説明

エンジン点火制御装置

【課題】点火プラグの短寿命化を抑制でき、点火プラグの放電電力不足を抑制することができるエンジン点火制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンマイコンは、エンジン回転速度NEを検出し、該エンジン回転速度NEに基づき点火コイルのベース通電時間tbを演算し、積算された点火プラグの点火回数CNTが大きいほど通電時間tが長くなるようにベース通電時間tbを補正し、通電時間tだけ点火コイルに通電して点火プラグを放電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン点火制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン点火制御装置として、例えば特許文献1に記載された内燃機関の点火制御装置が知られている。この装置は、内燃機関の回転速度に基づいて点火コイルへの通電時間を制御するもので、点火に必要なエネルギを点火コイルに供給すべく、バッテリ電圧に基づいて点火コイルへの通電時間を補正することを併せて行っている。そして、通電時間に点火コイルの一次巻線に通電することで点火エネルギを蓄積し、通電停止時にその点火エネルギにより点火コイルの二次巻線に生じる高電圧によって点火プラグを放電させる。つまり、点火制御は、点火コイルの通電時間の制御と、点火コイルの通電を停止するタイミング(即ち点火時期)の制御とからなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256823号公報(第[0001]−[0005]段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、点火プラグは磨耗すると、放電電極間のギャップが増加する。
特許文献1では、点火プラグの磨耗によって放電電圧が最大になる状態を想定して、点火プラグを確実に放電させるべくエンジン回転速度等に基づき演算される基礎となる点火コイルの通電時間(以下、ベース通電時間ともいう)に予め余裕を持たせていると推定される。
【0005】
しかしながら、この場合、新品の点火プラグであっても、徒に点火コイルの通電時間が長く設定されて、消費電力の増大及び点火プラグの短寿命化を余儀なくされる。一方、点火コイルの通電時間に十分な余裕がないと、点火プラグの磨耗に伴って放電に必要な電力が不足する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、点火プラグの短寿命化を抑制でき、点火プラグの放電電力不足を抑制することができるエンジン点火制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、エンジン回転速度を検出する検出手段と、該検出されたエンジン回転速度に基づき点火コイルのベース通電時間を演算する演算手段とを備え、該演算されたベース通電時間に基づく通電時間だけ前記点火コイルに通電して点火プラグを放電させるエンジン点火制御装置において、前記点火プラグの点火回数及びエンジン運転時間のいずれか一方を積算する積算手段と、前記積算された点火プラグの点火回数又はエンジン運転時間が大きいほど、前記通電時間が長くなるように前記ベース通電時間を補正する補正手段とを備えたことを要旨とする。
【0008】
同構成によれば、前記点火コイルに通電する前記通電時間は、前記補正手段により、前記積算された点火プラグの点火回数又はエンジン運転時間が大きいほど、即ち前記点火プラグの磨耗が進行するほど、前記通電時間が長くなるように前記ベース通電時間が補正される。従って、例えば前記点火プラグの磨耗が進行していても、前記点火プラグの放電に必要な電力を十分に確保することができる。反対に、前記点火コイルに通電する前記通電時間は、前記補正手段により、前記点火プラグの点火回数又は前記エンジン運転時間が小さいほど、即ち前記点火プラグの磨耗が未進行であるほど、前記通電時間が短くなるように前記ベース通電時間が補正される。従って、例えば前記点火プラグが新品に近い状態のときには、徒に前記通電時間が長く設定されることを回避でき、消費電力の増大及び前記点火プラグの短寿命化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、点火プラグの短寿命化を抑制でき、点火プラグの放電電力不足を抑制することができるエンジン点火制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示すシステム構成図。
