エンジン用シリンダ及びエンジン用シリンダの製造方法
【課題】掃気通路の形状の自由度を高めつつ、所望の掃気効率を得ることができるエンジン用シリンダ及びエンジン用シリンダの製造方法を提供すること。
【解決手段】エンジン用シリンダ1では、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを各々備え、これらの間に掃気通路23,24を形成させることで、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを個々に鋳造して掃気カセット10a,10bにおける掃気通路23,24を形成する部分の形状の制約を少なくし、掃気通路23,24の形状の自由度を高める。また、シリンダ本体6の開口部に嵌入される掃気カセット10a,10bの先端をシリンダボア3の円筒面3aと一致させ、円筒面3aと先端との間に段差をなくし、掃気通路23,24から流入するガスをスムーズにシリンダボア3内に案内し、所望の掃気効率を得る。
【解決手段】エンジン用シリンダ1では、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを各々備え、これらの間に掃気通路23,24を形成させることで、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを個々に鋳造して掃気カセット10a,10bにおける掃気通路23,24を形成する部分の形状の制約を少なくし、掃気通路23,24の形状の自由度を高める。また、シリンダ本体6の開口部に嵌入される掃気カセット10a,10bの先端をシリンダボア3の円筒面3aと一致させ、円筒面3aと先端との間に段差をなくし、掃気通路23,24から流入するガスをスムーズにシリンダボア3内に案内し、所望の掃気効率を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン用シリンダ及びエンジン用シリンダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンにより開閉される吸気口及び排気口が向かい合うようにシリンダ内の燃焼室に形成され、これら吸気口及び排気口と周方向に約90°ずれた位置に、互いに対向する掃気口が設けられた2サイクルエンジンが知られている。この掃気口は、吸気口寄りの位置と排気口寄りの位置とに一対ずつ設けられ、混合気等を燃焼室内に流入させるための掃気通路が、各掃気口につながるようにしてシリンダの側部に複数形成されている。そして、このように吸気口寄りと排気口寄りとにそれぞれ掃気口を有する構成により、排気口から直接排出されてしまう混合気を低減するための層状掃気を行うようにしている。
【0003】
下記特許文献1に記載された2サイクルエンジンでは、内部に燃焼室を有し、この燃焼室と外部とを連通する開口部が形成されたシリンダ本体と、このシリンダ本体の開口部に嵌め込まれるシリンダカバーとを備えており、排気口寄りのメイン通路と吸気口寄りのサブ通路とから構成される掃気通路が、シリンダ本体とシリンダカバーとの間に形成されている。そして、サブ通路内の吸気口側の位置には、流入する混合気を所定の方向に案内する案内面がシリンダカバーにより形成されており、この案内面と燃焼室の内周面との間には、混合気がぶつかる段差部がシリンダ本体の開口部の内面により形成されている。そして、このような段差部に混合気がぶつかり渦流を発生させることにより、メイン通路からの混合気の流れを変化させるようにしている。
【0004】
また、下記特許文献2に記載された2サイクルエンジンでは、燃焼室に開口して燃料を含有する作動ガスを充填する吸気口寄りの掃気通路と、この掃気通路と連通孔を介して連通され、掃気行程に先立って作動ガスよりも燃料重量濃度の小さい非作動ガスが充填される排気口寄りの掃気通路である掃気充填室とを備えている。そして、掃気行程において、掃気通路及び掃気充填室が燃焼室に開口され、掃気充填室内の非作動ガスが、連通孔を介して掃気通路内の作動ガスによって燃焼室内に押し出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−121461号公報
【特許文献2】特開2005−233087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1ではシリンダ本体とは別体とされたシリンダカバーにより案内面を形成しているため複雑な形状の案内面或いは掃気通路を形成することができるものの、案内面と燃焼室の内周面との間に形成された段差部に混合気がぶつかり渦流が発生するため層状掃気が好適に行われず、所望の掃気効率が得られないという問題があった。
【0007】
一方、上記特許文献2では燃焼室、掃気通路、及び掃気充填室等がシリンダの成型時に一体に形成されるが、金型の離型を可能とするため、アンダーカットとなるような形状の掃気通路は形成し難く、掃気通路の形状の自由度を高めることは難しかった。
【0008】
本発明は、掃気通路の形状の自由度を高めつつ、所望の掃気効率を得ることができるエンジン用シリンダ及びエンジン用シリンダの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンジン用シリンダは、ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、ボア部(3)内に連通しピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)とを有するエンジン用シリンダ(1)であって、ボア部(3)が内部に形成されると共に、ボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、シリンダ本体部(6)の開口部(11,11)に嵌入されてシリンダ本体部(6)との間に掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備え、開口部(11,11)に嵌入される掃気カセット(10a,10b)の嵌入部(13a,13b)の先端(31)は、ボア部(3)の円筒面(3a)と一致していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るエンジン用シリンダによれば、シリンダ本体部(6)と掃気カセット(10a,10b)とを各々備え、これらの間に掃気通路(23,24)が形成される。よって、シリンダ本体部(6)と掃気カセット(10a,10b)とを個々に鋳造することができ、従って、掃気カセット(10a,10b)において、シリンダ本体部(6)との間で掃気通路(23,24)を形成する部分の形状の制約を少なくすることができ、掃気通路(23,24)の形状の自由度を高めることができる。また、シリンダ本体部(6)の開口部(11,11)に嵌入される掃気カセット(10a,10b)の先端(31)がボア部(3)の円筒面(3a)と一致しているため、円筒面(3a)と先端(31)との間に段差は形成されず、掃気通路(23,24)から流入するガスをスムーズにボア部(3)内に案内でき、所望の掃気効率を得ることができる。
【0011】
ここで、先端(31)を有する嵌入部(13a,13b)の端部(30)には、先端(31)の上端縁(31a)に連設されると共に、円錐を逆さにした形状の一部をなす第1円錐面(32)が形成され、開口部(11,11)のボア部(3)側の端部には、第1円錐面(32)に合わさる第2円錐面(26)が形成されていると、開口部(11,11)に嵌入部(13a,13b)を嵌入させて掃気カセット(10a,10b)をシリンダ本体部(6)に組み付ける際、円錐面同士を合わせることにより掃気カセット(10a,10b)の位置決めができるため、掃気カセット(10a,10b)の位置合わせを容易に行うことができる。
【0012】
また、第1円錐面(32)と第2円錐面(26)との合わせ面が円筒面(3a)に現れるライン(40)は、掃気口(17,18)の上端縁(17a,18a)を形成していると、ピストン(2)の下降に伴い掃気口(17,18)がボア部(3)に向けて開口されるまでの間に掃気カセット(10a,10b)の先端(31)とシリンダ本体部(6)との境目がボア部(3)に露出するようなことがなく、掃気口(17,18)が開口され始めるのと略同時に、その境目のうち上端に位置する合わせ面のライン(40)がボア部(3)に露出する。よって、先端(31)とシリンダ本体部(6)との境目が掃気口(17,18)が開口する前の高い圧力の燃焼ガスに晒されることを防止でき、燃焼ガスが境目から掃気通路(23,24)へと進入して掃気前の掃気通路(23,24)内のガスの状態を乱すことが防止される。
【0013】
