説明

エンボスシート及びエンボスシートの製造方法

【課題】エンボスを鮮明に付けることができ、得られるエンボスシートが意匠性に優れたものとなるエンボスシートの製造方法にする。
【解決手段】幾何学的柄の凸部郡10と、これよりも少数の凸部21からなる装飾的柄の凸部郡20と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する。この際、装飾的柄の凸部郡20の高さを、幾何学的柄の凸部郡10の高さよりも、0.01〜1.0mm高くしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスシート及びエンボスシートの製造方法に関するものである。特に、トイレットペーパーやティシュペーパー等の衛生薄葉紙として使用するに好適なエンボスシート及びエンボスシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば、トイレットペーパーやティシュペーパー等の衛生薄葉紙などは、エンボス(凹凸模様)の付いた、エンボスシートとすることが、一般的になっている。この種のエンボスシートのエンボスには、例えば、嵩だか性や柔軟性、吸収性等の機能性の向上を図ることを、主な目的とする幾何学的柄のエンボスや、見栄え、つまり意匠性の向上を図ることを、主な目的とする装飾的柄のエンボスなどがある。そして、近年では、これら複数の目的を並存させるためとして、例えば、幾何学的柄のエンボスと装飾的柄のエンボスとの組み合わせなどの、2種類以上のエンボスの付いたエンボスシートが、提供されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、この種のエンボスシートは、1枚のシート又は複数枚のシートが積層されてなる積層シートに、2種類以上のエンボスが付いたものであるがゆえに、次のような問題を有することがわかった。
すなわち、この種のエンボスシートは、複数のエンボスが同時に使用者の目に入ることになるために、使用者に粗野な感覚を与えてしまい、意匠性に劣るのである。特に、意匠性の向上を図ろうと、装飾的柄のエンボスを付けた場合は、本末転倒ともいえる。
【0004】
また、製造という観点からみても、次のような問題がある。例えば、幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボスロールなどによって、1枚のシート又は積層シートに、エンボスを付与しようとすると、多数の凸部からなる幾何学的柄の凸部郡によって、シートが引っ張られてしまい、一般に、より強い印象を与えたいとされる装飾的柄のエンボスが、不鮮明なものとなってしまうのである。装飾的柄のエンボスが、不鮮明になるということは、当然、意匠性の低下を意味する。
【特許文献1】特表2002−501992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする主たる課題の1つは、意匠性に優れたエンボスシートを、提供することにある。また、本発明が解決しようとする主たる課題の1つは、エンボスを鮮明に付与することができ、得られるエンボスシートが意匠性に優れたものとなるエンボスシートの製造方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
2種類以上のエンボスが付いた、エンボスシートであって、
前記エンボスの深さが、種類ごとに同一又は異なる、ことを特徴とするエンボスシート。
【0007】
〔請求項2記載の発明〕
2種類以上のエンボスに、少なくとも幾何学的柄のエンボスと装飾的柄のエンボスとが含まれ、この装飾的柄のエンボスの深さが、前記幾何学的柄のエンボスの深さよりも、0〜0.4mm深い、請求項1記載のエンボスシート。
【0008】
〔請求項3記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記装飾的柄の凸部郡の高さが、前記幾何学的柄の凸部郡の高さよりも、0〜1.0mm高い、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【0009】
〔請求項4記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記装飾的柄の凸部郡が、前記幾何学的柄の凸部郡から離間し、
この離間距離のうち最も短い距離に、前記装飾的柄の凸部郡の高さとこれよりも低い前記幾何学的柄の凸部郡の高さとの差を足した値が、1〜10mmである、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【0010】
〔請求項5記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡は、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られている、請求項3又は請求項4記載のエンボスシートの製造方法。
【0011】