【図2】点火回数の積算態様を示すフローチャート。
【図3】点火コイルの通電態様を示すフローチャート。
【図4】(a)は、エンジン回転速度と要求電圧との関係を示すマップであり、(b)は、通電時間と放電電圧及び消費電力との関係を示すマップ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1〜図3を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1に示すように、4ストロークサイクルのエンジン1はシリンダブロック1aを備え、該シリンダブロック1aにはシリンダ2が設けられている。シリンダ2に往復移動可能に設けられたピストン3は、エンジンの出力軸であるクランクシャフト10にコンロッド3aを介して連結され、そのコンロッド3aによりピストン3の往復移動がクランクシャフト10の回転へと変換されるようになっている。なお、本実施形態のエンジン1は、クランクシャフト10においてヒートポンプの圧縮機(図示略)に連係されており、該圧縮機の駆動源となっている。
【0012】
シリンダブロック1aの上端にはシリンダヘッド1bが取り付けられている。シリンダ2においてピストン3の上端とシリンダヘッド1bとの間には燃焼室4が形成される。燃焼室4に対応して設けられた吸気ポート5及び排気ポート6には、これらを開閉するための吸気バルブ7及び排気バルブ8が配設されている。
【0013】
なお、クランクシャフト10は、タイミングチェーン16を介してカムシャフト17に連結されている。吸気バルブ7及び排気バルブ8は、カムシャフト17にそれぞれ連係されており、該カムシャフト17が回転することによって開閉作動する。つまり、吸気バルブ7及び排気バルブ8の各々は、クランクシャフト10の回転に同期して、すなわち各ピストン3の往復移動に対応して所定のタイミングで開閉駆動される。
【0014】
吸気ポート5は、外部からの空気を吸入するため吸気通路9に連通している。そして、燃料ガスは、ガス電磁弁21を経て、ガスレギュレータ22で大気圧まで減圧され、燃料調整弁23を介して吸気通路9内に導入される。吸気通路9内に導入された燃料ガスは、吸入空気と混合されて混合気として燃焼室4に導入される。なお、吸気通路9の燃料ガスの導入部よりも下流側には、燃焼室4に導入する混合気の流量を調節するためのスロットル弁24が設けられている。
【0015】
燃焼室4に対応して設けられた点火プラグ11は、燃焼室4に導入された混合気に点火する。すなわち、点火プラグ11は、点火コイル12を介してイグナイタ13に電気的に接続されている。イグナイタ13は、そのスイッチング動作により所要の通電開始タイミングから所要の通電時間だけ点火コイル12の一次巻線に通電することで点火エネルギを蓄積させる。そして、点火コイル12は、イグナイタ13の通電停止時にその点火エネルギにより二次巻線に生じる高電圧によって点火プラグ11を放電・点火させる。エンジン1は、点火プラグ11の点火に伴い燃焼室4に導入された混合気(燃料)を燃焼することで、クランクシャフト10を回転させて前述の圧縮機等の駆動力を発生する。そして、燃焼に伴い排出される排気ガスは、排気ポート6を経て大気中に排出される。なお、本実施形態のエンジン1は、ヒートポンプの駆動源として採用されているため、想定する点火プラグ11の使用時間は、例えば自動車などの場合に比べて著しく長く設定されている。
【0016】
電子制御装置からなるエンジンマイコン30は、イグナイタ13、ガス電磁弁21及び燃料調整弁23とそれぞれ電気的に接続されており、これらを駆動制御する。すなわち、エンジンマイコン30は、所要の通電時間だけ点火コイル12が通電されるようにイグナイタ13をスイッチング制御する。あるいは、エンジンマイコン30は、所要量の燃料が吸気通路9内に導入されるようにガス電磁弁21及び燃料調整弁23を駆動制御する。また、エンジンマイコン30は、スロットル弁24を開閉駆動するスロットルモータ31と電気的に接続されており、所要量の混合気を燃焼室4内に導入すべくスロットルモータ31を駆動制御する。
【0017】