また、第1円錐面(32)と第2円錐面(26)とは、各々円筒面(3a)と同軸に形成されていると、シリンダ本体部(6)に対して掃気カセット(10a,10b)を組み付ける際、ボア部(3)の円筒面(3a)に対する嵌入部(13a,13b)の端部(30)の位置合わせを容易且つ確実に行うことができ、その結果、端部(30)の先端(31)とボア部(3)の円筒面(3a)とを確実に一致させることができる。
【0014】
また、掃気通路(23,24)は断面四角形状を成しており、掃気通路(23,24)の上面壁(43)及び側面壁(45)は、掃気カセット(10a,10b)のみにより形成されていると、掃気通路(23,24)の形状は掃気カセット(10a,10b)の形状によって概ね決まるため、掃気通路(23,24)の形状の自由度を一層高めることができる。
【0015】
また、本発明に係るエンジン用シリンダの製造方法は、ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、ボア部(3)内に連通しピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)と、ボア部(3)が内部に形成されると共にボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、シリンダ本体部(6)の開口部(11,11)に嵌入されてシリンダ本体部(6)との間に掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備えるエンジン用シリンダ(1)の製造方法であって、シリンダ本体部(6)と掃気カセット(10a,10b)とを各々成型する成型ステップと、成型ステップでの成型後、シリンダ本体部(6)に掃気カセット(10a,10b)を組み付ける組み付けステップと、組み付けステップによりシリンダ本体部(6)に掃気カセット(10a,10b)が嵌入された状態で、ボア部(3)の円筒面(3a)の機械加工を行う機械加工ステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るエンジン用シリンダの製造方法によれば、シリンダ本体部(6)に掃気カセット(10a,10b)が組み付けられた状態で、機械加工ステップにおいてボア部(3)の円筒面(3a)が機械加工されるため、掃気カセット(10a,10b)の端部(30)の先端(31)とボア部(3)の円筒面(3a)とが一致する上記のエンジン用シリンダ(1)を容易且つ確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、掃気通路の形状の自由度を高めつつ、所望の掃気効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン用シリンダを示す斜視図である。
【図2】図1のエンジン用シリンダを吸気口側から見た分解斜視図である。
【図3】図1のエンジン用シリンダを排気口側から見た分解斜視図である。
【図4】図1のエンジン用シリンダの吸気口及び排気口を含む位置の縦断面図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図1中のシリンダ本体部を示す斜視図である。
【図8】図1中のシリンダ本体部を示す正面図である。
【図9】図8のIX-IX線に沿った断面図である。
【図10】掃気カセットを示す斜視図である。
【図11】掃気カセットを示す六面図である。
【図12】図1のエンジン用シリンダの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。図1は、本発明の実施形態に係るエンジン用シリンダを示す斜視図、図2は、エンジン用シリンダを吸気口側から見た分解斜視図、図3は、エンジン用シリンダを排気口側から見た分解斜視図である。
【0020】
図1〜図3に示すように、エンジン用シリンダ1は、例えば排ガスエミッション低減型の空冷2サイクルエンジンに適用されるシリンダであって、図1に仮想線で示す円柱形状のピストン2が摺動可能に挿入される円筒形状のシリンダボア(ボア部)3が内部に形成されると共に、シリンダボア3内と外部とをシリンダボア3の両側の側部において連通する略直方体形状の開口部11,11を有するシリンダ本体(シリンダ本体部)6を備えている。更に、このシリンダ本体6は、シリンダボア3を形成する略円筒形状の胴部の外側面からシリンダボア3の半径方向外方に向けて延出し上下方向に互いに離間して並設される複数の冷却フィン4を有している。なお、エンジン用シリンダ1についての「上下」は、ピストン2が挿入される開口部を下側にしてシリンダボア3が鉛直方向に延びるようにシリンダ本体6を立てた場合を基準とする。
【0021】
ピストン2は、シリンダ本体6の下部に設けられるクランクケース内のクランクシャフト(いずれも図示せず)に連結されて、シリンダボア3内で上死点(図4に示す位置P1)と下死点(図5に示す位置P2)との間を往復動可能に配置されている。また、シリンダ本体6には、ピストン2の上昇に伴い外部から混合気を導入し、シリンダボア3内を通してクランクケース内へ流れ方向Aに沿って流入させるための吸気口7と、シリンダボア3の上方に形成された燃焼室16で燃焼した排気ガスを、ピストン2の下降に伴い流れ方向Cに沿って排出するための排気口8とが、シリンダボア3を挟んで180°ずれた位置に形成されている。排気口8は、吸気口7よりも高い位置(図4の上死点の位置P1寄り)に形成されている。
【0022】
更に、エンジン用シリンダ1は、シリンダ本体6とは別体に成形されシリンダ本体6の吸気口7及び排気口8とは約90°ずれた位置に対向するように連結された掃気カセット10a,10bを備えている。掃気カセット10a,10bは、シリンダボア3の開口部11,11の内周面に対応した形状の外周面を成すように裏面側(内側)に突出した嵌入部13a,13bが、当該開口部11,11に各々嵌入され、締結によりシリンダ本体6に取り付けられている。
【0023】
図2及び図3に示すように、シリンダ本体6における掃気カセット10a,10bの取り付け位置には、掃気カセット10a,10bの裏面側で嵌入部13a,13bの周囲に形成された接合面15a,15bに対するシール面となる長方形環状の接合面12a,12bが各々形成されており、掃気カセット10a,10bの接合面15a,15bとシリンダ本体6の接合面12a,12bとの間には、長方形環状で所定の厚みを有するガスケットGが挟まれている。
【0024】
図4は、エンジン用シリンダ1の吸気口7及び排気口8を含む位置の縦断面図、図5は、図4のV−V線に沿った断面図、図6は、図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【0025】
図4〜図6に示すように、掃気カセット10a,10bの各々は、シリンダ本体6との間において、吸気口7及び排気口8とはシリンダボア3の周方向に約90°ずれた位置であってシリンダボア3の上下方向略中央の位置でシリンダボア3内に連通する四角形状の第1掃気口17と、この第1掃気口17と略等しい高さであって第1掃気口17よりも吸気口7側に所定長ずれた位置でシリンダボア3内に連通する四角形状の第2掃気口18とを形成している。第1掃気口17と第2掃気口18とは、吸気口7及び排気口8の軸線を含む平面に対して対称となるようにして一対ずつ形成されている。以下、これらの第1掃気口17及び第2掃気口18を、単に「掃気口17,18」ともいう。
【0026】
掃気口17,18は、排気口8よりも若干低い位置に形成されている(図4、図5参照)。すなわち、掃気口17,18は、ピストン2の下降に伴って排気口8がシリンダボア3内に開口すると、その直後にシリンダボア3内に開口する位置に形成されている。より詳しくは、掃気口17,18は、排気口8の開口後、クランク角にして13〜20degで開口する位置に形成されている。ここで、クランク角とは、ピストン2が上死点から下死点を過ぎ再び上死点に戻るまでのクランクシャフトの角度を360分割した角度である。
【0027】
更に、掃気カセット10a,10bの各々は、シリンダ本体6との間において、第1掃気口17及び第2掃気口18の各々につながる第1掃気通路23及び第2掃気通路24(以下、単に「掃気通路23,24」ともいう)を形成している。これらの掃気通路23,24は、流れ方向Aに沿ってクランクケース内へ流入した混合気を、ピストン2の下降に伴い掃気口17,18からシリンダボア3内に流入させ、流れ方向B(B1,B2)に沿って燃焼室16へ導入するための流路である。各掃気通路23,24は、シリンダボア3内の空間と、シリンダ本体6の下面でピストン2の半径方向外方に設けられた開口90(図3参照)とを連通するようにして、吸気口7及び排気口8の軸線を含む平面に対して対称に形成されている。
【0028】