〔請求項6記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記幾何学的柄の凸部郡は、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られている、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【0012】
〔請求項7記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記凸部郡は、頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られている、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【0013】
〔請求項8記載の発明〕
頂部の周端部のエッジが、0.01〜0.5mmの曲率半径で削られている、請求項5〜7のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【0014】
〔請求項9記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡は、頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の5〜25%となっている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【0015】
〔請求項10記載の発明〕
装飾的柄の凸部郡は、頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の0.5〜20%となっている、請求項5〜9のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【0016】
〔請求項11記載の発明〕
頂部相互間の距離が、2.5〜10mmである、請求項5〜10のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【0017】
〔請求項12記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡が、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られているエンボスロールを用いた、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【0018】
〔請求項13記載の発明〕
頂部の周端部のエッジは、0.01〜0.5mmの曲率半径で削られている、請求項12記載のエンボスシートの製造方法。
【0019】
〔請求項14記載の発明〕
幾何学的柄の凸部郡は、頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の5〜25%となっている、請求項12又は請求項13記載のエンボスシートの製造方法。
【0020】
(主な作用効果)
(1)エンボスの深さが、種類ごとに異なると、エンボスの視認性が、種類ごとに異なり、強弱(メリハリ)あるものとなる。したがって、メリハリがあるという点で、意匠性に優れる。
【0021】
(2)2種類以上のエンボスに、少なくとも幾何学的柄のエンボスと装飾的柄のエンボスとが含まれると、柄の変化に富むという点で、意匠性に優れる。
【0022】
(3)装飾的柄のエンボスの深さが、幾何学的柄のエンボスの深さよりも、0mm以上深いと、一般に、より強い印象を与えたいとされる装飾的柄のエンボスが、幾何学的柄のエンボスよりも、強調される。したがって、装飾的柄が強調されているという点でも、意匠性に優れる。
【0023】
(4)両エンボスの深さの差が、0.4mm以下に抑えられていると、幾何学的柄の存在意義が失われないという点で、意匠性に優れる。
【0024】
(5)幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有し、しかもこの装飾的柄の凸部郡の高さが、前記幾何学的柄の凸部郡の高さよりも、0.01〜1.0mm高いエンボス部材によって、シートにエンボスを付与すると、上述(1)〜(4)と同様の作用効果を奏するエンボスシートが得られる。
【0025】
(6)一般に、一枚のシート又は積層シートに、幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、エンボスを付与しようとすると、多数の凸部からなる幾何学的柄の凸部郡によって、シートが引っ張られてしまい、より強い印象を与えたい装飾的柄のエンボスが、不鮮明なものとなる。しかしながら、装飾的柄の凸部郡の高さが、幾何学的柄の凸部郡の高さよりも、少なくとも0.01mm以上高いエンボス部材によって、シートにエンボスを付与すると、引っ張る力のバランスがとれ、装飾的柄のエンボスが、不鮮明になるとの問題が生じない。
【0026】
