説明

エンボス加飾シートの製造方法

【課題】真空成形工程などの後工程において、表面の艶変化が極めて小さいエンボス加工の施された加飾シートの製造方法を提供する。
【解決手段】光沢度20以上の透明樹脂フィルムからなる基材上に少なくとも印刷層と接着剤層を有する加飾シートを加熱し、賦形用凹凸模様が施されたエンボスロール15と加圧ロール14との間に挿入し、加圧することで接着剤層側に凹凸模様を賦形するエンボス加飾シートの製造方法であって、凹凸模様が賦形される前の透明樹脂フィルムの光沢度と加圧ロールの光沢度の差を±10以内とし、かつ加圧ロールを冷却することを特徴とするエンボス加飾シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス加飾シートの製造方法に関し、詳しくは、真空成形工程などの後工程において艶の変化がないエンボス加飾シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形物の表面に被着体として加飾シートを積層一体化することで加飾した射出成形品(以下「加飾樹脂成形品」と称する。)が各種用途で使用されている。これら加飾樹脂成形品は近年求められる高意匠化の観点から、加飾樹脂成形品の加飾部分にエンボス模様等の凹凸模様を配したものが求められている。その製造方法としては、化粧シートにあらかじめエンボス模様等を付しておくことが考えられるが、化粧シートは熱可塑性樹脂で構成されるために、真空成形工程や成形樹脂の射出工程などの後工程において、エンボス模様が消失し、結果として加飾樹脂成形品に凹凸模様を配することは困難であった。
そこで、種々の工夫がなされ、例えば、特定の基材シートに設けられたエンボスパターンに、その凹凸を埋める厚さの透明又は半透明の接着性樹脂層を介して、透明又は半透明の熱可塑性樹脂シートが積層されてなる化粧シート(特許文献1、請求項1参照)などが提案されている。この化粧シートは、内側にエンボス加工が施された、いわゆる内部エンボスを有する化粧シートであり、真空成形等によってもシートの伸長などによるエンボス戻り現象が抑制されるとしている(特許文献1、段落[0056]参照)。
【0003】
ところで、加飾シート等にエンボス加工を施す方法としては、一般に、図1に示されるようなエンボス製造装置が用いられる。エンボス製造装置10は、加熱ドラム11、ガイドロール12、ヒーター13、加圧ロール14、及びエンボスロール15から構成される。加飾シート1は、加熱ドラム11で予備的な加熱をされた後、ガイドロール12を通って、ヒーター13で加熱され、エンボスロール15と加圧ロール14の間に挿入され、凹凸形状が賦形される。内部エンボスタイプの加飾シートの場合は、加飾シートの表面側(加飾樹脂成形品の表面側)が加圧ロールと接触するため、加圧ロールの艶が加飾シートの表面に転写される。
【0004】
【特許文献1】特開2004−50777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような、内部エンボスを有する加飾シートにおいては、上述のように、加飾シートの表面に加圧ロールの艶が転写されるが、この加飾シートの表面の艶が加飾シートの真空成形工程などの加熱条件下で、変化することが発明者らの検討により明らかとなった。
図1に示すようなエンボス製造装置を用いて、透明樹脂フィルムを基材とするシートにエンボス加工する場合には、加圧ロールとしてシリコーンゴムを用いることが一般的である。シリコーンゴムロールはシートとの離型性が良好であり、シートが加圧ロールに密着して離れなくなる、いわゆる「圧とられ」と呼ばれる現象を引き起こさない点で有利だからである。「圧とられ」が生じない理由としては、シリコーンゴムロールの光沢度が低い点にあり、通常、その光沢度は8程度である。
【0006】
このようなシリコーンゴムロールを加圧ロールとして用い、光沢度が20以上の透明樹脂フィルムを基材とした加飾シートにエンボス加工(内部エンボス加工)を施すと、加圧ロールの艶が加飾シートの透明樹脂フィルム基材に転写され、その光沢度は10程度まで低下する。この加飾シートを真空成形工程などの加熱条件下に置くと、基材の艶が変化し、最終的には元の透明樹脂フィルムの艶まで戻ることが発明者らの検討で明らかとなった。
しかも、真空成形工程などの後工程における加熱条件、具体的には加熱温度及び加熱時間によって、その艶の戻り方が変化するために、安定した意匠性を有する加飾樹脂成形品が得られないことがわかった。
