させることができる無段変速機を搭載した車両において、車両の走行速度とアクセル開度に基づいて目標駆動力を設定し、この目標駆動力と走行速度から目標出力を設定し、この目標出力を達成する目標エンジントルク及び目標エンジン回転速度を例えば最適燃費条件から設定し、目標エンジントルクが実現されるように例えばスロットル開度を制御すると共に変速機制御装置は目標エンジン回転速度が実現されるように無段変速機の変速比を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−219066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した無段変速機がベルト式(Vベルト式ともいう)無段変速機である場合、ベルトが接触している入出力のプーリの接触半径、所謂プーリ比を連続的に変更することで無段変速を可能としている。このようなベルト式無段変速機では、周知のように、ベルトが不要に滑らないように、プーリを構成する二つのシーブ(プーリ部片)に油圧をかけてそれらのシーブでベルトを挟み付けている。シーブにかける油圧は、例えば変速時、つまり変速比の変化時であってプーリの溝幅変更時にベルトが不要に滑らないように設定されている。従って、変速比が変化しない、アクセル開度一定の定速走行時にはシーブにかける油圧を低減できる可能性があり、シーブにかける油圧はエンジンで駆動される油圧ポンプで発生するから油圧ポンプで消費されるエンジントルクを低減できる可能性がある。また、シーブに油圧をかけてベルトを挟み付けても、ベルトは多少滑っており、エンジントルクが大きいほど、ベルトの滑り量は大きいと考えられる。従って、定速走行時にエンジントルクを低減すると、ベルトの滑り量が減少し、所謂メカニカルロスが小さくなるため、無段変速機の出力回転速度、即ち走行速度を低下させることなく、燃費を低減することが可能となる。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、定速走行時に走行速度を低下させることなく燃費を低減することが可能なエンジン制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、発明の実施態様は、ベルト式無段変速機を搭載した車両のエンジン制御装置において、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記アクセル開度検出手段で検出されたアクセル開度の変化量及び車両の走行速度の変化量から車両の定速走行状態を判定する定速走行状態判定手段と、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定された場合にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量低減するエンジン燃焼成分低減手段とを備えたことを特徴とする車両のエンジン制御装置である。
【0007】
また、別の実施態様は、前記エンジン燃焼成分低減手段は、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲を超える場合及びアクセル開度の変化量が予め設定された範囲を超える場合の少なくとも何れか一方である場合に、前記エンジンへの燃焼成分の供給量の低減を停止することを特徴とする車両のエンジン制御装置である。
【0008】
また、別の実施態様は、前記エンジン燃焼成分低減手段は、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲内であり且つアクセル開度の変化量が予め設定された範囲内である場合に、予め設定された所定時間経過毎にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量ずつ低減することを特徴とする車両のエンジン制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
而して、発明の実施態様では、ベルト式無段変速機を搭載した車両にあって、アクセル開度の変化量及び車両の走行速度の変化量から車両の定速走行状態を判定し、車両の定速走行状態が判定された場合にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量低減する。この構成により、定速走行時には、ベルト式無段変速機でベルトを挟持するための油圧低減可能分やベルト滑り低減可能分だけ、エンジントルクの消費を低減することが可能であるので、走行速度を低下することなく燃費を低減することが可能となる。
【0010】
また、車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲を超える場合及びアクセル開度の変化量が予め設定された範囲を超える場合の少なくとも何れか一方である場合に、エンジンへの燃焼成分の供給量の低減を停止する。従って、定速走行状態にあっても、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲を超える場合やアクセル開度の変化量が予め設定された範囲を超える場合には、エンジンへの燃焼成分の供給量を通常制御状態に復帰させることができ、ドライバビリティを損なうことなく、エンジントルクを速やかに復帰させることができる。
【0011】
