説明

エンジン試験システム

【課題】エンジン試験に際し、エンジン性能をより正確に測定することのできるエンジン試験システムを提供する。
【解決手段】エンジンの性能試験が行われる試験室1内には、エンジンを載置するためのエンジン設置台11と、エンジンの駆動力を計測するためのダイナモメータ12とが設けられている。そして、エンジンの性能試験に際し、エンジン13に試験室1の壁21を貫通するようにして延びる排気管15が取付けられる。壁21は、開口部22を有し、かかる開口部22に対応するようにして壁21の外面には、孔部を有する第1パネル31がスライド可能に装備されている。また、前記孔部に対応するようにして第1パネル31の前面には、挿通孔を有する第2パネル41がスライド可能に装備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン試験システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンの性能試験は、自動車の使用される様々な温度環境において種々のエンジン性能を確認するべく、所定の温湿度環境に保たれた試験室内において行われる。試験室は、室内の温湿度環境維持に関する省エネルギー化、及び省スペース化のため、常には小さく構成される。かかる試験室には、エンジンを設置するためのエンジン設置台や、エンジンに模擬付加を与えながらエンジンの駆動力を計測するダイナモメータ等が実車の配置関係となるように設置されている。また、エンジンの性能試験に際し、エンジンには実際に車載する形状の排気管が取着される。かかる排気管は、試験室の壁に設けられた開口部に挿通された状態で試験室外まで延びるよう構成されており、エンジンの性能試験に際してエンジンから排出される排気ガスは、上記排気管を通じて試験室外へと排出されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−15094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来、エンジンの設置位置と、前記開口部位置との配置関係が固定的であるため、エンジン形状、サイズ、排気系(排気マニホールド等)の位置、向き等によっては、前記開口部に排気管を挿通させるため、排気管を加工したり、別のものを装着したりせざるを得ないケースがあった。この場合、排気管を加工等することで、エンジンの排気特性が実車と異なったものとなってしまい、実際のエンジン性能を正確に測ることができないおそれがあった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、エンジン試験に際し、エンジン性能をより正確に測定することのできるエンジン試験システムを提供することを1つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的等を解決するのに適した各手段につき項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果等を付記する。
【0006】
手段1.エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において前記排気管を挿通可能な挿通孔を備え、
前記挿通孔を、スライド可能に構成したことを特徴とするエンジン試験システム。
【0007】
上記手段1によれば、挿通孔がスライド可能に構成されている。従って、エンジン形状、サイズ、排気系(排気マニホールド等)の位置や向き等が異なったものとなることで、排気系に取付けられる車載用(実際に車載する形状の)排気管の取付け位置や角度が変化し、排気管の挿通位置が変わったとしても、挿通孔をスライドさせることで排気管を無理なく挿通させることができる。例えば、スライド可能に設けられたエンジン設置部が、計測装置との位置関係でスライドさせられ、載置されたエンジン及び排気管が変位したとしても、挿通孔の位置をスライドさせることで、排気管を無理なく挿通させることができる。すなわち、排気管を加工したり、別の排気管を装着したりする必要がなくなり、エンジンの排気特性を実車レベルとすることができる。結果として、エンジンの性能を実車と同じくすることで、より正確な(実車レベルに即したエンジン性能の)データを取得することができる。また、排気管を加工する等の手間を省くことができ、作業性の向上を図ることができる。
【0008】