本発明は、このような状況下、真空成形工程などの後工程において、表面の艶変化が極めて小さいエンボス加工の施された加飾シート(以下「エンボス加飾シート」と称する。)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基材として使用する透明樹脂フィルムの光沢度を前もって測定しておき、該光沢度と近接した光沢度を有する加圧ロールを選択することで上記課題を解決し得ることを見出した。さらに、加圧ロールとして特定のものを用いることにより生じる「圧とられ」の問題を、加圧ロールの冷却により解消し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、光沢度20以上の透明樹脂フィルムからなる基材上に少なくとも印刷層と接着剤層を有する加飾シートを加熱し、賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと加圧ロールとの間に挿入し、加圧することで接着剤層側に凹凸模様を賦形するエンボス加飾シートの製造方法であって、凹凸模様が賦形される前の透明樹脂フィルムの光沢度と加圧ロールの光沢度の差を±10以内とし、かつ加圧ロールを冷却することを特徴とするエンボス加飾シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、真空成形工程などの加飾シートを加熱する工程を有する後工程において、その工程の前後で表面の艶変化が極めて小さいエンボス加飾シートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のエンボス加飾シートの製造方法について、図1を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の製造方法は、図1に示すように、加飾シート1を、例えば、加熱ドラム11で予備的な加熱をした後、ガイドロール12を介して移動させ、ヒーター13にて加熱し、所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロール15と加圧ロール14の間に挿入し、加圧することで、凹凸模様を賦形するものである。
本発明の特徴は、凹凸模様が賦形される前の透明樹脂フィルムの光沢度を前もって測定しておき、該光沢度と加圧ロール14の光沢度の差を±10以内とする点にある。
なお、光沢度はJIS K5600−4−7(ISO1512)に準拠して、(株)村上色彩研究所製の試験機「GMX−202」を用いて、60度の角度で測定したものである。
【0010】
まず、本発明で対象となる加飾シートは、図2に示すように、光沢度20以上の透明樹脂フィルムからなる基材2上に少なくとも印刷層3と接着剤層4を有するものである。
本発明に用いられる透明樹脂フィルムとしては、透明性に優れ、かつ優れた塗装感を付与できる基材であれば特に制限されず、アクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルムなどが好適に挙げられる。なお、透明樹脂フィルムは半透明であってもよいが、透明であることが印刷層3の着色を鮮やかにして好ましい。透明である場合は、無色透明の他に、着色透明でもよい。
【0011】
基材2として用いられる透明樹脂フィルムの厚さは20〜500μmの範囲が好ましい。20μm以上であるとエンボス加工が施しやすく、一方、500μm以下であると後の三次元加工の際に立体形状にフィルムが追随し、破断することがない。以上の観点から、基材2の厚さは50〜150μmの範囲がより好ましい
本発明は透明樹脂フィルムの光沢度が20以上の加飾シートに適用される。該光沢度が20未満の加飾シートについては、従来の方法であっても加飾シートの艶変化の問題は特に生じないからである。
【0012】
基材に用いられるアクリル樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等のアクリル樹脂〔但し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートをいう〕が挙げられる。
また、ポリカーボネート樹脂としては、ジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体が挙げられ、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンやビスフェノールAから製造されるポリカーボネート樹脂が挙げられる。
また、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、エチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体、ポリアリレート等が挙げられる。この中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
透明樹脂フィルムは上述の樹脂材料を単体又は2種以上の混合物として、単層又は2層以上の積層体のフィルムとして用いる。
【0013】
上記透明樹脂フィルム中には、必要に応じて、適宜、艶消し剤;ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の滑剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、微粒子酸化セリウム系等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤等の光安定剤;可塑剤;安定剤;着色剤等の各種添加剤を物性調整のために添加してもよい。
また、透明樹脂フィルムの製造方法については、従来公知の一般的な方法、例えば、透明樹脂を直線状のスリットから押出すいわゆる押出しTダイ法、透明樹脂を熱ロールにより延伸するいわゆるカレンダ加工法、液状の透明樹脂を型内に流し込み固化させるいわゆる注型(キャスト)法等を用いることが可能である。