また、車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲内であり且つアクセル開度の変化量が予め設定された範囲内である場合に、予め設定された所定時間経過毎にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量ずつ低減する。従って、定速走行状態にあって、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲内であり且つアクセル開度の変化量が予め設定された範囲内である場合には、より一層の燃費の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のエンジン制御装置の第1実施形態を示すシステム構成図である。
【図2】図1のエンジン制御装置で実行される演算処理のフローチャートである。
【図3】図2の演算処理の作用の説明図である。
【図4】本発明のエンジン制御装置の第2実施形態を示すシステム構成図である。
【図5】図4のエンジン制御装置で実行される演算処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明のエンジン制御装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のエンジン制御装置の第1実施形態を示すシステム構成図である。本実施形態のエンジン制御装置が適用される車両は、原動機としてのエンジン1、エンジン1の回転駆動力を変速する変速機2、変速機2の出力を分配するディファレンシャルギヤ3、分配された駆動力で駆動される駆動輪4を備えて構成されている。原動機としてのエンジン1には例えば直列多気筒エンジンを用いた。また、変速機2にはベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)を用いた。
【0014】
前記エンジン1はエンジンコントロールユニット5によって運転状態が制御される。エンジンコントローラ5はエンジン制御アクチュエータ6を制御することによってエンジン1の運転状態を制御する。エンジンコントロールユニット1によるエンジンの運転状態制御要素としては、例えばスロットルバルブによる吸入空気量や燃料噴射装置による燃料噴射量、点火プラグによる点火時期などが挙げられる。また、これらの制御要素に加えて、吸排気バルブのタイミングやリフト量などを制御することも可能である。なお、図示しないアクセルペダルにはアクセル開度センサ8が備えられており、アクセルペダルの踏込み量を示すアクセル開度が検出される。
【0015】
前記無段変速機2は無段変速機コントロールユニット(図ではCVTコントロールユニット)7によって作動状態が制御される。本実施形態の場合、無段変速機2はベルト式無段変速機であるから、変速機の作動状態制御要素としては、例えばプーリの溝幅を調整して変速比を制御するための油圧状態、具体的にはデューティソレノイドバルブへのデューティ比などが挙げられる。前述したように、ベルト式無段変速機2では、プーリを構成する二つのシーブ(プーリ部片)を軸線方向に移動して溝幅を変更し、ベルトの接触半径を変化させてプーリ比を変化させることで無段変速を可能とする。その際、ベルトが不要に滑ると円滑な変速が行えないので、シーブに油圧をかけてベルトを挟み付ける。シーブにかける油圧は油圧ポンプで発生し、油圧ポンプが無段変速機に内外装されている場合であっても、油圧ポンプはエンジンで駆動される。ちなみに、シーブにかけられる油圧は油圧回路内の最高油圧であるライン圧程度に高い。また、シーブに油圧をかけてベルトを挟み付けても、ベルトは多少滑っており、エンジントルクが大きいほどベルトの滑り量も大きい。また、電動モータを用いてプーリの溝幅を変更するベルト式無段変速機もある。また、無段変速機2の出力軸には車両の走行速度を検出する走行速度センサ9が備えられている。
【0016】
そして、本実施形態では、前記エンジンコントロールユニット5や無段変速機コントロールユニット7は、何れもマイクロコンピュータなどの演算処理装置で構成され、所定の演算処理を行うと共に情報を記憶し、互いに車内通信網によって通信し合うように構成されている。
演算処理装置で構成されるエンジンコントロールユニット5では、例えば運転者によるアクセルペダルの踏込み量であるアクセル開度をアクセル開度センサ8で検出し、種々の演算処理を行って、検出されたアクセル開度に応じたエンジン運転状態が達成されるようにエンジン制御アクチュエータ6を制御する。本実施形態では、例えばスロットル開度による吸入空気量や燃料噴射装置による燃料噴射量は、通常時、アクセル開度に応じた値に制御されるものとする。
【0017】
図2には、前記エンジンコントロールユニット5で行われる演算処理の一つを示す。この演算処理は、所定の制御周期で繰り返し行われる。なお、フローチャート中の(n)は今回値、(n−1)は前回値を表し、( )のないnは第1カウント値を表し、mは第2カウント値を表す。この演算処理では、まずステップS1で、前記走行速度センサ9で検出された走行速度(の今回値)V(n)及びアクセル開度センサ8で検出されたアクセル開度(の今回値)Acc(n)を読み込む。
【0018】
次にステップS2に移行して、燃焼成分低減フラグFが“1”のセット状態であるか否かを判定し、燃焼成分低減フラグFがセット状態である場合にはステップS14に移行し、そうでない場合にはステップS3に移行する。