また、挿通孔の位置を適宜調整することで、該挿通孔と排気管の挿通位置との僅かなずれにも対応することができるため、挿通孔を無駄に大きく構成する必要がない。従って、例えば、排気管を挿通可能とするだけの必要最低限の大きさとし、挿通孔と排気管との隙間から試験室内の熱等が室外に漏れることを低減させることができ、エンジン試験室内の温度環境の安定化を図ることができる。
【0009】
なお、「前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置」とあるのを、「前記エンジン設置部の側方に設けられた(エンジン)ダイナモメータ」としてもよい。また、「エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置」とあるのを「エンジンに模擬負荷を与える模擬付加装置及びエンジンの駆動性能を計測する計測装置」としてもよい。さらに、加えて、本手段に記載の構成により、エンジン試験システムが構成されているが、同構成によりエンジン試験室を構成し、上記同様の作用効果を奏させることもできる(以下、各手段において同様)。
【0010】
手段2.エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において前記排気管を挿通可能な挿通孔を複数設け、
前記挿通孔のうちの少なくとも1つを、スライド可能に構成したことを特徴とするエンジン試験システム。
【0011】
手段2によれば、少なくとも1つの挿通孔がスライド可能に構成されているため、上記手段1と同様の効果を奏することができる。また、複数の排気管が装備されるタイプのエンジンにも対応でき、複数の排気管をそれぞれ挿通孔に挿通させた上で、試験を行うことができる。
【0012】
手段3.前記スライド可能に構成されていない挿通孔を開閉自在に構成したことを特徴とする手段2に記載のエンジン試験システム。
【0013】
手段3によれば、使用されない挿通孔を閉塞することで、かかる挿通孔から試験室内の熱が漏れてしまうといった不具合を抑制することができる。
【0014】
手段4.前記スライド可能に構成された挿通孔を覆うようにして閉塞部材を設け、前記閉塞部材は、前記排気管の挿通を可能にするべく、変形により開口形成されるよう構成したことを特徴とする特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【0015】
手段4によれば、排気管の非挿通時には、挿通孔が閉塞され、試験室内の熱等が試験室外に漏れることを低減させることができる。また、排気管の挿通時においては、常には閉状態にある閉塞部材が開口形成されるため、挿通孔の開口面積を極力小さくした上で挿通させることができ、挿通孔と排気管との隙間から試験室内の熱等が試験室外に漏れるといった事態を低減させることができる。さらに、例えば、閉塞部材を、暖簾状、短冊状、網目状などをなす軟質素材で構成したり、閉塞部材の開閉可能となる位置をフレキシブルに選択できるよう構成したりして上記作用効果を得るようにしてもよい。その場合、挿通孔に排気管を挿通する際の位置決めを比較的容易に行なうことができる。さらに、前記閉塞部材は、排気管を挿通する際、排気管に押圧されることで部分的に開口が形成されるよう構成してもよい。その場合、排気管の挿通をスムースに行うことができる。加えて、各種温度環境にも耐え得るよう、或いは熱のリーク(もれ)を防止するべく閉塞部材を断熱性素材で構成してもよい。
【0016】
手段5.エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において開口部を設け、
前記開口部に対応して、前記排気管を挿通可能な孔部を有するパネル部材をスライド可能に設けたことを特徴とするエンジン試験システム。
【0017】
上記手段5によれば、パネル部材をスライドさせることで、上記手段1と同様の効果を奏することができる。
【0018】
なお、前記孔部は、前記開口部よりも小さく(幅狭に)構成されていることとしてもよい。その場合には、孔部から試験室内の熱等が試験室外に漏れることを防止することができる。また、前記パネル部材は、前記孔部が前記開口部の範囲内に位置するようスライド量が規制されていることとしてもよい。つまり、パネル部材の必要以上のスライドが規制されることで、スライドに関する構成のコンパクト化を図ることができ、結果として、コスト、スライドに必要なスペース等を低減させることができる。さらに、パネル部材を断熱性の高い素材で構成したり、パネル部材の表面に断熱シートなどを取着したり、パネル部材を中空状に構成することで空気層をつくったりして、パネル部材の断熱性能の向上を図るようにしてもよい(以下、各手段において同様)。