(7)装飾的柄の凸部郡が、幾何学的柄の凸部郡から離間していると、上述(5)及び(6)と同様の作用効果を得るについて、装飾的柄の凸部郡の高さとこれよりも低い幾何学的柄の凸部郡の高さとの差の許容範囲が広がる。具体的には、両凸部郡の離間距離のうち最も短い距離に、両凸部郡の高さの差を足した値が、1〜10mmとなっていればよい。
【0027】
(8)凸部郡が、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、頂部の周端部のエッジが削られていると、エンボス付与に際して、シートを引っ張る力が、エッジによって遮断されることがなく、シートの、頂部と当接する部分にも伝わる。したがって、エンボス付与に際して、シートを引っ張る力が、シート全体に均一に分散され、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるのを防止するという観点において、効果的である。
【0028】
(9)凸部郡が、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、頂部の周端部のエッジが削られていると、得られるエンボスシートは、裏面の凸部(表面の凹部)が、頂部によって形成されるため、エッジを有しないものとなる。したがって、裏面がざらざらしないという点で、肌触り感が向上し、また、見た目が滑らかになるという点で、意匠性が向上した、エンボスシートが得られる。
【0029】
(10)上述(8)及び(9)の作用効果は、頂部の周端部のエッジが、0.01〜0.5mmの曲率半径で削られていると、特に優れたものとなる。
【0030】
(11)一般に、シートは、エンボス付与に際して、幾何学的柄の凸部郡の頂部と当接する部分よりも、その他の部分の方が、より強く引っ張られる。そこで、頂部の平面視での面積を、平面視での全面積の5%以上とし、より強く引っ張られる部分の面積を限界付けるのが好ましい。このことは、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるのを防止するという観点において、特に効果的である。
【0031】
(12)装飾的柄の凸部郡の頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の0.5%未満となっていると、幾何学的柄と遜色がなくなり、装飾としての機能が劣る。他方、装飾的柄の凸部郡の頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の20%を超えると、装飾性が際立ち、意匠性において、くどい印象を与えてしまう。
【0032】
(13)頂部相互間を、4mm以上離すと、シートを引っ張る力が均一に分散されることになる。このことは、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるのを防止するという観点において、特に効果的である。
【発明の効果】
【0033】
本発明のエンボスシートによると、意匠性に優れたものとなる。また、本発明のエンボスシートの製造方法によると、エンボスを鮮明に付与することができ、得られるエンボスシートが意匠性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
〔定義等〕
(1)本明細書のエンボスシートとは、2種類以上のエンボスが付いたシートを意味する。本エンボスシートには、1枚のシートにエンボスが付いたもののほか、2枚、3枚、4枚又はそれ以上の複数枚のシートが重なってなる積層シートにエンボスが付いたものも含む。
【0035】
(2)本明細書の幾何学的柄のエンボスとは、凹凸が、縦、横、斜め等に規則的に並んでできた模様を意味する。例えば、特開平7−268800号公報の図1や、特開2003−73999号公報の図20、米国特許第5173351号公報の図4、等に示されるエンボスが、その例である。
【0036】
(3)一方、本明細書の装飾的柄のエンボスとは、凹凸によって描き出された、例えば、花、木、草等の植物や、人、動物、魚、貝、昆虫等の生き物、山、川、海、雲、森、林等の自然、月、太陽、星等の惑星・衛星、車、飛行機、電車等の人工物、などのデザイン性のある模様を意味する。例えば、特開平6−206269号公報の図11や、特開平7−258999号公報の図5、特開昭59−116500号公報の図3、等に示されるエンボスが、その例である。
【0037】
(4)本明細書の幾何学的柄の凸部郡及び装飾的柄の凸部郡とは、平板やロール等からなるエンボス部材の表面に設けられた、凸部の集まりを意味する。これらは、幾何学的柄のエンボス又は装飾的柄のエンボスを、シートに付与するためのものである。
【0038】
(5)本明細書のエンボスの深さとは、エンボス部分の凹凸差を意味する。この凹凸差は、基本的に、エンボスを付与するための、エンボス部材の表面に設けられた凸部の高さに沿う。ただし、シートの素材、エンボス付与方法などによって、誤差が生じることがあり、完全に一致するものではない。
【0039】
