説明

エンドトキシン測定方法、エンドトキシン測定用キット及び、エンドトキシン測定装置。

【課題】試料中にLALの活性に影響を及ぼす物質が含まれている場合でも、より簡便且つ高精度の、エンドトキシンの検出及び濃度測定を可能とする技術を提供する。
【解決手段】エンドトキシンを吸着可能な物質2に試料を接触させ、試料に含まれるエンドトキシンを予め吸着させておき、試料そのものは洗浄によって除去した上で、吸着されたエンドトキシン4とLALとを反応させた際のLALのゲル化またはゲル粒子5の生成を検出することで、エンドトキシンの検出及び濃度測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LALの活性に影響を及ぼす物質を含有する検体の試料中のエンドトキシンを検出しまたはその濃度を測定するための、エンドトキシン測定方法、測定用キット及び、測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖であり、最も代表的な発熱性物質である。このエンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入ると、発熱やショックなどの重篤な副作用を惹起するおそれがある。このため、上記の薬剤などは、エンドトキシンにより汚染されることが無いように管理することが義務付けられている。
【0003】
ところで、カブトガニの血球抽出物(以下、「LAL : Limulus amoebocyte lysate」ともいう。)の中にはエンドトキシンによって活性化されるセリンプロテアーゼが存在する。そして、LALとエンドトキシンとが反応する際には、エンドトキシンの量に応じて活性化されたセリンプロテアーゼによる酵素カスケードによって、LAL中に存在するコアギュロゲンがコアギュリンへと水解されて会合し、不溶性のゲルが生成される。このLALの特性を用いて、エンドトキシンを高感度に検出することが可能である。
【0004】
このエンドトキシンの検出または濃度測定を行う方法としては、エンドトキシンの検出または濃度測定(以下、単純に「エンドトキシンの測定」ともいう。)をすべき試料(以下、「エンドトキシン測定試料」ともいう。)とLALとを混和した混和液を静置し、一定時間後に容器を転倒させて、試料の垂れ落ちの有無によりゲル化したかどうかを判定し、試料に一定濃度以上のエンドトキシンが含まれるか否かを調べる半定量的なゲル化法がある。また、LALとエンドトキシンとの反応によるゲルの生成に伴う試料の濁りを経時的に計測して解析する比濁法や、酵素カスケードにより水解されて発色する合成基質を用いる比色法などがある。
【0005】
上記の比濁法によってエンドトキシンの測定を行う場合には、乾熱滅菌処理されたガラス製測定セルにエンドトキシン測定試料とLALとの混和液を生成させる。そして、混和液のゲル化を外部から光学的に測定する。しかしながら、比濁法においては特にエンドトキシンの濃度が低い試料においてLALがゲル化するまでに非常に多くの時間を要する場合がある。これに対し、エンドトキシンの短時間測定が可能な方法が求められている。エンドトキシン測定試料とLALとの混和液を例えば磁性攪拌子を用いて攪拌することにより、ゲル微粒子を生成せしめ、ゲル粒子により散乱されるレーザー光の強度、あるいは、混和液を透過する光の強度から、試料中のエンドトキシンの存在を短時間で測定できるレーザー散乱粒子計測法、あるいは、攪拌比濁法が提案されている。
【0006】
ところで、LALはセリンプロテアーゼの活性を利用してエンドトキシンによりゲル化するので、LALの活性に影響する物質の存在はエンドトキシンの定量に大きく影響する。例えば、試料が血液である場合、血液内部にはLALの凝固酵素カスケードに良く似たセリンプロテアーゼカスケードを主体とする凝固線溶系があり、その作用はLAL中のセリンプロテアーゼと互いに影響を及ぼし合うことが知られている。
【0007】
これに関連して、血液中のセリンプロテアーゼの活性を抑制する前処理として以下のようなものが考えられる。例えば、光学測定を行ううえで障害となる赤血球を除去する目的
で血液検体を軽く遠心して血小板を多く含む血漿(多血小板血漿:PRP)を調製する。その後に、このPRPを回収して、さらに適当な界面活性剤を加えた後に加熱して、試料中の酵素群を不活性化する。
【0008】
しかし、この前処理は工程が煩雑であり、且つ、試験者間でのデータのばらつき等の問題があった。また、PRP以外の血液成分(白血球、赤血球、PRPとして回収できなかった血小板など)にエンドトキシンが結合したり内含されたりしているという報告もあり、できれば全血での測定が望ましいとされている。
【0009】