より詳しくは、掃気通路23,24は、各々断面四角形状を成し、下方から上方に向けていずれも吸気口7側に傾斜するように湾曲しながら延びている。よって、シリンダボア3内に流入する混合気は、排気口8から遠ざかる方向に向けてシリンダボア3内に流入する構成とされている(流れ方向B1,B2参照)。
【0029】
ここで、ピストン2の周辺の下端部には、ピストン2の外周上において排気口8から第1掃気口17の範囲にまで延びている溝状の凹部21が形成されている(図4参照)。この凹部21は、シリンダボア3との間において、ピストン2が上死点近傍の位置P1にあるときに排気口8と第1掃気口17につながる第1掃気通路23とを連通させるための連通路20を形成する。そして、この連通路20により、ピストン2が上死点近傍となったときには排気口8と第1掃気通路23とが連通され、燃焼後の排気ガスがEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスとして排気口8から第1掃気通路23に取り入れられる構成となっている。すなわち、第1掃気通路23は、その上部にEGRガスが充填可能とされると共にEGRガスの下側には混合気が充填可能とされ、ピストン2の下降に伴う掃気の際にはまず、EGRガスがシリンダボア3内に流入し、その後混合気がシリンダボア3内に流入する。このような構成により、エンジン用シリンダ1におけるいわゆる層状掃気が可能とされている。
【0030】
以下、シリンダ本体6及び掃気カセット10a,10bの形状について、図7〜図11も参照しながらより詳しく説明する。まずシリンダ本体6について説明すると、図2〜図4及び図7〜図9に示すように、開口部11のシリンダボア3内に連通する内端面は、掃気口17,18と等しい高さで掃気口17の排気口8側から掃気口18の吸気口7側まで周方向に延びる孔部22とされている。そして、開口部11のシリンダボア3側の端部で孔部22の上側には、シリンダボア3の中心軸X(図9参照)と同軸の円錐を逆さにした形状の一部をなし、シリンダボア3の周方向に延びる本体側円錐面(第2円錐面)26が形成されている。
【0031】
また、孔部22の下側には、シリンダ本体6の下面に形成された開口90の内端縁から孔部22の下端縁にかけて、シリンダボア3の半径方向外方に膨らむ形状とされた膨出面27が形成されている。
【0032】
次に掃気カセット10a,10bについて掃気カセット10aを例として説明する。なお、図11(a)は掃気カセット10aの裏面図、図11(b)は図11(a)の右側面図、図11(c)は図11(a)の左側面図、図11(d)は図11(a)の上面図、図11(e)は図11(a)の下面図、図11(f)は掃気カセット10aの正面図である。
【0033】
図10及び図11に示すように、掃気カセット10aの嵌入部13aの端部30には、高さがシリンダ本体6の孔部22と等しくされ(すなわち掃気口17,18と等しくされ)、シリンダボア3の円筒面3aと等しい曲率をもって湾曲しシリンダボア3の周方向に互いに離間する2面の先端31,31と、先端31,31の上端縁31aに連設されると共に、円錐を逆さにした形状の一部をなし、本体側円錐面26に対面し合致する形状とされたカセット側円錐面(第1円錐面)32とが形成されている。このカセット側円錐面32は、本体側円錐面26に合わさることで、シリンダボア3の中心軸Xと同軸となる。カセット側円錐面32の上記先端31の上端縁31aを除く下端縁32aは、シリンダ本体6に形成された孔部22の上端縁と等しい円弧状の形状となっている。
【0034】
また、掃気カセット10aの嵌入部13aの内面側には、いずれも略コ字状の断面をなす排気口8寄りの掃気通路形成溝33と吸気口7寄りの掃気通路形成溝34とが一本ずつ形成されている。掃気通路形成溝33,34は、下方から上方に向けていずれも吸気口7側且つ内方に傾斜するように湾曲しながら延びている。掃気通路形成溝33,34は、その上端においてカセット側円錐面32の下端縁32aと円弧状につながっている。そして、掃気通路形成溝33,34のうちの掃気口形成縁33a,34aは、円筒面3aに沿う形状に形成されている。また、掃気通路形成溝33と掃気通路形成溝34との間には隔壁36が配置されており、隔壁36の終端面は、上記先端31を形成している。掃気通路形成溝33,34を左右から囲むように配置される排気口8側の外壁37及び吸気口7側の外壁38は、隔壁36と共にシリンダ本体6に形成された膨出面27と合わさる形状となっている。
【0035】
なお、掃気カセット10bの嵌入部13bは、掃気カセット10aの嵌入部13aとは外形形状が面対称となるように成形されている。
【0036】
ここで、本実施形態のエンジン用シリンダ1にあっては、シリンダ本体6の開口部11,11に形成された本体側円錐面26と、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bの端部30に形成されたカセット側円錐面32とは各々合わせ面となって互いに合わさっている(図5参照)。すなわち、本体側円錐面26とカセット側円錐面32とは、円筒面3aと同軸に形成されている。そして、本体側円錐面26とカセット側円錐面32との合わせ面がシリンダボア3の円筒面3aに現れるライン40は、掃気口17,18の上端縁17a,18aを形成している(図4参照)。このようにして、嵌入部13a,13bの先端31は、円筒面3aと一致している。言い換えれば、嵌入部13a,13bの先端31は、円筒面3aに到達している。
【0037】
更には、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとの間で形成される掃気通路23,24の上面壁43(図5参照)及び側面壁45(図6参照)は、掃気カセット10a,10bの掃気通路形成溝33,34のみにより形成されている。
【0038】
上記の構成を有するエンジン用シリンダ1は、以下に説明する方法によって製造される。図12は、エンジン用シリンダ1の製造方法を示すフローチャートである。エンジン用シリンダ1のシリンダ本体6及び掃気カセット10a,10bは、各々別の金型により成型される。まず、シリンダ本体6がシリンダ本体成型用の金型により成型される(S1)。ここでは、複数の冷却フィン4を成型するための多層金型、シリンダボア3を成型するための金型、接合面12a,12bを成型するための金型、及び吸気口7及び排気口8のそれぞれを成型するための金型等が組み合わされて用いられることにより、シリンダ本体6が成型される。
【0039】
次に、掃気カセット10a,10bの各々が成型される(S2)。ここでは、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bを成型するための金型及び表面側を成型するための金型を用いて掃気カセット10a,10bの各々が成型される。これらのステップ1及びステップ2は、成型ステップに相当する。
【0040】
次に、掃気カセット10a,10bの各々がシリンダ本体6へ組み付けられる(S3;組み付けステップ)。ここでは、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bが、ガスケットGを挟んだ状態でシリンダ本体6の開口部11,11に各々嵌入され、本体側円錐面26にカセット側円錐面32が突き当てられた状態でボルト等により固定される。
【0041】
そして、シリンダ本体6に掃気カセット10a,10bが組み付けられた状態で、シリンダボア3の円筒面3aが機械加工される(S4;機械加工ステップ)。ここでは、機械加工により、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bの先端31が、円筒面3aと一致するように加工される。以上の工程を経て、上述したエンジン用シリンダ1が製造される。
【0042】
続いて、本実施形態のエンジン用シリンダ1における動作について説明する。まず、ピストン2の下死点から上死点へ向けての上昇に伴い、吸気口7及び排気口8はピストン2により閉じられ、燃焼室16内の混合気は圧縮される。ピストン2の更なる上昇によって、吸気口7がクランクケースと連通して混合気がクランクケース内に導入される(図4の流れA参照)。
【0043】
ピストン2が上死点近傍に達すると燃焼室16において混合気が爆発し、ピストン2は下死点側に下降する。ここで、ピストン2が上死点近傍となったときには、連通路20によって排気口8と第1掃気口17とが連通され(図4参照)、1サイクル前の燃焼後の排ガスがEGRガスとして第1掃気口17内に充填される。
【0044】
ピストン2の下降が更に進むと、排気口8が開口され、燃焼ガスが排気される。そして、排気口8の開口からやや遅れて、掃気口17,18の上端縁17a,18a(すなわち合わせ面のライン40)が円筒面3a内に露出し、次いで掃気口17,18が開口される(図5参照)。掃気口17,18が開口されると、ピストン2の下降に伴って、混合気が第2掃気通路24を通って第2掃気口18からシリンダボア3内に流入する。また、これと同時に、第1掃気口17が開口されることで、EGRガスと混合気とがこの順番で第1掃気口17から流入する。これにより、いわゆる層状掃気が行われる。