〔用途〕
本発明のエンボスシートは、用途が特に限定されない。例えば、トイレットペーパーやティシュペーパー等の衛生薄葉紙、キッチンペーパー、トイレ空間の拭き掃除用のトイレクリーナー、台所周りの拭き掃除用のキッチンクリーナーなどとして、用いることができる。
【0040】
ただし、本実施の形態では、主に、エンボスシートが、幾何学的柄のエンボスと装飾的柄のエンボスとが付いたトイレットペーパーである場合を、主に説明する。
【0041】
〔シートの原料・抄紙等〕
本発明において、シートの原料は、特に限定されない。トイレットペーパー、ティシュペーパー、キッチンペーパー等の用途に応じて、パルプ繊維や、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等のフィルム、などの適宜の原料を使用することができる。
具体的には、例えば、原料が、パルプ繊維である場合、このパルプ繊維(原料パルプ)としては、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプなどから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)等を原料とする合成パルプ、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0042】
パルプ繊維等からなる原料は、例えば、公知の抄紙工程、具体的には、ワイヤパート、プレスパート、ドライヤパート、サイズプレス、カレンダパート等を経るなどして、エンボス付与の対象となるシートとする。この抄紙に際しては、例えば、分散剤、苛性ソーダ、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動変性剤、歩留まり向上剤などの適宜の薬品を添加することができる。
【0043】
〔エンボスの付与〕
原料を抄紙して得たシートは、平板、ロール等からなるエンボス部材を押圧することによって、本実施の形態では、一対のロール間を通すことによって、エンボスを付け(エンボス付与)、エンボスシートとする。
【0044】
このエンボスの付与は、シートが、例えば、パルプ繊維、再生繊維及びレーヨンの群から選ばれた1種又は2種以上の原料からなる場合は、一対のロールの一方又は双方を、加熱して行うのが好ましい。ロールを加熱して、エンボスを付与すると、エンボスが鮮明・明瞭に付与されるようになる。
【0045】
一対のロールは、双方とも金属ロールとすることもできるが、一方を、少なくとも表面がゴム等からなる弾性ロールとし、他方を、表面に複数の凸部が設けられた金属ロール(エンボスロール)とするのが、好ましい。弾性ロール及び金属ロールの組み合わせ(スチールラバー方式)によると、ロールのクリアランス調整の問題や、ロールに紙粉等が詰まるとの問題などが生じない。本実施の形態では、スチールラバー方式とする。
【0046】
一対のロールの一方のみを加熱する場合、加熱ロールは、弾性ロールであってもよいが、金属ロールである方が、好ましい。これは、金属ロールの方が、熱伝導率がよく効果的に加熱による効果が発揮されるということのほか、金属ロールが加熱されていると、エンボスの形状に対応したかたちで、シートに熱が与えられることになり、付与されるエンボスが、より鮮明・明瞭になるということ、からである。
【0047】
加熱ロールの表面温度は、一対のロールが、双方とも金属ロールであるか、弾性ロール及び金属ロールの組み合わせであるか、双方が加熱されているか、一方のみが加熱されているか、弾性ロール及び金属ロールのいずれが加熱されているか、などに関わらず、40〜140℃であるのが好ましく、60〜120℃であるのがより好ましく、80〜100℃であるのが特に好ましい。表面温度が低すぎると、エンボスが鮮明になるとの効果が、十分に発揮されない。他方、表面温度が高すぎると、エネルギーロスとなるほか、シートが焼き付くおそれや、製造されるトイレットペーパー等のエンボスシートが固くなるおそれがある。
【0048】
以上の加熱方式による場合、エンボスの付与は、一対のロール間のエンボス圧(ニップ圧)が、5〜30kg/cmとなるように行うのが好ましく、10〜25kg/cmとなるように行うのがより好ましく、15〜20kg/cmとなるように行うのが特に好ましい。エンボス圧が低すぎると、エンボスが鮮明になるとの効果が、十分に発揮されない。他方、エンボス圧が高すぎると、シートがちぎれてしまうおそれがある。
【0049】
一対のロールを、弾性ロール及び金属ロールの組み合せとする場合、弾性ロールは、その表面のショア硬度(Shore hardness)が、50〜90であるのが好ましく、60〜70であるのがより好ましい。ショア硬度が低すぎると、つまり弾性ロール表面がやわらかすぎると、シートが破断するおそれがある。他方、ショア硬度が高すぎると、つまり弾性ロール表面が硬すぎると、シートにエンボスが付かなくなるおそれがある。
【0050】