また、試料が血液でない場合でも、プロテアーゼ、プロテアーゼ阻害剤、タンパク変性剤、界面活性剤、キレート剤などはLALの作用を変化させるので、測定対象にこれらの物質が含まれている場合は、測定精度が低下するおそれがある。また、注射薬剤には血液の凝固線溶系の疾患治療に用いられる薬剤が多く、このような検体においては、エンドトキシンの濃度を精度よく測定することが困難な場合があった。
【0010】
一方、このような不都合を解決するため、セルロースビーズなどの担体表面にエンドトキシンを吸着するパイロセップを固定化し、エンドトキシンを含む試料と反応させて吸着した後に担体をエンドトキシンを含まない液体で洗浄して、その後、担体をバッファに懸濁させて比濁法によりエンドトキシンを測定するパイロセップ法が考案されている。
【0011】
しかし、この方法は上述したように、パイロセップに吸着させたエンドトキシンをLALと反応させるために、カラムから取り出すという測定上の手間があり、エンドトキシンの測定を簡便化することは困難であった。
【特許文献1】特開2004−061314号公報
【特許文献2】特開平10−293129号公報
【特許文献3】特開平5−287496号公報
【特許文献4】特公平4−59578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、試料中にLALの活性に影響を及ぼす物質が含まれている場合でも、より簡便且つ高精度の、エンドトキシンの検出及び濃度測定を可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決することを目的として、発明者が鋭意検討した結果、1)エンドトキシンを吸着する物質を観察領域に限定して結合させて、その観察領域にエンドトキシンを含む試料を通過させると、エンドトキシンを観察領域に濃縮できること、2)その領域にLALを入れて反応させると、その領域に吸着・濃縮されたエンドトキシンがLALをゲル化させること、3)このときの試料の濁りを測定することにより、エンドトキシンを定量できること、4)試料中にLALの活性に影響を与える物質が存在しても、エンドトキシンが観察領域に濃縮された後に測定系を水で洗浄することにより、それらの物質の影響を回避できること、5)観察領域は測定法を改良すると容易に微小にすることが可能であるため、比濁法の場合によっては10分の1のLALで測定が可能であること、を発見し、これらを組み合わせて発明を完成させた。
【0014】
本発明においては、エンドトキシンを吸着可能な物質に試料を接触させ、試料に含まれるエンドトキシンを予め吸着させておき、試料そのものは洗浄によって除去した上で、吸着されたエンドトキシンとLALとを反応させた際のLALのゲル化またはゲル粒子の生成を検出することで、エンドトキシンの測定を行うことを最大の特徴とする。
【0015】
より具体的には、本発明は、試料中のエンドトキシンとカブトガニの血球抽出物であるLALと反応させることで、前記試料中のエンドトキシンを検出しまたは前記試料中のエンドトキシンの濃度を測定する、エンドトキシンの測定方法であって、
前記試料中のエンドトキシンを、エンドトキシンを吸着可能な所定の吸着物質に吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程の後に実行され、前記吸着工程において前記吸着物質に吸着されたエンドトキシンを残して前記試料を前記吸着物質から除去する除去工程と、
前記除去工程の後に実行され、前記吸着工程において前記吸着物質に吸着されたエンドトキシンとLALとを反応させる反応工程と、
前記反応工程におけるLALのゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出する検出工程と、
を有することを特徴とするエンドトキシン測定方法である。
【0016】
この方法によれば、吸着工程において、試料中のエンドトキシンのみを、その濃度に応じて吸着物質に吸着させることができる。そして、除去工程において、吸着物質に吸着されなかったエンドトキシンを含む前記試料を前記吸着物質から除去するので、試料にLALの活性に影響を及ぼす物質が含まれていたとしても、その影響を簡単に排除することができる。
【0017】
換言すると、吸着工程及び除去工程において、試料中のエンドトキシンを濃縮することが可能である。そして、反応工程において、前記吸着物質に吸着されたエンドトキシンとLALとを反応させるので、濃度に応じたエンドトキシンのみとLALとを反応させることができ、検出工程でエンドトキシンの濃度をより簡単に且つ精度よく測定することが可能となる。
【0018】
また、上記において濃縮されたエンドトキシンとLALとを反応させるので、LALの使用量を低減することができる。