一方、エンジンマイコン30は、クランクシャフト10の回転角度を検知するためのクランク角センサ32、カムシャフト17の回転角度を検知するためのカム角センサ33にそれぞれ電気的に接続されている。そして、エンジンマイコン30は、例えばクランクシャフト10の回転角度に基づいて、該クランクシャフト10の回転速度をエンジン回転速度NEとして検出する。また、エンジンマイコン30は、イグナイタ13を介した点火コイル12の通電の都度、点火プラグ11の点火回数CNTをカウントアップするとともに(積算手段)、該点火回数CNTをその内蔵するメモリ30aに記憶する。従って、点火回数CNTは、基本的に新品の状態から現在までの点火プラグ11の総点火回数を表す。
【0018】
ここで、エンジンマイコン30は、点火コイル12の通電時間の制御にあたって、まず、クランクシャフト10の回転角度に基づいて現在のエンジン回転速度NEを検出する(検出手段)。そして、エンジンマイコン30は、このエンジン回転速度NEに基づき、基礎となる通電時間との関係を表すマップ(図4参照)に基づいて、ベース通電時間tbを演算する(演算手段)。続いて、エンジンマイコン30は、メモリ30aに記憶されている現在の点火回数CNTに基づいて、下式に基づいてベース通電時間tbを補正した通電時間tを算出する(補正手段)。
【0019】
通電時間t=ベース通電時間tb+CNT×a
なお、aは、点火回数CNTに相関する点火プラグ11の磨耗を補償すべく通電時間tを好適に長くするために設定された補正係数であって、所定の正数である。通電時間tが、点火回数CNTの増加に伴ってベース通電時間tbに対して増加することはいうまでもない。
【0020】
このような補正を行うのは、点火プラグ11は、例えば点火回数CNTの増加に伴い磨耗すると、放電電極間のギャップが増加することで、点火コイル12の通電時間に相関する点火プラグ11の要求電圧(放電電圧)が高くなることが本発明者により確認されていることによる。
【0021】
すなわち、図4(a)にエンジン回転速度と要求電圧との関係を示したように、同一のエンジン回転速度であっても、短い使用時間T1の点火プラグの要求電圧よりも、長い使用時間T2(>T1)の点火プラグの要求電圧の方が高いことが実験的に確認されている。特に、ガスヒートポンプに使用するエンジンの場合には、例えば自動車などで使用するエンジンに比べて想定する使用時間が長く設定される傾向にあることから、要求電圧の変動がいっそう顕著になる。また、図4(b)に点火コイルの通電時間と放電電圧及び消費電力との関係を示したように、放電電圧の増加に伴って通電時間がより長くなると、消費電力も自ずと増加する。
【0022】
従って、このように算出された通電時間tに基づいて点火コイル12が通電されるようにイグナイタ13をスイッチング制御することで、点火プラグ11の磨耗に関わらず該点火プラグ11のより確実な放電・点火が実現される。
【0023】
次に、エンジンマイコン30による点火制御態様について総括して説明する。図2に示すように、点火回数CNTの積算にあたっては、例えば通電時間tによる点火コイル12への通電終了(即ち点火プラグ11の点火)がトリガになって、メモリ30aに記憶されている現在の点火回数CNTが「1」だけカウントアップされて(S1)、新たな点火回数CNTとしてメモリ30aに記憶される。
【0024】
そして、図3に示すように、点火コイル12の通電にあたっては、例えば前回の点火コイル12の通電終了から所定時間の経過がトリガになって、現在のエンジン回転速度NEが検出される(S11)。そして、このエンジン回転速度NEに基づいてベース通電時間tbが演算され(S12)、続いてメモリ30aに記憶されている現在の点火回数CNTが読み込まれ(S13)、さらに現在の点火回数CNTに基づいて前述の態様でベース通電時間tbを補正した通電時間tが演算される(S14)。そして、点火プラグ11が所要のタイミングで点火するように、即ち通電時間tでの点火コイル12の通電が当該タイミングで終了するように該点火コイル12が通電される(S15)。
【0025】
次に、本実施形態の動作について説明する。
点火コイル12に通電する通電時間tは、点火プラグ11の点火回数CNTが大きいほど、即ち点火プラグ11の磨耗が進行するほど、通電時間tが長くなるようにベース通電時間tbが補正される。従って、例えば点火プラグ11の磨耗が進行していても、該点火プラグ11の放電に必要な電力が十分に確保される。