【0014】
次に、本発明の加飾シートにおける印刷層3は、着色ベタ層を有することが好ましく、この着色ベタ層に加えて、絵柄層をも有することが意匠性を向上する観点から特に好ましい。通常、絵柄層は着色ベタ層の外側(着色ベタ層より表面側)に塗工される。
着色ベタ層及び絵柄層としては、バインダーの樹脂を特定の樹脂から構成し、所望する色彩を得るための適当な着色剤を配合する他は、基本的には特に制限は無い。着色ベタ層及び絵柄層は、通常は、印刷インキでグラビア印刷、活版印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷法で形成すればよい。また、着色ベタ層は、ロールコート等の公知の塗工法でもよい。
印刷層3の厚さとしては、特に制限は無いが、通常は1〜20μm程度、好ましくは1〜10μmである。
【0015】
印刷層3の形成に使用するインキ(あるいは塗液)としては、接着性等を考慮して公知のものの中から適宜選択使用すればよい。例えば、インキ(あるいは塗液)のバインダーの樹脂としては、通常、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられる。これらの内、バインダーの樹脂は、アクリル樹脂単独又はアクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との混合物を主成分とするのがより好ましい。基材フィルム2がアクリル樹脂である本発明においては、基材フィルム2との密着性を良好とするためにアクリル樹脂を用い、さらに塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体又は別のアクリル樹脂を混合すると印刷適性、成形適性がさらに好適となる。
ここで、アクリル樹脂としては、上述の基材2のところで列記したものと同様のものの中から適宜選択する他、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の分子中に水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとを共重合させて得られるアクリルポリオールを用いることもできる。
また、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、通常、酢酸ビニル含有量が5〜20質量%程度、平均重合度350〜900程度のものが用いられる。必要に応じ、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体にさらにマレイン酸、フマル酸等のカルボン酸を共重合させてもよい。アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との混合比は、アクリル樹脂/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体=1/9〜9/1(質量比)程度である。この他、副成分の樹脂として、必要に応じて、適宜その他の樹脂、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン等の樹脂を混合してもよい。
また、インキ(あるいは塗液)に含有させる着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、黄鉛、チタンイエロー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド、ペリレンレッド等の有機顔料、アルミニウム、真鍮等の金属の粉末又は鱗片等の金属顔料、二酸化チタン被覆雲母の粉末又は鱗片等の真珠光沢(パール)顔料、あるいは染料等が用いられる。
【0016】
絵柄層の絵柄は、例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、布目模様、皮絞模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、幾何学図形、文字、記号等である。
所望により、印刷層3が、光反射層、磁性体層、導電性層等の機能性層等を有していてもよい。ここで、光反射層としては、例えば、樹脂フィルムの表面に金属(アルミニウム、クロム、銀等)を蒸着して全面あるいは部分的に形成した金属薄膜層、あるいは表面に反射率が優れた白色塗膜又は金属光沢塗膜(アルミニウム、クロム、銀等の金属含有インキを用いる)を有する樹脂フィルム等が挙げられる。光反射層が印刷層3の全面に形成される場合は着色ベタ層となり、印刷層3の部分的に形成される場合は絵柄層となる。磁性体層には磁性体が含まれ、導電性層には導電性材料が含まれる。
【0017】
また、接着剤層4としては、例えば感熱型の接着剤として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の公知の樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂では、例えば、アクリル樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等の1種又は2種以上の混合物が用いられる。また、熱硬化性樹脂では、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。