ところで、以上の加熱スチールラバー方式によると、シートの坪量を、例えば、12.0〜17.0g/m2とすることができる。このように坪量が小さいと、一般にエンボスを鮮明・明瞭に付与することができないとされるが、以上の方式による場合は、可能である。
【0051】
エンボス付与に際するシートの搬送速度(加工速度)は、特に限定されない。ただし、操業効率の観点からは、100〜1000m/分とするのが好ましく、600〜1000m/分とするのがより好ましい。
【0052】
また、以上の加熱方式によるか否かに関わらず、本エンボスシートをロール製品とするにあたっては、ドロー率〔(ワインダ速度−アンワインダ速度)/アンワインダ速度・100〕を、−3.0〜10%とするのが好ましく、−2.0〜5%とするのがより好ましく、0〜5%とするのが特に好ましい。ドロー率が低すぎると、シートが弛んでしわが入るおそれがあり、また、ロール製品が、巻きの弱いものとなって、例えば、運搬中に芯が飛び出すおそれがある。他方、ドロー率が高すぎると、シート切れ(断裂)が生じるおそれがあり、また、ロール製品とするための巻き取り時に、装飾的柄のエンボスにしわが入るおそれや、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるおそれがある。
【0053】
なお、ワインダ速度とは、シートをロール状に巻き取る際におけるシートの搬送速度(流通速度)を意味する。他方、アンワインダ速度とは、原反(ジャンボロール)からシートを繰り出す際におけるシートの搬送速度(流通速度)を意味する。
【0054】
本実施の形態の金属ロール、つまりエンボスロールは、図1に示すように、その表面(周面)に、多数の凸部11,12…からなる幾何学的柄の凸部郡10と、これよりも少数の凸部21,21からなる、花及び葉がデザインされた装飾的柄の凸部郡20と、が設けられている。本エンボスロールによると、シートに、幾何学的柄のエンボスと装飾的柄のエンボスとが付与されることになるため、柄の変化に富むという点で、意匠性に優れたエンボスシートが得られる。
【0055】
また、本実施の形態では、図2に示すように、装飾的柄の凸部郡20の高さが、幾何学的柄の凸部郡10の高さよりも、0.01〜1.0mm、好ましくは0.35〜0.6mm高くなっている(高低差X)。一般に、一枚のシート又は積層シートからなるシートに、幾何学的柄の凸部郡10と、これよりも少数の凸部21,21…からなる装飾的柄の凸部郡20と、を有するエンボスロールによって、エンボスを付与しようとすると、多数の凸部11,12…からなる幾何学的柄の凸部郡10によって、シートが引っ張られてしまい、より強い印象を与えたい装飾的柄のエンボスが、不鮮明なものとなる。しかしながら、装飾的柄の凸部郡20の高さが、幾何学的柄の凸部郡10の高さよりも、1.0mm以上高いと、シートを引っ張る力のバランスがとれ、装飾的柄のエンボスが、不鮮明になるとの問題が生じない。また、本エンボスロールによると、シートに付与される装飾的柄のエンボスの深さが、幾何学的柄のエンボスの深さよりも、少なくとも0mm以上深くなるため、より強い印象を与えたい装飾的柄のエンボスが、幾何学的柄のエンボスよりも、強調される。したがって、装飾的柄が強調されているという点で、意匠性に優れたエンボスシートが得られる。また、両エンボスの深さの差が、少なくとも0.4mm以下に抑えられるので、幾何学的柄の存在意義が失われず、この点でも、意匠性に優れたエンボスシートが得られる。
【0056】
ただし、以上の幾何学的柄の凸部郡10と、装飾的柄の凸部郡20と、の高低差Xは、絶対的なものではない。装飾的柄の凸部郡20が、幾何学的柄の凸部郡10から離間している場合、つまり図2に示すように、装飾的柄の凸部郡20の周端部に位置する凸部21と、幾何学的柄の凸部郡10の周端部に位置する凸部11又は12と、が離間している場合は、この離間距離のうち最も短い距離Yに、高低差Xを足した値が、1〜10mmとなる範囲で、好ましくは1.4〜3.0mmとなる範囲で、高低差Xの範囲を狭め、あるいは広げることができる。両凸部郡10,20を離間させることによって、装飾的柄のエンボスの強調効果が、ある程度得られるためである。
【0057】
一方、図1のほか、図3及び図4にも示すように、幾何学的柄の凸部郡10は、規則的に並ぶ、本形態では縦横に等間隔に並ぶ、実質的に平坦な頂面を有するほぼ正方形の頂部11,11…と、この頂部11,11…と隣接する頂部11,11…との相互間に連なる稜線部12,12…と、から主になる(頂部11,11…を頂点とし、稜線部12,12…によって囲まれる部分が、底部13,13…となっている。)。もちろん、頂面の形状は、正方形に限定されず、例えば、菱形、円形、楕円形、多角形などとすることができ、更には、例えば、星形とすることもできる。ただし、頂面に細長い形状の部分があると、その部分が破損しやすいため、星形は、実用的でない。
【0058】
本幾何学的柄の凸部郡10によると、シートに、いわゆる富士山型のエンボスが付くことになるため、嵩だか性、吸収性が向上する。富士山型のエンボスとしては、この他にも、例えば、特開平1−111096号公報に示されるものを、例示することができる。