【0045】
このような本実施形態のエンジン用シリンダ1によれば、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを各々備え、これらの間に掃気通路23,24が形成されるため、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを個々に鋳造することができ、従って、掃気カセット10a,10bにおいて、シリンダ本体6との間で掃気通路23,24を形成する部分の形状の制約を少なくすることができ、掃気通路23,24の形状の自由度を高めることができる。また、シリンダ本体6の開口部11,11に嵌入される掃気カセット10a,10bの先端31がシリンダボア3の円筒面3aと一致しているため、円筒面3aと先端31との間に段差は形成されず、掃気通路23,24から流入するガスをスムーズにシリンダボア3内に案内でき、所望の掃気効率を得ることができる。
【0046】
また、開口部11,11に嵌入部13a,13bを嵌入させて掃気カセット10a,10bをシリンダ本体6に組み付ける際、本体側円錐面26とカセット側円錐面32との円錐面同士を合わせることにより掃気カセット10a,10bの位置決めができるため、掃気カセット10a,10bの位置合わせを容易に行うことができる。
【0047】
また、カセット側円錐面32と本体側円錐面26との合わせ面が円筒面3aに現れるライン40は、掃気口17,18の上端縁17a,18aを形成しているため、ピストン2の下降に伴い掃気口17,18がシリンダボア3に向けて開口されるまでの間に掃気カセット10a,10bの先端31とシリンダ本体6との境目がシリンダボア3に露出するようなことがなく、掃気口17,18が開口され始めるのと略同時に、その境目のうち上端に位置する合わせ面のライン40がシリンダボア3に露出する。よって、先端31とシリンダ本体6との境目が掃気口17,18が開口する前の高い圧力の燃焼ガスに晒されることを防止でき、燃焼ガスが境目から掃気通路23,24へと進入して掃気前の掃気通路23,24内のガスの状態を乱すことが防止される。これにより、層状掃気が支障なく行われ、エンジンの性能が保たれる。
【0048】
また、カセット側円錐面32と本体側円錐面26とは、各々円筒面3aと同軸に形成されているため、シリンダ本体6に対して掃気カセット10a,10bを組み付ける際、シリンダボア3の円筒面3aに対する嵌入部13a,13bの端部30の位置合わせを容易且つ確実に行うことができ、その結果、端部30の先端31とシリンダボア3の円筒面3aとを確実に一致させることができる。
【0049】
また、掃気通路23,24は断面四角形状を成しており、掃気通路23,24の上面壁43及び側面壁45は、掃気カセット10a,10bのみにより形成されているため、掃気通路23,24の形状を掃気カセット10a,10bの形状によって概ね決めることができ、掃気通路23,24の形状の自由度を一層高めることができる。
【0050】
また、本実施形態のエンジン用シリンダ1の製造方法によれば、シリンダ本体6に掃気カセット10a,10bが組み付けられた状態で、機械加工ステップにおいてシリンダボア3の円筒面3aが機械加工(追加工)されるため、掃気カセット10a,10bの端部30の先端31とシリンダボア3の円筒面3aとが一致するエンジン用シリンダ1を容易且つ確実に製造することができる。
【0051】
また、前述したように、燃焼ガスの排気口8からの排気が開始された後の十分に低下した圧力下において合わせ面がシリンダボア3に露出するので、シリンダ本体と掃気カセットとの合わせ面が高圧の燃焼ガスに晒されて掃気効率に影響を及ぼすようなことを防止できる。
【0052】
なお、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとの間に配置されるガスケットGは、掃気カセット10a,10bの締結強さが四箇所の各締結点で変化して面圧が変化することにより、厚みが変化することがある。このような場合であっても、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとは、本体側円錐面26とカセット側円錐面32との円錐面同士で合わさっているので、掃気カセット10a,10bの出入り方向の位置が変化しても、掃気カセット10a,10bは本体側円錐面26に対して斜めに移動するのみで合わせ面の隙間の拡大を抑えることができる。よって、合わせ面の隙間を最小限に保つことができる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、層状掃気を行うエンジン用シリンダについて説明したが、本発明は、層状掃気を行わずに通常の掃気を行うエンジン用シリンダにも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…エンジン用シリンダ、2…ピストン、3…シリンダボア(ボア部)、3a…円筒面、6…シリンダ本体(シリンダ本体部)、10a,10b…掃気カセット、11…開口部、13a,13b…嵌入部、17…第1掃気口(掃気口)、18…第2掃気口(掃気口)、23…第1掃気通路(掃気通路)、24…第2掃気通路(掃気通路)、26…本体側円錐面(第2円錐面)、30…端部、31…先端、31a…上端縁、32…カセット側円錐面(第1円錐面)、40…ライン、43…上面壁、45…側面壁。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン用シリンダ及びエンジン用シリンダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンにより開閉される吸気口及び排気口が向かい合うようにシリンダ内の燃焼室に形成され、これら吸気口及び排気口と周方向に約90°ずれた位置に、互いに対向する掃気口が設けられた2サイクルエンジンが知られている。この掃気口は、吸気口寄りの位置と排気口寄りの位置とに一対ずつ設けられ、混合気等を燃焼室内に流入させるための掃気通路が、各掃気口につながるようにしてシリンダの側部に複数形成されている。そして、このように吸気口寄りと排気口寄りとにそれぞれ掃気口を有する構成により、排気口から直接排出されてしまう混合気を低減するための層状掃気を行うようにしている。
【0003】
下記特許文献1に記載された2サイクルエンジンでは、内部に燃焼室を有し、この燃焼室と外部とを連通する開口部が形成されたシリンダ本体と、このシリンダ本体の開口部に嵌め込まれるシリンダカバーとを備えており、排気口寄りのメイン通路と吸気口寄りのサブ通路とから構成される掃気通路が、シリンダ本体とシリンダカバーとの間に形成されている。そして、サブ通路内の吸気口側の位置には、流入する混合気を所定の方向に案内する案内面がシリンダカバーにより形成されており、この案内面と燃焼室の内周面との間には、混合気がぶつかる段差部がシリンダ本体の開口部の内面により形成されている。そして、このような段差部に混合気がぶつかり渦流を発生させることにより、メイン通路からの混合気の流れを変化させるようにしている。
【0004】
また、下記特許文献2に記載された2サイクルエンジンでは、燃焼室に開口して燃料を含有する作動ガスを充填する吸気口寄りの掃気通路と、この掃気通路と連通孔を介して連通され、掃気行程に先立って作動ガスよりも燃料重量濃度の小さい非作動ガスが充填される排気口寄りの掃気通路である掃気充填室とを備えている。そして、掃気行程において、掃気通路及び掃気充填室が燃焼室に開口され、掃気充填室内の非作動ガスが、連通孔を介して掃気通路内の作動ガスによって燃焼室内に押し出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−121461号公報
【特許文献2】特開2005−233087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1ではシリンダ本体とは別体とされたシリンダカバーにより案内面を形成しているため複雑な形状の案内面或いは掃気通路を形成することができるものの、案内面と燃焼室の内周面との間に形成された段差部に混合気がぶつかり渦流が発生するため層状掃気が好適に行われず、所望の掃気効率が得られないという問題があった。
【0007】
一方、上記特許文献2では燃焼室、掃気通路、及び掃気充填室等がシリンダの成型時に一体に形成されるが、金型の離型を可能とするため、アンダーカットとなるような形状の掃気通路は形成し難く、掃気通路の形状の自由度を高めることは難しかった。