【0019】
加えて、「前記開口部に対応して前記排気管を挿通可能な孔部を有するパネル部材」とあるのを「前記開口部に対応して前記排気管を挿通可能な孔部を有する少なくとも1つのパネル部材」としてもよい。例えば、パネル部材を2つ設けることで、2つの排気管とが設けられるタイプのエンジンの性能試験を行う場合にも対応して、上記効果を奏することができる。また、孔部(パネル部材)を複数設けた場合には、前記孔部を開閉自在に構成してもよい。その場合、使用されない孔部を閉塞することで、かかる孔部から試験室内の熱等が漏れてしまうといった不具合を抑制することができる。
【0020】
手段6.エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において開口部を複数備え、
前記複数の開口部のうちの少なくとも1つに対応して前記排気管を挿通可能な孔部を有するパネル部材をスライド可能に設けたことを特徴とするエンジン試験システム。
【0021】
手段6によれば、パネル部材がスライドすることで、少なくとも1つの孔部がスライド可能になっているため、上記手段1と同様の効果が奏される。また、複数の排気管が装着されるタイプのエンジンにも対応でき、複数の排気管をそれぞれ開口部(少なくとも1つは孔部及び開口部)に挿通させたうえで、試験を行うことができる。
【0022】
手段7.前記パネル部材が設けられていない開口部を閉塞する閉塞パネルを取付可能に構成したことを特徴とする手段6に記載のエンジン試験システム。
【0023】
手段7によれば、使用されない開口部を閉塞することで、かかる開口部から試験室内の熱が漏れてしまうといった不具合を抑制することができる。なお、前記閉塞パネルは、前記開口部の不使用状態においては取着され、前記開口部の使用状態においては取外されることとしてもよい。また、開口部の閉塞は特に閉塞パネルを用いて行うものに限定されず、前記パネル部材が設けられていない開口部を開閉自在に構成できればよい。
【0024】
手段8.前記パネル部材は、スライド位置に関わらず、前記孔部以外の部分で前記開口部を常時閉塞するよう構成されていることを特徴とする手段5乃至7のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【0025】
手段8によれば、孔部に対応する部分以外の開口部が閉塞されることで、かかる開口部から試験室内の熱等が室外に漏れるのを防止することができ、エンジン試験室内の温度環境をより安定させることができる。なお、前記開口部を常時閉塞するとあるのは、開口部から試験室内の熱等が室外に漏れるのを防止するといった意味を含むものであり、特に密閉されていなくとも、前記パネル部材は、スライド位置に関わらず、前記孔部以外の部分で前記開口部を常に覆うよう構成されていればよい。加えて、手段6,7に対応しては、「前記開口部を常時閉塞する」とあるのは、「対応する前記開口部を常時閉塞する」といった意味を含むものである。
【0026】
手段9.前記スライド可能に構成されたパネル部材の前記孔部を覆うようにして閉塞部材を設け、前記閉塞部材は、前記排気管の挿通を可能にするべく、変形により開口形成されるよう構成したことを特徴とする特徴とする手段5乃至8のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【0027】
手段9によれば、排気管の非挿通時には、孔部が閉塞され、また、排気管の挿通時においては、閉塞部材が変形して開口形成されるよう構成されており、上記手段4と同様の効果を奏することができる。
【0028】
手段10.前記パネル部材は、前記孔部に対応するようにして、前記排気管を挿通可能な挿通孔を有する被せパネル部材を備え、
前記被せパネル部材は、前記パネル部材のスライド方向と交差する方向にスライド可能に構成されていることを特徴とする手段5乃至8のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【0029】