前記ステップS3では、後述する第1走行速度V1(又は第1アクセル開度Acc1)が記憶されているか否かを判定し、第1走行速度V1(又は第1アクセル開度Acc1)が記憶されている場合にはステップS4に移行し、そうでない場合にはステップS6に移行する。
【0019】
前記ステップS4では、走行速度(の今回値)V(n)から第1走行速度V1を減じた値の絶対値が予め設定された所定走行速度差ΔV0以下であるか否かを判定し、走行速度(の今回値)V(n)から第1走行速度V1を減じた値の絶対値が所定走行速度差ΔV0以下である場合にはステップS5に移行し、そうでない場合にはステップS11に移行する。
前記ステップS5では、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が予め設定された所定アクセル開度差ΔAcc0以下であるか否かを判定し、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc0以下である場合にはステップS8に移行し、そうでない場合にはステップS11に移行する。
【0020】
前記ステップS11では、燃焼成分低減フラグFを“0”にリセットすると共に、第1カウント値n、第2カウント値mを共に“0”にクリアしてから復帰する。なお、燃焼成分低減フラグFのリセットと同時に、本演算処理で記憶した種々のデータをクリアする。
また、前記ステップS6では、走行速度の今回値V(n)から走行速度の前回値V(n-1)を減じた値の絶対値が前記予め設定された所定走行速度差ΔV0以下であるか否かを判定し、走行速度の今回値V(n)から走行速度の前回値V(n-1)を減じた値の絶対値が所定走行速度差ΔV0以下である場合にはステップS7に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0021】
前記ステップS7では、アクセル開度の今回値Acc(n)からアクセル開度の前回値Acc(n-1)を減じた値の絶対値が前記予め設定された所定アクセル開度差ΔAcc0以下であるか否かを判定し、アクセル開度の今回値Acc(n)からアクセル開度の前回値Acc(n-1)を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc0以下である場合にはステップS8に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0022】
前記ステップS8では第1カウント値nをインクリメントしてからステップS9に移行する。
前記ステップS9では、走行速度(の今回値)V(n)を第1カウント値走行速度Vn、例えばn=1であれば第1走行速度V1として記憶すると共に、アクセル開度(の今回値)Acc(n)を第1カウント値アクセル開度Accn、例えばn=1であれば第1アクセル開度Acc1として記憶してからステップS10に移行する。
【0023】
前記ステップS10では、第1カウント値nが予め設定された所定第1カウント値n以上であるか否かを判定し、第1カウント値nが所定第1カウント値n以上である場合にはステップS12に移行し、そうでない場合には復帰する。
前記ステップS12では、燃焼成分低減フラグFを“1”にセットしてからステップS13に移行する。
【0024】
前記ステップS13では、記憶されている第1走行速度V1から第n走行速度Vn0までのn個の走行速度の和を前記所定第1カウント値nで除し、その値を定速走行速度VAVとして記憶してから前記ステップS14に移行する。
前記ステップS14では、走行速度(の今回値)V(n)から定速走行速度VAVを減じた値の絶対値、換言すれば定速走行速度VAVからの乖離成分が予め設定された所定走行速度差ΔV00以下であるか否かを判定し、走行速度(の今回値)V(n)から定速走行速度VAVを減じた値の絶対値が所定走行速度差ΔV00以下である場合にはステップS15に移行し、そうでない場合にはステップS20に移行する。
【0025】
前記ステップS15では、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が予め設定された所定アクセル開度差ΔAcc00以下であるか否かを判定し、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc00以下である場合にはステップS16に移行し、そうでない場合にはステップS20に移行する。
【0026】
前記ステップS20では、燃焼成分低減フラグFを“0”にリセットすると共に、第1カウント値n、第2カウント値mを共に“0”にクリアしてからステップS21に移行し、このステップS21では、後述する吸入空気量低減制御を停止してから復帰する。なお、燃焼成分低減フラグFのリセットと同時に、本演算処理で記憶した種々のデータをクリアする。
【0027】
一方、前記ステップS16では、第2カウント値mが“0”のクリア状態であるか否かを判定し、第2カウント値mがクリア状態である場合にはステップS17に移行し、そうでない場合にはステップS19に移行する。
前記ステップS17では、エンジンの燃焼成分である吸入空気量、即ちスロットル開度を現状より所定量低減してからステップS18に移行する。
【0028】
前記ステップS18では、予め設定された所定第2カウント値mを第2カウント値mに設定してから復帰する。