【0008】
本発明は、掃気通路の形状の自由度を高めつつ、所望の掃気効率を得ることができるエンジン用シリンダ及びエンジン用シリンダの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンジン用シリンダは、ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、ボア部(3)内に連通しピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)とを有するエンジン用シリンダ(1)であって、ボア部(3)が内部に形成されると共に、ボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、シリンダ本体部(6)の開口部(11,11)に嵌入されてシリンダ本体部(6)との間に掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備え、開口部(11,11)に嵌入される掃気カセット(10a,10b)の嵌入部(13a,13b)の先端(31)は、ボア部(3)の円筒面(3a)と一致していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るエンジン用シリンダによれば、シリンダ本体部(6)と掃気カセット(10a,10b)とを各々備え、これらの間に掃気通路(23,24)が形成される。よって、シリンダ本体部(6)と掃気カセット(10a,10b)とを個々に鋳造することができ、従って、掃気カセット(10a,10b)において、シリンダ本体部(6)との間で掃気通路(23,24)を形成する部分の形状の制約を少なくすることができ、掃気通路(23,24)の形状の自由度を高めることができる。また、シリンダ本体部(6)の開口部(11,11)に嵌入される掃気カセット(10a,10b)の先端(31)がボア部(3)の円筒面(3a)と一致しているため、円筒面(3a)と先端(31)との間に段差は形成されず、掃気通路(23,24)から流入するガスをスムーズにボア部(3)内に案内でき、所望の掃気効率を得ることができる。
【0011】
ここで、先端(31)を有する嵌入部(13a,13b)の端部(30)には、先端(31)の上端縁(31a)に連設されると共に、円錐を逆さにした形状の一部をなす第1円錐面(32)が形成され、開口部(11,11)のボア部(3)側の端部には、第1円錐面(32)に合わさる第2円錐面(26)が形成されていると、開口部(11,11)に嵌入部(13a,13b)を嵌入させて掃気カセット(10a,10b)をシリンダ本体部(6)に組み付ける際、円錐面同士を合わせることにより掃気カセット(10a,10b)の位置決めができるため、掃気カセット(10a,10b)の位置合わせを容易に行うことができる。
【0012】
また、第1円錐面(32)と第2円錐面(26)との合わせ面が円筒面(3a)に現れるライン(40)は、掃気口(17,18)の上端縁(17a,18a)を形成していると、ピストン(2)の下降に伴い掃気口(17,18)がボア部(3)に向けて開口されるまでの間に掃気カセット(10a,10b)の先端(31)とシリンダ本体部(6)との境目がボア部(3)に露出するようなことがなく、掃気口(17,18)が開口され始めるのと略同時に、その境目のうち上端に位置する合わせ面のライン(40)がボア部(3)に露出する。よって、先端(31)とシリンダ本体部(6)との境目が掃気口(17,18)が開口する前の高い圧力の燃焼ガスに晒されることを防止でき、燃焼ガスが境目から掃気通路(23,24)へと進入して掃気前の掃気通路(23,24)内のガスの状態を乱すことが防止される。
【0013】
また、第1円錐面(32)と第2円錐面(26)とは、各々円筒面(3a)と同軸に形成されていると、シリンダ本体部(6)に対して掃気カセット(10a,10b)を組み付ける際、ボア部(3)の円筒面(3a)に対する嵌入部(13a,13b)の端部(30)の位置合わせを容易且つ確実に行うことができ、その結果、端部(30)の先端(31)とボア部(3)の円筒面(3a)とを確実に一致させることができる。
【0014】
また、掃気通路(23,24)は断面四角形状を成しており、掃気通路(23,24)の上面壁(43)及び側面壁(45)は、掃気カセット(10a,10b)のみにより形成されていると、掃気通路(23,24)の形状は掃気カセット(10a,10b)の形状によって概ね決まるため、掃気通路(23,24)の形状の自由度を一層高めることができる。
【0015】
また、本発明に係るエンジン用シリンダの製造方法は、ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、ボア部(3)内に連通しピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)と、ボア部(3)が内部に形成されると共にボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、シリンダ本体部(6)の開口部(11,11)に嵌入されてシリンダ本体部(6)との間に掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備えるエンジン用シリンダ(1)の製造方法であって、シリンダ本体部(6)と掃気カセット(10a,10b)とを各々成型する成型ステップと、成型ステップでの成型後、シリンダ本体部(6)に掃気カセット(10a,10b)を組み付ける組み付けステップと、組み付けステップによりシリンダ本体部(6)に掃気カセット(10a,10b)が嵌入された状態で、ボア部(3)の円筒面(3a)の機械加工を行う機械加工ステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るエンジン用シリンダの製造方法によれば、シリンダ本体部(6)に掃気カセット(10a,10b)が組み付けられた状態で、機械加工ステップにおいてボア部(3)の円筒面(3a)が機械加工されるため、掃気カセット(10a,10b)の端部(30)の先端(31)とボア部(3)の円筒面(3a)とが一致する上記のエンジン用シリンダ(1)を容易且つ確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、掃気通路の形状の自由度を高めつつ、所望の掃気効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン用シリンダを示す斜視図である。
【図2】図1のエンジン用シリンダを吸気口側から見た分解斜視図である。
【図3】図1のエンジン用シリンダを排気口側から見た分解斜視図である。
【図4】図1のエンジン用シリンダの吸気口及び排気口を含む位置の縦断面図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図1中のシリンダ本体部を示す斜視図である。
【図8】図1中のシリンダ本体部を示す正面図である。
【図9】図8のIX-IX線に沿った断面図である。
【図10】掃気カセットを示す斜視図である。
【図11】掃気カセットを示す六面図である。
【図12】図1のエンジン用シリンダの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。図1は、本発明の実施形態に係るエンジン用シリンダを示す斜視図、図2は、エンジン用シリンダを吸気口側から見た分解斜視図、図3は、エンジン用シリンダを排気口側から見た分解斜視図である。
【0020】
図1〜図3に示すように、エンジン用シリンダ1は、例えば排ガスエミッション低減型の空冷2サイクルエンジンに適用されるシリンダであって、図1に仮想線で示す円柱形状のピストン2が摺動可能に挿入される円筒形状のシリンダボア(ボア部)3が内部に形成されると共に、シリンダボア3内と外部とをシリンダボア3の両側の側部において連通する略直方体形状の開口部11,11を有するシリンダ本体(シリンダ本体部)6を備えている。更に、このシリンダ本体6は、シリンダボア3を形成する略円筒形状の胴部の外側面からシリンダボア3の半径方向外方に向けて延出し上下方向に互いに離間して並設される複数の冷却フィン4を有している。なお、エンジン用シリンダ1についての「上下」は、ピストン2が挿入される開口部を下側にしてシリンダボア3が鉛直方向に延びるようにシリンダ本体6を立てた場合を基準とする。
【0021】