【0019】
なお、本発明において、所定の吸着物質としては、ポリミキシンB、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリエチレンイミン、アミノ基を含有するシランカップリング剤、ヒスチジン、抗エンドトキシン抗体を例示することができる。
【0020】
また、本発明は、試料中のエンドトキシンとカブトガニの血球抽出物であるLALとの反応に起因するゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出する際に用いられる、エンドトキシン測定用キットであって、
前記光学的な検出に用いられる光が透過可能な材質で形成された容器または管状部材の内側に、エンドトキシンを吸着可能な所定の吸着物質を結合させたことを特徴とするエンドトキシン測定用キットであってもよい。
【0021】
これによれば、本発明に係るエンドトキシン測定用キットにエンドトキシンを含む試料を導入することで、エンドトキシンを容器または環状部材の内側の吸着物質に吸着させることができる。また、容器または管状部材の内側から試料を排出して洗浄するだけで、吸着物質から試料を除去することができる。さらに、LAL試薬を本発明に係るエンドトキシン測定用キットに導入することで、吸着して濃縮されたエンドトキシンとLALとを反応させることができLALのゲル化またはゲル粒子の生成を促進できる。
【0022】
加えて、本発明に係る容器または管状部材は光学的な検出に用いられる光が透過可能であるので、容器または管状部材内のゲル化またはゲル粒子の生成を、そのまま外部から光を入射することで検出することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る容器または管状部材の容量は高い自由度で変更可能であるので、当該容量及び、吸着物質の結合範囲を適宜調整することで、エンドトキシンの測定に必要となるLALの量を低減することが可能である。
【0024】
また、本発明に係る容器は、前記容器の内部に、表面に100nm以上の酸化皮膜が形成されたステンレス製の磁性攪拌子を備えるようにしてもよい。そうすれば、外部から磁性攪拌子に電磁力を及ぼすことで磁性攪拌子を転動させ、吸着物質に吸着されたエンドトキシンとLALとの反応を均一化し、反応を促進することが可能となる。また、本発明における磁性攪拌子は、表面に充分に厚い酸化皮膜を有しているので、鉄イオンが、吸着物質に吸着されたエンドトキシンとLALとの混和液に溶出して、エンドトキシンの活性を阻害することを回避可能となる。
【0025】
また、本発明は、試料中のエンドトキシンとカブトガニの血球抽出物であるLALとの反応に起因するゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出することで、前記試料中のエンドトキシンを検出しまたは前記試料中のエンドトキシンの濃度を測定する、エンドトキシンの測定装置であって、
前記光学的な検出に用いられる光が透過可能な材質で形成されるとともに、前記試料中のエンドトキシンを吸着する吸着部を内部に有する反応用容器と、
前記反応用容器に試料を導入して該試料中のエンドトキシンを前記吸着部に吸着させる吸着手段と、
前記吸着部に吸着したエンドトキシンを残して前記試料を前記反応用容器から除去する除去手段と、
前記試料中のエンドトキシンが前記吸着部に吸着した状態の前記反応用容器にLALを導入するLAL導入手段と、
前記LAL導入手段によって導入されたLALのゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出する検出手段と、
を備えることを特徴とするエンドトキシン測定装置であってもよい。
【0026】
これによれば、吸着手段によって、試料中のエンドトキシンのみを、その濃度に応じて反応用容器の吸着部に吸着させることができる。そして、除去手段によって、吸着物質に吸着されなかったエンドトキシンを含む前記試料を前記反応用容器から除去するので、試料にLALの活性に影響を及ぼす物質が含まれていたとしても、その影響を排除することができる。換言すると、本発明では、反応用容器中において、試料中のエンドトキシンを濃縮することが可能である。そして、LAL導入手段によって、前記反応用容器中にLALを導入し、前記吸着部に吸着されたエンドトキシンとLALとを反応させるので、濃度に応じたエンドトキシンのみとLALとを反応させることができ、検出手段によってエンドトキシンの濃度をより精度よく測定することが可能となる。
【0027】