一方、前記ステップS19では、第2カウント値mをデクリメントしてから復帰する。
この演算処理によれば、走行速度の今回値V(n)から走行速度の前回値V(n-1)を減じた値の絶対値が所定走行速度差ΔV0以下であり、アクセル開度の今回値Acc(n)からアクセル開度の前回値Acc(n-1)を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc0以下である場合に、第1走行速度V1(第1アクセル開度Acc1)が記憶される。
【0029】
この第1走行速度V1(又は第1アクセル開度Acc1)が記憶された後、走行速度(の今回値)V(n)から第1走行速度V1を減じた値の絶対値が所定走行速度差ΔV0以下であり、且つアクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc0以下である状態が、第1カウント値nが所定第1カウント値nでカウントアップするまで継続すると、定速走行状態が継続しているものと判定して燃焼成分低減フラグFが“1”にセットされ、それまでの平均走行速度が定速走行速度VAVとして記憶される。
【0030】
このとき第2カウント値mが“0”にクリアされたままなので、エンジンの燃焼成分である吸入空気量を現状より所定量低減する。この吸入空気量の低減量は、例えば前述したプーリのシーブにかける油圧低減可能分やベルト滑り低減可能分程度であり、その結果、エンジンで駆動される油圧ポンプの負荷が低減され、その分だけ、油圧ポンプで消費されるエンジントルクが低減し、エンジントルクの低減に伴ってベルト滑りの低減することから、走行速度が低下することなく、結果的に燃費が低減する。
【0031】
更に、この定速走行状態が継続し、走行速度(の今回値)V(n)から定速走行速度VAVを減じた値の絶対値が所定走行速度差ΔV00以下であり、且つアクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc00以下である状態が継続して、第2カウント値mが所定第2カウント値mから0までカウントダウンすると、再びエンジンの燃焼成分である吸入空気量を現状より所定量低減する。更に、所定第2カウント値mから0までカウントダウンするまで定速走行状態下継続すると、再びエンジンの燃焼成分である吸入空気量を現状より所定量低減する。
【0032】
一方、この定速走行状態から、走行速度(の今回値)V(n)から定速走行速度VAVを減じた値の絶対値、即ち定速走行速度VAVからの乖離成分が所定走行速度差ΔV00を超えるか、又はアクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc00を超える場合には吸入空気量低減制御が停止され、その結果、本来の吸入空気量がエンジンに供給される。
【0033】
図3には、図2の演算処理の作用のタイミングチャートを示す。このタイミングチャートでは、例えば時刻t0でアクセルペダルを踏み込んでアクセル開度を一定に保持し、それに伴って吸入空気量が増加した後、一定に保持され、車両の走行速度が次第に増加している。その後、時刻t1で走行速度がほぼ一定になったため、図2の演算処理で定速走行状態の判定が開始され、時刻t2で燃焼成分低減フラグFがセットされ、燃焼成分、即ち吸入空気量が所定量低減された。その後も定速走行状態が継続されたため、所定時間毎に、時刻t3、時刻t4でも吸入空気量が所定量ずつ低減されている。しかしながら、その後の時刻t5では、例えば走行抵抗が増加したために走行速度が低下し、それに伴ってアクセル開度が増加したため、燃焼成分低減フラグFがリセットされ、吸入空気量低減制御が停止されて吸入空気量が低速走行制御以前の値に復帰し、更にそれより大きい値に増加している。燃焼成分を低減する際の所定量の設定は、エンジン1の出力特性及びベルト式無段変速機2のメカニカルロスの組合せに固有の値として設定し、車両の走行抵抗や慣性力を考慮して最適な値を設定すればよい。車両では、実際にエンジン1に吸入される吸入空気量に対する燃料噴射量の比が目標空燃比に一致するように燃料噴射量を補正する基本制御となっているので、エンジン1の出力は吸入空気量の増減に応じて増減することになり、排気ガス成分が悪化することもない。
【0034】
図4は、本発明のエンジン制御装置の第2実施形態を示すシステム構成図である。本実施形態の車両の構成は、前記図1の第1実施形態の車両構成に類似しているので、同等の構成には同等の符号を付してその詳細な説明を省略する。本実施形態では、車両の前後加速度を検出する加速度センサ10が追加されている。また、前記第1実施形態はガソリンエンジンを想定したのに対し、第2実施形態では出力制御を燃料噴射量で行うディーゼルエンジンを想定している。
【0035】
図5は、図4のエンジンコントロールユニット5で行われる定速走行時燃焼成分低減制御のための演算処理を示すフローチャートである。この演算処理では、前記走行速度の変化量や定速走行速度からの乖離成分として加速度センサ10で検出される加速度を用いる。この演算処理も、前記第1実施形態の図2の演算処理と同様に所定の制御周期で繰り返し行われる。この演算処理では、まずステップS31で、前記走行速度センサ9で検出された走行速度(の今回値)V(n)及び加速度センサ10で検出された加速度(の今回値)G(n)及びアクセル開度センサ8で検出されたアクセル開度(の今回値)Acc(n)を読み込む。