接着剤層4は、これら樹脂による接着剤を、グラビア印刷、ロールコート等の公知の印刷又は塗工法により形成する。また、接着剤層4の厚さは特に制限は無いが、通常は1〜20μm程度、好ましくは1〜10μmである。
【0018】
本発明における加飾シート1を製造する方法としては、例えば、基材2である透明樹脂フィルムの裏面に印刷層3を絵柄層、着色ベタ層の順で印刷又は塗工し、次に接着剤層4を塗工すればよい。
【0019】
本発明の製造方法における加飾シート1に対する加熱の条件としては、150℃以上の温度で実施されることが好ましく、150〜260℃の温度で実施されることがより好ましく、160〜250℃の温度で実施されることがさらに好ましく、200〜240℃の温度で実施されることが特に好ましい。加飾シート1を構成する透明樹脂フィルムが迅速に加工されるようにするためである。ここで、エンボス加工工程の温度が150℃であるとは、加工時賦形前の加飾シート1の温度が150℃であることをいう。
エンボス加工は、凹凸模様の意匠性が高まるように適宜深さを調整して行なわれる。本発明では、接着剤層4側に凹凸模様が賦形されるが、接着剤層4の厚みの範囲内の深さで行なってもよいし、印刷層3及び基材2にまで凹凸模様が付与される深さで行なってもよい。
【0020】
加飾シート1は、所定の賦形用凹凸模様が施されたエンボスロール15と加圧ロール14との間に挿入され、加圧されて接着剤層側に凹凸模様が賦形される。ここで、加圧ロールの光沢度と凹凸模様が賦形される前の透明樹脂フィルムの光沢度の差が±10以内であることが重要である。
本発明で用いる透明樹脂フィルムは光沢度20以上であるから、少なくとも加圧ロール14の表面の光沢度は10以上である。したがって、従来使用されている光沢度8のシリコーンゴムロールを用いることはできない。
本発明で使用することのできる加圧ロールとしては、エンボス加工される加飾シートの透明樹脂フィルムとの光沢度の差が±10以内であれば制限はなく、カーボン含有EPT(Ethylene-Propylene Terpolymer)などのゴムロール、鉄等の金属からなる円筒状の外周に前記したカーボン含有EPTなどの弾性体を円筒状に被覆したものを用いることができる。これらのうち、表面研磨の仕上げ加工適性の点から、カーボン含有EPTが好ましい。
【0021】
また、加圧ロールの硬度としては、50〜95の範囲が好ましい。硬度が50以上であると表面の光沢仕上げの点で有利であり、70〜95の範囲がさらに好ましい。なお、硬度は、JIS K 6253(ISO 7619)に準拠して、IRHDポケット硬さ試験により求めた。
【0022】
上述のように、加圧ロールは光沢度が高いほどいわゆる「圧とられ」の現象が現れるが、本発明では、加圧ロールを冷却することにより、この問題点を解消したものである。加圧ロールの温度としては、「圧とられ」が生じず、本発明の効果を奏する範囲であれば制限されないが、具体的には、加熱された加飾シートより低い温度となるように冷却されていることが好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。
また、加圧ロールの冷却方法についても、本発明の効果を奏するものであれば特に限定されず、加圧ロールの内部に冷却水用の空間を設け、該空間に冷却水を注入する方法、加圧ロールの一部を直接冷却水タンク中の冷却水に接触させる方法、冷風装置により冷風を加圧ロールに吹き付ける方法、内部に冷却水を循環させた金属ロールを加圧ロールに接触させるタッチロール式などが挙げられる。
【0023】
本発明の製造方法により得られるエンボス加飾シートについて、凹凸平均深さについては、特に制限はないが30〜80μmの範囲が好ましい。表面の凹凸平均深さが30μm以上であると、加飾樹脂成形品等に十分な凹凸模様を付すことができ、一方、80μm以下であると、エンボス加飾シートをロール上に巻いて保管等する際に、凹凸が激しすぎることによる、輸送時の傷つきや破け、巻きの崩れ等が起こらず、好適である。以上の観点から、表面の凹凸平均深さは、30〜60μmの範囲であることがさらに好ましい。なお、表面の凹凸平均深さは、(株)東京精密社製「ハンディサーフE35A」を使用し、測定されたものである。
【0024】
本発明の製造方法により得られるエンボス加飾シートは、真空成形工程や成形樹脂の射出工程などの加飾シートを加熱する工程を有する後工程において、その工程の前後で表面の光沢度の変化が30以下、好ましくは20以下、最も好ましくは10以下とすることができるため、エンボス加飾シートの基材面が成形品等の表面を構成する用途に対して有用である。
具体的には、以下のような用途に特に有用である。
(1)加飾シートを射出成形用金型の内側に入れ、成形樹脂をキャビティに射出し、成形樹脂表面に加飾シートを一体化接着させる方法(インモールド工法)に用いる加飾シート。
(2)加飾シートを射出成形用金型の内側に入れる前に、該シートを真空成形等により立体加工し、所望の形状に打ち抜き加工した後、射出成形用金型内の凹部等に嵌め込んで型締めし、成形樹脂をキャビティに射出し、成形樹脂表面に成形同時加飾シートを一体化接着させる方法(インサート成形)に用いる加飾シート。
