説明

エンボスフィルムの製造方法

【課題】大掛かりな設備を必要とせず、エンボスロールとゴム表面の平滑ロールを用いる一般的な装置によって、転写精度が高くかつバックエンボスのないエンボスフィルムを製造する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム(ア)3を、表面に所定の凹凸模様が施されたエンボスロール8とゴム表面を持つ平滑ロール9との間に挿入することにより、フィルム(ア)の一方の面に凹凸模様を転写してエンボスフィルム12を製造する方法において、(a)フィルム(ア)を熱可塑性樹脂フィルム(イ)と、上記転写後に互いに剥離可能であるように貼り合わせて貼合フィルムを得る工程、(b)該貼合フィルムを、フィルム(ア)がエンボスロール側であるようにエンボスロールと平滑ロールとの間に挿入してフィルム(ア)の表面に凹凸模様を転写して積層エンボスフィルムを得る工程、および(c)該積層エンボスフィルムからフィルム(ア)を剥離してエンボスフィルムを得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷加工性や接着剤塗工性に優れた、熱可塑性樹脂のエンボスフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂フィルムの表面に意匠的形状や機能的形状を付与することを目的として、表面に所定の凹凸模様が施された金属製エンボスロールによるエンボス加工が行われている。このようなエンボス加工では、あらかじめ加熱して軟化させた熱可塑性樹脂フィルムを金属製のエンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に挟み込むことにより凹凸模様が付与されるが、エンボスロール表面の凹凸模様が熱可塑性樹脂フィルムに接触した際に平滑ロールのゴム表面をも変形させてしまい、その結果、熱可塑性樹脂フィルムの裏面にも凹凸が生じる(この現象をバックエンボスと言う)という問題ある。バックエンボスが発生すると、エンボスフィルムの裏面にグラビア印刷等で柄を付与したり、接着剤等を均一に塗布する事が困難になる。また、エンボス加工を長時間連続して行う場合には、特に生産性向上を目的にライン速度を高くして行うと、ゴムの低い熱伝導性故に、平滑ロールの温度が次第に高くなり、それにより熱可塑性樹脂フィルムが必要以上に加熱・柔軟化されて、バックエンボスがより生じ易くなったり、熱可塑性樹脂フィルムが平滑ロールに巻き付くような製造トラブルが起こったりする問題がある。
【0003】
上記問題を解決する方法として、熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工面に対しては加熱・柔軟化によりエンボスロールの凹凸模様を転写し易くするとともに、平滑ロール面に対しては冷却・剛直化によりバックエンボスや巻き付きを防ぐという技術思想に基づいて多くの提案がなされている。
【0004】
その一つとして、平滑ロールの表面をゴムに代えて金属にして平滑ロールの熱伝導性を良くする方法が知られている。しかし、この方法では2本の金属製ロールの間隔調整が極めてシビアであり、しばしば調整に失敗して熱可塑性樹脂フィルムが破れてしまったり、金属製ロール表面を破損してしまったりする問題がある。
【0005】
そこで、金属製の平滑ロールに代えて金属製無端ベルトを使用する方法(例えば特許文献1)や、金属製シームレスベルトをフィルム原反とゴム表面を持つ平滑ロールとの間に挟み込む方法(例えば特許文献2)が提案されている。しかし、これらの方法は大掛かりな設備を要する。
【0006】
また、平滑ロールを多数の冷却ロールによって冷却する方法が提案されている(例えば特許文献3)。この方法では、加熱されたシートがエンボスロールに接触する直前からエンボスロールを離れるまでのごく短時間にエンボスロールの表面温度が大きく昇降し、結果として、ロール表面のクロームメッキに微細なクラックが入り、エンボスロールの寿命が短くなるという問題がある。
【0007】
平滑ロールを冷却水タンクによって冷却する方法も提案されている(例えば特許文献4)。ここでは、厚みが400μ以上のシートへのエンボス加工を可能にすべく、平滑ロールとして表面硬度の高いものを使用している。そのような平滑ロールの使用は、バックエンボスの防止に寄与するが十分ではなく、また、400μより薄いシートに対してはバックエンボスをより生じやすくするため、広範囲の厚みのシートへの適用が困難である。