また、上記において濃縮されたエンドトキシンとLALとを反応させるので、LALの使用量を低減することができる。さらに、反応用容器の容量は高い自由度で変更可能であるので、当該容量及び、吸着部の設置範囲を適宜調整することで、エンドトキシンの測定に必要となるLALの量をさらに低減することが可能である。
【0028】
なお、前記吸着部は、ポリミキシンB、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリエチレンイミン、アミノ基を含有するシランカップリング剤、ヒスチジン、抗エンドトキシン抗体のうちの少なくとも一を前記反応用容器に結合させることで形成されるようにしてもよい。
【0029】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明にあっては、煩雑な操作を伴わずに、試料中のエンドトキシンを濃縮することにより、たとえ、試料にLALの活性に影響を及ぼす物質が含まれていたとしても、エンドトキシンを精度よく検出し、またはエンドトキシンの濃度を精度よく測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
LALとエンドトキシンとが反応してゲルが生成される過程はよく調べられている。すなわち、エンドトキシンがLAL中のセリンプロテアーゼであるC因子に結合すると、C因子は活性化し、活性化したC因子はLAL中の別のセリンプロテアーゼであるB因子を水解して活性化させる。この活性化したB因子は直ちにLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とし、さらに、この凝固酵素がLAL中のコアギュロゲンを水解してコアギュリンを生成する。そして、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成すると考えられている。
【0032】
この一連の反応は哺乳動物に見られるクリスマス因子やトロンビンなどのセリンプロテアーゼを介したフィブリンゲルの生成過程に類似している。このような酵素カスケード反応はごく少量の活性化因子であっても、その後のカスケードを連鎖して活性化していくために非常に強い増幅作用を有する。従って、LALを用いたエンドトキシン測定法によれば、サブピコグラム/mLオーダーのきわめて微量のエンドトキシンを検出することが可能になっている。
【0033】
エンドトキシンを定量することが可能な測定法としては前述のように比濁法、ならびに、レーザー光散乱粒子計測法が挙げられる。これらの測定法はこのLALの酵素カスケード反応によって生成されるコアギュリンの会合物を前者は試料の濁りとして、後者は系内に生成されるゲルの微粒子として検出することで、高感度な測定を可能にしている。
【0034】
特にレーザー光散乱粒子計測法では、系内に生成されたゲルの微粒子を直接測定するため、比濁法よりも高感度であり、且つ、一般的にLALと検体からなる試料を強制的に攪拌するので、比濁法と比較して短時間でゲルの生成を検出できる。
【0035】
また、エンドトキシンの別の測定法として比色法がある。これは、LALの酵素カスケード反応を利用しつつも、コアギュリンゲルによる試料の濁りを測定するのではなく、凝固酵素により水解を受け発色する合成基質を利用して、合成基質を含んだLALと検体とを反応させ、その吸光度変化を測定する方法である。この比色法においては、系内に生成されていく発色物質の濃度を測定するので、試料におけるゲルの生成を測定する比濁法やレーザー光散乱粒子計測法と比べると、短時間で低濃度のエンドトキシンを測定することができる。
【0036】
しかしながら、上記のいずれの方法においても、LALの反応を阻害、あるいは、亢進するような物質(攪乱物質)が存在した場合には、測定結果に大きく影響してしまう。
【0037】
本発明では、エンドトキシンを含む試料中からエンドトキシンのみを測定観察領域に吸着することによりエンドトキシンを濃縮し、LALの反応に影響を及ぼす物質を除去した上で、濃縮されたエンドトキシンとLALとを反応させることとした。これにより、試料の煩雑な前処理をすることなく、試料中のエンドトキシンをより簡便且つ精度よく測定することが可能となる。また、濃縮されたエンドトキシンとLALとの反応を大きな反応容器内で行わせるのではなく、樹脂、あるいは、ガラス製の微小な領域に限定してやることで、測定に必要なLALの量を最大で10分の1程度に低減することができる。
【0038】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。しかし、本発明は、以下に示す形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