【0036】
次にステップS32に移行して、燃焼成分低減フラグFが“1”のセット状態であるか否かを判定し、燃焼成分低減フラグFがセット状態である場合にはステップS44に移行し、そうでない場合にはステップS33に移行する。
前記ステップS33では、第1アクセル開度Acc1が記憶されているか否かを判定し、第1アクセル開度Acc1が記憶されている場合にはステップS34に移行し、そうでない場合にはステップS36に移行する。
【0037】
前記ステップS34では、加速度(の今回値)G(n)の絶対値、つまり走行速度Vの(単位時間当たりの)変化量が予め設定された所定加速度値G0以下であるか否かを判定し、加速度(の今回値)G(n)の絶対値が所定加速度値G0以下である場合にはステップS35に移行し、そうでない場合にはステップS41に移行する。
前記ステップS35では、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が予め設定された所定アクセル開度差ΔAcc0以下であるか否かを判定し、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc0以下である場合にはステップS38に移行し、そうでない場合にはステップS41に移行する。
【0038】
前記ステップS41では、燃焼成分低減フラグFを“0”にリセットすると共に、第1カウント値n、第2カウント値mを共に“0”にクリアしてから復帰する。なお、燃焼成分低減フラグFのリセットと同時に、本演算処理で記憶した種々のデータをクリアする。
また、前記ステップS36では、加速度(の今回値)G(n)の絶対値が前記予め設定された所定加速度値G0以下であるか否かを判定し、加速度(の今回値)G(n)の絶対値が所定加速度値G0以下である場合にはステップS37に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0039】
前記ステップS37では、アクセル開度の今回値Acc(n)からアクセル開度の前回値Acc(n-1)を減じた値の絶対値が前記予め設定された所定アクセル開度差ΔAcc0以下であるか否かを判定し、アクセル開度の今回値Acc(n)からアクセル開度の前回値Acc(n-1)を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc0以下である場合にはステップS38に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0040】
前記ステップS38では第1カウント値nをインクリメントしてからステップS9に移行する。
前記ステップS39では、アクセル開度(の今回値)Acc(n)を第1カウント値アクセル開度Accn、例えばn=1であれば第1アクセル開度Acc1として記憶してからステップS40に移行する。
【0041】
前記ステップS40では、第1カウント値nが予め設定された所定第1カウント値n以上であるか否かを判定し、第1カウント値nが所定第1カウント値n以上である場合にはステップS42に移行し、そうでない場合には復帰する。
前記ステップS42では、燃焼成分低減フラグFを“1”にセットしてからステップS44に移行する。
【0042】
前記ステップS44では、加速度(の今回値)G(n)の絶対値、換言すれば定速走行速度からの乖離成分が予め設定された所定加速度値G00以下であるか否かを判定し、加速度(の今回値)G(n)の絶対値が所定加速度値G00以下である場合にはステップS45に移行し、そうでない場合にはステップS50に移行する。
前記ステップS45では、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が予め設定された所定アクセル開度差ΔAcc00以下であるか否かを判定し、アクセル開度(の今回値)Acc(n)から第1アクセル開度Acc1を減じた値の絶対値が所定アクセル開度差ΔAcc00以下である場合にはステップS46に移行し、そうでない場合にはステップS50に移行する。
【0043】
前記ステップS50では、燃焼成分低減フラグFを“0”にリセットすると共に、第1カウント値n、第2カウント値mを共に“0”にクリアしてからステップS51に移行し、このステップS51では、後述する燃料噴射量低減制御を停止してから復帰する。なお、燃焼成分低減フラグFのリセットと同時に、本演算処理で記憶した種々のデータをクリアする。
【0044】
一方、前記ステップS46では、第2カウント値mが“0”のクリア状態であるか否かを判定し、第2カウント値mがクリア状態である場合にはステップS47に移行し、そうでない場合にはステップS49に移行する。
前記ステップS47では、エンジンの燃焼成分である燃料噴射量を現状より所定比率(1−Δp)(Δpは1より小さい所定値)で低減してからステップS38に移行する。
【0045】
前記ステップS38では、予め設定された所定第2カウント値mを第2カウント値mに設定してから復帰する。
一方、前記ステップS39では、第2カウント値mをデクリメントしてから復帰する。