手段10によれば、被せパネル部材のスライド方向がパネル部材のスライド方向と交差するよう構成されているため、挿通孔を2次元的(平面的)に移動させることができ、より広範囲の排気管の挿通位置に対応させることができる。また、パネル部材及び被せパネル部材をそれぞれ一方向にスライドさせるといった比較的簡単な構成を採用することができる。なお、前記挿通孔は前記孔部よりも小さく(幅狭に)構成されていることとしてもよい。その場合には、挿通孔から試験室内から試験室外への熱漏れを低減させることができる。また、前記被せパネル部材は、前記挿通孔が前記孔部の範囲内に位置するようスライド量が規制されていることとしてもよい。つまり、被せパネル部材の必要以上のスライドが規制されることで、スライドに関する構成(被せパネル部材)のコンパクト化を図ることができ、結果として、コスト、スライドに必要なスペース等を低減させることができる(以下、各手段において同様)。
【0030】
加えて、孔部(パネル部材)を複数設けた場合には、「前記孔部に対応するようにして」とあるのを「前記孔部と1対1で対応するようにして」、又は「前記孔部のうちの少なくとも1つに対応するようにして」としてもよい。例えば、パネル部材を2つ設けた場合、かかる2つのパネル部材それぞれに被せパネル部材を設けることで、2つの排気管が設けられるタイプのエンジンの性能試験を行う場合にも対応して、上記効果を奏することができる。また、挿通孔(被せパネル部材)を複数設けた場合には、前記挿通孔を開閉自在に構成してもよい。その場合、使用されない挿通孔を閉塞することで、かかる挿通孔から試験室内の熱が漏れてしまうといった不具合を低減させることができる。
【0031】
手段11.前記被せパネル部材は、スライド位置に関わらず、前記挿通孔以外の部分で前記孔部を常時閉塞するよう構成されていることを特徴とする手段10に記載のエンジン試験システム。
【0032】
手段11によれば、挿通孔に対応する部分以外の孔部が閉塞されることで、かかる孔部から試験室内の熱が室外に漏れるのを防止することができ、エンジン試験室内の温度環境をより安定させることができる。なお、前記孔部を常時閉塞するとあるのは、試験室内の熱等が孔部から室外に漏れるのを防止するといった意味を含むものであり、特に密閉されていなくとも、前記被せパネル部材は、スライド位置に関わらず、前記挿通孔以外の部分で前記孔部を常に覆うよう構成されていればよい。
【0033】
手段12.前記スライド可能に構成された被せパネル部材の前記挿通孔を覆うようにして閉塞部材を設け、前記閉塞部材は、前記排気管の挿通を可能にするべく、変形により開口形成されるよう構成されるよう構成したことを特徴とする特徴とする手段10又は11に記載のエンジン試験システム。
【0034】
手段12によれば、排気管の非挿通時には、挿通孔が閉塞され、また、排気管の挿通時においては、閉塞部材が変形し開口形成されるよう構成されており、上記手段4,9と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に、エンジン試験システムの一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0036】
図1は、試験室1の配置構成を示す平断面図である。同図に示すように、エンジンの性能試験が行われる試験室(エンジン試験室)1は、ドライルーム2内に設けられている。ドライルーム2は、常温低湿状態に環境が保たれており、結露の防止が図られている。かかるドライルーム2内の空気が、試験室1に隣接された図示しない空調機によって温度調整され、試験室1内に送り込まれることで、試験室1内が所定の温湿度環境に保たれている。また、ドライルーム2には隔壁を隔てて、試験室1内の試験結果を計測する計測室3が隣接されている。かかる計測室3とドライルーム2との隔壁には窓部4が設けられており、計測室3からドライルーム2内を視認できるようになっている。加えて、ドライルーム2及び計測室3と隣接するようにして前室5が設けられており、計測室3にいる作業者は、かかる前室5を経由してドライルーム2へ入室可能になっている。
【0037】
試験室1内には、エンジンを載置するためのエンジン設置台11と、エンジンに模擬負荷をかけながらエンジンの駆動力を計測するためのダイナモメータ12とが設けられている。具体的には、試験室1の計測室3側(図の上側)を自動車のフロント側と想定したうえで、ダイナモメータ12が、自動車の車輪に対応する位置(ダイナモメータ12を自動車の車輪と見立てた位置)に設置されている。また、試験室1内には、エンジン設置台11及びダイナモメータ12以外にも、エンジンの各種性能を計測するための図示しない各種計測器等が据え付けられている。なお、本実施の形態では、エンジン設置台11がエンジン設置部に相当し、ダイナモメータ12等が計測装置に相当する。