【0008】
また、エンボスロールの、シートと接触する直前の箇所のみを加熱する方法も提案されている(例えば特許文献5)。この方法は、エンボス加工されたシートを熱処理した後の転写精度の低下を十分抑制することができず、また、エンボスロールの表面温度が大きく昇降することによるエンボスロールの寿命の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−246829号公報
【特許文献2】特開2001−113597号公報
【特許文献3】特開平9−039092号公報
【特許文献4】特開2006−272918号公報
【特許文献5】特開2005−144697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、大掛かりな設備を必要とせず、エンボスロールとゴム表面の平滑ロールを用いるところの一般的な装置によって、転写精度が高くかつバックエンボスのない、熱可塑性樹脂のエンボスフィルムを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、エンボスロールとゴム表面の平滑ロールを用いるエンボス加工機を使用して熱可塑性樹脂フィルムにエンボス加工を行うとき、上記フィルムのエンボス加工したい面とは逆の面に、特定のフィルムを貼付してエンボス加工を行うことにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、熱可塑性樹脂フィルム(ア)を、表面に所定の凹凸模様が施されたエンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に挿入することにより、フィルム(ア)の一方の面に凹凸模様を転写してエンボスフィルムを製造する方法において、
(a)フィルム(ア)を熱可塑性樹脂フィルム(イ)と、上記転写後に互いに剥離可能であるように貼り合わせて貼合フィルムを得る工程、
(b)該貼合フィルムを、フィルム(ア)がエンボスロール側であるようにエンボスロールと平滑ロールとの間に挿入してフィルム(ア)の表面に凹凸模様を転写して積層エンボスフィルムを得る工程、および
(c)該積層エンボスフィルムからフィルム(ア)を剥離してエンボスフィルムを得る工程
を含み、熱可塑性樹脂フィルム(イ)が100℃雰囲気下において15N/10mm以上の降伏点強度を有することを特徴とするところの方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、表面にエンボス模様を有する熱可塑性樹脂フィルムを、大掛かりな設備を必要とすることなく、高い転写精度でかつバックエンボスを生じることなく製造することができる。得られるエンボスフィルムは、バックエンボス等のない平滑な裏面を有するので、印刷加工性や接着剤塗工性に優れ、したがって、加飾シート、フィルムの表面層、印刷用フィルム、粘着シート、塗装代替フィルム等として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の方法の一実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法を、図1を参照して説明する。図1は、本発明方法の一実施態様を示す概略図である。まず、巻出しロール1および2からそれぞれ熱可塑性樹脂フィルム(ア)および熱可塑性樹脂フィルム(イ)を繰り出し、押圧ロール5、7および予熱ロール6によって互いに貼り合わせて貼合フィルムを得る(工程(a))。このとき、フィルム(ア)とフィルム(イ)は、エンボス転写後に互いに剥離可能であるように貼り合わされる。次いで、エンボス加工を行う。すなわち、得られた貼合フィルムを、フィルム(ア)がエンボスロール8側であるようにエンボスロール8と平滑ロール9との間に挿入してフィルム(ア)の表面に凹凸模様を転写して積層エンボスフィルムを得る(工程(b))。次いで、得られた積層エンボスフィルムからフィルム(ア)を剥離して目的のエンボスフィルム12を得る(工程(c))。
【0016】