ピストン2は、シリンダ本体6の下部に設けられるクランクケース内のクランクシャフト(いずれも図示せず)に連結されて、シリンダボア3内で上死点(図4に示す位置P1)と下死点(図5に示す位置P2)との間を往復動可能に配置されている。また、シリンダ本体6には、ピストン2の上昇に伴い外部から混合気を導入し、シリンダボア3内を通してクランクケース内へ流れ方向Aに沿って流入させるための吸気口7と、シリンダボア3の上方に形成された燃焼室16で燃焼した排気ガスを、ピストン2の下降に伴い流れ方向Cに沿って排出するための排気口8とが、シリンダボア3を挟んで180°ずれた位置に形成されている。排気口8は、吸気口7よりも高い位置(図4の上死点の位置P1寄り)に形成されている。
【0022】
更に、エンジン用シリンダ1は、シリンダ本体6とは別体に成形されシリンダ本体6の吸気口7及び排気口8とは約90°ずれた位置に対向するように連結された掃気カセット10a,10bを備えている。掃気カセット10a,10bは、シリンダボア3の開口部11,11の内周面に対応した形状の外周面を成すように裏面側(内側)に突出した嵌入部13a,13bが、当該開口部11,11に各々嵌入され、締結によりシリンダ本体6に取り付けられている。
【0023】
図2及び図3に示すように、シリンダ本体6における掃気カセット10a,10bの取り付け位置には、掃気カセット10a,10bの裏面側で嵌入部13a,13bの周囲に形成された接合面15a,15bに対するシール面となる長方形環状の接合面12a,12bが各々形成されており、掃気カセット10a,10bの接合面15a,15bとシリンダ本体6の接合面12a,12bとの間には、長方形環状で所定の厚みを有するガスケットGが挟まれている。
【0024】
図4は、エンジン用シリンダ1の吸気口7及び排気口8を含む位置の縦断面図、図5は、図4のV−V線に沿った断面図、図6は、図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【0025】
図4〜図6に示すように、掃気カセット10a,10bの各々は、シリンダ本体6との間において、吸気口7及び排気口8とはシリンダボア3の周方向に約90°ずれた位置であってシリンダボア3の上下方向略中央の位置でシリンダボア3内に連通する四角形状の第1掃気口17と、この第1掃気口17と略等しい高さであって第1掃気口17よりも吸気口7側に所定長ずれた位置でシリンダボア3内に連通する四角形状の第2掃気口18とを形成している。第1掃気口17と第2掃気口18とは、吸気口7及び排気口8の軸線を含む平面に対して対称となるようにして一対ずつ形成されている。以下、これらの第1掃気口17及び第2掃気口18を、単に「掃気口17,18」ともいう。
【0026】
掃気口17,18は、排気口8よりも若干低い位置に形成されている(図4、図5参照)。すなわち、掃気口17,18は、ピストン2の下降に伴って排気口8がシリンダボア3内に開口すると、その直後にシリンダボア3内に開口する位置に形成されている。より詳しくは、掃気口17,18は、排気口8の開口後、クランク角にして13〜20degで開口する位置に形成されている。ここで、クランク角とは、ピストン2が上死点から下死点を過ぎ再び上死点に戻るまでのクランクシャフトの角度を360分割した角度である。
【0027】
更に、掃気カセット10a,10bの各々は、シリンダ本体6との間において、第1掃気口17及び第2掃気口18の各々につながる第1掃気通路23及び第2掃気通路24(以下、単に「掃気通路23,24」ともいう)を形成している。これらの掃気通路23,24は、流れ方向Aに沿ってクランクケース内へ流入した混合気を、ピストン2の下降に伴い掃気口17,18からシリンダボア3内に流入させ、流れ方向B(B1,B2)に沿って燃焼室16へ導入するための流路である。各掃気通路23,24は、シリンダボア3内の空間と、シリンダ本体6の下面でピストン2の半径方向外方に設けられた開口90(図3参照)とを連通するようにして、吸気口7及び排気口8の軸線を含む平面に対して対称に形成されている。
【0028】
より詳しくは、掃気通路23,24は、各々断面四角形状を成し、下方から上方に向けていずれも吸気口7側に傾斜するように湾曲しながら延びている。よって、シリンダボア3内に流入する混合気は、排気口8から遠ざかる方向に向けてシリンダボア3内に流入する構成とされている(流れ方向B1,B2参照)。
【0029】
ここで、ピストン2の周辺の下端部には、ピストン2の外周上において排気口8から第1掃気口17の範囲にまで延びている溝状の凹部21が形成されている(図4参照)。この凹部21は、シリンダボア3との間において、ピストン2が上死点近傍の位置P1にあるときに排気口8と第1掃気口17につながる第1掃気通路23とを連通させるための連通路20を形成する。そして、この連通路20により、ピストン2が上死点近傍となったときには排気口8と第1掃気通路23とが連通され、燃焼後の排気ガスがEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスとして排気口8から第1掃気通路23に取り入れられる構成となっている。すなわち、第1掃気通路23は、その上部にEGRガスが充填可能とされると共にEGRガスの下側には混合気が充填可能とされ、ピストン2の下降に伴う掃気の際にはまず、EGRガスがシリンダボア3内に流入し、その後混合気がシリンダボア3内に流入する。このような構成により、エンジン用シリンダ1におけるいわゆる層状掃気が可能とされている。
【0030】
以下、シリンダ本体6及び掃気カセット10a,10bの形状について、図7〜図11も参照しながらより詳しく説明する。まずシリンダ本体6について説明すると、図2〜図4及び図7〜図9に示すように、開口部11のシリンダボア3内に連通する内端面は、掃気口17,18と等しい高さで掃気口17の排気口8側から掃気口18の吸気口7側まで周方向に延びる孔部22とされている。そして、開口部11のシリンダボア3側の端部で孔部22の上側には、シリンダボア3の中心軸X(図9参照)と同軸の円錐を逆さにした形状の一部をなし、シリンダボア3の周方向に延びる本体側円錐面(第2円錐面)26が形成されている。
【0031】
また、孔部22の下側には、シリンダ本体6の下面に形成された開口90の内端縁から孔部22の下端縁にかけて、シリンダボア3の半径方向外方に膨らむ形状とされた膨出面27が形成されている。
【0032】
次に掃気カセット10a,10bについて掃気カセット10aを例として説明する。なお、図11(a)は掃気カセット10aの裏面図、図11(b)は図11(a)の右側面図、図11(c)は図11(a)の左側面図、図11(d)は図11(a)の上面図、図11(e)は図11(a)の下面図、図11(f)は掃気カセット10aの正面図である。
【0033】
図10及び図11に示すように、掃気カセット10aの嵌入部13aの端部30には、高さがシリンダ本体6の孔部22と等しくされ(すなわち掃気口17,18と等しくされ)、シリンダボア3の円筒面3aと等しい曲率をもって湾曲しシリンダボア3の周方向に互いに離間する2面の先端31,31と、先端31,31の上端縁31aに連設されると共に、円錐を逆さにした形状の一部をなし、本体側円錐面26に対面し合致する形状とされたカセット側円錐面(第1円錐面)32とが形成されている。このカセット側円錐面32は、本体側円錐面26に合わさることで、シリンダボア3の中心軸Xと同軸となる。カセット側円錐面32の上記先端31の上端縁31aを除く下端縁32aは、シリンダ本体6に形成された孔部22の上端縁と等しい円弧状の形状となっている。
【0034】
また、掃気カセット10aの嵌入部13aの内面側には、いずれも略コ字状の断面をなす排気口8寄りの掃気通路形成溝33と吸気口7寄りの掃気通路形成溝34とが一本ずつ形成されている。掃気通路形成溝33,34は、下方から上方に向けていずれも吸気口7側且つ内方に傾斜するように湾曲しながら延びている。掃気通路形成溝33,34は、その上端においてカセット側円錐面32の下端縁32aと円弧状につながっている。そして、掃気通路形成溝33,34のうちの掃気口形成縁33a,34aは、円筒面3aに沿う形状に形成されている。また、掃気通路形成溝33と掃気通路形成溝34との間には隔壁36が配置されており、隔壁36の終端面は、上記先端31を形成している。掃気通路形成溝33,34を左右から囲むように配置される排気口8側の外壁37及び吸気口7側の外壁38は、隔壁36と共にシリンダ本体6に形成された膨出面27と合わさる形状となっている。
【0035】
なお、掃気カセット10bの嵌入部13bは、掃気カセット10aの嵌入部13aとは外形形状が面対称となるように成形されている。
【0036】
ここで、本実施形態のエンジン用シリンダ1にあっては、シリンダ本体6の開口部11,11に形成された本体側円錐面26と、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bの端部30に形成されたカセット側円錐面32とは各々合わせ面となって互いに合わさっている(図5参照)。すなわち、本体側円錐面26とカセット側円錐面32とは、円筒面3aと同軸に形成されている。そして、本体側円錐面26とカセット側円錐面32との合わせ面がシリンダボア3の円筒面3aに現れるライン40は、掃気口17,18の上端縁17a,18aを形成している(図4参照)。このようにして、嵌入部13a,13bの先端31は、円筒面3aと一致している。言い換えれば、嵌入部13a,13bの先端31は、円筒面3aに到達している。