【0038】
そして、エンジンの性能試験に際し、試験体であるエンジン13が、前記エンジン設置台11に載置される。また、エンジン13とダイナモメータ12とが、エンジンから延びる図示しない動力軸を介して連結される。かかる連結に際し、エンジン設置台11は、ダイナモメータ12との位置関係から、動力軸方向にずれることもある。さらに、エンジン13の排気マニホールド14に対して、前記計測室3から遠ざかる方向に向かって延びる排気管15が取付けられる。該排気管15は、試験室1の壁を貫通するようになっており、かかる排気管15を排気マニホールド14に取付けることによって、エンジン13の排気ガスが試験室1外に排出されるよう構成されている。また、実車に即したエンジン試験を行うために、排気管15は、実際に車載される排気管と同じものが採用されている。さらに、排気管15によって試験室1外に排気ガスを導いた後、エンジン排気系に負圧等の圧力がかからなくするよう排気ガスの吸い取り処理を行う図示しない排気処理装置が設けられている。なお、試験室1の計測室3側の壁にはガラス窓部16が設けられており、かかるガラス窓部16を介して前記計測室3の窓部4から試験室1内の様子を視認できるようになっている。また、ダイナモメータ12の設置される場所は、試験室1内の温度からダイナモメータ12を守るため、その他の試験室1内部空間から隔離されている。
【0039】
さて、試験室1の壁には、排気管15を挿通するための開口が設けられている。以下、かかる開口に関する構成を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図2は、試験室1外から見た後述する壁21の正面図である。図3は、壁21の構成を示す図2のA−A線断面図である。図4は、壁21の構成を示す図2のB−B線断面図である。図5は、後述する開口部22、孔部32、挿通孔42の関係を示す説明図である。
【0040】
試験室1の前記計測室3側の壁(ガラス窓部16を備える壁)と相対向する側の壁21には開口部22が設けられている(図1参照)。また、図2に示すように、壁21の外面には、開口部22を上下に挟むようにして一対の横スライドレール23が設けられており、かかる横スライドレール23に沿ってパネル部材としての第1パネル31がスライド可能に装備されている。図3、図4に示すように、第1パネル31は、その略中央部に孔部32を有しており、前記第1パネル31のスライドは、孔部32が開口部22内に位置する範囲でのみ許容されるようになっている。詳しくは、図5に示すように、孔部32の中心位置が、J〜Kの範囲内でスライドするようになっている。また、第1パネル31は、そのスライド方向において前記開口部22よりも幅広に構成されており、第1パネル31はスライド位置に関わらず、開口部22を常時閉塞するようになっている。
【0041】
また、図2に示すように、第1パネル31の前面には、孔部32を左右に挟むようにして一対の縦スライドレール33が設けられており、かかる縦スライドレール33に沿って被せパネル部材としての第2パネル41が上下にスライド可能に装備されている。第2パネル41は、その略中央部に挿通孔42を有しており、第2パネル41のスライドは、挿通孔42が前記孔部32内に位置する範囲でのみ許容されるようになっている。詳しくは、図5に示すように、挿通孔42の中心位置が、M〜Nの範囲内でスライドするようになっている。さらに、第2パネル41は、そのスライド方向において前記孔部32よりも幅広に構成されており、第2パネル41は、スライド位置に関わらず、孔部32を常時閉塞するようになっている。加えて、挿通孔42を覆うようにして、閉塞部材としての暖簾状のシリカファイバーシート43が設けられている。かかるシリカファイバーシート43により、試験室1内部の空気が挿通孔42から試験室1外に漏れにくくなっている。なお、シリカファイバーシート43は、試験室1内部方向から若干の押圧力を加えるだけで部分的に開口が形成されるようになっている。
【0042】
ここで、エンジンと排気管15との取付作業について説明する。
【0043】