【0026】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、点火コイル12に通電する通電時間tは、点火プラグ11の点火回数CNTが大きいほど、即ち点火プラグ11の磨耗が進行するほど、通電時間tが長くなるようにベース通電時間tbが補正される。従って、例えば点火プラグ11の磨耗が進行していても、該点火プラグ11の放電に必要な電力を十分に確保することができる。反対に、点火コイル12に通電する通電時間tは、点火プラグ11の点火回数CNTが小さいほど、即ち点火プラグ11の磨耗が未進行であるほど、通電時間tが短くなるようにベース通電時間tbが補正される。従って、例えば点火プラグ11が新品に近い状態のときには、徒に通電時間tが長く設定されることを回避でき、消費電力の増大及び点火プラグ11の短寿命化を抑えることができる。加えて、通電時間tを点火プラグ11の点火に必要な最小限に抑えることで、点火コイル12やイグナイタ13の発熱量を抑えてそれらの長寿命化を図ることができる。
【0027】
(2)エンジン1の負荷率を上げるため、定常運転時のエンジン回転速度を低くすることが望まれる。この場合、エンジン回転速度を低くする分、点火プラグ11の要求電圧、即ちベース通電時間が慢性的に大きくなる(図4参照)。しかしながら、本実施形態では、点火プラグ11の磨耗度合いに応じて通電時間tを必要最小限に最適化したことで、消費電力を好適に削減することができる。
【0028】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態において、点火プラグ11の総点火回数は、エンジン1の総運転時間と当該期間におけるエンジン回転速度の平均回転速度とに基づいて演算してもよい。すなわち、エンジン1の総運転時間をT[h]とし、当該期間におけるエンジン回転速度(クランクシャフト10の回転速度)の平均回転速度をNA[/min]とすると、4ストロークサイクルのエンジン1ではクランクシャフト10の2回転当たりに1回点火することから、エンジン1の総運転時間T[h]内では、点火プラグ11の総点火回数は下式で表される。
【0029】
総点火回数=T[h]×NA[/min]×60[min/h]/2
・前記実施形態において、ベース通電時間tbに対する補正は、点火プラグ11の磨耗に相関するエンジン1の総運転時間Tに基づき行ってもよい。具体的には、エンジン1の総運転時間Tが大きいほど、通電時間tが長くなるようにベース通電時間tbを補正し、反対にエンジン1の総運転時間Tが小さいほど、通電時間tが短くなるようにベース通電時間tbを補正する。このように変更をしても前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0030】
・前記実施形態において、点火回数CNTの積算は、例えば点火コイル12の通電停止時に発生するパルスをカウンタ(計数器)に入力することで行ってもよい。
・前記実施形態において、エンジン回転速度NEは、カム角センサ33で検知されるカムシャフト17の回転角度から求めてもよい。
【0031】
・前記実施形態において、ベース通電時間tbは、マップに代えて演算式から求めてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…エンジン、11…点火プラグ、12…点火コイル、30…エンジンマイコン(検出手段、演算手段、積算手段、補正手段)、32…クランク角センサ(検出手段)、33…カム角センサ(検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン回転速度を検出する検出手段と、該検出されたエンジン回転速度に基づき点火コイルのベース通電時間を演算する演算手段とを備え、該演算されたベース通電時間に基づく通電時間だけ前記点火コイルに通電して点火プラグを放電させるエンジン点火制御装置において、
前記点火プラグの点火回数及びエンジン運転時間のいずれか一方を積算する積算手段と、
前記積算された点火プラグの点火回数又はエンジン運転時間が大きいほど、前記通電時間が長くなるように前記ベース通電時間を補正する補正手段とを備えたことを特徴とするエンジン点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−241649(P2012−241649A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113805(P2011−113805)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】