【0037】
更には、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとの間で形成される掃気通路23,24の上面壁43(図5参照)及び側面壁45(図6参照)は、掃気カセット10a,10bの掃気通路形成溝33,34のみにより形成されている。
【0038】
上記の構成を有するエンジン用シリンダ1は、以下に説明する方法によって製造される。図12は、エンジン用シリンダ1の製造方法を示すフローチャートである。エンジン用シリンダ1のシリンダ本体6及び掃気カセット10a,10bは、各々別の金型により成型される。まず、シリンダ本体6がシリンダ本体成型用の金型により成型される(S1)。ここでは、複数の冷却フィン4を成型するための多層金型、シリンダボア3を成型するための金型、接合面12a,12bを成型するための金型、及び吸気口7及び排気口8のそれぞれを成型するための金型等が組み合わされて用いられることにより、シリンダ本体6が成型される。
【0039】
次に、掃気カセット10a,10bの各々が成型される(S2)。ここでは、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bを成型するための金型及び表面側を成型するための金型を用いて掃気カセット10a,10bの各々が成型される。これらのステップ1及びステップ2は、成型ステップに相当する。
【0040】
次に、掃気カセット10a,10bの各々がシリンダ本体6へ組み付けられる(S3;組み付けステップ)。ここでは、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bが、ガスケットGを挟んだ状態でシリンダ本体6の開口部11,11に各々嵌入され、本体側円錐面26にカセット側円錐面32が突き当てられた状態でボルト等により固定される。
【0041】
そして、シリンダ本体6に掃気カセット10a,10bが組み付けられた状態で、シリンダボア3の円筒面3aが機械加工される(S4;機械加工ステップ)。ここでは、機械加工により、掃気カセット10a,10bの嵌入部13a,13bの先端31が、円筒面3aと一致するように加工される。以上の工程を経て、上述したエンジン用シリンダ1が製造される。
【0042】
続いて、本実施形態のエンジン用シリンダ1における動作について説明する。まず、ピストン2の下死点から上死点へ向けての上昇に伴い、吸気口7及び排気口8はピストン2により閉じられ、燃焼室16内の混合気は圧縮される。ピストン2の更なる上昇によって、吸気口7がクランクケースと連通して混合気がクランクケース内に導入される(図4の流れA参照)。
【0043】
ピストン2が上死点近傍に達すると燃焼室16において混合気が爆発し、ピストン2は下死点側に下降する。ここで、ピストン2が上死点近傍となったときには、連通路20によって排気口8と第1掃気口17とが連通され(図4参照)、1サイクル前の燃焼後の排ガスがEGRガスとして第1掃気口17内に充填される。
【0044】
ピストン2の下降が更に進むと、排気口8が開口され、燃焼ガスが排気される。そして、排気口8の開口からやや遅れて、掃気口17,18の上端縁17a,18a(すなわち合わせ面のライン40)が円筒面3a内に露出し、次いで掃気口17,18が開口される(図5参照)。掃気口17,18が開口されると、ピストン2の下降に伴って、混合気が第2掃気通路24を通って第2掃気口18からシリンダボア3内に流入する。また、これと同時に、第1掃気口17が開口されることで、EGRガスと混合気とがこの順番で第1掃気口17から流入する。これにより、いわゆる層状掃気が行われる。
【0045】
このような本実施形態のエンジン用シリンダ1によれば、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを各々備え、これらの間に掃気通路23,24が形成されるため、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとを個々に鋳造することができ、従って、掃気カセット10a,10bにおいて、シリンダ本体6との間で掃気通路23,24を形成する部分の形状の制約を少なくすることができ、掃気通路23,24の形状の自由度を高めることができる。また、シリンダ本体6の開口部11,11に嵌入される掃気カセット10a,10bの先端31がシリンダボア3の円筒面3aと一致しているため、円筒面3aと先端31との間に段差は形成されず、掃気通路23,24から流入するガスをスムーズにシリンダボア3内に案内でき、所望の掃気効率を得ることができる。
【0046】
また、開口部11,11に嵌入部13a,13bを嵌入させて掃気カセット10a,10bをシリンダ本体6に組み付ける際、本体側円錐面26とカセット側円錐面32との円錐面同士を合わせることにより掃気カセット10a,10bの位置決めができるため、掃気カセット10a,10bの位置合わせを容易に行うことができる。
【0047】
また、カセット側円錐面32と本体側円錐面26との合わせ面が円筒面3aに現れるライン40は、掃気口17,18の上端縁17a,18aを形成しているため、ピストン2の下降に伴い掃気口17,18がシリンダボア3に向けて開口されるまでの間に掃気カセット10a,10bの先端31とシリンダ本体6との境目がシリンダボア3に露出するようなことがなく、掃気口17,18が開口され始めるのと略同時に、その境目のうち上端に位置する合わせ面のライン40がシリンダボア3に露出する。よって、先端31とシリンダ本体6との境目が掃気口17,18が開口する前の高い圧力の燃焼ガスに晒されることを防止でき、燃焼ガスが境目から掃気通路23,24へと進入して掃気前の掃気通路23,24内のガスの状態を乱すことが防止される。これにより、層状掃気が支障なく行われ、エンジンの性能が保たれる。
【0048】
また、カセット側円錐面32と本体側円錐面26とは、各々円筒面3aと同軸に形成されているため、シリンダ本体6に対して掃気カセット10a,10bを組み付ける際、シリンダボア3の円筒面3aに対する嵌入部13a,13bの端部30の位置合わせを容易且つ確実に行うことができ、その結果、端部30の先端31とシリンダボア3の円筒面3aとを確実に一致させることができる。
【0049】
また、掃気通路23,24は断面四角形状を成しており、掃気通路23,24の上面壁43及び側面壁45は、掃気カセット10a,10bのみにより形成されているため、掃気通路23,24の形状を掃気カセット10a,10bの形状によって概ね決めることができ、掃気通路23,24の形状の自由度を一層高めることができる。
【0050】
また、本実施形態のエンジン用シリンダ1の製造方法によれば、シリンダ本体6に掃気カセット10a,10bが組み付けられた状態で、機械加工ステップにおいてシリンダボア3の円筒面3aが機械加工(追加工)されるため、掃気カセット10a,10bの端部30の先端31とシリンダボア3の円筒面3aとが一致するエンジン用シリンダ1を容易且つ確実に製造することができる。
【0051】
また、前述したように、燃焼ガスの排気口8からの排気が開始された後の十分に低下した圧力下において合わせ面がシリンダボア3に露出するので、シリンダ本体と掃気カセットとの合わせ面が高圧の燃焼ガスに晒されて掃気効率に影響を及ぼすようなことを防止できる。
【0052】
なお、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとの間に配置されるガスケットGは、掃気カセット10a,10bの締結強さが四箇所の各締結点で変化して面圧が変化することにより、厚みが変化することがある。このような場合であっても、シリンダ本体6と掃気カセット10a,10bとは、本体側円錐面26とカセット側円錐面32との円錐面同士で合わさっているので、掃気カセット10a,10bの出入り方向の位置が変化しても、掃気カセット10a,10bは本体側円錐面26に対して斜めに移動するのみで合わせ面の隙間の拡大を抑えることができる。よって、合わせ面の隙間を最小限に保つことができる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、層状掃気を行うエンジン用シリンダについて説明したが、本発明は、層状掃気を行わずに通常の掃気を行うエンジン用シリンダにも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…エンジン用シリンダ、2…ピストン、3…シリンダボア(ボア部)、3a…円筒面、6…シリンダ本体(シリンダ本体部)、10a,10b…掃気カセット、11…開口部、13a,13b…嵌入部、17…第1掃気口(掃気口)、18…第2掃気口(掃気口)、23…第1掃気通路(掃気通路)、24…第2掃気通路(掃気通路)、26…本体側円錐面(第2円錐面)、30…端部、31…先端、31a…上端縁、32…カセット側円錐面(第1円錐面)、40…ライン、43…上面壁、45…側面壁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、前記ボア部(3)内に連通し前記ピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、前記掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)とを有するエンジン用シリンダ(1)であって、