この演算処理によれば、走行速度の変化量や定速走行速度からの乖離成分を加速度で検出する点を除けば、前記第1実施形態の図2の演算処理と同様に、定速走行状態の判定時にエンジンの燃焼成分である燃料噴射量を所定比率で低減し、もってプーリのシーブにかける油圧低減分だけ、油圧ポンプによるエンジントルクの消費分を低減して燃費を低減することができる。また、定速走行状態が継続すれば、所定時間毎に燃料噴射量を更に所定比率で低減して、更なる燃費の低減を可能とする。一方、定速走行速度からの乖離成分である加速度が所定値を超えたり、アクセル開度の変化量が所定値を超えたりした場合には、燃料噴射量低減制御を停止し、通常の燃料噴射量に復帰するため、ドライバビリティが確保される。
【0046】
このように前記実施形態のエンジン制御装置によれば、ベルト式無段変速機2を搭載した車両にあって、アクセル開度Accの変化量及び車両の走行速度Vの変化量から車両の定速走行状態を判定し、車両の定速走行状態が判定された場合にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量低減する。これにより、定速走行時には、ベルト式無段変速機2でベルトを挟持するための油圧低減可能分やベルト滑り低減可能分だけ、エンジントルクの消費を低減することが可能であるので、走行速度Vを低下することなく燃費を低減することが可能となる。
【0047】
また、車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度VAVとした場合に、車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度VAVからの乖離成分が予め設定された範囲を超える場合及びアクセル開度Accの変化量が予め設定された範囲を超える場合の少なくとも何れか一方である場合に、エンジンへの燃焼成分の供給量の低減を停止する。従って、エンジンへの燃焼成分の供給量を通常制御状態に復帰させることができ、ドライバビリティを損なうことなく、エンジントルクを速やかに復帰させることができる。
【0048】
また、車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度VAVからの乖離成分が予め設定された範囲内であり且つアクセル開度の変化量が予め設定された範囲内である場合に、予め設定された所定時間経過毎にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量ずつ低減する。従って、より一層の燃費の低減が可能となる。
【0049】
なお、本発明の主旨を損なわない範囲で応用改変することは可能である。例えば、エンジンの出力の変更を第1実施形態では吸入空気量に基づいて行ったが、これに代えて燃料噴射量に基づいて行うように変更することは可能である。即ち、エンジンの出力制御を行う主なパラメータを選択し、そのパラメータの低減量の設定を行うようにすればよい。
【符号の説明】
【0050】
1はエンジン
2は無段変速機
3はディファレンシャルギヤ
4は駆動輪
5はエンジンコントロールユニット
6はエンジン制御アクチュエータ
7は無段変速機コントロールユニット
8はアクセル開度センサ
9は走行速度センサ
10は加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト式無段変速機を搭載した車両のエンジン制御装置において、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記アクセル開度検出手段で検出されたアクセル開度の変化量及び車両の走行速度の変化量から車両の定速走行状態を判定する定速走行状態判定手段と、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定された場合にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量低減するエンジン燃焼成分低減手段とを備えたことを特徴とする車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジン燃焼成分低減手段は、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲を超える場合及びアクセル開度の変化量が予め設定された範囲を超える場合の少なくとも何れか一方である場合に、前記エンジンへの燃焼成分の供給量の低減を停止することを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記エンジン燃焼成分低減手段は、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定されたときの車両の走行速度を定速走行速度とした場合に、前記定速走行状態判定手段で車両の定速走行状態が判定された後、車両の走行速度の定速走行速度からの乖離成分が予め設定された範囲内であり且つアクセル開度の変化量が予め設定された範囲内である場合に、予め設定された所定時間経過毎にエンジンへの燃焼成分の供給量を予め設定された所定量ずつ低減することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83183(P2013−83183A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222516(P2011−222516)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】