工程(a)におけるフィルム(ア)とフィルム(イ)との貼り合わせは、公知の熱仮貼りにより行うことができる。熱仮貼りは、加熱された予熱ロールと押圧ロールとの間に上記2つのフィルムを連続的に通過させることにより行うことが出来る。上記加熱は、水蒸気、熱油、電熱、赤外線ヒーター等によって行われ得る。加熱温度は、用いるフィルム(ア)及びフィルム(イ)の熱特性及びその分布に応じて適宜決定され、通常は、より耐熱性の低いフィルムの融解温度又は流動化温度よりも5〜50℃低い温度である。なお、本発明では、エンボス模様を転写されるフィルム(ア)がフィルム(イ)と転写後に互いに剥離可能であるように貼り合わされることから理解されるように、フィルム(イ)の方が、フィルム(ア)よりも耐熱性が高い。フィルム(ア)の耐熱性がフィルム(イ)と同じであるかまたはそれより高いと、エンボス加工時にフィルム(ア)とフィルム(イ)とが溶着し、転写後の剥離が不可能になるからである。また、上記熱仮貼りにおいては、耐熱性がより高いフィルム(イ)が予熱ロール側になるようにロール間を通過させる。
【0017】
エンボス加工のための工程(b)は、工程(a)で得られた貼合フィルムを、通常の方法に従って、表面に所定の凹凸模様が施された金属製やセラミック製のエンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に挿入して加熱押圧しながら行われる。上記加熱は、水蒸気、熱油、電熱、赤外線ヒーター等によって行われ得る。加熱温度は、フィルム(ア)とフィルム(イ)の熱特性及びその分布に応じて適宜決定され、通常は、エンボス加工されるフィルム(ア)のガラス転移点又は軟化点よりも1〜50℃高い温度乃至フィルム(イ)の融解温度又は流動化温度よりも5〜50℃低い温度の範囲の温度である。
【0018】
エンボスロールの凹凸模様は、例を挙げると木目柄や皮しぼなどの天然素材を模した意匠や、金属を加工したかの様なヘアライン模様、または格子柄やストライプ模様、水玉模様などの幾何抽象柄などであり、それらを単独でまたは複数の組み合わせで使用できる。また凹凸模様の彫刻方法としては、彫刻ミルロールによる型押し法や酸腐食によるエッチング法、ダイヤモンドスタイラスを用いた機械彫刻法、COレーザーやYAGレーザーなどを用いたレーザー彫刻法、サンドブラスト法などが挙げられる。また、これら彫刻したエンボスロールの表面については、腐食や傷付きからの保護を目的としてクロームメッキや鉄−リン合金メッキ、PVD法やCVD法による硬質カーボン処理などを施すことが望ましい。もちろん、これらの手法は本発明を限定するものではないし、その実施形態はエンボス加工の設備や条件、目的などによって自由に選択できる。
【0019】
剥離を行うための工程(c)は、以下のように行うことができる。工程(b)で得られた積層エンボスフィルムの端部から、またはカッターなどの刃物で切り込みを入れた箇所から、フィルム(ア)を一部剥離する。積層エンボスフィルムの上記剥離された部分と剥離されていない部分との境界部分を、例えば図1に示されるようにピンチロール10、11で押えて、剥離が一定のフィルム角度で安定して行われるようにする。このようにして、フィルム(ア)を逐次剥離して目的のエンボスフィルムを得る。得られたエンボスフィルムおよび残りのフィルム(イ)は、図1に示されるように、それぞれ巻取りロール13および15に巻き取られ得る。
【0020】
工程(c)は、例えば図1に示すように、工程(a)および(b)との一連の工程として行われ得、あるいは、別個の工程として行われ得る。後者の場合には、例えば、工程(b)で得られた積層エンボスフィルムを一旦巻き取った後に、別ラインのワインダー機に取り付け、フィルム(ア)とフィルム(イ)とを互いに剥離して別々に巻き取る方法が挙げられる。なお、工程(c)のための方法は上記に限定されるものではない。なお、上記工程(a)および(b)は、通常は一連の工程として行われるが、互いに別個の工程として行ってもよい。
【0021】
本発明で使用される熱可塑性樹脂フィルム(ア)は、熱可塑性樹脂のフィルムであればどのようなものでも良い。厚みも特に制限されないが、通常50〜500μm、好ましくは75〜200μmである。またフィルムの成形法や延伸の有無、延伸の方法(一軸延伸、二軸延伸等)も特に制限されない。これらは、エンボスフィルムの所望の用途に応じて、適宜選択される。なお、上記厚みは、薄すぎると、バックエンボスを生じ易く、厚すぎると、得られたエンボスフィルムを印刷加工機等に付するときに張力がかかりにくく、弛みが起こり易くなる。