まず、排気管15とエンジン13との取付状態における排気管15の壁21への貫通位置を想定する。かかる排気管15の貫通位置に孔部32を対応させる(左右位置を合わせる)べく、第1パネル31をスライドさせる。それから、排気管15の貫通位置に挿通孔42を対応させる(上下位置を合わせる)べく、第2パネル41をスライドさせる。そして、開口部22、孔部32、及び挿通孔42に挿通させた排気管15を、エンジン13の排気マニホールド14に対して取付けることで、排気ガスを試験室1外に排出できるようになる。
【0044】
以上詳述したように、本実施の形態では、第1パネル31をスライドさせることで孔部32が左右にスライドし、第2パネル41をスライドさせることで挿通孔42が上下にスライドする。従って、エンジン形状、サイズ、排気系(排気マニホールド)の位置や向き等が異なったものとなることで、排気系に取付けられる車載用(実際に車載される形状)の排気管15の取付け位置や角度が変化し、排気管15の挿通位置が変わったとしても、孔部32及び挿通孔42をスライドさせることで排気管15を無理なく挿通させることができる。そのため、排気管15を加工したり、別の排気管を装備したりする必要がなくなり、エンジンの排気特性を実車レベルとすることができる。結果として、エンジンの性能を実車と同じくすることで、より正確な(実車レベルに即したエンジン性能の)データを取得することができる。また、排気管15を加工する手間を省き、作業性の向上を図ることができる。
【0045】
また、第1パネル31及び第2パネル41を適宜スライドさせて調整することで、挿通孔42と排気管15の挿通位置との僅かなずれにも対応することができるため、挿通孔42を無駄に大きく構成する必要がない。従って、挿通孔42と排気管15との隙間から試験室1内の熱等が室外に漏れるのを防止することができ、試験室1内の温度環境の安定化を図ることができる。
【0046】
さらに、第1パネル31は、スライド位置に関わらず、孔部32以外の部分で開口部22を常時閉塞するよう構成され、第2パネル41は、スライド位置に関わらず、挿通孔42以外の部分で孔部32を常時閉塞するよう構成されている。従って、開口部22及び孔部32から試験室1内の熱等が試験室1外に漏れるのをより確実に防止することができ、試験室1内の温度環境をより安定させることができる。
【0047】
また、第1パネル31は、横スライドレール23に沿って左右にスライドし、第2パネル41は、縦スライドレール33に沿って上下にスライドする。つまり、第2パネル41は、第1パネル31のスライド方向と交差する方向にスライドするよう構成されているため、挿通孔42を2次元的(平面的)に移動させることができ、より広範囲の排気管15の挿通位置に対応させることができる。また、第1パネル及び第2パネル部材をそれぞれ一方向にスライドさせるといった比較的簡単な構成で上記作用効果を得ることができる。
【0048】
さらに、孔部32は、開口部22よりも小さく(幅狭に)構成され、挿通孔42は孔部32よりも小さく構成されている。そのため、孔部32及び挿通孔42から試験室1内の熱等が試験室外に漏れるのを防止することができる。
【0049】
併せて、第1パネル31は、孔部32が開口部22の範囲内に位置するようスライド量が規制され、第2パネル41は挿通孔42が孔部32の範囲内に位置するようスライド量が規制されている。つまり、第1パネル31及び第2パネル41の必要以上のスライドが規制されることで、スライドに関する構成のコンパクト化を図ることができ、結果として、コスト、スライドに必要なスペース等を低減させることができる。
【0050】
さらに、挿通孔42を覆うようにして、シリカファイバーシート43が設けられている。従って、排気管15の非挿通時には、挿通孔42が閉塞され、試験室1内の熱等が試験室1外に漏れるのを防止することができる。また、排気管15の挿通時においても、シリカファイバーシート43が撓んで部分的に開口形成されるよう構成されているため、挿通孔42の開口面積を極力小さくすることができる。そのため、この場合においても、挿通孔42と排気管15との隙間から試験室1内の熱等が試験室1外に漏れるのを防止することができる。さらに、シリカファイバーシート43は暖簾状に構成されているため、シリカファイバーシート43への排気管15の挿通位置をフレキシブルに選択でき、挿通の際の位置決めを比較的容易に行なうことができる。さらに、シリカファイバーシート43は、排気管15を挿通する際、排気管15に押圧されることでめくれる(開放させられる)よう構成されており、排気管15の挿通をスムースに行うことができる。