(3)加飾シートを射出成形用金型内に入れてから、射出成形用金型の凹部に沿うように真空成形等により立体加工し、型締め後、成形樹脂をキャビティに射出し、成形樹脂表面に成形と同時に加飾シートを一体化接着させる方法(サーモジェクト成形)に用いる加飾シート。
(4)目的とする化粧材の三次元立体形状に予め成形した木質基材等の化粧材用基材の表面上に、加飾シートを加熱軟化しつつ展張し、該加飾シートの化粧材用基材側の空間を減圧し、必要に応じ反対側の空間を加圧することにより、該加飾シートを前記化粧材用基材の表面の三次元立体形状に沿って成形しつつ貼着積層する方法(メンブレンプレス法又はメンブレンレスプレス法)に用いる加飾シート。
【0025】
なお、上述のインサート成形の場合には、エンボス加工が施された接着剤層4側にバッカーフィルムを有していてもよい。この場合には、加飾シートとバッカーフィルムを含めた全体の厚さは、0.03〜2.00mmであることが好ましい。0.03mm以上であると、立体形状に加飾シートが追随し、破断することがなく、2.00mm以下であると細かい溝部に追随が可能であり、製品端面の絞り自体が浅くなることがない。以上の点から、全体の厚さとしては、0.2〜1.0mmの範囲がより好ましい。
また、バッカーフィルムは射出する成形樹脂との接着性を考慮して決定されるものであり、通常、該成形樹脂と同様の樹脂で構成される。すなわち、成形樹脂がABS樹脂である場合には、バッカーフィルムもABS樹脂で構成されていることが好ましい。
【0026】
また、上記(1)〜(3)の方法において、射出される成形樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PPとPEの混合物などのポリオレフィン系樹脂;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂(ABS樹脂);ポリカーボネート(PC);ABS樹脂とPCの混合物;アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
製造例1(加飾シートの製造)
基材としてガラス転移温度(以下、Tgと記載する。)が104℃の耐熱アクリル樹脂フィルム(厚さ125μm、表面の光沢度70)を用い、その裏面に、ポリブチルメタクリレート/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(質量比:2/1)組成物からなる絵柄層をグラビア印刷し、絵柄層が印刷されていない部分の一部に金属光沢塗膜をグラビア印刷し、絵柄層と同じ組成物に高隠蔽性顔料(チタン白及び着色顔料)を含有させた着色ベタ層をロールコートにより塗工し(印刷層として厚さ4μm)、さらに、アクリル樹脂からなる接着剤層(厚さ3μm)をロールコートにより塗工した後、乾燥して加飾シートを得た。
【0028】
製造例2(加飾シートの製造)
基材として、Tgが100℃の耐熱アクリル樹脂フィルム(厚さ125μm、表面の光沢度40)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして加飾シートを製造した。
【0029】
実施例1
(1)エンボス加工
図1に示す装置を用いて、製造例1で得られた加飾シートの接着剤層側にエンボス加工を行った。エンボス加工は、加熱ドラム11の温度を60℃、賦形直前のシート温度を250℃、エンボスロールとして金属製エンボスロール(銅の表面にクロムメッキしたもの)を用い、エンボスロールの温度を100℃とした。加圧ロールとしては、カーボン含有EPTゴム製ロール(硬度80)の表面をバフ研磨して光沢度を60としたものを用い、タッチロール式にて100℃に冷却した。また加飾シートの搬送速度9m/sでエンボス加工を行った。いわゆる「圧とられ」は生じなかった。
エンボス加工後の加飾シート(エンボス加飾シート)の表面側(加圧ロールと接する側)の光沢度を(株)村上色彩研究所製の試験機「GMX−202」を用いて、60度の角度で測定したところ、光沢度58であった。
(2)真空成形加熱
上記(1)にて得たエンボス加飾シートについて、温度120℃の条件で、4秒間加熱し、その後真空成形を行って成形加工した表面の光沢度を上記と同様の方法で測定した結果、光沢度は60であり、大きな艶の変化は見られなかった。なお、真空成形も、フィルム温度を120℃として行った。
同様の加熱条件下で、5、6、7、8、9及び10秒間、それぞれ加熱し、その後真空成形を行って成形加工した表面の光沢度を測定した。結果を第1表に示す。いずれも大きな艶の変化は見られなかった。
【0030】
実施例2
製造例1にて製造した加飾シートに代えて、製造例2にて製造した加飾シートを用い、また、加圧ロールとして、カーボン含有EPTゴム製ロール(硬度80)の表面をバフ研磨して光沢度を40としたものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエンボス加工を施し、同様に加熱処理し、その後真空成形を行って成形加工した表面の光沢度を測定した。結果を第1表に示す。なお、実施例2においても「圧とられ」は生じなかった。