【0022】
フィルム(ア)のための熱可塑性樹脂はとくに制限されないが、得られるエンボスフィルムの印刷加工性や接着剤塗工性の点から、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂およびポリ塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0023】
これらの中でも、アクリル系樹脂のフィルムは、表面硬度が高いので耐外傷性や耐擦傷性に優れること、およびエンボス加工性が良好である(すなわち、エンボスロール表面の凹凸模様が十分に転写され、かつ上記凹凸模様以外の凹凸はフィルムに刻まれない)ことから、より好ましい。更に、アクリル系樹脂フィルムは、ガラス転移点が80〜130℃のものが好ましく、90〜120℃のものがより好ましく、95〜110℃のものが更に好ましい。ガラス転移点が上記上限を超えると、フィルムが軟化しにくくなるため、エンボスロール表面の凹凸形状が十分に転写されなかったり、バックエンボスが生じやすくなるという不具合が生じ易い。ガラス転移点が上記下限未満であると、フィルムが軟化しやすくなるため、得られるエンボスフィルムは、エンボス模様の耐熱性が低下して、いわゆるシボ流れを生じたり、高温下で外部からの接触があった時に変形する恐れがある。
【0024】
本発明で使用される熱可塑性樹脂フィルム(イ)は、表面に凹凸模様を有するエンボスロールの押圧に耐えて熱可塑性樹脂フィルム(ア)の裏面平滑性を保つ働きをする。従って、熱可塑性樹脂フィルム(イ)は、エンボス加工温度において十分な耐熱性および硬さを有することが必要である。そのために、熱可塑性樹脂フィルム(イ)は、100℃雰囲気下おける降伏点強度が15N/10mm以上、好ましくは20N/10mm以上、より好ましくは25N/10mm以上である。上記降伏点強度が15N/10mm未満であると、バックエンボスを生じ易く、また、エンボス加工によるフィルムの延伸や幅縮みおよび柄伸びを生じ易い。降伏点強度の上限は特に制限されないが、熱仮貼り工程における作業性(フィルムが熱仮貼り工程に付されるときに均一に張ってシワやたるみが生じないように、フィルムに適切な張力をかけることができること)や貼合フィルムをエンボス加工機に付すときに適切な張力をかけることができるという観点から、好ましくは100N/10mm以下のものが、より好ましくは60N/10mm以下のものが推奨される。なお上記の柄伸びとは、十分な降伏点強度を持たないフィルムに張力がかかった際に、フィルムが延伸されてエンボス模様などが伸びてしまう現象である。フィルム(イ)の降伏点強度が上記下限未満であると、エンボス加工でのエンボス機の張力によるフィルム(ア)の伸びをフィルム(イ)が十分に抑えることができず、したがって、柄伸びを生じる。
【0025】
本明細書において、100℃雰囲気下おける降伏点強度は、株式会社エーアンドディー製のRTG−1310型引張試験機および株式会社八島製作所製のテンシロン用恒温槽を用い、長手方向がフィルムの流れ方向になるように1号ダンベル形状に切出したフィルムを試験片として、100℃雰囲気下で試験速度300mm/分で測定したときの歪−応力曲線の変形初期における極大のピークトップでの応力である。
【0026】
熱可塑性樹脂フィルム(イ)は、上記降伏点強度を有するものであれば特に制限されず、使用される熱可塑性樹脂フィルム(ア)およびエンボス加工温度に応じて適宜選択することが出来る。例えば、ポリエステル系樹脂フィルムおよびナイロン系樹脂フィルムが挙げられ、ポリエステル系樹脂フィルムが好ましい。中でも、適用範囲が広く、かつ低価格である点から、ポリエチレンテレフタレート、特にホモポリエチレンテレフタレートの二軸延伸フィルムがより好ましい。厚みはエンボス加工条件に応じて適宜選択されるが、通常は10〜250μmであり、好ましくは30〜150μm、より好ましくは40〜100μmである。
【0027】