【0051】
尚、上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0052】
(a)開口部22に対応して複数の第1パネル31を設けるよう構成してもよい。例えば、第1パネル部材を2つ設けることで、2つの排気管が設けられるタイプのエンジンの性能試験を行う場合にも対応して、上記効果が奏される。また、孔部32(第1パネル)を複数設けた場合には、孔部32を開閉自在に構成してもよい。その場合、使用されない孔部32を閉塞することで、かかる孔部32から試験室1内の熱等が試験室1外に漏れてしまうといった不具合を抑制することができる。
【0053】
(b)また、上記(a)において、第2パネル41を、第1パネル31(孔部32)と1対1で対応するようにして設けてもよいし、第1パネル31(孔部32)のうちの少なくとも1つに対応するようにして設けてもよい。例えば、第1パネル31を2つ設けた場合、かかる2つの第1パネル31それぞれに第2パネル41を設けることで、2つの排気管が設けられるタイプのエンジンの性能試験を行う場合にも対応して、上記効果を奏することができる。また、挿通孔42(第2パネル41)を複数設けた場合には、挿通孔42を開閉自在に構成してもよい。その場合、使用されない挿通孔42を閉塞することで、かかる挿通孔42から試験室1内の熱が試験室1外に漏れてしまうといった不具合を抑制することができる。
【0054】
(c)壁21に対し、開口部22以外にも排気管を挿通可能な開口部を設けるよう構成してもよい。その場合、複数の排気管が装着されるタイプのエンジンにも対応でき、複数の排気管をそれぞれ開口部(少なくとも1つは開口部22、孔部32、及び挿通孔42)に挿通させたうえで、試験を行うことができる。
【0055】
(d)また、上記(c)において、開口部22以外の開口部を開閉自在に構成してもよい。例えば、開口部を閉塞する閉塞パネルを取付けられるよう構成してもよい。その場合、使用されない開口部を閉塞することで、かかる開口部から試験室1内の熱が試験室1外に漏れてしまうといった不具合を低減させることができる。なお、開口部22以外の開口部にも、第1パネル31や第2パネル41のようなパネル部材をスライド可能に装備させてもよい。その場合、複数の排気管と連結するタイプのエンジンにも対応させて、上記作用効果を得ることができる。
【0056】
(e)上記実施の形態において、第1パネル31は、スライド位置に関わらず、孔部32以外の部分で開口部22を常時閉塞するとあるのは、第1パネル31により、開口部22から試験室1内の熱等が試験室1外に漏れることを低減させるといった意味を含むものであり、特に密閉されていなくとも、第1パネル31は、スライド位置に関わらず、孔部32以外の部分で開口部22を常に覆うよう構成されていればよい。なお、第2パネル41に関しても同様である。
【0057】
(f)上記実施の形態におけるシリカファイバーシート43の形状や材質は特に限定されるものではなく、排気管15の非挿通時には、挿通孔42が閉塞され、排気管15の挿通時には、シリカファイバーシート43が部分的に開口が形成される、又は変形により開口形成されるよう構成されていればよい。例えば、上記例ではシリカファイバーシート43が暖簾状に構成されていたが、短冊状、網目状などに構成してもよい。なお、試験室1内の温度や、排気管15の熱等にも耐えうるよう、或いは熱のリーク(もれ)を防止するべく断熱性の高い素材で構成されていることが望ましい。
【0058】
(g)上記実施の形態における、第1パネル31及び第2パネル41を断熱性の高い素材で構成したり、第1パネル31及び第2パネル41の表面に断熱シートなどを取着したり、第1パネル31及び第2パネル41を中空状に構成することで空気層をつくったりして、第1パネル31及び第2パネル41の断熱性能の向上を図るようにしてもよい。
【0059】
(h)上記実施の形態では、ダイナモメータ12が試験室1内に設置されているが、ダイナモメータ12を試験室1外に設置してもよい。その場合、エンジン性能試験に際し、ダイナモメータ12とエンジン設置台11との間にある貫通孔を有した隔壁にエンジンから延びる動力軸を挿通し、エンジンとダイナモメータ12とを連結するよう構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】試験室の配置構成を示す平断面図である。