【0059】
ただし、本形態では、かかる公報記載のものと異なり、図2に示すように、頂部11,11…の周端部のエッジEを削って、丸みをおびたものとしている。これにより、エンボス付与に際して、シートを引っ張る力が、エッジEによって遮断されず、シートの、頂部11,11…と当接する部分にも伝わる。したがって、エンボス付与に際して、シートを引っ張る力が、シート全体に均一に分散され、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるのを防止するという観点において、大変効果的である。また、これにより得られるエンボスシートは、裏面の凸部(表面の凹部に対応)が、頂部11,11…によって形成されるため、エッジを有しないものとなる。したがって、裏面がざらざらしないという点で、肌触り感が向上し、また、見た目が滑らかになるという点で、意匠性が向上した、エンボスシートが得られる。
【0060】
以上のエッジEは、0.01〜0.5mmの曲率半径で削られているのが好ましく、0.03〜0.1mmの曲率半径で削られているのがより好ましい。曲率半径が0.01mm未満であると、頂部11,11…の周端部が鋭過ぎ、シートが破れ、あるいはシートの強度が落ちるおそれがある。他方、曲率半径が0.5mm超であると、頂部11,11…の周端部がなだらか過ぎ、エンボスが鮮明に付与されなくなるおそれがある。
【0061】
ところで、幾何学的柄の凸部郡10の凸部11,11…が、エッジEを有しないものとする場合、幾何学的柄の凸部郡10は、頂部11,11…の平面視での面積(合計面積)が、平面視での全面積(幾何学的柄の凸部郡10が存在する領域の全面積)の5〜25%となっているのが好ましく、6〜15%となっているのがより好ましい。一般に、シートは、エンボス付与に際して、頂部11,11…と当接する部分よりも、その他の部分の方が、より強く引っ張られる。そこで、頂部11,11…の平面視での面積を、平面視での全面積の5%以上とし、より強く引っ張られる部分の面積を限界付けることによって、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるのを防止するものである。
【0062】
なお、頂部11,11…の平面視での面積の範囲は、例えば、図2で説明すると、符号Mで示す位置まで、つまり凸部11の周面が、断面視で高さ方向へ大きく変化する位置まで、である。一方、平面視での全面積の範囲は、幾何学的柄の凸部郡10の周端部に位置する凸部11又は12の境界位置Nまで、である。
【0063】
一方、装飾的柄の凸部郡20の頂部21の平面視での面積(合計面積)は、平面視での全面積(装飾的柄の凸部郡20が存在する領域の全面積)の0.5〜20%となっているのが好ましく、1〜10%となっているのがより好ましい。0.5%未満となっていると、幾何学的柄と遜色がなくなり、装飾としての機能が劣る。他方、20%を越えると、装飾性が際立ち、意匠性において、くどい印象を与えてしまう。
【0064】
さらに、本形態では、図3に示すように、頂部11,11…相互間の距離(ピッチ)Lを、縦横ともに、2.5〜10mm、好ましくは4〜6mmとしている。頂部11,11…相互間を、2.5mm以上離すと、シートを引っ張る力が均一に分散されることになるので、装飾的柄のエンボスが不鮮明になるのを防止するという観点において、いっそう効果的である。また、この場合、幾何学的柄の凸部郡10の凸部11,11…は、例えば、10mm2あたりに、約5〜20個、設けることができる。
【0065】
〔その他〕
(1)幾何学的柄の凸部郡10の各凸部11の面積は、0.01〜2.0mm2とするのが好ましく、0.8〜1.5mm2とするのがより好ましい。0.01mm2未満とすると、エンボスのベースである柔らかさとしての機能が出なくなってしまう。他方、2.0mm2を越えると、製品裏面にざらつきが生じてしまう。
【0066】
(2)装飾的柄の凸部郡20の各凸部21の幅は、0.1〜1.5mmとするのが好ましい。0.1mm未満とすると、エンボスをかける時に、シートの破断が生じやすくなるとともに、装飾としての柄が見えにくくなってしまう。他方、1.5mmを越えると、エンボスが十分にシートに押し込まれず、鮮明に入らない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば、トイレットペーパーやティシュペーパー等の衛生薄様紙、キッチンペーパー、トイレ空間の拭き掃除用のトイレクリーナー、台所周りの拭き掃除用のキッチンクリーナーなどのエンボスシート及びその製造方法として、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】幾何学的柄の凸部郡及び装飾的柄の凸部郡を示す図である。
【図2】凸部の構成を説明するための断面模式図である。
【図3】幾何学的柄の凸部郡の一部拡大図である。