上述したように、フィルム(ア)とフィルム(イ)は、転写後に互いに剥離可能であるように貼り合わされることから、フィルム(ア)はフィルム(イ)よりも耐熱性が低いものであり、したがって、これら2つのフィルムは互いに異なる。
【0028】
本発明方法の工程(a)において、熱可塑性フィルム(ア)と熱可塑性フィルム(イ)との貼り合わせが、水蒸気加熱タイプの予熱ロールを用いて行われる場合には、温度をせいぜい150℃程度までにしか上げることが出来ない。そのため、特に熱可塑性樹脂フィルム(ア)が高い軟化点を有する場合には、予熱ロールとの密着性を高めて熱が良く伝わるようにする必要がある。熱可塑性樹脂フィルム(イ)は上記のように硬いフィルムであるため、予熱ロールとの密着性が不充分になり易い。この問題は、熱可塑性樹脂フィルム(イ)の熱可塑性フィルム(ア)と貼り合わせる面とは逆の面に熱可塑性樹脂フィルム(ウ)を積層したものを熱可塑性フィルム(ア)と貼り合わせることにより解決できる。
【0029】
熱可塑性樹脂フィルム(イ)と熱可塑性樹脂フィルム(ウ)との積層は、エンボス加工中にそれらが剥離しない程度に密着しているように行われれば、どのような方法を用いても良い。更に、エンボス加工後にそれらが簡単に剥離出来るように積層されていれば、分別リサイクルが可能なため、好ましい。このような積層を行う方法として、上記工程(a)において記載した熱仮貼りを挙げることが出来る。熱仮貼りは、水蒸気、熱油、電熱、赤外線ヒーターなどにより加熱された予熱ロールと押圧ロールとの間にフィルム(イ)とフィルム(ウ)を連続的に通過させることにより行われる。
【0030】
熱可塑性樹脂フィルム(ウ)のための熱可塑性樹脂は、安価であり、剥離強度を調節し易いことから、好ましくは、ポリ塩化ビニル樹脂;PETG樹脂、PCTG樹脂およびPCTA樹脂を包含する非結晶性あるいは低結晶性のポリエステル樹脂;ポリプロピレン;およびアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)からなる群より選択され、特に、ポリ塩化ビニル樹脂およびPETG樹脂が好ましい。
【0031】
また、熱可塑性樹脂フィルム(ウ)は、予熱ロールとの密着性や剥離強度、耐汚染性、熱伝導性および作業性等を考慮して選択することが好ましい。特に、120℃雰囲気下でステンレス板に貼り付けた時の剥離強度が0.1〜15N/15mmであると好ましい。上記剥離強度が上記上限より大きいと、加熱された予熱ロールからの剥離が不安定になり易い。また、エンボス加工後のフィルム(ア)の剥離において、柄伸びを生じる場合がある。フィルム(ウ)の厚みは、熱伝導性と作業性との観点から、30〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは50〜100μmである。更に、予熱ロールが赤外線ヒーターで加熱されるときのフィルム(ウ)の加熱効率を向上させる観点から、フィルム(ウ)の色調は黒等の濃色が望ましい。
【0032】
なお、フィルム(イ)とフィルム(ウ)は、互いに剥離可能であってもなくてもよいので、これら2つのフィルムは互いに同じでも異なっていてもよいが、予熱ロールとの密着性向上というフィルム(ウ)の使用目的を考慮すると、これら2つフィルムが互いに異なり、さらにフィルム(イ)の熱軟化温度がフィルム(ウ)より高いものが好ましい。フィルム(ア)とフィルム(ウ)は、同じでも互いに異なっていても何ら問題ない。
【0033】
本発明方法は、上述したように、熱可塑性樹脂フィルム(ア)と、熱可塑性樹脂フィルム(イ)または熱可塑性樹脂フィルム(イ)に熱可塑性樹脂フィルム(ウ)を積層したものとを貼り合わせたものをエンボス加工に付し、次いで、熱可塑性樹脂フィルム(ア)を剥離することにより行われる。こうして得られるエンボスフィルムは、その表面に良好な精度でエンボスロール表面の凹凸模様が転写され、かつ裏面はバックエンボスがなく、平滑である。好ましくは、上記エンボスフィルムの裏面の十点平均粗さ(Rz)が10.0以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。上記Rzが10.0を越えるようなエンボスフィルム、即ちバックエンボスが強く入ったエンボスフィルムでは、グラビア印刷等での柄の付与や、接着剤等を均一に塗布する事が困難である。上記Rzの下限は特に制限ないが、表側にエンボス加工した場合には、裏面を完全に平滑のままに維持することは工業的には非常に難しく、通常は2.0以上である。なお、上記Rzが2.0以上のものであっても、上記の上限値以下のものであれば、エンボスフィルムの裏面への印刷加工、粘着剤/接着剤等の塗布や他のフィルムとの積層を作業性良く行うことが出来る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した試験方法および材料は以下の通りである。