まず、図1を用いて、本実施例におけるエンドトキシン測定の概略を説明する。図1(a)に示すようなエンドトキシンを濃縮するための測定容器1の材質としては、吸着による濃縮後のエンドトキシンとLALとの反応に起因する濁り等を光学的に測定するため、測定に用いられる波長の光の透過を阻害しないものが望ましい。例えば、ガラス、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、PET系樹脂などの透明部材を材料とすることが好ましい。
【0040】
また、測定容器1の断面形状は長方形、正方形、円形、楕円形などが望ましい。一方、容器の内径は小さすぎると光透過率があまり変化しないし、大きすぎると壁内面に結合したエンドトキシンがLALを凝集させるのに十分作用し得ない可能性がある。これらの条件より、容器の内径は0.1mmから10mmの範囲が好ましく、0.5mmから5mmの範囲がさらに好ましい。
【0041】
次に、エンドトキシンを測定するための測定容器1は、大型の場合は内部の試料を攪拌可能として、エンドトキシンとLALとの反応の均一化が図れるようにしても良く、その場合の測定容器1の形状は図1に示すように上端が開放されていて下端が閉じている形状が望ましい。そして、エンドトキシンを吸着させる吸着物質2は、測定容器1の観察領域1aに該当する箇所に固定されるのが望ましい。エンドトキシンを吸着する吸着物質2としては、ポリミキシンB、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリエチレンイミン、アミノ基を含有するシランカップリング剤、ヒスチジン、抗エンドトキシン抗体などを例示することができる。
【0042】
そして、本実施例では、図1(a)に示すように、吸着物質2が固定された測定容器1に、エンドトキシンの測定が行われるべき試料が導入される。そうすると、図1(b)に示すように、試料中のエンドトキシン4が吸着物質2上に吸着されて濃縮される。この工程は本実施例において吸着工程に相当する。また、測定容器1は本実施例1において反応用容器に相当する。
【0043】
次に、試料は測定容器1から除去され、エンドトキシンを含まない洗浄水によって洗浄される。この結果、図1(c)に示すように、エンドトキシン4が吸着物質2に吸着され、余剰の試料がない状態の測定容器1が完成する。この工程は本実施例において除去工程に相当する。次に、図1(d)に示すように、この状態の測定容器1にLAL試薬が導入され、吸着濃縮されたエンドトキシン4とLALとの反応が開始する。また、その際には、外部から電磁力を作用してステンレス製磁性攪拌子3を転動させてエンドトキシンとLALの混和液の攪拌が行なわれる。この工程は本実施例において反応工程に相当する。
【0044】
そうすると、図1(e)に示すように、ゲル粒子5が生成されるので、測定容器1の外部から光学的にゲル粒子5を検出してエンドトキシンの検出または濃度測定が行われる。この工程は本実施例において検出工程に相当する。
【0045】
<製造例>
以下に本実施の形態におけるエンドトキシンの測定用器具及び、比較のための測定用器具の製造例について示す。以下の製造例は一例を示したものであって、本発明に係る測定用器具が以下のものに限定される趣旨ではない。
【0046】
(製造例1:鉄イオンが溶出しないステンレス製磁性攪拌子の製造)
長さ4.5mm、φ1mmのステンレス製の磁性攪拌子を磁器製の坩堝に入れ、マッフル炉にて、650℃で1時間加熱処理を行い、攪拌子の表面に100nm以上の厚さの酸化皮膜処理を行い、鉄イオンが溶出しないステンレス製の磁性攪拌子を作製した。鉄イオンはエンドトキシンに作用してエンドトキシンの活性を阻害することが知られているので、本製造例によるステンレス製磁性攪拌子を用いることで、鉄イオンによるエンドトキシンの失活を回避することができる。
【0047】
(製造例2:エンドトキシンを固定させるガラス製容器の製造)
乾熱滅菌処理(250℃、3時間)を施した、内径5mm、外径7mm、長さ50mmのガラス製の円筒容器に0.01%のポリーL−リジン水溶液を300μL入れ、室温で2時間静置させて、吸着物質であるガラス内壁にポリーL−リジンを結合させた。その後、内部のポリーL−リジン水溶液を回収し、さらに、エンドトキシンを含まない注射用水にて、容器内部を洗浄し、過剰のポリーL−リジンを除去した。この円筒容器をエンドトキシンが接触しないように室温で乾燥させ、製造例1で得たステンレス製磁性攪拌子を容器あたり1つ入れ、さらに、乾熱滅菌処理を施したアルミキャップを被せて上面の開口部を閉じた。
【0048】
(製造例3:エンドトキシンを吸着しないガラス製容器の製造)