【図4】図3のI−I線断面図である。
【符号の説明】
【0069】
10…幾何学的柄の凸部郡、11…幾何学的柄の凸部郡の頂部、12…稜線部、20…装飾的柄の凸部郡、21…装飾的柄の凸部郡の凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のエンボスが付いた、エンボスシートであって、
前記エンボスの深さが、種類ごとに同一又は異なる、ことを特徴とするエンボスシート。
【請求項2】
2種類以上のエンボスに、少なくとも幾何学的柄のエンボスと装飾的柄のエンボスとが含まれ、この装飾的柄のエンボスの深さが、前記幾何学的柄のエンボスの深さよりも、0〜0.4mm深い、請求項1記載のエンボスシート。
【請求項3】
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記装飾的柄の凸部郡の高さが、前記幾何学的柄の凸部郡の高さよりも、0〜1.0mm高い、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項4】
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記装飾的柄の凸部郡が、前記幾何学的柄の凸部郡から離間し、
この離間距離のうち最も短い距離に、前記装飾的柄の凸部郡の高さとこれよりも低い前記幾何学的柄の凸部郡の高さとの差を足した値が、1〜10mmである、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項5】
幾何学的柄の凸部郡は、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られている、請求項3又は請求項4記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項6】
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記幾何学的柄の凸部郡は、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られている、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項7】
幾何学的柄の凸部郡と、これよりも少数の凸部からなる装飾的柄の凸部郡と、を有するエンボス部材によって、シートにエンボスを付与する、エンボスシートの製造方法であって、
前記凸部郡は、頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られている、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項8】
頂部の周端部のエッジが、0.01〜0.5mmの曲率半径で削られている、請求項5〜7のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項9】
幾何学的柄の凸部郡は、頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の5〜25%となっている、請求項5〜8のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項10】
装飾的柄の凸部郡は、頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の0.5〜20%となっている、請求項5〜9のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項11】
頂部相互間の距離が、2.5〜10mmである、請求項5〜10のいずれか1項に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項12】
幾何学的柄の凸部郡が、規則的に並ぶ頂部と、この頂部と隣接する頂部との相互間に連なる稜線部と、を有し、前記頂部の周端部のエッジが削られているエンボスロールを用いた、ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項13】
頂部の周端部のエッジは、0.01〜0.5mmの曲率半径で削られている、請求項12記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項14】
幾何学的柄の凸部郡は、頂部の平面視での面積が、平面視での全面積の5〜25%となっている、請求項12又は請求項13記載のエンボスシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−183216(P2006−183216A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380893(P2004−380893)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】