【0035】
試験方法
(1)フィルム(ア)のガラス転移点
株式会社リガク製のTMA8310を用いて測定した。
【0036】
(2)フィルム(ウ)の剥離強度
ステンレス板(SUS304)の表面をメチルイソブチルケトンで洗浄して脱脂した後、熱プレス装置を用いて熱可塑性樹脂フィルム(ウ)とステンレス板を120℃、50kgf/cmで2分間貼り合わせて試験片を作成した。この試験片に対して、株式会社エーアンドディー製のRTG−1310型引張試験機及び株式会社八島製作所製のテンシロン用恒温槽を用いて、120℃雰囲気下で試験速度300mm/分の180°ピーリング試験を行って剥離強度を測定した。
【0037】
(3)エンボス加工性
得られたエンボスフィルムの表面(エンボス模様を有する面)の表面粗さ(十点平均粗さ:Rz)および光沢(60°光沢)を測定し、以下の基準で評価した。なお、十点平均粗さは、株式会社東京精密製のハンディサーフE−30Aを用いて測定し、光沢は、株式会社堀場製作所製のグロスチェッカーを用いて測定した。
○:光沢値が30未満かつ十点平均粗さが20以上である。
△:光沢値が30以上かつ十点平均粗さが20以上である、または、光沢値が30未満かつ十点平均粗さが20未満である。
×:光沢値が30以上かつ十点平均粗さが20未満である。
【0038】
(4)エンボス模様の耐熱性
得られたエンボスフィルムを、130℃に加熱したグリセリン液に30秒間浸漬した後、取り出し、ただちに水洗した。このエンボスフィルムの表面の光沢および十点平均粗さ(Rz)を上記(3)に記載したのと同様の方法で測定した。これらの測定値を、上記(3)で測定した値と比較し、下記基準で評価した。
○:浸漬後の光沢の上昇率が50%以内でありかつ十点平均粗さの減少率が50%以内である。
△:浸漬後の光沢の上昇率が50%以内でありかつ十点平均粗さの減少率が50%以上である、または、浸漬後の光沢の上昇率が50%以上でありかつ十点平均粗さの減少率が50%以内である。
×:浸漬後の光沢の上昇率が50%以上でありかつ十点平均粗さの減少率が50%以上である。
【0039】
(5)バックエンボス
得られたエンボスフィルムの裏面の十点平均粗さ(Rz)を上記(3)に記載したのと同様の方法で測定した。
【0040】
(6)柄伸び
エンボス加工前の熱可塑性樹脂フィルム(ア)の幅方向の中央部に1000mm間隔で標線を3点記入し、エンボス加工後に標線間の距離L(単位:mm)を測定した。この測定結果から、下記の式に従って柄伸び率を算出した。
{(L−1000)/1000}×100
【0041】
材料
熱可塑性樹脂フィルム(ア)
(ア−1):住友化学株式会社のアクリル系樹脂フィルム、テクノロイS001(商品名)、厚み150μm、ガラス転移点106℃
(ア−2):三菱レイヨン株式会社のアクリル系樹脂フィルム、アクリプレンHBA002P(商品名)、厚み100μm、ガラス転移点103℃
(ア−3):住友化学株式会社のアクリル系樹脂フィルム、テクノロイS014G(商品名)、厚み125μm、ガラス転移点101℃
(ア−4):三菱レイヨン株式会社のアクリル系樹脂フィルム、アクリプレンHBS010P(商品名)、厚み125μm、ガラス転移点107℃
(ア−5):三菱レイヨン株式会社のアクリル系樹脂フィルム、アクリプレンHBA002P(商品名)、厚み100μm、ガラス転移点103℃
(ア−6):株式会社カネカのアクリル系樹脂フィルム、サンデュレンSD010NRT(商品名)、厚み125μm、ガラス転移点108℃
(ア−7):株式会社カネカのアクリル系樹脂フィルム、サンデュレンSD014NRLGT(商品名)、厚み50μm、ガラス転移点95℃
(ア−8):エボニック・デグザ社のアクリル系樹脂フィルム、プレキシグラス99524(商品名)、厚み175μm、ガラス転移点104℃