製造例1で得たステンレス製磁性攪拌子を内径5mm、外径7mm、長さ50mmのガラス製の円筒容器(製造例2で使用しているものと同等品)に容器あたり1つ入れ、アルミキャップ4を被せて上面の開口部を閉じた後に乾熱滅菌処理(250℃、3時間)を施した。
【0049】
(製造例4:エンドトキシンを吸着するガラス管の製造)
乾熱滅菌処理(250℃、3時間)を施した内径1.0mm、外径1.5mm、長さ70mmのガラス管の片側の開放端より、0.03%のポリーL−リジン水溶液を15μL入れ、液が注入端側に留まるように、ガラス管を水平より若干注入端側を下げた状態で固定した。そして、エンドトキシンと接触しないように、室温で2時間反応させ、注入端側のみにポリーL−リジンを結合させた。次に、ガラス管内部の余剰のポリーL−リジン水溶液を回収し、室温で乾燥させた後、乾熱滅菌処理を施したガラス容器(φ10mm、長さ75mm)に入れ、さらに、ガラス容器の開放部を乾熱滅菌処理したアルミキャップで閉じた。
【0050】
(製造例5:エンドトキシンを吸着しないガラス管の製造)
内径1.0mm、外径1.5mm、長さ70mmのガラス管をガラス容器(φ10mm、長さ75mm)に入れ、ガラス容器の開放部を乾熱滅菌処理したアルミキャップで閉じた。これを、乾熱滅菌処理(250℃、3時間)を施した。
【0051】
<測定例>
以下に、上記の各製造例で説明したエンドトキシンの測定用器具と比較用の測定用器具との、エンドトキシン測定用器具としての性能を比較した測定例について説明する。
【0052】
(測定例1)
標準エンドトキシンを注射用水で希釈したエンドトキシン希釈系列を作製した。この希釈系列200μLを、製造例2にて得られたガラス製容器に入れ、容器内部に入れたステンレス製磁性攪拌子にて、37℃で20分間攪拌し、試料中のエンドトキシンをガラス容器内壁のポリーL−リジンで吸着させた。
【0053】
次に、ガラス容器内部のエンドトキシン水溶液を回収し(回収した試料を試料Aとする
)、注射用水300μLにて容器内部を軽く洗浄した。洗浄は合計2回行った(このように調製した容器を容器Aとする)。次に、試料A(200μL)をLAL試薬(和光純薬製、リムルスES−IIシングルテストワコー)と混和し、製造例3にて得られたガラス製容器に入れてLAL試薬が凝集する過程をレーザー光散乱粒子計測法にて測定した(反応は37℃にて行う)。
【0054】
さらに、LAL試薬を注射用水(200μL)にて溶解し、これを容器Aに入れて、同様にレーザー光散乱粒子計測法にてLAL試薬が凝集する過程を測定した。結果を図2に示す。図2に示したように、容器AにおいてLAL試薬と反応することで検出されたエンドトキシンの濃度は、容器Aに吸着固定させたエンドトキシンの濃度に従って線形に増加した。一方、容器Aに吸着固定されなかったエンドトキシン、すなわち、試料A内のエンドトキシンの濃度は容器Aにおけるエンドトキシンの濃度と比較して全体的に低かった。
【0055】
(測定例2)
測定例1と同様に調製したエンドトキシン希釈系列200μLを、製造例3で得たガラス製容器に入れ、容器に内含する、製造例1で作製したステンレス製磁性攪拌子にて、37℃で20分間攪拌した。次に、ガラス容器内部のエンドトキシン水溶液を回収し(回収した試料を試料Bとする)、注射用水300μLにて容器内部を軽く洗浄した。洗浄は合計2回行った(このように調製した容器を容器Bとする)。
【0056】
次に、試料B(200μL)をLAL試薬と混和し、製造例3にて得られた別のガラス製容器に入れてLAL試薬が凝集する過程をレーザー光散乱粒子計測法にて測定した(反応は37℃にて行う)。また、LAL試薬を注射用水(200μL)にて溶解し、これを容器Bに入れて、同様にレーザー光散乱粒子計測法にてLAL試薬が凝集する過程を測定した。結果を図3に示した。図3に示すように、容器Bにはエンドトキシンが吸着固定していないため、容器Bにおいて反応させたLAL試薬によってもエンドトキシンを検出することは無かった。一方、容器Bにエンドトキシンが吸着固定しないので、試料Bにおけるエンドトキシンの濃度、すなわち、吸着しなかったエンドトキシンの濃度は高く、さらに処理したエンドトキシンの濃度に比例して線形に増加した。
【0057】
(測定例3)
テフロン(登録商標)樹脂製の継ぎ手(2つの開口部が直線状に設けられており、一方は製造例4、5にて使用したガラス管を差し込めるようにφ1.5mmの円形の開口部となっており、もう一方はディスポ注射器の出口が差し込めるようにφ4.0mmの円形の開口部となっている)に、製造例4で得たガラス管を、継ぎ手側にポリーL−リジンを処理した開放端側が来るように挿入した。
【0058】