前記ボア部(3)が内部に形成されると共に、前記ボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、
前記シリンダ本体部(6)の前記開口部(11,11)に嵌入されて前記シリンダ本体部(6)との間に前記掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備え、
前記開口部(11,11)に嵌入される前記掃気カセット(10a,10b)の嵌入部(13a,13b)の先端(31)は、前記ボア部(3)の円筒面(3a)と一致していることを特徴とするエンジン用シリンダ。
【請求項2】
前記先端(31)を有する前記嵌入部(13a,13b)の端部(30)には、前記先端(31)の上端縁(31a)に連設されると共に、円錐を逆さにした形状の一部をなす第1円錐面(32)が形成され、
前記開口部(11,11)の前記ボア部(3)側の端部には、前記第1円錐面(32)に合わさる第2円錐面(26)が形成されていることを特徴とする請求項1記載のエンジン用シリンダ。
【請求項3】
前記第1円錐面(32)と前記第2円錐面(26)との合わせ面が前記円筒面(3a)に現れるライン(40)は、前記掃気口(17,18)の上端縁(17a,18a)を形成していることを特徴とする請求項2記載のエンジン用シリンダ。
【請求項4】
前記第1円錐面(32)と前記第2円錐面(26)とは、各々前記円筒面(3a)と同軸に形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載のエンジン用シリンダ。
【請求項5】
前記掃気通路(23,24)は断面四角形状を成しており、
前記掃気通路(23,24)の上面壁(43)及び側面壁(45)は、前記掃気カセット(10a,10b)のみにより形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のエンジン用シリンダ。
【請求項6】
ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、前記ボア部(3)内に連通し前記ピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、前記掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)と、前記ボア部(3)が内部に形成されると共に前記ボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、前記シリンダ本体部(6)の前記開口部(11,11)に嵌入されて前記シリンダ本体部(6)との間に前記掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備えるエンジン用シリンダ(1)の製造方法であって、
前記シリンダ本体部(6)と前記掃気カセット(10a,10b)とを各々成型する成型ステップと、
前記成型ステップでの成型後、前記シリンダ本体部(6)に前記掃気カセット(10a,10b)を組み付ける組み付けステップと、
前記組み付けステップにより前記シリンダ本体部(6)に前記掃気カセット(10a,10b)が組み付けられた状態で、前記ボア部(3)の円筒面(3a)の機械加工を行う機械加工ステップと、を含むことを特徴とするエンジン用シリンダの製造方法。
【請求項1】
ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、前記ボア部(3)内に連通し前記ピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、前記掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)とを有するエンジン用シリンダ(1)であって、
前記ボア部(3)が内部に形成されると共に、前記ボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、
前記シリンダ本体部(6)の前記開口部(11,11)に嵌入されて前記シリンダ本体部(6)との間に前記掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備え、
前記開口部(11,11)に嵌入される前記掃気カセット(10a,10b)の嵌入部(13a,13b)の先端(31)は、前記ボア部(3)の円筒面(3a)と一致していることを特徴とするエンジン用シリンダ。
【請求項2】
前記先端(31)を有する前記嵌入部(13a,13b)の端部(30)には、前記先端(31)の上端縁(31a)に連設されると共に、円錐を逆さにした形状の一部をなす第1円錐面(32)が形成され、
前記開口部(11,11)の前記ボア部(3)側の端部には、前記第1円錐面(32)に合わさる第2円錐面(26)が形成されていることを特徴とする請求項1記載のエンジン用シリンダ。
【請求項3】
前記第1円錐面(32)と前記第2円錐面(26)との合わせ面が前記円筒面(3a)に現れるライン(40)は、前記掃気口(17,18)の上端縁(17a,18a)を形成していることを特徴とする請求項2記載のエンジン用シリンダ。
【請求項4】
前記第1円錐面(32)と前記第2円錐面(26)とは、各々前記円筒面(3a)と同軸に形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載のエンジン用シリンダ。
【請求項5】
前記掃気通路(23,24)は断面四角形状を成しており、
前記掃気通路(23,24)の上面壁(43)及び側面壁(45)は、前記掃気カセット(10a,10b)のみにより形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のエンジン用シリンダ。
【請求項6】
ピストン(2)が挿入される円筒形状のボア部(3)と、前記ボア部(3)内に連通し前記ピストン(2)の往復動により開閉される掃気口(17,18)と、前記掃気口(17,18)につながる掃気通路(23,24)と、前記ボア部(3)が内部に形成されると共に前記ボア部(3)内と外部とを連通する開口部(11,11)を有するシリンダ本体部(6)と、前記シリンダ本体部(6)の前記開口部(11,11)に嵌入されて前記シリンダ本体部(6)との間に前記掃気通路(23,24)を形成する掃気カセット(10a,10b)と、を備えるエンジン用シリンダ(1)の製造方法であって、
前記シリンダ本体部(6)と前記掃気カセット(10a,10b)とを各々成型する成型ステップと、
前記成型ステップでの成型後、前記シリンダ本体部(6)に前記掃気カセット(10a,10b)を組み付ける組み付けステップと、
前記組み付けステップにより前記シリンダ本体部(6)に前記掃気カセット(10a,10b)が組み付けられた状態で、前記ボア部(3)の円筒面(3a)の機械加工を行う機械加工ステップと、を含むことを特徴とするエンジン用シリンダの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−196219(P2011−196219A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62481(P2010−62481)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000141174)株式会社丸山製作所 (134)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000141174)株式会社丸山製作所 (134)
【Fターム(参考)】
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