【0031】
比較例1
実施例1において、加圧ロールとして、シリコーンゴムロール(硬度60、光沢度8)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてエンボス加工を施し、同様に加熱処理し、その後真空成形を行って成形加工した表面の光沢度を測定した。結果を第1表に示す。
【0032】
比較例2
実施例2において、加圧ロールとして、シリコーンゴムロール(硬度60、光沢度8)を用いたこと以外は実施例2と同様にしてエンボス加工を施し、同様に加熱処理し、その後真空成形を行って成形加工した表面の光沢度を測定した。結果を第1表に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
第1表から明らかなように、本発明の方法により製造したエンボス加飾シート(実施例1及び実施例2)は、加熱時間による光沢度(艶)の変化が小さいことがわかる。一方、従来の加圧ロールを使用した比較例1及び2は、加熱時間に応じて光沢度(艶)が大きく変化することがわかる。すなわち、従来の方法による場合は、後の成形工程に要する時間が4〜10秒の間でばらついた場合に、成形品の表面の光沢度が比較例1の場合は19〜70の間で、比較例2の場合は12〜41の間でばらつく結果となり、意匠性にばらつきが生ずることになる。この意匠性のばらつきを成形工程時間で管理することは容易ではなく、極めて煩雑である。
一方、本発明の方法により製造したエンボス加飾シートは、各成形工程時間でばらつきが小さいことがわかる。すなわち、実施例1においては、4〜10秒の間での光沢度のばらつきが15以下であり、実施例2においては、10以下であった。したがって、成形工程時間の厳格な管理をすることなく、再現性よく、意匠性のばらつきの小さい成形品を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法によって得られるエンボス加飾シートは、真空成形工程などの後工程において、表面の艶変化が極めて小さい。したがって、インモールド工法、インサート成形、サーモジェクト成形、メンブレンプレス法又はメンブレンレスプレス法などにおいて、成形品に対して、再現よく意匠性を付与することができる。また、本発明の製造方法は、いわゆる「圧取られ」を生じさせず、安定的にエンボス加飾シートを製造することができる。
本発明のエンボス加飾シートを用いた成形品は、コンソールパネル、センタークラスター、スイッチベース等の自動車内装部品、塗装模様のサイドマットガード、バンパー、ホイルキャップやモール等の自動車外装部品、キッチン扉や学童机用部材等の様に、複雑な三次元立体形状を有する化粧材、建築物の外装、内装、建具、家具等の表面装飾等に好適に用いられる
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】エンボス製造装置を示す模式図である。
【図2】本発明で製造されるエンボス加飾シートを示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1:エンボス加飾シート
2:基材
3:印刷層
4:接着剤層
5:エンボス面
10:エンボス製造装置
11:加熱ドラム
12:ガイドロール
13:ヒーター
14:加圧ロール
15:エンボスロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光沢度20以上の透明樹脂フィルムからなる基材上に少なくとも印刷層と接着剤層を有する加飾シートを加熱し、賦形用凹凸模様が施されたエンボスロールと加圧ロールとの間に挿入し、加圧することで接着剤層側に凹凸模様を賦形するエンボス加飾シートの製造方法であって、凹凸模様が賦形される前の透明樹脂フィルムの光沢度と加圧ロールの光沢度の差を±10以内とし、かつ加圧ロールを冷却することを特徴とするエンボス加飾シートの製造方法。
【請求項2】
前記加圧ロールの温度が110℃以下である請求項1に記載のエンボス加飾シートの製造方法。
【請求項3】
前記加圧ロールが金属ロール又はゴムロールである請求項1又は2に記載のエンボス加飾シートの製造方法。
【請求項4】
前記ゴムロールがカーボン含有EPTゴムからなる請求項3に記載のエンボス加飾シートの製造方法。
【請求項5】
加飾シートの加熱温度が150℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載のエンボス加飾シートの製造方法。
【請求項6】
前記透明樹脂フィルムがアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム又はポリエステル樹脂フィルムである請求項1〜5のいずれかに記載のエンボス加飾シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−82872(P2010−82872A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252426(P2008−252426)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】