(ア−9):エボニック・デグザ社のアクリル系樹脂フィルム、プレキシグラス99524(商品名)、厚み250μm、ガラス転移点104℃
(ア−10):帝人化成株式会社のポリカーボネートフィルム、パンライトPC−2151(商品名)、厚み125μm、ガラス転移点148℃
(ア−11):インターナショナルケミカル株式会社の難燃ポリカーボネートフィルム、SDB−3(商品名)、厚み250μm、ガラス転移点155℃
(ア−12):リケンテクノス株式会社のポリ塩化ビニル樹脂フィルム、S4660 FC25382(商品名)、厚み200μm、ガラス転移点82℃
(ア−13):リケンテクノス株式会社のABS樹脂フィルム、SST467 FZ13664(商品名)、厚み150μm、ガラス転移点107℃
(ア−14):株式会社カネカのアクリル系樹脂フィルム、サンデュレンSD009NCT(商品名)、厚み100μm、ガラス転移点115℃
【0042】
熱可塑性樹脂フィルム(イ)
(イ−1):ユニチカ株式会社の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、エンブレットS75(商品名)、厚み75μm、降伏点強度33.4N/10mm
(イ−2):東レ株式会社の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ルミラーT60(商品名)、厚み50μm、降伏点強度28.1N/10mm
(イ−3):東レ株式会社の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ルミラーT60(商品名)、厚み38μm、降伏点強度18.1N/10mm
(イ−4):東洋紡績株式会社の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、E5101(商品名)、厚み250μm、降伏点強度228N/10mm
(イ−5)(比較用):東洋紡績株式会社の空洞含有ポリエチレンテレフタレートフィルム、G1211(商品名)、厚み38μm、降伏点強度13.9N/10mm
(イ−6)(比較用):帝人デュポンフィルム株式会社のフタル酸異性体共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム、テフレックスFT3(商品名)、厚み50μm、降伏点強度8.4N/10mm、軟化点75℃
(イ−7)(比較用):リケンテクノス株式会社のシクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETG樹脂フィルム)、SET329 FZ26401(商品名)、厚み100μm、降伏点強度1.3N/10mm、軟化点80℃
【0043】
熱可塑性樹脂フィルム(ウ)
(ウ−1):リケンテクノス株式会社のポリ塩化ビニル樹脂フィルム、S4970 FC25382(商品名)、ツヤシボ、厚み100μm、剥離強度1N/25mm
(ウ−2):オカモト株式会社のポリ塩化ビニル樹脂フィルム、SPVC-150(商品名)、厚み150μm、剥離強度2N/25mm
(ウ−3):株式会社カネカのアクリルフィルム、サンデュレンSD014NRT(商品名)、厚み50μm、剥離強度8N/25mm
(ウ−4):リケンテクノス株式会社のPET-G樹脂フィルム、TPT027 FX025 F200(商品名)、厚み150μm、剥離強度18N/25mm
【0044】
実施例1〜21および比較例1〜4
表1に示す熱可塑性樹脂フィルム(ウ)および熱可塑性樹脂フィルム(イ)をエンボス機に通紙し、温度120℃に設定した予熱ロールと押圧ロールとの間に挟み込んで熱仮貼りした。この熱仮貼りしたフィルムを上記エンボス機に通紙し、更に熱可塑性樹脂フィルム(ア)をフィルム(イ)と接する側に通紙し、温度120℃に設定した予熱ロールと押圧ロールとの間に挟み込んで貼合フィルムを得た。更にそのまま連続的に、温度を150℃に設定したエンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に、フィルム(ア)がエンボスロール側になるように挟み込んでエンボス加工を行い、エンボス積層フィルムを得た。次いで、エンボス積層フィルムからフィルム(ア)を剥離して、表面にエンボス模様を有するエンボスフィルムを得た。エンボス機として、水蒸気加熱式の予熱ロールおよび木目導管・梨地メッキの金属製エンボスロールBR−16を備えたものを使用し、ライン速度3m/分とした。