継ぎ手の他方の穴には、ツベルクリン用のディスポシリンジ(テルモ、容量1.0mL)を接続した。ガラス管の未接続端を測定例1と同様に調製したエンドトキシン希釈系列溶液(1mL)に入れて、試料中のエンドトキシンがガラス管の内部を通過してポリーL−リジン処理した部位に接触するように、シリンジを往復運動(ストローク長=40mm、ストローク回数=50回、ストローク速度=4回/分)させた。製造例5にて得られたポリーL−リジンを処理していないガラス管でも同様に試料を処理した。
【0059】
次に、それぞれのガラス管に注射用水を400μL通過させて、結合していないエンドトキシンを除去し、さらに、ポリーL−リジンを処理した開放端側から、注射用水で溶解させたLAL試薬を20μL入れて、同じくその開放端をヘマトクリット管用のパテに1.5mm差し込んで封入した。ガラスの封入端側から6mmの箇所の光透過率の変化を測定した(反応は37℃にて行う)。製造例5で得られたガラス管でも同様に処理をして測定を行った。結果を図4に示した。
【0060】
図4に示すように、製造例4で得られたガラス管(吸着あり)では、比較的短い時間で試料の濁りが検出され、さらに、処理したエンドトキシンの濃度が高くなるに従って、濁りが検出されるまでの時間が減少している。一方、製造例5で得られたガラス管(吸着なし)では、処理したエンドトキシンの濃度が高くなるに従って、濁りが検出されるまでの時間が減少することが観察されるものの、濁りが検出されるまでの時間は全体的に長くなっている。
【0061】
このように、製造例4で得られたガラス管(吸着あり)の方が、製造例5で得られたガラス管(吸着なし)と比較して、エンドトキシン濃度測定が短時間で行なえるということがわかる。
【0062】
ここで、上記の実施例においては、図1(a)に示すように、吸着物質2が固定された測定容器1に、エンドトキシンの測定が行われるべき試料を手動で導入した。また、手動で試料を測定容器1から除去し、エンドトキシンを含まない洗浄水によって洗浄した。さらに、図1(c)及び図1(d)に示すように、手動で、エンドトキシン4が吸着物質2に吸着され、余剰の試料がない状態の測定容器1にLAL試薬を導入した。
【0063】
しかしながら、これらの工程を特別な装置によって自動的にまたは、半自動的に行うようにしてもよい。そのようにした場合、吸着物質が結合された吸着部を有する反応用容器を測定者がセットするだけで、試料のエンドトキシンの測定を完了させる装置を形成することも可能である。
【0064】
その場合、吸着物質2が固定された測定容器1に、エンドトキシンの測定が行われるべき試料を導入する装置は吸着手段に相当する。また、試料を測定容器1から除去し、エンドトキシンを含まない洗浄水によって洗浄する装置は除去手段に相当する。さらに、エンドトキシン4が吸着物質2に吸着され、余剰の試料がない状態の測定容器1にLAL試薬を導入する装置はLAL導入手段に相当する。加えて、測定容器1の外部から光学的にゲル粒子5を検出してエンドトキシンの検出または濃度測定する装置は検出手段に相当する。
また、外部から電磁力を作用してステンレス製磁性攪拌子3を転動させてエンドトキシンとLALの混和液の攪拌を行う装置は攪拌手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例におけるエンドトキシン測定について説明するための図である。
【図2】本発明の実施例におけるガラス容器にエンドトキシンを予め吸着固定させた場合の、試料におけるエンドトキシンの濃度と、ガラス容器において測定されたエンドトキシンの濃度および、吸着されずにガラス容器から排出された試料について測定されたエンドトキシンの濃度と、の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例におけるガラス容器にエンドトキシンを予め吸着固定させていない場合の、試料におけるエンドトキシンの濃度と、ガラス容器において測定されたエンドトキシンの濃度および、吸着されずにガラス容器から排出された試料について測定されたエンドトキシンの濃度と、の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例におけるガラス管に予めエンドトキシンを吸着固定させた場合と、エンドトキシンを吸着固定させない場合とにおける、LALとの反応において濁りが検出されるまでの時間の相違について説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1・・・測定容器
1a・・・観察領域
2・・・吸着物質
3・・・ステンレス製磁性攪拌子
4・・・エンドトキシン