【図2】試験室外から見た壁の正面図である。
【図3】壁の構成を示す図2のA−A線断面図である。
【図4】壁の構成を示す図2のB−B線断面図である。
【図5】開口部、孔部、挿通孔の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1…エンジン試験室としての試験室、11…エンジン設置部としてのエンジン設置台、12…計測装置としてのダイナモメータ、13…エンジン、14…排気マニホールド、15…排気管、21…壁、22…開口部、31…パネル部材としての第1パネル、32…孔部、41…被せパネルとしての第2パネル、42…挿通孔、43…閉塞部材としてのシリカファイバーシート。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において前記排気管を挿通可能な挿通孔を備え、
前記挿通孔を、スライド可能に構成したことを特徴とするエンジン試験システム。
【請求項2】
エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において前記排気管を挿通可能な挿通孔を複数設け、
前記挿通孔のうちの少なくとも1つを、スライド可能に構成したことを特徴とするエンジン試験システム。
【請求項3】
エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において開口部を設け、
前記開口部に対応して、前記排気管を挿通可能な孔部を有するパネル部材をスライド可能に設けたことを特徴とするエンジン試験システム。
【請求項4】
エンジン試験室内に設けられ、エンジンを設置するためのエンジン設置部と、
前記エンジン設置部の側方に設けられ、エンジンに所定の負荷を与えつつエンジンの駆動性能を計測する計測装置とを備え、
エンジンと前記計測装置とを接続するとともに、該エンジンに対し、前記試験室外へと導かれる排気管を取付けてエンジン試験を行うエンジン試験システムであって、
エンジン試験に際し、エンジンから排出される排気ガスを前記試験室外へと排出するべく、前記試験室の壁部において開口部を複数備え、
前記複数の開口部のうちの少なくとも1つに対応して前記排気管を挿通可能な孔部を有するパネル部材をスライド可能に設けたことを特徴とするエンジン試験システム。
【請求項5】
前記パネル部材が設けられていない開口部を閉塞する閉塞パネルを取付可能に構成したことを特徴とする請求項4に記載のエンジン試験システム。
【請求項6】
前記パネル部材は、スライド位置に関わらず、前記孔部以外の部分で前記開口部を常時閉塞するよう構成されていることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【請求項7】
前記スライド可能に構成されたパネル部材の前記孔部を覆うようにして閉塞部材を設け、前記閉塞部材は、前記排気管の挿通を可能にするべく、変形により開口形成されるよう構成したことを特徴とする特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【請求項8】
前記パネル部材は、前記孔部に対応するようにして、前記排気管を挿通可能な挿通孔を有する被せパネル部材を備え、
前記被せパネル部材は、前記パネル部材のスライド方向と交差する方向にスライド可能に構成されていることを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載のエンジン試験システム。
【請求項9】
前記被せパネル部材は、スライド位置に関わらず、前記挿通孔以外の部分で前記孔部を常時閉塞するよう構成されていることを特徴とする請求項8に記載のエンジン試験システム。
【請求項10】
前記スライド可能に構成された被せパネル部材の前記挿通孔を覆うようにして閉塞部材を設け、前記閉塞部材は、前記排気管の挿通を可能にするべく、変形により開口形成されるよう構成されるよう構成したことを特徴とする特徴とする請求項8又は9に記載のエンジン試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−78311(P2006−78311A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262017(P2004−262017)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】