【0045】
【表1】



【0046】
本発明に従う実施例1〜21の方法では、バックエンボスや柄伸びを生じることなく良好にエンボス加工を行うことができた。また、得られたエンボス模様の耐熱性も良好であった。
【0047】
一方、降伏点強度が15N/10mm未満であるフィルム(イ)を使用した比較例1〜3およびフィルム(ア)のみを使用した比較例4の方法では、バックエンボスや柄伸びを生じた。また、得られたエンボス模様の耐熱性に劣った。
【符号の説明】
【0048】
1、2 巻出しロール
3 熱可塑性樹脂フィルム(ア)
4 熱可塑性樹脂フィルム(イ)
5 押圧ロール
6 予熱ロール
7 押圧ロール
8 エンボスロール
9 平滑ロール
10 ピンチロール
11 ピンチロール
12 エンボスフィルム
13 巻取りロール
14 熱可塑性樹脂フィルム(イ)
15 巻取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム(ア)を、表面に所定の凹凸模様が施されたエンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に挿入することにより、フィルム(ア)の一方の面に凹凸模様を転写してエンボスフィルムを製造する方法において、
(a)フィルム(ア)を熱可塑性樹脂フィルム(イ)と、上記転写後に互いに剥離可能であるように貼り合わせて貼合フィルムを得る工程、
(b)該貼合フィルムを、フィルム(ア)がエンボスロール側であるようにエンボスロールと平滑ロールとの間に挿入してフィルム(ア)の表面に凹凸模様を転写して積層エンボスフィルムを得る工程、および
(c)該積層エンボスフィルムからフィルム(ア)を剥離してエンボスフィルムを得る工程
を含み、熱可塑性樹脂フィルム(イ)が100℃雰囲気下において15N/10mm以上の降伏点強度を有することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
エンボスフィルムの凹凸模様が転写された面とは逆の面の十点平均粗さ(Rz)が10.0以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂フィルム(イ)が二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、熱可塑性樹脂フィルム(イ)が、熱可塑性樹脂フィルム(ア)と貼り合わせる面とは逆の面に熱可塑性樹脂フィルム(ウ)を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂フィルム(ウ)が、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、非結晶性または低結晶性のポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレンフィルムおよびアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)フィルムから成る群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂フィルム(ア)がアクリル系樹脂フィルムである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂フィルム(ア)が、80〜130℃のガラス転移点を有するアクリル系樹脂フィルムである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法によって得られるエンボスフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56133(P2012−56133A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199831(P2010−199831)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】