5・・・ゲル粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のエンドトキシンとカブトガニの血球抽出物であるLALと反応させることで、前記試料中のエンドトキシンを検出しまたは前記試料中のエンドトキシンの濃度を測定する、エンドトキシンの測定方法であって、
前記試料中のエンドトキシンを、エンドトキシンを吸着可能な所定の吸着物質に吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程の後に実行され、前記吸着工程において前記吸着物質に吸着されたエンドトキシンを残して前記試料を前記吸着物質から除去する除去工程と、
前記除去工程の後に実行され、前記吸着工程において前記吸着物質に吸着されたエンドトキシンとLALとを反応させる反応工程と、
前記反応工程におけるLALのゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出する検出工程と、
を有することを特徴とするエンドトキシン測定方法。
【請求項2】
前記所定の吸着物質は、ポリミキシンB、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリエチレンイミン、アミノ基を含有するシランカップリング剤、ヒスチジン、抗エンドトキシン抗体のうちの少なくとも一を含むことを特徴とする請求項1に記載のエンドトキシン測定方法。
【請求項3】
試料中のエンドトキシンとカブトガニの血球抽出物であるLALとの反応に起因するゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出する際に用いられる、エンドトキシン測定用キットであって、
前記光学的な検出に用いられる光が透過可能な材質で形成された容器または管状部材の内側に、エンドトキシンを吸着可能な所定の吸着物質を結合させたことを特徴とするエンドトキシン測定用キット。
【請求項4】
前記容器の内部に、表面に100nm以上の酸化皮膜が形成されたステンレス製の磁性攪拌子を備えたことを特徴とする請求項3に記載のエンドトキシン測定用キット。
【請求項5】
前記所定の吸着物質は、ポリミキシンB、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリエチレンイミン、アミノ基を含有するシランカップリング剤、ヒスチジン、抗エンドトキシン抗体のうちの少なくとも一を含むことを特徴とする請求項3または4に記載のエンドトキシン測定用キット。
【請求項6】
試料中のエンドトキシンとカブトガニの血球抽出物であるLALとの反応に起因するゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出することで、前記試料中のエンドトキシンを検出しまたは前記試料中のエンドトキシンの濃度を測定する、エンドトキシンの測定装置であって、
前記光学的な検出に用いられる光が透過可能な材質で形成されるとともに、前記試料中のエンドトキシンを吸着する吸着部を内部に有する反応用容器と、
前記反応用容器に試料を導入して該試料中のエンドトキシンを前記吸着部に吸着させる吸着手段と、
前記吸着部に吸着したエンドトキシンを残して前記試料を前記反応用容器から除去する除去手段と、
前記試料中のエンドトキシンが前記吸着部に吸着した状態の前記反応用容器にLALを導入するLAL導入手段と、
前記LAL導入手段によって導入されたLALのゲル化またはゲル粒子の生成を光学的に検出する検出手段と、
を備えることを特徴とするエンドトキシン測定装置。
【請求項7】
前記反応用容器の内部に、表面に100nm以上の酸化皮膜が形成されたステンレス製の磁性攪拌子を有し、
前記反応用容器の外部から前記磁性攪拌子に電磁力を及ぼし、該磁性攪拌子を転動させることで前記試料を攪拌する攪拌手段をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載のエンドトキシン測定装置。
【請求項8】
前記吸着部は、ポリミキシンB、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリエチレンイミン、アミノ基を含有するシランカップリング剤、ヒスチジン、抗エンドトキシン抗体のうちの少なくとも一を前記反応用容器に結合させることで形成されることを特徴とする請求項6または7に記載のエンドトキシン測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−294113(P2009−294113A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148600(P2008−148600)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】